説明

高分子ゲル複合体及びその製造法

【目的】 高い弾性率や強度、力学的タフネス、且つ低く制御された膨潤性を有し、更には白色性や常磁性に優れた性能を有する高分子ゲル材料を提供すること。
【構成】水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)からなる高分子ゲルと、金属酸化物(C)を微細な状態で複合化した高分子ゲル複合体およびその製造方法を提供する。本発明のゲルは、広範囲に制御された優れた力学物性と低く制御された膨潤性を有する、または白色性や常磁性などに優れるなどの特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ゲルと金属酸化物とからなる高分子ゲル複合体およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは有機高分子の三次元架橋物が水または有機溶媒を含んで膨潤したものであり、膨潤性やゴム状弾性を有するソフトマテリアルとして、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連などの分野で広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これまでに本発明者らは、水溶性有機モノマーの重合体と層状粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目を有する高分子ゲルが、優れた吸水性や極めて高い伸張性などの特徴を有することについて報告した(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、用途によっては、かかる高い吸水性や高い伸張性が必要で無い場合があり、例えば、脆くないゲルの性質は保持しつつ、水中でも低く安定した膨潤性を示すものや、より高い弾性率や強度を有するもの、もしくは高分子ゲルの物性を保持したまま白色化したものや常磁性などの機能性を有するものなどが要求されている。従来の高分子ゲルまたは上記高分子ゲルにおいては、これらの特性を十分に達成することはできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−53629号公報
【非特許文献1】「ゲルハンドブック」p226〜727、長田義仁、梶原莞爾編:エヌ・ティー・エヌ株式会社、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高い弾性率や強度、力学的タフネス、且つ低く制御された膨潤性を有し、更には白色性や常磁性に優れた性能を有する高分子ゲル材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、水溶性有機モノマーから得られる重合体と水膨潤性粘土鉱物からなる高分子ゲルと、金属酸化物を微細な状態で複合化することにより、優れた力学物性と低く制御された膨潤性を有する、または白色性や常磁性などに優れた高分子ゲル材料が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲル中に、金属酸化物(C)を前記重合体(A)に対するモル比(C/A)が0.05〜5の割合で含有することを特徴とする高分子ゲル複合体を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲル中で、金属アルコキシド類の加水分解及び重縮合を行わせることにより金属酸化物(C)を含有させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲルを乾燥後、金属アルコキシド類を含む有機溶媒中に浸漬し、次いで、水および触媒を含む有機溶媒中に浸漬した後、乾燥または加熱させ、次いで、水中に保持することにより金属酸化物(C)を含有させる高分子ゲル複合体の製造方法を提供するものである。
【0011】
更に、本発明は、上記の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲル中に、金属酸化物のゾル溶液を含浸させることにより、金属酸化物(C)を含有させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物(B)と触媒と開始剤からなる反応溶液に、金属酸化物(C)のゾル溶液を含ませ、次いで、前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーを重合させることにより、金属酸化物(C)を含有させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高分子ゲル複合体は、優れた力学物性と膨潤性を有する。力学物性においては、有機架橋ゲルにおけるような脆さは無く、且つ高い弾性率や強度を有する他、適度の変形性を有し、力学的なタフネスにも優れる。また、膨潤性については、過度の膨潤をせず、水中でも制御された、安定した膨潤度を保つ特徴を有する。更に、金属酸化物の種類、量を選択することで、磁性を示したり、表面粘着性が変化したり、乾燥/膨潤で異なる透明性(白色化)を示したり、生体適合性を示す特徴を有する。かかる高分子ゲル複合材は、各種用途へ適用でき、特に振動吸収材料、吸着材料、細胞培養基材、バイオリアクター用材料、及び骨、軟骨などの再生材料や代替材料、アクチュエーター材料などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高分子ゲル複合体は、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(以下、水溶性有機モノマー重合体という)と層状に剥離した粘土鉱物とが分子レベルで複合化することによりなる高分子ゲル中に、金属酸化物を微細に複合化したものである。
【0015】
本発明の高分子ゲル複合体を形成する高分子ゲルは、水溶性有機モノマー重合体と水膨潤性粘土鉱物が、水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合などのいずれかにより三次元網目を形成しているものである。このことは該高分子ゲルが水又は親水性有機溶剤により膨潤し、且つ該ゲルを20℃で500時間以上処理しても構成成分である水膨潤性粘土鉱物及び水溶性有機モノマー重合体が抽出されないことや、延伸や圧縮の力学試験において、大きな可逆的伸張性や圧縮性を示すことから推定される。
【0016】
本発明における水溶性有機モノマーとしては、水に溶解する性質を有し、水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と相互作用を有するものが好ましく、例えば、粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。これらの官能基を有する水溶性有機モノマーとしては、具体的には、アミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーが挙げられ、なかでもアミド基やエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーが好ましい。なお、本発明で言う水には、水単独以外に、水と混和する有機溶媒をとの混合溶媒で水を主成分とするものが含まれる。
【0017】
アミド基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数が1〜4のものが特に好ましく選択される。またエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの具体例としては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0018】
かかる水溶性有機モノマー重合体としては、例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メトキシエチルアクリレート)、ポリ(エトキシエチルアクリレート)、ポリ(メトキシエチルメタクリレート)、ポリ(エトキシエチルメタクリレート)が例示される。また水溶性有機モノマー重合体としては、以上のような単一の重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーからの重合体の他、これらから選ばれる複数の異なる重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーを重合して得られる共重合体を用いることも有効である。また上記水溶性有機モノマーとそれ以外の有機溶媒可溶性重合性不飽和基含有有機モノマーとの共重合体も、本発明にいう金属酸化物との複合化が達成出来るものであれば使用することができる。
【0019】
本発明における水溶性有機モノマー重合体は、水溶性または水を吸湿する性質を有する親水性(または両親媒性)を有するものであり、その内、熱、pHや光に応答する等といった機能性や、生体吸収性を含む生体適合性や生分解性などの特性を有しているものは用途に応じてより好ましく用いられる。例えば、水溶液中でのポリマー物性(例えば親水性と疎水性)が下限臨界共溶温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)前後のわずかな温度変化により大きく変化する特性を有する水溶性有機モノマー重合体などであり、具体的にはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などが挙げられる。また生体適合性に優れたものとしては、ポリ(メトキシエチルアクリレート)やポリ(メタクリルアミド)などがあげられる。
【0020】
本発明の高分子ゲル複合体に用いる粘土鉱物としては、水に膨潤性を有するものであり、好ましくは水によって層間が膨潤する性質を有するものが用いられる。より好ましくは少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散できるものであり、特に好ましくは水中で1ないし10層以内の厚みの層状に剥離して均一分散できる層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0021】
本発明の高分子ゲル複合体に用いる溶媒は、水の他、目的とする高分子ゲル複合材が調製に必要な水と混和する有機溶剤または水との混合溶媒が用いられる。また、塩などを含む水溶液も使用可能である。なお、高分子ゲル複合体調製後に水と混和する有機溶剤に全体を置換することも可能である。水と混和する有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0022】
本発明において高分子ゲル複合体に含まれる水または溶媒の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、好ましくは高分子ゲル複合体中の固形分に対しする水(溶媒)の質量比が0〜100である。特に金属酸化物との複合化により低膨潤度を目標とする場合は、水または溶媒の量はかかる質量比が0〜30が好ましく、更に好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜5である。なお、かかる水の量は、金属酸化物との複合体形成による平衡膨潤度の低下によるほか、高分子ゲル複合体調製後に、水の一部または全部を乾燥により除去する方法によっても制御される。
【0023】
本発明の高分子ゲル複合材に用いる金属酸化物は、Mの構造式で表される金属酸化物であり、Mとしては、Si、Ti、Al、Zr、Li、Na、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Ga、Y、Ge、Pb、Sb、P、V、Ta、W、La、Nd、Mg、Ni、Fe、Cr、Mn、Co、Ba、In、Sn、Agが用いられる。特に、金属アルコキシドとすることが可能なものや、予めナノメーターサイズの微粒子が形成可能なものは特に有効に用いられる。金属アルコキシドとすることが可能な金属種としては、Si、Ti、Zr、Al、Li、Na、Cu、Ca、Sr、Ba、B、Al、Ga、Y、Ge、Pb、P、Sb、V、Ta、W、La、Nd、La、Mg、Niが挙げられ、それぞれ、代表的なものとして、Si(OC、Ti(iso−OC、Zr(OCH、Al(OCH、LiOCH、NaOCH、Cu(OCH、Ca(OCH、Sr(OC、Ba(OC、Zn(OC、B(OCH、Ga(OC、Y(OC、Ge(OC、Pb(OC、P(OCH、Sb(OC、VO(OC、Ta(OC、W(OC、La(OC、Nd(OC、La[Al(iso−OC、Mg「Al(iso−OC、Ni[Al(iso−OCが挙げられる。これらの金属アルコキシドは通常、液体または固体(粉末)であり、そのまま、もしくは溶媒に溶解させて高分子ゲルとの複合に用いることができる。一方、予めナノメーターレベルの金属酸化物微粒子として調製したもの(ゾル溶液)を、高分子ゲルと複合化させるために用いることもでき、例えば、金属酸化物微粒子としては、Fe、Fe、CeO、Al、TiO、ZnO、Y、Mn、SiOなどが挙げられる。これらの金属酸化物は絶縁性、導電性、常磁性を示すものが含まれ、それぞれ用途に応じて適時選択して用いられる。なお、高分子ゲル複合材中の金属酸化物の含有は広角X線測定、蛍光X線測定、電子線μアナライザー測定などにより、また含有量は熱重量分析により評価される。更に、金属酸化物の分散状況は、高分子ゲル複合体またはその乾燥物の光透過率測定や走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡測定により観察される。
【0024】
本発明において含有される金属酸化物の量は、水溶性有機モノマー重合体に対するモル比が0.005〜5であることが好ましく、より好ましくは0.01〜3、特に好ましくは0.1〜1である。
【0025】
本発明の高分子ゲル複合体において、金属酸化物は等方的に高分子ゲル中に均一に含ませるだけでなく、高分子ゲル中に場所により含有率が異なるように、傾斜的にまたは局所的に含ませることができる。例えば、水溶性有機モノマー重合体と粘土鉱物からなるゲルの表面または表面近傍にのみ、もしくは表面から内部へ傾斜的に濃度を変化させるように金属酸化物を含ませた高分子ゲル複合体を得ることも可能である。この場合、高分子ゲルの元の性質を保持したまま、表面または内部のみ性質を変化させることができ、力学物性や機能性の制御に有効である。
【0026】
本発明の高分子ゲル複合体の製造方法、即ち、金属酸化物を、水溶性有機モノマー重合体と水膨潤性粘土鉱物とからなる高分子ゲル中に含有する方法としては、目的とする高分子ゲル複合体が得られれば良く必ずしも限定されないが、好ましくは、水溶性有機モノマー重合体と水膨潤性粘土鉱物とからなる高分子ゲルまたはその乾燥物に、金属アルコキシドまたはその低縮合物をそのまま、もしくは溶媒に溶解して含浸させ、金属アルコキシドの加水分解・重縮合反応を生じさせ、金属酸化物を形成させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造法が用いられる。特に好ましくは、高分子ゲル乾燥物にアルコール溶媒に溶解した金属アルコキシドまたはその低縮合物を含浸させ、次いで、該含浸物を触媒(酸または塩基)及び水を含むアルコール溶液に浸漬させる。次いで、室温または100℃以下の温度で加熱して、金属アルコキシドまたはその低縮合物の加水分解・重縮合を行わせ、乾燥によりアルコール溶媒を除いた後、水に浸漬する方法である。その他の方法としては、アルコール溶媒中において金属酸化物のゾル溶液を調製後、高分子ゲルまたはその乾燥物をこのゾル溶液に浸漬させ、次いで乾燥により溶媒および水を除去した後、水に浸漬して金属酸化物を含有する高分子ゲル複合体を調製する方法が用いられる。また、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物と触媒と開始剤からなる反応溶液に金属酸化物のゾル溶液を混合し、次いで、前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーを重合させることにより、金属酸化物を含有させる方法も用いられる。但し、力学物性(強度や弾性率)の向上や膨潤性の抑制などに関しては、金属アルコキシドやその低縮合物を浸漬する方法がより効果的である。逆に、高分子ゲルの力学物性などを出来るだけ変化させないで、金属酸化物を高分子ゲル中に導入させる目的に対しては、後者(予め調製した金属酸化物ゾル溶液を用いる方法)が効果的に用いられる。以上の方法において、金属アルコキシドやその低縮合物もしくは金属酸化物ゾルを、高分子ゲルまたはその乾燥物中に含浸させる場合、ゲル表面から含浸させたり、ゲル内部に注入するなど、種々の含浸方法を用いることができる。また、加水分解・重縮合反応を促進させるために、加温したり酸または塩基の触媒を使用することは有効に用いられる。また、以上の製造方法の金属酸化物の含有過程で高分子ゲルを延伸、圧縮、曲げなどにより変形させておくことにより、ゲルの少なくとも一部が配向した状態の高分子ゲル複合体が調製できる。またその結果、含まれる金属酸化物の分散、担持状態を変化させることも可能である。この他、製造過程において、金属酸化物を安定に分散させ、保持することのできるような有機分子(例えば、分散性向上のため、一般的に用いられる各種界面活性剤、水溶性高分子、イオン性高分子など)を必要に応じて用いることができる。
【0027】
また、本発明の高分子ゲル複合体には、得られた高分子ゲル複合体を慣用の方法で乾燥し、溶媒の一部もしくは全部を除去した高分子ゲル複合体の乾燥物を得ることも含まれる。高分子ゲル複合体乾燥物は、水または水と混和する有機溶媒などの溶媒を再び含ませることにより、可逆的に高分子ゲル複合体を再生することができる。
【0028】
本発明における高分子ゲル複合体は、金属酸化物を含まない高分子ゲルと比べて、高い弾性率、高い強度、抑制された伸張性、抑制された水膨潤度を示すことが特徴であり、出発物質である高分子ゲルの組成や金属酸化物の含有量を変化させて、広範囲に制御することが可能である。好ましくは、出発物質である高分子ゲルの引っ張り弾性率、引っ張り強度、引っ張り伸びの全てが、高分子ゲル複合体において、各々、2〜300倍、1.1〜20倍、0.95〜0.01倍、更に好ましくは、各々、4〜100倍、1.5〜8倍、0.8〜0.1倍になったものが有効に用いられる。また、併せて、高分子ゲル複合体の水中における平衡膨潤度(水/固形分の質量比)が、出発物質である高分子ゲルの好ましくは0.95〜0.01倍、更に好ましくは、0.5〜0.05倍に変化したものは特に有効に用いられる。
更に、本発明においては、例えば、実施例5、6に示すように、乾燥時に透明であり、水を吸収したゲル状態で白色となることを可逆的に変化する特徴を有する高分子ゲル複合体と得ることが可能である。また、実施例7に示すように、常磁性を有する高分子ゲル複合体を得ることも可能である。
本発明の出発物質となる高分子ゲルとしては、既報の高分子ゲル及びその製造方法が用いられる(例えば、特許文献1)。得られた高分子ゲルは、水溶性有機モノマー重合体に対する水膨潤性粘土鉱物の質量比が0.01〜10であることが好ましく、より好ましくは0.03〜2.0、特に好ましくは0.1〜1.0である。また、該高分子ヒドロゲルは、引っ張り破断伸びが100%以上、好ましくは100〜2000%、更に好ましくは、200〜1800%、特に好ましくは、300%〜1600%のものである。
本発明の高分子ゲル複合体製造においては、力学物性が高く取り扱い性に優れているため、重合容器の形状を変化させたり、重合後のゲルを切削加工することなどで種々の大きさや形状をもった高分子ゲル複合体を調製できる。例えば、繊維状、棒状、平板状、円柱状、らせん状、球状など任意の形状を有する高分子ゲル複合体が調製可能である。また上記の重合反応において更に慣用の界面活性剤を共存させる等の方法で、得られる高分子ゲル複合体を微粒子形態で製造することも可能である。
【実施例】
【0029】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0030】
(参考例)
水膨潤性粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)を、水溶性有機モノマーには、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)を用いた。NIPAは精製により重合禁止剤を取り除いてから使用した。
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.40/20(g/g)の割合で水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:和光純薬工業株式会社製)を使用した。
【0031】
20℃の恒温室において、平底ガラス容器に、純水19.02gと0.46gのラポナイトXLGを加え、無色透明の溶液を調製した。これにNIPA2.26gを加えて無色透明溶液を得た。次にKPS水溶液1.0gとTEMED16μlを攪拌しながら加え、この溶液の一部を底の閉じた内径5.5mm、長さ150mmの容器3本に酸素にふれないようにして移した後、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。また、残りの溶液は、縦、横が1cm、長さ5cmの容器に移した後、同様に20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。なお、これらの溶液調製から重合までの操作は、全て酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。重合開始から20時間後に、容器内に有機高分子と粘土鉱物からなる無色透明で均一な棒状、及び立方体状の高分子ゲルが生成していた。高分子ゲル(含水率(100×水/固形分)=567wt%)の引っ張り試験を、引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製、卓上型万能試験機AGS−H)を用い、評点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて行った。この高分子ゲルは、大きな延伸性(弾性率=5kPa、強度=90kPa、破断伸び=1100%)を有するゴム的な力学物性や、また大きな平衡膨潤性(20℃での平衡膨潤度(=平衡膨潤時の水/乾燥ゲル:質量比)=48)を示し、水溶性有機モノマー重合物と粘土鉱物が三次元網目を形成したものと結論された。なお、高分子ゲルの含水率を270wt%にしたものの引っ張り試験結果は、弾性率=30kPa、強度280kPa、破断伸び1150%であった。また、得られた高分子ゲルの一部を室温で24時間、次いで80℃真空で3時間、加熱乾燥し、高分子ゲル乾燥物を得た。
【0032】
(実施例1)
参考例1で得た高分子ゲル乾燥物を、テトラエトキシオルソシリケート(TEOS)のエタノール溶液(モル比:TEOS/エタノール=1/17)に25℃で3時間(t)、浸漬した後、エタノール/水/塩酸の溶液(モル比:17/8/1.4×10―3)に25℃で更に2時間(t)、浸漬した。次いで、得られた高分子ゲルを25℃で10時間、引き続き、80℃で4時間保持し、含有されたTEOSの反応を進めると共にエタノール等の溶媒を除去した。更に、得られた乾燥物を水に38時間(t)浸漬することで、最終的に、金属酸化物を含有した高分子ゲル複合体を得た。得られた高分子ゲル複合体は少し乳白色の透明・均一なヒドロゲルであった。また、高分子ゲル複合体の含水率(水/固形分の質量比)は270wt%であった。高分子ゲル複合体中に均一微細なシリカが複合されていることは、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)測定(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−550を使用)を行うことにより確認された。また、含まれているシリカの量は熱重量分析(セイコー電子工業株式会社製TG−DTA220を使用:空気流通下、10℃/分で600℃まで昇温)の結果から、初期に含まれていた粘土鉱物量を引くことにより得られた。高分子ゲル複合体中に含まれるシリカの有機高分子(ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド))に対するモル比は0.26であった。
水中に180時間保持することにより測定した高分子ゲル複合体の20℃水中における平衡膨潤度(水分/固形分の質量比)は6.5であり、出発物質の高分子ゲルの平衡膨潤度(48)の0.14倍であった。高分子ゲル複合体の引っ張り試験の結果、弾性率、強度、破断伸びが各々、296kPa、675kPa、554%であった。この値は、出発物質の高分子ゲルの含水率270wt%での物性に対して、各々、9.9倍、2.4倍、0.48倍であった。
【0033】
(実施例2、3)
浸漬時間、tとtとtを各々、実施例2では0.5時間と2時間と13時間、実施例3では8時間と2時間と165時間にする以外は、実施例1と同様にして高分子ゲル複合体を調製した。得られた高分子ゲル複合体はいずれも白色・不透明で、複合体中にはシリカが高分子に対するモル比で、(実施例2)0.12、(実施例3)0.4含まれていた。また、高分子ゲル複合体中の含水率はいずれも270wt%であった。実施例2及び3で得られた高分子ゲル複合体の20℃における平衡膨潤度は、各々10及び5.5であり、出発物質である高分子ゲルの各々、0.21倍及び0.11倍であった。また、引っ張り試験における弾性率、強度、破断伸びは、それぞれ、(実施例2)138kPa、350kPa、665%、(実施例3)1030kPa、1160kPa、306%であり、出発物質の高分子ゲルの含水率270wt%での物性に対して、各々、(実施例2)4.6倍、1.25倍、0.58倍、(実施例3)34倍、4.1倍、0.27倍であった。
【0034】
(実施例4)
浸漬時間、tとtとtを各々、20時間と24時間と176時間にする以外は、実施例1と同様にして高分子ゲル複合体を調製した。得られた高分子ゲル複合体は白色・不透明で、複合体中には、シリカが高分子に対するモル比で1.12倍含まれていた。高分子ゲル複合体の20℃における平衡膨潤度は2.1であり、出発物質である高分子ゲルの0.044倍であった。
【0035】
(実施例5,6)
テトラエトキシオルソシリケート(TEOS)(Si(OC)とエタノールと水と塩酸を、モル比で1:22:3:5.4×10−4となるように混合して均一溶液を調製した。これを20℃で30分撹拌し保持した後、このゾル溶液に参考例で調製した高分子ゲル乾燥物を、実施例5では5時間、実施例6では12時間、浸漬した。ゾル溶液で膨潤した高分子ゲルを密栓した容器に入れ、更に20℃で5時間保持したあと、ゆっくりと20℃大気中で乾燥させ、最後に80℃で2時間加熱することにより、高分子ゲル複合体乾燥物を得た。得られた高分子ゲル複合体乾燥物は透明であった。高分子ゲル複合体中がシリカとの複合体であることは、実施例1と同様にして、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル(FT−IR)測定により確認され、また、含まれているシリカの量は熱重量分析の測定結果から粘土鉱物の量を引くことにより得られ、シリカの有機高分子に対するモル比は0.38であった。高分子ゲル複合体乾燥物を、20℃水中に共に170時間保持することで、水を固形分量の270%(実施例5)および488%(実施例6)吸収した高分子ゲル複合体を得た。得られた高分子ゲル複合体の20℃における平衡膨潤度は、各々、2.7(実施例5)および4.9(実施例6)であり、出発物質である高分子ゲルの0.10倍であった。引っ張り試験における弾性率、強度、破断伸びは、それぞれ、(実施例5)1010kPa、1080kPa、320%、(実施例6)298kPa、318kPa、520%であり、出発物質の高分子ゲルの含水率270wt%および488%での物性に対して、各々、(実施例5)31倍、4.1倍、0.28倍、(実施例6)25倍、2.5倍、0.50倍であった。得られた高分子ゲル複合体乾燥物は透明で、含水後はいずれも白色となった。再度、乾燥させると透明となり、更に含水させると白色となった。このように、高分子ゲル複合体とその乾燥物で透明性が変化することが確認された。
【0036】
(実施例7)
FeCl・4HOを0.34g、FeCl・6HOを1.18g、水を95ml含む溶液を調製した(Fe3+/Fe2+=2)。ポリビニルピドリドン1gをその溶液に加えた後、溶液を80℃に加熱し、5mlの28%(w/w)NHOHをゆっくりと撹拌しながら添加した。その後、室温まで温度を戻し、純水を用いてデカンテーションにより数回洗浄し、約10―20nm直径のFeナノ粒子を得た。
水9.5g、粘土鉱物0.23g、NIPA1.13gからなる均一透明溶液に、前記で得たFe0.1gを加え、均一な分散液を調製した。次いで、TEMED(8μl)およびKPS水溶液(0.5g)を加え、20℃高温水槽中で24時間反応させた。得られたFe含有高分子複合ゲルは磁石に引きつけられる性質を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲル中に、金属酸化物(C)を前記重合体(A)に対するモル比(C/A)が0.05〜5の割合で含有することを特徴とする高分子ゲル複合体。
【請求項2】
前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と前記水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲルに対して、
引っ張り弾性率が2〜300倍、
引っ張り強度が1.1〜20倍、
および引っ張り伸びが0.95〜0.01倍
である請求項1記載の高分子ゲル複合体。
【請求項3】
前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と前記水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲルに対して、
水中における平衡膨潤度(水/固形分の質量比)が0.95〜0.01倍
である請求項1又は2記載の高分子ゲル複合体。
【請求項4】
前記金属酸化物(C)がシリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア及び酸化鉄から選ばれる少なくとも一つ以上である請求項1〜3のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項5】
前記高分子ゲルが、前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と前記水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成するゲルであり、且つ引っ張り破断伸びが100%以上である請求項1〜4のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項6】
前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーがアミド基またはエステル基を有するモノマーであり、且つ前記水膨潤性粘土鉱物(B)が水膨潤性スメクタイト又は水膨潤性雲母である請求項1、2、3又は5のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項7】
高分子ゲル複合体中の固形分に対する水の質量比が0〜30である請求項1〜6のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項8】
高分子ゲル複合体の光透過率が水の含有量で変化し、水が含まれた高分子ゲル複合体の光透過率が、水を含まない高分子ゲル複合体乾燥物の光透過率より低いことを特徴とする請求項7記載の高分子ゲル複合体。
【請求項9】
高分子ゲル複合体が常磁性を有する請求項1〜8のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項10】
前記金属酸化物(C)の濃度が高分子ゲル複合体の表面から内部へ傾斜的に変化している請求項1〜9のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲル中で、金属アルコキシド類の加水分解及び重縮合を行わせることにより金属酸化物(C)を含有させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲルを乾燥後、金属アルコキシド類を含む有機溶媒中に浸漬し、次いで、水および触媒を含む有機溶媒中に浸漬した後、乾燥または加熱させ、次いで、水中に保持することにより金属酸化物(C)を含有させる高分子ゲル複合体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーから得られる重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とで形成する高分子ゲル中に、金属酸化物のゾル溶液を含浸させることにより、金属酸化物(C)を含有させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一つに記載の高分子ゲル複合体の製造方法であって、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物(B)と触媒と開始剤からなる反応溶液に、金属酸化物(C)のゾル溶液を含ませ、次いで、前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーを重合させることにより、金属酸化物(C)を含有させることを特徴とする高分子ゲル複合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−247961(P2008−247961A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87573(P2007−87573)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】