説明

高分子化合物、その製造方法、及び成形品用組成物

【課題】機械強度等の物理的特性や化学的特性、加工特性に優れ、しかも製造工程において熱分解を抑制でき、安定であり、簡易な製造方法によって得ることができ、各種成形品製造用材料に好適な高分子化合物を提供する。また、製造工程における苛酷な条件を必要とせず、上記高分子化合物を熱分解を抑制して簡易に得られる高分子化合物の製造方法を提供する。また、上記高分子化合物を用いることにより、機械強度等の物理的特性や化学的特性、加工特性に優れ、熱分解が抑制された安定性を有し、容易な製造方法によって得られ、各種成形品製造用として好適な成形品組成物を提供する。
【解決手段】フラン環にエステル基が結合した特定のポリエステル基、又はフラン環にアミド基が結合した特定のポリアミド基を有し、これらが特定のシロキサン基により結合された高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子によりポリエステルブロックセグメント又はポリアミドブロックセグメントが結合された高分子化合物や、その製造方法、これを用いた各種成形品材料として有用な成形品用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂はその成形加工性、高生産性、軽量性、柔軟性、優れた機械的特性や電気的特性等によって金属、ガラス、木材、紙等の既存材料と次々と置き替わっている。その使用範囲は広く、建築資材、電気、電子製品の構造部品や機能部品、自動車、車両、航空機、船舶の外装や内装部品、日用雑貨、包装材等、多岐に亘っている。これら多岐に亘る各市場からの樹脂の特性の向上に対する要求は大きく、これらの要求に応えるべく、異なる樹脂同士のアロイ化や他の材料との複合化が盛んに行われている。例えば、機械的特性や耐熱性、寸法安定性等の向上については、ガラス繊維やカーボン繊維を始めとする無機材料を樹脂に配合した有機無機複合材料が開発されている。
【0003】
特に、ポリエステルは機械強度等物理的特性、化学的特性に優れ、かつ射出成形、押出成形等の加工特性に優れることから、総ての分野に利用可能であり、種々のエンジニアリングプラスチックや、無機材料と組み合わせた特殊材料として開発が進められている。
【0004】
ポリエステルの製造方法としては、ジカルボン酸とグリコールとのエステル化法や、ジカルボン酸のアルキルエステルとグリコールとのエステル交換によりグリコールエステルを得て、これを重縮合するエステル交換法が、広く工業的に採用されている。エンジニアリングプラスチックとして使用するには強度等の機械的物性に優れることが必要とされ、そのためには高重合度化が必須である。エステル交換法によりポリエステルを製造する場合、グリコールエステルの重縮合は高真空下で加熱撹拌を行うため、高重合化ポリエステルを得るためには高真空を長時間保つ必要があり、より簡易な製造方法が要請されている。
【0005】
高重合度化ポリエステルの製造方法の改良として、具体的には、0.005〜0.1mmHgという非常に高真空で重縮合反応を行う方法が報告されている(特許文献1)。また、架橋剤として、3官能オキシカルボン酸或いは4官能オキシカルボン酸を添加してポリエステルの構造を架橋構造にする方法が報告されている(特許文献2)。
【0006】
しかし、特許文献1に記載される方法では、製造時間が長時間を要するため、製造中の高分子の熱分解や着色のおそれがある。また、特許文献2に記載される方法では、得られるポリエステルにおいて、3官能や4官能のオキシカルボン酸が導入されることにより、水酸基やカルボキシル基等の活性を有する高分子末端濃度が高くなり、安定性が低下する傾向がある。
【特許文献1】特開平5−310898号公報
【特許文献2】特開平5−170885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、機械強度等の物理的特性や化学的特性、加工特性に優れ、しかも製造工程における熱分解を抑制でき、安定であり、簡易な製造方法によって得ることができ、各種成形品製造用材料に好適な高分子化合物を提供することにある。
【0008】
また、製造工程における苛酷な条件を必要とせず、上記高分子化合物を熱分解を抑制して簡易に得られる高分子化合物の製造方法を提供することにある。また、上記高分子化合物を用いることにより、機械強度等の物理的特性や化学的特性、加工特性に優れ、熱分解が抑制された安定性を有し、容易な製造方法によって得られ、各種成形品製造用として好適な成形品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリエステル又はポリアミドと、オルガノアルコキシシロキサンとを反応させることにより、ポリエステル又はポリアミドがケイ素原子又はシロキサンに結合した高分子化合物が容易に得られることの知見を得た。この高分子化合物は、高重合度であり、ポリエステルやポリアミドに起因する優れた機械強度等の物理的特性、化学的特性、加工特性を有するにも拘わらず、高重合度とするための苛酷な製造条件を要しないことを見出した。このため、この高分子化合物は製造工程において熱分解を抑制でき、しかも末端の官能基の含有量が少なく安定性を有することを見い出し、かかる知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、式(1)で表される高分子化合物
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、Xは式(2)又は式(3)を示し、
【0013】
【化2】

【0014】
(式(2)中、R1は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
【0015】
【化3】

【0016】
(式(3)中、R2は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
Yは式(2)、式(3)、又は式(4)を示す。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、ZはYを示す。)]に関する。
【0019】
また、本発明は、上記高分子化合物の製造方法であって、式(5)で表されるポリエステル又は式(6)で表されるポリアミドを溶融し、オルガノアルコキシシラン又はオルガノアルコキシシランの加水分解物を加えて反応させることを特徴とする高分子化合物の製造方法
【0020】
【化5】

【0021】
(式(5)、R1は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
【0022】
【化6】

【0023】
(式(6)中、R2は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)に関する。
【0024】
また、本発明は、上記高分子化合物を含む成形品用組成物に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の高分子化合物は、機械的強度等の物理的特性や化学的特性、加工特性に優れ、しかも製造工程において熱分解を抑制でき、安定であり、簡易な製造方法によって得られ、各種成形品製造用材料に好適である。
【0026】
本発明の高分子化合物の製造方法は、製造工程における苛酷な条件を必要とせず、上記高分子化合物を熱分解を抑制して簡易に得られる。
【0027】
本発明の成形品用組成物は、機械的強度等の物理的特性や化学的特性、加工特性に優れ、しかも熱分解が抑制された着色がなく安定性を有し、簡易な製造方法によって得られ、各種成形品製造用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の高分子化合物は、式(1)
【0029】
【化7】

【0030】
で表され、式中、式(2)
【0031】
【化8】

【0032】
又は式(3)
【0033】
【化9】

【0034】
を示すXを有することにより、ポリエステルブロックセグメント又はポリアミドブロックセグメントを有する。式(1)が表す一つの高分子化合物中におけるこれらのポリエステルブロックセグメント、又はポリアミドブロックセグメントはそれぞれ同種に限らず、異種であってもよい。また、ポリエステルブロックセグメントとポリアミドセグメントとが式(1)が表す一つの高分子化合物中に同時に含有されていてもよい。
【0035】
これらのポリエステルブロックセグメント又はポリアミドブロックセグメントは、エステル結合又はアミド結合に直接結合されるフラン環を有する繰り返し単位により構成され、これを用いて得られる成形体に高強度を付与する。これらのブロックセグメントの繰り返し単位を構成するフラン環を有するモノマーは、セルロースやグルコース、フルクトース、粘液酸等のバイオマス由来の原料からの抽出物又はその変換物として得ることができ、環境負荷の低減の点から好ましい。フラン環に結合されるエステル結合又はアミド結合は、フラン環のいずれの位置に結合されるものであってもよく、例えば、2,5位、2,4位、3,4位等を挙げることができるが、2,5位が好ましい。結合位が2,5であるポリエステル又はポリアミドは、上記バイオマスから直接得られる2,5−フランジカルボン酸を用いて得られ、環境への影響をより低減できることから好ましい。
【0036】
式(2)におけるR1、式(3)におけるR2は、それぞれ、芳香族炭化水素基、直鎖状若しくは環状の脂肪族炭化水素基を示し、これらは置換基を有していてもよい。上記芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ビフェニル環及びビス(フェニル)アルカンの他、ナフタレン環、インデン環、アントラセン環、フェナントレン環等の縮合環や、複素環の2価の基を挙げることができる。上記ビス(フェニル)アルカンとしては、例えば、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2'−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げることができる。一方、上記複素環としては、例えば、以下のものを挙げることができる。フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール等の五員環。ピラン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の六員環。インドール、カルバゾール、クマリン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ベンゾチアゾール、キノリキサン、プリン等の縮合環。
【0037】
上記直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−ヘプチレン基等を挙げることができる。これらのうち、エチレン基、プロピレン基及びn−ブチレン基の炭素数2〜4の直鎖状アルキレン基が好ましく、n−ブチレン基を特に好ましいものとして挙げることができる。
【0038】
上記環状の脂肪族炭化水素基としては、シクロアルカン、シクロアルケンの2価の基を挙げることができる。シクロアルカンの基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基等を挙げることができる。また、シクロアルケンの基としては、例えば、シクロブテニレン基、シクロペンテニレン基、シクロヘキセニレン基、シクロヘプテニレン基、シクロオクテニレン基等を挙げることができる。
【0039】
これらのR1、R2が示す芳香族炭化水素基や脂肪族炭化水素基における置換基としては、アルキル基等の炭化水素基や、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子を含む基を挙げることができる。ヘテロ原子を含む基としては、具体的には、アルコキシ基、シロキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、シリル基、ハロゲノ基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、以下のものを例示することができる。メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、シクロヘキシルメトキシ基、トリメチルシロキシヘキシルオキシ基、クロロエトキシ基、メトキシブチルオキシ基、ジメチルアミノメトキシ基。ブテニルオキシ基、オクテニルオキシ基、フェノキシ基。これらの置換基は総てのR1、R2に含まれていてもよいが、その一部に含まれていてもよく、また、これらの置換基は1種又は2種以上が含まれていてもよい。
【0040】
式(2)中のn、式(3)中のmは重合度を示し、それぞれ5以上600以下のいずれかの整数を示すことが好ましい。このような重合度を有するポリエステルブロックセグメント又はポリアミドブロックセグメントにより、式(1)で表される高分子化合物に、優れた機械特性、化学的特性、加工特性を付与することができる。
【0041】
式(1)中のYは、上記式(2)若しくは式(3)、又は式(4)
【0042】
【化10】

【0043】
を示し、式(4)中、ZはYを示す。式(1)における3つのYは同一でも異なるものであってもよい。
【0044】
上記高分子化合物としては、式(2)中、R1がn−ブチレン基を示すポリエステル基を有するものが、強度等の機械特性に優れ、成形加工が容易であることから、特に好ましい。
【0045】
上記高分子化合物の分子量としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)に溶解させたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による分子量測定で、ピークトップ分子量が4000〜600000のであることが好ましい。このような分子量を有するものは、優れた機械特性を示すと共に、成型加工が容易となる。
【0046】
本発明の高分子化合物の製造方法は、上記高分子化合物の製造方法であって、式(5)
【0047】
【化11】

【0048】
で表されるポリエステル又は式(6)
【0049】
【化12】

【0050】
で表されるポリアミドを溶融し、オルガノアルコキシシラン又はオルガノアルコキシシランの加水分解物を加えて反応させることを特徴とする。
【0051】
本発明の高分子化合物の製造方法において用いる式(5)で表されるポリエステルは、上記式(2)のポリエステルブロックセグメントを含むものであり、式(5)中、R1、nは、式(2)におけるR1、nとそれぞれ同じものを示す。また、式(6)で表されるポリアミドは上記式(3)のポリアミドブロックセグメントを含むものであり、式(6)中、R2、mは、式(3)におけるR2、mとそれぞれ同じものを示す。式(5)で表されるポリエステルや式(6)で表されるポリアミド中、エステル結合又はアミド結合に直接結合されるフラン環も、具体的に、式(2)、式(3)におけるフラン環と同じものを具体的に例示することができる。
【0052】
式(5)で表されるポリエステルを合成するには、多価アルコール過剰下で、フランジカルボン酸又はそのエステルを、公知の方法により縮重合させることにより得ることができる。
【0053】
用いるフランジカルボン酸としては、具体的には、2,5−フランジカルボン酸、2,4−フランジカルボン酸、又は3,4−フランジカルボン酸を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、フランジカルボン酸のエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル等を挙げることができる。
【0054】
また、多価アルコールとしては、式(7)に示すものを挙げることができる。
【0055】
3−(OH)a (7)
式(7)中、aは2以上の整数であってもよいが、式(5)のポリエステルを得るために、2を示すことが好ましい。式中、R3は、具体的には、上記式(2)中のR1が示す基や、その置換基として具体的に例示した置換基と同じ置換基を有するR1が示す基を挙げることができる。
【0056】
このような2価のアルコールとしては、具体的には、以下のものを例示することができる。鎖状又は環状脂肪族ジオールとしてエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール。ジヒドロキシベンゼンとして1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,4ジヒドロキシベンゼン。ビスフェノールとしてビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2'−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン。グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスロース、ソルビトール、糖類。ジオール類の分子間脱水から得られるエーテルジオール、ヒドロキシ安息香酸等のオキシカルボン酸。これらは適宜組み合わせて使用してもよい。
【0057】
これらのうち、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールジオールが好ましい。
【0058】
上記2価アルコールとフランジカルボン酸の縮重合方法としては、これらを直接縮重合する方法、2価アルコールとフランジカルボン酸とのエステルを合成した後、これを縮重合する方法等を挙げることができる。上記2価アルコールとフランジカルボン酸を直接縮重合する方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等を挙げることができ、成形する成形品に応じて適宜選択することができる。重合温度、重合触媒、溶剤などの媒体等についてはそれぞれの重合方法により適宜選択することができる。
【0059】
上記2価アルコールとフランジカルボン酸の縮重合方法としては、エステル化工程と、その後のエステル化合物の重縮合工程によることが好ましい。
【0060】
上記エステル化工程においては、フランジカルボン酸と2価アルコール、触媒とを撹拌しながら徐々に110 ℃〜200 ℃に加熱し、好ましくは150 ℃〜180 ℃に加熱し、エステル化合物を得る。
【0061】
フランジカルボン酸と2価アルコールの使用量としては、フランジカルボン酸に対し、2価アルコールが1倍〜3倍のモル数であることが好ましい。2価アルコールをフランジカルボン酸に対し過剰に使用することにより、末端にアルコールが結合され、オルガノアルコキシシランとの反応性に優れるエステルを得ることができる。
【0062】
触媒は、ジカルボン酸の自己触媒作用のために添加しなくとも反応は進行するが、反応の進行に伴いジカルボン酸の濃度が低下するため、添加することが好ましい。使用する触媒としては、金属酸化物や塩、スズ、鉛、チタン等の有機金属化合物や、塩化ハフニウム(IV)、塩化ハフニウム(IV)・(THF)2等の四価のハフニウム化合物が好ましい。
【0063】
このエステル化工程の終点は、反応混合物が透明になった時点であり、容易に確認することができる。
【0064】
その後の重縮合工程においては、反応系の温度を180℃〜280℃に加熱、より好ましくは180℃〜230℃の範囲に加熱し、重縮合反応を開始させる。重縮合反応は真空下で行うことが好ましい。この重縮合に最適な触媒として、具体的には以下の例示のものを挙げることができる。鉛、亜鉛、マンガン、カルシウム、コバルト、マグネシウム等の酢酸塩や炭酸塩、又はマグネシウム、亜鉛、鉛、アンチモン等の金属酸化物やスズ、鉛、チタン等の有機金属化合物。また、両工程に有効な触媒としてチタンアルコキシドを用いることもできる。触媒の添加時期としては、エステル化工程と重縮合工程において、それぞれ別途に加えても、また、重縮合工程における触媒を当初から添加してもよい。触媒の添加に当たり、必要に応じてフランジカルボン酸と2価アルコールを加熱してもよく、複数回に分割して添加してよい。
【0065】
エステル化に続く重縮合反応においては、エステル化工程で消費されなかった余剰の2価アルコールや副生成物として生成する2価アルコ−ルを反応系から除去することにより重縮合反応を促進させることができる。2価アルコールの除去は反応系を減圧して留去するか、又は他の溶媒と共沸させ留去する等の方法により反応系外へ除去する方法によることができる。また、重縮合反応により高分子を得た後に、公知の方法で固相重合を行うこともできる。
【0066】
このような重縮合工程において得られる式(5)で表されるポリエステルの重合度、nは5以上600以下が好ましい。分子量としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)に溶解させたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による分子量測定で、ピークトップ分子量が1000〜140000を挙げることができる。
【0067】
式(6)で表されるポリアミドは、多価アミン過剰下で、上記と同様のフランジカルボン酸又はそのエステルを、公知の方法により重縮合させることにより得ることができる。フランジカルボン酸又はそのエステルと多価アミンの使用量としては、フランジカルボン酸又はそのエステル1モルに対し多価アミンが1.01〜1.10モルであることが好ましい。多価アミンをフランジカルボン酸に対し過剰に使用することにより、末端にアミンが結合されたポリアミド得ることができ、オルガノアルコキシシランとの反応性に優れるアミノ基を末端に有するものが得られる。
【0068】
ポリアミドの重縮合方法としては、溶融重縮合法、界面重縮合法、溶液重縮合法等を選ぶことができる。カルボン酸とアミンの反応から直接ポリアミドを合成するには、カルボン酸とアミンを反応させて、無溶媒、高温で過熱溶融させるよう溶融縮合法を選択することができる。
【0069】
ジアミン類としては、製造しようとするポリアミドに応じて種々のものを用いることができる。例えば、脂肪族ないし脂環族系のジアミンを用いることができ、その好ましい例を以下に挙げる。エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン。デカメチレンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ピペラジン。また、芳香族ジアミンを用いると耐熱性の高いポリアミドを製造でき、その好ましい例を以下に挙げる。m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォン。4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、ベンチジン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、m−トルイジン、3,3’−ジメチルベンチジン、3,3’−ジメトキシベンチジン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル。3,3’−ジメトキシベンチジン、o−トルイジンスルフォン、フェニルインダンジアミン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン。1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス(4−アミノフェノキシフェニル)スルフォン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン。1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9.9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビス(4−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、メタキシリレンジアミン。
【0070】
重縮合工程においては、反応系の温度を180℃〜330℃に加熱、より好ましくは180℃〜310℃の範囲に加熱し、重縮合反応を開始させる。重縮合反応は真空下で行うことが好ましい。必要に応じて、水酸化ナトリウムや酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物、次亜リン酸、次亜リン酸ソーダ、フェニル亜ホスホン酸、亜燐酸などのリン化合物を熱分解抑制を目的として、あるいは重縮合触媒として加えることも可能である。これらの添加剤の残存量は、ポリアミド1グラム当り約0.5×10-6〜約50×10-6モルの範囲が好ましい。
【0071】
このような重縮合工程において得られる式(6)で表されるポリアミドの重合度、mは5〜600が好ましい。分子量としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)に溶解させたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法による分子量測定で、ピークトップ分子量が1000〜140000を挙げることができる。
【0072】
次に、式(5)のポリエステル又は式(6)のポリアミドにオルガノアルコキシシラン又はオルガノアルコキシシランの加水分解物を加えて本発明の高分子化合物を製造する方法について説明する。
【0073】
上記式(5)のポリエステル又は式(6)のポリアミドに反応させるオルガノアルコキシシランとしては、式(8)で表されるものが好ましい。
【0074】
SiR44-b(OR5b (8)
式中、R4は、フェニル基若しくはベンジル基等の芳香族基で置換されているアルキル基や、アミノ基、ピリジル基、イミダゾリル基、グリシジル基、水酸基、ビニル基、又はメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素数1〜10のアルキル基、又はフェニル基若しくはベンジル基等の芳香族基で置換されているアルキル基を表す。bは1から4のいずれかの整数を示す。
【0075】
式(8)中、bが4を示すオルガノアルコキシシランとしては、具体的には以下のものを挙げることができる。テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン。
【0076】
式(8)中、bが1〜3を示すオルガノアルコキシシランとしては、具体的には以下のものを挙げることができる。メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリn−プロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン。トリメチルブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリn−プロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、トリエチルメトキシシラン。トリエチルエトキシシラン、トリエチルブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン。フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、1,3−ジ−n−オクチルテトラエトキシジシロキサン、1,3−ジメチルテトラメトキシジシロキサン、ジシクロペンチルジメトキシシラン。1,1−ジエトキシ−1−シラシクロペンタ−3−エン、シクロペンチルトリメトキシシラン、(3−シクロペンタジエニルプロピル)トリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン。シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、[2−(3−シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、[2−(3−シクロヘキセニル)エチル]トリメトキシシラン、t−ブチルジフェニルメトキシシラン。アミノ基を有するものとして、以下のものを挙げることができる。N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン。2−アミノエチルアミノメチルベンジロキシジメチルシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン。m−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−(3−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジイソプロピルエトキシシラン。3−アミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン。3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、トリフェニルアミノシラン。N−(トリメトキシシリルプロピル)イソチオウロニウムクロライド、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン。3−(2,4−ジニロトフェニルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、ジメチルアミノメチルエトキシシラン、(N,N−ジエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン。ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン。ピリジル基を有する2−(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、イミダゾリル基を有するN−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール。グリシジル基を有する(3−グリシドキシプロピル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、(3−グリシドキシプロピル)ジメチルエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン。(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン。5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、1,3−ジビニルテトラエトキシジシロキサン、ビニル基を有するビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O−(ビニロキシエチル)−N−(トリエトキシシリルプロピル)ウレタン。ビニロキシトリメチルシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン。ビニルメチルジアセトキシシラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン。2−(アクリロキシエトキシ)トリメチルシラン、N−3−(アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン。水酸基を有するアセトキシシラン、トリフェニルシラノール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコンアミド、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4−ヒドロキシブチルアミド、ナトリウムメチルシリコネート。N−(ヒドロキシエチル)−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン。メルカプト基を有する3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン。3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン。
【0077】
これらのうち、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等のテトラアルコキシシラン類を好ましいものとして挙げることができる。これらは、上記式(5)で表されるポリエステルや、式(6)で表されるポリアミドとの反応の制御が容易である。
【0078】
上記オルガノアルコキシシランの加水分解物は、オルガノアルコキシシランの加水分解により、アルコキシ基が水酸基に置換されたものである。加水分解物としては、上記オルガノアルコキシシランの総てのアルコキシ基が水酸基に置換されたものであっても、その一部が水酸基に変換されたものであってもよい。オルガノアルコキシシランの加水分解物は、反応系中の水分や、大気中の水分により生成されたものであってもよい。
【0079】
オルガノアルコキシシランの加水分解物はオルガノアルコキシシランに適宜混合されて用いられてもよく、また、オルガノアルコキシシランに替えて総てをオルガノアルコキシシランの加水分解物として用いることもできる。
【0080】
このようなオルガノアルコキシシラン又はこの加水分解物と、式(5)のポリエステル又は式(6)のポリアミドとの反応は、式(5)のポリエステル又は式(6)のポリアミドを溶融し、これにオルガノアルコキシシランやこの加水分解物を加えて反応させる。具体的には、ポリエステルの末端の水酸基と、オルガノアルコキシシランのアルコキシ基との脱アルコール反応、又はオルガノアルコキシシランの加水分解物の水酸基との脱水反応が生じる。これにより、ポリエステルブロックセグメントがケイ素原子と共有結合を形成し架橋される。
【0081】
また、ポリアミドの末端のアミノ基と、オルガノアルコキシシランのアルコキシ基との脱アミン反応、又はオルガノアルコキシシランの加水分解物の水酸基との脱水反応が生じる。これにより、ポリアミドブロックセグメントがケイ素原子と共有結合を形成し架橋される。
【0082】
ケイ素は四つの共有結合を形成し、その添加量によってポリエステルブロックセグメント又はポリアミドブロックセグメントの架橋形成を制御することができる。このようなオルガノアルコキシシランとポリエステル又はポリアミドとの反応は、短時間で簡便に行うことができ、長時間に亘る真空下における反応を行う必要がなく、極めて簡単に架橋形成を行うことができ、得られる高分子化合物の熱分解を抑制できる。更に、このような架橋の形成により、ポリエステル末端の水酸基や、ポリアミド末端のアミノ基の官能基が消費されることにより、得られる高分子化合物の安定性の向上にもつながる。
【0083】
オルガノアルコキシシランやその加水分解物の使用量は、ポリエステルやポリアミドに対し0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。オルガノアルコキシシランやその加水分解物の使用量が0.1質量%以上であれば、充分な架橋形成が作成でき、10質量%以下であれば、過度の架橋形成を抑制し、成形品用組成物において熱可塑性が阻害されるのを抑制することができる。より好ましい使用量は0.2質量%以上8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0084】
反応条件としては、溶融したポリエステル又はポリアミドに、170℃以上280℃以下、より好ましくは180℃以上230℃以下で、オルガノアルコキシシラン又はその加水分解物を混合する。反応温度が170℃以上であれば、反応の進行の遅延を抑制することができ、280℃以下であれば、得られる高分子化合物の熱分解を抑制することができる。このときの雰囲気は窒素、アルゴン等の不活性ガス中、あるいは真空が好ましい。オルガノアルコキシシラン又はその加水分解物とポリエステル、ポリアミドとの混合は、窒素ガス雰囲気中で添加を行い、十分に攪拌した後、減圧することもできる。反応時間は30分以上20時間以下が好ましい。反応時間が30分以上であれば充分な架橋が得られ、20時間以下であれば得られる高分子化合物の熱分解や劣化を抑制することができる。
【0085】
この反応は、通常のポリエステルの重合反応器を用い、反応器内で原料を混合攪拌して行うことができる。樹脂の混練、射出成形時に混合攪拌することにより、低い架橋度のポリエステルやポリアミドを原材料として用いて、高い架橋度の成形品等を得ることもできる。
【0086】
本発明の成形品用組成物は、上記高分子化合物を含むものである。更に、本発明の成形品用組成物は上記高分子化合物の機能を阻害しない範囲で、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。具体的には、難燃剤、着色剤、内部離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種フィラー等を挙げることができる。
【0087】
上記成形品用組成物を用いて成形可能な成形品としては、実用的に充分な強度を有し、無色透明であり、安定性を有する等の優れた物性を備えることから、繊維・フィルム、シート、各種成形品等、広い分野における成形品を挙げることができる。例えば、ボトル等の容器や、パイプ、チューブ、シート、板、フィルム等である。特に、好ましい成形品としては、インクジェットプリンターのインクタンク、電子写真のトナー容器、包装用樹脂や複写機、プリンター等の事務機又はカメラの筐体等の構成材料を挙げることができる。
【0088】
上記成形品用組成物を用いた成形品の成形方法としては、熱可塑性樹脂の成形方法と同様の方法を使用挙げることができ、例えば、圧縮成形、押出成形又は射出成形等を利用することができる。
【実施例】
【0089】
本発明の高分子化合物を、具体的に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。以下の数値は「質量%」を示す。
[実施例1]
[ポリブチレン−2,5−フランジカルボキシレートの調製]
窒素導入管、分留管-冷却管、温度計、SUS製撹拌羽を取り付けた1Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、2,5−フランジカルボン酸(149.9g)と蒸留済み1,4−ブタンジオール(259.5g)、モノブチルスズオキシド触媒(0.059wt%)、トルエンで溶解したチタンN−ブトキシド触媒(0.059 wt%)を加えた。
【0090】
四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら撹拌を開始するとともに、150℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が150℃に達した後、4時間かけて170℃まで昇温させた。
【0091】
170℃で減圧を開始した。約一時間かけてフルバキューム(5 Pa)とし、以後、減圧下(5 Pa)、190 ℃で約390分間反応を続けた。得られた高分子は、ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、メタノールで再沈殿させたものを60 ℃で12時間真空乾燥した。
【0092】
[高分子化合物の調製]
窒素導入管、分留管-冷却管、温度計、SUS製撹拌羽を取り付けた1Lの四つ口フラスコを用意した。この四つ口フラスコに、ポリブチレン−2,5−フランジカルボキシレート200gを加えた。
【0093】
四つ口フラスコ内にて窒素を導入しながら、170℃の油浴に浸漬しこれら内容物を昇温させた。内温が170℃に達し、内容物が溶融した後、テトラエトキシシラン10gを添加し30分間攪拌した。
【0094】
約1時間かけて5Paまで減圧し、170℃で2時間反応させた。得られた高分子は、ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、メタノールで再沈殿させたものを60 ℃で12時間真空乾燥した。
【0095】
こうして得られた高分子化合物のピークトップ分子量は370000と34000を示した。Tmは167℃、Tgは30℃、Tcは81℃、熱分解温度は344℃であった。また高分子化合物のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度)測定結果を図1に示す。分子量測定、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)測定は以下の条件にて測定を行った。
【0096】
[分子量測定]
分析機器 :Waters社製アライアンス2695
検出器 :示差屈折検出器
溶離液 :5 mMトリフルオロ酢酸ナトリウムの濃度であるヘキサフルオロイソプロパノール溶液
流量 :1.0 ml/min
カラム温度:40 ℃
重合度 :PMMAの標準を用いてピークトップ分子量を求めた。
【0097】
[ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)]
装置名 : ティー・エイ・インスツルメント製示差走査熱量分析装置
パン : プラチナパン
試料重量 : 3 mg
昇温開始温度 : 30℃
昇温速度 : 10℃/min
雰囲気 : 窒素
[FT−IR測定]
装置名:PekinElmer社製Spectrum One
測定範囲:4000−400cm-1
[比較例]
テトラエトキシシランを添加しなかった以外は実施例と同様に高分子化合物を調製し、分子量測定、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)測定を行った。高分子化合物のピークトップ分子量は55000を示した。Tmは170℃、Tgは37℃、Tcは97℃、熱分解温度は357℃であった。また高分子のFT−IR測定結果を図2に示す。
【0098】
得られた結果から、実施例に示した高分子化合物は高い重合度を示した。これに対して、比較例の高分子は同じ時間反応させても重合度が低く、分子量が小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の高分子化合物の一例のFT−IR測定によるスペクトルを示す図である。
【図2】比較例の高分子化合物のFT−IR測定によるスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される高分子化合物。
【化1】

[式中、Xは式(2)又は式(3)を示し、
【化2】

(式(2)中、R1は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
【化3】

(式(3)中、R2は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
Yは式(2)、式(3)、又は式(4)を示す。
【化4】

(式(4)中、ZはYを示す。)]
【請求項2】
式(2)中、R1がn−ブチレン基を示すことを特徴とする請求項1記載の高分子化合物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の高分子化合物の製造方法であって、式(5)で表されるポリエステル又は式(6)で表されるポリアミドを溶融し、オルガノアルコキシシラン又はオルガノアルコキシシランの加水分解物を加えて反応させることを特徴とする高分子化合物の製造方法。
【化5】

(式(5)、R1は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
【化6】

(式(6)中、R2は、置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を示す。)
【請求項4】
式(5)中、R1がn−ブチレン基を示す化合物を用いることを特徴とする請求項3記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の高分子化合物を含む成形品用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1630(P2009−1630A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162319(P2007−162319)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】