説明

高分子材料からなる物品の劣化評価システム

【課題】高分子材料からなる物品の劣化評価を簡便に行うことができる高分子材料からなる物品の劣化評価システムを提供する。
【解決手段】高分子材料からなる物品の劣化評価システムは、高分子材料からなる物品3と、この物品3の表面の色を測定する携帯用色差計1と、前記物品3の標準色を入力し記憶する標準色記憶装置6と、演算制御装置8と、前記携帯用色差計1により測定された測定色とを入力し記憶する測定色記憶装置9と、前記標準色と前記測定色とを比較する比較装置10と、この比較装置10からの出力を得る出力装置12とを有する評価装置4とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料からなる物品(製品や施設物)の劣化評価システムに係り、特に、鉄道車両に用いられる高分子材料からなる物品の劣化評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料の劣化評価は、鉄道のように長期間使用される高分子材料では重要性が高い。従来の高分子材料の劣化評価方法としては物性評価(引張、曲げ等)の他、組成分析や動的粘弾性、パルスNMR、IRなどの手法が挙げられている。
【0003】
また、電気機器の絶縁診断方法として、表面抵抗と相関関係が強い化学的測定項目である「イオン量」と「色差光沢量」を測定項目として選定したものが提案されている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−61901号公報
【非特許文献1】日本工業規格 JIS Z 8701「色の表示方法」−XYZ表色系及びX10Y10Z10表色系」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の物性評価の手法の多くは対象とする材料を採取し、適当な形状に加工した上で測定される。実際に使用中の物品(製品)にこれら従来の劣化評価方法を適用する場合、使用中の物品(製品)から適量のサンプルを採取する必要がある。採取した箇所は穴があいたり、端部の長さが足りなくなったりするため何らかの補修・改修を必要とする。補修・改修を行った場合、補修跡が外観を損ねてしまう他、欠陥箇所となって強度低下が発生することもある。また、補修剤等の化学薬品は使用中の製品の劣化を促進してしまう場合もある。
【0005】
鉄道用材料は長期間使用されるものが多く、また、人目(お客様の目)に触れることが多いため、安全面からも、サービス面からもかかる影響は避けたいものである。
【0006】
一方で、使用中の製品が適正な物性を有しているかどうかは、保守管理において把握しておきたい事項であり、使用中の製品を非破壊かつ施工した状態のまま、作業負担をかけず劣化評価を実施したいという強い要望があった。
【0007】
高分子材料には劣化によって化学構造が変化し、材料の色が変化する特徴がある。着色の原因を把握するためにIR(赤外線吸収スペクトル法)やUV(紫外線吸収スペクトル法)などの方法が用いられるが、いずれの試験法も、製品を施工した状態のまま非破壊で測定を行うことは困難であった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、色の変化を直接測定する方法として色差計を用いて、簡便かつ非破壊で高分子材料からなる物品の劣化評価を行うことができる高分子材料からなる物品の劣化評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高分子材料からなる物品の劣化評価システムにおいて、高分子材料からなる物品と、この物品の表面の色を測定する携帯用色差計と、前記物品の標準色を入力し記憶する標準色記憶装置と演算制御装置と前記携帯用色差計により測定された測定色とを入力し記憶する測定色記憶装置と前記標準色と前記測定色とを比較する比較装置とこの比較装置からの出力を得る出力装置とを有する評価装置とを具備することを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載の高分子材料からなる物品の劣化評価システムにおいて、前記携帯用色差計は、センサ部分を前記高分子材料からなる物品の表面に接触させるアタッチメントを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用中(施工中)の高分子材料からなる物品を簡便かつ非破壊で劣化評価を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の高分子材料からなる物品の劣化評価システムは、高分子材料からなる物品と、この物品の表面の色を測定する携帯用色差計と、前記物品の標準色を入力し記憶する標準色記憶装置と、演算制御装置と、前記携帯用色差計により測定された測定色とを入力し記憶する測定色記憶装置と、前記標準色と前記測定色とを比較する比較装置と、この比較装置からの出力を得る出力装置とを有する評価装置とを具備する。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の実施例を示す携帯用色差計を用いた高分子材料からなる物品の劣化評価システムの構成図である。
【0015】
この図において、1は携帯用色差計、2はその携帯用色差計1の測定プローブ(アタッチメント)、3は測定試料となる高分子材料からなる物品であり、実際に配置されている状態である。4は評価装置、5は入力装置、6は標準色記憶装置、7は携帯用色差計1の測定プローブ2から物品3の表面色データを取り込む入力インターフェース、8は演算制御装置、9は測定色記憶装置、10は標準色と測定色とを比較する比較装置、11は比較装置10からの出力を得る出力インターフェース、12は出力装置である。
【0016】
まず、入力装置5から物品3の表面の標準色データを入力し、そのデータを標準色記憶装置6で記憶する。そこで、入力インターフェース7を介して、物品3の測定色データを入力し、そのデータを測定色記憶装置9に記憶する。そこで、標準色記憶装置6からのデータと測定色記憶装置9からのデータとを比較装置10で比較して、その結果を出力インターフェース11を介して出力装置12に出力する。この出力装置12としてはディスプレイやプリンターを用いることができる。なお、通常、評価装置4は携帯用色差計1内に内蔵させる。
【0017】
したがって、この出力装置12から出力される物品3の表面の色データの評価データの結果により、物品3の測定色の変化を評価することができ、物品の劣化の度合いを測定することができる。
【0018】
図2は本発明の実施例を示す携帯用色差計を用いた高分子材料からなる物品の劣化評価状態を示す図である。
【0019】
図1に示すような標準色記憶装置6に基準となる標準色データを高分子材料からなる物品ごとに準備し、実際の高分子材料からなる物品の携帯用色差計による測定値を、標準色記憶装置6のデータと照合することで、高分子材料からなる物品の表面色の変化から強度劣化を換算することが可能となる。
【0020】
本発明によれば、非破壊かつ施工した状態のままの高分子材料からなる物品に対して簡便に劣化の評価を実施することが可能である。
【0021】
このように、評価装置内蔵の携帯用色差計21は、図2に示すように片手での使用が可能である他、高分子材料からなる物品23に携帯用色差計21の測定プローブ(アタッチメント)22を押付けるだけで、高分子材料からなる物品23の色の変化を測定でき、劣化評価を得ることが可能である。
【0022】
また、測定時間も、1測定あたり1分程度で可能であり、施工箇所での多数測定にも対応が可能である。
【0023】
次に、試験結果について説明する。
【0024】
図3は本発明に係るナイロンを用いた試験結果を示す図である。
【0025】
この図において、横軸は黄色度(YI)、縦軸は破断強さ(Tb:メガパスカル)を示している。
【0026】
携帯用色差計によって得られる3刺激値X、Y、Zから、下記の(1)式によって黄色度YIを算出する。
【0027】
YI={100(1.28X−1.06Z)}/Y …(1)
試験の結果、図3に示すように、黄色度は材料の破断強さと良好な相関関係を有することが分かった。
【0028】
このような相関関係は高分子材料の他の特性、例えば弾性、曲げ強さ、硬度、線膨張率、摩擦特性、クリープ特性、耐衝撃性、耐摩耗性、動力学的性質、耐薬品性、燃焼性、熱伝導率、その他熱的特性、誘電率、電気抵抗、耐電圧、誘電正接、その他の電気・磁気特性や分子量、吸水率、化学構造の官能基の変化などにも応用が可能である。
【0029】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の高分子材料からなる物品の劣化評価システムは、鉄道車両に用いられる高分子材料からなる物品の劣化度合の評価を行うのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例を示す携帯用色差計を用いた高分子材料からなる物品の劣化評価システムの構成図である。
【図2】本発明の実施例を示す携帯用色差計を用いた高分子材料からなる物品の劣化評価状態を示す図である。
【図3】本発明に係るナイロンを用いた試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1,21 携帯用色差計(評価装置内蔵)
2,22 携帯用色差計の測定プローブ(アタッチメント)
3,23 測定試料となる高分子材料からなる物品
4 評価装置
5 入力装置
6 標準色記憶装置
7 入力インターフェース
8 演算制御装置
9 測定色記憶装置
10 標準色と測定色とを比較する比較装置
11 出力インターフェース
12 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高分子材料からなる物品と、
(b)該物品の表面の色を測定する携帯用色差計と、
(c)前記物品の標準色を入力し記憶する標準色記憶装置と演算制御装置と前記携帯用色差計により測定された測定色とを入力し記憶する測定色記憶装置と前記標準色と前記測定色とを比較する比較装置と該比較装置からの出力を得る出力装置とを有する評価装置とを具備することを特徴とする高分子材料からなる物品の劣化評価システム。
【請求項2】
請求項1記載の高分子材料からなる物品の劣化評価システムにおいて、前記携帯用色差計は、センサ部分を前記高分子材料からなる物品の表面に接触させるアタッチメントを具備することを特徴とする高分子材料からなる物品の劣化評価システム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−180607(P2008−180607A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14429(P2007−14429)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】