説明

高分子量脂肪族ポリエステル

【目的】 熱安定性および強度に優れ、成形性も良好であり、生分解性も有する、熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステルを提供する。
【構成】 次の一般式(A)
【化1】


で示され、メルトフローレート(JIS法、190℃、荷重2.16kg)が0.01〜100g/10分である熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステルを、(1)グリコール成分と(2)脂肪族(環状脂肪族を含む)ジカルボン酸(またはその酸無水物)成分他とをエステル化反応して後に、触媒存在下高温度にて0.005〜0.1mmHgの高真空条件で脱グリコールを行うことによって製造する。
【効果】 カップリング剤を用いないで、熔融成形ができる高分子量脂肪族ポリエステルを製造することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、射出成形、中空成形および押出成形などの汎用プラスチック成形機で成形可能な高分子量脂肪族ポリエステル、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、フィルム、繊維、その他の成形品の成形に用いられていた高分子量ポリエステル(ここで言う高分子量ポリエステルとは、数平均分子量が10,000以上を指すものとする)は、テレフタル酸(ジメチルエステルを含む)とエチレングリコールまたは、ブタンジオール1,4の縮合体であるポリエチレンテレフタレートまたは、ポリブチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステルに限られる、といっても過言ではなかった。テレフタル酸の代りに、2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いた例もあるが、ジカルボン酸に脂肪族タイプを使用して脂肪族ポリエステルを合成し、これをフィルム、繊維などに成形し、実用化することは極めて困難であった。それは、脂肪族ポリエステルが通常知られた重縮合反応では数平均分子量で15,000以上にならず、熱分解し易いためであった。
【0003】本発明者らは、先にこのような易熱分解性の脂肪族ポリエステルの分子量を極力高めるべく検討を重ねた結果、まず数平均分子量が5,000以上、望ましくは10,000以上で、末端基が実質的にヒドロキシル基であるポリエステルジオールに、その融点以上の熔融状態において、カップリング剤としてのジイソシアナートを添加することにより、意外にも、ゲル化の危険がなく円滑に高分子量のウレタン結合を含む脂肪族ポリエステルを合成できることを知り、例えば特願平2−317849および特願平4−91118などですでに提案した。高分子量のウレタン結合を含む脂肪族ポリエステルは、それ自体にて熔融成形が可能であることはもちろんであるが、しかし汎用プラスチックス成形機械にて成形加工する場合、条件によっては着色したり、ミクロゲルが発生したりするなどの課題があることが判明した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、汎用プラスチックス成形機械にて成形加工する場合、着色したり、ミクロゲルが発生したりすることの無い汎用プラスチック成形機で成形可能な高分子量脂肪族ポリエステルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意検討の結果、下記のようにして従来の課題を解決することができた。本発明者らは、次の一般式(A)
【化2】


(mは、上記式のポリエステルの数平均分子量が25,000〜70,000となるのに必要な重合度、R1およびR2は炭素数2〜10のアルキレン基である)で表わされ、メルトフローレート(JIS法、190℃、荷重2.16kg)が0.01〜100g/10分である高分子量脂肪族ポリエステル、およびその製造方法を提供することを目的とした。即ち、本発明のポリエステル(A)は、従来のようなカップリング剤を含有しないことを特徴としている。前記一般式において、R1が(−CH2−CH2−)p(但し、pは1または2である)で表わされるアルキレン基であり、R2が同様に(−CH2−CH2−)n(但し、nは1または2である)で表わされるアルキレン基である場合に、結晶性で融点が高く、かつ成形性も良好な高分子量脂肪族ポリエステルが得られるので好ましい。特に、R1がテトラメチレン基であり、R2がエチレン基である場合に融点が100℃以上のプラスチックスとして優れた物性を有する高結晶性の高分子量ポリエステルが得られる。
【0006】本発明において、R1およびR2はそれぞれ1種に限られることはなく、2種以上の場合も含まれることは勿論である。この場合、脂肪族ポリエステルの反応成分であるグリコールまたは脂肪族ジカルボン酸をそれぞれ2種以上使用してランダム共縮合させるかまたはブロック共縮合させて、多成分系の複合ポリエステル(A)を合成する方法も採用される。
【0007】本発明の高分子量脂肪族ポリエステル(A)は、ポリエチレンの汎用成形機械で成形加工するために、メルトフローレートMFR(JIS法、190℃、荷重2.16kg)が0.01〜100g/10分に、好ましくは0.1〜50g/10分に制御することが好ましい。例えば、MFRが10〜100g/10分の場合には射出成形に適し、例えば板材、容器、フォーク、ナイフなどを極めて容易に成形できる。また、MFRが1〜20g/10分の場合にはマルチフィラメント用に、一方MFRが0.1〜2g/10分の場合には中空成形用に、またMFRが0.01〜1g/10分の場合にはフィルムの押出成形用に適している。
【0008】本発明の高分子量脂肪族ポリエステル(A)のメルトフローレートMFRは、その製造条件を特定化することにより、その分子量を所望の範囲に調節することによって目的の範囲に制御することができる。分子量調節の詳細は後述するが、従来のようなカップリング反応によらず、単に脱グリコール反応における反応条件を特定化、特に0.05〜0.1mmHgの高真空にすることによって実現できた。
【0009】本発明の高分子量脂肪族ポリエステル(A)は、原料の脂肪族ジオールの種類により熔融特性の分子量依存性が大幅に変動するが、一方脂肪族ジカルボン酸の種類では殆んど変動しない。例えば、数平均分子量Mn対メルトフローレートMFRの関係を代表的な原料のエチレングリコール/コハク酸(EG)系およびブタンジオール1,4/コハク酸(BD)系について表1に示した。
【0010】
【表1】


【0011】本発明の高分子量脂肪族ポリエステル(A)は、それぞれ炭素数2〜10のアルキレン基をもつグリコールと脂肪族ジカルボン酸またはその無水物とを、グリコール過剰で所望の酸価(好適には10以下)迄エステル化した後、チタン化合物のような反応触媒の存在下に高温度・高真空下で脱グリコール反応を行って、数平均分子量が25,000〜70,000の末端基が実質的にヒドロキシ基であるポリエステルを合成することによって得られる。
【0012】反応成分であるグリコールは、炭素数2〜10のアルキレン基をもつものであり、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール1,3、ブタンジオール1,4、ペンタンジオール1,5、3−メチルペンタンジオール1,5、ヘキサンジオール1,6、ヘプタンジオール1,7、オクタンジオール1,8、ノナンジオール1,9、デカンジオール1,10、ネオペンチルグリコール並びにそれらの混合物があげられる。これらのなかで、炭素数が偶数のもの、例えばエチレングリコール、ブタンジオール1,4、ヘキサンジオール1,6が、高融点でかつフィルム形成性の脂肪族ポリエステル(A)を合成できるため好ましい。特にエチレングリコールおよびブタンジオール1,4が良好な結果を与えるので、最適である。
【0013】脂肪族ジカルボン酸またはその無水物としては、炭素数2〜10のアルキレン基をもつもの、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、ドデカン酸、無水コハク酸、無水グルタン酸並びにそれらの混合物があげられる。これらのなかで、炭素数が偶数のもの、例えばコハク酸、アジピン酸、無水コハク酸が高融点、フィルム形成性のポリエステルを合成できるため好ましい。特に、コハク酸または無水コハク酸が最適である。特に、ブタンジオール1,4とコハク酸またはその無水物(融点110〜115℃)、並びにエチレングリコールとコハク酸またはその無水物(融点約105℃)の組合せが、ポリエチレンと類似の融点を示し、本発明にとっては、最も望ましい組合せといえる。
【0014】本発明のポリエステル(A)は、末端基が実質的にヒドロキシ基であるがために熱安定性が高い。そのために、合成反応に使用するグリコール成分および酸成分の割合は、グリコールを幾分過剰に使用する必要がある。その割合は、酸成分1モルに対しグリコール成分1.05〜1.2モル位が好適である。当然のことながら、目的を損なわない範囲内で、他の多価アルコール、多価オキシカルボン酸(またはその酸無水物)、多価カルボン酸(またはその酸無水物)などの成分の併用は可能である。
【0015】多価アルコール成分の例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリットなどがあげられる。また、脱水した形のモノエポキシ化合物であるグリシドールも使用し得る。この成分の量は、脂肪族ジカルボン酸(またはその酸無水物)成分全体100モル(%)に対して、0.1〜5モル(%)であり、エステル化の当初から加えるのがよい。
【0016】多価オキシカルボン酸(またはその酸無水物)成分は、市販品がいずれも利用可能ではあるが、低コストで入手できるといった点からは、リンゴ酸、酒石酸ならびにクエン酸が好適である。この成分の量は、脂肪族ジカルボン酸(またはその酸無水物)成分全体100モル(%)に対して、0.1〜5モル(%)であり、エステル化の当初から加えることができる。
【0017】多価カルボン酸(またはその酸無水物)成分の例としては、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物などがあげられる。特に、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などが好適である。この成分の量は、脂肪族ジカルボン酸(またはその酸無水物)成分全体100モル(%)に対して、0.1〜5モル(%)であり、エステル化の当初から加えることができる。
【0018】本発明のポリエステル(A)を合成する方法は特定の反応条件で実現できる一般のエステル化に続き、特定の脱グリコール反応により所望の範囲に高分子量化される。なお、脱グリコール反応の際には、少量の触媒を用いる必要がある。有用な触媒としては、Ti,Ge,Zn,Fe,Mn,Co,Zr,V,Ir,La,Ce,Li,Caなどの金属化合物、好ましくは有機塩酸、アルコキシド、アセチルアセトナートなどの有機金属化合物があげられる。これらのなかで、例えば、ジブトキシジアセトアセトキシチタン(日本化学産業(株)社製“ナーセムチタン”)、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタンなどが高活性であり好ましく、いずれも市販品があり入手可能である。触媒の使用割合は、通常ポリエステル100重量部に対して0.01重量部を超え3重量部以下、望ましくは0.05〜2重量部である。しかし、テトライソプロポキシチタンのような高活性チタン化合物を用いる場合には、0.005〜0.01重量部程度の極く少量の使用でも有効である。触媒はエステル化の最初から加えてもよく、また脱グリコール反応の直前に加えてもよい。
【0019】第1段反応としてのエステル化反応は160〜230℃で不活性ガス雰囲気下で実施される。この温度より低温では反応速度が遅く実用性に乏しい。またこの温度より高温ではポリマーの熱分解の危険性が高くなるので避けた方がよい。従って、180〜220℃の間の温度でこのエステル化反応を実施することが好ましい。このポリエステルの熱分解を避けるために、反応時間を短縮する目的で、凝縮水のほぼ排出が終了した反応の後半で、系内を20〜5mmHg程度の真空度にして、この反応を加速することができる。エステル化反応は、酸価が15以下好適には10以下に達する迄実施される。得られるポリエステルは、両末端にヒドロキシル基を有する数平均分子量1,000〜5,000程度のものである。この場合の分子量が大きい程、この後の脱グリコール反応による分子量増大が円滑に行えるので、高分子量のものが望ましい。
【0020】本発明を特徴づける第2段反応としての脱グリコール反応は、特に0.1〜0.005mmHg、好適には0.1〜0.01mmHgの真空度下に、180〜230℃、好適には200〜220℃の温度にて実施することができる。真空度によってメルトフローレートMFRおよび数平均分子量Mnを容易に制御することができる。即ち、真空度を超真空度の0.005mmHgに近づけるに従ってMFRを0.01g/10分に、またMnを70,000にすることができる。また、真空度を高真空度の0.1に近づけるに従ってMFRを100g/10分に、またMnを26,000にすることができる。これらの真空度のグレードは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の工業的生産設備では通常1〜0.1mmHg程度までは可能とされている。しかし、現代の工業設備、例えばドイツ製真空ポンプを使用する設備では0.005mmHgまでの超真空運転が充分に可能である。
【0021】この脱グリコール反応における真空度の制御は、2階段方式で行うことが好ましい。即ち、第1次では常圧からゆっくりと数mmHgにまで吸引し、ついで0.5〜0.1mmHg下に1〜5時間吸引を続ける。その後に引続く第2次では、所望の超・高真空度の0.005〜0.1mmHgにて1〜10時間吸引を行うことによって、所望のMFRおよびMnを実現するものとする。これらの操作によれば、脱グリコール反応に伴う真空ラインの閉鎖および真空ポンプのトラブルなどを少なくすることができる。
【0022】上記のようにして製造されて、本発明に使用される高分子量脂肪族ポリエステル(A)は、汎用ポリエチレンの成形加工機械で熔融成形が容易にできるようにメルトフローレートMFRを0.01〜100g/10分に、数平均分子量Mnが25,000〜70,000に制御されている。MFRがその下限以下では、金型内の流れが悪くて成形加工が事実上できないし、その上限以上では熔融時に水のように流れてしまって成形加工ができなくなる。
【0023】本発明の高分子量脂肪族ポリエステルは、反応器の底からバルブを介して空気中または不活性気体中に取出して固化することができる。もちろん、必要ならば、反応器中で安定剤、抗酸化剤、滑剤およびフィラーなどと混合してから取出すこともできる。ペレットが必要な場合は、例えばニーダーで単独または上記の添加物などと共に再融解および混合し、エクストルーダーで水中に押出して、所望の大きさに切断して作成することもできる。
【0024】
【作用】本発明の熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステルは、下記のようにエステル化反応および脱グリコール反応の2段階反応によって得られる。第1段反応のエステル化反応では一般にグリコールとジカルボン酸とを反応してオリゴマーを生成させて、凝縮水を分離する。この際、グリコールを過剰にして、両末端を水酸基富有にすることが望ましい。末端にカルボン酸が存在すると熱安定性が悪く、脱グリコール反応をし難いからである。
【0025】第2段反応の脱グリコール反応では、オリゴマー同士からグリコールを除去することによって、高分子量化を行う。この反応の進捗度は触媒の種類にもちろん依存するが、所望の反応温度の180〜230℃においては真空度に大きく依存する。この反応は平衡反応であるため、生成してくるグリコールを反応系から速やかに除去することが重要である。即ち、グリコールの排除は化学的反応よりは物理的処理に依存するため、真空度を0.005〜0.1mmHgに高めることが、決定的に重要であると推定される。
【0026】(1)第1段反応のエステル化反応
【化3】


【0027】(2)第2段反応の脱グリコール反応
【化4】


【0028】
【実施例】次に本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示す。なお、メルトフローレートMFRの測定はJIS法K7210−1976のA法操作(手動切取り法)の条件4(試験温度190℃、試験荷重2.16kgf、ポリエチレンおよびポリプロピレンなど用)に従った。測定試料は、ペレットまたは切断小片を、予め90℃の真空下で数時間乾燥したものを使用した。特に、ことわらない限りは安定剤ほかの添加剤を一切含まない。数平均分子量の測定は、次のようにGPC法に依った。
使用機種:Shodex GPC SYSTEM-11(昭和電工社製)
溶離液:HFIP(ヘキサフロロイソプロパノール)/5mM CF3COONaサンプルカラム:HFIP−800PおよびHFIP−80M×2本リファレンスカラム:HPIP−800R×2本ポリマー溶液:0.1wt%、200μl操作条件:液流量1.0ml/分、カラム温度40℃、圧力30kg/cm2検出器:Shodex RI分子量スタンダード:PMMA(Shodex STANDARD M-75)
【0029】実施例1エステル化反応70リットルの反応器を窒素置換してから、1,4−ブタンジオール18.3kgとコハク酸22.4kgを仕込んだ。窒素気流下に温度を上昇して後、温度192〜220℃にて3.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下に3.5時間にわたり、脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取されたサンプルは、酸価が9.0mg/g、数平均分子量(Mn)が4,970、また重量平均分子量(Mw)が9,560であった。
【0030】脱グリコール反応引続いて、常圧の窒素気流下に触媒のチタニウム・テトライソプロポキサイド3.4g(ポリマー100部に対して0.01部)を添加した。温度を215〜220℃にし、真空オイルポンプにて15〜0.2mmHgの真空下に4.5時間、第1次の脱グリコール反応を行った。採取されたサンプルは、Mnが18,400、またMwが47,100であった。更に、この反応系を上記の温度で0.2mmHgの真空度にしてから、ドイツ・リーチェリー社製真空ポンプに切替えて0.02mmHgの高真空下に4時間、第2次の脱グリコール反応を行った。このポリエステル(A1)は、凝縮水の理論量6.8kgを除くと理論収量が33.9kgであったが、反応器から押出された収量は約30kgであった。90℃で、6時間真空乾燥して後、熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステル(A1)は下記の基本物性を示した。
【0031】MFR 1.1g/10分 JIS法K7210 条件4(190℃、荷重2.16kgf)Mn 35,000 GPC法(HFIPA溶媒、ポリメチルメタアクリレート換算)
Mw 164,000 GPC法(HFIPA溶媒、ポリメチルメタアクリレート換算)
融点 110℃ DSC法(ピーク温度)密度 1.26g/cm3 比重法(水中)粘度 240ps/25℃ o−クロロフェノール 10%濃度
【0032】実施例2〜3エステル化反応(無水コハク酸をコハク酸の代わりに使用した)70リットルの反応器を窒素置換してから、1,4−ブタンジオール19.6kgと無水コハク酸20.4kgを仕込んだ。窒素気流下に温度を上昇して後、温度190〜220℃にて2.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下に2.5時間にわたり、脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取されたサンプルは、それぞれ酸価が8.7(例2)および9.0mg/g(例3)、数平均分子量(Mn)がそれぞれ4,160(例2)および5,070(例3)、また重量平均分子量(Mw)がそれぞれ7,800(例2)および9,500(例3)であった。
【0033】脱グリコール反応(真空度を制御した)常圧の窒素気流下に触媒のチタニウム・テトライソプロポキサイド3.3g(ポリマー100部に対して0.01部)を添加した。温度を215〜220℃にし、真空オイルポンプにて15〜0.2mmHgの真空下に4.5時間、第1次の脱グリコール反応を行った。採取されたサンプルは、Mnがそれぞれ16,900(例2)および18,200(例3)、またMwがそれぞれ44,600(例2)および46,000(例3)であった。更に、この反応系を上記の温度で0.2mmHgの真空度にしてから、ドイツ・リーチェリー社製真空ポンプに切替えて真空度をそれぞれ0.06mmHg(例2)および0.01mmHg(例3)の高真空下に4時間、第2次の脱グリコール反応を行った。このポリエステル(A2)および(A3)は、凝縮水の理論量7.3kgを除くと理論収量が32.7kgであったが、反応器から押出された収量はそれぞれ約30kgであった。90℃で、6時間真空乾燥して後、熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステル(A2)および(A3)は下記の基本物性を示した。
【0034】
実施例2 実施例3 測定法 MFR(g/10分) 44 1.15 JIS法K7210 条件4(190℃、荷重2.16kgf) Mn 27,500 42,000 GPC法(HFIPA溶媒、PMMA換算)
Mw 112,000 220,000 GPC法(HFIPA溶媒、PMMA換算)
融点(℃) 110 109 DSC法(ピーク温度)
密度(g/cm3) 1.26 1.25 比重法(水中)
【0035】実施例4エステル化反応70リットルの反応器を窒素置換してから、1,4−ブタンジオール17.6kg(モル比105)、コハク酸17.5kg(モル比100)およびアジピン酸4.9kg(モル比20)を仕込んだ。窒素気流下に温度を上昇して後、温度190〜210℃にて3.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下に3.5時間にわたり脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取されたサンプルは、酸価が10mg/g、数平均分子量(Mn)が5,100、また重量平均分子量(Mw)が11,000であった。
【0036】脱グリコール反応常圧の窒素気流下に触媒のチタニウム・テトライソプロポキサイド2.0g(ポリマー100部に対して0.005部)を添加した。温度を上昇して後に、210〜220℃で15〜0.2mmHgの真空下に6.5時間第1次の脱グリコール反応を行った。採取されたサンプルは、Mnが18,000、またMwが47,000であった。更に、この反応系を上記の温度で0.2mmHgの真空度にしてから、ドイツ・リーチェリー社製真空ポンプに切替えて0.02mmHgの高真空下に4時間第2次の脱グリコール反応を行った。このポリエステル(A4)は、凝縮水の理論量6.7kgを除くと理論収量が33.7kgであったが、反応器から押出された収量は約30kgであった。70℃で、6時間真空乾燥して後、熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステル(A4)は下記の基本物性を示した。
【0037】MFR 0.70g/10分 JIS法K7210 条件4(190℃、荷重2.16kgf)Mn 43,800 GPC法(HFIPA溶媒、ポリメチルメタアクリレート換算)
Mw 185,000 GPC法(HFIPA溶媒、ポリメチルメタアクリレート換算)
融点 97℃ 融解法密度 1.18g/cm3 比重法(水中)
【0038】実施例5エステル化反応70リットルの反応器を窒素置換してから、エチレングリコール14.5kg(モル比110)、コハク酸25.1kg(モル比100)およびクエン酸0.41kg(モル比1)を仕込んだ。窒素気流下に温度を上昇して後、温度190〜210℃にて3.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下に3.5時間にわたり、脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取されたサンプルは、酸価が9.0mg/g、数平均分子量(Mn)が7,170、また重量平均分子量(Mw)が14,500であった。
【0039】脱グリコール反応常圧の窒素気流下に触媒のチタニウム・テトライソプロポキサイド4.0g(ポリマーの100部に対して0.01部)を添加した。温度を215〜220℃にし、真空オイルポンプにて15〜0.2mmHgの真空下に4.5時間第1次の脱グリコール反応を行った。採取されたサンプルは、Mnが33,500、またMwが147,100であった。更に、この反応系を上記の温度で0.2mmHgの真空度にしてから、ドイツ・リーチェリー社製真空ポンプに切替えて0.02mmHgの高真空下に4時間第2次の脱グリコール反応を行った。このポリエステル(A5)は、凝縮水の理論量7.7kgを除くと理論収量が32.3kgであったが、反応器から押出された収量は約30kgであった。70℃で、6時間真空乾燥して後、熔融成形用の高分子量脂肪族ポリエステル(A5)は下記の基本物性を示した。
【0040】MFR 2.1g/10分 JIS法K7210 条件4(190℃、荷重2.16kgf)Mn 49,000 GPC法(HFIPA溶媒、ポリメチルメタアクリレート換算)
Mw 354,000 GPC法(HFIPA溶媒、ポリメチルメタアクリレート換算)
融点 96℃ 融解法密度 1.2g/cm3 比重法
【0041】
【発明の効果】本発明による高分子量脂肪族ポリエステルは、射出成形、中空成形、押出成形などによりフィルム、シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、並び繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ラミネート、ブロービン、板、延伸シート、発泡体などの成形品に利用可能である。その際、滑剤、着色剤他ポリマー、離型剤、フィラー、補強剤などを必要に応じ使用できることは勿論である。
【0042】さらに、本発明の高分子量脂肪族ポリエステルは、生分解性を有しており、土中のバクテリアによって2〜6ケ月で完全に分解する特性があり、地球環境衛生上極めて有用なポリマーである。従って、今後ショッピングバック、ゴミ袋、農業用フィルム、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、釣り糸、漁網、ロープ、結束材、手術糸、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材などの用途に大いに期待される。特に、カップリング剤を含まないので高純度品であり、食品包装材料、医療用容器などの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】1,4−ブタンジオールおよびコハク酸(酸無水物を含む)から製造された高分子量脂肪族ポリエステル(A)について第2次脱グリコール反応の真空度とメルトフローレートとの関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の一般式(A)
【化1】


(mは、上記式のポリエステルの数平均分子量が25,000〜70,000となるのに必要な重合度、R1およびR2は炭素数2〜10のアルキレン基である)で表わされ、メルトフローレート(JIS法、190℃、荷重2.16kg)が0.01〜100g/10分である高分子量脂肪族ポリエステル。
【請求項2】 (1)グリコール成分と(2)脂肪族(環状脂肪族を含む)ジカルボン酸(またはその酸無水物)成分とをエステル化し、生成したポリエステルジオールを触媒の存在下、180〜230℃の温度および0.005〜0.1mmHgの高真空下で脱グリコール反応を行って製造することを特徴とする請求項1記載の高分子量脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】 (1)グリコール成分と(2)脂肪族(環状脂肪族を含む)ジカルボン酸(またはその酸無水物)成分と少量の(3)多価アルコール、多価オキシカルボン酸(またはその酸無水物)、または多価カルボン酸(またはその酸無水物)の3成分をエステル化し、生成したポリエステルジオールを触媒の存在下180〜230℃の温度および0.005〜0.1mmHgの高真空下で脱グリコール反応を行って製造することを特徴とする請求項1記載の高分子量脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】 R1が(−CH2−CH2−)p(但し、pは1または2である)で表わされるアルキレン基であることを特徴とする請求項1記載の高分子量脂肪族ポリエステル。
【請求項5】 R2が(−CH2−CH2−)n(但しnは1または2である)で表わされるアルキレン基であることを特徴とする請求項1または4記載の高分子量脂肪族ポリエステル。
【請求項6】 R1がテトラメチレン基であり、R2がエチレン基であることを特徴とする請求項1記載の高分子量脂肪族ポリエステル。
【請求項7】 R1および/またはR2がそれぞれ2種のアルキレン基であることを特徴とする請求項1記載の高分子量脂肪族ポリエステル。

【図1】
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