説明

高周波スイッチ

【目的】 小型の高周波スイッチを提供する。
【構成】 この高周波スイッチ10は多層基板ないし積層体12を含む。この積層体12には、第1および第2のストリップラインなどが内蔵される。また、この積層体12の上には、第1および第2のダイオード18および20などが実装される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は高周波スイッチに関し、特にたとえば、デジタル携帯電話などの高周波回路において信号の経路の切り換えを行うための高周波スイッチに関する。
【0002】
【従来の技術】高周波スイッチは、図4に示すように、デジタル携帯電話などにおいて、送信回路TXとアンテナANTとの接続および受信回路RXとアンテナANTとの接続を切り換えるために用いられる。
【0003】図5はこの発明の背景となりかつこの発明が適用される高周波スイッチの一例を示す回路図である。この高周波スイッチは、アンテナANT,送信回路TXおよび受信回路RXに接続される。送信回路TXには、第1のコンデンサC1を介して第1のダイオードD1のアノードが接続される。第1のダイオードD1のアノードは、第1のストリップラインSL1および第2のコンデンサC2の直列回路を介して接地される。さらに、第1のストリップラインSL1と第2のコンデンサC2との中間点には、第1の抵抗R1を介して、第1のコントロール端子T1が接続される。第1のコントロール端子T1には、高周波スイッチの切り換えを行うためのコントロール回路が接続される。また、第1のダイオードD1のカソードは、第3のコンデンサC3を介して、アンテナANTに接続される。アンテナANTに接続された第3のコンデンサC3には、第2のストリップラインSL2と第4のコンデンサC4との直列回路を介して、受信回路RXが接続される。また、第2のストリップラインSL2と第4のコンデンサC4との中間点には、第2のダイオードD2のアノードが接続される。そして、第2のダイオードD2のカソードは接地される。
【0004】図5に示す高周波スイッチを用いて送信する場合、第1のコントロール端子T1に正の電圧が与えられる。この電圧によって、第1のダイオードD1および第2のダイオードD2がONになる。このとき、第1〜第4のコンデンサC1〜C4によって直流分がカットされ、第1のコントロール端子T1に加えられた電圧が第1のダイオードD1および第2のダイオードD2を含む回路にのみ印加されるようにしている。第1のダイオードD1および第2のダイオードD2がONになることによって、送信回路TXからの信号がアンテナANTに送られ、信号がアンテナANTから送信される。なお、送信回路TXの送信信号は、第2のストリップラインSL2が第2のダイオードD2により接地されることにより共振して接続点Aから受信回路RX側をみたインピーダンスが非常に大きくなるため、受信回路RXには伝達されない。
【0005】一方、受信時には、第1のコントロール端子T1に電圧を印加しないことによって、第1のダイオードD1および第2のダイオードD2はOFFとなる。そのため、受信信号は受信回路RXに伝達され、送信回路TX側には伝達されない。このように、第1のコントロール端子T1に印加される電圧をコントロールすることによって、送受信を切り換えることができる。
【0006】図6は図5に示す回路を有する従来の高周波スイッチの一例を示す平面図である。この高周波スイッチ1は基板2を含み、基板2の一方主面には、第1および第2のストリップライン3aおよび3bや多数のランドが形成され、それらのストリップラインやランドに、第1および第2のダイオード4aおよび4bと、第1,第2,第3および第4のチップコンデンサ5a,5b,5cおよび5dと、第1のチップ抵抗6とが接続されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図6に示す従来の高周波スイッチ1では、第1および第2のストリップライン3aおよび3bの長さとして、一般的に送信信号や受信信号の波長の1/4の長さが必要であり、基板2の誘電率にもよるが、数10mm程度必要であり、第1および第2のストリップライン3aおよび3bに関与する部分が、基板2上の大きな面積を占有している。そのため、この高周波スイッチ1では、小型化に問題がある。
【0008】それゆえに、この発明の主たる目的は、小型の高周波スイッチを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明は、送信回路,受信回路およびアンテナに接続され、送信回路とアンテナとの接続および受信回路とアンテナとの接続を切り換えるための高周波スイッチであって、送信回路側にアノードが接続されアンテナ側にカソードが接続される第1のダイオードと、アンテナと受信回路との間に接続されるストリップラインと、受信回路側にアノードが接続されアース側にカソードが接続される第2のダイオードとを含み、ストッリプラインは多層基板に内蔵され、第1のダイオードおよび第2のダイオードは多層基板上に実装された、高周波スイッチである。
【0010】
【作用】ストリップラインが多層基板に内蔵され、第1および第2のダイオードがその多層基板上に実装されるので、平面的に見て、高周波スイッチの面積が減る。
【0011】
【発明の効果】この発明によれば、小型の高周波スイッチが得られる。
【0012】この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【0013】
【実施例】図1はこの発明の一実施例を示す斜視図であり、図2の各図はその実施例の各誘電体層上の電極などを示す平面図であり、図3はその実施例の回路図である。
【0014】この実施例の高周波スイッチは、構造的に特徴を有するが回路自体も特徴を有するので、まず、図3R>3などを参照して、この実施例の高周波スイッチの回路について説明する。この実施例の高周波スイッチは、図5R>5に示す高周波スイッチと比べて、特に、第1のダイオードD1に、インダクタL1および第5のコンデンサC5の直列回路と、第2の抵抗R2とが、それぞれ並列に接続される。さらに、第2のダイオードD2のカソードは、第6のコンデンサC6を介して接地される。また、第2のダイオードD2には、第3の抵抗R3が並列に接続され、第2のダイオードD2のカソードには、第4の抵抗R4を介して、第2のコントロール端子T2が接続される。この第2のコントロール端子T2には、この高周波スイッチの切り換えを行うための別のコントロール回路が接続される。
【0015】図3に示す高周波スイッチを用いて送信を行う場合、第1のコントロール端子T1に電圧が印加される。そして、第2の抵抗R2で降下された電圧は、第1のダイオードD1に順方向のバイアス電圧として印加され、第3の抵抗で降下された電圧は、第2のダイオードD2に順方向のバイアス電圧として印加される。そのため、第1および第2のダイオードD1およびD2は、それぞれON状態になる。したがって、送信回路TXからの送信信号は、アンテナANTから送信されるとともに、第2のストリップラインSL2が第2のダイオードD2により接地されて共振して接続点Aから受信回路RX側をみたインピーダンスが無限大となるため、受信回路RX側には伝達されない。
【0016】なお、図3に示す高周波スイッチでは、送信時において、第1のダイオードD1および第2のダイオードD2がONとなるが、これらのダイオードにはインダクタンス分が存在する。このようなインダクタンス分が存在すると、アンテナANTと第2のストリップラインSL2との接続点Aから受信回路RX側をみたときのインピーダンスが無限大とならない。このようなインダクタンス分による影響を除去するために、第2のダイオードD2のインダクタンス分と第6のコンデンサC6とで、直列共振回路が形成される。したがって、第6のコンデンサC6の容量Cは、第2のダイオードD2のインダクタンス分をLD ,使用周波数をfとすると、次式で表される。
C=1/{(2πf)2 ・LD
【0017】第6のコンデンサC6の容量Cを上式の条件に設定することによって、第2のダイオードD2がON時に、直列共振回路が形成され、アンテナANTと第2のストリップラインSL2との接続点Aから受信回路RX側をみたときのインピーダンスを無限大にできる。したがって、送信回路TXからの信号は受信回路RXに伝達されず、送信回路TXとアンテナANTとの間の挿入損失を小さくすることができる。さらに、アンテナANTと受信回路RXとの間において、良好なアイソレーションを得ることができる。なお、第1のコントロール端子T1に電圧を加えると、電流は第1,第2,第3,第4および第6のコンデンサC1,C2,C3,C4およびC6でカットされて、第1のダイオードD1および第2のダイオードD2を含む回路にのみ流れることになって、他の部分に影響を及ぼさない。
【0018】また、図3に示す高周波スイッチを用いて受信を行う場合、第2のコントロール端子T2に電圧が印加される。この場合、第2の抵抗R2で降下される電圧は、第1のダイオードD1に逆方向のバイアス電圧として印加され、第3の抵抗で降下される電圧は、第2のダイオードD2に逆方向のバイアス電圧として印加される。そのため、第1および第2のダイオードD1および第2のダイオードD2は確実にOFF状態を維持する。したがって、受信した信号は、受信回路RXに伝達される。このとき、ダイオードにはキャパシタンス分が存在するため、受信信号が送信回路TX側に漏れる場合がある。ところが、この高周波スイッチでは、第1のダイオードD1に並列に、インダクタL1が接続されている。このインダクタL1と第1のダイオードD1のキャパシタンス分とで、並列共振回路が形成される。したがって、インダクタL1のインダクタンスLは、第1のダイオードD1のキャパシタンスをCD ,使用周波数をfとすると、次式で表される。
L=1/{(2πf)2 ・CD
【0019】インダクタL1のインダクタンスLを上式の条件に設定することによって、送信回路TXとアンテナANTとの間のアイソレーションを良好にすることができる。したがって、受信信号は送信回路TX側に漏れず、アンテナANTと受信回路RXとの間の挿入損失を小さくすることができる。なお、インダクタL1のかわりに、高インピーダンスの伝送線路を使用しても、同様の効果を得ることができる。
【0020】また、図3に示す高周波スイッチでは、第1および第2のコントロール端子T1およびT2に電圧を加えたときに、インダクタL1を介して電流が流れることを防ぐために、インダクタL1に直列に第5のコンデンサC5が接続されている。この第5のコンデンサC5を接続する場合、そのキャパシタンスに応じて必要により上式が補正されることはいうまでもない。
【0021】このように、図3に示す高周波スイッチでは、送信時および受信時のいずれにも良好な特性を有する。
【0022】次に、図1および図2などを参照して、この実施例の高周波スイッチの構造について説明する。この高周波スイッチ10は、特に図1に示すように、多層基板ないし積層体12を含む。積層体12は、多数の誘電体層などを積層することによって形成される。
【0023】1番上の誘電体層14上には、図2(A)に示すように、各ランドや第6のコンデンサC6の一方のコンデンサ電極16などが形成される。それらのランドやコンデンサ電極16には、第1および第2のダイオード18および20と、第2,第3および第4の抵抗R2,R3およびR4となるチップ抵抗(あるいは印刷抵抗)22,24および26と、第5のコンデンサC5となるチップコンデンサ28とが接続される。
【0024】他の誘電体層14上には、図2(B)に示すように、第2のコンデンサC2の一方のコンデンサ電極30が形成される。
【0025】さらに他の誘電体層14上には、図2(C)に示すように、第1,第3および第4のコンデンサC1,C3およびC4の一方のコンデンサ電極32,34および36が形成される。
【0026】また、別の誘電体層14上には、図2(D)に示すように、第1および第2のストリップライン38および40が形成される。
【0027】さらに別の誘電体層14上には、図2(E)に示すように、第1,第3および第4のコンデンサC1,C3およびC4の他方のコンデンサ電極42,44および46が形成される。
【0028】他の誘電体層14上には、図2(F)に示すように、インダクタL1となるコイル電極48が形成される。
【0029】さらに他の誘電体層14上には、図2(G)に示すように、第2および第6のコンデンサC2およびC6の他方のコンデンサ電極となるアース電極50が形成される。
【0030】さらに、積層体12の4つの側面部には、図1に示すように、12個の外部電極52a,52b,52c,52d,52e,52f,52g,52h,52i,52j,52kおよび52lが形成される。この場合、積層体12には、その幅方向の一側面部に5つの外部電極52a〜52eが形成され、その幅方向の他側面部に5つの外部電極52f〜52jが形成され、その長手方向の一側面部に1つの外部電極52kが形成され、その長手方向の他側面部に1つの外部電極52lが形成される。
【0031】外部電極52aは、コンデンサ電極30と、第1のストリップライン38の一端とに接続される。この外部電極52aは、第1の抵抗R1となる抵抗(図示せず)を介して、コントロール回路に接続される。なお、この第1の抵抗R1となる抵抗は、たとえば1番上の誘電体層14上などに形成されてもよい。外部電極52bは、第1のダイオード18の一端と、チップ抵抗22の一端と、チップコンデンサ28の一端と、コンデンサ電極34と、第2のストリップライン40の一端とに接続される。外部電極52cは、コンデンサ電極44に接続される。この外部電極52cは、アンテナANTに接続される。外部電極52eは、チップ抵抗26の一端に接続される。この外部電極52eは、別のコントロール回路に接続される。外部電極52fは、コンデンサ電極42に接続される。この外部電極52fは、送信回路TXに接続される。外部電極52gは、第1のダイオード18の他端と、チップ抵抗22の他端と、コンデンサ電極32と、第1のストリップライン38の他端と、コイル電極48の一端とに接続される。外部電極52iは、第2のダイオード20の他端と、チップ抵抗24の他端と、コンデンサ電極36と、第2のストリップライン40の他端とに接続される。外部電極52jは、コンデンサ電極46に接続される。この外部電極52jは、受信回路TRに接続される。外部電極52kおよび52lは、アース電極50に接続される。
【0032】なお、コイル電極48の他端は、たとえば誘電体層14にスルーホール(図示せず)などを形成して、コンデンサ28の他端に接続される。
【0033】したがって、図1に示す高周波スイッチ10は、図3に示す回路を有する。
【0034】図1に示す高周波スイッチ10では、第1および第2のストリップライン38および40などが積層体12に内蔵され、第1および第2のダイオード18および20などが積層体12の1番上の誘電体層14上に実装されているので、これらの部品などを1枚の基板上に実装した場合に比べて、平面的に見て、面積が減り小型になる。また、第1および第2のストリップライン38および40を異なる誘電体層に形成したりすることは当然適宜なし得ることである。
【0035】また、図1に示す高周波スイッチ10では、第1および第2のストリップライン38および40に誘電体層を挟んでアース電極50が積層されるため、それらのストリップライン38および40の長さを短く形成することができ、平面的に見て、さらに小型化が可能である。
【0036】なお、図1に示す実施例では図3に示す回路を有するが、この発明は、図3に示す回路に限らず、たとえば、図5に示す回路やストリップラインと第1および第2のダイオードとを有する他の高周波スイッチの回路にも適用され得る。さらに、積層体12表面上に形成されているコンデンサや抵抗を、適宜内部に埋設させるようにすることなど、この発明の趣旨の範囲での設計変更は自由である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す実施例の各誘電体層上の各電極などを示す平面図である。
【図3】図1に示す実施例の回路図である。
【図4】高周波スイッチの働きを示す概念図である。
【図5】この発明の背景となりかつこの発明が適用される高周波スイッチの一例を示す回路図である。
【図6】従来の高周波スイッチの一例を示す平面図である。
【符号の説明】
10 高周波スイッチ
12 積層体
14 誘電体層
16 第1のダイオード
18 第2のダイオード
38 第1のストリップライン
40 第2のストリップライン
TX 送信回路
RX 受信回路
ANT アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 送信回路,受信回路およびアンテナに接続され、前記送信回路と前記アンテナとの接続および前記受信回路と前記アンテナとの接続を切り換えるための高周波スイッチであって、前記送信回路側にアノードが接続され前記アンテナ側にカソードが接続される第1のダイオード、前記アンテナと前記受信回路との間に接続されるストリップライン、および前記受信回路側にアノードが接続されアース側にカソードが接続される第2のダイオードを含み、前記ストッリプラインは多層基板に内蔵され、前記第1のダイオードおよび前記第2のダイオードは前記多層基板上に実装された、高周波スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−197040
【公開日】平成6年(1994)7月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−358137
【出願日】平成4年(1992)12月26日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)