説明

高周波伝送路および高周波回路装置

【課題】薄型で且つ低損失な高周波伝送路およびそれを備えた高周波回路装置を構成する。
【解決手段】コイル直列線路SL1,SL2は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子で構成されている。コイル直列線路SL1,SL2を構成する複数のコイル素子の直列接続順で隣接するコイル素子は磁束の閉ループを構成する。また、コイル直列線路SL1のコイル素子とコイル直列線路SL2のコイル素子とで対をなす二つのコイル素子の巻回軸は一致し、この巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じる。これにより、各コイル素子により生じる磁界が閉じ込められた状態で、高周波信号の伝搬が行われるため、低損失な高周波伝送路が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波信号を伝送する高周波伝送路およびそれを備えた高周波回路装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を伝送させる伝送路としては、ケーブルとして用いられる同軸線路(特許文献1参照)、平面伝送線路として用いられるマイクロストリップ線路やコプレーナ線路(特許文献2参照)、さらには立体導波路として用いられる導波管等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−20935号公報
【特許文献2】特開平1−265705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されているような同軸線路では薄型化が難しく、薄型の電子機器への組み込みが制限される。
特許文献2に示されているようなマイクロストリップ線路は、ある程度薄型化が可能であるが、所定の特性インピーダンスを得るためには、薄型化に伴って信号電極の幅を細くする必要がある。この信号電極の細線化によって導体損失が増大する問題が生じる。したがって、低損失特性を維持しつつ所定の特性インピーダンスを得るには薄型化が制限される。
【0005】
また、コプレーナ線路は接地電極を信号電極の両サイドに設けるため、占有面積が大きい。
さらに、導波管は、その構造上所定の高さ(厚み)寸法が必要であるので、基本的に薄型化できない。
【0006】
本発明は、上述の薄型化および低損失化に関する制約を解決すべき課題とし、これらの課題を解決して、薄型で且つ低損失な高周波伝送路およびそれを備えた高周波回路装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高周波伝送路の基本的な構成は次のとおりである。
巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備え、
前記複数のコイル素子は直列に接続されて、これら複数のコイル素子によってコイル直列線路が構成され、
前記コイル直列線路に高周波信号が流れた際に、前記巻回軸に沿った磁束の向きは、前記複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎または連続する複数のコイル素子毎に逆向きの磁束が生じるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0008】
本発明の高周波回路装置は、前記高周波伝送路を備えた例えば分岐回路や交差線路である。
【発明の効果】
【0009】
互いに隣接するコイル素子で磁束のループが生じて磁束がコイル素子の周辺に集中するため、互いに電流を強め合い、従来の線路に比べ、低損失な伝送が可能となる。
また、磁束分布が広がらないため、従来の分布定数型の線路に比べ、薄型化や高密度な積層化が可能になる。
また、隣接する磁束の向きによって、小型、薄型で閉じ込め性の良い平面伝送路や3次元伝送路を構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は第1の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図1(b)は図1(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図2】図2(a)は第2の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図2(b)は図2(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図3】図3は二つのコイル直列線路について、高周波信号の伝送方向に隣接する二つのコイル素子に生じる磁束の閉ループ、および高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子同士の結合の様子を示す図である。
【図4】図4(a)は第3の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図4(b)は図4(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図5】図5(a)は第4の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図5(b)は図5(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図6】図6(a)は第5の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図6(b)は図6(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図7】図7(a)は第6の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図7(b)は図7(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図8】図8(a)は第7の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図8(b)は図8(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図9】図9(a)は第8の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図9(b)は図9(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。また、図9(c)は図9(a)から主要な磁束の経路と方向を示す矢印のみを抜き出した図である。
【図10】図10(a)は第9の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図10(b)は図10(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図11】図11(a)は第10の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図11(b)は図11(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図12】図12は第10の実施形態の高周波伝送路の回路図の一部を示す図である。
【図13】図13(a)は第11の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図13(b)は図13(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図14】図14は第11の実施形態の高周波伝送路の回路図の一部を示す図である。
【図15】図15(a)、図15(b)は、第12の実施形態の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図16】図16(a)、図16(b)は、第13の実施形態の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図17】図17は第14の実施形態の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図18】図18は第14の実施形態の別の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図19】図19(a)は第15の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図19(b)は図19(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図20】図20は第16の実施形態の高周波伝送路の回路図である。
【図21】図21は第16の実施形態の別の高周波伝送路の回路図である。
【図22】図22(a)は第17の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図22(b)は図22(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【図23】図23は第17の実施形態の高周波伝送路の回路図の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《第1の実施形態》
図1(a)は第1の実施形態の高周波伝送路の回路図である。この図ではコイル巻回軸、巻回方向および各コイル素子の位置関係を考慮して描いている。(コイル巻回軸、巻回方向および各コイル素子の位置関係を考慮して回路図を描く点は第2の実施形態以降についても同様である。)図1(b)は図1(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0012】
図1(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0013】
この高周波伝送路は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備えている。図1(a)中のコイル素子L1i,L1jは複数のコイル素子の一部を指している。また、図1(a)、図1(b)において破線の矢印はポートP1から電流i1が流れたときの各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。
【0014】
図1(a)に示すように、複数のコイル素子は直列に接続されて、ポートP1−P3間にコイル直列線路SLが構成されている。この例では、コイル直列線路SLが主線路であり、ポートP2−P4間に単純な線状導体または平面導体による副線路が設けられている。
【0015】
この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地(基準電位の線路または電極に接続)して不平衡伝送線路として用いられる。
【0016】
コイル直列線路SLに高周波信号が流れた際、各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。そのため、コイル直列線路SLを構成する各コイル素子は、隣接するコイル素子が相互誘導により結合(磁界結合)し、互いの磁界を共有するように磁束の閉ループを構成する。すなわち閉磁路を構成する。
【0017】
図1(b)において、磁束F1iは図1(a)中のコイル素子L1iの巻回軸の内部を通る磁束である。このように、各コイル素子の巻回軸を通る磁束はコイル素子毎についても、その外側近傍を通って磁束の閉ループを形成する。
【0018】
このようにして、各コイル素子により生じる磁界が閉じ込められた状態で、高周波信号の伝搬が行われるため、低損失な高周波伝送路が実現できる。
【0019】
《第2の実施形態》
図2(a)は第2の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図2(b)は図2(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図3は二つのコイル直列線路SL1,SL2について、高周波信号の伝送方向に隣接する二つのコイル素子に生じる磁束の閉ループ、および高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子同士の結合の様子を示す図である。
【0020】
図2(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0021】
この高周波伝送路は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備えている。図2(a)中のコイル素子L1i,L1j,L2i,L2jは複数のコイル素子の一部を指している。また、図2(a)、図2(b)において破線の矢印は、ポートP1からポートP3へ電流i1が流れ、ポートP2からポートP4へ電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。
【0022】
前記複数のコイル素子のうち、ポートP1−P3間に直列に接続された複数のコイル素子で第1のコイル直列線路SL1が構成されている。このポートP1−P3間に設けられている第1のコイル直列線路SL1は図1(a)のポートP1−P3間に接続したコイル直列線路SLと同じである。
【0023】
また、前記複数のコイル素子のうち、ポートP2−P4間に直列に接続された複数のコイル素子で第2のコイル直列線路SL2が構成されている。
【0024】
この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地して不平衡伝送線路として用いられる。
【0025】
前記第1のコイル直列線路SL1に高周波信号が流れた際、第1のコイル直列線路SL1を構成する各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、第1のコイル直列線路SL1を構成する複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0026】
同様に、前記第2のコイル直列線路SL2に高周波信号が流れた際、第2のコイル直列線路SL2を構成する各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、第2のコイル直列線路SL2を構成する複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0027】
そのため、第1のコイル直列線路SL1を構成する各コイル素子は、隣接するコイル素子が相互誘導により結合(磁界結合)し、互いの磁界を共有するように磁束の閉ループを構成する。同様に、第2のコイル直列線路SL2を構成する各コイル素子は、隣接するコイル素子が相互誘導により結合(磁界結合)し、互いの磁界を共有するように磁束の閉ループを構成する。
【0028】
第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL2は互いに平行に配置され、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子でそれぞれコイル素子対が構成されている。そして、コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は一致し、第1のコイル直列線路SL1および第2のコイル直列線路SL2に高周波信号が流れた際に、コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められている。そのため、各コイル素子の内外を通る磁束は図2(a)の破線に示すような向きとなり、第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL2との間に等価的な磁気障壁MWが生じる。
【0029】
図2(b)において、磁束F1iは図2(a)中のコイル素子L1iの巻回軸の内部を通る磁束、磁束F2iは図2(a)中のコイル素子L2iの巻回軸の内部を通る磁束である。このように、各コイル素子の巻回軸を通る磁束はコイル素子毎についても、その外側近傍を通って磁束の閉ループを形成する。
【0030】
図3に示すように、矢印a方向に電流が供給されたとき、コイル素子L1iに矢印b方向に電流が流れるとともに、コイル素子L1jには矢印c方向に電流が流れる。そして、これらの電流により、図中矢印Aで示されるように、磁束の閉ループが形成される。
【0031】
コイル素子L1iを構成するコイルパターンとコイル素子L2iを構成するコイルパターンは互いに並走しているので、コイル素子L1iに電流bが流れて生じる磁界がコイル素子L2iに結合して、コイル素子L2iに誘導電流gが逆方向に流れる。同様に、コイル素子L1jを構成するコイルパターンとコイル素子L2jを構成するコイルパターンは互いに並走しているので、コイル素子L1jに電流cが流れて生じる磁界がコイル素子L2jに結合して、コイル素子L2jに誘導電流fが逆方向に流れる。そして、これらの電流により、図中矢印Bで示されるように、磁束の閉ループが形成される。
【0032】
コイル素子L1i,L1jによる磁束の閉ループAと、コイル素子L2i,L2jによる磁束の閉ループBとは反発する方向であるので、第1のコイル直列線路SL1側のコイル素子L1i,L1jと第2のコイル直列線路SL2側のコイル素子L2i,L2jとの間には等価的な磁気障壁MWが生じることになる。
【0033】
また、コイル素子L1iとコイル素子L2iとは電界によっても結合されている。同様に、コイル素子L1jとコイル素子L2jとは電界によっても結合されている。したがって、コイル素子L1iおよびコイル素子L1jに高周波電流が流れるとき、コイル素子L2iおよびコイル素子L2jには電界結合により電流が励起される。図3中のキャパシタCa,Cbは前記電界結合のための結合容量を表象的に表した記号である。
【0034】
コイル素子L1i,L1jに高周波電流が流れるとき、前記磁界を介した結合によりコイル素子L2i,L2jに流れる電流の向きと、前記電界を介した結合によりコイル素子L2i,L2jに流れる電流の向きとは同じである。したがって、コイル素子L1i,L1jとコイル素子L2i,L2jとは磁界と電界の両方で強く結合することになる。
【0035】
第2の実施形態によれば、二つのコイル直列線路SL1,SL2間においては、第1の実施形態よりもさらに強い磁界閉じ込めの効果が得られる。これにより、二つのコイル直列線路SL1,SL2間の距離を小さくしても低損失な高周波信号の伝送が可能になる。
【0036】
《第3の実施形態》
図4(a)は第3の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図4(b)は図4(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0037】
図4(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0038】
この高周波伝送路は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備えている。図4(a)中のコイル素子L1i,L1j,L2i,L2jは複数のコイル素子の一部を指している。また、図4(a)、図4(b)において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。
【0039】
前記複数のコイル素子のうち、ポートP1−P3間に直列に接続された複数のコイル素子で第1のコイル直列線路SL1が構成されている。また、前記複数のコイル素子のうち、ポートP2−P4間に直列に接続された複数のコイル素子で第2のコイル直列線路SL2が構成されている。
【0040】
この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地して不平衡伝送線路として用いられる。
【0041】
第1のコイル直列線路SL1および第2のコイル直列線路SL2に高周波信号が流れた際、各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。そのため、各コイル素子は、高周波信号の伝送方向に隣接するコイル素子が相互誘導により結合(磁界結合)し、互いの磁界を共有するように磁束の閉ループを構成する。
【0042】
第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL2は互いに平行に配置され、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子でそれぞれコイル素子対が構成されている。そして、コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は平行に離間し、第1のコイル直列線路SL1および第2のコイル直列線路SL2に高周波信号が流れた際に、コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って同じ向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められている。そのため、各コイル素子の内外を通る磁束は図4(a)の破線に示すような向きとなり、第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL2との間に磁気障壁MWが生じる。
【0043】
図4(b)において、磁束F1iは図4(a)中のコイル素子L1iの巻回軸の内部を通る磁束、磁束F2iは図4(a)中のコイル素子L2iの巻回軸の内部を通る磁束である。このように、各コイル素子の巻回軸を通る磁束はコイル素子毎についても、その外側近傍を通って磁束の閉ループを形成する。
【0044】
この第3の実施形態の場合も、隣接する二つのコイル直列線路SL1,SL2間に磁気障壁が生じ、磁界閉じ込めの効果が生じるため、線路間の距離を小さくしても低損失な高周波信号の伝送が可能になる。
【0045】
《第4の実施形態》
図5(a)は第4の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図5(b)は図5(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0046】
図5(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0047】
この高周波伝送路は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備えている。図5(a)中のコイル素子L1i,L1j,L21i,L21j,L22i,L22jは複数のコイル素子の一部を指している。また、図5(a)、図5(b)において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。
【0048】
この高周波伝送路は三つのコイル直列線路SL1,SL21,SL22を備えている。この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地して、もしくはP1,P3を接地して不平衡伝送線路として用いられる。
【0049】
第1のコイル直列線路SL1の構成は図2(a)に示した第1のコイル直列線路SL1と同じである。
【0050】
第2のコイル直列線路SL21は、この第2のコイル直列線路SL21に高周波信号が流れた際、第2のコイル直列線路SL21を構成する各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、第2のコイル直列線路SL21を構成する複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0051】
また、第3のコイル直列線路SL22は、この第3のコイル直列線路SL22に高周波信号が流れた際、第3のコイル直列線路SL22を構成する各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、第3のコイル直列線路SL22を構成する複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0052】
そのため、第1のコイル直列線路SL1、第2のコイル直列線路SL21、および第3のコイル直列線路SL22を構成する各コイル素子のそれぞれは、高周波信号の伝送方向に隣接するコイル素子が相互誘導により結合(磁界結合)し、互いの磁界を共有するように磁束の閉ループを構成する。
【0053】
第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL21は互いに平行に配置され、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子でそれぞれコイル素子対が構成されている。そして、コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は一致し、第1のコイル直列線路SL1および第2のコイル直列線路SL21に高周波信号が流れた際に、コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められている。
【0054】
同様に、第1のコイル直列線路SL1と第3のコイル直列線路SL22は互いに平行に配置され、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子でそれぞれコイル素子対が構成されている。そして、コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は一致し、第1のコイル直列線路SL1および第3のコイル直列線路SL22に高周波信号が流れた際に、コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められている。
【0055】
そのため、各コイル素子の内外を通る磁束は図5(a)の破線に示すような向きとなり、第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL21との間に磁気障壁MW1が生じ、第1のコイル直列線路SL1と第3のコイル直列線路SL22との間に磁気障壁MW2が生じる。
【0056】
図5(b)において、磁束F1iは図5(a)中のコイル素子L1iの巻回軸の内部を通る磁束、磁束F21iは図5(a)中のコイル素子L21iの巻回軸の内部を通る磁束、磁束F22iは図5(a)中のコイル素子L22iの巻回軸の内部を通る磁束である。このように、各コイル素子の巻回軸を通る磁束はコイル素子毎についても、その外側近傍を通って磁束の閉ループを形成する。
【0057】
この第4の実施形態によれば、中央(中層)の第1のコイル直列線路SL1を第2のコイル直列線路SL21および第3のコイル直列線路SL22で挟み込むことによって、第1のコイル直列線路SL1の上下に磁気障壁MW1,MW2が生じる。そのため、高周波信号電流が流れることにより生じる磁界ループを閉じ込める効果は第2の実施形態の高周波伝送路よりさらに増大する。したがって、第1のコイル直列線路SL1と第2のコイル直列線路SL21との間隔、第1のコイル直列線路SL1と第3のコイル直列線路SL22との間隔をそれぞれ小さくしても、より低損失な高周波信号の伝送が可能になる。
【0058】
《第5の実施形態》
図6(a)は第5の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図6(b)は図6(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0059】
図6(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0060】
この高周波伝送路は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備えている。図6(a)中のコイル素子L11i,L11j,L12i,L12j,L21i,L21j,L22i,L22jは複数のコイル素子の一部を指している。また、図6(a)、図6(b)において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。
【0061】
この高周波伝送路は三つのコイル直列線路SL1,SL21,SL22を備えている。この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地して、もしくはP1,P3を接地して不平衡伝送線路として用いられる。
【0062】
図5に示した高周波伝送路とは第1のコイル直列線路SL1の構成が異なる。図6に示す例では、第1のコイル直列線路SL1は、共通のコイル巻回軸に配置された2つのコイル素子((L11i,L12i)または(L11j,L12j)等)で対を構成し、高周波信号の伝送方向に隣接する二つのコイル素子対が並列接続されている。そして、共通のコイル巻回軸に同方向の磁束が生じるように、対をなす二つのコイル素子の巻回方向が定められている。また、各コイル素子対の巻回軸に沿った磁束の向きが、高周波信号の伝送方向に隣接するコイル素子対毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0063】
なお、図6(b)において、磁束F1iはコイル素子L11i,L12iの巻回軸を通る磁束である。
【0064】
第5の実施形態によれば、各コイル素子に流れる電流は各巻回軸の中央に対して上下対称の関係であるので、ポートP1〜P4に対してバランス良く寄生容量や寄生インダクタンスが付くことになり、これらの寄生成分による影響が効果的に打ち消される。
【0065】
《第6の実施形態》
図7(a)は第6の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図7(b)は図7(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0066】
図7(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0067】
この高周波伝送路は巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備えている。図7(a)中のコイル素子L11i,L11j,L12i,L12j,L21i,L21j,L22i,L22jは複数のコイル素子の一部を指している。また、図7(a)、図7(b)において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。図7(b)において、磁束F11i,F12i,F21i,F22iは図7(a)中のコイル素子L11i,L12i,L21i,L22iのそれぞれの巻回軸の内部を通る磁束である。
【0068】
この高周波伝送路は四つのコイル直列線路SL11,SL12,SL21,SL22を備えている。この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地して、もしくはP1,P3を接地して不平衡伝送線路として用いられる。
【0069】
図5に示した高周波伝送路とは、ポートP1−P3間に二つのコイル直列線路SL11,SL12を設けた点で異なる。図7に示す例では、コイル直列線路SL11をコイル直列線路SL21,SL22で挟み、且つコイル直列線路SL22をコイル直列線路SL11,SL12で挟むように四つのコイル直列線路SL11,SL12,SL21,SL22を配置している。
【0070】
各コイル直列線路に高周波信号が流れた際、コイル直列線路を構成する各コイル素子の巻回軸に沿った磁束の向きが、コイル直列線路を構成する複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0071】
また、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接する二つのコイル直列線路の各コイル素子でそれぞれコイル素子対が構成されている。そして、コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は一致し、上記二つのコイル直列線路に高周波信号が流れた際に、コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められている。
【0072】
このように「行き」と「帰り」の線路をそれぞれ複数のコイル直列線路で構成し、「行き」用のコイル直列線路と「帰り」用のコイル直列線路が互いに挟み合うことにより、高い磁界の閉じ込め効果が得られる。
【0073】
《第7の実施形態》
図8(a)は第7の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図8(b)は図8(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0074】
図7に示した高周波伝送路とは、四つのコイル直列線路SL11,SL12,SL21,SL22の配置が異なる。図8に示す例では、コイル直列線路SL11,SL12を隣接させ、コイル直列線路SL11,SL12をコイル直列線路SL21,SL22で挟むように、四つのコイル直列線路SL11,SL12,SL21,SL22を配置している。その他は第6の実施形態と同じである。
【0075】
《第8の実施形態》
図9(a)は第8の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図9(b)は図9(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。また、図9(c)は図9(a)から主要な磁束の経路と方向を示す矢印のみを抜き出した図である。
【0076】
図9(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。図9(a)中のコイル素子L11i,L11j,L12i,L12j,L2i,L2jは複数のコイル素子の一部を指している。図9(a)、図9(b)において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。図9(b)において、磁束F11i,F2i,F12iは図9(a)中のコイル素子L11i,L2i,L12iのそれぞれの巻回軸の内部を通る磁束である。
【0077】
この高周波伝送路は三つのコイル直列線路SL11,SL12,SL2を備えている。この高周波伝送路は、ポートP1−P2間に平衡信号を入出力し、ポートP3−P4間に平衡信号を入出力することにより、平衡伝送線路として用いられる。または、P2,P4を接地して、もしくはP1,P3を接地して不平衡伝送線路として用いられる。
【0078】
この第8の実施形態の場合も、隣接する二つのコイル直列線路SL2,SL11間およびSL2,SL12間にそれぞれ磁気障壁が生じ、磁界閉じ込めの効果が生じる。
【0079】
《第9の実施形態》
図10(a)は第9の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図10(b)は図10(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるために、図10(a)においてもコイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。ここで破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束である。
【0080】
図10(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。図10(a)、図10(b)中の磁束F11i,F2i,F12i,F11j,F2j,F12jは各コイル素子の巻回軸の内部を通る磁束である。
【0081】
このように、高周波信号の伝送方向に対して直交する方向に隣接するコイル素子は共通の巻回軸を備えていなくて、各巻回軸が平行になるように各コイル素子が配置されていても、隣接する二つのコイル直列線路間にそれぞれ磁気障壁が生じ、磁界閉じ込めの効果が生じる。
【0082】
《第10の実施形態》
図11(a)は第10の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図11(b)は図11(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるために、図11(a)においてもコイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。ここで破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束である。図12はこの高周波伝送路の回路図の一部を示す図である。この第10の実施形態では、複数のコイル素子を互いに直交する三軸方向に配列しているが、図12では図11(a)における最も手前側の縦の面について表している。
【0083】
図11(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。
【0084】
図11(a)、図11(b)中の磁束F11i,F211i,F221i,F12i,F212i,F222i,F11j,F211j,F221j,F12j,F212j,F222jは各コイル素子の巻回軸の内部を通る磁束である。これらの磁束のうち、F11i,F211i,F221i,F11j,F211j,F221jは図12に表れているコイル素子L11i,L211i,L221i,L11j,L211j,L221jの巻回軸を通る磁束である。
【0085】
このように、高周波信号の伝送方向に対して直交する面において、共通のコイル巻回軸方向とコイル巻回軸に対する直交方向に各コイル素子を配列してもよい。この構成により、共通のコイル巻回軸方向に隣接する二つのコイル直列線路間に磁気障壁が生じ、また、コイル巻回軸に対する直交方向に隣接する二つのコイル直列線路間にも磁気障壁が生じるので、非常に高い磁界閉じ込め性が得られる。
【0086】
《第11の実施形態》
図13(a)は第11の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図13(b)は図13(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるために、図13(a)においてもコイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。図14はこの高周波伝送路の回路図の一部を示す図である。この第11の実施形態では、複数のコイル素子を互いに直交する三軸方向に配列しているが、図14では図13(a)における最も手前側の縦の面について表している。
【0087】
図13(a)において左端のポートA1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3が一方の信号入出力ポート。右端のポートA1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3が他方の信号入出力ポートである。但し、これらのポートと個別に使用するのではなく、共通接続して用いる。共通接続する組み合わせの一例としては次のとおりである。
【0088】
[1]P1(A1,A3,C1,C3)
P2(A2,B1,B2,B3,C2)
P3(A1,A3,C1,C3)
P4(A2,B1,B2,B3,C2)
[2]P1(A1,A3,B2,C1,C3)
P2(A2,B1,B3,C2)
P3(A1,A3,B2,C1,C3)
P4(A2,B1,B3,C2)
[3]P1(A1,A2,A3,C1,C2,C3)
P2(B1,B2,B3)
P3(A1,A2,A3,C1,C2,C3)
P4(B1,B2,B3)
[4]P1(A1,B1,C1,A3,B3,C3)
P2(A2,B2,C2)
P3(A1,B1,C1,A3,B3,C3)
P4(A2,B2,C2)
[5]P1(A1,A2,A3,B1,B3,C1,C2,C3)
P2(B2)
P3(A1,A2,A3,B1,B3,C1,C2,C3)
P4(B2)
例えば上記組み合わせ[1]であれば、左端のポートについて、ポートA1,A3,C1,C3を共通接続してポートP1とし、ポートA2,B1,B2,B3,C2を共通接続してポートP2とする。そして、右端のポートについて、ポートA1,A3,C1,C3を共通接続してポートP3とし、ポートA2,B1,B2,B3,C2を共通接続してポートP4とする。また、例えば組み合わせ[5]であれば、左端のポートについて、ポートA1,A2,A3,B1,B3,C1,C2,C3を共通接続してポートP1とし、ポートB2を共通接続してポートP2とする。そして、右端のポートについて、ポートA1,A2,A3,B1,B3,C1,C2,C3を共通接続してポートP3とし、ポートB2を共通接続してポートP4とする。
【0089】
《第12の実施形態》
図15(a)、図15(b)は、第12の実施形態の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるため、コイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。
【0090】
図15(a)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に4個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。また、図15(b)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に3個、縦方向に4個のコイル素子が配置されている。いずれも横方向と縦方向に隣接するコイル素子の間に磁気障壁が生じるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0091】
このように、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向と縦方向のコイル素子の数を増すことによって、コイル直列線路の本数を増してもよい。
【0092】
《第13の実施形態》
図16(a)、図16(b)は、第13の実施形態の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるため、コイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。
【0093】
図16(a)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に4個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。また、図16(b)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に6個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。
【0094】
これまでに示した実施形態と異なり、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に隣接する二つのコイル素子で磁束の閉ループ(閉磁路)が構成されるように、前記横方向に隣接する二つのコイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での縦方向に隣接する二つのコイル素子の関係については、これまでに示した各実施形態の場合と同様に、巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められている。
【0095】
特に、隣接するコイル直列線路を並列接続する場合に、その隣接するコイル直列線路の各コイル素子で閉磁路を構成するようにすれば、より強く磁束が集中して、磁界の閉じ込め性が高まる。
【0096】
《第14の実施形態》
図17、図18は、第14の実施形態の高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるため、コイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。
【0097】
図17(a)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に4個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。また、図17(b)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に5個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。図17(c)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に6個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。図17(d)の例では、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に5個、縦方向に3個のコイル素子が配置されている。
【0098】
図18(a)、図18(b)の例では、高周波伝送路の上層に4つのコイル直列線路、中層に4つのコイル直列線路、下層に6つのコイル直列線路が配置されている。図18(c)の例では、高周波伝送路の上層に5つのコイル直列線路、中層に4つのコイル直列線路、下層に4つのコイル直列線路が配置されている。図18(d)の例では、高周波伝送路の上層に5つのコイル直列線路、中層に5つのコイル直列線路、下層に6つのコイル直列線路が配置されている。
【0099】
これらの例も、高周波伝送路の高周波信号伝送方向に対して直交する断面での横方向に隣接するコイル素子で閉磁路を構成する部分と、隣接するコイル対毎に単独で閉磁路を構成する部分とを組み合わせた例である。図17の例と異なるのは、横方向に隣接するコイル素子が直近に隣接している場合だけでなく、離れて隣接する二つのコイル素子で磁束の閉ループ(閉磁路)が構成されるように、この二つのコイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。
【0100】
《第15の実施形態》
図19(a)は第15の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図19(b)は図19(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。
【0101】
図19(a)においてポートP1,P2が一方の信号入出力ポート。ポートP3,P4が他方の信号入出力ポートである。図19(a)中のコイル素子コイル素子L1i,L1k,L21i,L21j,L21k,L22i,L22j,L22kは複数のコイル素子の一部を指している。図19(a)、図19(b)において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。図19(b)において、磁束F21i,F1i,F22iは図19(a)中のコイル素子L21i,L1i,L22iのそれぞれの巻回軸の内部を通る磁束である。
【0102】
この例では、中層のコイル直列線路SL1の各コイル素子は、隣接するコイル素子で閉磁路を構成しない。そのため、中層のコイル直列線路SL1だけでは、磁界閉じ込め効果は小さい。しかし、この図19に示すように、上層のコイル直列線路SL21および下層のコイル直列線路SL22の各コイル素子の巻回軸と中層のコイル直列線路SL1の各コイル素子の巻回軸とが共通の巻回軸を構成し、逆向きの磁束を生じるコイル対で中層のコイル直列線路SL1のコイル素子をそれぞれ挟み込むことで、磁界の高い閉じ込め性が得られる。
【0103】
《第16の実施形態》
図20は第16の実施形態の高周波伝送路の回路図である。また、図21は第16の実施形態の別の高周波伝送路の回路図である。
【0104】
図20、図21において破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束の向きを表している。
【0105】
これらの高周波伝送路は、ポートP1−P3間に第1のコイル直列線路SL1が構成され、ポートP2−P4間に第2のコイル直列線路SL2が構成されている。
【0106】
図20の例では、第1のコイル直列線路SL1の各コイル素子は、高周波信号の伝送方向に隣接する二つのコイル素子の組(図中CSで示す組)が、それらの巻回軸を通る磁束の向きが同一となり、且つこのコイル素子の組単位で見たとき、隣接するコイル素子の組CSの各コイル素子の巻回軸を通る磁束の向きが交互に逆になっている。すなわち、このような磁束の向きになるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められている。第2のコイル直列線路SL2についても同様である。
【0107】
また、図21の例では、第1のコイル直列線路SL1の各コイル素子は、高周波信号の伝送方向に隣接する三つのコイル素子を組(図中CSで示す組)としている。第2のコイル直列線路SL2についても同様である。
【0108】
このように、必ずしも高周波信号の伝送方向に隣接する二つのコイル素子毎に巻回軸を通る磁束の向きが反転していなくても、コイル直列線路に高周波信号が流れた際に、巻回軸に沿った磁束の向きが、複数のコイル素子の直列接続順で連続する複数のコイル素子毎に逆向きとなるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められていてもよい。すなわち、高周波信号の伝送方向に隣接するコイル素子毎に(複数のコイル素子による組単位で)、巻回軸を通る磁束の向きが交互に反転していてもよい。
【0109】
《第17の実施形態》
図22(a)は第17の実施形態の高周波伝送路の回路図である。図22(b)は図22(a)における高周波信号の伝送方向に対して直交する断面での磁束の向きを示す図である。図面の煩雑化を避けるために、図22(a)においてもコイル素子は図示せず、主要な磁束の経路と方向についてのみ表している。ここで破線の矢印は、ポートP1から電流i1が流れ、ポートP2から電流i2が流れたときの、各コイル素子の内外に生じる磁束である。図23はこの高周波伝送路の回路図の一部を示す図である。この第17の実施形態では、複数のコイル素子を互いに直交する三軸方向に配列しているが、図23では図22(a)における最も手前側の縦の面について表している。
【0110】
この高周波伝送路は、複数のコイル直列線路が各層に配列され、層内で隣接するコイル直列線路間のコイル素子が相互に閉磁路が構成されている。そしてこの層を3層構造に積み重ねたものである。但し、各層間で対向するコイル素子同士は磁束の向きが逆である。
【0111】
図22(b)のように、高周波信号は各層内で面的に拡がった状態で伝送される。そして、各層間のコイル素子同士は磁束の向きが逆であるので、層間で磁界が閉じ込められて、薄い層で低損失に信号伝搬が可能である。すなわち、磁界の閉じ込め性がよく、低損失で薄型化した平面状の高周波伝送路を実現できる。
【0112】
《第18の実施形態》
以上に示した各実施形態の高周波伝送路の基本構造を備えて、高周波信号の伝送とともに所定の機能をもたせた高周波回路装置を構成してもよい。例えば、隣接するコイル同士の磁界の向きを個々に定めることで、3次元空間内に閉じ込め性の良い立体導波路を構成する。これにより、薄型でアイソレーション特性の良い分岐回路や交差線路(クロスケーブル)等が実現できる。
【0113】
以上の各本実施形態では、複数本のコイル直列線路を並行して配置するとともに、各コイル直列線路に同方向の高周波信号が流れたときに、互いに隣り合うコイル直列線路間に磁気障壁を形成するように各コイル直列線路のコイルが配置されている状態を示した。コイル直列線路に対して差動で動作するような各コイル直列線路の基準電位となるグランドもしくはツイストペア線については、本実施の形態の中では説明や図示をしていない。
【0114】
なお、複数のコイル素子の巻回軸は高周波信号の伝送方向に対して厳密に直交している必要はなく、前述の発明の効果が得られる程度に直交していればよい。この「直交」は実質的に直交である状態を含む概念である。また、複数のコイル直列線路は互いに厳密に平行に配置されている必要はなく、前述の発明の効果が得られる程度に平行に配置されていればよい。この「平行」は実質的に平行である状態を含む概念である。
【符号の説明】
【0115】
A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3…ポート
L1i,L1j,L2i,L2j,L1k…コイル素子
L11i,L11j,L12i,L12j,L21i,L21j,L21k,L22i,L22j,L22k…コイル素子
L211i,L221i,L211j,L221j…コイル素子
MW…磁気障壁
MW1,MW2…磁気障壁
P1,P2…ポート
P3,P4…ポート
SL…コイル直列線路
SL1,SL2…コイル直列線路
SL11,SL12,SL21,SL22…コイル直列線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備え、
前記複数のコイル素子は直列に接続されて、これら複数のコイル素子によってコイル直列線路が構成され、
前記コイル直列線路に高周波信号が流れた際に、前記巻回軸に沿った磁束の向きは、前記複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎または連続する複数のコイル素子毎に逆向きの磁束が生じるように、各コイル素子の巻回方向および接続の向きが定められたことを特徴とする高周波伝送路。
【請求項2】
前記コイル直列線路を複数備え、
前記複数のコイル直列線路は互いに平行に配置され、
前記複数のコイル直列線路のうちの互いに隣接する二つのコイル直列線路の、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子でそれぞれコイル素子対が構成され、
前記コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は一致し、
前記二つのコイル直列線路に高周波信号が流れた際に、前記コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って互いに逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められた、請求項1に記載の高周波伝送路。
【請求項3】
前記コイル直列線路を複数備え、
前記複数のコイル直列線路は互いに平行に配置され、
前記複数のコイル直列線路のうちの互いに隣接する二つのコイル直列線路の、高周波信号の伝送方向に対する直交方向に隣接するコイル素子でそれぞれコイル素子対が構成され、
前記コイル素子対を構成する二つのコイル素子の巻回軸は平行に離間し、
前記二つのコイル直列線路に高周波信号が流れた際に、前記コイル素子対を構成する二つのコイル素子に、巻回軸に沿って同じ向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められた、請求項1に記載の高周波伝送路。
【請求項4】
前記複数のコイル直列線路のコイル素子は、高周波信号の伝送方向およびこの伝送方向に対する直交方向に拡がる平面上に分布するように配置された、請求項2または3に記載の高周波伝送路。
【請求項5】
前記複数のコイル直列線路のコイル素子は、高周波信号の伝送方向およびこの伝送方向に対する直交方向に拡がる3次元上に分布するように配置された、請求項2または3に記載の高周波伝送路。
【請求項6】
前記複数のコイル直列線路の両端は入出力端であり、
前記複数のコイル直列線路はそれらの入出力端で並列接続された、請求項2〜5のいずれかに記載の高周波伝送路。
【請求項7】
前記コイル直列線路の第1端は第1ポート、第2端は第3ポートであり、
第2ポートと第4ポートとの間に信号経路を備え、
前記第1ポートおよび前記第2ポートを第1の入出力部、前記第3ポートおよび前記第4ポートを第2の入出力部とする、請求項1に記載の高周波伝送路。
【請求項8】
前記複数のコイル直列線路のうち、第1のコイル直列線路の第1端は第1ポート、第2端は第3ポートであり、第2のコイル直列線路の第1端は第2ポート、第2端は第4ポートであり、
前記第1ポートおよび前記第2ポートを第1の入出力部、前記第3ポートおよび前記第4ポートを第2の入出力部とする、請求項2〜6のいずれかに記載の高周波伝送路。
【請求項9】
前記第1ポート、前記第2ポート、前記第3ポートおよび前記第4ポートを基準電位から分離した、請求項7または8に記載の高周波伝送路。
【請求項10】
前記第2ポートおよび前記第4ポートを基準電位に接続した、請求項7または8に記載の高周波伝送路。
【請求項11】
高周波伝送路を備えた高周波回路装置において、
前記高周波伝送路は、
巻回軸が高周波信号の伝送方向に対して直交する複数のコイル素子を備え、
前記複数のコイル素子は直列に接続されて、これら複数のコイル素子によってコイル直列線路が構成され、
前記コイル直列線路に高周波信号が流れた際に、コイルの巻回軸に沿った磁束の向きは、前記複数のコイル素子の直列接続順で一つのコイル素子毎または連続する複数のコイル素子毎に逆向きの磁束が生じるように、各コイルの巻回方向および接続の向きが定められたことを特徴とする高周波回路装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2012−257094(P2012−257094A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129233(P2011−129233)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)