説明

高周波超軽量水冷式溶接用トランスとその出力コイル

【課題】入力コイルと出力コイルとの間の結合係数を十分に大きくし、部材を少なくし、加工を容易にし、材料の無駄を省き、冷却水路を出力コイルに半田付け等で容易に付設一体化させることができるようにして、製作を簡単にし、歩留をよくすることができるようにし、もって、溶接用トランスとしての性能の向上及び超小型化軽量化を実現できるようにし、高周波インバータに最良の状態で適合させることができるようにした。
【解決手段】コア1に装着した筒状の入力コイル2の外周に、該外周全域に対応させて導電板3を筒状に屈曲して形成した出力コイル4を、一重の帯巻き状に装着し、該出力コイル4の導電板外面に冷却水路5を一体的に付設し、該冷却水路の流路口6,7を出力コイル4外に突出させて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットのスポット溶接機に使用する高周波超軽量水冷式溶接用トランスと該トランスにおける出力コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車工場の生産ラインで多用されている溶接ロボットは、ロボットアームにスポット溶接機(抵抗溶接)を備えているが、このスポット溶接機の溶接用トランスは、溶接ロボットにおける機動性、経済性等の観点から軽量化が図られており、主として高周波方式にすることでコアを小さくし、水冷方式にすることで出力コイルを小さくしている。つまり、コアは、断面積が高周波交流の周波数と反比例の関係にあるので周波数を高くすればその大きさを縮減させることができ、また、出力コイルは、溶接の瞬間に大電流が流れて内部抵抗により高温に温度上昇するが出力コイルの導体内部に冷却水路を形成して強制冷却すれば導体断面積を縮小させることができて、軽量化が可能になるからである。なお、出力コイルは、通常、半波整流方式のもので1ターン、全波整流方式のもので各1ターン一対の都合2ターンとなっており、鍔状に形成されて、入力コイルと軸方向に積層されている。
【0003】
ところで、上述の高周波水冷式溶接用トランスに関連して下記特許文献1の発明が開示されている。この特許文献1の発明は、上記高周波水冷式溶接用トランスでは出力コイルの導体内部に冷却水路を有していることから出力コイルの導体が太くなって漏れ磁束によるリアクタンス降下が増大し、かつ、上記高周波自体とスイッチングによる高調波で表皮効果を生じて出力コイルの交流抵抗が増大するので、これらの問題点を解決するために開発されたものであり、内部に貫通する冷却水路を形成した各1ターン一対の鍔状出力コイルを、同様に冷却水路を有する細い複数対の鍔状出力コイル片に分割して電気的に並列接続するとともに、各鍔状出力コイル片を電気的に直列接続された複数の鍔状入力コイル片から成る入力コイルで挟着することにより、上記問題点を解決している。
【特許文献1】特開平5−82358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、屈曲した鍔状出力コイルの導体の内部に冷却水路を均一に貫通させて形成することは極めて困難であり、ましてや同様に冷却水路を有する細い複数対の鍔状出力コイル片にするとなれば一層困難を伴う。また、実際上、そのような構成では、構造が著しく複雑になって部品点数が増え、容易には製作できず、コストが増大する上、より小型化軽量化することは困難である。更に、入力コイルと出力コイルとの間の結合係数を十分に大きくできず、漏れ磁束によるリアクタンス降下を十分に低減させることができない。
【0005】
一方、出力コイル自体を導電性パイプで形成して冷却水路と兼用することも考えられるが、このような構成では、この出力コイルと入力コイルとの間の結合係数が甚だ低くなり、出力コイルに必要とされる導体断面積を確保できないため、高周波水冷式溶接用トランスとしては不適当である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、本発明の高周波超軽量水冷式溶接用トランスは、コアに装着した筒状の入力コイルの外周に、該外周全域に対応させて導電板を筒状に屈曲して形成した出力コイルを、一重の帯巻き状に装着し、該出力コイルの導電板外面に冷却水路を一体的に付設し、該冷却水路の流路口を出力コイル外に突出させて成るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、筒状の入力コイルの外周全域に対応させて導電板を筒状に屈曲して形成した出力コイルを、その入力コイルの外周全域に対し一重の帯巻き状に装着しているので、入力コイルと出力コイルとの間の結合係数を十分に大きくすることができて漏れ磁束を極力低く抑えることができると同時に、入力コイルと出力コイルとの間に分布する静電容量を高めることができてこの高い静電容量が等価的にインダクタンスと直列回路を形成することとなるから、リアクタンス降下を十分低減させることができ、しかも、出力コイルの表皮効果を抑えることができて該出力コイルに生じる交流抵抗を十分低減でき、更に、出力コイルの冷却水路はその導電板外面に付設して流路口を出力コイルから外に突出させればよいので、コイル全体の小型化軽量化を増進させることができ、これに伴いコアの小型化軽量化も増進させることができ、したがって、溶接用トランスの性能の向上及び超小型化軽量化を実現でき、高周波インバータに最良の状態で適合させることができる。また、構造を簡潔にでき、部材を少なくでき、各部材の加工及び組立てを容易にすることができ、材料の無駄を省くことができ、冷却水路を銅管等で簡単に形成することができ、該冷却水路を導電板外面へと半田付け等の簡易な接合手段で容易に付設一体化させることができ、歩留をよくすることもでき、したがって、コストを大幅に低減でき、良い製品を安価に提供できる。
【0008】
その上、そのような構成であるから、出力コイルを、下記の発明を実施するための最良の形態の欄に示す構造にすることができて、全波整流方式のものであっても合理的に無駄なく簡潔にかつ極めて容易に低コストで製造でき、下記センタータップのボルト・ナットをターミナルとして兼用することができる。
【0009】
加えて、上記構成であるから、必要であれば冷却水路の外側に簡単に放熱板を付設することもでき、こうすることで冷却効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上述の高周波超軽量水冷式溶接用トランスにあって、上記出力コイルの導電板を銅板とし、上記冷却水路を銅管で形成して、該銅管をその銅板の外面に半田付けする。
【0011】
また、出力コイルにつき、コアに装着した筒状の入力コイルの外周全面に対応する縦幅と横長さを有し所要の厚さを有する導電板の一端の上隅部と他端の下隅部からそれぞれ出力端子を一体に突出させるとともに、その一端と他端の中間部からそれぞれセンタータップを一体に突出させ、両センタータップには基部と該基部以外の適所に透孔を穿設し、かつ、その一端の出力端子とセンタータップとの相互間から他端の出力端子とセンタータップとの相互間へと一定の隙間を有する傾斜した一直線の切り込みを入れてそれぞれ上記出力端子及びセンタータップを備えた上下一対の出力コイル片を形成し、両出力コイル片を筒状に屈曲して上記入力コイルの外周面全域に対し一重の帯巻き状に装着できるようにし、更に、上記両センタータップを共に外方へと直角に折曲して両センタータップ相互を上記基部以外の適所の透孔に通したボルト・ナットにより機械的電気的に接合できるようにし、上記両センタータップの基部の透孔に上記冷却水路を挿通させて該冷却水路を上記上下一対の出力コイル片の外面に一連に一体的に付設させる。
【実施例】
【0012】
図1乃至図9は、本発明に係る全波整流方式の高周波超軽量水冷式溶接用トランスを示している。
【0013】
図面に示すように、カットコア1に入力コイル2を装着し、その入力コイルの外周全域に対応させて導電板3を筒状に屈曲して形成した全波整流方式の出力コイル4を、その入力コイル2の外周全域に対し一重の帯巻き状に装着し、該出力コイル4の導電板外面に冷却水路5を一体的に付設し、該冷却水路5の流路口6,7を出力コイル4から外方へと突出させる。
【0014】
図2、図9に示すように、入力コイル2は、同形の2個の円筒型螺状コイル2a,2bを軸方向に併設し、電気的に並列接続する。
【0015】
図5に示すように、全波整流方式の出力コイル4は、入力コイル2の外周全域に対応する縦幅と横長さを有し所要の厚さを有する銅板から成る導電板3の一端の上隅部と他端の下隅部からそれぞれ出力端子8a,8bを一体に突出させるとともに、その一端と他端の中間部からそれぞれセンタータップ9a,9bを一体に突出させて、両出力端子8a,8bには螺子孔10a,10bを、両センタータップ9a,9bには基部と該基部以外の適所に透孔11a,12a,11b,12bをそれぞれ穿設し、その一端の出力端子8aとセンタータップ9bとの相互間から他端の出力端子8bとセンタータップ9aとの相互間へとわずかな絶縁用の隙間を有する傾斜した一直線の切り込み13を入れて各々が上記出力端子及びセンタータップを備えた上下一対の出力コイル片14a,14bを形成する。
【0016】
次いで、図3、図5乃至図8に示すように、両出力コイル片14a,14bを共に筒状に屈曲するとともに、両出力端子8a,8bの基部を共に外方へクランク状に、両センタータップ9a,9bを外方へと直角にそれぞれ折曲して、図2、図3に示すように、両出力コイル片14a,14bを入力コイル2の外周面全域に対し耐熱絶縁シート15を介して一重の帯巻き状に嵌着し、両センタータップ9a,9bを相互に突き合わせるとともに、基部以外の適所の透孔12a,12bにボルト・ナット16を通して締め付けることにより両センタータップ9a,9b双方を機械的電気的に接合し、かつ、両センタータップ9a,9bの基部の透孔11a,11bには冷却水路5を挿通させて、該冷却水路5を上記上下一対の出力コイル片14a,14bの外面に一連に一体的に付設させる。
【0017】
冷却水路5には銅管を用い、これを図3、図4に示すように、上下一対の出力コイル片14a,14bの外面に適合する二巻きの螺旋状に形成して、その中間部を出力コイル4の両センタータップ9a,9bに穿設した基部の透孔11a,11bに挿通させ、図2、図3に示すように、銅板から成る上下一対の出力コイル片14a,14bの外面に沿えて半田付け17する。なお、銅管は、断面円形のものに限らず、半円形、三角形、四角形、その他の多角形のものであってもよく、場合によってはU字型等のものであってもよい。
【0018】
そして、入力コイル2乃至冷却水路5付きの出力コイル4には、図1、図2に示すように、その内外にエポキシ樹脂等による耐熱絶縁モールド18を施す。
【0019】
なお、図5に示すように、出力コイル4を両端の出力端子8a,8b及びセンタータップ9a,9bの寸法分を含む所定寸法の長方形の素材から裁断するものとすれば、一端側の下隅と他端側の上隅とに不要部分が生じることとなるが、この部分は両出力端子8a,8bのための補強片19a,19bとして活用することができる。図2中、20は必要に応じて冷却水路5の外側に付設する放熱板であり、該放熱板20は出力コイル4とで冷却水路5を挟み込むようにして設けるが、これにより冷却効果を高めることができる。
【0020】
出力コイル4の導電板3及び冷却水路5は銅部材に限るものではなく、他の導電部材でもよい。また、両者の接合は半田付けに限るものではなく、材質に適合すれば鑞付け、各種溶接等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の高周波超軽量水冷式溶接用トランスは、溶接ロボットのスポット溶接機に限らず、それ以外の溶接用トランスとしても広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る高周波超軽量水冷式溶接用トランスの実施例を示す斜視図である。
【図2】同実施例の縦断正面図である。
【図3】同実施例の入力コイルと冷却水路付き出力コイルの組立斜視図である。
【図4】同実施例の冷却水路の斜視図である。
【図5】同実施例の出力コイルの展開正面図である。
【図6】同実施例の出力コイル正面図である。
【図7】同実施例の出力コイル側面図である。
【図8】同実施例の出力コイル平面図である。
【図9】同実施例の電気回路図である。
【符号の説明】
【0023】
1 カットコア
2 入力コイル
2a,2b 円筒型螺状コイル
3 導電板
4 出力コイル
5 冷却水路
・ 流路口
8a,8b 出力端子
9a,9b センタータップ
10a,10b 螺子孔
11a,12a,11b,12b 透孔
13 切り込み
14a,14b 出力コイル片
15 耐熱絶縁シート
16 ボルト・ナット
17 半田付け
18 耐熱絶縁モールド
19a,19b 補強片
20 放熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアに装着した筒状の入力コイルの外周に、該外周全域に対応させて導電板を筒状に屈曲して形成した出力コイルを、一重の帯巻き状に装着し、該出力コイルの導電板外面に冷却水路を一体的に付設し、該冷却水路の流路口を出力コイル外に突出させたことを特徴とする高周波超軽量水冷式溶接用トランス。
【請求項2】
上記出力コイルの導電板を銅板とし、上記冷却水路を銅管で形成して、該銅管をその銅板の外面に半田付けする請求1に記載の高周波超軽量水冷式溶接用トランス。
【請求項3】
コアに装着した筒状の入力コイルの外周全面に対応する縦幅と横長さを有し所要の厚さを有する導電板の一端の上隅部と他端の下隅部からそれぞれ出力端子を一体に突出させるとともに、その一端と他端の中間部からそれぞれセンタータップを一体に突出させ、両センタータップには基部と該基部以外の適所に透孔を穿設し、かつ、その一端の出力端子とセンタータップとの相互間から他端の出力端子とセンタータップとの相互間へと一定の隙間を有する傾斜した一直線の切り込みを入れてそれぞれ上記出力端子及びセンタータップを備えた上下一対の出力コイル片を形成し、両出力コイル片を共に筒状に屈曲して上記入力コイルの外周面全域に一重の帯巻き状に装着できるようにし、更に、上記両センタータップを共に外方へと直角に折曲して両センタータップを上記基部以外の適所の透孔に通したボルト・ナットにより機械的電気的に接合できるようにするとともに、上記両センタータップの基部の透孔に上記冷却水路を挿通させて該冷却水路を上記上下一対の出力コイル片の外面に一連に一体的に付設させることを特徴とする高周波超軽量水冷式溶接用トランスの出力コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−157995(P2007−157995A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350716(P2005−350716)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(391032819)株式会社アイキューフォー (7)
【Fターム(参考)】