説明

高圧ガス貯蔵容器

【課題】 容器肩部における補強層によるライナーへの圧力分布を均一化させて耐圧性能を高めることのできる高圧ガス貯蔵容器を提供する。
【解決手段】 ライナー2と、このライナー2の周面に帯状の補強部材3を巻き付けて形成した補強層4と、からなる高圧ガス貯蔵容器1において、容器肩部1Cのライナー2とこれに対応する補強層4との間に、液体、オイル又はゲル状媒体からなる圧力伝達媒体6を袋7の中に封入してなる圧力伝達部材8を設ける。また、この圧力伝達部材8を構成する袋7は、補強層4と接する部位7Aを補強層4の保持力で破れない程度の高強度材料で形成し、ライナー2と接する部位7Bを該ライナー2に均一に接すると共に内部の圧力伝達媒体6が漏洩しない程度の低強度材料で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガスを充填し貯蔵するための高圧ガス貯蔵容器に関し、詳細には、内部圧力が他の部位よりも大きくなる容器肩部の圧力分布の均一化を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスを貯蔵するためのガス貯蔵容器としては、タンク形状とされたライナーの周面に、容器の機械的強度(耐圧性)を高める目的で帯状のカーボン繊維を巻き付けてこれを補強層とした、圧力容器が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特開平10−231997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に記載の圧力容器では、ライナーに直接、カーボン繊維を巻き付けることで耐圧性能を確保している。ライナーの胴部には、カーボン繊維を胴部の円周方向に複数巻き付けるフープ巻きを行い、ライナーの肩部を含む鏡部には、容器長手方向であって対角線上にカーボン繊維を巻き付けるヘリカル巻きを行っている。
【0004】
このように、カーボン繊維をライナーに対してフープ巻きとヘリカル巻きの異なる巻き方をしていることから、容器肩部のカーボン繊維の積層数が他の部位のカーボン繊維の積層数よりも少なくなる。特に、曲率形状をなす容器肩部では、ヘリカル巻きによってその位置によってはカーボン繊維の巻数にばらつきが生じる。また、カーボン繊維同士の保持を目的としたエポキシ系樹脂(接着剤)の密度にもばらつきが生じる。
【0005】
そのため、ライナーに内圧が掛かた場合、容器肩部の圧力分布は一様に均一ではなく、局所的に内部圧力の高い部位があるなど、面圧分布にばらつきが生じる。局所的に内部応力が高い部位には、亀裂が発生し、容器寿命が短くなる恐れが生じる。
【0006】
そこで、本発明は、容器肩部における補強層によるライナーへの圧力分布を均一化させて耐圧性能を高めることのできる高圧ガス貯蔵容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高圧ガス貯蔵容器は、ライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成した補強層とから構成され、さらに、容器肩部のライナーと補強層との間に圧力伝達部材を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高圧ガス貯蔵容器によれば、容器肩部のライナーと補強層との間に圧力伝達部材を設けたので、該補強層によるライナーへの押圧力がこの圧力伝達部材によって均一化され、その容器肩部の位置によって補強層の厚みがばらつくことによる該ライナーへの不均一な圧力分布が、当該容器肩部の全ての位置において均一となる。
【0009】
したがって、本発明によれば、補強層の厚みにばらつきが生じる容器肩部での該補強層によるライナーに対する圧力を均一なものとすることができることから、任意の部位が局所的に高くなってライナーに亀裂が生じるのを防止でき、耐圧性能を高めることができると共に容器寿命も延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1は本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器の斜視図、図2は図1のA−A線における要部拡大断面図、図3はライナーに帯状の補強部材を巻き付けて補強層を形成するためのワインディングパターンを示す図、図4は容器肩部の要部拡大断面図である。
【0012】
本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器1は、図1から図3に示すように、円筒形状のライナー2と、このライナー2の周面に帯状の補強部材3を巻き付けて形成した補強層4とからなる。この高圧ガス貯蔵容器1には、例えば水素ガスなどのガスが充填貯蔵される。
【0013】
ライナー2は、一端に口金5を有した有底の円筒形状からなる容器(タンク)として形成されている。かかるライナー2は、合成樹脂製であっても良いし、或いは金属製であってもよい。合成樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、ポリアミド、ポリカーボネート、またはこれらに強化繊維を混合したものが使用できる。金属としては、アルミニウム合金などが使用される。
【0014】
補強層4は、ライナー2の周面に帯状の補強部材3を所定数巻き付けることにより形成され、当該ライナー2の物理的強度(耐圧性)を確保する役目をする。ライナー2の長手方向両端を除く胴部1Aには、補強部材3を円周方向に巻き付けるフープ巻きを行い、その両端の鏡部1Bには、補強部材3を容器長手方向であって対角線上に巻き付けるヘリカル巻きを行う。
【0015】
補強部材3には、例えば強化繊維としてカーボン繊維を使用した繊維強化プラスチックであるCFRP(Fiber Reinforced Plastics)が使用される。また、補強部材3を巻き付ける際には、これら補強部材3同士の保持を目的としてエポキシ樹脂を含浸させる。
【0016】
前記した円筒形状をなすライナー2に、フープ巻きとヘリカル巻きという異なる巻き方で補強部材3を巻き付けると、鏡部1Bのうち胴部1Aから口金5に掛けて、または、胴部1Aから底部に掛けて湾曲する肩部1Cでは、その位置によって補強部材3の巻回数の違いによって補強層4の厚みにばらつきを生じる。この補強層4の厚みのばらつきが、肩部1Cのライナー2に対する押圧力(保持力)の不均性を誘発する。
【0017】
そこで、本実施の形態では、容器肩部1Cでの補強層4によるライナー2に対する押圧圧力を均一なものとして耐圧性能を高めるべく、肩部1Cのライナー2と、これと対応する部位の補強層4との間に、圧力伝達媒体6を袋7の中に封入してなる圧力伝達部材8を設ける。図2では、口金5側の肩部1Cに圧力伝達部材8を配置した図としているが、容器底部側の肩部にも圧力伝達部材8が配置されているものである。
【0018】
圧力伝達媒体6としては、例えば水などの液体、オイル又はゲル状媒体からなるものが使用される。オイル、ゲル状媒体の一例としては、高粘度水、高粘度高分子オイル、高粘度シリコンオイル、ウレタンゲル、グリース、ゼラチンなどが挙げられる。袋7は、内部に圧力伝達媒体6を収容し、液漏れしないように密閉される。かかる袋7は、2種類の材料から形成されており、補強層4と接する部位7Aは、該補強層4の保持力で破れない程度の高強度材料で形成され、ライナー2と接する部位7Bは、該ライナー2に均一に接すると共に内部の圧力伝達媒体6が漏洩しない程度の低強度材料で形成されている。
【0019】
高強度材料としては、補強層4からの強い押圧力が掛かるため、それに耐え得る剛性の高いステンレス、アルミニウム合金などが使用される。低強度材料としては、出来るだけ圧力伝達媒体6自体をライナー2に対して接触させるべく、圧力伝達媒体6が漏れない程度の薄膜とした高分子膜(ポリ塩化ビニルなど)を使用する。
【0020】
また、2種類の強度の異なる袋7のつなぎ目である高強度材料から形成される部位7Aと低強度材料から形成される部位7Bの界面には、袋7内の圧力伝達媒体6が外部に漏れ出ないようにするためのシール部材9が設けられている。
【0021】
以上のように構成された本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器1によれば、容器肩部1Cのライナー2とこれに対応する補強層4との間に、圧力伝達媒体6を袋7の中に封入してなる圧力伝達部材8を設けたので、肩部1Cの位置によって異なる補強層4の厚みの違いにより生じる大小の押圧力F1(矢印の大きさで押圧力の大きさを表示)が、袋7内に封入された液体などの圧力伝達媒体6によるパスカルの原理によって均一化され、該ライナー2への不均一な圧力分布が、肩部1Cの全ての位置において均一となる。圧力伝達部材8のライナー2に対する押圧力F2は、同一の大きさとされた矢印で示す。
【0022】
したがって、本実施の形態によれば、補強層4の厚みにばらつきが生じる容器肩部1Cでの該補強層4によるライナー2に対する押圧圧力(保持力)を均一なものとすることができることから、任意の部位が局所的に高くなってライナー2に亀裂が生じるのを防止でき、耐圧性能を高めることができると共に容器寿命も延ばすことができる。
【0023】
また、本実施の形態によれば、圧力伝達部材8を構成する袋7のうち、補強層4と接する部位7Aを高強度材料で形成しているので、該補強層4からの強い押圧力が掛かっても破れることがなく、また、その袋7のライナー2と接する部位7Bを低強度材料で形成しているので、ライナー2の曲面(R面)に追従して接し、面圧を均一にしながら補強層4からの押圧力を伝達可能とすることができる。また、この圧力伝達部材8は、ガス燃料の充填・放出に伴い変形するライナー2にも確実に面圧を均一にしながら追従可能となる。
【0024】
また、本実施の形態によれば、袋7を構成する2種類の強度の異なる高強度材料から形成される部位7Aと低強度材料から形成される部位7Bの界面にシール部材9を設けているが、補強層4からの押圧力がシール部材9に掛かるため、そのシール部材9のシール構造を簡素なものとすることができる。
【0025】
また、本実施の形態によれば、圧力伝達部材8に液体、オイル又はゲル状媒体を使用しているので、パスカルの原理によって肩部1Cにおける補強層4の厚みのばらつきによって生じるライナー2に対する圧力分布を均一なものとすることができる。
【0026】
また、本実施の形態によれば、袋7内に封入される液体、オイル又はゲル状媒体の種類を使い分けることで、異なる要求仕様を満足する高圧ガス貯蔵容器1を提供することが可能となる。具体的には、補強層4への温度伝達を防止したい場合には、熱容量の小さい媒体を使用することで、圧力伝達媒体6を断熱部材として作用させることができる。容器内の温度上昇を積極的に下げたい場合には、吸熱可能な媒体を使用することで、容器内のガス温度を下げることができる。
【0027】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に制限されることはなく種々の変更が可能である。
【0028】
例えば、上述の実施の形態では、ライナー2側と補強層4側で材質を異にした袋7の中に圧力伝達媒体6を封入させたが、この圧力伝達媒体6の漏洩を防止するようにすれば、ライナー2側に密着する側の低強度材料から形成される部位7Bは無くてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施の形態の高圧ガス貯蔵容器の斜視図である。
【図2】図1のA−A線における要部拡大断面図である。
【図3】ライナーに帯状の補強部材を巻き付けて補強層を形成するためのワインディングパターンを示す図である。
【図4】容器肩部の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…高圧ガス貯蔵容器
2…ライナー
3…補強部材
4…補強層
5…口金
6…圧力伝達媒体
7…袋
8…圧力伝達部材
9…シール部材
1A…胴部
1B…鏡部
1C…肩部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナーと、このライナーの周面に帯状の補強部材を巻き付けて形成した補強層と、からなる高圧ガス貯蔵容器において、
前記容器肩部のライナーと前記補強層との間に圧力伝達部材を設けた
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記圧力伝達部材のうち、前記補強層と接する部位は、該補強層の保持力で破れない程度の高強度材料で形成され、前記ライナーと接する部位は、該ライナーに均一に接すると共に内部の圧力伝達媒体が漏洩しない程度の低強度材料で形成された
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
高強度材料から形成される部位と低強度材料から形成される部位の界面に、シール部材を設けた
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の高圧ガス貯蔵容器であって、
前記圧力伝達媒体は、液体、オイル又はゲル状媒体からなる
ことを特徴とする高圧ガス貯蔵容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−300138(P2006−300138A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119914(P2005−119914)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】