説明

高圧放電ランプおよび照明装置

【課題】
封止予定部のセラミックスを内外から加熱し溶融させて高い信頼性を備えた封止部を形成するとともに封止時間の短縮を図った高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置を提供する。
【解決手段】
高圧放電ランプは、内部に放電空間1cが形成される包囲部1aおよび包囲部と一体化されてその内部に連通し少なくとも封止予定部が多結晶セラミックスを主体として形成された小径筒部1bを備え、セラミックスが融着して形成され、かつ外表面に高融点金属を含む吸熱手段SAの少なくとも一部が残留した封止部SPが小径筒部に形成されている透光性気密容器1と、透光性気密容器の封止部を気密に貫通して透光性気密容器の内部に導入された電流導入導体2と、電流導入導体の先端部に配設されて透光性気密容器の放電空間部に臨む電極3と、透光性気密容器内に封入されたイオン化媒体とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性セラミックスを用いた透光性気密容器に好適な封止構造を備えた高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透光性セラミックス気密容器を備えた高圧放電ランプにおいては、電流導入導体を介して上記気密容器を封止するために、種々の態様が提案されたり、試みられたりしてきた。その中でも最も普及しているのは、ガラスフリットを用いる態様である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、ガラスフリットを用いて封止する場合に、電流導入導体の封止部を気密に貫通する部位にサーメットを用いた高圧放電ランプも知られている(特許文献2参照。)。
【0004】
ところが、ガラスフリットを用いて透光性セラミックス気密容器を封止する場合、ガラスフリットの耐熱性が充分に高いとはいえないことから、ランプの寿命特性を得るためには封止部の温度を比較的低い温度に抑制しなければならず、そのために以下のように構成する必要がある。
(1)放電空間を画成する包囲部の両端から小径筒部を管軸方向に延在させる、いわゆるキャピラリー構造を形成する。
(2)管壁負荷を小さくする。
【0005】
上記構成の採用により以下の問題が生じる。
【0006】
上記(1)の結果、ランプの全長が大きくなってしまう。これに伴って、さらに次の問題が派生する。
・キャピラリー部分が折損しやすくなる。
・封入するハロゲン化物などの放電媒体の封入量がキャピラリーを形成しない場合に比較して数倍以上、場合によっては10倍以上必要になる。その結果、コストアップ、放電媒体の安定性、放電媒体から放出される不純ガス増加に起因する始動性低下、白濁、黒化および電極損耗などの不具合が発生しやすくなる。
【0007】
上記(2)の実施によって高圧放電ランプの作動温度が低下するので、ハロゲン化物の蒸発が充分に行われなくなり、蒸気圧を高めることができない。その結果、発光効率を所期の程度まで高くすることができない。また、発光特性は良好であるが反応性が高いハロゲン化物を用いることができない。
【0008】
本発明者らは、先にフリットガラスを用いないで透光性セラミックス気密容器を封着する研究を行った結果、フリットガラスレスの構成を見出した(特許文献3参照。。このフリットガラスレスの構成は、種々の材料および構造を用いる幾つかの態様を含んでいる。
【0009】
【特許文献1】特開平06−196131号公報
【特許文献2】特開2000−113859号公報
【特許文献3】特開2007−115651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献3に記載されたフリットガラスレスの構成において、透光性多結晶セラミックスからなる気密容器の効果的な一態様として小径筒部の封止部を形成する部位すなわち封止予定部のセラミックスを加熱溶融させて、そこを貫通する電流導入導体に融着させて封止部を形成する構成を採用する場合、電流導入導体のセラミックスに気密に融着する部位には熱膨張係数がセラミックスのそれに接近している導電部材を用いる必要がある。例えば、多結晶アルミナセラミックスの場合、ニオブやサーメットを用いることができる。
【0011】
また、封止予定部のセラミックスを加熱して溶融する手段としてレーザ加熱を採用することにより、局部を集中的に加熱するのが容易になる。YAGレーザを用いる場合、その波長が1μmとなり、封止予定部の外側からレーザ照射してもセラミックスを透過する割合が多くなり、小径筒部の内部に挿通している電流導入導体が最初に加熱されて温度上昇する。電流導入導体が温度上昇すると、次いで熱伝導作用により封止予定部のセラミックスが内側から加熱されて温度上昇し、やがて軟化して溶融するので、セラミックスと電流導入導体が封着されて封止部が形成される。
【0012】
上述のようにセラミックスが主として内側から加熱する場合より内外両方から加熱すれば、セラミックスの溶融が早くなって封着がより一層均質良好になるので、封止の信頼性が向上するばかりでなく、封止時間の短縮を図れると期待される。
【0013】
本発明は、封止予定部のセラミックスを内外から加熱し溶融させて高い信頼性を備えた封止部を形成するとともに封止時間の短縮を図った高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の高圧放電ランプは、内部に放電空間が形成される包囲部および包囲部と一体化されてその内部に連通し少なくとも封止予定部が多結晶セラミックスを主体として形成された小径筒部を備え、セラミックスが融着して形成され、かつ外表面に高融点金属を含む吸熱手段の少なくとも一部が残留した封止部が小径筒部に形成されている透光性気密容器と;透光性気密容器の封止部を気密に貫通して透光性気密容器の内部に導入された電流導入導体と;電流導入導体の先端部に配設されて透光性気密容器の放電空間部に臨む電極と;透光性気密容器内に封入されたイオン化媒体と;を具備していることを特徴としている。
【0015】
本発明は、以下の各態様を許容する。
【0016】
〔透光性気密容器について〕 透光性気密容器は、包囲部および小径筒部を備える。本発明において、少なくとも小径筒部は、包囲部と一体化されていて包囲部に連通するとともに、多結晶セラミックス、例えば多結晶アルミナセラミックスを主体として形成されている。なお、一体化されているとは、包囲部と小径筒部が一体成形されている態様と複数の構成部品を焼嵌めなどで一体的に結合した態様のいずれであってもよい。また、多結晶セラミックスを主体とするとは、少なくとも封止の際に融着する部位すなわち封止予定部が多結晶セラミックスによって形成されていることを意味している。しかし、透光性気密容器は、好適には包囲部および小径筒部がともに透光性セラミックスで形成されている。セラミックスとしては、単結晶の金属酸化物例えばサファイヤと、多結晶の金属酸化物例えば半透明の気密性アルミニウム酸化物すなわち透光性多結晶アルミナセラミックス、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、イットリウム酸化物(YOX)と、多結晶非酸化物例えばアルミニウム窒化物(AlN)のような光透過性および耐熱性を備えたセラミック材料からなり、内部に放電空間が外部に対して気密に形成される容器である。しかし、上記材料の中でも透光性多結晶アルミナセラミックスは、工業的に量産できて比較的容易に入手できるため、透光性気密容器の構成材料として好適である。
【0017】
本発明において、小径筒部、好ましくはその端部に位置する封止予定部に形成される封止部は、小径筒部自体のセラミックスが主として融着して形成される態様である。
【0018】
透光性多結晶アルミナセラミックスで一般的に透光性気密容器として使用されているものは、その結晶平均粒径が70μm程度であるが、少なくとも小径筒部の封着予定部に接近した位置、換言すれば封止のために溶融する以前の結晶平均粒径が30μm以下であるとクラックが生じにくくて好ましい融着を行うことができる。すなわち、上記部位の結晶平均粒径が30μm以下、好適には10μm以下であると、小径筒部のセラミックスを溶融させて封止を行う際に、導入導体との馴染みが良好で、かつ溶融により小径筒部と電流導入導体とが接合した後の冷却時に、接合部やその近傍にクラックが発生しにくい。また、結晶平均粒径が1μm以下になると、接合によるクラック発生が極めて少なくなるので、より一層好適である。さらに、結晶平均粒径が0.5μm以下になると、接合によるクラック発生が全く発生しなくなる。したがって、一般的には0.1〜30μmであるのが望ましい。また、0.5〜20μmであればより一層好ましい。さらに、1〜10μmであれば最適である。
【0019】
上述した透光性気密容器の少なくとも小径筒部の封止予定部の結晶平均粒径が30μm以下の上述した範囲から選択した値にする部位は、少なくとも小径筒部の封止予定部であればよい。しかしながら、所望により小径筒部のほぼ全体または透光性気密容器の全体とすることができる。また、透光性気密容器は、包囲部と小径筒部の平均結晶粒径が同じであるないとにかかわらず一体成形したものが熱的には好ましい。
【0020】
また、セラミックスの平均結晶粒径が小さくなると、溶融温度が若干下がるので、融着がその分容易になる。このため、透光性気密容器の小径筒部のみの平均結晶粒径を小さくしてもよい。
【0021】
なお、透光性気密容器における透光性とは、例えばランプが作動することによって発生した光を透過して外部に導出できる程度に光透過性であることをいい、透明ばかりでなく、光拡散性であってもよい。そして、少なくとも後述するランプ作動部材が収納される内部空間を包囲する部分の主要部が透光性を備えていればよく、要すれば上記主要部以外の付帯的構造を備えているときには、当該部分は遮光性であってもよい。
【0022】
透光性気密容器の包囲部は、その内部に放電を包囲する空間を画成している。包囲部の内部すなわち内部空間は、適当な形状、例えば球状、楕円球状、ほぼ円柱状などの形状をなしていることを許容する。内部空間の容積は、ランプの定格ランプ電力、ランプ作動部材の空間的な広がりなどに応じてさまざまな値が選択され得る。例えば、高圧放電ランプの場合、液晶プロジェクタ用ランプの場合、0.5cc以下にすることができる。自動車前照灯用ランプの場合、0.05cc以下にすることができる。また、一般照明用ランプの場合、定格ランプ電力に応じて1cc以上および以下のいずれにすることもできる。
【0023】
また、透光性気密容器の小径筒部は、その筒内が包囲部に連通している。小径筒部は、少なくとも後述する電流導入導体がそこに挿通し、かつその封止予定部にセラミックスの溶着により電流導入導体と協働して封止部を形成する。そして、形成された封止部によって透光性気密容器を気密に封止するために機能する。
【0024】
小径筒部の数は、一般的な一対のランプ作動部材を封装する構成のためには2つであるが、配設する電流導入導体の数に応じて1つないし3つ以上の複数であることを許容する。一対のランプ作動部材を封装するために2つの小径筒部を配設する場合、各小径筒部は、それぞれ離間した位置に配設されるが、好適には管軸に沿って包囲部の両端に離間対向している。なお、小径筒部を構成するセラミックスは、低透光性ないし遮光性であってもよい。
【0025】
本発明において、小径筒部は、その内部にキャピラリー構造を形成してもよいし、形成しなくてもよい。したがって、小径筒部の長さは本発明において特段限定されない。要するに、少なくとも小径筒部の封止予定部のセラミックスが電流導入導体の封着部位に対して直接的に融着して封止部を形成しやすい長さであればよい。本発明において、透光性気密容器の小径筒部の長さは、上述のようにセラミックスの溶着により封止部を形成するので、従来のフリットガラスを用いて封止する場合の小径筒部の長さより明らかに短くすることができる。
【0026】
次に、透光性気密容器を透光性セラミックスにより形成する場合には、包囲部を一体的に成形して形成してもよいし、複数の構成部材を接合させたり、嵌合させたりして形成してもよい。例えば、包囲部の他に小径の筒部などの付帯的構造を備えている場合、包囲部の両端または一端に付帯的構造を最初から一体に成形することができる。しかし、例えば包囲部と、付帯的構造とを、それぞれ別に仮焼結してから所要に接合させて、全体を焼結することにより、一体の透光性セラミックス気密容器を形成することもできる。また、筒状部分と端板部分とをそれぞれ別に仮焼結してから接合して、全体を焼結することにより、一体化された包囲部を形成することもできる。
【0027】
(吸熱手段について) 吸熱手段は、封止予定部の外部から照射されるレーザなどの熱線の少なくとも一部のエネルギーを吸収してそれ自体が温度上昇し、熱伝導により小径筒部における封止予定部のセラミックスを小径筒部の外面側から加熱してその溶融を促進するように作用する手段である。この意味において、吸熱手段は、少なくともセラミックスが溶融するまでエネルギーを吸収して、封止予定部のセラミックスを加熱する性能を持続する耐熱性を有し、かつその形態を保持する。封止予定部のセラミックスが溶融したときは、以下の態様を呈する。すなわち、吸熱手段が封止予定部のセラミックスと一緒に溶融して混合ないしセラミックス中に拡散し得る態様においては、封止予定部のセラミックスの流動に伴って吸熱手段の形態の一部ないしほぼ全部が崩れたり、さらには封止部の外表面部にセラミックスと高融点金属との混合層を形成したりすることが許容される。吸熱手段が封止予定部のセラミックスと一緒に溶融しない態様においては、セラミックスの流動に伴って吸熱手段の形態が変形することが許容される。
【0028】
また、吸熱手段は、これを封止予定部に配設された高融点金属膜、高融点金属とセラミックスの混合層、高融点金属とセラミックスのサーメット層および高融点金属箔の少なくともいずれか一つの手段により構成することができる。
【0029】
吸熱手段が高融点金属膜である場合、当該高融点金属膜は、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)などの高融点金属を選択的に用いて形成され、小径筒部の封止予定部に被着されることで配設される。また、高融点金属膜は、例えばCVD法、PVD法およびコーティング法(ディッピング法、スプレー法を含む。)などの既知の被膜形成方法を適宜選択的に用いて形成することができ、形成された高融点金属膜は、封止予定部の外面に被着される。なお、コーティング法には、前記高融点金属のアルコキシド溶剤あるいは上記高融点金属微粒子または/およびセラミックス粉末を混合したアルコキシド溶剤をディッピング法やスプレー法を用いてコーティングし、焼成して高融点金属膜を成膜する態様を含むものとする。また、高融点金属膜の膜厚は、一般的には0.1nm〜1μm程度に形成することができる。波長1μmの熱線の一部を透過するためには、高融点金属膜の膜厚を10nm以下にするのが好ましい。
【0030】
吸熱手段が高融点金属とセラミックスの混合層である場合、当該混合層は、上述の高融点金属粉末とセラミックス粉末、好ましくは封止予定部を構成するセラミックスと同質のセラミックス粉末とを混合してなる層であり、適当な有機質または無機質の結着材を含有していることが許容される。高融点金属粉末、セラミックス粉末およびアルコキシド溶剤を主成分とする混合液を調整して、これを封止予定部の表面にコーティングし、焼成して高融点金属とセラミックスの混合層を形成することができる。高融点金属とセラミックスの混合層は、封止工程においてレーザなどの熱線照射によりその熱エネルギーを吸収して、セラミックス粉末および高融点金属粉末が溶融して高融点金属とセラミックスの固溶状態の混合層または一体に結着した混合層を形成する。
【0031】
吸熱手段が高融点金属とセラミックスのサーメット層である場合、当該高融点金属とセラミックスのサーメット層は、上記と同様の高融点金属の粉末と小径筒部の封止予定部のセラミックスと同質であることが好適なセラミックスの粉末とを混合して焼結してなる層である。サーメット層は、その材料を小径筒部の封止予定部に塗布していから焼成してもよいし、予め焼成して形成したサーメットを封止予定部に配設することによって上記サーメット層を形成してもよい。
【0032】
高融点金属とセラミックスの混合層および高融点金属とセラミックスのサーメット層の場合、一般的に当該層中の高融点金属の含有比率が高くなるにしたがって熱線吸収率が大きくなる。高融点金属としては、小径筒部のセラミックスが多結晶アルミナセラミックスの場合、ニオブ(Nb)が好適である。また、セラミックスとしてはアルミナが好適である。高融点金属の含有比率は、体積%で25〜75%が一般的に効果的な範囲であり、好適には40〜60体積%である。
【0033】
また、高融点金属とセラミックスのサーメット層からなる吸熱手段は、封止部の形成時に小径筒部の封止予定部を外側から加熱しながら封止予定部と一緒に溶融し、その一部が封止予定部と混合する。その結果、形成された封止部の外表面には、高融点金属とセラミックスの混合層が形成される。
【0034】
吸熱手段が高融点金属膜、高融点金属とセラミックスの混合層または高融点金属とセラミックスのサーメット層からなる場合、吸熱手段に照射される熱線の熱エネルギーの殆どを吸収するように構成していもよいし、一部の熱エネルギーのみを吸収して残部を透過するように構成してもよい。前者の構成においては、封止予定部において、小径筒部の軸方向の一部領域のみを吸熱手段で被覆し、残部を被覆しないで封止予定部を露出させるのがよい。また、この場合の吸熱手段は、熱線の熱エネルギーが殆ど吸収されるようにその膜厚を大きくするか、高融点金属の含有比率を多くすればよい。
【0035】
これに対して、後者の一部の熱エネルギーのみを吸収して残部を透過するように吸熱手段を構成するには、その膜厚を薄くするか、または高融点金属の含有比率を照射された熱線の一部が透過する程度に少なくすればよい。吸熱手段が、そこに照射される熱線の熱エネルギーの一部のみを吸収して残部を透過するように構成されている場合には、封止予定部のほぼ全体にわたり吸熱手段を形成することができる。
【0036】
吸熱手段が上記いずれの態様であっても、封止部が形成されると、吸熱手段は、封止部のセラミックスと一体に溶融したり、封止部形状に応じて変形したり、高融点金属の一部がセラミックス中に拡散ないし溶融したり、あるいは高融点金属膜が封止予定部のセラミックスの流動に伴って膜が破壊された状態になったりする。上記のいずれの態様であっても、高融点金属が封止部の外表面側の部位に残留する。
【0037】
また、吸熱手段が上記いずれかの態様である場合、吸熱手段における波長1μmの熱線の吸収率が20〜70%、好適には30〜50%となるように当該吸熱手段を形成すれば、封止予定部のほぼ全体にわたり吸熱手段を配設ことができる。また、吸熱手段が高融点金属とセラミックスの混合層および高融点金属とセラミックスのサーメット層からなる場合、高融点金属の含有体積率を12〜60%、好適には20〜40体積%にすることができる。上記構成であれば、吸熱手段に照射された波長1μmの熱線の一部は吸熱手段に吸収されるが、残部は吸熱手段および封止予定部のセラミックスを透過して電流導入導体に吸収される。その結果、封止予定部が内外両面から加熱されて信頼性の高い封止部を形成することができるとともに、封止時間を短縮することができる。
【0038】
吸熱手段が高融点金属箔である場合、当該高融点金属箔は、前述した高融点金属を用いて形成された箔である。一般的にこの箔は、厚さが1〜5μm程度である。高融点金属箔は、熱線吸収率が高いので、封止予定部において、予め小径筒部の軸方向における一部領域の外周面を被覆するように配設され、残部領域は封止予定部が直接露出する。上記被覆を容易にするために、高融点金属箔を予めスリーブ状またはキャップ状に成形することができる。
【0039】
封止部を形成する際に、レーザなどの熱線を封止予定部に照射すると、高融点金属箔に照射された熱線は、高融点金属箔に吸収されて温度上昇し、主として熱伝導により封止予定部のセラミックスを外側から加熱する。これに対して、封止予定部に直接照射された熱線は、封止予定部のセラミックスを透過して電流導入導体に吸収される。このため、電流導入導体は温度上昇して封止予定部のセラミックスを主として熱伝導により内側から加熱する。そうして、封止予定部は、内外両面側から加熱されて信頼性の高い封止部を形成することができるとともに、封止時間を短縮することができる。高融点金属箔は、封止予定部が形成された後も破壊されることなく残留するが、封止部が形成される際に封止部の形状変化に応じて変形することがある。
【0040】
(透光性気密容器の封止工程について) 透光性気密容器の封止工程において、使用する熱線照射手段として好適なのは、レーザである。特にYAGレーザは、その波長が1μmであり、封止予定部に外部からの照射で、吸熱手段による外側からの加熱と電流導入導体による内側からの加熱とを組み合わせるのが容易になる。レーザ照射により封止予定部が溶融して電流導入導体に馴染んだら、その後徐々にレーザ出力を調整し、冷却することで封止予定部のセラミックスが固化して封止部が形成される。
【0041】
上記封止工程において、吸熱手段が小径筒部における封止予定部の一部領域に配設される場合、吸熱手段に照射された熱線の少なくとも一部がそこに吸収されて吸熱手段が温度上昇すると、主として熱伝導により封止予定部を外面から加熱するが、その際の加熱は吸熱手段の配設されていない領域へも及ぶ。一方、吸熱手段が被覆されない領域に照射された熱線は、封止予定部のセラミックスを透過して小径筒部の内部に挿通されている電流導入導体に吸収される。そのため、電流導入導体が温度上昇して封止予定部を主として熱伝導により内側から加熱する。この際の加熱は、高融点金属膜が被覆されている領域へも及ぶので、封止部が形成される部位全体が内側から加熱される。
【0042】
したがって、本発明においては、吸熱手段を配設したことにより、封止予定部のセラミックスが内外両面から加熱されて溶融するので、封止部の全体にわたり均一なセラミックスの溶融状態が生じ、形成された封止部の信頼性が高くなる。また、セラミックスの加熱所要時間が短縮されるので、封止工程が短時間に完了し、コスト低減を図ることができる。
【0043】
上記封止工程において、封止予定部にレーザを1方向から照射する場合、ワークすなわち透光性気密容器および電極マウントをレーザに対して相対的に回転させて封止予定部の全体が均一に加熱されるようにするのがよい。ワークを固定して複数方向、好ましくは奇数方向、例えば管軸に対して直行する面内において約120°間隔で3方向からレーザを同時に照射してもよい。また、異なる波長のレーザ、例えばYAGレーザとCOレーザを組み合わせるのも好ましいことである。さらに、封止予定部の溶融状態から冷却する間にクラックや大きな空孔が生じないようにするためには、熱衝撃によってクラックが生じない程度の出力から徐々にレーザ出力を大きくしていき、予定した出力レベルに達したら暫くそのレベルを維持し、その後0レベルまで出力レベルを徐々に低減していくのがよい。また、レーザの焦点は、封止予定部の表面に対して照射方向の後方へ5〜10mm程度ずらすのが好ましい。
【0044】
〔電流導入導体について〕 電流導入導体は、後述する電極を支持し、かつ電極に電圧を印加して、点灯回路から電流を供給するとともに、小径筒部または他の部材と協働してセラミックスが融着する部位を提供することで小径筒部の封止予定部に封止部を形成し、この封止部で透光性気密容器を封止するために機能する導体である。そのために、本発明において、電流導入導体は、少なくとも封止部を気密に貫通する部位(以下、封着部という。)が、透光性気密容器の小径筒部におけるセラミックスの熱膨張係数と接近した熱膨張係数を有する耐熱性で導電性の金属または/およびサーメットによって形成されているのが好ましい。例えば、上記セラミックスがアルミナセラミックスの場合、電流導入導体の封着部は、金属ニオブ(Nb)、次に示すサーメットまたは金属ニオブおよびサーメットの接合体により構成することが好ましい。上記サーメットは、ニオブ、モリブデン(Mo)またはタングステン(W)とアルミナセラミックスとからなるサーメットである。電流導入導体の封着部がニオブおよびサーメットにより構成される場合、ニオブが小径筒部の外部側で、サーメットが放電空間側に位置する。
【0045】
また、電流導入導体は、その封着部の包囲部側に隣接する部分が(1)サーメット、(2)サーメットおよび金属モリブデンの接合体、ならびに(3)金属モリブデンのいずれかの態様によって構成されているのが好ましい。そうすれば、サーメットまたは金属モリブデンの部分の先端に電極の基端を接合して、電極を支持するのが容易になる。
【0046】
さらに、電流導入導体は、その基端部が透光性気密容器の小径筒部の外部に露出して点灯回路に接続可能なように構成される。上記基端部は、この機能のために小径筒部の端面から外部へ突出しているのが好ましい。しかし、外部に露出しているのであれば突出していなくてもよい。小径筒部に封止部を形成するには、一般に電流導入導体の先端に予め電極を接合した電極マウントを製作し、この電極マウントを小径筒部に挿通させた状態で封止作業を行う。
【0047】
封着部にサーメットを用いる場合、平均粒径が一般的には0.05〜20μm、好ましくは0.1〜2μmの範囲内にあるニオブまたはモリブデンの高融点金属粒子を含有体積率20〜80%、好ましくは40〜60%の割合で含有するものを用いるのがよい。なお、含有体積率は、サーメットの断面顕微鏡写真中の所定面積中に占める金属粒子の面積の百分率比をもって判定する。
【0048】
サーメットの熱膨張係数を高融点の含有体積率に応じて高融点金属、例えばニオブのそれから小径筒部のセラミックスに接近した値に設定することができる。多結晶アルミナの熱膨張係数は7.8×10−6であり、ニオブの熱膨張係数は7.1×10−6であるから、ニオブの含有体積率に応じて7.1〜7.8×10−6の範囲内で所望の熱膨張係数のサーメットを得ることができることを理解できる。しかし、ニオブの含有体積率が80%を超えると、ニオブの熱膨張係数との差が殆どなくなり、サーメットを用いるメリットがなくなり、使用環境(温度、真空度)が厳しくなると、封止部との間の熱膨張係数差が大きくなりすぎて、封止部リークが生じやすくなる。また、ニオブ成分の含有体積率が20%未満になると、所望の導電性を得るのが困難になる。
【0049】
〔電極について〕 電極は、後述する放電媒体の放電を透光性気密容器の内部に生起させる手段である。電極は、一般的にその一対が透光性気密容器の内部において電極間でアーク放電が生起されるように離間対向して配設される。なお、本発明においては、少なくとも1個の電極が上記電流導入導体に接続して透光性気密容器内に封装されている。
【0050】
また、電極は、電流導入導体に接続して透光性気密容器内の所定位置に支持されている。例えば、電極の基端が電流導入導体の透光性気密容器の内部側に位置する先端部に接続される。
【0051】
さらに、電極を電極主部または/および電極軸部により構成することができる。電極主部は、放電の起点となる部分で、したがって主として陰極およびまたは陽極として作用する部分であり、所望により電極軸部を介さないで直接電流導入導体に接続することができる。また、電極主部の表面積を大きくして放熱を良好にするために、必要に応じてタングステンのコイルを巻装したり、電極軸部より径大にしたりすることができる。電極が電極軸部を備えている場合、電極軸部は、電極主部と一体に、または溶接されて、電極主部の背面から後方へ突出して電極主部を支持し、かつ電流導入導体に接続する。なお、所望により電極軸部と電流導入導体の先端部を単一のタングステンにより一体化させることができる。
【0052】
さらにまた、電極の材料には、タングステン、ドープドタングステン、トリエーテッドタングステン、レニウムまたはタングステン−レニウム合金などを用いることができる。
【0053】
さらにまた、一対の電極を用いる場合、交流点灯形の場合にはそれらを対称構造とするが、直流点灯形の場合には、非対称構造にすることができる。
【0054】
〔イオン化媒体について〕 イオン化電媒体は、その放電により所望の発光を得るための手段であるが、本発明においてその構成が特段限定されない。例えば、下記に列挙する態様であることを許容する。しかし、好ましくは発光金属のハロゲン化物、ランプ電圧形成媒体および希ガスにより構成される。なお、「高圧放電」とは、イオン化媒体の点灯中の圧力が大気圧以上になる放電をいい、いわゆる超高圧放電を含む概念である。
【0055】
発光金属のハロゲン化物は、主として可視光を発光する発光金属のハロゲン化物であり、既知の各種金属ハロゲン化物を採用することができる。すなわち、発光金属の金属ハロゲン化物は、発光色、平均演色評価数Raおよび発光効率などについて所望の発光特性を備えた可視光の放射を得るため、さらには透光性セラミックス放電容器のサイズおよび入力電力に応じて、既知の金属ハロゲン化物の中から任意所望に選択することができる。例えば、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)、希土類金属(ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、プラセオジム(Pr)、ランタン(La)およびセリウム(Ce)など)、タリウム(Tl)、インジウム(In)およびリチウム(Li)からなるグループの中から選択された一種または複数種のハロゲン化物を用いることができる。
【0056】
ランプ電圧形成媒体は、ランプ電圧を形成するのに効果的な媒体であり、例えば水銀または下記の金属のハロゲン化物を用いることができる。すなわち、ランプ電圧形成媒体としてのハロゲン化物は、点灯中の蒸気圧が相対的に大きくて、かつ、可視域の発光量が上記発光金属による可視域の発光量に比較して少ない金属、例えばアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、マンガン(Mn)などのハロゲン化物が好適である。
【0057】
希ガスは、始動ガスおよび緩衝ガスとして作用し、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、ネオン(Ne)などを単体でまたは混合して用いることができる。
【0058】
1.発光金属のハロゲン化物+水銀+希ガス:いわゆる水銀入りのメタルハライドランプの構成である。
【0059】
2.発光金属のハロゲン化物+ランプ電圧形成媒体としてのハロゲン化物+希ガス:環境負荷の大きな水銀を用いないいわゆる水銀フリーのメタルハライドランプの構成である。
【0060】
3.水銀+希ガス:いわゆる高圧水銀ランプの構成である。
【0061】
4.希ガス:希ガスとしてXeを用いると、いわゆるキセノンランプの構成である。
【0062】
次に、発光金属のハロゲン化物は、ハロゲンとしてよう素、臭素、塩素またはフッ素のいずれか一種または複数種を用いることができる。
【0063】
〔その他の構成について〕 本発明においては、所望により以下の構成を付加するか、組み合わせて使用することができる。
【0064】
1.(外管について) 高圧放電ランプは、透光性気密容器が大気中に露出した状態で点灯するように構成することができる。しかし、要すれば、透光性気密電容器を外管内に収納することができる。なお、外管内は、真空、ガス入り、または大気に連通した雰囲気にすることもできる。
【0065】
2.(高圧放電ランプ点灯装置について) 高圧放電ランプを点灯する場合、点灯回路は、どのような構成であってもよい。また、交流点灯および直流点灯のいずれの点灯方式であってもよい。交流点灯の場合、例えばインバータを主体とする電子化点灯回路を構成することができる。所望により、インバータの入力端子間に接続する直流電源に昇圧チョッパまたは降圧チョッパなどの直流−直流間変換回路を付加することができる。直流点灯の場合、例えば上記直流−直流間変換回路を主体とする電子化点灯回路を構成することができる。
【0066】
3.(照明装置について) 本発明において、高圧放電ランプを照明装置に適用する場合、照明装置は、照明装置本体と、照明装置本体に配設された高圧放電ランプと、高圧放電ランプを点灯する点灯回路とで構成することができる。
【0067】
なお、照明装置は、高圧放電ランプを光源とする全ての装置を含む概念である。例えば、屋外用および屋内用の各種照明器具、自動車前照灯、画像または映像投射装置、標識灯、信号灯、表示灯、化学反応装置および検査装置などである。
【0068】
照明装置本体は、照明装置から高圧放電ランプおよび点灯回路を除いた残余の部分をいう。点灯回路は、照明装置本体から離間した位置に配置されるのであってもよい。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、透光性気密容器の内部に放電空間が形成される包囲部と一体化されてその内部に連通し少なくとも封止予定部が多結晶セラミックスを主体として形成された小径筒部を備え、セラミックスが融着して形成され、かつ外表面に高融点金属を含む吸熱手段の少なくとも一部が残留した封止部が小径筒部に形成されていることにより、レーザなどの熱線を照射して封止予定部を溶融する際に吸熱手段が吸収した熱により封止予定部を外側から加熱し、また封止予定部に挿通する電流導入導体が吸収した熱が封止予定部を内側から加熱するので、形成される封止部の信頼性が高くなるとともに封止時間が短縮される高圧放電ランプおよびこれを用いた照明装置を提供することができる。
【0070】
また、吸熱手段が高融点金属膜、高融点金属とセラミックスの混合層、高融点金属とセラミックスのサーメット層および高融点金属箔の少なくともいずれか一つの手段であることにより、封止予定部において小径筒部の軸方向の少なくとも一部の外周面に吸熱手段を機能しやすく配設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0072】
図1および図2は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第1の形態を示し、図1は高圧放電ランプ全体の管軸に沿った断面図、図2は封止工程を示す説明図である。本形態の高圧放電ランプは、透光性気密容器1、電極マウントEMおよびイオン化媒体を具備している。なお、電極マウントEMは、電流導入導体2および電極3の接合体からなる。
【0073】
透光性気密容器1は、本形態において透光性多結晶アルミナセラミックスを主材料として一体成形により形成されており、包囲部1aおよび一対の小径筒部1b、1bを具備している。そして、少なくとも小径筒部1bは、外表面における平均結晶粒径が10μm以下になっている。なお、セラミックスの平均結晶粒径は、小径筒部1bの外表面を放電子顕微鏡で拡大すれば容易に視認することができ、基準直線を透光性気密容器1の外表面の適当な部位に設定して、当該基準線と交わる多数の結晶粒子の直径の平均値とする。
【0074】
包囲部1aは、ほぼ球形の形状に成形され、内部に同様形状の放電空間1cが形成されている。
【0075】
一対の小径筒部1b、1bは、それぞれが包囲部1aの管軸方向の両端から一体に延長された短くて包囲部1aに比較して細い筒状部分によって形成されている。小径筒部1bの端部側の部位が封止予定部であり、この封止予定部にはセラミックスが融着し、かつ外表面に高融点金属を含む吸熱手段SAの少なくとも一部が残留した封止部SPが形成されている。なお、上記封止部SPを形成する封止工程については後述する。
【0076】
電流導入導体2は、サーメット部2aおよびモリブデン部2bが直列に接合されて構成されている。サーメット部2aは、基端側となってその一部が透光性気密容器1の外部に露出する。モリブデン部2bは、サーメット部2aの先端に突合せ溶接されている。
【0077】
封止部SPは、本形態においては小径筒部1bの封止予定部のアルミナセラミックスが主体的になって溶融して形成されるが、セラミックスの溶融時に表面張力により軸方向に凝縮しながら径方向に小径筒部1bの表面から外側へ膨出して楕円球状ないし涙滴状に変形する傾向があるが、加熱時間や温度などの加工要因により多様な形状となる。
【0078】
電極3は、タングステン棒からなり、その軸方向の先端部、中間部および基端部にわたり軸部の直径が同じで、かつ先端部および中間部の一部が包囲部1aの内部空間1c内に露出している。また、電極3は、その基端部が電流導入導体2のモリブデン部2cの先端部に突合せ溶接により接続して、透光性気密容器1の管軸方向に沿って支持されている。なお、電極3の中間部または電流導入導体2の先端側と小径筒部1bの内面との間に管軸方向に短いわずかな隙間gすなわちキャピラリーが形成されている。しかし、このキャピラリーは、フリットガラスを用いて透光性セラミックス放電容器を封止する従来の高圧放電ランプにおけるそれに比較すると、明らかに短くなっている。
【0079】
イオン化媒体は、発光金属のハロゲン化物および希ガスからなる。所望によりランプ電圧形成用媒体をイオン化媒体に付加することができる。なお、ランプ電圧形成用媒は、水銀またはランプ電圧形成用ハロゲン化物からなる。ランプ電圧形成用ハロゲン化物は、蒸気圧が高くて発光金属のハロゲン化物との共存下で可視域の発光量が発光金属の発光量に比較して少ない金属のハロゲン化物である。
【0080】
次に、図2(a)および(b)を参照して高圧放電ランプMHLの封止工程について説明する。
【0081】
予め電極マウントEMおよび透光性気密容器1を用意しておく。なお、透光性気密容器1の小径筒部1bにおいて、封止予定部の管軸方向の一部の領域の外周面には吸熱手段SAを配設してある。そして、図2(a)に示すように、透光性気密容器1を垂直位置に保持し、上部に位置する小径筒部1b内に電極マウントEMを透光性気密容器1の内部へ挿入し、図示しない適宜の手段により小径筒部1bに対して所定位置に保持させる。
【0082】
次に、図2(b)に示すように、透光性気密容器1および電流導入導体2を静止した状態にして、封止予定部の周囲の複数方向から熱線照射手段として例えば矢印方向にYAGレーザを、封止予定部(開口端部近傍)の外側から照射して、小径筒部1bの封止予定部に配設された吸熱手段SAおよび電流導入導体2のサーメット部2aの基端側を加熱する。
【0083】
吸熱手段SAにレーザが照射されると、その熱エネルギーの一部が吸熱手段SAに吸収され、残部は吸熱手段SAおよび封止予定部のセラミックスを透過して内部に挿通している電流導入導体2のサーメット部2aに吸収される。吸熱手段SAがレーザの熱エネルギーを吸収すると温度上昇するので、主として熱伝導により封止予定部を外側から加熱する。他方、電流導入導体2のサーメット部2aがレーザの熱エネルギーを吸収すると温度上昇するので、主として熱伝導により封止予定部を内側から加熱する。その結果、小径筒部1bの封止予定部のセラミックスが内外両面から加熱されて均一に温度上昇し、やがて溶融して小径筒部1bの封止予定部および電流導入導体2のサーメット部2aの封止予定部に対向する部位にセラミックスが融着して気密に封着し、封止部SPが形成される。これにより透光性気密容器1が封止される。なお、図示を省略している下部の小径筒部1bが予め封止されている場合には、上部の封止部SPを形成する前にイオン化媒体が上部の小径筒部1bの開口端から透光性気密容器1の内部に封入され、液体窒素などの冷媒によって放電媒体を冷却しながら封止部SPを形成することができる。
【実施例1】
【0084】
実施例1は、図1に示す高圧放電ランプである。
【0085】
透光性気密容器 :一体成形の透光性多結晶アルミナセラミックス製
包囲部;最大内径5mm、肉厚0.4mm
小径筒部;内径0.7mm、肉厚0.5mm、長さ6mm、
吸熱手段;封止予定部のうち長さ2mmの外周面に形成した膜厚0.5nmのNb膜
電流導入導体 :ニオブ部・モリブデン部の接合体
サーメット部;Nb(粒径0.1〜2.0μm)-PCA=50:50体積%、
直径0.65mm、長さ10mm、径大部直径0.78mm
電極 :W棒、直径0.65mm、電極間距離3mm
イオン化媒体 :DyI3-NdI3-CsI=3mg、Xe1Mpa
封止工程 :図2(b)に示す方向の3方向照射で封着時間8秒、ワーク静止、
パルス電力130W
得られた高圧放電ランプを高負荷(定格点灯の150%電力)点灯して1000時間経過時における破損個数は、0/10であった。

【0086】
[比較例]
透光性気密容器 :一体成形の透光性多結晶アルミナセラミックス製
包囲部;最大内径5mm、肉厚0.4mm
小径筒部;内径0.7mm、肉厚0.5mm、長さ6mm、
封止工程 :1方向照射で封着時間13秒、ワーク回転、パルス電力270W
その他は、実施例1と同じ仕様である。
【0087】
得られた高圧放電ランプを高負荷(定格点灯の150%電力)点灯して1000時間経過時における破損個数は、5/10であった。

【0088】
図3および図4は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第2の形態を示し、図3は吸熱手段の層厚と熱線吸収率の関係を示すグラフ、図4は吸熱手段の高融点金属含有体積率と熱線吸収率の関係を示すグラフである。本形態は、吸熱手段が高融点金属とセラミックスの混合層からなり、図3および図4は高融点金属としてニオブ、セラミックスとしてアルミナを用いている。なお、熱線は、波長1μmである。
【0089】
まず、図3について説明する。図において、曲線A〜Dはそれぞれ高融点金属の含有体積率をパラメータとして吸熱手段の層厚(nm)と波長1μmの熱線吸収率の関係を示していて、曲線Aは高融点金属の含有体積率が10%、曲線Bは高融点金属の含有体積率が25%、曲線Cは高融点金属の含有体積率が50%、曲線Dは高融点金属の含有体積率が75%である。
【0090】
図3から理解できるように、高融点金属の含有体積率が10%の場合、波長1μmの吸収率が20%までしか得られないとともに、層厚の変化に対する上記吸収率の変化が小さい。高融点金属の含有体積率が25〜75%の場合、波長1μmの吸収率が35〜85%になるとともに、層厚の変化に対する上記吸収率の変化が大きくなり、封止予定部の全領域または一部領域を被覆する吸熱手段として高融点金属とセラミックスの混合層を用いることができる。高融点金属とセラミックスの混合層の層厚としては、製膜の容易性を考慮して0.01〜1μm程度が好ましい。
【0091】
次に、図4について説明する。図中の曲線は高融点金属の含有体積率に対する波長1μmの熱線吸収率の関係を示していて、一般に波長1μmの吸収率が20〜70%の範囲であれば、封止予定部の全領域を被覆する吸熱手段として効果的に作用し、好適には30〜50%である。なお、この吸収率が得られる高融点金属の含有体積率は12〜60体積%、好適には20〜40体積%である。
【0092】
図5および図6は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第3の形態を示し、図5は高圧放電ランプ全体の管軸に沿った断面図、図6は封止工程を示す説明図である。なお、図中、図1および図2と同一部分については同一符号を付して説明は省略する。
【0093】
本形態は、吸熱手段SAが高融点金属箔により構成されていて、封止部SPの一部を被覆している。すなわち、吸熱手段SAは、ニオブ、モリブデンおよびタングステンなどの高融点金属の箔が予めキャップ状に成形されている。そして、封止に先立ってこの吸熱手段SAを、図6(a)に示すように小径筒部1bの端部において、封止予定部の管軸方向の一部を被覆するように被せておく。
【0094】
そうして、図6(b)に矢印で示すようにYAGレーザなどの熱線を小径筒部1bの封止予定部に照射すると、吸熱手段SAに照射された熱線は、吸熱手段SAに吸収され、吸熱手段SAが温度上昇する。そして、主として熱伝導により封止予定部のほぼ全領域のセラミックスが外面側から加熱される。封止予定部で吸熱手段SAに被覆されていない領域に照射された熱線は、セラミックスを透過して小径筒部1b内に挿通されている電流導入導体2に吸収される。そのため、電流導入導体2が温度上昇すると、主として熱伝導により封止予定部のセラミックスが内側から加熱される。すなわち、封止予定部のセラミックスは内外両面側から加熱されてやがて溶融し、封止予定部のセラミックスが電流導入導体に融着するので、熱線照射を止めて冷却すれば封止部SPが形成される。
【実施例2】
【0095】
実施例2は、図5に示す高圧放電ランプである。
【0096】
透光性気密容器 :一体成形の透光性多結晶アルミナセラミックス製
包囲部;最大内径5mm、肉厚0.4mm
小径筒部;内径0.7mm、肉厚0.5mm、長さ6mm、
吸熱手段;厚さ1μm、直径1.8mm、長さ2mmのMo箔を封止予定部のうち、
端部側の領域に被せた。
【0097】
その他は、実施例1と同じ仕様である。
【0098】
得られた高圧放電ランプを高負荷(定格点灯の150%電力)点灯して1000時間経過時の破損個数は、0/10であった。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の高圧放電ランプを実施するための第1の形態を示す管軸に沿った断面図
【図2】同じく封止工程を示す説明図
【図3】本発明の高圧放電ランプを実施するための第2の形態における吸熱手段の層厚と熱線吸収率の関係を示すグラフ
【図4】同じく吸熱手段の高融点金属含有体積率と熱線吸収率の関係を示すグラフ
【図5】本発明の高圧放電ランプを実施するための第3の形態を示す管軸に沿った断面図
【図6】同じく封止工程を示す説明図
【符号の説明】
【0100】
1…透光性気密容器、1a…包囲部、1b…小径筒部、1c…放電空間、2…電流導入導体、2a…サーメット部、2b…モリブデン部、EM…電極マウント、SA…吸熱手段、SP…封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間が形成される包囲部および包囲部と一体化されてその内部に連通し少なくとも封止予定部が多結晶セラミックスを主体として形成された小径筒部を備え、セラミックスが融着して形成され、かつ外表面に高融点金属を含む吸熱手段の少なくとも一部が残留した封止部が小径筒部に形成されている透光性気密容器と;
透光性気密容器の封止部を気密に貫通して透光性気密容器の内部に導入された電流導入導体と;
電流導入導体の先端部に配設されて透光性気密容器の放電空間部に臨む電極と;
透光性気密容器内に封入された放電媒体と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
吸熱手段は、封止予定部において小径筒部の軸方向の少なくとも一部の外周面に配設された高融点金属膜、高融点金属とセラミックスの混合層、高融点金属とセラミックスのサーメット層および高融点金属箔の少なくともいずれか一つの手段であることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
照明装置本体と;
照明装置本体に配設された請求項1または2記載の高圧放電ランプと;
高圧放電ランプを点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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