説明

高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体

【課題】高密度、高硬度な炭素製品、例えば、最終製品である黒鉛ブロックを高密度、高硬度なブロックとして安定して製造可能な炭素材料用メソカーボン小球体を提供する。
【解決手段】
本発明に係る高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体は、累積質量30%粒子径が8μm以下、累積質量50%粒子径が9〜14μm、累積質量70%粒子径が16μm以上であることを特徴とする。
ここで、前記累積質量30%粒子径に対する前記累積質量70%粒子径の比は、2.0〜3.0であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度、高硬度な炭素製品の製造に用いられる炭素材料用メソカーボン小球体、例えば当該炭素材料であるメソカーボン小球体を成形、焼成、黒鉛化することで高密度、高硬度の黒鉛ブロックを安定して製造することが可能な炭素材料用メソカーボン小球体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、放電加工用電極等の特殊用途品の製造に用いられる炭素材料としては、主に自己焼結性を有するメソカーボン小球体(光学的異方性小球体)が用いられている。このメソカーボン小球体は、石油系重質油あるいはコールタールピッチ等を350℃〜500℃程度の温度で加熱処理して生成した光学的異方性小球体を、溶剤により分離した後、200℃〜450℃程度の温度で仮焼することで製造される。
【0003】
例えば、非特許文献1の3ページ目には、このような用途に用いられる高機能性炭素材原料のメソカーボン小球体として、累積質量30%粒子径(D30)が約7μm、累積質量50%粒子径(D50)が10.3μm、累積質量70%粒子径(D70)が約12μm、累積質量30%粒子径(D30)に対する累積質量70%粒子径(D70)の比D70/D30が、12μm/7μm=1.7であるものが開示されている。
【0004】
また、この非特許文献1の2ページ目には、上記メソカーボン小球体の製造方法が開示されている。さらに、この非特許文献1の5ページ目には、上記メソカーボン小球体を用いて成形、黒鉛化した黒鉛ブロックの物理的性質として、嵩密度(成形密度)が1.90g/cm、硬度(ショア硬度)が90である旨が開示されている。
【非特許文献1】川崎製鉄株式会社(現JFEスチール株式会社)、”KMFC高機能性炭素材原料”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記非特許文献1の2ページ目に記載されている方法により製造したメソカーボン小球体を用いて製造した黒鉛ブロックは、その成形、焼成及び黒鉛化の過程でクラックを生じる場合があり、また、最終製品の成形密度やショア硬度にばらつきが大きいことがわかった。特に、ショア硬度に関しては、そのばらつきが大きくなっていた。例えば、成形密度は、平均値が1.90g/cm、標準偏差が0.03g/cm、ショア硬度は、平均値が90、標準偏差が5である。そのため、安定して高密度、高硬度の黒鉛ブロックを製造することが難しいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、高密度、高硬度な炭素製品、例えば、最終製品である黒鉛ブロックを高密度、高硬度なブロックとして安定して製造可能な炭素材料用メソカーボン小球体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、最終製品である黒鉛ブロックが安定して高密度、高硬度なブロックとして製造可能なメソカーボン小球体について研究を重ねた。その中で、メソカーボン小球体の粒度分布が最終製品の成形密度及びショア硬度に大きく影響しているのではないか、と考えるに至り、その粒度分布を種々変更させて実験を行った。その結果、特定の粒度分布の原料を用いることで、上記課題を解消できることを見出した。
【0008】
本発明は上記の知見に基づきなされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]累積質量30%粒子径が8μm以下、累積質量50%粒子径が9〜14μm、累積質量70%粒子径が16μm以上であることを特徴とする高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体。
[2]上記[1]において、累積質量30%粒子径に対する累積質量70%粒子径の比が、2.0〜3.0であることを特徴とする高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高密度、高硬度な炭素製品、例えば、最終製品である黒鉛ブロックを高密度、高硬度なブロックとして安定して製造可能な炭素材料用メソカーボン小球体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0011】
本発明の高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体は、累積質量30%粒子径が8μm以下、累積質量50%粒子径が9〜14μm、累積質量70%粒子径が16μm以上であることを特徴とするものである。なお、以下においては、前記累積質量30%粒子径をD30、前記累積質量50%粒子径をD50、前記累積質量70%粒子径をD70と記載する。
【0012】
ここで、メソカーボン小球体は、石油系重質油あるいはコールタールピッチ等を350℃〜500℃程度の温度で加熱処理して生成した光学的異方性小球体を、溶剤により分離した後、200℃〜450℃程度の温度で仮焼することで製造される。より詳しく説明すると、例えば、コールタールピッチを350℃〜500℃程度の温度で10分〜6時間加熱処理して液相(ピッチ)中に中間相のメソカーボン小球体を生成させ、溶剤で分別し、これを濾別することでメソカーボン小球体を得る。ここで得られたメソカーボン小球体は、相当量のピッチ分(例えばβ成分等)や溶剤が残存しているため、次に、不活性雰囲気中で200℃〜450℃程度の温度で2時間〜10時間仮焼してメソカーボン小球体中に残存する軽質分を除去し、同時にβ成分等の重質分をキノリン不溶分(QI)に変える。この結果、メソカーボン小球体の最表面にわずかなβ成分が付着したメソカーボン小球体の仮焼品が得られる。このβ成分は焼成、黒鉛化の際にQIに変わることで、焼結性を向上させる重要なものである。
【0013】
そして、上記により製造したメソカーボン小球体の仮焼品に対し、粒度分布の調整を行うことにより本発明のメソカーボン小球体を得ることができる。ここで、前記粒度分布の調整は、メソカーボン小球体の製造条件である加熱温度或いは仮焼温度を調整、若しくは、加熱時間或いは仮焼時間を調整することで行うことができる。例えば、前記加熱温度或いは仮焼温度を高くし、または、加熱時間或いは仮焼時間を長くして、通常よりも粒度分布の大きなメソカーボン小球体を製造した後、分級して粒度分布を調整してもよい。また、粒径の大きなメソカーボン小球体製造した後、それを粉砕し、従来よりも粒度分布の大きなメソカーボン小球体を製造した後、分級して粒度分布を調整してもよい。
【0014】
本発明者らは、種々の粒度分布のメソカーボン小球体を製造し、それらを成形、焼成及び黒鉛化して製品ブロックを作成し、その成形密度及びショア硬度を測定した。この成形密度及びショア硬度の測定結果と、メソカーボン小球体の粒度分布との関係を調査した結果、以下の結論を得た。
【0015】
つまり、黒鉛化後に密度を低下、不安定化させる主要因は、成形段階においてマクロポア(巣、成形欠陥)が存在することによるものであり、緻密でミクロポア(数μm以下の空孔)が均一に分布する成形体に成形することが最終製品である黒鉛ブロックを高密度及び高硬度に生産できる手段となる。
【0016】
まず、ミクロポアの分布が均一となる理想的な成形体を得るために、原料となるメソカーボン小球体に必要な条件としては、マクロポアの形成を助長する粗粒子の混入を避ける必要がある。マクロポアは粗粒子間の空隙に起因すると考えられるからである。風力分級機を用いて最大粒子径の値を種々変化させ、得られた成形体の成形密度を測定するとともに、顕微鏡でマクロポアの存在の有無を調査した結果、D50が14μmを越える場合にマクロポアの存在が観察され、成形密度もその平均粒子径の増加とともに低下した。
【0017】
一方、風力分級機で微粉側の粒子径の値を種々変化させ、得られた成形体の成形密度を測定するとともに、顕微鏡でマクロポアの存在の有無を調査した。その結果、微細粒子が凝集体を形成したことが原因と考えられるマクロポアの形成が見られた。すなわち、D50が9μmを下回るようなメソカーボン小球体については、D50が14μmを越える場合と同様に成形体の成形密度低下の傾向が確認された。
【0018】
つまり、上記の見地より、本発明においては、D50(累積質量50%粒子径)は9〜14μmの範囲とした。
【0019】
さらに、メソカーボン小球体の粒度が成形体の成形密度に与える影響を調査した。メソカーボン小球体は、仮焼時やその後の粉砕でメソカーボン小球体の表面に付着したβ成分がはがれ、微粉となりやすい。そのため、微細粒子側にはβ成分が多く存在し、粗粒子側にはβ成分がはがれたメソカーボン小球体が多く存在する。粗粒子間の隙間にβ成分が主体となった微細粒子を充填することが成形体の成形密度を上げるためには有利となる。したがって粒度分布としては、ある程度広がりをもった粒度分布を持つことが必要となる。
【0020】
このような見地から、本発明においては、微細粒子の平均粒径に相当するD30(累積質量30%粒子径)は8μm以下、より好ましくは7μm以下、粗粒子の平均粒径に相当するD70(累積質量70%粒子径)は16μm以上の範囲とした。
【0021】
D30の好ましい下限値は5.5μmである。この下限値が小さすぎると成形密度が上がらない。また、D70の好ましい上限値は18.5μmである。この上限値が大きすぎると成形密度とショア硬度のばらつきが大きくなる。
【0022】
ここで、前記粗粒子側の粒径と微細粒子側の粒径の関係としては、D30に対するD70の比が、2.0〜3.0であることが好ましい。このような範囲とすることで、成形体がより最密充填構造となりやすくなる。なお、D30に対するD70の比を前記範囲とすることで、本発明に係るメソカーボン小球体は、粒子径が8μm以下と16μm以上にピークを持つ粒度分布を有する。
【実施例1】
【0023】
粒度分布の異なる種々のメソカーボン小球体(800℃揮発分は8〜12質量%)を用いて、成形、焼成及び黒鉛化を行った。成形、焼成及び黒鉛化の条件を以下に示す。
【0024】
成形:金型を用いて、φ80mmで高さ約30mmの成形ブロックを作成した。成形は4.9MPa(50kgf/cm)で乾式プレス実施後、29.4GPa(300tf/cm)のCIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加工法)成形を行った。
【0025】
焼成:室温から1000℃まで10℃/時で大気中において昇温し、1000℃で3時間保持することで焼成を行った。
【0026】
黒鉛化:焼成後、2800℃まで0.5℃/分で昇温し、黒鉛化を行い、黒鉛ブロックの作成を行った。
【0027】
上記条件により成形、焼成及び黒鉛化を行った黒鉛ブロックについて、成形密度及びショア硬度の測定を行った。
【0028】
ここで、前記成形密度の測定は、空中と水中の質量を求めアルキメデス法により、n数を10として測定し、その平均値により算出した。
【0029】
また、前記ショア硬度の測定は、黒鉛ブロックをスライスし、その断面のショア硬度(Hb)を、n数を10として測定し、その平均値により算出した。
【0030】
ショア硬度は、36gのダイヤモンドハンマーを19mmの高さから落下させ、ハンマーの反発高さから求めた。
【0031】
以下の表1に、本発明例1〜6、比較例1〜4について、成形密度及びショア硬度の測定を行った結果を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、本発明例1〜6においては、平均成形密度1.90〜1.93g/cm、標準偏差0.01〜0.03g/cmであったのに対し、比較例1〜4においては、平均成形密度1.72〜1.87g/cm、標準偏差0.02〜0.05g/cmであった。
【0034】
また、本発明例1〜6においては、平均ショア硬度89〜94、標準偏差1.0〜2.1であったのに対し、比較例1〜4においては、平均ショア硬度68〜85、標準偏差2.8〜7.7であった。
【0035】
つまり、本発明に係るメソカーボン小球体を用いることで、最終製品である黒鉛ブロックを高密度、高硬度なブロックとして安定して製造可能であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
累積質量30%粒子径が8μm以下、累積質量50%粒子径が9〜14μm、累積質量70%粒子径が16μm以上であることを特徴とする高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体。
【請求項2】
累積質量30%粒子径に対する累積質量70%粒子径の比が、2.0〜3.0であることを特徴とする請求項1に記載の高密度、高硬度な炭素材料用メソカーボン小球体。