説明

高張力無方向性電磁鋼板およびその製造方法

【目的】 本発明は回転機のローター用鉄心材料として使用される、回転時の応力あるいは加減速時の応力変動に耐え得る優れた機械特性と磁気特性を兼備した、降伏強度の高い無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供するものである。
【構成】 無方向性電磁鋼板の製造において、C:0.05%以下、Si:2.0%以上4.0%未満、Al:2.0%以下、P:0.2%以下を含み、かつNb,Zrのうち1種または2種、もしくはTi,Vのうち1種または2種を、0.1<(Nb+Zr)/8(C+N)<1.0、0.4<(Ti+V)/4(C+N)<4.0の範囲で含有する鋼を、熱間圧延後、550℃以下で捲き取り、未再結晶部比率を40%以上、再結晶部平均結晶粒径を60μm以下とし、冷間圧延後、700〜900℃で仕上焼鈍を施す。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、回転機のローター用鉄心素材として用いられる無方向性電磁鋼板、特に、回転時の応力あるいは加減速時の応力変動に耐え得る、優れた機械特性と磁気特性を兼備した降伏強度の高い回転機用無方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近のエレクトロニクスの発達は目覚ましく、回転機の駆動システムの高度化により、さまざまな回転駆動制御が可能になりつつある。すなわち、駆動電源の周波数制御により、可変速運転、商用周波数以上での高速運転を可能とした回転機が増加してきている。一方、メカトロニクスの発展は、回転機の高速化を促し、さらに、従来、高速回転機は比較的小容量に限られていたが、中・大型の回転機にも広がりつつある。
【0003】このような高速回転機の実現には、高速回転に耐え得る構造の回転子とする必要がある。ところで、一般に、回転体に作用する遠心力は回転半径に比例し、回転速度の2乗に比例する。このため、中・大型の高速回転機では、その回転子に作用する力が例えば60kgf/mm2 を超える場合もある。また、超大型の回転機の場合、回転数が比較的低くても、回転子の直径が大きいために、結果的に非常に大きな応力が作用する場合があり、回転子には高張力の素材が必要となる。さらに、可変速運動が必要な回転機では、加減速が頻繁に行われるため、素材として単に張力が高いだけでなく、繰り返し応力に対して疲労破壊する限度応力(疲労限)も高い素材でなければならない。
【0004】通常、回転機の回転子には、積層した無方向性電磁鋼板が使用されるが、前記のような回転機では所要の機械強度を満足できない場合があり、その際には中実の鋳鋼製の回転子などが用いられている。しかし、回転機の回転子は、電磁気現象を利用するものであるから、その素材としては、前述のように、機械特性と同時に磁気特性が優れていることが要求される。すなわち、中実鋳鋼製の回転子では、一体物であるために、渦電流損が非常に大きくなり、電磁鋼板を積層してから成る回転子を用いた場合に比べ、回転機としての効率が数%も低くなる。また、回転子鉄心素材の磁束密度が低いと、所要のトルクを発生させるために必要な磁束を回転子に流すためには、励磁アンペアターンを大きくしなければならない。これは、励磁コイルでの銅損の増加につながるため、回転機の総合的な効率を低下させることになる。
【0005】このように、前記のような回転機の回転子鉄心素材としては、機械的には高い張力と疲労強度を有し、かつ磁気的には低鉄損高磁束密度を同時に有するものでなければならない。鋼板の機械強度を高める手段として、冷延鋼板の分野では一般に、固溶硬化、析出硬化、細粒化硬化、変態組織硬化などの方法が用いられるが、高い機械強度と低鉄損高磁束密度という優れた磁気特性とは相反する関係にあり、これらを同時に満足させることは極めて困難であった。
【0006】しかし、最近では、高張力を有する無方向性電磁鋼板についてのいくつかの提案がなされてきている。例えば、特開昭60−238421号公報のように、Si含有量を3.5〜7.0%と高め、これに固溶硬化の大きい元素を添加し、張力を高める方法が提案されているが、この方法では、Si含有量に依存している割合が高いために、熱延板から最終冷延厚みに圧延するに際して、100〜600℃での温間圧延が必要であるという問題がある。また、特開昭61−9520号公報では、Si含有量を2.5〜7.0%と高め、これに固溶硬化の大きい元素を添加した溶鋼を急冷凝固法により鋼帯となし、これを温間または冷間圧延し、焼鈍を施して高張力無方向性電磁鋼板を製造する方法が提案されている。この方法によれば、Si含有量を高めても、急冷凝固法であるため、圧延時の脆化問題は緩和されるものの、急冷凝固法という特殊な鋳造法を用いねばならず、工業的に広く用いられている通常の圧延法には適用できないという大きな問題がある。
【0007】さらに、特開昭62−256917号公報では、Si含有量は2.0〜3.5%とし、NiあるいはNiとMn含有量を高め、通常の冷間圧延を施し、焼鈍条件を制御することにより、高張力無方向性電磁鋼板を製造する方法が提案されている。しかし、この方法では、高価なNi含有量を高めねばならず、コストアップになるという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記に鑑み本発明は、機械特性および磁気特性ともに優れた、降伏強度の高い回転機用無方向性電磁鋼板およびその製造方法を安価に提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、珪素鋼において、固溶硬化、析出硬化、細粒化硬化、変態組織による硬化、加工硬化などの強化方法を用いて、機械特性および磁気特性を両立させることはできないかとの観点から鋭意研究を積み重ねてきた。その結果、通常の無方向性電磁鋼板ハイグレード程度にSiを含有させると同時に、Nb,Zrの1種または2種、もしくはTi,Vの1種または2種の炭窒化物を活用し、さらには熱延条件および仕上焼鈍条件を制御することにより、機械特性と磁気特性を兼備した降伏強度の高い無方向性電磁鋼板が得られることを見出した。
【0010】本発明は上記の知見に基づきなされたものであり、その要旨は、重量%で、C:0.05%以下、Si:2.0%以上4.0%未満、Al:2.0%以下、P:0.2%以下を含み、かつNb,Zrのうち1種または2種を、もしくは、Ti,Vのうち1種または2種を、0.1<(Nb+Zr)/8(C+N)<1.0、0.4<(Ti+V)/4(C+N)<4.0の範囲で含有し、残部Feおよび不可避不純物元素より成ることを特徴とする機械特性、磁気特性ともに優れた高張力無方向性電磁鋼板にある。また、他の要旨は、重量%で、C:0.05%以下、Si:2.0%以上4.0%未満、Al:2.0%以下、P:0.2%以下を含み、かつ、Nb,Zrのうち1種または2種を、もしくは、Ti,Vのうち1種または2種を、0.1<(Nb+Zr)/8(C+N)<1.0、0.4<(Ti+V)/4(C+N)<4.0の範囲で含有し、残部Feおよび不可避不純物元素より成る鋼を、熱間圧延し、550℃以下の温度で捲き取り、熱延板の未再結晶部分の比率を40%以上、再結晶部分の平均結晶粒径を60μm以下とし、その後、冷間圧延し、700℃以上900℃以下の温度で仕上焼鈍するところにある。
【0011】以下、本発明を詳細に説明する。Siは電気抵抗を増大させて渦電流損を低減することにより鉄損を低下させる作用を有すると同時に、固溶硬化により鋼の張力を高める作用も有する成分であり、これらの作用を奏するためには2.0%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が増えると磁束密度が低下し、また冷延などの作業性の劣化、さらにはコスト高ともなるので4.0%未満とする。Alも電気抵抗を増大させて渦電流損を低減することにより鉄損を低下させる作用を有するので、さらに優れた磁気特性、特に低鉄損化を図る場合には2.0%以下の範囲で添加する。その含有量が2.0%を超えると、磁束密度が低下し、またコスト高ともなる。Pは鋼の張力を高める効果が非常に大きい元素であるが、粒界に偏析することから鋼の粒界脆性をもたらす場合がある。この粒界脆性の問題を避けて、通常の工業的規模での連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延を可能にするため、0.2%以下の範囲で添加する。
【0012】NbおよびZrは、微細な炭窒化物を形成し、析出硬化および細粒化硬化により鋼の張力を高める作用を有する。この作用を奏するためには、(Nb+Zr)/8(C+N)が0.1超である必要があり、また、その含有量が増えても、再結晶温度の上昇さらにはコスト高をも招くので、(Nb+Zr)/8(C+N)で1.0未満とする。TiおよびVも、微細な炭窒化物を形成し、析出硬化および細粒化硬化により鋼の張力を高める作用を有する。この作用を奏するためには、(Ti+V)/4(C+N)が0.4超である必要があり、またその含有量が増えても、再結晶温度の上昇、さらにはコスト高をも招くので、(Ti+V)/4(C+N)で4.0未満とする。上述のNb,Zr,Ti,Vなどの炭窒化物形成元素を活用する場合のCは0.05%以下とする。その含有量が0.05%を超えると、磁気時効などにより磁性、特に鉄損の劣化が著しくなる。
【0013】上述の成分以外は鉄および不可避不純物元素であるが、Pによる粒界脆性を軽減する目的で、必要に応じてBを添加してもよい。この場合、Bは0.0010%以上含有させる必要があり、一方、その含有量が増えても、磁束密度の低下や熱間脆性などを招くので、0.0070%以下とする。また、鋼の電気抵抗を増大させて鉄損を低下させ、かつ固溶硬化により張力を高める目的で、必要に応じてMnを添加してもよい。この場合、Mnは0.1%以上含有させる必要があり、一方、その含有量が増えると磁束密度が低下し、またコスト高ともなるので2.0%以下とする。
【0014】前記成分から成る鋼は、転炉あるいは電気炉などで溶製し、連続鋳造あるいは造塊後の分塊圧延により鋼スラブとする。次いで、この鋼スラブは所望温度に加熱後、熱間圧延する。熱間圧延後、550℃以下の温度で捲き取り、熱延板の未再結晶部分の比率を40%以上、再結晶部分の平均結晶粒径を60μm以下とする。捲取温度が550℃を超えると、Pの粒界偏析により、熱延板の粒界脆化を引き起こす場合があり、その後の通板に支障をきたすことになる。また、熱延板の未再結晶部分の比率が40%未満であったり、あるいは再結晶部分の平均結晶粒径が60μmを超えると、Pの粒界偏析が顕著となり、熱延板の粒界脆化が生じやすくなる。
【0015】熱延板は、その後、冷間圧延により所定の板厚とされ、再結晶のための連続仕上焼鈍を施す。仕上焼鈍は700℃以上900℃以下の温度で行う必要がある。仕上焼鈍温度が700℃未満では、未再結晶部分が残存するため磁性が劣化し、また形状も悪化する。一方、900℃を超えると、結晶粒成長により結晶粒が粗大化し、張力が低下する。
【0016】
【実施例】次に本発明の実施例を示す。
(実施例1)表1に示した成分の鋼を、熱間圧延により2.0mm厚とし、500℃で捲き取った。この場合、熱延板の未再結晶部分の比率は45%、また、再結晶部分の平均結晶粒径は48μmであった。この熱延板を酸洗した後、0.50mm厚に冷間圧延し、750℃で30秒間の連続仕上焼鈍を施した。得られた製品板からエプスタイン試料およびJIS6号引張試験片を採取し、磁気特性および機械特性を測定した。その測定結果も併せて同表に示した。表1から明らかなように、本発明によれば、優れた機械特性と磁気特性を兼備した、降伏強度の高い無方向性電磁鋼板が得られることがわかる。
【0017】
【表1】


【0018】(実施例2)C:0.0302%、Si:3.08%、Mn:0.18%、P:0.04%、Al:0.71%、N:0.0010%、B:0.0032%、Ti:0.021%を含有する鋼〔(Ti+V)/(C+N)=0.673〕を、熱間圧延により2.3mm厚とし、表2に示す条件で捲き取った。この熱延板を酸洗した後、0.50mm厚に冷間圧延し、770℃で30秒間の連続仕上焼鈍を施した。得られた製品板からエプスタイン試料およびJIS6号引張試験片を採取し、磁気特性および機械特性を測定した。その測定結果も併せて同表に示した。表2から明らかなように、本発明により、優れた機械特性と磁気特性を有する高張力無方向性電磁鋼板が得られることがわかる。
【0019】
【表2】


【0020】(実施例3)C:0.0252%、Si:3.16%、Mn:0.25%、P:0.03%、Al:0.58%、N:0.0012%、B:0.0036%、V:0.019%を含有する鋼〔(Ti+V)/(C+N)=0.72〕を、熱間圧延により2.2mm厚とし、520℃で捲き取った。この場合、熱延板の未再結晶部分の比率は45%、また再結晶部分の平均結晶粒径は、52μmであった。この熱延板を酸洗後、0.50mm厚に冷間圧延し、表3に示す条件で連続仕上焼鈍を施した。得られた製品板からエプスタイン試料およびJIS6号引張試験片を採取し、磁気特性および機械特性を測定した。その測定結果も併せて同表に示した。表3によれば、機械特性、磁気特性ともに優れた高張力無方向性電磁鋼板が本発明により得られることがわかる。
【0021】
【表3】


【0022】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、優れた機械特性と磁気特性を兼備した降伏強度の高い回転機用高張力電磁鋼板およびその製造方法が提供され、回転機の高速回転化の動きの中で、そのローター用鉄心材料である無方向性電磁鋼板に対してなされる要請に十分に応えることができ、その工業的価値は極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、C :0.05%以下、 Si:2.0%以上4.0%未満、Al:2.0%以下、 P :0.2%以下を含み、かつ、Nb,Zrのうち1種または2種を、もしくは、Ti,Vのうち1種または2種を、0.1<(Nb+Zr)/8(C+N)<1.0、0.4<(Ti+V)/4(C+N)<4.0の範囲で含有し、残部Feおよび不可避不純物元素より成ることを特徴とする機械特性、磁気特性ともに優れた高張力無方向性電磁鋼板。
【請求項2】 重量%で、C :0.05%以下、 Si:2.0%以上4.0%未満、Al:2.0%以下、 P :0.2%以下を含み、かつ、Nb,Zrのうち1種または2種を、もしくは、Ti,Vのうち1種または2種を、0.1<(Nb+Zr)/8(C+N)<1.00.4<(Ti+V)/4(C+N)<4.0の範囲で含有し、残部Feおよび不可避不純物元素より成る鋼を、熱間圧延し、550℃以下の温度で捲き取り、熱延板の未再結晶部分の比率を40%以上、再結晶部分の平均結晶粒径を60μm以下とし、その後、冷間圧延し、700℃以上900℃以下の温度で仕上焼鈍することを特徴とする機械特性、磁気特性ともに優れた高張力無方向性電磁鋼板の製造方法。