説明

高強度耐熱性強靭アルミニウム合金鋳物

本発明は、高強度で耐熱性があり、延性に富むアルミニウム合金鋳物(Al Si 7 Mg 0.25 Zr wa又はAl Si 7 Mg 0.25 Hf wa)及び(Al Si 6 Mg 0.25 Zr wa又はAl Si 6 Mg 0.25 Hf wa)に関する。この合金は、Si:6.5〜7.5重量%及び5.5〜6.5重量%、Mg:0.20〜0.32重量%、Zr:0.03〜0.50重量%及び/又はHf:0.03〜1.50重量%、Ti:0〜0.20重量%、Fe:<0.20重量%、Mn:<0.50重量%、Cu:<0.05重量%、Zn:<0.07重量%、及び、各場合ともそれぞれ100重量%にするために加えるAlを含んでいる。本発明は、シリンダヘッドのようなこのAl合金鋳物製の加工品又は部品用として、このAl合金鋳物を、高い熱負荷で使用する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zr及び/又はHfを含有する、高強度で耐熱性があり、強靭で延性に富むアルミニウム合金鋳物と、この合金鋳物製の加工品又は部品の製造におけるこの合金鋳物の使用法とに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排出物と燃料消費とを低減し、その出力を増大させるために、内燃機関、特にディーゼルエンジンの燃焼圧力及び温度は過去数年にわたって増大してきた。この増大の結果、加工品に対する熱機械的な負荷に関して要請される要件が一層増えてきている。
【0003】
現行技術によれば、特に内燃機関製造用のアルミニウム(Al)合金鋳物が知られている。Al合金鋳物製の鋳物Al部品は、低比重、簡易な成形及び容易な製造の点から広く用いられている。さらに、多様な鋳造法によって、内燃機関用のピストン、シリンダヘッド、クランクケース、又はエンジンブロックのようなAl合金鋳物製の複雑な加工品又は部品の製造が可能である。このような加工品及び特にこれらの加工品のある範囲のものは、運転状況中に高い熱機械的負荷に曝される。
【0004】
周知の高強度強靭Al合金鋳物、例えばAl Si 7 Mg 0.3 wa(注:waは独語warmausgehaertetの省略形で、T6、T7などの「熱処理をすること」を意味する)は、これらの運転条件の下でその性能限界に達する。周知のシリンダヘッド合金GK−Al Si 7 Mg 0.3 Cu 0.5 waは、Cuを含有しているために脆性を示し、ノッチ効果に敏感である。又、このタイプのシリンダヘッド合金は、テスト中に、燃焼室プレート(気筒間空間部材、バルブシート、バルブポート、グロープラグ穿孔)及び水路におけるひび割れに敏感であることが判明した点が短所となっている。さらに、このようなCu含有Al合金鋳物は、シリンダヘッドに用いられる冷却流体と反応して腐食性のスラリを形成する。上記の各Al合金鋳物においては、強度を増強するMgSi及びAlCuの析出物が熱処理によって形成されるが、これらは150℃を超える温度では安定でなく、従って現代のエンジンの熱機械的負荷には適合しない。150℃を超える長期の熱負荷の下では少なくとも30%の強度低下が発生する。しかも、MgSi及びAlCu相がさらに析出すると、部品の高い熱負荷を受ける部分に不可逆的な熱膨張が発生し、これは運転中の合金の熱サイクルへの耐久性を低下させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高強度で耐熱性があり同時に強靭なAl合金鋳物であって、150℃以上の温度でその強度値を保持し、さらに、相形成の低下によって熱膨張が低く、従って240℃までの温度における強化された熱機械的安定性を有する特徴を備えたAl合金鋳物を作製することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、請求項1の特徴部分によって達成される。さらに、現行技術の欠点を克服することができる。
【0007】
Al合金鋳物の場合、通常は結晶粒の微細化が、溶融物の中にAlTi核を形成するチタン(Ti)を用いて行われる。高い熱負荷の結果として、加工品用の現代の合金、特にシリンダヘッドにおける合金の鋳造組織はクリープを受けやすいので、組織の結晶粒界を耐高温性の析出物で安定化させる必要がある。
【0008】
Ti以外にも、一方では微細結晶粒の成長を促進する化学元素、及び、他方では、高温安定の結晶粒界析出物及び/又は固溶体硬化によって微細組織を250〜300℃まで熱的に安定化させる化学元素が考慮の対象になる。微細組織は、250℃を超える温度においては、高温安定な結晶粒界析出物及び/又は固溶体硬化によって安定化されることを指摘しなければならない。これは、対クリープ抵抗を改善し、結晶粒界すべりと結晶粒の成長を防止する。さらに加えて、所望の高温強度が、固溶体硬化と析出物硬化とによって、合金を脆化することなく実現される。高い極限ひずみと耐熱性に対しては、固溶体硬化の含有量が高いものが有利である。
【0009】
本発明に従って所要の要件を達成するためには、材料を脆化させる針状組織を特に鋳造中に形成しない金属間化合物の高温相の存在が確認されなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
最初に、高強度で強靭なAl合金鋳物Al Si 7 Mg waを取り上げると、この合金は、本発明に従って、元素Zr及び/又はHfによって変性される。意外なことに、Zr及び/又はHfは上記の要件を達成する。つまり、Alと結合して高温安定な金属間化合物AlZr及びAlHfの高温相、並びに、AlZrSi、AlHfSi、あるいはAl(Zr、Hf)SiのようなZr及びHfを含有するケイ化アルミニウムの高温相を生成する結果をもたらす。これらの高温相は、1582℃(AlZrの場合)及び1590℃(AlHfの場合)の融点を有している。AlZr又はAlHfを含むAlプレアロイの形のZr及び/又はHfは、その高い温度安定性及びAlへのきわめて低い溶解度のために、結晶粒微細化添加剤として非常に効果的であり、本発明によるAl合金鋳物の熱機械的強度を決定因子的に決定する。後段の熱処理において、耐高温性のZr及び/又はHf含有ケイ化アルミニウムが付加的に形成されて、組織が熱的に安定化し、場合によっては、240℃における不可逆熱膨張を低く抑えることができる。針状の析出物、又は脆化をもたらす析出物を避けるために、微細なAlZr又はAlHf相の形のZr又はHfは、最大10重量%のZr及び/又はHfを含むAlプレアロイによって、粉体又は線の形で溶解Alの中に投入する必要がある。結晶粒微細化のためには、僅少量、すなわち僅かに0.03重量%のZr及び/又はHfの最低含有量が必要なだけである。
【0011】
周知のTi結晶粒微細化に比べて、特に本発明によるZr及び/又はHf結晶粒微細化は、AlZr及び/又はAlHf相がAlTiよりも温度安定であり、さらにZr又はHfはAlへの溶解度が遥かに小さいという特徴を有している点で好ましい。
【0012】
GK−Al Si 7 Mg waのシリンダヘッドによって、結晶粒微細化の効果が実証された。Al Ti 10、Al Ti 5、あるいはAl Ti 3 B 1のような従来のTi含有結晶粒微細化添加剤を使用して、燃焼室プレートにおいて、Alデンドライトの20〜70μmのアームスペーシングを有する組織を実現した。Zr又はHfを、Al Zr 5、Al Zr 10、Al Hf 5、あるいはAl Hf 10のようなAlZr又はAlHf含有Alプレアロイの形で、GK−Al Si 7 Mgに0.10〜0.20重量%添加すると、Alデンドライトのアームスペーシングを10〜50μmに経済的に低減することができた。追加的なTi結晶粒微細化によっても同様に微小なデンドライトアームスペーシングが得られる。690℃を超える温度での本発明に基づくZr又はHfによる合金化の間、AlZr又はAlHf相は、その僅かな部分のみが、Zr又はHf含有Alプレアロイから溶解するのみであり、従って、十分なAlZr又はAlHf核がAlの結晶粒微細化のために残される。これに対して、すでに溶解しているZr及びHfは、圧力又は重力ダイカスト法における凝固速度に応じて、アルミニウムの中に溶解した状態に留まる。470℃〜560℃の間の溶体化熱処理と、水による急冷と、160℃を超える温度における時効硬化とからなる後段の熱処理の期間中に、本発明に従って、合金の組成以外にも、固溶体硬化の析出物硬化に対する比率も確定される。高温において長時間溶体化熱処理し、続いて水冷すると、固溶体硬化の含有率が高くなり、200℃〜250℃の温度で長時間溶体化熱処理すると、AlZrSi、AlHfSi、あるいはAl(Zr、Hf)SiのようなZr又はHf含有ケイ化アルミニウムが形成されて析出物硬化の比率が高くなり、固溶体硬化が低下する結果となる。470℃〜560℃の間の溶体化熱処理の間に、0.15重量以下%のZrあるいは1.00重量%以下のHfが溶解し得る。従って、合金の脆化を伴わない強度の増大に関しては、Hfの方がZrに比べて有利である。150℃〜250℃のエンジン温度(運転温度)においては、固溶体硬化は大部分保存されたままの状態が続く。これに対して、熱負荷の下では、AlZr及び/又はAlHfによる析出物硬化は低減する。しかし、材料強度の低下は、ごく僅かなものであるか、あるいは、MgSiの析出物硬化の場合よりも小さい。これは、未溶解のAl結晶粒微細化添加剤と、後に形成されるAlZrSi、AlHfSi、あるいはAl(Zr、Hf)SiのようなZr及びHf含有ケイ化アルミニウムとに由来するAlZr及び/又はAlHfが高温安定性を備えているからである。Ti結晶粒微細化を追加的に行うと、AlZr/AlHf分散質以外に、Al(Zr、Ti)又はAl(Hf、Ti)の混合分散質が形成され、あるいは又、ケイ素との反応によって、AlZrSi、AlHfSi、あるいはAl(Zr、Hf、Ti)SiのようなZr、Hf、又はTi含有ケイ化アルミニウムが形成される。これらの析出物はきわめて温度安定であるので、本発明によって、Zr又はHfを含有するAl Si 7 Mg waにおける不可逆的熱膨張が低下する結果が得られる。例えば、Zr/Hfを含まないGK−Al Si 7 Mg製のシリンダヘッドをT7熱処理したものの不可逆的熱膨張は、240℃に100h曝露後に、0.05〜0.06%である。僅かに0.10重量%のZrを添加するだけで、この不可逆的熱膨張は約0.04%に低下し、Zrを0.20重量%添加するとさらに約0.025%に低下する。本発明によれば、GK−Al Si 6 Mg 0.26 Zr/Hf製のT7熱処理したシリンダヘッドの不可逆的熱膨張は、Si含有量を4.5〜6.5重量%に低減することによって、さらに10%低下させることができた。このSi含有量はAl Si 7 Mgの範囲(Al Si 7 Mg:6.5〜7.5重量%Si)外にある。さらに、シリンダヘッドの極限ひずみがAl Si 7 Mgに比べて約1%だけ改善されたので、全体として温度サイクルへの高い耐久性が実現される。Si含有量は好ましくは5.5〜7.5重量%の範囲、特に好ましくは6.5〜7.5重量%の範囲である。
【0013】
本発明による合金の所要の高い強靭性、あるいはノッチ効果に対する抵抗力を保証するために、Al Si 7 Mg合金におけるFe及びMgの含有量を本発明に従って制限する必要がある。本発明によれば、以下のような化学組成が提案される。
【0014】
本発明によるAl合金鋳物の化学組成は次のとおりである(短縮表記:Al Si 7 Mg 0.25 Zr wa又はAl Si 7 Mg 0.25 Hf wa又はAl Si 6 Mg 0.25 Zr wa又はAl Si 6 Mg 0.25 Hf wa)。すなわち、
Si:4.5〜7.5重量%、特に、6.5〜7.5重量%、
Mg:0.20〜0.32重量%、
Zr:0.03〜0.50重量%及び/又はHf:0.03〜1.50重量%、
Ti:0〜0.20重量%、
Fe:<0.20重量%、
Mn:<0.50重量%、
Cu:<0.05重量%、
Zn:<0.07重量%、
及び、各場合ともそれぞれAlを加えて100重量%にする。
【0015】
場合によっては、当分野における当業者にとっては周知のように、製造プロセスからの残留不純物(Nb、V、B、Ni、Co)が含まれることがある。
【0016】
さらに、Zr、Ti及びHfは、上記の範囲内において、混合物として存在してもよい(例えば、Hfの“不純物を含有する”Zr)。
【0017】
GK−Al Si 7 Mg 0.25 Zr waのシリンダヘッドによって、0.10〜0.20重量%のZr添加により、引張強度及び降伏点を、合金を脆化することなく少なくとも10%だけ改善できることが明らかになった。又、Zrの結晶粒微細化効果があるので、極限ひずみは変化せずにそのままの状態に留まる。240℃における不可逆的熱膨張は約50%低減することができた。
【0018】
目標とした高い強度値は、高い強靭性と共に、さらに、微細な鋳造組織によって実現することができる。このため、鋳造中の高い凝固速度が望ましい。又、同等の鋳造厚さの場合は、重力ダイカスト法及び圧力ダイカスト法の組織の方が、砂型鋳造に比べてより微細である。
【0019】
本発明は、以上に述べたAl合金鋳物を、この合金鋳物製の加工品又は部品の製造に使用する方法にも関する。ここで、“この合金鋳物製の部品”という表現は、構成要素、ケーシング、被覆等のような、その加工品の固有の部分を意味している。
【0020】
加工品は、特に、内燃機関のピストン、シリンダヘッド、クランクケース、又はエンジンブロックのような品目であるがこれに限定されるわけではない。
【0021】
本発明によるAl合金鋳物並びに加工品の製造については、当分野に携わる当業者に周知されている通常の方法を、ここに特に規定しない限り利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学組成、すなわち、
Si:4.5〜7.5重量%、
Mg:0.20〜0.32重量%、
Zr:0.03〜0.50重量%及び/又はHf:0.03〜1.50重量%、
Ti:0〜0.20重量%、
Fe:<0.20重量%、
Mn:<0.50重量%、
Cu:<0.05重量%、
Zn:<0.07重量%、
及び、合計で100重量%にするために加えられるAl、を含むAl合金鋳物。
【請求項2】
Zr及びHfが、上記の範囲において混合物として存在する、請求項1に記載のAl合金鋳物。
【請求項3】
前記合金が、金属間化合物であるAlZr及び/又はAlHfの高温相を含むことを特徴とする、請求項1あるいは2に記載のAl合金鋳物。
【請求項4】
前記合金が、金属間化合物であるAl(Zr、Ti)及び/又はAl(Hf、Ti)相を、特に混合分散質として含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のAl合金鋳物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のAl合金鋳物を、内燃機関のピストン、シリンダヘッド、クランクケース、又はエンジンブロック用として使用する方法。

【公表番号】特表2007−500793(P2007−500793A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529730(P2006−529730)
【出願日】平成16年5月3日(2004.5.3)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004654
【国際公開番号】WO2004/104240
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)