説明

高比重樹脂組成物

【課題】 比重が大きく、成形性に優れ、かつ強度の強い熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリアミド樹脂3〜20重量部に、シラン系表面処理剤で処理されたタングステンの金属粉末を100重量部を配合し、タングステン金属粉末が、平均粒径5μm以下のものが20〜50重量%、平均粒径5〜20μmのものが50〜80重量%からなる樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、タングステン金属粉末を高濃度に充填した、高比重の樹脂組成物に関するものである。詳しくは、従来技術では達成し得なかった超高比重を与え、しかも優れた成形加工性、機械強度を合わせもつ樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、金属粉末をプラスチックに充填した材料は機械部品等に使用されている。特に、金属として、鉄粉、亜鉛粉末や酸化亜鉛粉末等を樹脂に充填した高比重材料の製造法が知られている。しかし、近年機械の小型化に伴い使用されている部品も小型化している。そこで、従来より使用されてきた比重の材料では、機械に要求された特性、重さ等が十分でないため性能がでない状況になってきている。また、そのような部品に金属を使用する場合、各部品を切削加工、板金加工、粉末冶金加工等の加工法があるが、どの方法も非常な工数のかかるものとなってしまう。そこで、これらを高比重のプラスチック材料に代替することにより生産性の向上とコスト削減を実現することができる。
【0003】但し、比重5以下のものは鉄粉、銅粉の使用により樹脂組成物を得ることができるが、5以上のものはそれらを単独配合しただけでは成形が十分にできない樹脂組成物となってしまう。そこで、金属としてタングステン粉末を樹脂に充填することにより、鉄や銅の単体比重より大きな材料を製造することができる。しかし、単にタングステンを高充填し樹脂と混合造粒するだけでは流動性が悪く射出成形で十分な成形品が得られない。また、タングステンは粒径を制限しないと最密充填しないため、十分な比重が得られない等の問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来技術では達成し得なかった、比重が大きく、成形性に優れ、かつ機械強度の大きい熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明においてはシラン系表面処理剤で処理されたタングステンの金属粉末100重量部に対して、ポリアミド樹脂を3〜20重量部配合してなる高比重樹脂組成物であり、更に好ましい態様は、ポリアミド樹脂が環状脂肪族ラクタムを開環重合したもの、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、アミノ酸を縮重合させたものであり、タングステン金属粉末が、平均粒径5μm以下のものが20〜50重量%、平均粒径5〜20μmのものが50〜80重量%であり、シラン系表面処理剤が、ビニル系シラン、アミノ系シラン、エポキシ系シラン、メルカプト系シランの中から選ばれる少なくとも1種である高比重樹脂組成物である。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるポリアミド樹脂としては、例えば6−ナイロン、12−ナイロン等環状脂肪族ラクタムを開環重合したもの、6,6−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、アミノ酸を縮重合させたもの等がある。本発明で使用されるポリアミド樹脂の分子量は5000〜50000、好ましくは8000〜35000のものが適当である。分子量が5000以下では成形性は良好であるが機械強度が弱く、50000以上のものになると成形性が悪くなり、それによる成形不良が発生する。
【0007】本発明に用いられるタングステン金属粉末としては平均粒径が20μm以下であり、更に平均粒径5μm以下のものが20〜50重量%、平均粒径5〜20μmのものが50〜80重量%の混合物となっているものが最密充填しやすく高比重の材料を得るためには最適であり、成形時の流動性にも優れる。平均粒径が20μmを越えると高比重の材料を得られず、更に平均粒径5〜20μmのものが50重量%未満であると強度が出ず、80重量%を越えると高比重の材料を得られない。
【0008】また、本発明に使用されるタングステン金属粉末は樹脂組成物の成形性向上と強度向上を目的とし、かつ樹脂と金属粉末との密着性を向上させるためにシランカップリング剤であらかじめ表面処理を施す。シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基を持つ有機ケイ素系単量体で、2個の反応基の一つは無機質であるガラス、金属等と化学結合し、もう一つの反応基は有機材料と化学結合する反応基、例えばビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基である単量体である。本発明に用いられるシランカップリング剤としては、ビニル系シラン、アミノ系シラン、エポキシ系シラン、メルカプト系シランがあるが、特にポリアミド樹脂に対してはアミノ系シラン、またはエポキシ系シランが望ましい。
【0009】表面処理の方法としては、使用するタングステン金属粉末100重量部に対し、シランカップリング剤0.01〜3重量部を水とメタノールまたはエタノールに溶解し、スーパーミキサー等で一括攪拌混合し処理を行う。
【0010】本発明における組成物の製造方法としては、例えばタングステン金属粉末をミキサーなどで表面処理を施し、その後樹脂と混合し、押出機にて溶融混練ペレット化を行って得られる。なお、この際、他成分、例えば熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、顔料、摺動助剤等を適量添加しても良い。このようにして得られたペレット状の成形材料は、通常広く用いられている熱可塑性樹脂の成形機、例えば射出成形機、あるいは射出圧縮成形機などによって所望の形状に成形され使用される。
【0011】
【実施例】以下に実施例を挙げて発明の効果を詳細に説明する。各材料の物性の測定は・比重:ASTM D792・曲げ強度:ASTM D790、単位:MPa・曲げ弾性率:ASTM D790、単位:MPa・荷重たわみ温度:ASTM D648(荷重1.82MPa)、単位:℃に基づいて行った。
【0012】以下の実施例は本発明を説明するがこれは単なる例示であり、これに限定されるものではない。なお、以下に示すタングステン金属粉末とは、特別指示のないものはタングステン100重量部に対し表面処理としてアミノシラン(N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)0.1重量部を水とエタノールの混合液に溶解し一括混合攪拌し、処理したものをいう。このようにして得られたペレット状の成形材料は、射出成形機を使用して所望の形状の評価用サンプルを成形した。
【0013】(実施例1〜6)分子量10000の6−ナイロン(6−PA)とあらかじめ表面処理されたタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
(実施例7)分子量20000の6−ナイロン(6−PA)とあらかじめ表面処理されたタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
【0014】(実施例8、9)分子量15000の12−ナイロン(12−PA)とあらかじめ表面処理されたタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
(実施例10)分子量20000の12−ナイロン(12−PA)とあらかじめ表面処理されたタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
【0015】(比較例1,2)分子量10000の6−ナイロン(6−PA)とあらかじめ表面処理されたタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
(比較例3)分子量10000の6−ナイロン(6−PA)と表面処理をしていないタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
【0016】(比較例4)分子量15000の12−ナイロン(12−PA)と表面処理をしていないタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。
(比較例5)分子量100000の6−ナイロン(6−PA)とあらかじめ表面処理されたタングステン金属粉末、平均粒径10μmと2μmを使用した。評価結果を表1〜3にまとめた。比較例1、3〜5は、成形性が悪いため成形品が得られなかった。また、比較例2は比重が低く鉄粉と6−PAの配合で作製が可能なため、タングステンを使用するメリットがない。
【0017】
【表1】


【0018】
【表2】


【0019】
【表3】


【0020】
【発明の効果】本発明は、ポリアミド樹脂に、シラン系表面処理剤で処理されたタングステンの金属粉末を配合することにより、比重が大きく、成形性に優れ、かつ強度の強い熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。このような樹脂組成物は、特に重さを必要とする部品、例えばフライホイール等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シラン系表面処理剤で処理されたタングステンの金属粉末100重量部に対して、ポリアミド樹脂を3〜20重量部配合してなることを特徴とする高比重樹脂組成物。
【請求項2】 該ポリアミド樹脂が環状脂肪族ラクタムを開環重合したもの、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、アミノ酸を縮重合させたものであることを特徴とする請求項1記載の高比重樹脂組成物。
【請求項3】 該タングステン金属粉末の平均粒径が5μm以下のものが20〜50重量%、平均粒径が5〜20μmのものが50〜80重量%であることを特徴とする請求項1または2記載の高比重樹脂組成物。
【請求項4】 該シラン系表面処理剤が、ビニル系シラン、アミノ系シラン、エポキシ系シラン、メルカプト系シランの中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、2または3記載の高比重樹脂組成物。