説明

高気圧空気チャンバー

【課題】出入口のスライドファスナーのファスナーテープとチャンバー本体の可撓性シートとの接合耐久性が良好であり、ファスナーテープと可撓性シートの剥がれを生ずることなく、長期間にわたって安定して使用することができる高気圧空気チャンバーを提供する。
【解決手段】出入口がついた筒状の可撓性シートからなる健康増進用の高気圧空気チャンバーにおいて、該出入口の可撓性シートにスライドファスナー4が備えられ、該ファスナーのファスナーテープ3が、可撓性シートの外側に接合されてなることを特徴とする高気圧空気チャンバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高気圧空気チャンバーに関する。さらに詳しくは、本発明は、出入口のスライドファスナーのファスナーテープとチャンバー本体の可撓性シートとの接合耐久性が良好であり、ファスナーテープと可撓性シートの剥がれを生ずることなく、長期間にわたって安定して使用することができる高気圧空気チャンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素中毒、減圧症、突発性難聴、網膜中心動脈閉塞症、脳梗塞、心筋梗塞などの患者を高圧の酸素ガス雰囲気内に入れて治療する高気圧酸素治療は、古くから行われている。高気圧酸素治療には純酸素ガスが用いられ、圧力も200〜300kPaと高いので、医療用のチャンバーを用いて、人体及び火災に対する安全性を厳重に管理しつつ治療が行われる。
近年にいたり、酸素ガスがもつさまざまな健康効果に注目が集まり、治験者を高圧の空気雰囲気内に入れる高気圧空気チャンバーが普及しはじめている。高気圧空気チャンバーでは、健康増進、疲労回復、美容などを目的として、圧力110〜130kPa程度の空気が用いられる。使用するガスが空気であり、圧力も低いので、高気圧空気チャンバーは大きい危険を伴うことなく使用することができる。
一人用の高気圧空気チャンバーは、人間が横臥することができる寸法の可撓性シートからなる筒状のカプセルであり、治験者が出入する出入口が設けられ、出入口は通常は気密性のスライドファスナーで開閉される。高気圧空気チャンバーの使用圧力はたかだか130kPa程度であり、大気圧との差圧は30kPa程度に過ぎないが、それでも高気圧空気チャンバーを繰り返し使用すると、比較的短い間にスライドファスナーのファスナーテープがチャンバー本体の可撓性シートから剥がれるという問題が生じていた。
スライドファスナーと被着体の接合強度を高める試みがなされ、いくつかの提案がなされている。例えば、ファスナーチェーンの両側を補強するとともに、被着体を強固かつ安定した状態で取り付けることができるスライドファスナーとして、ファスナーチェーンの両外側に沿って、側面に凹状の被着体の挿入用の取付溝を形成した補強部材をファスナーテープに接着してなるスライドファスナーが提案されている(特許文献1)。図6は、このスライドファスナーを被着体へ取り付けた状態を示す断面図である。エレメント14が取り付けられたファスナーテープ15の両側縁に、断面がコの字状の補強部材16が熱溶着性樹脂フィルム17により溶着されている。補強部材の裏面に被着体18の表面が当接し、縫い糸19によりテープと補強部材と被着体が縫い付けられている。しかし、このようなスライドファスナーを高気圧空気チャンバーに適用し、縫い目をエラストマーでシールしても、使用中に熱溶着性樹脂フィルムの部分に剥がれを生じて気密性が失われ、長期間にわたって安定して繰り返し使用することは困難であった。
【特許文献1】特開2002−223821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、出入口のスライドファスナーのファスナーテープとチャンバー本体の可撓性シートとの接合耐久性が良好であり、ファスナーテープと可撓性シートの剥がれを生ずることなく、長期間にわたって安定して使用することができる高気圧空気チャンバーを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高気圧空気チャンバーの出入口において、従来は可撓性シートの内側に接合されていたスライドファスナーのファスナーテープを、可撓性シートの外側に接合することにより、接合耐久性が著しく向上し、高気圧空気チャンバーを長期間にわたって繰り返し使用することが可能となることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)出入口がついた筒状の可撓性シートからなる健康増進用の高気圧空気チャンバーにおいて、該出入口の可撓性シートにスライドファスナーが備えられ、該ファスナーのファスナーテープが、可撓性シートの外側に接合されてなることを特徴とする高気圧空気チャンバー、及び、
(2)出入口にスライドファスナーが二重に供えられてなる(1)記載の高気圧空気チャンバー、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の高気圧空気チャンバーは、チャンバー本体を構成する可撓性シートとスライドファスナーのファスナーテープの接合耐久性が良好であり、長期間にわたって安定して繰り返し使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の高気圧空気チャンバーは、出入口がついた筒状の可撓性シートからなる健康増進用の高気圧空気チャンバーにおいて、該出入口の可撓性シートにスライドファスナーが備えられ、該ファスナーのファスナーテープが、可撓性シートの外側に接合されてなる高気圧空気チャンバーである。
図1は、本発明の高気圧空気チャンバーの一態様の平面図及び側面図であり、本図は高気圧空気チャンバーを膨張させたときの状態を示す。本発明の高気圧空気チャンバーは、筒状の可撓性シートからなる本体1の出入口に、ファスナーエレメント2とファスナーテープ3からなるスライドファスナー4が備えられ、ファスナーテープ3が、本体1の可撓性シートの外側に接合されている。
図2は、図1に示す高気圧空気チャンバーのA−A線断面図である。スライドファスナーのファスナーテープ3が、本体1の可撓性シートの外側に接合されている。図3は、適切でないスライドファスナーの接合例の説明図である。この例では、スライドファスナーのファスナーテープ3が、本体1の可撓性シートの内側に接合されている。図6にも示されるように、スライドファスナーが被着体に接合されるとき、ファスナーテープの露出部分を少なくして製品の美観を保つために、ファスナーテープが被着体の裏側に接合される場合が多い。しかし、高気圧空気チャンバーにおいて、図3のように本体1の可撓性シートの内側にファスナーテープ3を接合すると、高気圧空気チャンバーの使用の繰り返しにより、可撓性シートの縁部から剥がれがはじまり、可撓性シートとファスナーテープの接合部の気密性が失われる。図1及び図2に示すように、スライドファスナーのファスナーテープ3を本体1の可撓性シートの外側に接合することにより、接合耐久性が著しく向上し、高気圧空気チャンバーを長期間にわたって繰り返し使用することが可能となる。
【0007】
図1に示す態様の高気圧空気チャンバーにおいては、透明なプラスチックシートからなる覗き窓5が設けられている。覗き窓を設けることにより、高気圧空気チャンバー内部の治験者の様子を観察するとともに、高気圧空気チャンバーの内部に採光することができる。覗き窓の材質に特に制限はなく、例えば、塩化ビニル樹脂シート、ポリカーボネートシート、メタクリル樹脂シートなどを挙げることができる。図1に示す態様の高気圧空気チャンバーにおいては、4個のノズル6が設けられている。複数個のノズルを設けることにより、ノズル1個における通気速度を小さくしても、迅速な昇圧と減圧が可能となる。また、複数個のノズルを給気と脱気に分けて使用し、高気圧空気チャンバーの使用中に内部の換気を行うことができる。
本発明に用いる可撓性シートは、JIS K 6328の表5気密性ゴム引布に記載された性能を満たすことが好ましい。可撓性シートとしては、例えば、ゴム引布、プラスチック引布などを挙げることができる。引布の基布としては、例えば、綿織物、ポリエステル織物、ポリアミド織物などを挙げることができる。ゴム引布のゴムの材質としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、水素化ニトリル−ブタジエンゴム、EPDMエラストマーなどを挙げることができる。プラスチック引布のプラスチックの材質としては、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などを挙げることができる。これらの中で、ポリウレタン引布を特に好適に用いることができる。
【0008】
本発明に用いるスライドファスナーとしては、例えば、簡易防水ファスナー、水密気密ファスナーなどを挙げることができる。これらの中で、簡易防水ファスナーを好適に用いることができる。水密気密ファスナーは、スライダーの摺動抵抗が大きく、使いづらいのみならず、完全な気密性を保っても、高気圧空気チャンバー内部の換気のために、給気と脱気を行うことが必要になる。ウェットスーツ用などとして製造されている簡易防水ファスナーは、スライダーの摺動抵抗が小さくて使いやすく、ファスナーから漏洩する空気を補充するために給気することにより、保圧と換気を同時に行うことができる。
本発明の高気圧空気チャンバーは、スライドファスナーを二重に備えることができる。図4は、本発明の高気圧空気チャンバーの他の態様の断面図であり、高気圧空気チャンバーが膨張した状態における筒形状の軸と垂直な平面で切断した断面を示す。本体7の可撓性シートが出入口において二重となり、外側のスライドファスナー8と内側のスライドファスナー9が備えられている。スライドファスナーを二重に設けることにより、高気圧空気チャンバーを加圧したときにファスナーテープと可撓性シートの接合部にかかる応力を軽減するとともに、気密性を高めることができる。出入口が閉じた状態で、外側のスライドファスナーのエレメント10と内側のスライドファスナーのエレメント11は重なり合わないことが好ましい。本態様においても、外側のスライドファスナーのファスナーテープ12と内側のスライドファスナーのファスナーテープ13はそれぞれ可撓性シートの外側に接合されている。ファスナーテープを可撓性シートの外側に接合することにより、接合耐久性を向上することができる。
【0009】
本発明において、スライドファスナーのファスナーテープと可撓性シートを接合する方法に特に制限はなく、例えば、ファスナーテープと可撓性シートを直接溶着により接合することができ、接着剤を用いて接合することもでき、あるいは、縫製により接合することもできる。用いる接着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂接着剤、熱硬化性樹脂接着剤、ゴム系接着剤などを挙げることができる。縫製により接合したときは、目止め用テープ、エラストマーなどを用いて縫い目を塞ぐことが好ましい。
本発明の高気圧空気チャンバーは、健康増進、疲労回復、美容、怪我による疼痛の軽減などを目的として使用することができる。高気圧空気チャンバーの耐圧力は、135kPa以上であることが好ましい。使用時の高気圧空気チャンバーの内圧は、110kPa、120kPa、130kPaなどとすることができる。治験者が高気圧空気チャンバー内に滞留する時間は、30分、60分、120分などとすることができる。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
図5に示す膨張時の直径650mm、長さ2,360mmの高気圧空気チャンバー3個を作製した。
本体を構成する可撓性シートとして、ナイロン基布の両面をポリウレタンでコートした厚さ0.89mmのポリウレタン引布を用いた。スライドファスナーとして、テープが幅24mmの塩化ビニル樹脂シート、エレメントの材質がポリエステルである簡易防水ファスナー[YKK(株)、CWTC−81]を用いた。出入口にスライドファスナーを二重に設け、外側のファスナーの長さを1,420mm、内側のファスナーの長さを1,250mmとした。ファスナーテープをポリウレタン引布の外側で、厚さ1.0mmの透明塩化ビニル樹脂製のシールシートを用いて接合した。さらに、本体に、厚さ5.0mmの透明塩化ビニル樹脂製覗き窓1個と、ポリウレタン樹脂製ノズル4個を取り付けて、高気圧空気チャンバーを完成した。
得られた高気圧空気チャンバー3個について、常圧100kPaから130kPaまでの昇圧10分、130kPaでの保圧10分、130kPaから100kPaまでの減圧10分、合計30分を1サイクルとして、1,000サイクルの昇圧−減圧試験を行った。1.000サイクル終了後、高気圧空気チャンバー3個のいずれにもファスナーテープとポリウレタン引布の接合部の剥がれは認められなかった。
比較例1
出入口の二重のスライドファスナーを、ファスナーテープをポリウレタン引布の内側で接合した以外は、実施例1と同様にして、高気圧空気チャンバー3個を作製した。
得られた高気圧空気チャンバー3個について、実施例1と同様にして、常圧100kPaから130kPaまでの昇圧10分、130kPaでの保圧10分、130kPaから100kPaまでの減圧10分、合計30分を1サイクルとして、昇圧−減圧試験を行った。3個の高気圧空気チャンバーは、それぞれ374サイクル目、406サイクル目及び419サイクル目に剥がれを生じ、保圧中に急速な圧力低下が認められた。
実施例1及び比較例1の結果を、第1表に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
第1表に見られるように、ファスナーテープをポリウレタン引布の外側に接合した実施例1の高気圧空気チャンバーは、3個ともに1,000サイクル以上の昇圧−減圧試験に耐えているのに対して、ファスナーテープをポリウレタン引布の内側に接合した比較例1の高気圧空気チャンバーは、3個ともに500サイクル未満で剥がれを生じている。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明の高気圧空気チャンバーは、出入口に供えられたスライドファスナーのファスナーテープがチャンバー本体を構成する可撓性シートの外側に接合されているので、スライドファスナーのファスナーテープと可撓性シートとの接合耐久性が良好であり、長期間にわたって安定して繰り返し使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の高気圧空気チャンバーの一態様の平面図及び側面図である。
【図2】図1に示す高気圧空気チャンバーの断面図である。
【図3】適切でないスライドファスナーの接合例の説明図である。
【図4】本発明の高気圧空気チャンバーの他の態様の断面図である。
【図5】実施例で作製した高気圧空気チャンバーの組立図である。
【図6】従来のスライドファスナーの取り付け方法の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 本体
2 ファスナーエレメント
3 ファスナーテープ
4 スライドファスナー
5 覗き窓
6 ノズル
7 本体
8 外側のスライドファスナー
9 内側のスライドファスナー
10 エレメント
11 エレメント
12 ファスナーテープ
13 ファスナーテープ
14 エレメント
15 ファスナーテープ
16 補強部材
17 熱溶着性樹脂フィルム
18 被着体
19 縫い糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入口がついた筒状の可撓性シートからなる健康増進用の高気圧空気チャンバーにおいて、該出入口の可撓性シートにスライドファスナーが備えられ、該ファスナーのファスナーテープが、可撓性シートの外側に接合されてなることを特徴とする高気圧空気チャンバー。
【請求項2】
出入口にスライドファスナーが二重に供えられてなる請求項1記載の高気圧空気チャンバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−68768(P2007−68768A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259017(P2005−259017)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】