説明

高水溶性p−ボロノフェニルアラニン含有組成物

【課題】p−ボロノフェニルアラニンを従来に比べ高濃度で水に溶解させて中性付近のpHの水溶液を与えることを可能にする方法、及びそれにより得られる水溶液を提供すること。
【解決手段】p−ボロノフェニルアラニン及びメグルミンを含有してなり、p−ボロノフェニルアラニンに対するメグルミン含有量が、モル比で少なくとも0.8である、中性付近のpHを有する水溶液の形態の、又は中性付近のpHを有する水溶液を与える乾燥物の形態である、医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有医薬組成物に関し、特に、ホウ素中性子捕捉療法においてホウ素源として使用する、水溶性を高めたホウ素含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1930年代に米国で中性子捕捉療法が提唱されて以来(Locher GL. Biological effects and therapeutic possibilities of neutrons. Am J Roentgenol Radium Ther,
1936, 36, 1-13)、中断を伴いながらも、腫瘍の治療におけるホウ素(10B)中性子捕捉療法の可能性が、動物及びヒトの腫瘍に対する効果の検討、患者に投与するに適した製剤形態、臨床使用に適した小型原子炉(中性子源)の開発というそれぞれの側面において、長年にわたり検討されてきた。
【0003】
ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy:BNCT)は、10B(天然のホウ素の略1/5を占める同位体である)を腫瘍塊に取り込ませておき、腫瘍塊を狙って比較的低エネルギーの中性子(熱中性子又は熱外中性子等)のビームを照射して10Bに核反応〔10B(n,αγ)7Li〕を起こさせ、それにより生じたα粒子で腫瘍細胞を破壊する治療方法である。生じたα粒子は線エネルギー付与(linear energy transfer:LET:飛程の単位長さ当りに平均して失うエネルギー)が大きく、生体内での飛程がほぼ癌細胞1個分に相当する5〜10μmと非常に短いため、核反応を起こした10Bを含有していた細胞及びこれに隣接した細胞のみを破壊する。従って、10Bを腫瘍塊に取り込ませておき、これに焦点を当てて身体外部から熱中性子線等を照射すれば、正常細胞を殆ど傷つけることなく癌細胞を確実に破壊することが可能である。ホウ素中性子捕捉療法を用いた治療照射は、米国では1950年代から60年代始めにかけて既に試みられており、日本では、脳腫瘍に対し1968年に、悪性黒色種(メラノーマ)に対し1987年に、それぞれ治療照射が行われ、その後症例が蓄積されてきた。
【0004】
ホウ素原子を必要量に患者へ投与にでき、且つ癌細胞に移行させ易くするためには、適切なホウ素含有化合物の水溶液を調製する必要がある。これに適した化合物としてフェニルアラニンのパラ位をジヒドロボリル基で置換した形の構造を有する、p−ボロノフェニルアラニン(以下、「BPA」ともいう。)、
【0005】
【化1】


【0006】
が知られている。BPAには、フェニルアラニン部分が天然のL−フェニルアラニンと同じ型の立体配置であるL−BPA、D型であるD−BPA、及びラセミ体であるDL−BPAがあり、これらのうち特にL体が、悪性黒色腫等のような腫瘍組織に最も取り込まれ易いとされていることから、主として用いられている。BPAは、それ単独では生理的pHでの溶解性が極めて乏しい一方、効果的なホウ素中性子捕捉療法のためには多量の10B(BPA換算で例えば、30g/60kg体重)を患者に注入するのが好ましいことが明らかになるにつれ、水に対するBPAの溶解性を改善するために様々な方法が試みられてきた。それらのうち、特に、BPAと単糖類(特にフルクトース)とを水中で混合し、混合液のpHを塩基(水酸化ナトリウム等)により10まで高めて溶解させてBPAフルクトース錯体を形成させ、酸(塩酸等)で生理的pH(7.4)に再調整するという方法が知られている(特許文献1参照)。また、BPAに水、強塩基(水酸化ナトリウム等)、及びフルクトース等の単糖類、二糖類又はソルビトール等のポリオールを加えて塩基性条件下(pH8〜10)に錯体水溶液とし、イオン交換媒体で処理してpHを約7.3〜7.5に戻すことによりBPA錯体溶液を製造する方法も知られている(特許文献2参照)。フルクトースは錯体形成により、室温でBPAを約2.6w/v%程度の濃度まで水に溶解させることができ、実際これを用いて、脳腫瘍や中皮腫等の患者で臨床試験が行われ、目覚しく且つ腫瘍選択的な効果が得られつつあり、臨床使用に適した小型の原子炉の開発と相俟って、ホウ素中性子捕捉療法の現実的利用に対する期待が非常に高まっている。
【0007】
しかしながら、BPAフルクトース錯体の水溶性は不十分である。すなわち、例えば体重60kgの患者用にBPAの30g相当量を室温でフルクトースとの錯体水溶液として調製すると、溶液量は少なくとも1.2L程度と、極めて大きな液量となる。これを注入することは、患者にとって身体的負担が大きく、また医療機関にとっても、腫瘍塊への中性子照射に先立つ患者への水溶液の点滴静注に長時間要することとなり、不都合である。
【0008】
また、上記のとおりBPAフルクトース錯体は、BPAとフルクトースとを水酸化ナトリウム等でアルカリ性に調整した水中で混合して初めて得られ、混合物を十分に撹拌し完全に溶液となったことを確認した上で、pHが中性付近の所定範囲へと再調整される。そのような水溶液を患者に投与し得る製剤として調製するには、pHの調整工程を含む溶解操作全体が厳重な無菌環境下で行われる必要があるが、治療に際し医療機関でそのような煩雑な手順により水溶液を調製することは、現実的に不可能である。一方、BPAフルクトース錯体の水溶液を凍結乾燥し粉末として医療機関に供給することも考えられるが、BPAフルクトース錯体の凍結乾燥粉末は、室温で十分量の水に対する溶解速度が極めて遅い(上記特許文献2参照)。このため、BPAフルクトース錯体の凍結乾燥粉末を医療機関に供給し、用時そこで水溶液へと復元するという使用形態も、現実的でない。従って、BPAフルクトース錯体は、水溶液の形で製品化され出荷されることとなる。BPAフルクトース錯体水溶液は、上記のとおり水溶性が不十分であるため水溶液の調製に多量の水を要し、製品化したときの包装液量及び重量が大きくなり、これは輸送や保管のコスト上昇要因となる。
【0009】
一方、メグルミン、
【0010】
【化2】


【0011】
は、塩基性化合物であり、特定の有機ヨウ素造影剤(アミドトリゾ酸、アジピオドン、イオタラム酸、メトリゾ酸、ヨーダミド、イオトロクス酸、ヨードキサム酸、及びイオキサグル酸。)を中和し溶解させる溶解剤として用いられているが、これらの有機ヨウ素造影剤は、何れも2,4,6−トリヨード安息香酸部分を有する酸であり、BPAのようにアミノ基とカルボキシル基が分子内塩を形成しているタイプの化合物ではない。
【特許文献1】米国特許第5492900号
【特許文献2】米国特許第6169076号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記背景において、本発明はBPAを従来に比べ高濃度で水に溶解させて中性付近のpHの水溶液を与えることを可能にする方法、及びそのような方法で得られる、BPAを従来に比べ高濃度まで含有し得る中性付近のpHの水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記目的の達成に向けて種々検討した結果、BPAにメグルミン及び水を加えることにより得られる、アルカリ性の混合液中にBPAが高濃度に溶解して存在できること、及び、この水溶液に酸を加えて中性付近にpHを調整してもBPAは高濃度に溶解した状態に留まること、更に、そのようにして中和した水溶液を凍結乾燥して得られる粉末は、水と混合したとき容易に溶解して、元の高濃度にBPAを含んだ水溶液を与えることを見出した。本発明は、これらの発見に基づき更に検討を行って完成させたものである。すなわち、本発明は以下を提供する。
【0014】
1.p−ボロノフェニルアラニン及びメグルミンを含有してなる、医薬組成物。
2.p−ボロノフェニルアラニンに対するメグルミン含有量が、モル比で少なくとも0.8である、上記1の医薬組成物。
3.中性付近のpHを有する水溶液である、上記1又は2の医薬組成物。
4.p−ボロノフェニルアラニンの濃度が、少なくとも3w/v%である、上記3の医薬組成物。
5.p−ボロノフェニルアラニン及びメグルミンを含有してなる乾燥製剤である、上記1又は2の医薬組成物。
6.水を加えて復元したとき中性付近のpHの水溶液を与えるものである、上記5の医薬組成物。
7.ホウ素中性子捕捉療法用剤である、上記1ないし6の何れかの医薬組成物。
8.p−ボロノフェニルアラニンがL−p−ボロノフェニルアラニンである、上記1ないし7の何れかの医薬組成物。
9.p−ボロノフェニルアラニンとメグルミンとを水中で混合して水溶液とするステップと、該水溶液に酸を加えて中性付近のpHに調整するステップとを含むものである、p−ボロノフェニルアラニン含有水溶液の製造方法。
10.p−ボロノフェニルアラニンに対するメグルミン含有量が、モル比で少なくとも0.8である、上記9の製造方法。
11.該水溶液中のp−ボロノフェニルアラニンの濃度が、少なくとも3w/v%である、上記9又は10の製造方法。
12.上記9ないし11の何れかの製造方法により得られるp−ボロノフェニルアラニン含有水溶液を凍結乾燥するステップを更に含んでなるものである、p−ボロノフェニルアラニン含有組成物の製造方法。
13.p−ボロノフェニルアラニンがL−p−ボロノフェニルアラニンである、上記9ないし12の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
上記各構成になる本発明は、10w/v%を超える高濃度のBPA水溶液を与えることができる。これはBPAフルクトース錯体で得られる濃度2.6w/v%に比し約4倍高濃度であるから、ホウ素中性子捕捉療法において患者に投与されるホウ素含有組成物の液量の大幅な低減(1/4)を可能にする。これは患者の負担を減らし、また点滴時間の短縮及び保管スペースの縮小を通じて医療機関にも好都合である。更に、本発明により得られる医薬組成物は、凍結乾燥等により乾燥物とした後、注射用蒸留水や中性の緩衝液で簡単に溶解して復元することができるから、そのような水を含まない固形製剤の形で医療機関に供給することもでき、それにより輸送コスト、保管コストの抑制も可能となる。また、本発明の水溶液はBPAフルクトース錯体水溶液に比して保存安定性が顕著に高いという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、p−ボロノフェニルアラニン(BPA)としては、そのフェニルアラニン部分の立体配置に関しD型、L型、DL型の何れの配置のものも用いることができる。但し、癌細胞への取込効率はL型の方がD型より高いとされている点を考慮すれば、L型が最も好ましく、次いでDL型が好ましい。
【0017】
本発明の組成物において、BPA量に対するメグルミン量の比率に明確な下限はない。但し、特に高濃度にBPAを溶解させるには、BPA量に対するメグルミン量は、好ましくはモル比で0.8以上であり、このときBPAを約7w/v%まで溶解させることができる。より好ましくは、BPA量に対するメグルミン量はモル比で1.0であり、このときBPAを約9w/v%まで溶解させることができる。特に好ましくは、BPA量に対するメグルミン量はモル比で1.10以上であり、このときBPAを10.4w/v%まで溶解させることができる。もっとも、そこまで高くないBPA濃度(例えば3〜5w/v%)でよい場合には、メグルミン量をこれより減らすこともできる。他方、BPAを水に高濃度に溶解させるという面においてBPA量に対するメグルミン量のモル比に明確な上限はないが、過剰にメグルミンを加えても効果は比例しないため、通常モル比2.5までに止めることが好ましい。従って、BPA量に対するメグルミン量は、通常は、モル比で0.8〜2.5の範囲で適宜設定すればよく、例えば、1.0〜2.0、1.10〜1.5等とすればよい。
【0018】
本発明の水溶液は、BPAとメグルミンとを水中で混合し、得られたアルカリ性の水溶液に酸を加えて中性付近のpHへと調整することにより、簡単に調製することができる。水溶液製造時の温度は特に限定されず、単に室温で行うことができ、BPAフルクトース錯体溶液の製造時のような加熱(60℃)を要としない。本発明の水溶液調製後、必要に応じフィルター滅菌を施すことができる。
【0019】
本発明の水溶液において、「ほぼ中性のpH」とは、ヒト血液の生理的pH(pH7.4を中心に変動)の付近であることをいう。本発明のBPAメグルミン水溶液は輸液に混ぜて投与するのが一般的投与方法になると考えられることから、輸液に含まれる緩衝剤による緩衝効果も受けるため、厳密にpH7.4とする必要はなく、例えば、pH6.0〜pH8.0などとしてよく、これは本発明における「中性付近のpH」に含まれる。本発明の水性溶液は中性付近で安定性が高く、また中性付近でpHの高低は安定性に殆ど影響を及ぼさないことが本発明の完成過程において判明している。従って、本発明の水溶液のpHは中性付近において、製品としての使用に便利なように適宜に設定すればよく、例えば、血液の生理的pHにより近いpH6.2〜8.0、又はpH6.5〜7.9、又は更に6.5〜7.7等としてもよいが、そうすることは必須ではない。
【0020】
本発明の水溶液中のBPA濃度に特に限定はなく、適宜設定することができる。但し、一般には従来のBPAフルクトース錯体水溶液に比して高い濃度のものとすることが好ましい。それにより患者に投与する水溶液の量を減らすことができるからである。従って、BPA濃度として例えば、3.0%以上とすることが好ましい。
【0021】
BPAと水及びメグルミンを混合して水溶液とした後にpHを中性付近に戻すために添加される酸としては、その目的に適い、且つ医薬品に使用できる酸である限り特に限定はないが、最も一般的に使用される好ましい酸の一つとして、塩酸を挙げることができる。
【0022】
本発明の医薬組成物は、その安定性(溶解性、保存安定性)に実質的な悪影響を及ぼさない限り、BPA、水及びメグルミン以外の成分が含有されることを排除しない。pH調整に際して添加される酸の共役塩基(塩酸の場合、Cl-)は含有されることを当然の前提としているが、それ以外にも例えば、pHの調製時の微調整に用いることのできる炭酸水素ナトリウム等のpH調製剤由来の成分を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の医薬組成物は、水溶液の形で製品として供給してもよいが、また、BPAメグルミン水溶液を乾燥させ、乾燥物を溶解用の包装に封入した固形製剤として供給してもよい。BPAメグルミン水溶液の乾燥には凍結乾燥を用いるのが便利であるが、それ以外の方法でも注射に適した無菌の製剤が供給できる方法であればよいから、乾燥方法は特に限定されない。凍結乾燥本発明の医薬組成物は、凍結乾燥物の形態でも高い経時的安定性を有しており、用時これに注射用蒸留水を添加して手で振ることにより容易に水溶液の形へと復元できる。
【実施例】
【0024】
以下、比較例及び実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されることは意図しない。なお以下で使用したBPAは全て、ホウ素全体に対する10Bの割合を天然の約20%から95%へと濃縮したホウ素を用い常法により合成したもの(ステラケミファ(株)製)であるが、ホウ素の質量数は化学的性質に影響しないから、実施例で得られた結果は10Bを何れの比率で含むBPAについても当てはまるものである。
【0025】
〔比較例1〕BPAフルクトース水溶液の調製
BPAフルクトース錯体水溶液を次のとおりにして調製した。事前の検討により、水溶液の総液量は、フルクトースを用いてBPAを室温で完全に水に溶解させることができるほぼ最少の液量(従って室温での調製でほぼ最高のBPA濃度とし得る液量)となるように。すなわち、L−BPA30gとフルクトース66.7gとを水900mLに加え、室温にて撹拌しつつ1mol/L水酸化ナトリウム166mLを加えて溶解させた(溶解完了時のpH9)。室温で30分間静置しBPAフルクトース錯体を形成させた後、1mol/L塩酸と炭酸水素ナトリウムによりpH7.2に調整し(総液量1240mL)、次いで0.22μmのフィルターで濾過した。得られた水溶液のBPA濃度は、2.4w/v%である。
【0026】
〔実施例1〕BPAメグルミン水溶液の調製
L−BPA30gとメグルミン42.2gとを水に溶かして250mLとした(メグルミン/BPA=1.5(モル/モル))。6mol/L塩酸を加えてpH7.0に調整した後、水を加えて総液量300mLとし、次いで0.22μmのフィルターで濾過した。不溶物を含まない完全な水溶液が得られていることが確認された。得られた水溶液のBPA濃度は、10w/v%である。
【0027】
〔比較例2及び実施例2〜9〕
BPAフルクトース錯体水溶液の調製に際して用いる水酸化ナトリウム水溶液を8mol/Lとし、pHの再調整に用いる塩酸を6mol/Lとした以外、比較例及び実施例1と同様な方法により、表1に示す処方に従って、BPAフルクトース錯体水溶液及び種々の濃度及び2通りのメグルミン/BPB比(モル比、1.5及び2.5)になるBPAメグルミン水溶液を調製した。各水溶液につき、外観性状の確認及びHPLCによるBPA濃度の測定の後、安定性加速試験のためガラスバイアルに1mLずつ封入し、遮光下に40℃にて4週間保存し、外観性状、pH及びBPA含量をそれぞれ観察、測定した。結果は、表1及び2に示す。なお、HPLCによるBPAの測定には、下記の条件を用いた。
【0028】
<HPLC測定条件>
使用カラム :Mightysil RP-18 GP 250-4.6(5μm)関東化学(株)
移動相 :水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=800:200:1
カラム温度 :25℃付近の一定温度
流速 :0.5mL/分
インジェクション量:5μL
検出波長(UV) :232nm
検出波長(フォトダイオードアレイ検出器:PDA) :200〜400nm
【0029】
【表1】


【0030】
【表2】


【0031】
<安定性:外観性状>
表1に示すように、調製時には何れの水溶液も無色澄明であった。40℃での安定性加速試験中、比較例2のBPAフルクトース錯体水溶液は、試験開始後2週間の時点で澄明ではあったが微黄色に着色しており、その後の観察でも同様であった。実施例2〜9のBPAメグルミン水溶液は、何れも試験開始後2週間の時点では澄明で無色澄明の外観性状を維持しており、試験開始後3週の時点で、澄明のまま無色ないし僅かに黄色を帯びたのみで、4週の時点でも同様であった。外観性状の安定性に関し、メグルミン/BPA比の相違(1.5及び2.5)による差は見られなかった。
【0032】
<安定性:pH>
各水溶液のpHの安定性試験結果を表2に示す。比較例2のBPAフルクトース錯体水溶液のpHは、試験開始時の7.20から経時的に一貫して低下し続け、4週間経過時点では6.97まで低下した。これとは対照的に、同濃度のBPAを含有する実施例2のBPAメグルミン水溶液では経時的なpH低下は見られず、これより高濃度の実施例3〜9の各BPAメグルミン水溶液についても同様であった。pHの安定性に関し、メグルミン/BPA比の相違(1.5及び2.5)による差も見られなかった。
【0033】
<安定性:BPA含量>
40℃4週間保存後の各水溶液中のBPA含量の時間的推移を、試験開始時の含量に対する残存率として表2に示す。比較例2の水溶液では、BPA含量は試験開始時の96.2%まで低下した。これに対し、実施例2〜9の各水溶液においては、実質的に低下は見られず、BPA濃度は安定に維持されていた。
【0034】
上記のとおり、BPAメグルミン水溶液は、40℃保存での外観性状の安定性においてBPAフルクトース錯体より優れている。また、同条件においてBPAフルクトース錯体水溶液のpHが経時的に低下するのに対し、BPAメグルミン水溶液のpHは、安定しており低下を示さない。更に、同条件における水溶液中のBPAの安定性については、BPAフルクトース錯体水溶液ではBPA含量の明らかな経時的低下が見られるのに対し、BPAメグルミン水溶液中のBPA含量には、実質的に低下が見られないことが判明した。これらのことは、BPAフルクトース水溶液に比して、BPAメグルミン水溶液の安定性が顕著に高いことを示している。
【0035】
〔比較例3及び実施例10〜15〕
上記と同様な方法により、表3に示す処方に従って、BPAフルクトース錯体水溶液並びに、pH6.0、7.0及び8.0で、BPAを上限濃度付近である10.4w/v%含有し2通りのメグルミン/BPB比(モル比1.5及び2.0)になるBPAメグルミン水溶液を調製した。各水溶液につき、外観性状の確認及びHPLCによるBPA濃度の測定の後、安定性苛酷試験のためガラスバイアルに1mLずつ封入し、遮光下に50℃及び60の温度条件にて2週間まで保存し、1週毎に、外観性状、pH及びBPA含量をそれぞれ観察、測定した。結果を表3及び4に示す。
【0036】
【表3】


【0037】
【表4】


【0038】
<安定性:外観性状>
表3から明らかなように、50℃において、比較例3のBPAフルクトース錯体水溶液(pH7.2)は、試験開始時の無色から1週間の保存により黄色となり、2週間で褐色となった。これに対し、同様のpHの実施例11及び14のBPAメグルミン水溶液は、50℃での1週間の保存後にも無色ないし僅かに黄色を帯びたのみであり、2週間の保存でも微黄色となるに止まった。また、60℃において、比較例3の水溶液は、1週間の保存により茶褐色となったのに対して、実施例11及び14の水溶液は60℃での1週間の保存でも無色ないし僅かに黄色を帯びたのみであり、2週間の保存でも微黄色ないし黄色となるに止まった。また何れの温度及び保存期間についても、実施例11及び14の水溶液の外観性状に差は認められなかった。
【0039】
pH6の水溶液については、実施例10の水溶液(メグルミン/BPA=1.5(モル/モル))では50℃及び60℃での1及び2週間の保存で、白色の結晶の析出が僅かに認められたものの、溶液は何れも無色ないし僅かに黄色を帯びたのみであった。同pHの実施例13の水溶液(メグルミン/BPA=2.0(モル/モル))においては、50℃及び60℃での1週間及び2週間の保存で、pH7の実施例11及び14と外観性状は同等であった。
更に、pH8の水溶液については、実施例12の水溶液(メグルミン/BPA=1.5(モル/モル))及び実施例15の水溶液(メグルミン/BPA=2.0(モル/モル))ともに、60℃での2週間の保存後に白色ないし微黄色の沈着物が僅かに認められたことを除き、pH7の実施例11及び14の水溶液の50℃及び60℃での1週間及び2週間の保存後の外観性状と同等であった。
【0040】
<安定性:pH>
表4に示すとおり、比較例3の水溶液のpHは、50℃2週間の保存では初期値の7.22から6.54へと大幅に低下し、また60℃2週間の保存では6.12へと更に大きく低下した。これに対し、実施例11の水溶液のpHは、50℃2週間の保存で初期値の7.06から7.17へと、また60℃2週間の保存で7.18へと、それぞれ僅かに上昇したに過ぎなかった。また実施例14の水溶液のpHは、50℃2週間の保存で初期値の7.19から7.30へと上昇したに過ぎず、また60℃2週の保存ではpHの変化は認められなかった。
【0041】
pH6の水溶液についても、実施例10の水溶液のpHは、50℃2週間の保存で初期値の5.99から6.37へと、また60℃2週間の保存で6.18へと、それぞれ幾分上昇するに止まった。また実施例13の水溶液のpHは、50℃2週間の保存で初期値の6.02から6.11へと、また60℃2週間の保存で5.96へと、それぞれ僅かに変動するに止まった。
pH8の水溶液についても、実施例12の水溶液のpHは、50℃2週間の保存で初期値の8.05から8.18へと、また60℃2週間の保存で8.07へと、それぞれ僅かに上昇したに止まった。また実施例15の水溶液のpHは、50℃2週間の保存で初期値の8.11から8.22へと、また60℃2週間の保存で8.09へと、それぞれ僅かに変動するに止まった。
【0042】
<安定性:BPA含量>
また、各水溶液のBPA含量の経時的推移を、試験開始時の含量に対する残存率として表4に示す。50℃での1週間及び2週間の保存により、比較例3の水溶液のBPA残存率は、それぞれ90.1%、及び73.8%へと低下したが、これ対し実施例10〜15の水溶液のBPA残存率は、50℃1週間の保存後に95〜98%付近であり、50℃2週間の保存後もほぼ同等であった。また60℃での1週間及び2週間の保存により、比較例3の水溶液のBPA残存率は、それぞれ35.9%及び29.4%へと極度に低下したが、実施例10〜15の水溶液のBPA残存率は、60℃1週間の保存後に88〜93%付近、60℃2週間の保存後に51〜75%と、それぞれ比較例3の水溶液の対応する温度条件及び保存期間での残存率に比し顕著に高いレベルにあった。
【0043】
上記のとおり、50℃及び60℃という苛酷な温度条件での安定性試験結果においても、BPAメグルミン水溶液が、pH6〜8においてBPAフルクトース錯体水溶液に比して顕著に高い安定性(外観性状、pH、BPA含有量)を有することを示している。
【0044】
<実施例16〜19>
表5に示す処方に従って、上記と同様にメグルミン/BPA比が1.10〜1.25のBPAメグルミン水溶液を調製した。何れの実施例の水溶液も、無色澄明であった。これらの水溶液について50℃1週間の苛酷試験を行った。その結果、表5に示すように、外観性状、pH及びBPA残存率の何れについても、上述のpH7の実施例の各水溶液で見られたのと同等の優れた安定性を示した。
【0045】
【表5】


【0046】
<実施例20及び21> 凍結乾燥製剤
上記と同様にして、表6に示すBPAメグルミン水溶液を調製し、常法により凍結乾燥させた。その後、凍結乾燥粉末に、元の液量とするに必要な量の蒸留水を加えて振ったところ、容易に溶解して無色透明な水溶液が復元された。このことは、本発明のBPAメグルミン含有組成物は、使用時に水を添加して水溶液とすることを目的とした凍結乾燥粉末の形でも製品として供給できることを示している。
【表6】


【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ホウ素中性子捕捉療法において患者に投与されるホウ素含有組成物の液量を大幅に減少させることができる、高濃度のBPA水溶液の提供を可能にする。また本発明は、水溶液に比して輸送及び保管にコスト上有利な、BPA水溶液を与える凍結乾燥粉末の提供も可能にする。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−ボロノフェニルアラニン及びメグルミンを含有してなる、医薬組成物。
【請求項2】
p−ボロノフェニルアラニンに対するメグルミン含有量が、モル比で少なくとも0.8である、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
中性付近のpHを有する水溶液である、請求項1又は2の医薬組成物。
【請求項4】
p−ボロノフェニルアラニンの濃度が、少なくとも3w/v%である、請求項3の医薬組成物。
【請求項5】
p−ボロノフェニルアラニン及びメグルミンを含有してなる乾燥製剤である、請求項1又は2の医薬組成物。
【請求項6】
水を加えて復元したとき中性付近のpHの水溶液を与えるものである、請求項5の医薬組成物。
【請求項7】
ホウ素中性子捕捉療法用剤である、請求項1ないし6の何れかの医薬組成物。
【請求項8】
p−ボロノフェニルアラニンがL−p−ボロノフェニルアラニンである、請求項1ないし7の何れかの医薬組成物。
【請求項9】
p−ボロノフェニルアラニンとメグルミンとを水中で混合して水溶液とするステップと、該水溶液に酸を加えて中性付近のpHに調整するステップとを含むものである、p−ボロノフェニルアラニン含有水溶液の製造方法。
【請求項10】
p−ボロノフェニルアラニンに対するメグルミン含有量が、モル比で少なくとも0.8である、請求項9の製造方法。
【請求項11】
該水溶液中のp−ボロノフェニルアラニンの濃度が、少なくとも3w/v%である、請求項9又は10の製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし11の何れかの製造方法により得られるp−ボロノフェニルアラニン含有水溶液を凍結乾燥するステップを更に含んでなるものである、p−ボロノフェニルアラニン含有組成物の製造方法。
【請求項13】
p−ボロノフェニルアラニンがL−p−ボロノフェニルアラニンである、請求項9ないし12の何れかの製造方法。

【公開番号】特開2008−100925(P2008−100925A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282524(P2006−282524)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000228545)日本ケミカルリサーチ株式会社 (27)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】