高活性shRNA及びその製造方法
【課題】Dicerによる2本鎖RNAの切断パターンを明らかにし、Dicerによって特定の配列に切断されるようなsiRNA及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列
をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【解決手段】5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列
をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性shRNA及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、標的遺伝子の発現を効率良く抑制することができる高活性shRNA及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAiは、細胞内に2本鎖のRNAを導入するとその配列に特異的に遺伝子の発現抑制が引き起こされるという現象であり、1998年に線虫(C. elegans)において発見された[非特許文献1]。細胞内に導入された2本鎖RNAは、Dicerという酵素によってまず21−23mer程度の短い2本鎖RNAに切断され、RISCと呼ばれるタンパク質・RNA複合体に取り込まれる。そしてRISC複合体がターゲットとなるmRNAを認識し、切断することによって当該遺伝子の発現が抑制される。当初、ヒトをはじめとする哺乳動物の細胞においては、長い2本鎖RNAを導入すると非特異的なmRNAの分解とタンパク質合成のシャットダウンが生じてしまうという問題があったが、2001年のTuschlらの発見により、初めから短い2本鎖RNAを導入することにより哺乳動物細胞においても同様の特異的発現抑制が引き起こされることが明らかになった [非特許文献2及び3]。このような短い2本鎖RNAはsmall interfering RNA(siRNA)と称され、3’末端に2塩基ずつのオーバーハングを有するものが一般的に用いられている。現在、RNAiによる特異的遺伝子発現抑制の手法は、迅速かつ簡便な遺伝子機能解析法として非常に注目されている。siRNAの導入により、哺乳動物細胞においてもターゲット遺伝子の簡便な発現抑制が可能となったため、生命科学のあらゆる分野において共通の研究ツールとしてその地位を確立しつつある。またHIVやHCVなどのRNAウイルスに対しても発現抑制効果を示すため、次世代の遺伝子治療薬としても期待されている[非特許文献4〜7]。
【0003】
哺乳動物細胞において、非特異的なmRNA分解やタンパク質合成のシャットダウンを回避するためには、導入する2本鎖RNAの長さはおよそ30mer程度以下の長さであればよいことが知られており[非特許文献8]、19〜30mer程度の長さの2本鎖RNAであれば問題なくRNAi活性を示すことがわかっている。近年の報告によれば、2本鎖部分の長さが若干長い(25〜29mer程度)もののほうが、21mer前後の短いものよりも活性が高くなる傾向があることがわかってきている[非特許文献9及び10]。siRNAはRISC複合体に取り込まれる前段階においてDicerやTRBPといった因子とともにRLC (RISC Loading Complex)を形成することが知られているが[非特許文献11及び12]、より長い2本鎖RNAのほうがDicerとのアフィニティーが強いために、より容易にRLCやRISCに取り込まれるためではないかと考えられている。25〜29mer程度の長さのsiRNAは、特に低濃度(終濃度100pM程度以下)においても高い活性を保持することから、濃度依存的なインターフェロン応答を回避できるという点においても有利である[非特許文献13]。しかしながら、より長いsiRNAを使用することにはデメリットもある。23mer程度の長さを超えると、Dicerによるプロセッシング(=Dicing)を受けていったん21〜23mer程度の長さに切断されたのちにRISC複合体に取り込まれることになるため、最終的なガイド鎖の配列が特定できないばかりか、複数の活性種が生じてしまうことになる点である。DicerはPAZドメインによって2本鎖RNAの末端オーバーハング部分を認識し、末端から21〜23塩基の箇所を切断することが知られているが、必ずしも一定の長さで切断するわけではないため、複数の断片が生じうる[非特許文献14から16]。また、PAZドメインが2本鎖RNAのどちら側の末端に結合したかによっても生じる配列が変わってしまうことになる。このことは、siRNA発現ベクターを導入して細胞内でsiRNAを転写合成させる場合にも当てはまる。siRNAの活性の高さはわずか配列1塩基の違いによっても大きく左右されるため、活性種の配列が特定できないことは活性の高いsiRNAをデザインする上で大きなデメリットとなる。また、オフターゲット効果回避の観点からも複数の配列が活性を持ちうることは好ましくない。したがって、長いsiRNAの高い活性を活かしつつこれらのデメリットを回避するためには、Dicerによる2本鎖RNAの切断パターンを明らかにし、常に特定の配列に切断されるようなsiRNAを設計する必要があると考えられる。
【0004】
【非特許文献1】Fire, A., et al., Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans. Nature, 1998. 391(6669): p. 806-11.
【非特許文献2】Elbashir, S.M., W. Lendeckel, and T. Tuschl, RNA interference is mediated by 21- and 22-nucleotide RNAs. Genes Dev, 2001. 15(2): p. 188-200.
【非特許文献3】Elbashir, S.M., et al., Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells. Nature, 2001. 411(6836): p. 494-8.
【非特許文献4】Jacque, J.M., K. Triques, and M. Stevenson, Modulation of HIV-1 replication by RNA interference. Nature, 2002. 418(6896): p. 435-8.
【非特許文献5】Lee, N.S., et al., Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells. Nat Biotechnol, 2002. 20(5): p. 500-5.
【非特許文献6】Ge, Q., et al., RNA interference of influenza virus production by directly targeting mRNA for degradation and indirectly inhibiting all viral RNA transcription. Proc Natl Acad Sci U S A, 2003. 100(5): p. 2718-23.
【非特許文献7】Wilson, J.A., et al., RNA interference blocks gene expression and RNA synthesis from hepatitis C replicons propagated in human liver cells. Proc Natl Acad Sci U S A, 2003. 100(5): p. 2783-8.
【非特許文献8】Minks, M.A., et al., Structural requirements of double-stranded RNA for the activation of 2',5'-oligo(A) polymerase and protein kinase of interferon-treated HeLa cells. J Biol Chem, 1979. 254(20): p. 10180-3.
【非特許文献9】Kim, D.H., et al., Synthetic dsRNA Dicer substrates enhance RNAi potency and efficacy. Nat Biotechnol, 2005. 23(2): p. 222-6. Epub 2004 Dec 26.
【非特許文献10】Siolas, D., et al., Synthetic shRNAs as potent RNAi triggers. Nat Biotechnol, 2005. 23(2): p. 227-31. Epub 2004 Dec 26.
【非特許文献11】Tomari, Y., et al., RISC assembly defects in the Drosophila RNAi mutant armitage. Cell, 2004. 116(6): p. 831-41.
【非特許文献12】Chendrimada, T., Gregory, RI, Kumaraswamy, E, Norman, J, Cooch, N, Nishikura, K, Shiekhattar, R., TRBP recruits the Dicer complex to Ago2 for microRNA processing and gene silencing. Nature, 2005. 436: p. 740-744.
【非特許文献13】Persengiev, S., Zhu, X, Green, MR., Nonspecific, concentration-dependent stimulation and repression of mammalian gene expression by small interfering RNAs (siRNAs). RNA, 2004. 10(1): p. 12-18.
【非特許文献14】Bernstein, E., Caudy, AA, Hammond, SM, Hannon, GJ., Role for a bidentate ribonuclease in the initiation step of RNA interference. Nature, 2001. 409: p. 363-366.
【非特許文献15】Carmell, M.A. and G.J. Hannon, RNase III enzymes and the initiation of gene silencing. Nat Struct Mol Biol, 2004. 11(3): p. 214-8.
【非特許文献16】MacRae, I., Zhou, K, Li, F, Repic, A, Brooks, AN, Cande, WZ, Adams, PD, Doudna, JA., Structural basis for double-stranded RNA processing by Dicer. Science, 2006. 311: p. 195-198.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、Dicerによる2本鎖RNAの切断パターンを明らかにし、Dicerによって特定の配列に切断されるようなsiRNA及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した従来技術の問題点を解決するためにヘアピン型2本鎖RNAの設計法を鋭意検討した結果、Dicerによって切断される切除配列のステム部分にバルジ構造を1箇所導入することによって、生体内でのDicing反応後に生じる短い2本鎖RNA断片の配列を1種類のみに限定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNAが提供される。
【0008】
好ましくは、第一のターゲット配列及び第二のターゲット配列の長さがそれぞれ19塩基又は20塩基である。
好ましくは、第一のステム配列及び第一のステム配列の長さがそれぞれ2塩基から20塩基である。
好ましくは、ループを形成する配列の長さが2塩基から20塩基である。
【0009】
好ましくは、上記バルジ塩基が、下記の何れかの位置に存在する。
(1)第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間、
(2)第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間、又は
(3)第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間:
【0010】
好ましくは、上記バルジ塩基が、第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)A, A(C)G, A(C)U, A(U)A, C(A)G, C(G)C, C(G)U, G(C)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Uの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0011】
好ましくは、上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間に存在し、上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(U)A, A(U)G, C(A)G, C(A)U, C(G)U, G(C)A, G(C)G, G(U)A, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Cの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0012】
好ましくは、上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(C)U, A(U)A, A(U)G, C(A)C, C(A)G, C(A)U, C(G)A, C(G)C, C(G)U, G(A)C, G(A)G, G(A)U, G(C)A, G(C)G, G(C)U, G(U)A, G(U)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)U, U(G)C, 又はU(G)Uである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0013】
好ましくは、第一のステム配列、ループを形成する配列及び第二のステム配列からなる配列が、CU(C)ACAA-AGCAUAG-UUGUAG、CACAA-AGCAUAG-UUGU(A)G、又はCUCAA-AGCAUAG-UUG(U)AGである、(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0014】
本発明によればさらに、5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有するようにヘアピン型RNA(shRNA)の塩基配列を設計することを特徴とする、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法が提供される。
【0015】
本発明によればさらに、5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)をコードするDNAを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことを含む、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法が提供される。
【0016】
好ましくは、転写をインビトロで行う。
好ましくは、RNAポリメラーゼとしてT7RNAポリメラーゼを使用する。
【0017】
本発明によればさらに、上記した本発明のヘアピン型RNA(shRNA)、又はヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法により製造されるヘアピン型RNA(shRNA)を細胞にインビトロで導入することを含む、RNAiによりターゲット配列を含む遺伝子の発現を抑制する方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生体内でのDicing反応後に生じる短い2本鎖RNA断片の配列を1種類のみに限定できるようなsiRNAを製造することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明においては、従来一般的に用いられている2本鎖RNA (siRNA)ではなく、ヘアピン型RNA (short hairpin RNA : shRNA)を採用した。shRNAにおいては3'-オーバーハングを有する末端が1つしか生じないため、細胞内においてDicerが結合する方向が1方向のみに限定できるためである。すなわち、DicerはshRNAの唯一の末端にPAZドメインを介して結合し、末端から21〜23塩基の長さの位置でヘアピンRNAを切断する。その結果として、ヘアピンのループ部分は除去され、21〜23塩基程度の長さの2本鎖RNAが生じることになる。また、shRNAを用いることにより、2本鎖を形成させるためのアニーリング操作が不要となるほか、RNAを転写合成させる場合には、鋳型DNAも1種類で済むためコスト的にも有利となるというメリットがある。さらに、shRNAの5'末端にO-メチル化などの修飾を導入することにより、修飾された鎖のRISC複合体への取り込みを阻害し、修飾を含まない鎖のみをRISCに取り込ませることによって活性の向上・オフターゲット効果の回避を期待できる [ Chen, P.Y., Weinmann, L., Gaidatzis, D., Pei, Y., Zavolan, M., Tuschl, T., Meister, G., Strand-specific 5'-O-methylation of siRNA duplexes controls guide strand selection and targeting specificity. RNA, 2007: p. [Epub ahead of print]]。
【0020】
本発明により設計及び製造されるshRNAの好ましい具体例を、図1のA, B, Cに示す。ノックダウンしたい遺伝子の配列は「ターゲット配列」部分に配置する。すなわち、5'末端側の1〜19塩基目までの部分をターゲットmRNAに相当する配列(センス配列)とし、3'末端側からオーバーハングを除いて1〜19塩基目までの部分をこれに相補的な配列(アンチセンス配列)とする。ただし、3'末端から3〜21塩基目までの部分をセンス配列とし、5'末端側から1〜19塩基目までの部分をアンチセンス配列としても差し支えない。また、3'末端オーバーハングの配列については2塩基とするのが一般的であるが、オーバーハングの長さはdicingの位置に影響を与えない(図8)ため、自由に変更することができる。また、オーバーハング配列による影響もないため、任意の配列として差し支えない。そして、ターゲット配列は「切除配列」によって連結される。切除配列は、塩基対を組む「ステム」部分、ステム部分を連結する「ループ」部分および後述する「バルジ」部分から成る。この部分は、Dicing後RISC複合体には取り込まれない部分に相当するため、ステムおよびループの長さ・配列は任意であるが、ステムの長さは2塩基対以上ある必要がある。
【0021】
本発明においては、Dicerによって切断される長さを21塩基(オーバーハングを含む)のみに限定するために、切除配列のステム部分にバルジ構造を1箇所導入する。ここで、バルジおよびその両側の塩基対の位置および配列には制限が生じる。バルジの位置としては、好ましくは、図1のA, B, Cに示す3箇所である。図3において様々な位置にバルジを導入したshRNAのin vitroでのdicingパターンを示しているが、センス鎖22番目にバルジを持つもの及びアンチセンス鎖21、22番目にバルジを持つshRNAはdicing産物の長さが全て21塩基となっている。これら3種類のshRNAの構造は図1のA, B, CのshRNAの構造と同一のものである。
【0022】
図1A の方法ではshRNAの5'末端から22塩基目の位置にバルジを導入する。バルジ構造が5'末端から22塩基目の位置に固定されるためには、バルジ及びその両側の配列が図4(左)に示された22種類の配列である必要がある。図4においては括弧に囲まれた塩基がバルジ部分を示しており、その両側の塩基(左側が5'側、右側が3'側とする)はそれぞれ相補的な塩基を持つ反対側の鎖と塩基対を形成するものとする。これらの組み合わせのうち、A(C)A, A(C)G, A(C)U, A(U)A, C(A)G, C(G)C, C(G)U, G(C)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, U(G)UについてはDicing後のsiRNAの長さが完全に21塩基となっており、使用可能な配列となる。
【0023】
また、3'側にバルジを導入することによってもdicingパターンの固定化が可能である(図1B, C, 4(中央、右))この場合、3’末端からオーバーハングを除き21塩基目(B)または22塩基目(C)の位置にバルジを導入する。図1Bの場合ではA(C)G, A(U)A, A(U)G, C(A)G, C(A)U, C(G)U, G(C)A, G(C)G, G(U)A, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, U(G)CがDicing後のsiRNAの長さが完全に21塩基となっており、使用可能な配列となる。また、図1Cの場合では、A(C)G, A(C)U, A(U)A, A(U)G, C(A)C, C(A)G, C(A)U, C(G)A, C(G)C, C(G)U, G(A)C, G(A)G, G(A)U, G(C)A, G(C)G, G(C)U, G(U)A, G(U)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)U, U(G)C, U(G)UがDicing後のsiRNAの長さが完全に21塩基となっており、使用可能な配列となる。
【0024】
さらに、Dicerによって切断される長さを22塩基(オーバーハングを含む)のみに限定したい場合には、5’末端から23塩基目の位置にバルジを導入するにより可能である(図1A', 7)。この場合、固定配列部分は上記図1Aの場合と同様とし、ステム部分を相補的になるように1塩基ずつ伸長し、5’末端側の1〜20塩基目および3’末端側からオーバーハングを除き1〜20塩基目をターゲット配列およびその相補配列とすればよい(図1A')。
【0025】
なお、上記の設計手法は、鋳型となるDNA(プラスミド、PCR産物等)を細胞に導入して細胞内でshRNAを転写合成させる場合にも有効であるものとし、その場合には上記の配列を鋳型DNAの転写プロモーターの下流に配置するものとする。ただし、DNA配列においてはUをTに置き換えることとする。
【0026】
本発明のshRNAは、鋳型となるDNAを調製し、これを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことにより製造することができる。この方法で製造されるshRNAは、切除配列のステム部分にバルジ構造を有している点で新規であり、このようなshRNA自体も本発明の範囲内である。
【0027】
本発明のshRNAを製造するための転写は、インビトロで行うことができる。また、RNAポリメラーゼとしては、T7RNAポリメラーゼ、SP6RNAポリメラーゼまたはT3RNAポリメラーゼなどを使用することができ、中でもT7RNAポリメラーゼを使用することが好ましい。
【0028】
RNAポリメラーゼを用いた転写反応は当業者に既知の常法で行なうことができ、例えば、鋳型のオリゴヌクレオチドを含む溶液に、塩化マグネシウム、NTP、スペルミジン、ジチオスレイトールを加え、最後にT7 RNAポリメラーゼを適当な濃度になるように加えて反応を行なうことができる。また、反応液中から副生成物であるピロリン酸を除去して転写反応を促進するために、ピロフォスファターゼを加えることが好ましい。このような反応混合物を37℃で60分間インキュベートすることにより転写反応を行うことができる。
【0029】
shRNAの精製は以下のように行なうことができる。先ず、反応産物をフェノール処理およびクロロホルム処理などの常法によりタンパク質を除去した後、15%ポリアクリルアミドゲルにロードして電気泳動し、目的のshRNAのバンド部分のみを切り出し、次いで、このゲルを細かくすりつぶし、適当な溶液(例えば、0.5M 塩化ナトリウム、0.1%SDS、1mM EDTAを含む溶液)中に浸し、一定時間37℃で振とうすることによってRNAをゲルから溶出させることができる。この溶液からゲルを除去した後、エタノールを加えてRNAを沈殿させ、ペレットを少量の純水に溶解して回収することにより、精製した目的RNAを得ることができる。
【0030】
上記した本発明の方法で製造されるshRNAを用いて、RNAiにより標的核酸配列を含む遺伝子の発現を抑制することが可能である。
例えば、HeLa細胞などの培養細胞を用いる場合には、shRNAと適当なトランスフェクション試薬(例えば、OLIGOFECTAMINEなど)とを混合し、培養細胞に添加することによりshRNAを培養細胞にトランスフェクションする。培養細胞は好適な条件下で培養することにより、RNAi効果が細胞内で起こり、標的核酸配列を含む遺伝子の発現が抑制される。遺伝子の発現の抑制は、RT−PCR、ノザンブロット又はウエスタンブロットなどにより確認することができ、又は発現を抑制する遺伝子の機能が判明している場合には、細胞の表現型を観察することによって確認することも可能である。
【0031】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1:shRNAの転写合成および精製
T7 RNAポリメラーゼによる試験管内転写反応では、転写するRNAをコードする領域は一本鎖でよく、プロモーター領域のみが二本鎖であればよいということが知られている [Milligan, J.F. and O.C. Uhlenbeck, Synthesis of small RNAs using T7 RNA polymerase. Methods Enzymol, 1989. 180: p. 51-62.;及びKatoh, T., et al., Simple and rapid synthesis of siRNA derived from in vitro transcribed shRNA. Nucleic Acids Res Supplement, 2003. 3: p. 249-250.]。したがって、図2に示すように、T7 RNAポリメラーゼのクラスIIIプロモーター領域のみが二本鎖になるような鋳型DNAのペア(19塩基および79塩基)を作成した。T7プロモーター配列のみを含む19塩基のDNAについてはターゲットmRNAの配列に関係なくユニバーサルに使用できるため、shRNAの配列を含む鋳型DNAのみをターゲットの配列に応じて作成すればよい。ターゲットmRNA配列としてはEGFP遺伝子の配列を用い、転写後の5’末端1塩基目の位置がEGFP mRNAのORFのポジション1〜40および416に相当するようにshRNAを作成した。ステムおよびバルジ部分の配列は、5’末端から20〜26塩基目までとし、5'-CUCACAA-3'となるよう鋳型DNA配列を設計した。また、3’末端側から22〜27塩基目はこれと相補的になるよう5'-UUGUAG-3'とした。これにより5’末端から22番目のCはバルジを形成する。また、3'側にバルジを導入したもの(図1B, Cに対応する)として、EGFPのポジション416番をターゲットとするshRNAも同様に作成した。さらに、ネガティブコントロールとして、25塩基の2本鎖部分が全てターゲットmRNA(EGFP mRNA)の配列に対応した、バルジおよび固定配列部分を有しないshRNAも同様に作成した。以上全てのshRNAのループ部分は、配列を5'-AGCAUAG-3'とした。
【0033】
転写反応液の組成は、40mM HEPES-KOH(pH7.8) 、20mM 塩化マグネシウム、10mM ジチオスレイトール(DTT)、0.75mM NTP、7.5mM NMP、3mM N'TP mix (A,U,G,Cの4種類のうち、shRNAの5’末端1塩基目に相当する塩基をNとし、それ以外の3種類の塩基をN'とする)、2mM スペルミジン、48μg/ml BSA(ウシ胎児血清)、500nM 鋳型DNA、0.7U/ml パン酵母ピロフォスファターゼ、20ng/ml T7 RNAポリメラーゼ(いずれも終濃度)とした。以上の組成の反応液を1.5mlのマイクロチューブに入れ、酵素類(ピロフォスファターゼおよびT7 RNAポリメラーゼ)を最後に入れて反応を開始させ、37℃で2時間反応させた。なお、転写開始部分の5’末端がトリリン酸であると、細胞内に導入した際にインターフェロン応答やPKRの活性化による非特異的な翻訳抑制を引き起こすため[Hornung, V., Ellegast, J., Kim, S., Brzozka, K., Jung, A., Kato, H., Poeck, H., Akira, S., Conzelmann, K.K., Schlee, M., Endres, S., Hartmann, G., 5'-Triphosphate RNA is the ligand for RIG-I. Science, 2006. 314(5801): p. 935-6.;Kato, H., Takeuchi, O., Sato, S., Yoneyama, M., Yamamoto, M., Matsui, K., Uematsu, S., Jung, A., Kawai, T., Ishii, K.J., Yamaguchi, O., Otsu, K., Tsujimura, T., Koh, C.S., Reis e Sousa, C., Matsuura, Y., Fujita, T., Akira, S., Differential roles of MDA5 and RIG-I helicases in the recognition of RNA viruses. Nature, 2006. 441(7089): p. 101-5.:及びNallagatla, S.R., Hwang, J., Toroney, R., Zheng, X., Cameron, C.E., Bevilacqua, P.C., 5'-triphosphate-dependent activation of PKR by RNAs with short stem-loops. Science, 2007. 318(5855): p. 1455-8.]、NMPによって転写を開始させる必要がある。そのため、5’末端1塩基目に相当する塩基については、NTPの量を0.75mMに減らし、NMPをNTPの10倍量加えている。この条件下では、NMPが優先的に転写開始の際の基質になるため、転写産物の5'末端はほぼ100%がモノリン酸となる。
【0034】
反応後、転写反応液に含まれるT7 RNAポリメラーゼなどの酵素を失活・除去するために、フェノール処理およびクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)処理を行った。まず、フェノールを転写反応液と等量加え、ボルテックスしたのち15000rpmで10分間遠心し、上層を別のチューブに回収した。この上層に、さらにクロロホルム・イソアミルアルコールを等量加え、ボルテックスしたのち15000rpmで5分間遠心し、上層を別のチューブに回収した。回収した上層に3M酢酸カリウムを1/10量、エタノールを2.5倍量加えてよく混ぜ、氷上に10分置いた後、15000rpmで15分間遠心し、上清を除去した。得られたペレットをドライアップした後、20〜30μl程度のRNaseフリー水に溶解し、15%未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した。電気泳動後、目的のバンドを切り出し、shRNAをゲルから溶出させ易くするために、滅菌処理済ミクロスパーテルによって細かくすりつぶしたのち、1.5 mlマイクロチューブに移し、300μlの溶出バッファー(0.5 M NaCl, 0.1% SDS, 1mM EDTA)を加えて37℃で一晩(約12時間)振とうしてゲルから溶出させた。溶出液は遠心フィルターユニット(Ultrafree-MC, 0.45μm filter unit; MILLIPORE)にかけてゲルくずを除いた後、新しいマイクロチューブに移し、再度エタノール沈殿させた。エタノール沈殿後、ドライアップさせたshRNAのペレットはRNaseフリーの滅菌水に溶解した。
【0035】
実施例2:shRNAのdicingパターンの解析
上記によって合成されたshRNAのdicingパターンを調べるために、リコンビナント・ヒトDicerを用いてshRNAを試験管内にてdicingし、MALDI-TOF質量分析法によって解析した。リコンビナント・ヒトDicerはGene Therapy Systems(GTS)社のRecombinant Human Dicer Enzyme Kitに付属のものを使用した。反応液の組成は、40ng/μl shRNA、2.5mM塩化マグネシウム、1mM ATP、2.5x Dicer reaction buffer(GTS)、0.1 units/μl ヒトDicerとし、37℃で1時間反応させた。反応液量は10μlとした。反応後の溶液をNuTip C-18 (Glygen corp.)によって脱塩処理し、MALDI−TOF質量スペクトル分析を行い、dicingのパターンを帰属した。
【0036】
ここで、dicing後に生じた2本鎖RNAはMALDI-TOF質量分析においては1本ずつ別個に検出されてしまうため、ペアを組んでいた他方の断片の長さを同時に特定できないことになる。そのため、切除されたループ部分の断片の配列から2本鎖RNA部分の長さの組み合わせを特定した。図5, 6にEGFP mRNAのORFのポジション1〜12をターゲットとするshRNAのdicingパターンを示した。図5はバルジおよび固定配列を導入したshRNAのdicingパターンを示しているが、ターゲット配列部分の違いにかかわらず全ての配列において、センス鎖・アンチセンス鎖ともに90%以上が21mer(オーバーハングを含む)で切断されており、dicingのパターンをほぼ特定できていると言える。一方で、バルジおよび固定配列を導入しなかった場合(図6)には、22merで切断されているものが最も多いものの、その割合は一定しておらず、他の長さのものが多数を占める場合もあって切断のパターンは1つに特定できないことがわかった。また図8ではオーバーハングの長さによるdicingパターンへの影響を解析した。その結果、オーバーハングの長さによらず、dicingが起こる位置は一定であることが確認された。
【0037】
実施例3:shRNAの活性測定
合成したshRNAの活性測定には、HeLa細胞(S3)のHyg/EGFP安定発現株を使用した。Hyg/EGFP遺伝子は、EGFPとハイグロマイシン耐性遺伝子との融合タンパク質を発現するpHygEGFP (Clontech)に由来するものである。細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100unit/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび100μg/mlのハイグロマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM-F12)で培養した。shRNAを導入する2日前から37℃、5%CO2の条件下で細胞を24ウェルプレートにて前培養しておき、OligofectAMINE (invitrogen)を用いて終濃度1nMとなるようにshRNAをトランスフェクションした。shRNAの導入後、さらに48時間、37℃、5%CO2の条件下で培養した後、細胞を氷冷PBSで洗浄し、トリプシン処理(トリプシン100μl、37℃、3分間)してプレートから剥離させた。そして、血清を含むDMEM-F12培地100μlを加えてトリプシンの反応を停止させた後、96ウェル・ディープウェルプレートに移した。ディープウェルプレートを2000Gで遠心し、細胞を沈殿させて上清を捨て、PBSで再度2回洗浄した。回収・洗浄した細胞は250μlのPBSに懸濁して5mlポリスチレンチューブに移し、フローサイトメトリー(FACS Calibur : Beckton Dickinson)によってEGFPの蛍光強度の測定を行った。蛍光強度を測定する細胞数は、1ウェルあたり10000個とした。そして、EGFPタンパクの蛍光強度の低下割合を当該shRNAの活性値として算出した。
【0038】
EGFP mRNAのORFのポジション1〜40をターゲットとする40種類のshRNAについて、バルジを持つもの及び持たないものの活性を測定した結果を図9に示す。また、比較対象として21merのsiRNAについても別途あらかじめ転写合成したものを同様に細胞にトランスフェクションしてその活性を測定した。図9においてバルジを導入したshRNAと21merのsiRNAの活性を比較すると、ほぼすべてのポジションにおいてshRNAのほうが高い活性を示しており、shRNAの優位性を示す結果となった。本発明者らはsiRNAのセンス鎖の5’末端から3n+1番目の塩基がAまたはUである場合において活性が上昇する傾向があることを既に明らかにしているが[Katoh, T., Suzuki, T., Specific residues at every third position of siRNA shape its efficient RNAi activity. Nucleic Acids Res., 2007. 35(4): p. e27.]、EGFP mRNAのORFのポジション1〜40においては、ORFの配列自体にA・UとG・Cの3塩基周期性があるために21merのsiRNAの活性の値は3ポジションごとに周期的に変動する結果となっている。すなわち、ORFの3n+2番目のポジションをターゲットとするsiRNAの活性値が高くなる傾向を示している。一方で、バルジを導入したshRNAの活性測定結果においても同様に3n+2番目のポジションをターゲットとしたものの活性値が高くなっており、21mer siRNAの場合の活性変動パターンと合致している(図10左、相関係数0.892)ことから、shRNAが細胞内で21merにdicingされた断片が活性種としてRISC複合体に取り込まれた結果を示唆するものと考えられる。この事実は試験管内でのdicingパターン解析の結果と合致しており、細胞内においてもバルジ導入型shRNAのdicingパターンは21merに固定されているものと考えられる。バルジを持たないshRNAの場合にはdicingパターンが一定しないため、活性の3ポジションごとの周期的な変化は見られなくなっている。
【0039】
そして、バルジ導入型shRNAにおいてはdicing後の21merのsiRNAを活性種として考えればよいため、21merのsiRNAの活性予測アルゴリズムを適用することによって配列のデザインをすることが可能となると考えられる。
【0040】
実施例4:in vivoでのdicingパターンの解析
細胞内でのshRNAのdicingパターンを解析するため、anti-EGFP shRNA発現ベクターをHeLa細胞にトランスフェクションし、shRNAを細胞内で発現させた。shRNA発現ベクターはInvitrogen社製pENTR/H1/TOを使用し、shRNAの配列は図4左”EGFP416shRNA-A”のU(C)Aに相当するもの及び、バルジ部分のCを欠いたものの2種類を作成した。細胞は、shRNAを導入する48時間前から37℃、5%CO2の条件下で細胞を10cmシャーレにて前培養しておき、LipofectAMINE2000 (invitrogen)を用いて終濃度10nMとなるようにshRNAをトランスフェクションした。shRNAの導入後、さらに48時間、37℃、5%CO2の条件下で培養した後、ISOGEN(和光純薬)を用いてトータルRNAを回収した。得られたトータルRNAはさらにMicrocon-YM100(Millipore)によって低分子画分を濃縮した。
【0041】
図11は上記によって得られたトータルRNAを用い、図中赤線で示した19塩基の5'-32Pラベル・プローブによってdicing後のshRNAの下側の鎖の断片を検出(ノーザン・ハイブリダイゼーション)した結果を示す。トータルRNAは7M尿素-20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、Hybond N+メンブレン(GEヘルスケア)に転写させた。ハイブリダイゼーションは50度で2時間行い、1xSSCで3回洗浄した後、BAS5000(富士フィルム)によって目的のバンドの検出を行なった。また、図12は同じRNA画分を用い、図中赤線で示した19塩基の5'-32Pラベル・プライマーによってプライマー伸長法を行い、dicing後のshRNA(下側の鎖)の5'末端を解析した結果を示す。プライマー伸長反応はSuperscript III(Invitrogen)を用い、50℃で20分間行なった。反応後、7M尿素-20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、BAS5000(富士フィルム)によって目的のバンドの検出を行なった。バルジを導入したshRNAでは5'末端の位置は均一になっており、dicingの位置が固定されている。一方、バルジを導入しなかったshRNAではバンドが複数検出されており、dicingの位置が1箇所に固定されていないことを示している。図11においてバルジを導入したshRNAのdicing後の断片が複数種類見られるのは、転写反応の終結箇所が一定しておらず、3'末端がヘテロになっているためであると考えられる。しかしながら、図8, 12の結果からも示唆されるようにオーバーハング部分の長さはdicingの箇所に影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明のshRNAの構造例とDicerによる切断パターンを示す。Aの配列を配列番号1に示し、A’の配列を配列番号2に示し、Bの配列を配列番号3に示し、Cの配列を配列番号4に示す。
【図2】図2は、shRNAの転写合成法を示す。鋳型DNAの配列を配列番号5及び6に示し、転写産物(shRNA)の配列を配列番号7に示す。
【図3】図3は、様々な位置にバルジを導入したshRNAのDicingパターンを示す。EGFPのポジション416をターゲットとするshRNAのDicingパターン(ヒトdicerによる試験管内での切断パターン)を示す。図左はセンス鎖側(5’側)にバルジを導入した場合、図右はアンチセンス鎖側(3’側)にバルジを導入した場合の結果を示している。棒グラフ左側にはバルジの箇所(センス鎖側は5’末端からの塩基数、アンチセンス鎖側は3’末端からオーバーハングを除いた塩基数)とバルジの塩基の種類を示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。センス鎖22番目にバルジを持つもの及びアンチセンス鎖21、22番目にバルジを持つshRNAはdicing産物の長さが全て21塩基となる。
【図4】図4は、バルジの両端の塩基を変化させた場合のshRNAのDicingパターンを示す。EGFPのポジション416をターゲットとするshRNAのDicingパターンを示す。図1の「切除配列」のうち、バルジおよびその両端の塩基を変化させた場合のDicingパターンを示す。切除配列部分の構造は、左から図1のA、B、Cに対応している。図中に示した配列はバルジを含む鎖の配列を示しており、バルジの両端の塩基は反対側の鎖と塩基対を組む(相補的な塩基が来る)。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。必ずしも21塩基で切断されない塩基の組み合わせもみられる。
【図5】図5は、バルジと固定配列を含むshRNAのDicingパターンを示す。図1AタイプのshRNAにおいて、ターゲット配列部分を変化させた場合のDicingパターンを示す。左端の数字はRGFP mRNAのORF上のターゲット位置を示す。下線で示した配列(C)は、バルジを示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。ターゲット部分の配列が変わってもほぼ21塩基にDicingされている。1から12の配列を配列番号8から19に示す。
【図6】図6は、バルジを含まないshRNAのDicingパターンを示す。左端の数字はRGFP mRNAのORF上のターゲット位置を示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。Dicingパターンは一定していない。1から12の配列を配列番号20から31に示す。
【図7】図7は、バルジと固定配列を含むshRNAのDicingパターンを示す。図1AタイプのshRNAにおいて、バルジの位置を5’末端側から23番目に移動させ、さらにターゲット配列部分を様々に変化させた時(図1A')のDicingパターンを示す。左端の数字はRGFP mRNAのORF上のターゲット位置を示す。下線で示した配列(C)は、バルジを示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。ターゲット部分の配列によらず、ほぼ21塩基にDicingされている。1から12の配列を配列番号32から43に示す。
【図8】図8は、3’末端のオーバーハングの長さを変化させた場合のshRNAのDicingパターンを示す。EGFPポジション416をターゲットとするshRNA(バルジ導入型)について、3’末端のオーバーハングの長さを変化させてDicingを行った結果を示す。いずれの場合もdicingの位置は同じである。図8に記載のオーバーハング0塩基から5塩基の配列をそれぞれ、配列番号44から49に示す。
【図9】図9は、siRNAとshRNAの活性比較を示す。EGFPmRNAのポジション1-50をターゲットとするsiRNA(21mer)とshRNA(バルジあり、なし)をHeLa細胞(EGFP発現株)に導入し、48時間後の活性を測定した。siRNA及びshRNAの終濃度は1nMとした。shRNAのバルジ導入箇所は図1Aと同様である。siRNAとshRNA(バルジあり)の活性の相関性はR=0.892、siRNAとshRNA(バルジなし)の活性の相関性はR=0.330、shRNAバルジあり、なしの活性の相関性はR=0.483であった。
【図10】図10は、siRNAとshRNAの活性比較を示す。図9で得られたsiRNAとshRNA(バルジあり、なし)の活性データを2種類ずつ比較するためにプロット化した。両者の活性値の相関係数を図左上に示した(R)。
【図11】図11は、ノーザン・ハイブリダイゼーションによるin vivo dicingパターンの解析を示す。市販のshRNA発現ベクター(pENTR/H1/TO vector, Invitrogen社)にEGFP416shRNAの配列を導入し、HeLa細胞にトランスフェクションして、細胞内でshRNAを発現させた。shRNAの配列は、バルジを含むもの(図1A型)と含まないものを各々作成した。細胞から回収したtotalRNAを用い、図中に示したプローブによってノーザン・ハイブリダイゼーションを行った結果を示す。図11で用いたshRNA配列(bulge+)を配列番号50に示し、shRNA配列(bulge-, 図中には記載なし)を配列番号51に示す。
【図12】図12は、プライマー伸長法によるin vivo dicingパターンの解析を示す。shRNA発現ベクター(pENTR/H1/TO vector, Invitrogen社)にEGFP416shRNAの配列を導入し、HeLa細胞にトランスフェクションして、細胞内でshRNAを発現させた。shRNAの配列は、バルジを含むもの(図1A型)と含まないものを各々作成した。細胞から回収したtotalRNAを用い、図中に示したプライマーによってプライマー伸長法を行った結果を示す。図12で用いたshRNA配列(bulge+)を配列番号50に示し、shRNA配列(bulge-, 図中には記載なし)を配列番号51に示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性shRNA及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、標的遺伝子の発現を効率良く抑制することができる高活性shRNA及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAiは、細胞内に2本鎖のRNAを導入するとその配列に特異的に遺伝子の発現抑制が引き起こされるという現象であり、1998年に線虫(C. elegans)において発見された[非特許文献1]。細胞内に導入された2本鎖RNAは、Dicerという酵素によってまず21−23mer程度の短い2本鎖RNAに切断され、RISCと呼ばれるタンパク質・RNA複合体に取り込まれる。そしてRISC複合体がターゲットとなるmRNAを認識し、切断することによって当該遺伝子の発現が抑制される。当初、ヒトをはじめとする哺乳動物の細胞においては、長い2本鎖RNAを導入すると非特異的なmRNAの分解とタンパク質合成のシャットダウンが生じてしまうという問題があったが、2001年のTuschlらの発見により、初めから短い2本鎖RNAを導入することにより哺乳動物細胞においても同様の特異的発現抑制が引き起こされることが明らかになった [非特許文献2及び3]。このような短い2本鎖RNAはsmall interfering RNA(siRNA)と称され、3’末端に2塩基ずつのオーバーハングを有するものが一般的に用いられている。現在、RNAiによる特異的遺伝子発現抑制の手法は、迅速かつ簡便な遺伝子機能解析法として非常に注目されている。siRNAの導入により、哺乳動物細胞においてもターゲット遺伝子の簡便な発現抑制が可能となったため、生命科学のあらゆる分野において共通の研究ツールとしてその地位を確立しつつある。またHIVやHCVなどのRNAウイルスに対しても発現抑制効果を示すため、次世代の遺伝子治療薬としても期待されている[非特許文献4〜7]。
【0003】
哺乳動物細胞において、非特異的なmRNA分解やタンパク質合成のシャットダウンを回避するためには、導入する2本鎖RNAの長さはおよそ30mer程度以下の長さであればよいことが知られており[非特許文献8]、19〜30mer程度の長さの2本鎖RNAであれば問題なくRNAi活性を示すことがわかっている。近年の報告によれば、2本鎖部分の長さが若干長い(25〜29mer程度)もののほうが、21mer前後の短いものよりも活性が高くなる傾向があることがわかってきている[非特許文献9及び10]。siRNAはRISC複合体に取り込まれる前段階においてDicerやTRBPといった因子とともにRLC (RISC Loading Complex)を形成することが知られているが[非特許文献11及び12]、より長い2本鎖RNAのほうがDicerとのアフィニティーが強いために、より容易にRLCやRISCに取り込まれるためではないかと考えられている。25〜29mer程度の長さのsiRNAは、特に低濃度(終濃度100pM程度以下)においても高い活性を保持することから、濃度依存的なインターフェロン応答を回避できるという点においても有利である[非特許文献13]。しかしながら、より長いsiRNAを使用することにはデメリットもある。23mer程度の長さを超えると、Dicerによるプロセッシング(=Dicing)を受けていったん21〜23mer程度の長さに切断されたのちにRISC複合体に取り込まれることになるため、最終的なガイド鎖の配列が特定できないばかりか、複数の活性種が生じてしまうことになる点である。DicerはPAZドメインによって2本鎖RNAの末端オーバーハング部分を認識し、末端から21〜23塩基の箇所を切断することが知られているが、必ずしも一定の長さで切断するわけではないため、複数の断片が生じうる[非特許文献14から16]。また、PAZドメインが2本鎖RNAのどちら側の末端に結合したかによっても生じる配列が変わってしまうことになる。このことは、siRNA発現ベクターを導入して細胞内でsiRNAを転写合成させる場合にも当てはまる。siRNAの活性の高さはわずか配列1塩基の違いによっても大きく左右されるため、活性種の配列が特定できないことは活性の高いsiRNAをデザインする上で大きなデメリットとなる。また、オフターゲット効果回避の観点からも複数の配列が活性を持ちうることは好ましくない。したがって、長いsiRNAの高い活性を活かしつつこれらのデメリットを回避するためには、Dicerによる2本鎖RNAの切断パターンを明らかにし、常に特定の配列に切断されるようなsiRNAを設計する必要があると考えられる。
【0004】
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、Dicerによる2本鎖RNAの切断パターンを明らかにし、Dicerによって特定の配列に切断されるようなsiRNA及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した従来技術の問題点を解決するためにヘアピン型2本鎖RNAの設計法を鋭意検討した結果、Dicerによって切断される切除配列のステム部分にバルジ構造を1箇所導入することによって、生体内でのDicing反応後に生じる短い2本鎖RNA断片の配列を1種類のみに限定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNAが提供される。
【0008】
好ましくは、第一のターゲット配列及び第二のターゲット配列の長さがそれぞれ19塩基又は20塩基である。
好ましくは、第一のステム配列及び第一のステム配列の長さがそれぞれ2塩基から20塩基である。
好ましくは、ループを形成する配列の長さが2塩基から20塩基である。
【0009】
好ましくは、上記バルジ塩基が、下記の何れかの位置に存在する。
(1)第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間、
(2)第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間、又は
(3)第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間:
【0010】
好ましくは、上記バルジ塩基が、第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)A, A(C)G, A(C)U, A(U)A, C(A)G, C(G)C, C(G)U, G(C)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Uの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0011】
好ましくは、上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間に存在し、上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(U)A, A(U)G, C(A)G, C(A)U, C(G)U, G(C)A, G(C)G, G(U)A, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Cの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0012】
好ましくは、上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(C)U, A(U)A, A(U)G, C(A)C, C(A)G, C(A)U, C(G)A, C(G)C, C(G)U, G(A)C, G(A)G, G(A)U, G(C)A, G(C)G, G(C)U, G(U)A, G(U)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)U, U(G)C, 又はU(G)Uである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0013】
好ましくは、第一のステム配列、ループを形成する配列及び第二のステム配列からなる配列が、CU(C)ACAA-AGCAUAG-UUGUAG、CACAA-AGCAUAG-UUGU(A)G、又はCUCAA-AGCAUAG-UUG(U)AGである、(括弧内の塩基がバルジ塩基である)。
【0014】
本発明によればさらに、5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有するようにヘアピン型RNA(shRNA)の塩基配列を設計することを特徴とする、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法が提供される。
【0015】
本発明によればさらに、5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)をコードするDNAを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことを含む、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法が提供される。
【0016】
好ましくは、転写をインビトロで行う。
好ましくは、RNAポリメラーゼとしてT7RNAポリメラーゼを使用する。
【0017】
本発明によればさらに、上記した本発明のヘアピン型RNA(shRNA)、又はヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法により製造されるヘアピン型RNA(shRNA)を細胞にインビトロで導入することを含む、RNAiによりターゲット配列を含む遺伝子の発現を抑制する方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生体内でのDicing反応後に生じる短い2本鎖RNA断片の配列を1種類のみに限定できるようなsiRNAを製造することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明においては、従来一般的に用いられている2本鎖RNA (siRNA)ではなく、ヘアピン型RNA (short hairpin RNA : shRNA)を採用した。shRNAにおいては3'-オーバーハングを有する末端が1つしか生じないため、細胞内においてDicerが結合する方向が1方向のみに限定できるためである。すなわち、DicerはshRNAの唯一の末端にPAZドメインを介して結合し、末端から21〜23塩基の長さの位置でヘアピンRNAを切断する。その結果として、ヘアピンのループ部分は除去され、21〜23塩基程度の長さの2本鎖RNAが生じることになる。また、shRNAを用いることにより、2本鎖を形成させるためのアニーリング操作が不要となるほか、RNAを転写合成させる場合には、鋳型DNAも1種類で済むためコスト的にも有利となるというメリットがある。さらに、shRNAの5'末端にO-メチル化などの修飾を導入することにより、修飾された鎖のRISC複合体への取り込みを阻害し、修飾を含まない鎖のみをRISCに取り込ませることによって活性の向上・オフターゲット効果の回避を期待できる [ Chen, P.Y., Weinmann, L., Gaidatzis, D., Pei, Y., Zavolan, M., Tuschl, T., Meister, G., Strand-specific 5'-O-methylation of siRNA duplexes controls guide strand selection and targeting specificity. RNA, 2007: p. [Epub ahead of print]]。
【0020】
本発明により設計及び製造されるshRNAの好ましい具体例を、図1のA, B, Cに示す。ノックダウンしたい遺伝子の配列は「ターゲット配列」部分に配置する。すなわち、5'末端側の1〜19塩基目までの部分をターゲットmRNAに相当する配列(センス配列)とし、3'末端側からオーバーハングを除いて1〜19塩基目までの部分をこれに相補的な配列(アンチセンス配列)とする。ただし、3'末端から3〜21塩基目までの部分をセンス配列とし、5'末端側から1〜19塩基目までの部分をアンチセンス配列としても差し支えない。また、3'末端オーバーハングの配列については2塩基とするのが一般的であるが、オーバーハングの長さはdicingの位置に影響を与えない(図8)ため、自由に変更することができる。また、オーバーハング配列による影響もないため、任意の配列として差し支えない。そして、ターゲット配列は「切除配列」によって連結される。切除配列は、塩基対を組む「ステム」部分、ステム部分を連結する「ループ」部分および後述する「バルジ」部分から成る。この部分は、Dicing後RISC複合体には取り込まれない部分に相当するため、ステムおよびループの長さ・配列は任意であるが、ステムの長さは2塩基対以上ある必要がある。
【0021】
本発明においては、Dicerによって切断される長さを21塩基(オーバーハングを含む)のみに限定するために、切除配列のステム部分にバルジ構造を1箇所導入する。ここで、バルジおよびその両側の塩基対の位置および配列には制限が生じる。バルジの位置としては、好ましくは、図1のA, B, Cに示す3箇所である。図3において様々な位置にバルジを導入したshRNAのin vitroでのdicingパターンを示しているが、センス鎖22番目にバルジを持つもの及びアンチセンス鎖21、22番目にバルジを持つshRNAはdicing産物の長さが全て21塩基となっている。これら3種類のshRNAの構造は図1のA, B, CのshRNAの構造と同一のものである。
【0022】
図1A の方法ではshRNAの5'末端から22塩基目の位置にバルジを導入する。バルジ構造が5'末端から22塩基目の位置に固定されるためには、バルジ及びその両側の配列が図4(左)に示された22種類の配列である必要がある。図4においては括弧に囲まれた塩基がバルジ部分を示しており、その両側の塩基(左側が5'側、右側が3'側とする)はそれぞれ相補的な塩基を持つ反対側の鎖と塩基対を形成するものとする。これらの組み合わせのうち、A(C)A, A(C)G, A(C)U, A(U)A, C(A)G, C(G)C, C(G)U, G(C)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, U(G)UについてはDicing後のsiRNAの長さが完全に21塩基となっており、使用可能な配列となる。
【0023】
また、3'側にバルジを導入することによってもdicingパターンの固定化が可能である(図1B, C, 4(中央、右))この場合、3’末端からオーバーハングを除き21塩基目(B)または22塩基目(C)の位置にバルジを導入する。図1Bの場合ではA(C)G, A(U)A, A(U)G, C(A)G, C(A)U, C(G)U, G(C)A, G(C)G, G(U)A, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, U(G)CがDicing後のsiRNAの長さが完全に21塩基となっており、使用可能な配列となる。また、図1Cの場合では、A(C)G, A(C)U, A(U)A, A(U)G, C(A)C, C(A)G, C(A)U, C(G)A, C(G)C, C(G)U, G(A)C, G(A)G, G(A)U, G(C)A, G(C)G, G(C)U, G(U)A, G(U)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)U, U(G)C, U(G)UがDicing後のsiRNAの長さが完全に21塩基となっており、使用可能な配列となる。
【0024】
さらに、Dicerによって切断される長さを22塩基(オーバーハングを含む)のみに限定したい場合には、5’末端から23塩基目の位置にバルジを導入するにより可能である(図1A', 7)。この場合、固定配列部分は上記図1Aの場合と同様とし、ステム部分を相補的になるように1塩基ずつ伸長し、5’末端側の1〜20塩基目および3’末端側からオーバーハングを除き1〜20塩基目をターゲット配列およびその相補配列とすればよい(図1A')。
【0025】
なお、上記の設計手法は、鋳型となるDNA(プラスミド、PCR産物等)を細胞に導入して細胞内でshRNAを転写合成させる場合にも有効であるものとし、その場合には上記の配列を鋳型DNAの転写プロモーターの下流に配置するものとする。ただし、DNA配列においてはUをTに置き換えることとする。
【0026】
本発明のshRNAは、鋳型となるDNAを調製し、これを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことにより製造することができる。この方法で製造されるshRNAは、切除配列のステム部分にバルジ構造を有している点で新規であり、このようなshRNA自体も本発明の範囲内である。
【0027】
本発明のshRNAを製造するための転写は、インビトロで行うことができる。また、RNAポリメラーゼとしては、T7RNAポリメラーゼ、SP6RNAポリメラーゼまたはT3RNAポリメラーゼなどを使用することができ、中でもT7RNAポリメラーゼを使用することが好ましい。
【0028】
RNAポリメラーゼを用いた転写反応は当業者に既知の常法で行なうことができ、例えば、鋳型のオリゴヌクレオチドを含む溶液に、塩化マグネシウム、NTP、スペルミジン、ジチオスレイトールを加え、最後にT7 RNAポリメラーゼを適当な濃度になるように加えて反応を行なうことができる。また、反応液中から副生成物であるピロリン酸を除去して転写反応を促進するために、ピロフォスファターゼを加えることが好ましい。このような反応混合物を37℃で60分間インキュベートすることにより転写反応を行うことができる。
【0029】
shRNAの精製は以下のように行なうことができる。先ず、反応産物をフェノール処理およびクロロホルム処理などの常法によりタンパク質を除去した後、15%ポリアクリルアミドゲルにロードして電気泳動し、目的のshRNAのバンド部分のみを切り出し、次いで、このゲルを細かくすりつぶし、適当な溶液(例えば、0.5M 塩化ナトリウム、0.1%SDS、1mM EDTAを含む溶液)中に浸し、一定時間37℃で振とうすることによってRNAをゲルから溶出させることができる。この溶液からゲルを除去した後、エタノールを加えてRNAを沈殿させ、ペレットを少量の純水に溶解して回収することにより、精製した目的RNAを得ることができる。
【0030】
上記した本発明の方法で製造されるshRNAを用いて、RNAiにより標的核酸配列を含む遺伝子の発現を抑制することが可能である。
例えば、HeLa細胞などの培養細胞を用いる場合には、shRNAと適当なトランスフェクション試薬(例えば、OLIGOFECTAMINEなど)とを混合し、培養細胞に添加することによりshRNAを培養細胞にトランスフェクションする。培養細胞は好適な条件下で培養することにより、RNAi効果が細胞内で起こり、標的核酸配列を含む遺伝子の発現が抑制される。遺伝子の発現の抑制は、RT−PCR、ノザンブロット又はウエスタンブロットなどにより確認することができ、又は発現を抑制する遺伝子の機能が判明している場合には、細胞の表現型を観察することによって確認することも可能である。
【0031】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1:shRNAの転写合成および精製
T7 RNAポリメラーゼによる試験管内転写反応では、転写するRNAをコードする領域は一本鎖でよく、プロモーター領域のみが二本鎖であればよいということが知られている [Milligan, J.F. and O.C. Uhlenbeck, Synthesis of small RNAs using T7 RNA polymerase. Methods Enzymol, 1989. 180: p. 51-62.;及びKatoh, T., et al., Simple and rapid synthesis of siRNA derived from in vitro transcribed shRNA. Nucleic Acids Res Supplement, 2003. 3: p. 249-250.]。したがって、図2に示すように、T7 RNAポリメラーゼのクラスIIIプロモーター領域のみが二本鎖になるような鋳型DNAのペア(19塩基および79塩基)を作成した。T7プロモーター配列のみを含む19塩基のDNAについてはターゲットmRNAの配列に関係なくユニバーサルに使用できるため、shRNAの配列を含む鋳型DNAのみをターゲットの配列に応じて作成すればよい。ターゲットmRNA配列としてはEGFP遺伝子の配列を用い、転写後の5’末端1塩基目の位置がEGFP mRNAのORFのポジション1〜40および416に相当するようにshRNAを作成した。ステムおよびバルジ部分の配列は、5’末端から20〜26塩基目までとし、5'-CUCACAA-3'となるよう鋳型DNA配列を設計した。また、3’末端側から22〜27塩基目はこれと相補的になるよう5'-UUGUAG-3'とした。これにより5’末端から22番目のCはバルジを形成する。また、3'側にバルジを導入したもの(図1B, Cに対応する)として、EGFPのポジション416番をターゲットとするshRNAも同様に作成した。さらに、ネガティブコントロールとして、25塩基の2本鎖部分が全てターゲットmRNA(EGFP mRNA)の配列に対応した、バルジおよび固定配列部分を有しないshRNAも同様に作成した。以上全てのshRNAのループ部分は、配列を5'-AGCAUAG-3'とした。
【0033】
転写反応液の組成は、40mM HEPES-KOH(pH7.8) 、20mM 塩化マグネシウム、10mM ジチオスレイトール(DTT)、0.75mM NTP、7.5mM NMP、3mM N'TP mix (A,U,G,Cの4種類のうち、shRNAの5’末端1塩基目に相当する塩基をNとし、それ以外の3種類の塩基をN'とする)、2mM スペルミジン、48μg/ml BSA(ウシ胎児血清)、500nM 鋳型DNA、0.7U/ml パン酵母ピロフォスファターゼ、20ng/ml T7 RNAポリメラーゼ(いずれも終濃度)とした。以上の組成の反応液を1.5mlのマイクロチューブに入れ、酵素類(ピロフォスファターゼおよびT7 RNAポリメラーゼ)を最後に入れて反応を開始させ、37℃で2時間反応させた。なお、転写開始部分の5’末端がトリリン酸であると、細胞内に導入した際にインターフェロン応答やPKRの活性化による非特異的な翻訳抑制を引き起こすため[Hornung, V., Ellegast, J., Kim, S., Brzozka, K., Jung, A., Kato, H., Poeck, H., Akira, S., Conzelmann, K.K., Schlee, M., Endres, S., Hartmann, G., 5'-Triphosphate RNA is the ligand for RIG-I. Science, 2006. 314(5801): p. 935-6.;Kato, H., Takeuchi, O., Sato, S., Yoneyama, M., Yamamoto, M., Matsui, K., Uematsu, S., Jung, A., Kawai, T., Ishii, K.J., Yamaguchi, O., Otsu, K., Tsujimura, T., Koh, C.S., Reis e Sousa, C., Matsuura, Y., Fujita, T., Akira, S., Differential roles of MDA5 and RIG-I helicases in the recognition of RNA viruses. Nature, 2006. 441(7089): p. 101-5.:及びNallagatla, S.R., Hwang, J., Toroney, R., Zheng, X., Cameron, C.E., Bevilacqua, P.C., 5'-triphosphate-dependent activation of PKR by RNAs with short stem-loops. Science, 2007. 318(5855): p. 1455-8.]、NMPによって転写を開始させる必要がある。そのため、5’末端1塩基目に相当する塩基については、NTPの量を0.75mMに減らし、NMPをNTPの10倍量加えている。この条件下では、NMPが優先的に転写開始の際の基質になるため、転写産物の5'末端はほぼ100%がモノリン酸となる。
【0034】
反応後、転写反応液に含まれるT7 RNAポリメラーゼなどの酵素を失活・除去するために、フェノール処理およびクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)処理を行った。まず、フェノールを転写反応液と等量加え、ボルテックスしたのち15000rpmで10分間遠心し、上層を別のチューブに回収した。この上層に、さらにクロロホルム・イソアミルアルコールを等量加え、ボルテックスしたのち15000rpmで5分間遠心し、上層を別のチューブに回収した。回収した上層に3M酢酸カリウムを1/10量、エタノールを2.5倍量加えてよく混ぜ、氷上に10分置いた後、15000rpmで15分間遠心し、上清を除去した。得られたペレットをドライアップした後、20〜30μl程度のRNaseフリー水に溶解し、15%未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した。電気泳動後、目的のバンドを切り出し、shRNAをゲルから溶出させ易くするために、滅菌処理済ミクロスパーテルによって細かくすりつぶしたのち、1.5 mlマイクロチューブに移し、300μlの溶出バッファー(0.5 M NaCl, 0.1% SDS, 1mM EDTA)を加えて37℃で一晩(約12時間)振とうしてゲルから溶出させた。溶出液は遠心フィルターユニット(Ultrafree-MC, 0.45μm filter unit; MILLIPORE)にかけてゲルくずを除いた後、新しいマイクロチューブに移し、再度エタノール沈殿させた。エタノール沈殿後、ドライアップさせたshRNAのペレットはRNaseフリーの滅菌水に溶解した。
【0035】
実施例2:shRNAのdicingパターンの解析
上記によって合成されたshRNAのdicingパターンを調べるために、リコンビナント・ヒトDicerを用いてshRNAを試験管内にてdicingし、MALDI-TOF質量分析法によって解析した。リコンビナント・ヒトDicerはGene Therapy Systems(GTS)社のRecombinant Human Dicer Enzyme Kitに付属のものを使用した。反応液の組成は、40ng/μl shRNA、2.5mM塩化マグネシウム、1mM ATP、2.5x Dicer reaction buffer(GTS)、0.1 units/μl ヒトDicerとし、37℃で1時間反応させた。反応液量は10μlとした。反応後の溶液をNuTip C-18 (Glygen corp.)によって脱塩処理し、MALDI−TOF質量スペクトル分析を行い、dicingのパターンを帰属した。
【0036】
ここで、dicing後に生じた2本鎖RNAはMALDI-TOF質量分析においては1本ずつ別個に検出されてしまうため、ペアを組んでいた他方の断片の長さを同時に特定できないことになる。そのため、切除されたループ部分の断片の配列から2本鎖RNA部分の長さの組み合わせを特定した。図5, 6にEGFP mRNAのORFのポジション1〜12をターゲットとするshRNAのdicingパターンを示した。図5はバルジおよび固定配列を導入したshRNAのdicingパターンを示しているが、ターゲット配列部分の違いにかかわらず全ての配列において、センス鎖・アンチセンス鎖ともに90%以上が21mer(オーバーハングを含む)で切断されており、dicingのパターンをほぼ特定できていると言える。一方で、バルジおよび固定配列を導入しなかった場合(図6)には、22merで切断されているものが最も多いものの、その割合は一定しておらず、他の長さのものが多数を占める場合もあって切断のパターンは1つに特定できないことがわかった。また図8ではオーバーハングの長さによるdicingパターンへの影響を解析した。その結果、オーバーハングの長さによらず、dicingが起こる位置は一定であることが確認された。
【0037】
実施例3:shRNAの活性測定
合成したshRNAの活性測定には、HeLa細胞(S3)のHyg/EGFP安定発現株を使用した。Hyg/EGFP遺伝子は、EGFPとハイグロマイシン耐性遺伝子との融合タンパク質を発現するpHygEGFP (Clontech)に由来するものである。細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100unit/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび100μg/mlのハイグロマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM-F12)で培養した。shRNAを導入する2日前から37℃、5%CO2の条件下で細胞を24ウェルプレートにて前培養しておき、OligofectAMINE (invitrogen)を用いて終濃度1nMとなるようにshRNAをトランスフェクションした。shRNAの導入後、さらに48時間、37℃、5%CO2の条件下で培養した後、細胞を氷冷PBSで洗浄し、トリプシン処理(トリプシン100μl、37℃、3分間)してプレートから剥離させた。そして、血清を含むDMEM-F12培地100μlを加えてトリプシンの反応を停止させた後、96ウェル・ディープウェルプレートに移した。ディープウェルプレートを2000Gで遠心し、細胞を沈殿させて上清を捨て、PBSで再度2回洗浄した。回収・洗浄した細胞は250μlのPBSに懸濁して5mlポリスチレンチューブに移し、フローサイトメトリー(FACS Calibur : Beckton Dickinson)によってEGFPの蛍光強度の測定を行った。蛍光強度を測定する細胞数は、1ウェルあたり10000個とした。そして、EGFPタンパクの蛍光強度の低下割合を当該shRNAの活性値として算出した。
【0038】
EGFP mRNAのORFのポジション1〜40をターゲットとする40種類のshRNAについて、バルジを持つもの及び持たないものの活性を測定した結果を図9に示す。また、比較対象として21merのsiRNAについても別途あらかじめ転写合成したものを同様に細胞にトランスフェクションしてその活性を測定した。図9においてバルジを導入したshRNAと21merのsiRNAの活性を比較すると、ほぼすべてのポジションにおいてshRNAのほうが高い活性を示しており、shRNAの優位性を示す結果となった。本発明者らはsiRNAのセンス鎖の5’末端から3n+1番目の塩基がAまたはUである場合において活性が上昇する傾向があることを既に明らかにしているが[Katoh, T., Suzuki, T., Specific residues at every third position of siRNA shape its efficient RNAi activity. Nucleic Acids Res., 2007. 35(4): p. e27.]、EGFP mRNAのORFのポジション1〜40においては、ORFの配列自体にA・UとG・Cの3塩基周期性があるために21merのsiRNAの活性の値は3ポジションごとに周期的に変動する結果となっている。すなわち、ORFの3n+2番目のポジションをターゲットとするsiRNAの活性値が高くなる傾向を示している。一方で、バルジを導入したshRNAの活性測定結果においても同様に3n+2番目のポジションをターゲットとしたものの活性値が高くなっており、21mer siRNAの場合の活性変動パターンと合致している(図10左、相関係数0.892)ことから、shRNAが細胞内で21merにdicingされた断片が活性種としてRISC複合体に取り込まれた結果を示唆するものと考えられる。この事実は試験管内でのdicingパターン解析の結果と合致しており、細胞内においてもバルジ導入型shRNAのdicingパターンは21merに固定されているものと考えられる。バルジを持たないshRNAの場合にはdicingパターンが一定しないため、活性の3ポジションごとの周期的な変化は見られなくなっている。
【0039】
そして、バルジ導入型shRNAにおいてはdicing後の21merのsiRNAを活性種として考えればよいため、21merのsiRNAの活性予測アルゴリズムを適用することによって配列のデザインをすることが可能となると考えられる。
【0040】
実施例4:in vivoでのdicingパターンの解析
細胞内でのshRNAのdicingパターンを解析するため、anti-EGFP shRNA発現ベクターをHeLa細胞にトランスフェクションし、shRNAを細胞内で発現させた。shRNA発現ベクターはInvitrogen社製pENTR/H1/TOを使用し、shRNAの配列は図4左”EGFP416shRNA-A”のU(C)Aに相当するもの及び、バルジ部分のCを欠いたものの2種類を作成した。細胞は、shRNAを導入する48時間前から37℃、5%CO2の条件下で細胞を10cmシャーレにて前培養しておき、LipofectAMINE2000 (invitrogen)を用いて終濃度10nMとなるようにshRNAをトランスフェクションした。shRNAの導入後、さらに48時間、37℃、5%CO2の条件下で培養した後、ISOGEN(和光純薬)を用いてトータルRNAを回収した。得られたトータルRNAはさらにMicrocon-YM100(Millipore)によって低分子画分を濃縮した。
【0041】
図11は上記によって得られたトータルRNAを用い、図中赤線で示した19塩基の5'-32Pラベル・プローブによってdicing後のshRNAの下側の鎖の断片を検出(ノーザン・ハイブリダイゼーション)した結果を示す。トータルRNAは7M尿素-20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、Hybond N+メンブレン(GEヘルスケア)に転写させた。ハイブリダイゼーションは50度で2時間行い、1xSSCで3回洗浄した後、BAS5000(富士フィルム)によって目的のバンドの検出を行なった。また、図12は同じRNA画分を用い、図中赤線で示した19塩基の5'-32Pラベル・プライマーによってプライマー伸長法を行い、dicing後のshRNA(下側の鎖)の5'末端を解析した結果を示す。プライマー伸長反応はSuperscript III(Invitrogen)を用い、50℃で20分間行なった。反応後、7M尿素-20%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、BAS5000(富士フィルム)によって目的のバンドの検出を行なった。バルジを導入したshRNAでは5'末端の位置は均一になっており、dicingの位置が固定されている。一方、バルジを導入しなかったshRNAではバンドが複数検出されており、dicingの位置が1箇所に固定されていないことを示している。図11においてバルジを導入したshRNAのdicing後の断片が複数種類見られるのは、転写反応の終結箇所が一定しておらず、3'末端がヘテロになっているためであると考えられる。しかしながら、図8, 12の結果からも示唆されるようにオーバーハング部分の長さはdicingの箇所に影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明のshRNAの構造例とDicerによる切断パターンを示す。Aの配列を配列番号1に示し、A’の配列を配列番号2に示し、Bの配列を配列番号3に示し、Cの配列を配列番号4に示す。
【図2】図2は、shRNAの転写合成法を示す。鋳型DNAの配列を配列番号5及び6に示し、転写産物(shRNA)の配列を配列番号7に示す。
【図3】図3は、様々な位置にバルジを導入したshRNAのDicingパターンを示す。EGFPのポジション416をターゲットとするshRNAのDicingパターン(ヒトdicerによる試験管内での切断パターン)を示す。図左はセンス鎖側(5’側)にバルジを導入した場合、図右はアンチセンス鎖側(3’側)にバルジを導入した場合の結果を示している。棒グラフ左側にはバルジの箇所(センス鎖側は5’末端からの塩基数、アンチセンス鎖側は3’末端からオーバーハングを除いた塩基数)とバルジの塩基の種類を示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。センス鎖22番目にバルジを持つもの及びアンチセンス鎖21、22番目にバルジを持つshRNAはdicing産物の長さが全て21塩基となる。
【図4】図4は、バルジの両端の塩基を変化させた場合のshRNAのDicingパターンを示す。EGFPのポジション416をターゲットとするshRNAのDicingパターンを示す。図1の「切除配列」のうち、バルジおよびその両端の塩基を変化させた場合のDicingパターンを示す。切除配列部分の構造は、左から図1のA、B、Cに対応している。図中に示した配列はバルジを含む鎖の配列を示しており、バルジの両端の塩基は反対側の鎖と塩基対を組む(相補的な塩基が来る)。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。必ずしも21塩基で切断されない塩基の組み合わせもみられる。
【図5】図5は、バルジと固定配列を含むshRNAのDicingパターンを示す。図1AタイプのshRNAにおいて、ターゲット配列部分を変化させた場合のDicingパターンを示す。左端の数字はRGFP mRNAのORF上のターゲット位置を示す。下線で示した配列(C)は、バルジを示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。ターゲット部分の配列が変わってもほぼ21塩基にDicingされている。1から12の配列を配列番号8から19に示す。
【図6】図6は、バルジを含まないshRNAのDicingパターンを示す。左端の数字はRGFP mRNAのORF上のターゲット位置を示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。Dicingパターンは一定していない。1から12の配列を配列番号20から31に示す。
【図7】図7は、バルジと固定配列を含むshRNAのDicingパターンを示す。図1AタイプのshRNAにおいて、バルジの位置を5’末端側から23番目に移動させ、さらにターゲット配列部分を様々に変化させた時(図1A')のDicingパターンを示す。左端の数字はRGFP mRNAのORF上のターゲット位置を示す。下線で示した配列(C)は、バルジを示す。Dicingパターンの分類は、S(センス鎖の長さ)−A(アンチセンス鎖の長さ)を示す。ターゲット部分の配列によらず、ほぼ21塩基にDicingされている。1から12の配列を配列番号32から43に示す。
【図8】図8は、3’末端のオーバーハングの長さを変化させた場合のshRNAのDicingパターンを示す。EGFPポジション416をターゲットとするshRNA(バルジ導入型)について、3’末端のオーバーハングの長さを変化させてDicingを行った結果を示す。いずれの場合もdicingの位置は同じである。図8に記載のオーバーハング0塩基から5塩基の配列をそれぞれ、配列番号44から49に示す。
【図9】図9は、siRNAとshRNAの活性比較を示す。EGFPmRNAのポジション1-50をターゲットとするsiRNA(21mer)とshRNA(バルジあり、なし)をHeLa細胞(EGFP発現株)に導入し、48時間後の活性を測定した。siRNA及びshRNAの終濃度は1nMとした。shRNAのバルジ導入箇所は図1Aと同様である。siRNAとshRNA(バルジあり)の活性の相関性はR=0.892、siRNAとshRNA(バルジなし)の活性の相関性はR=0.330、shRNAバルジあり、なしの活性の相関性はR=0.483であった。
【図10】図10は、siRNAとshRNAの活性比較を示す。図9で得られたsiRNAとshRNA(バルジあり、なし)の活性データを2種類ずつ比較するためにプロット化した。両者の活性値の相関係数を図左上に示した(R)。
【図11】図11は、ノーザン・ハイブリダイゼーションによるin vivo dicingパターンの解析を示す。市販のshRNA発現ベクター(pENTR/H1/TO vector, Invitrogen社)にEGFP416shRNAの配列を導入し、HeLa細胞にトランスフェクションして、細胞内でshRNAを発現させた。shRNAの配列は、バルジを含むもの(図1A型)と含まないものを各々作成した。細胞から回収したtotalRNAを用い、図中に示したプローブによってノーザン・ハイブリダイゼーションを行った結果を示す。図11で用いたshRNA配列(bulge+)を配列番号50に示し、shRNA配列(bulge-, 図中には記載なし)を配列番号51に示す。
【図12】図12は、プライマー伸長法によるin vivo dicingパターンの解析を示す。shRNA発現ベクター(pENTR/H1/TO vector, Invitrogen社)にEGFP416shRNAの配列を導入し、HeLa細胞にトランスフェクションして、細胞内でshRNAを発現させた。shRNAの配列は、バルジを含むもの(図1A型)と含まないものを各々作成した。細胞から回収したtotalRNAを用い、図中に示したプライマーによってプライマー伸長法を行った結果を示す。図12で用いたshRNA配列(bulge+)を配列番号50に示し、shRNA配列(bulge-, 図中には記載なし)を配列番号51に示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項2】
第一のターゲット配列及び第二のターゲット配列の長さがそれぞれ19塩基又は20塩基である、請求項1に記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項3】
第一のステム配列及び第一のステム配列の長さがそれぞれ2塩基から20塩基である、請求項1又は2に記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項4】
ループを形成する配列の長さが2塩基から20塩基である、請求項1から3の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項5】
上記バルジ塩基が、下記の何れかの位置に存在する、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
(1)第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間、
(2)第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間、又は
(3)第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間:
【請求項6】
上記バルジ塩基が、第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)A, A(C)G, A(C)U, A(U)A, C(A)G, C(G)C, C(G)U, G(C)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Uの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項7】
上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間に存在し、上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(U)A, A(U)G, C(A)G, C(A)U, C(G)U, G(C)A, G(C)G, G(U)A, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Cの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項8】
上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(C)U, A(U)A, A(U)G, C(A)C, C(A)G, C(A)U, C(G)A, C(G)C, C(G)U, G(A)C, G(A)G, G(A)U, G(C)A, G(C)G, G(C)U, G(U)A, G(U)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)U, U(G)C, 又はU(G)Uである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項9】
第一のステム配列、ループを形成する配列及び第二のステム配列からなる配列が、CU(C)ACAA-AGCAUAG-UUGUAG、CACAA-AGCAUAG-UUGU(A)G、又はCUCAA-AGCAUAG-UUG(U)AGである、(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から8の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項10】
5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有するようにヘアピン型RNA(shRNA)の塩基配列を設計することを特徴とする、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項11】
5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)をコードするDNAを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことを含む、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項12】
転写をインビトロで行う、請求項11に記載のヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項13】
RNAポリメラーゼとしてT7RNAポリメラーゼを使用する、請求項11又は12に記載のヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項14】
請求項1から9の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又は請求項10から13の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法により製造されるヘアピン型RNA(shRNA)を細胞にインビトロで導入することを含む、RNAiによりターゲット配列を含む遺伝子の発現を抑制する方法。
【請求項1】
5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項2】
第一のターゲット配列及び第二のターゲット配列の長さがそれぞれ19塩基又は20塩基である、請求項1に記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項3】
第一のステム配列及び第一のステム配列の長さがそれぞれ2塩基から20塩基である、請求項1又は2に記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項4】
ループを形成する配列の長さが2塩基から20塩基である、請求項1から3の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項5】
上記バルジ塩基が、下記の何れかの位置に存在する、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
(1)第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間、
(2)第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間、又は
(3)第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間:
【請求項6】
上記バルジ塩基が、第一のステム配列の5’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)A, A(C)G, A(C)U, A(U)A, C(A)G, C(G)C, C(G)U, G(C)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Uの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項7】
上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から1番目と2番目の間の塩基の間に存在し、上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(U)A, A(U)G, C(A)G, C(A)U, C(G)U, G(C)A, G(C)G, G(U)A, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)A, U(C)G, U(C)U, 又はU(G)Cの何れかである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項8】
上記バルジ塩基が、第二のステム配列の3’末端側から2番目と3番目の間の塩基の間に存在し、かつ上記バルジ塩基及びその前後の塩基からなる3塩基の配列が、A(C)G, A(C)U, A(U)A, A(U)G, C(A)C, C(A)G, C(A)U, C(G)A, C(G)C, C(G)U, G(A)C, G(A)G, G(A)U, G(C)A, G(C)G, G(C)U, G(U)A, G(U)G, U(A)C, U(A)G, U(A)U, U(C)U, U(G)C, 又はU(G)Uである(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から4の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項9】
第一のステム配列、ループを形成する配列及び第二のステム配列からなる配列が、CU(C)ACAA-AGCAUAG-UUGUAG、CACAA-AGCAUAG-UUGU(A)G、又はCUCAA-AGCAUAG-UUG(U)AGである、(括弧内の塩基がバルジ塩基である)、請求項1から8の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又はそれをコードするDNA。
【請求項10】
5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有するようにヘアピン型RNA(shRNA)の塩基配列を設計することを特徴とする、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項11】
5’から3’方向に、第一のターゲット配列、第一のステム配列、ループを形成する配列、第二のステム配列、第二のターゲット配列、及びオーバーハング配列をこの順番で含み、第一のターゲット配列と第二のターゲット配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、第一のステム配列と第二のステム配列は分子内で互いにアニーリングして相補鎖を形成する配列であり、上記第一のステム配列又は上記第二のステム配列の片方の中に、第一のステム配列又は上記第二のステム配列の他方の塩基とはアニーリングしない1個のバルジ塩基を有していることを特徴とするヘアピン型RNA(shRNA)をコードするDNAを鋳型としてRNAポリメラーゼを用いて転写を行うことを含む、ヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項12】
転写をインビトロで行う、請求項11に記載のヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項13】
RNAポリメラーゼとしてT7RNAポリメラーゼを使用する、請求項11又は12に記載のヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法。
【請求項14】
請求項1から9の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)、又は請求項10から13の何れかに記載のヘアピン型RNA(shRNA)の製造方法により製造されるヘアピン型RNA(shRNA)を細胞にインビトロで導入することを含む、RNAiによりターゲット配列を含む遺伝子の発現を抑制する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−22262(P2010−22262A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186775(P2008−186775)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、機能性RNAプロジェクト委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(500535301)社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、機能性RNAプロジェクト委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(500535301)社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム (22)
【Fターム(参考)】
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