説明

高温プラント機器の余寿命診断装置及び方法

【課題】対象とするプラント機器の計測データが無いため長時間を要することなくプラント機器の余寿命を診断することができ、さらに余寿命診断結果を元にリスク評価を行うことができる高温プラント機器の余寿命診断装置及び方法を提供する。
【解決手段】診断対象プラント機器の運転条件と、従来点検結果データベース及び従来寿命診断結果データベースとに基づいて、プラント機器の対象部位の余寿命を推定する余寿命評価モジュールと、前記余寿命評価モジュールによる推定結果と、前記従来更新、点検工事データベースと、前記事故例及び経済的損失データベースとに基づいて、プラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するとともに、点検と更新を行わなかった場合のリスク評価を行う更新、点検計画モジュールと、前記余寿命評価モジュール及び更新、点検計画モジュールによる評価結果に基づいて、更新と点検の計画提案書を作成し出力する提案モジュールとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ、蒸気タービンなど高温下で使用されるプラント機器の余寿命診断対象部位の温度、ひずみ等の計測データが無い場合でも、類似な仕様、運転条件のプラント機器の実績から余寿命診断対象部位の余寿命を推定し、前記推定された余寿命とデータベースを元に余寿命対象部位に対する補修、更新を行わなかった場合に生ずるリスクの評価を行うことができる高温プラント機器の余寿命診断装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの有効利用、低コスト化、安全性の観点から、プラントを効率良く運転し、保守管理コストを低減することが望まれている。合理的な保守管理を行うためには、余寿命診断を行って計画的に補修、更新を行うことが重要である。特に、高温域で長時間使用されるボイラや蒸気タービン等のプラント機器の材料は、熱疲労及びクリープ疲労により損傷し、劣化するため、余寿命診断を行う重要性は高い。
【0003】
プラント機器の余寿命診断に基づいて計画的に補修、更新を行うためには、余寿命診断に高い信頼性が求められる。そのため従来、プラント機器に種々の計測器を取り付けて計測データを取得し、プラント機器に使用されている材料に介して知識が豊富な専門家が前記取得した計測データを解析して余寿命を診断していた。
しかしながら、このような余寿命診断方法では、余寿命診断の経験が豊富な専門家の人的能力に依存しており、余寿命の診断に時間がかかることに加え、余寿命診断を行う必要があるプラント機器の増加に対応することが困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、現場における計測データと、プラント情報のデータベースを使用してプラント機器の余寿命を診断するシステムが開示されている。これは、ボイラ、蒸気タービン等の高温で使用されるプラント機器の余寿命診断システムであって、前記プラント機器の状態を計測する計測情報を格納するためのプラント設備情報データベースと、前記プラント機器の補修履歴情報を格納するためのプラント補修履歴情報データベースと、前記プラント機器に使用されている材料の材料特性情報を格納するための材料特性情報データベースと、前記プラントと同じ種類で他のプラント機器の寿命評価情報を格納するための寿命評価情報データベースと、前記プラント機器の計測対象部位の温度及びひずみを計測する計測手段と、該計測手段にて計測される計測データを通信、ネットワーク等を介して送信する計測データ送信手段と、前記計測データ、前記プラント補修履歴情報、前記材料特性情報、前記寿命評価情報、前記計測情報に基づいて前記計測対象部位の余寿命を推定する余寿命診断用サーバとを備えた高温プラント機器の余寿命診断システムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−263603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された余寿命診断では、対象とするプラント機器の計測データが必要である。この計測データは、余寿命を診断するための計測を行う前に、予め余寿命診断を行う部位全体の温度、ひずみを計測して損傷劣化程度を有限要素法等の数学的処理法にて解析し、損傷劣化程度の高い部位を計測対象部位として特定し、該計測対象部位にのみ計測器(温度計、ひずみ計)を設置し、該計測器によって計測することで得られるデータである。そのため、計測データを得るためには、計測対象部位を特定するために長時間を要するという問題がある。
【0007】
また、余寿命診断結果を元に、点検、更新を怠った場合のリスク評価ができないため、余寿命診断結果を元にどのような対応をするかについては人的能力に依存する。
【0008】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、対象とするプラント機器の計測データを必要としないために長時間を要することなくプラント機器の余寿命を診断することができ、さらに余寿命診断結果を元にリスク評価を行うことができる高温プラント機器の余寿命診断装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明においては、高温で使用されるプラント機器の余寿命を診断する高温プラント機器の余寿命診断装置であって、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果を格納するための従来点検結果データベースと、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における余寿命診断結果を格納するための従来余寿命診断結果データベースと、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果及び更新結果を格納するための従来更新、点検工事データベースと、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における過去の事故例及び更新と点検を怠った場合に発生する経済的損失のデータが格納された事故例及び経済的損失データベースとから構成されるデータベース管理モジュールと、前記プラント機器の運転条件と、前記従来点検結果データベース及び従来寿命診断結果データベースとに基づいて、プラント機器の対象部位の余寿命を推定する余寿命評価モジュールと、前記余寿命評価モジュールによる推定結果と、前記従来更新、点検工事データベースと、前記事故例及び経済的損失データベースとに基づいて、プラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するとともに、点検と更新を行わなかった場合のリスク評価を行う更新、点検計画モジュールと、前記余寿命評価モジュール及び更新、点検計画モジュールによる評価結果に基づいて、更新と点検の計画提案書を作成し出力する提案モジュールとを備えることを特徴とする。
【0010】
これにより診断の対象となるプラント機器の温度、ひずみ等の計測データがなくても、前記データベース管理モジュールに格納されたデータを用いることで前記診断の対象となるプラント機器と類似な仕様、運転条件のプラント機器の実績から、余寿命を評価することができる。
【0011】
さらに、前記事故例及び経済的損失データベースを有することで、点検、更新、補修を実施しなかった場合のリスク評価が可能である。
【0012】
さらに、前記提案モジュールを備えることにより、更新と点検の計画提案書を作成し出力することができ、更新と点検の計画立案が容易である。
【0013】
また、前記余寿命評価モジュールは、理論的に余寿命を求める理論評価手段と、余寿命診断の対象となるプラント機器の仕様及び運転条件と前記従来点検結果データベースに格納されたデータに基づいて統計的手法により余寿命を求めるデータ統計解析手段と、前記理論評価手段による診断結果と前記データ統計解析手段による診断結果と前記従来余寿命診断結果とに基づいて余寿命を診断する余寿命評価診断結果手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
これにより、プラント機器の対象部位に応じて適切な余寿命評価を実施することができる。
【0015】
また、前記更新、点検モジュールは、前記余寿命評価モジュールによる診断結果と、前記従来更新、点検工事データベースに格納されたデータとに基づいてプラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するコスト算出手段と、前記コスト算出手段による算出結果と、前記事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータとに基づいてプラント機器の対象部位の更新と点検を行わなかった場合のリスク評価を行うリスク評価モジュールとを備えることを特徴とする。
【0016】
これにより、前記コスト算出手段の算出結果に基づいてプラント機器の対象部位の更新と点検を行わなかった場合のリスク評価を行うことができるため、コスト面でのリスク評価も可能となる。
【0017】
また、前記データベース管理モジュールは、前記従来点検結果データベース、従来余寿命診断結果データベース、従来更新点検工事データベース、及び、事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータの更新可能なデータベース管理手段を備えることを特徴とする。
【0018】
これにより、前記前記従来点検結果データベース、従来余寿命診断結果データベース、従来更新点検工事データベース、及び、事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータを必要に応じて更新することが可能となり、該更新を行うことで余寿命診断結果の精度が向上する。
【0019】
また、課題を解決するための方法の発明として、高温で使用されるプラント機器の余寿命を診断する高温プラント機器の余寿命診断方法であって、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果を従来点検結果データベースに格納し、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における余寿命診断結果を従来余寿命診断結果データベースに格納し、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果及び更新結果を従来更新、点検工事データベースに格納し、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における過去の事故例及び更新と点検を怠った場合に発生する経済的損失のデータを事故例及び経済的損失データベースに格納し、前記プラント機器の運転条件と、前記従来点検結果データベース及び従来寿命診断結果データベースに格納されたデータとに基づいて、プラント機器の対象部位の余寿命を推定し、前記推定の結果と、前記従来更新、点検工事データベース及び前記事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータとに基づいて、プラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するとともに、点検と更新を行わなかった場合のリスク評価を行い、前記余寿命の推定結果及び前記リスク評価結果に基づいて、更新と点検の計画提案書を作成し出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上記載のごとく本発明によれば、対象とするプラント機器の計測データを必要としないために長時間を要することなくプラント機器の余寿命を診断することができ、さらに余寿命診断結果を元にリスク評価を行うことができる高温プラント機器の余寿命診断装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例に係る高温プラント機器の余寿命診断装置の構成図である。
【図2】実施例における高温プラント機器の余寿命診断の手順を説明するフローチャートである。
【図3】余寿命診断の一例を示す図である。
【図4】リスク評価の一例を示す図である。
【図5】更新、点検工事提案書の一例である。
【図6】ボイラにおける本発明の余寿命診断及びリスク評価が可能な箇所の例を示した図である。
【図7】蒸気タービンにおける本発明の余寿命診断及びリスク評価が可能な箇所の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0023】
図1は、本実施例に係る高温プラント機器の余寿命診断装置2の構成図である。図1に基づいて本実施例に係る余寿命診断装置の構成について説明する。本実施例における余寿命診断装置は、ボイラ、蒸気タービン等高温で使用されるプラント機器の各部位の余寿命を診断する装置である。本実施例においては、水ドラムと蒸気ドラムとの間に多数の伝熱管からなる蒸発管群を設け、燃焼ガスを前記蒸発管群に対して前記両ドラムの長手方向に流して前記蒸発管内の流体を熱交換するように構成されたボイラにおける蒸発管群の余寿命診断について説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施例における高温プラント機器の余寿命診断装置2は、教育、伝承モジュール3と、余寿命評価モジュール4と、更新、点検計画モジュール5と、更新、点検工事提案モジュール6と、データベース(DB)管理モジュール7とから構成される。
【0025】
データベース管理モジュール7は、余寿命診断を行う機器と同種の機器及び類似機器における過去の補修、点検、事故例などの文献に基づいてどのような評価を行うべきであるかの情報が格納された文献、評価ノウハウデータベース71と、対象のボイラの仕様、運転条件ごとに過去の肉厚測定などの点検結果が格納された従来点検結果データベース72と、過去の余寿命診断結果が格納された従来余寿命診断結果データベース73と、過去に蒸発管群の全部又は一部を更新、点検を行った内容とそのコストが格納された従来更新、点検工事データベース74と、過去の事故例及び点検更新を怠った場合に発生する経済的損失が格納された過去の事故例および点検更新を怠った場合の経済的損失データベース75と、前記各データベース71〜75に新たな情報を追加したり不要な情報を削除して情報を更新するデータベース管理手段76とから構成されている。
【0026】
教育、技術伝承モジュール3は、文献、評価ノウハウデータベース71を参照し、後述する余寿命評価モジュール4においてどのような評価を行うべきか評価者を教育する評価者教育手段31からなる。
【0027】
余寿命評価モジュール4は、理論的に蒸発管の余寿命を求める理論評価手段41と、余寿命診断の対象となる対象ボイラの仕様、運転条件の選択手段42と、該対象ボイラの仕様、運転条件選択手段42で選択された条件と、従来点検結果データベース72に格納されたデータを参照して、統計的手法により蒸発管の余寿命を求めるデータ統計解析手段43と、理論評価手段41とデータ統計解析手段43との評価結果及び従来余寿命診断結果データベース73を参照して余寿命を診断する余寿命評価診断手段44とから構成されている。
【0028】
更新、点検モジュール5は、余寿命評価診断手段44による診断結果と、従来更新、点検工事データベース74に格納されたデータとを参照して、余寿命を診断した蒸発管に対して更新、補修、点検などを行った場合にかかるコストを算出する更新、補修、点検コスト積算手段51と、該更新、補修、点検コスト積算手段51による算出結果及び過去の事故例および点検更新を怠った場合の経済的損失データベース75に格納されたデータを参照して余寿命を診断した蒸発管に対して更新、補修、点検などの対応を実施しなかった場合のリスクを評価する未実施の場合のリスク評価モジュール52とから構成されている。
【0029】
更新、点検工事提案モジュール6は、未実施の場合のリスク評価モジュール52による評価結果を元に、補修、更新計画提案書を作成し出力する提案書作成、出力手段61から構成されている。
【0030】
以上のように構成された高温プラント機器の余寿命診断装置2を用いて高温プラント機器の余寿命を診断する方法について図1及び図2を用いて説明する。
図2は、本実施例における高温プラント機器の余寿命診断の手順を説明するフローチャートである。
【0031】
余寿命診断の処理が開始されると、評価者教育手段31で教育を成された評価者はステップS1でパソコン等の入力画面を開き、ステップS2で条件設定を行う。ステップS2における条件設定とは、余寿命診断の対象となるボイラにおけるボイラ形式、余寿命診断対象部位、ボイラに使用している燃料、水処理方法、ボイラの稼動年数、発停回数などをいう。
【0032】
ステップS2で条件設定が終了すると、ステップS3で余寿命診断モジュール4により従来点検結果データベース72及び従来余寿命診断結果データベース73を参照して余寿命診断を行う。
余寿命診断は、図1に示すように理論評価手段41を用いて行う手法と、対象ボイラの使用、運転条件選択手段42及びデータ統計解析手段43を用いて行う手法とが挙げられる。
理論評価手段41としては組織調査による寿命評価が挙げられ、例えば観察された金属組織において一次応力の方向に直線を引き、この直線とクリープボイドの発生した粒界数と全粒界数との比でAパラメータを定義し、該Aパラメータ値とマスターデータとの比較で対象部材の余寿命を診断するAパラメータ法、検査対象部位の機械的損傷(クリープボイド及び微視き裂の発生状況)、顕微鏡組織(マルテンサイトラスの消失状況)及び析出分布(炭化物の形態及び分布状況)を総合的に判断し余寿命を推定する組織対比法、単位面積当たりのボイド個数から寿命を推定するボイド個数密度法が挙げられる。
対象ボイラの使用、運転条件選択手段42及びデータ統計解析手段43を用いて行う手法としては、従来点検結果データベースに格納された対象ボイラと同型又は類似の条件のボイラにおけるボイラ稼動年数と蒸発管の肉厚との関係の過去のデータとを統計処理して余寿命を推定する手法が挙げられる。
【0033】
図3は余寿命診断の一例を示す図である。図3における縦軸は余寿命診断を行う蒸発管を形成するチューブ本数(部品個数)を表し、横軸は荷重(耐荷力)を表す。
Aは作用荷重分布であり、この領域で蒸発管は破損する。Bは蒸発管の耐荷力分布であり、特にBは建設時、B27は建設27年後、B30は建設30年後の耐荷力分布を示している。図3から分かるように、建設時は耐荷力は大きく、蒸発管を形成するチューブの板厚等の条件はほぼ一定であるため耐荷力のばらつきも小さい。しかし、建設後年数が経過するにしたがって経年劣化により耐荷力が徐々に小さくなるとともに、蒸発管の設置場所によって腐食減肉の進行度合が異なり、耐荷力のばらつきが大きくなってくる。
図3に示したように、現時点が建設27年目であるとすると、3年後である建設30年目には領域Cで作用荷重分布Aと蒸発管の耐荷力分布B30が重なり、3年後には経年劣化により蒸発管を形成するチューブが破損する可能性が生じるといえる。
【0034】
ステップS3で余寿命診断が終了すると、ステップS4で更新、点検計画モジュール5により従来更新、点検工事データベース74及び過去の事故例および点検更新を怠った場合の経済的損失データベース75を参照して更新、補修、点検を行わない場合のリスク評価を行う。
【0035】
図4はリスク評価の一例を示す図である。図4における縦軸は信頼度を表し、該信頼度が高いほど蒸発管の破損の可能性が低く、信頼度が低いほど蒸発管の破損の可能性が高い。信頼度は、図3に示した作用荷重分布Aと蒸発管の耐火力分布Bの重なり度合いによって決まり、前記重なり度合いが大きいほど信頼度は低い。また、図4における横軸はプラント建設からの年数を示している。
【0036】
図4に示した領域Dは、図3に示した余寿命診断及びデータベースを元に行ったリスク評価の結果であり、現時点(建設27年目)における信頼度の信頼95%範囲を示している。図4に示した通り、現時点(建設27年目)における信頼度は100%に近く、現時点で破損する可能性は小さいが現時点以降連続的に信頼度が小さくなり13年後(建設40年目)に信頼度は略0になることが分かる。図4に示した領域Eは現時点(建設27年目)で蒸発管のうち減肉の著しい箇所を補修した場合における信頼度の信頼95%範囲を示している。図4に示した通り、現時点で蒸発管のうち減肉の著しい箇所を補修した場合には13年後(建設40年目)までは信頼度は略100%であり、13年後(建設40年目)から信頼度が低下することが分かる。この場合、13年後(建設40年目)に再度余寿命診断をすればよい。
【0037】
ステップS4でリスク評価が終了すると、ステップS3及びステップS4の結果に基づきステップS5で更新、点検工事提案モジュール6により更新、点検工事提案書が作成される。
図5は更新、点検工事提案書の一例である。図5に示したように、更新、点検工事提案書には下記のような項目が表示される。
1、運転条件、使用履歴から推定できる点検必要箇所
2、補修推奨箇所
3、補修した場合のコスト
4、補修を行わない場合のリスク(例えばチューブ噴破による運転停止の可能性)
・1年後 a%
・2年後 b%
・3年後 c%
5、損傷時に必要となるコスト
・プラント停止期間と、それに伴う損失
・2次被害を含む補修コスト
・人的被害に対するコスト
なお、図5中におけるa%、b%、c%は前記ステップ4におけるリスク評価時に算出される値である。
【0038】
また、更新、点検工事提案書には、現時点で補修を行った場合に次に経年劣化による損傷が発生する可能性のある時期(図4に示した例においては13年後)などその他の項目が表示されるようにすることもできる。
【0039】
本実施例は、ボイラにおける蒸発管群の余寿命診断及びリスク評価について説明したが、ボイラにおけるその他の経年劣化を生じる箇所にも適用することができる。図6は水ドラムと蒸気ドラムとの間に多数の伝熱管からなる蒸発管群を設け、燃焼ガスを前記蒸発管群に対して前記両ドラムの長手方向に流して前記蒸発管内の流体を熱交換するように構成されたボイラにおける本発明の余寿命診断及びリスク評価が可能な箇所の例を示した図である。
【0040】
図6に示したように、蒸発管101のみならず、例えば過熱器管102、過熱低減器103、風箱、煙道ダクト溶接部、過熱器天井貫通部104、雨水が溜まりやすいバックステー105、過熱器最前列下部ベント管106、熱負荷の高いバーナレベル107、炉底部108の水平に近い管で蒸気が滞留しやすい箇所、灰が堆積しやすい水ドラム直上部109、ボイラに供給する給水の流れの変化する箇所110、節炭器管入口管寄と管台溶接部付近111にも適用することができる。
【0041】
また、ボイラのみならず高温プラント機器であればその他の機器に利用することができる。その他の機器として蒸気タービンを挙げることができる。
図7は、蒸気でタービンを回し運動エネルギーへ変換する蒸気タービンにおける本発明の余寿命診断及びリスク評価が可能な箇所の例を示した図である。
【0042】
図7に示したように、例えばタービンロータ201、タービンロータに取り付けられた動翼及びシュラウド202、抽気加減弁203、蒸気加減弁204、高圧側車室205、植込みボルト206にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
対象とするプラント機器の計測データを必要としないために長時間を要することなくプラント機器の余寿命を診断することができ、さらに余寿命診断結果を元にリスク評価を行うことができる高温プラント機器の余寿命診断装置及び方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
2 高温プラント機器の余寿命診断装置
3 教育、技術伝承モジュール
4 余寿命評価モジュール
5 更新、点検計画モジュール
6 更新、点検工事提案モジュール
7 データベース管理モジュール
41 理論評価手段
43 データ統計解析手段
44 余寿命評価診断手段
51 コスト算出手段
52 リスク評価モジュール
72 従来点検結果データベース
73 従来余寿命診断結果データベース
74 従来更新、点検工事データベース
75 経済的損失データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温で使用されるプラント機器の余寿命を診断する高温プラント機器の余寿命診断装置であって、
前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果を格納するための従来点検結果データベースと、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における余寿命診断結果を格納するための従来余寿命診断結果データベースと、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果及び更新結果を格納するための従来更新、点検工事データベースと、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における過去の事故例及び更新と点検を怠った場合に発生する経済的損失のデータが格納された事故例及び経済的損失データベースとを備えるデータベース管理モジュールと、
前記プラント機器の運転条件と、前記従来点検結果データベース及び従来寿命診断結果データベースとに基づいて、プラント機器の対象部位の余寿命を推定する余寿命評価モジュールと、
前記余寿命評価モジュールによる推定結果と、前記従来更新、点検工事データベースと、前記事故例及び経済的損失データベースとに基づいて、プラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するとともに、点検と更新を行わなかった場合のリスク評価を行う更新、点検計画モジュールと、
前記余寿命評価モジュール及び更新、点検計画モジュールによる評価結果に基づいて、更新と点検の計画提案書を作成し出力する提案モジュールとを備えることを特徴とする高温プラント機器の余寿命診断装置。
【請求項2】
前記余寿命評価モジュールは、理論的に余寿命を求める理論評価手段と、
余寿命診断の対象となるプラント機器の仕様及び運転条件と前記従来点検結果データベースに格納されたデータに基づいて統計的手法により余寿命を求めるデータ統計解析手段と、
前記理論評価手段による診断結果と前記データ統計解析手段による診断結果と前記従来余寿命診断結果とに基づいて余寿命を診断する余寿命評価診断結果手段とを備えることを特徴とする請求項1記載の高温プラント機器の余寿命診断装置。
【請求項3】
前記更新、点検モジュールは、前記余寿命評価モジュールによる診断結果と、前記従来更新、点検工事データベースに格納されたデータとに基づいてプラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するコスト算出手段と、
前記コスト算出手段による算出結果と、前記事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータとに基づいてプラント機器の対象部位の更新と点検を行わなかった場合のリスク評価を行うリスク評価モジュールとを備えることを特徴とする請求項1又は2記載の高温プラント機器の余寿命診断装置。
【請求項4】
前記データベース管理モジュールは、前記従来点検結果データベース、従来余寿命診断結果データベース、従来更新点検工事データベース、及び、事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータの更新可能なデータベース管理手段を備えることを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の高温プラント機器の余寿命診断装置。
【請求項5】
高温で使用されるプラント機器の余寿命を診断する高温プラント機器の余寿命診断方法であって、
前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果を従来点検結果データベースに格納し、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における余寿命診断結果を従来余寿命診断結果データベースに格納し、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における点検結果及び更新結果を従来更新、点検工事データベースに格納し、前記プラント機器と同種で他のプラント機器における過去の事故例及び更新と点検を怠った場合に発生する経済的損失のデータを事故例及び経済的損失データベースに格納し、
前記プラント機器の運転条件と、前記従来点検結果データベース及び従来寿命診断結果データベースに格納されたデータとに基づいて、プラント機器の対象部位の余寿命を推定し、
前記推定の結果と、前記従来更新、点検工事データベース及び前記事故例及び経済的損失データベースに格納されたデータとに基づいて、プラント機器の対象部位の更新と点検に必要なコストを算出するとともに、点検と更新を行わなかった場合のリスク評価を行い、
前記余寿命の推定結果及び前記リスク評価結果に基づいて、更新と点検の計画提案書を作成し出力することを特徴とする高温プラント機器の余寿命診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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