説明

高温付着物の測定方法、測定装置及び高温付着物抑制方法

【課題】高温ガス中の付着性物質の付着傾向をその場で容易にしかも的確に判定することができる方法と、この判定結果に基づいて付着物抑制剤の注入管理を適切に行うことができる方法とを提供する。
【解決手段】炉内又は煙道内の高温ガス中に、該ガス中の物質を付着させるための被着体1を挿入し、該被着体に付着した付着物の付着状況に基づいて付着物の付着傾向を判定する。この付着状況に基づいて付着物抑制剤の添加量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内や煙道内の高温ガスに含まれる付着性物質がボイラ水管等に付着する傾向を判定するための方法と、この方法による判定結果に基づいて高温付着物抑制剤の添加量を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃熱ボイラ水管等の高温付着物により、ボイラの熱回収率低下、水管の閉塞による操業停止、水管腐食などの問題はこれまで多数確認されている。
【0003】
高温付着物の付着を抑制する方法として、例えばSi、Al、Zr系の薬剤を燃料に添加することによる高温付着物抑制方法が知られている(特許第3746026等)。
【0004】
しかし、これら高温付着物抑制剤による付着抑制効果は、付着物の成分、煙道を飛散している付着性成分量などの変動により、必要添加率も変動し、十分な効果を得られない場合がある。
【0005】
高温付着物抑制剤による付着抑制効果は、炉の操業を停止した際の目視点検、煙道内の差圧上昇速度、ボイラ等における蒸気発生量の低下などで判断するが、これらの状況観察から付着による悪影響が確認された時点では、すでに強固な付着物が成長しており、薬剤注入量の増減だけでは付着抑制効果を十分に発揮できない。
【0006】
煙道内の飛散煤塵を短期間で採取する方法としては、JIS Z 8808等の排ガス採取方法、または種々の簡易排ガスサンプリング装置(特開2004−61484等)があるが、いずれもサンプリング管内に排ガスと一緒に煤塵を引き込む方法である。これらの方法では、煙道から採取された時点で外気による冷却効果が加わるが、実際の煙道内の高温付着物の成長は排ガスに曝されている時間にも影響を受けること、また付着物の性状、温度勾配が煤塵を外気に引き出すことでは再現できないことから、これらの方法では高温付着物の付着傾向を的確に判定することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3746026号
【特許文献2】特開2004−61484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、従来の高温付着物抑制剤による付着抑制技術では、炉の操業を停止した際の目視点検、煙道内の差圧上昇速度、ボイラ等における蒸気発生量の低下などで付着量を判断していたため、この時点では、すでに強固な付着物が成長しており、薬剤注入量の増減だけでは付着抑制効果を十分に発揮できないこと、又は炉の操業条件、燃料に起因する付着物性状の変動に合わせた薬剤仕様の切り替えができないことから、高温付着物抑制剤の適切な注入量管理が難しい。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、高温ガス中の付着性物質の付着傾向をその場で容易にしかも的確に判定することができる方法と、この判定結果に基づいて付着物抑制剤の注入管理を適切に行うことができる方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の高温付着物の測定方法は、炉内又は煙道内の高温ガス中に、該ガス中の物質を付着させるための被着体を挿入し、該被着体に付着した付着物の付着量又は付着厚み、もしくは該被着体の温度を測定することを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の高温付着物の測定方法は、請求項1において、前記被着体は管状であり、管内に冷却媒体を流すことを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の高温付着物の測定方法は、請求項1又は2において、前記被着体は管状であり、該管内に測温体を挿入して温度を測定することを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の高温付着物の測定方法は、請求項3において、前記管内の温度または管内外の温度差の経時変化を測定することを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の高温付着物抑制方法は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法により測定された前記被着体に付着した付着物の付着量又は付着厚み、もしくは該被着体の温度に基づいて、高温ガス中に添加する高温付着物抑制剤の添加量を制御することを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の高温付着物抑制方法は、請求項5において、高温ガス中への前記高温付着物抑制剤の添加前および添加後に管状の被着体の管内温度、管内外の温度差の経時変化、付着物の付着量または付着厚みを測定し、この測定結果に従って高温付着物抑制剤の添加量を制御することを特徴とするものである。
【0016】
請求項7の高温付着物抑制方法は、請求項5又は6において、前記高温付着物抑制剤がMg化合物、Si化合物、Ca化合物、Al化合物、及びFe化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項8の高温付着物の測定装置は、炉内又は煙道内の高温ガス中に挿入し、該ガス中の物質を付着させるための管状の被着体と、該被着体の管内に冷却媒体を流す冷却媒体導入手段とを備えたものである。
【0018】
請求項9の高温付着物の測定装置は、請求項8において、前記管内に挿入され、管内の温度を測定する測温体を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、炉内又は煙道内にサンプリング管等の被着体を差し込み、炉内又は煙道内での付着物の付着状況例えば、付着物量、付着厚みなどの付着速度を検出し、これに基づいて付着物の付着傾向を判定する。従って、炉内や煙道においてこの判定を行うことが可能である。また、この判定結果に基づいて、炉内や煙道内の状況の変動に迅速に追従して、付着抑制剤の添加制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】被着体の側面図である。
【図2】被着体の拡大断面図である。
【図3】別の被着体の拡大断面図である。
【図4】被着体の取り付け例を示す断面図である。
【図5】実験例における測定結果を示すグラフである。
【図6】実験例における測定結果を示すグラフである。
【図7】実験例における測定結果を示すグラフである。
【図8】実験例における測定結果を示すグラフである。
【図9】実験例における測定結果を示すグラフである。
【図10】実験例における測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明では、炉内又は煙道内の高温ガス中に被着体を挿入し、この被着体の付着物の付着状況に基づいて付着物の付着傾向を判定する。
【0023】
被着体としては、鉄、チタンなどの高温耐食性の金属材料よりなる管状のものが好ましい。被着体保護のために管状の被着体内に空気、蒸気、水などの冷媒を通して冷却するのが好ましい。この冷媒は、炉内や煙道内に放出しても良く、循環して炉内又は煙道外で冷却して再利用してもよい。また、管状の被着体に熱電対を差し込んで温度を測定し、高温付着物によるボイラ水管の熱回収率低下状況、付着速度などを推定してもよい。また、被着体が過度に高温になることを防止し、被着体の温度による劣化防止を図るようにしてもよい。
【0024】
熱電対により温度を測定する場合には、熱電対を深く差し込んで熱電対の先端位置を管状の被着体の先端よりも突出させて管外の温度を測定してもよく、熱電対を浅く差し込んで熱電対の先端を管状の被着体内に位置させて被着体内の温度を測定するようにしてもよい。また、熱電対の先端位置を移動させて複数地点の温度を測定してもよい。このようにすれば、複数の熱電対を用いることなく複数の箇所の温度を測定することができる。
【0025】
燃焼設備のサイズにもよるが、被着体としては、有効長さ(炉内又は煙道内に挿入されている長さ)が200〜3000mm、外径10〜50mm程度のものが好ましい。差し込み方向は水平方向、上下方向、斜め方向のいずれでも良い。冷媒としては空気、蒸気、又は水が好適である。冷媒の流量は、燃焼設備のサイズにもよるが1〜1000L/min程度が望ましい。被着体を炉内又は煙道内に差し込んでおく時間は数分〜数週間特に1〜24時間程度が好ましい。炉内又は煙道から被着体を引き抜いて付着物の付着量や付着厚みを測定する場合の測定頻度は数日から数週間に1回程度が好ましい。
【0026】
本発明の高温付着物の測定方法は、高温ガスに付着物抑制剤を添加した場合の付着抑制効果を調べる場合に好適である。付着物抑制剤の効果を調べるには、まず付着物抑制剤添加前の高温ガス内に被着体を差し込み、高温付着物抑制剤添加前の所定時間における付着物の付着量、付着厚み等を測定して付着速度を調査する。次に、高温付着物抑制剤を所定量添加し、同じ条件で付着速度を測定する。そして、高温付着物抑制剤添加前の付着速度と対比し、付着抑制効果を求める。
【0027】
なお、付着抑制効果の確認を行う前に、炉や煙道の開放点検などであらかじめ採取した付着物を分析するか、又は付着物抑制剤添加前の高温ガス内に被着体を差し込み、被着体に付着した付着物を分析し、高温付着物抑制剤の種類を選定するのが好ましい。
【0028】
炉内又は煙道内の高温ガス中の煤塵濃度と付着物抑制剤の添加率との関係を検量線にしておき、かつ排ガス内の飛散煤塵量を測定し、添加率の目安を作り、高温付着物抑制剤の添加量を決めても良い(後述の実験例1)。
【0029】
また、いきなり高温付着物抑制剤を添加し、その際の付着速度から添加量を増減し、付着速度を見ながら添加量調整をしても良い(後述の実験例2のRun3)。
【0030】
被着体を頻繁に抜き差ししなくとも、管状の被着体内の温度または管状の被着体内外の温度差から付着量を推定し、高温付着物抑制剤の添加量を増減しても良い。その場合はあらかじめ付着物の熱伝導率などを把握しておく必要がある。また、管状の被着体内の温度または管状被着体の内外の温度差と付着量との関係を検量線として予め取得しておくことにより、付着物量を予測して高温付着物抑制剤の添加量を決定または制御してもよい。なお、管状の被着体内の温度または管状の被着体内外の温度差を測定する場合には、管状被着体内に通す前記冷媒の流量を一定とするのが好ましい。
【0031】
熱電対などの測温体を備えた被着体により測定された管状被着体内温度、被着体内外温度差、付着速度、付着物外観からスートブロー等の物理的剥離作用の頻度を調整しても良い。
【0032】
高温付着物抑制剤としては、粒径1〜10000nmのMg化合物、Fe化合物、Si化合物、Ca化合物、Al化合物(例えば、炭酸塩、酸化物、水酸化物、カルボン酸塩)の一種もしくは二種以上からなる粉末またはこれらを水などの溶媒に分散させた分散液を用いることができる。
【0033】
高温付着物抑制剤は、炉内で燃焼させる燃料又は焼却物に対して添加してもよく、炉内雰囲気または煙道ガス中に噴霧してもよい。添加量は、燃料や焼却物に対して0.0002〜20wt%、またはガス中の煤塵量に対して0.01〜200wt%添加するのが好ましい。
【0034】
粉末の付着物抑制剤を添加する場合は、コンプレッサー、ブロワなどで薬剤を圧送するか、または既設の冷却用空気、助燃用空気ラインを用いる場合には冷却用空気、助燃用空気配管にライン注入して移送して添加することができる。また、付着物抑制剤を燃料に添加する場合は、粉末供給装置から直接燃料に添加したり、コンベアなどで燃料搬送ラインまで移送しても良い。
【0035】
液体の付着物抑制剤を添加する場合は、添加用ノズルを添加箇所に設置し、付着物抑制剤の液を噴霧するのが好ましい。このノズルとしては、噴霧される液滴径が2〜3000μm程度で均一に添加できるものが好ましい。具体的には、ノズルとしては、滴径2〜3000μm、噴霧流量100〜1000L/Hr、噴霧圧力1.0〜5.0MPa程度のものが望ましい。また、粉末の場合と同様に燃料に直接に液体の付着物抑制剤を添加しても良い。
【0036】
粉付着物抑制剤を炉内又は煙道内に添加する場合は、予め設備内の付着物の付着箇所を確認しておき、その近辺(特に上流側の直近)にノズルを設置するのが好ましい。専用のノズル設置口を設けてもよく、予めスートブローのライン、点検用のフランジなど代用できるものがあればこれらを利用してもよい。炉の運転開始前にノズルを設置し、運転開始後、暫くして炉内の状況が安定した段階で高温付着物抑制剤を添加し始めるのが好ましい。
【0037】
付着物抑制剤は、設備稼働中に間欠的又は連続に注入する。間欠注入の場合は、薬剤供給装置、電磁弁、電動弁などをタイマーまたは流量にて制御することが望ましい。液体添加の場合は、原液注入、ライン注入のいずれでもよい。薬剤の添加時間の目安は数分〜数時間/回で1日1回以上の間欠注入もしくは所定量連続注入とする。
【0038】
被着体への付着物の付着状況に基づいて付着物抑制剤の添加抑制を行うことにより、高温付着物の付着を安定して抑制することが可能になる。これにより、清掃作業の軽減による作業人員の安全性確保、清掃コストの削減、緊急停止回避による操業日数の延命、ボイラ水管への付着物抑制による熱回収率の維持、効率的な燃焼による燃料コストの削減、CO2排出量削減などの省エネルギー化への貢献が可能になる。
【0039】
第1図は、この被着体の好適な一例を示す側面図である。
【0040】
この被着体1は管状であり、後端にフランジ1fが設けられている。この被着体1の先端は、開放していてもよく、閉じていてもよい。なお、熱電対を先端から炉内又は煙道内に突出させる場合には、被着体1の先端は開放したものとする。被着体は、第2図のように一重の円管状であれば足りるが、第3図のように同心状の外管1aと内管1bとを備えた二重管であってもよい。この第3図の場合には、外管1aの先端を閉じたものとし、内管1bの先端を開放させ、かつ内管1bの先端を外管1aの先端の内面から若干後退(離隔)させておく。このように二重管よりなる被着体であれば、外管1aと内管1bとの間に冷媒を往送し、内管1b内に該冷媒を復送させるようにして冷媒を循環させることができる。第2図の一重管に冷媒を通すときには、冷媒を被着体1の先端から炉内又は煙道内に流出させる。
【0041】
第4図は、この被着体1を炉体又は煙道2に取り付けるための構造例を示す断面図である。
【0042】
炉体又は煙道2は、耐火物3と、該耐火物3の外面を覆う鉄皮4とを有している。この炉体又は煙道2を貫通して孔5が設けられている。鉄皮4からは、短い円管状の取付座6が孔5と同軸に外方へ突設されている。この取付座6の突出方向先端にフランジ6fが設けられている。被着体1は、この取付座6から孔5を通って、炉内又は煙道内に突出するように配置され、フランジ1fをフランジ6fに重ね合わせ、ボルト(図示略)や適宜のクリップによって固定する。この被着体1内に熱電対を差し込んだり、冷媒を流通させたりする。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0044】
以下の実施例及び比較例では、焼却能力100t/dayの可燃物焼却用のキルンストーカ炉に本発明を適用した。この焼却炉の排ガスは、廃熱ボイラ及びガス冷却設備を経てバグフィルタにて集塵処理される。この廃熱ボイラ水管(排ガス温度800〜900℃)に付着物が付着し易い。付着物抑制剤の注入地点は廃熱ボイラ入口の煙道とした。
【0045】
被着体としては、全長1500mm(煙道内への突出長さ800mm)、外径17.3mm、内径10.7mmのステンレス製の一重管よりなるサンプリング管を用いた。
【0046】
冷却媒体として空気を30L/hr流し、この空気を炉内に流出させた。
【0047】
被着体の差し込み時間は4hとした。
【0048】
4時間経過後、静かに被着体を抜き取り、常温まで放冷し、付着物の重量を測定した。この計測後、付着物を剥し取り、新たな同型の被着体を再び炉に設置した。この付着物量に基づいて、付着物抑制剤としてのMgCO粉末の添加量を調節した。
【0049】
<実験例1:薬剤添加率の算出式決定>
予備試験での被着体への煤塵付着速度とあらかじめ測定した水管付着物の机上試験結果、及びボイラ出口煤塵量から、被着体への煤塵付着速度当たりの薬剤必要添加率を算出した。
【0050】
なお、本来はボイラ入口煤塵を採取する必要があるが、サンプリングの精度も考慮して、本実施例ではボイラ出口の飛散煤塵がボイラ入口の飛散煤塵とほぼ同じとみなして、ボイラ出口煤塵の数値を代用した。
【0051】
ボイラ出口排ガス中の煤塵採取をJIS Z 8808に従って行ったところ、100kg/hであった。また、被着体への付着物の付着速度は65g/4hであった。
【0052】
この付着物の付着を抑制するために必要な付着物添加量を決定するために、次の試験を行った。
【0053】
水管に付着した煤塵を破砕し、所定量のMgCOを混合し、ルツボに入れる。ルツボごと電気炉に入れ、900℃にて90分加熱する。加熱後のサンプルを自然放冷し、土壌硬度計にて圧縮強度を測定する。圧縮強度が0.0kg/cmに達したMgCOの添加率を必要添加率とした。
【0054】
この試験結果を第5図に示す。第5図の通り、この場合のMgCOの必要添加量は煤塵重量に対し15%であった。
【0055】
上記の試験より、炉内に添加する付着物抑制剤(以下、薬剤ということがある。)の必要添加量を以下の様に算出した。
【0056】
薬剤必要添加量=ボイラ出口煤塵量×MgCO必要添加率×{(サンプリング管付着速度)/(予備試験での被着体への付着物の付着速度)}
=100(kg/h)×15%×(サンプリング管付着速度)
/65(g/4h)
【0057】
<実験例2 薬剤注入点の下流側に被着体を設置した実施例及び比較例>
薬剤注入点を廃熱ボイラ入口の煙道とした。この薬剤注入点より排ガス下流2500mmの箇所に被着体を設置した。被着体は上記のサンプリング管であり、空気流量も上記の通りとした。
【0058】
次のRun1〜3の条件にて試験を行った。
【0059】
Run1 薬剤無添加(ブランク):炉の運転開始後、2、10、20日目にそれぞれ付着物が付着していない被着体により付着速度のみ4hずつ測定。薬剤は添加しなかった。
【0060】
Run2 薬剤注入量制御無(一定量注入):炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体によって付着速度を4hずつ測定した。薬剤注入量は15kg/hの一定値とした。
【0061】
Run3 薬剤注入量制御有:炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体によって付着速度を4h測定し、付着速度が約20g/4hになるまで薬剤注入量を調節して、付着速度を測定した。なお、Run3に関しては、付着速度が約20g/4hになった後は、薬剤注入量は一定とした。
【0062】
被着体への付着物の付着速度(g/4h)と薬剤添加量(kg−MgCO/h)との測定結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の通り、Run3においては、炉の運転開始後、2日目に付着速度を測定したところ32g/4hであった。目標値である20g/4hに近づけるため薬剤注入量を15kg/hから18kg/hに調節し、再度、付着速度を測定したところ18g/4hとなった。そこで、目標値に達したと判断し、2日目〜9日目の間はこの2日目に決定した薬剤注入量で運転を継続した。10、20日目も同様の操作をした。10〜19日目の薬剤注入量は10日目に調節した値であり、20〜30日目の薬剤注入量は20日目に調節した値である。
【0065】
効果を判定するために、1カ月後の廃熱ボイラ蒸気発生量を比較した。その結果を第6図に示す。
【0066】
表1及び第6図のRun1とRun2の比較より、被着体への付着速度は、蒸気発生量すなわちボイラ水管への高温付着物の付着速度と相関があり、被着体への付着速度を検出することにより、ボイラ水管への付着状況を把握することが可能であることがわかった。
【0067】
Run3においては、薬剤の適正注入量を探し出すことで1ヵ月後でも大きな蒸気発生量の低下を起こさない結果となった。
【0068】
Run2とRun3を比較すると、薬剤注入量を付着物の付着状況に応じて制御することにより、付着速度は安定して20g/4hにまで低下することがわかる。Run3では、1ヵ月経過後の蒸気発生量もRun2に比べ、高い数値となった。
【0069】
<実験例3 薬剤注入点の上流側及び下流側に被着体を設置した実施例及び比較例>
薬剤注入点より排ガス上流側2500mmの箇所に上記と同様の被着体aを設置し、薬剤注入点より排ガス下流側2500mmの箇所に上記と同様の被着体bを設置した。
【0070】
次のRun4〜6の条件にて試験を行った。
【0071】
Run4 無添加(ブランク):炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体への付着速度のみ4hずつ測定した。薬剤は添加しなかった。
【0072】
Run5 薬剤注入量制御無(一定量注入):炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体への付着速度を4hずつ測定した。炉の運転開始後、2日目の付着速度に基づいて薬剤注入量を決定した。その後は薬剤注入量は、この値の通りとした。
【0073】
Run6 薬剤注入量制御有:炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体aにより付着速度を4hずつ測定し、薬剤注入量制御を行った。なお、このRun6に関しては付着速度測定後、すぐに薬剤注入量を変更した。2日目〜9日目の間はこの2日目に決定した薬剤注入量で運転を継続した。10、20日目も同様の操作をした。10〜19日目の薬剤注入量は10日目の値であり、20〜30日目の薬剤注入量は20日目の値である。
【0074】
被着体aへの付着物の付着速度(g/4h)と薬剤添加量(kg−MgCO/h)を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
Run4〜6について、1ヵ月後の廃熱ボイラ蒸気発生量を比較した。結果を第7図に示す。また、被着体bへの付着速度を比較した結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
表3の通り、被着体bへの付着速度はブランク(Run4)では殆ど変化がなかったが薬剤注入量制御無のRun5では付着速度は低下している。その結果、蒸気発生量も維持する結果となった。
【0079】
Run6の通り、薬剤注入量を付着状況に応じて制御することにより、被着体への付着速度も20g/4h近辺を維持し、蒸気発生量も約7〜8ton/日程度を維持する結果となった。
【0080】
<実験例4 被着体の管内温度と付着物量の検量線作成>
実験例4は、被着体の差し込み口が小さい場合などにあらかじめ被着体管内の温度変化から被着体への付着量を推定し、この推定値から薬剤添加量を算出する方法である。
【0081】
以下には、事前に薬剤添加口から被着体を差し込み、被着体の管内温度を測定し、被着体の管内温度と付着物量との検量線を作成する方法を示した。
【0082】
ただし、排ガス入口温度の変動が大きい場合には、付着量を直接測定する方法もしくは被着体の管内外の温度差と付着物量との検量線を作成する方法を採用するのが望ましい。
【0083】
被着体としては、前記と同じサンプリング管を用い、冷却媒体として空気を30L/min流通させた。被着体の差し込み時間は1、4、又は8hとした。熱電対を被着体管内に設置した。熱電対の差し込み長さは被着体管内温度測定時には1450mmとした。
【0084】
被着体を煙道内の有効長さが800mmになるように差し込み、空気を流通させながら所定時間経過した時点で被着体の管内温度を測り、静かに被着体を抜き取り、常温まで放冷した。その後、被着体に付着した付着物の重量を測定する。
【0085】
被着体の管内温度と付着量との関係を第8図に示す。
【0086】
なお、1h、4h及び8hのときの被着体の管内温度と付着物量は次の通りである。
1h:管内温度771℃、付着物量15.5g
4h:管内温度758℃、付着物量64.4g
8h:管内温度744℃、付着物量470g
【0087】
<実験例5 薬剤注入箇所よりも下流側に設置した被着体の管内温度に基づく薬剤注入量制御の実施例及び比較例>
実験例4において、薬剤注入点よりも2500mm下流に被着体を設置し、前記のものと同じ薬剤を注入するようにした。
【0088】
次のRun7〜9の条件に従って試験を行った。
【0089】
Run7 無添加(ブランク):炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体を煙道に挿入してから4h経過時の管内温度のみ測定。薬剤は添加しなかった。
【0090】
Run8 薬剤注入量制御無(一定量注入):炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体を煙道に挿入してから4h経過時の管内温度を測定した。薬剤注入量は15kg/hの一定値に設定し、薬剤注入量制御は変化させなかった。
【0091】
Run9 薬剤注入量制御有:炉の運転開始後、2、10、20日目に被着体を煙道に挿入してから4h経過時の管内温度を測定し、管内温度が770℃(付着速度が20g/4h)近辺になるように薬剤注入量を調節した。
【0092】
被着体の管内温度(℃)と薬剤添加量(kg−MgCO/h)を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
炉の運転開始後、2日目に被着体挿入から2h後の管内温度を測定したところ765℃であった。目標値である770℃に近づけるため薬剤注入量を15kg/hから17kg/hに調節し、再度、被着体の管内温度を測定したところ770℃となった。目標値に達したと判断してそのままの薬剤注入量にて薬剤注入を継続した。炉の運転開始後、10、20日目も同様の操作をした。
【0095】
効果を判定するために、1ヵ月後の廃熱ボイラ蒸気発生量を比較した。結果を第9図に示す。
【0096】
第9図より、薬剤注入箇所よりも下流側に被着体を設置して、管内温度を測定した場合でも薬剤注入量を的確に制御することが可能であることが確認された。
【0097】
また、薬剤無添加のRun7では被着体の管内の温度が低めを推移しているところから、付着物量が多いことが推定される。
【0098】
<実験例6 薬剤注入箇所よりも上流側及び下流側にそれぞれ設置した被着体の管内温度に基づく薬剤注入量制御の実施例及び比較例>
実験例5において、薬剤注入箇所よりも上流側2500mmの箇所にも同様に被着体を設置し、各被着体に冷却媒体として空気を30L/min流通させた。サンプリング管差し込み時間は4hとした。熱電対を各被着体の管内に設置した。差し込み長さは1450mmとした。
【0099】
次のRun10〜12の条件にて試験を行った。
【0100】
Run10 無添加(ブランク):炉の運転開始後、2、10、20日目に各被着体への管内温度のみ測定。薬剤は添加しなかった。
【0101】
Run11 薬剤注入量制御無(一定量注入):炉の運転開始後、2、10、20日目に各被着体への付着速度を測定した。炉の運転開始後、2日目の上流側の被着体の管内温度に基づいて薬剤注入量を決定した。その後は薬剤注入量は、この値の通りとした。
【0102】
Run12 薬剤注入量制御有:炉の運転開始後、2、10、20日目に管内温度を測定し、上流側の被着体の管内温度から付着速度を推定し、その推定値から薬剤必要添加量を算出して、すぐにその添加量に変更した。
【0103】
上流側の被着体の管内温度(℃)と薬剤添加量(kg−MgCO/h)とを表5に示す。また、付着物の推定付着速度を表5に示す。
【0104】
【表5】

効果を判定するために、1ヵ月後の廃熱ボイラ蒸気発生量を比較した。結果を第10図に示す。
【0105】
薬剤注入後における下流側被着体の管内温度(℃)を表6に示す。
【0106】
【表6】

【0107】
Run10では、薬剤を添加していないため、上流側被着体の管内温度と下流側被着体の管内温度はほぼ同じであった。
【0108】
Run11は、上流側被着体の管内温度よりも下流側被着体の管内温度の方が若干高くなった。下流側被着体の熱回収率が薬剤の効果により向上したものと推定される。
【0109】
Run12に関しては、上流側被着体の管内温度よりも下流側被着体の管内温度の方が明らかに高くなっており、下流側被着体への付着量が減少し、熱回収率が向上していることが推定される。また、薬剤注入量制御をすることで蒸気発生量も8ton/日近くを維持する結果となった。
【符号の説明】
【0110】
1 被着体
1f フランジ
2 炉内又は煙道
3 耐火物
4 鉄皮
5 孔
6 取付座
6f フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内又は煙道内の高温ガス中に、該ガス中の物質を付着させるための被着体を挿入し、該被着体に付着した付着物の付着量又は付着厚み、もしくは該被着体の温度を測定することを特徴とする高温付着物の測定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記被着体は管状であり、管内に冷却媒体を流すことを特徴とする高温付着物の測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記被着体は管状であり、該管内に測温体を挿入して温度を測定することを特徴とする高温付着物の測定方法。
【請求項4】
請求項3において、前記管内の温度または管内外の温度差の経時変化を測定することを特徴とする高温付着物の測定方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法により測定された前記被着体に付着した付着物の付着量又は付着厚み、もしくは該被着体の温度に基づいて、高温ガス中に添加する高温付着物抑制剤の添加量を制御することを特徴とする高温付着物抑制方法。
【請求項6】
請求項5において、高温ガス中への前記高温付着物抑制剤の添加前および添加後に管状の被着体の管内温度、管内外の温度差の経時変化、付着物の付着量または付着厚みを測定し、この測定結果に従って高温付着物抑制剤の添加量を制御することを特徴とする高温付着物抑制方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記高温付着物抑制剤がMg化合物、Si化合物、Ca化合物、Al化合物、及びFe化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする高温付着物抑制方法。
【請求項8】
炉内又は煙道内の高温ガス中に挿入し、該ガス中の物質を付着させるための管状の被着体と、該被着体の管内に冷却媒体を流す冷却媒体導入手段とを備えた高温付着物の測定装置。
【請求項9】
請求項8において、前記管内に挿入され、管内の温度を測定する測温体を備えていることを特徴とする高温付着物の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−190609(P2010−190609A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32767(P2009−32767)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)