説明

高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法

【課題】本発明は水に対して溶解度が高く、低温でも水に溶けると共に食品のカルシウム強化と日持ち向上用などとして利用できる高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】加熱した糖液中に原料の焼成カルシウムが飽和状態を限度で加えられることにより、高溶解性の水酸化カルシウム溶液が得られる製造方法である。前記糖液としては、40〜80℃に加熱されると共に糖液の濃度が5〜50%重量とするものを用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水に対して溶解度が高く、低温でも水に溶ける高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に水酸化カルシウムの製造方法は、酸化カルシウムに水を加えて水酸化カルシウムが得られていた。この得られた水酸化カルシウムの溶解性は、水20℃で100mlに対して0.161g溶解するだけで、水には難溶性であった。
【0003】
このため、一般常識では水に溶けにくい水酸化カルシウムの物性を変えることなく、溶け易い方法はないか本発明者が切磋琢磨すると共に鋭意研究の結果、種々の糖液に酸化カルシウムを加えると、水溶性の水酸化カルシウムとして良く溶ける糖液が出来ることを確認するに至った。
【0004】
尚、物性を変える水酸化カルシウムの製造方法としては、特開平5−193997号公報,特開2004−43303号公報,特開2010−59034号公報等がある。特開平5−193997号は輸送時、貯蔵時にパイプやタンク内で付着、固結し難い粉末状水酸化カルシウムを得るものである。特開2004−43303は工業的に有利に製造すると共に、安価で、比表面積が大きく流動性を良好とさせた水酸化カルシウムを得るものである。また特開2010−59034は結晶径を大きくする水酸化カルシウムが得られるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−193997号公報
【特許文献2】特開2004−43303号公報
【特許文献3】特開2010−59034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は水に対して溶解度が高く、低温でも水に溶けると共に食品のカルシウム強化と日持ち向上用などとして利用できる高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記現状に鑑みて成されたものであり、つまり、加熱した糖液中に原料の焼成カルシウムが飽和状態を限度で加えられることにより、高溶解性の水酸化カルシウム溶液が得られる製造方法である。前記糖液としては、40〜80℃に加熱されると共に糖液の濃度が5〜50%重量とするものを用いるのが好ましい。また前記糖液として、混合した糖類を水に溶かすと共にそれを加熱して作られたものを使用すると良い。又、予め単独の糖又は混合した糖類に、原料の焼成カルシウムを所定量混合し、それを水に溶かしながら加熱した水酸化カルシウム溶液の製造方法と成しても良い。尚、本発明で言う「水酸化カルシウム溶液」とは、糖液に水酸化カルシウムが、水に溶け込む量よりも数倍多く溶け込まれた状態の溶液を指すものとする。また「飽和状態を限度で加え」とは、糖液中に焼成カルシウムを濁る直前まで加えることを指し、更に「高溶解性」とは、単に水に溶け込む従来の量に対して、糖液を介することによって、従来の量よりも5倍以上の量が水に溶け込むようになることを指すものとする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のように加熱した糖液中に、原料の焼成カルシウムが飽和状態を限度で加えられることにより、焼成カルシウムが水に溶け込む場合よりも多く溶解された透明な糖液が得られるものとなるため、極めて簡単な製造方法で、且つ、容易に実施できるものとなる。更に本発明で得られた水酸化カルシウム溶液は、糖液を介して水に多くのカルシウム成分を含ませることが可能になるため、食材として利用し易くなり、食品のカルシウム強化や日持ち向上用などとして利用できるものとなる。
【0009】
請求項2のように糖液を40〜80℃に加熱すると共に糖液の濃度を5〜50%重量の範囲で使用することにより、高溶解性の水酸化カルシウム溶液が、効率良く且つ安定して得ることができ、且つ、粉末化したものが安価に提供できるものとなる。
【0010】
請求項3に示すように糖液として、混合した糖類を水に溶かすと共にそれが加熱されて作られるものを用いることにより、溶解性が一層向上するものとなる。
【0011】
請求項4に示すように単独の糖又は混合した糖類に、原料の焼成カルシウムを所定量混合し、それを水に溶かしながら加熱することにより、請求項1と同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明方法によって得られた水酸化カルシウム溶液の水に対する溶解性を示すグラフである。
【図2】図1の糖液の濃度と温度の関係による溶解量を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の高溶解性の水酸化カルシウム溶液が製造される方法について説明する。予めブドウ糖を始めとする単独の糖又は混合した糖類を用意して置くと共にその糖類としては、一単糖,二単糖,アルコール糖等を単独で使っても良く、混合して使っても良い。また原料の焼成カルシウムを用意して置き、その焼成カルシウムとしては、帆立貝やカキ等の貝殻焼成,ウニ殻焼成,骨焼成,造礁サンゴ焼成,卵殻焼成,乳清焼成などを用いると良い。先ず始めに、単独の糖又は混合した糖類を水に溶かして糖液を作る。この時、糖液を40〜80℃に加熱して維持させておくと共に糖液の濃度を5〜50%重量の範囲で維持させておく。尚、前記一単糖としてはブドウ糖(グルコース)を、二単糖としては砂糖(ショ糖),果糖,麦芽糖(マルトース)を、アルコール糖としてはキシリトールなどを用いるのが好ましい。
【0014】
次に上記状態の糖液を所定の大きさの容器に入れ、更に糖液中に原料の焼成カルシウムを徐々に入れながら掻き混ぜ、糖液が少しでも濁り始めたら焼成カルシウムの投入を即座に止める。この状態が焼成カルシウムの溶け込む量の飽和状態である。この時、糖溶100部に対して焼成カルシウムが、2部〜15部前後入れられた結果となった。このように高濃度に溶解した水酸化カルシウム溶液が得られるのである。この水酸化カルシウム溶液は、PH12〜PH13のアルカリ性で、抗菌性があり、食肉,魚肉,野菜等の殺菌やカルシウム補給、更には日持ち向上に利用できるものとなる。
【0015】
尚、原料の焼成カルシウムを溶かす際、前記糖液が40℃以下になると、溶解速度が遅くなり、溶解時間が多く掛かってしまい、生産性が低下する恐れがあった。また80℃以上になると、反応が早過ぎて扱いにくくなり、沸騰してオーバーフローする恐れがあると共に糖液が茶色に色付いてしまう恐れが出てくる。好ましくは60〜70℃の範囲に糖液を維持するのが良い。
【0016】
一方、糖液の濃度が5%重量以下になると、焼成カルシウムの溶ける量が減り、50%重量以上になると、糖液の粘度が上がり、原料の焼成カルシウムを入れながら掻き混ぜ作業がスムーズに行えなくなり、作業性を悪くする恐れがあった。尚、糖液の好ましい濃度としては20〜50%重量の範囲を維持するのが良い。
【実施例1】
【0017】
先ず始めに水60Lを用意しておき、その中にショ糖40Kgを加えて加熱し、完全にショ糖を溶け込ませた後、沸騰させて脱炭酸し、それを60℃になるまで冷却させる。そして、この60℃の糖液中に帆立貝殻焼成カルシウムを徐々に入れ、糖液が濁り始める直前まで入れ続ける。この帆立貝殻焼成カルシウムは6.0Kg溶け込んだ。この溶液を一夜放置した後、上澄み液を取出す。この時、前記溶液はアルカリ性であるため、液中に含有する炭酸ガスによって多少炭酸カルシウムが生じて沈殿する。
【0018】
次に取出した上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この乾燥物は33.5Kg取れ、水分5.6%、Ca10.5%であった。
【実施例2】
【0019】
先ず始めに水60Lを用意しておき、その中にショ糖32Kgとキシリトール22Kgを加えて加熱し、完全にショ糖とキシリトールを溶け込ませた後、沸騰させて脱炭酸し、それを60℃になるまで冷却させる。そして、この60℃の糖液中に帆立貝殻焼成カルシウムを徐々に入れ、糖液が濁り始める直前まで入れ続ける。この帆立貝殻焼成カルシウムは10Kg溶け込んだ。この溶液を一夜放置した後、上澄み液を取出す。次に上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この乾燥物は40.0Kg得られ、水分9.5%、Ca12.5%であった。
【0020】
次に本発明方法によって得られた高溶解性の水酸化カルシウム溶液の水に対する溶解性について説明する。尚、水酸化カルシウムの溶解性は、図1に示す酸化カルシウムの溶解性と略同じ傾向を示す。先ず始めに上記要領で下記のサンプルを作る。このサンプルはショ糖を溶かして濃度が5%重量の糖液を80℃に加熱した中に、帆立貝殻焼成カルシウムを溶け込ませ、得られた水酸化カルシウム溶液の上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この粉末は、水分6.0%、Ca27.0%である。これをサンプル1とする。尚、サンプル1は、40℃よりも80℃の方が溶解量は少ないので、80℃の方をサンプルとした。
【0021】
ショ糖を溶かして濃度が20%重量の糖液を40℃に加熱した中に、帆立貝殻焼成カルシウムを溶け込ませ、得られた水酸化カルシウム溶液の上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この粉末は、水分5.6%、Ca10.5%である。これをサンプル2とする。
【0022】
ショ糖を溶かして濃度が20%重量の糖液を80℃に加熱した中に、帆立貝殻焼成カルシウムを溶け込ませ、得られた水酸化カルシウム溶液の上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この粉末は、水分5.0%、Ca15.0%である。これをサンプル3とする。
【0023】
ショ糖を溶かして濃度が50%重量の糖液を40℃に加熱した中に、帆立貝殻焼成カルシウムを溶け込ませ、得られた水酸化カルシウム溶液の上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この粉末は、水分6.0%、Ca12.5%である。これをサンプル4とする。
【0024】
ショ糖を溶かして濃度が50%重量の糖液を80℃に加熱した中に、帆立貝殻焼成カルシウムを溶け込ませ、得られた水酸化カルシウム溶液の上澄み液を公知の噴霧乾燥によって粉末にする。この粉末は、水分6.5%、Ca12.0%である。これをサンプル5とする。
【0025】
次に水20℃で100mlに対して、サンプル1〜5を溶解すると共にそれが濁り始める直前までに溶けた水酸化カルシウムの溶解量を計測した。尚、普通の水酸化カルシウムの溶解量は、0.161gであるが、結果は下記のようになった。つまり、サンプル1は0.95gであり、サンプル2は5.85gであり、サンプル3は6.72gであり、サンプル4は10.62gであり、サンプル5は12.40gであった。従って、サンプル1は従来よりも5.90倍溶け込み、サンプル2は従来よりも36.3倍溶け込み、サンプル3は従来よりも41.7倍溶け込み、サンプル4は従来よりも65.9倍溶け込み、サンプル5は従来よりも77.0倍溶け込み、高溶解性の水酸化カルシウム溶液になったことが確認された。
【0026】
図1は砂糖の濃度と温度に於ける酸化カルシウム(焼成カルシウム)の溶解量の変化を示すグラフであると共に同じ濃度の糖液であっても単独の糖と混合した糖類の場合の違い、及び単独の糖と混合した糖類との相違、更には一般の酸化カルシウムの溶解量を示すグラフである。また図2は酸化カルシウムの糖液に対する溶解量を20℃,40℃,80℃で且つ濃度5%重量,10%重量,20%重量,35%重量,50%重量の組合せによる変化、及び一般の酸化カルシウムの溶解量が温度による影響を示した表である。
【0027】
この結果、本発明方法によって得られたものは、濃度十数%重量以上(図中の3〜6)の糖液に対する酸化カルシウムの溶解量が20℃,40℃,80℃と高くなるに従って増加し、且つ糖液の濃度5%重量,10%重量,20%重量,35%重量,50%重量と高くなるに従って増加することが確認された。更に単独の糖を使用するよりも混合した糖類を使用する方が、酸化カルシウムの溶解量が増加することを本発明者によって確認した。尚、一般の酸化カルシウムの溶解量は、温度が高くなるに従って微量に減少するが、温度による影響は殆んど受けず、難溶性である。また濃度十数%重量以下(図中の1と2)の糖液に対する酸化カルシウムの溶解量は、一般の酸化カルシウムの溶解量の傾向と同じように温度が高くなるに従って減少する傾向を示した。
【0028】
又、各種の一単糖,二単糖,アルコール糖を用いて糖液を作り、酸化カルシウム(焼成カルシウム)の溶解量の変化が、糖液の濃度と温度の組合せによる影響を実験したが、略上記と同様な結果となった。更に原料として、各種の焼成カルシウムを用いて溶解具合を実験したが、略上記と同様な結果となり、原料の相違による変化は殆んどなかった。更に粉末化したものを使用する場合と、水酸化カルシウム溶液を使用した場合との違いは殆んど生じなかった。
【0029】
次に本発明の別実施形態の製造方法について説明する。単独の糖又は混合した糖類に、原料の焼成カルシウムを所定量入れながら掻き混ぜ、その混合された粉末を、一定量の水の中に入れながら加熱し、所定温度を維持すると共に混合された粉末が完全に溶けるまで掻き混ぜる。これで高濃度に溶解した水酸化カルシウム溶液が得られるのである。この水酸化カルシウム溶液は、糖液の中に原料の焼成カルシウムを入れた場合と同様にPH12〜PH13のアルカリ性で、抗菌性があり、食肉,魚肉,野菜等の殺菌やカルシウム補給、更には日持ち向上用などに利用できるものとなった。尚、原料の焼成カルシウムと糖類を溶かす際、水の温度は40〜80℃に維持させると共に糖液の濃度が5〜50%重量になるように、水の量を調整する。
【0030】
上記製造方法によって得られた高濃度に溶解した水酸化カルシウム溶液は、一夜放置した後、その上澄み液を公知の噴霧乾燥などによって粉末にする。
【0031】
このように別実施形態の製造方法によって得られた水酸化カルシウム溶液或いはそれを粉末にしたものは、従来の水酸化カルシウムの物性全般を変えることなく、水中に水酸化カルシウムを多く溶け込ませることが可能となった。つまり、高溶解性の水酸化カルシウムが得られるに至った。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した糖液中に原料の焼成カルシウムが飽和状態を限度で加えられたことを特徴とする高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法。
【請求項2】
前記糖液が40〜80℃に加熱されると共に糖液の濃度が5〜50%重量である請求項1記載の高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法。
【請求項3】
前記糖液が、混合した糖類を水に溶かすと共にそれを加熱して作られた請求項1又は2記載の高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法。
【請求項4】
単独の糖又は混合した糖類に、原料の焼成カルシウムを所定量混合し、それを水に溶かしながら加熱したことを特徴とする高溶解性の水酸化カルシウム溶液の製造方法。


【図1】
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【図2】
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