説明

高炉の操業方法

【課題】鉱石層の軟化、融着により形成される融着帯の通気抵抗を下げ、通気性が良好な高炉の操業方法を提供すること。
【解決手段】非焼成含炭塊成鉱と焼結鉱を原料として用いる高炉の操業方法であって、前記非焼成含炭塊成鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が、前記焼結鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)より小さいことを特徴とする高炉の操業方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所における高炉は、コークス及び石炭を燃焼し、発生したCOガスにより鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する。炉下部の羽口前で発生した高温のガスは、高炉内を上昇しながら炉内装入物であるコークス粒と鉱石粒の間隙を通過し炉頂部に到達する。高炉操業においては、炉内装入物によるガスの通気抵抗を低減し、炉内ガスの通気性を維持することが重要である。
高炉内の炉内ガスの通気抵抗が過大となると、(1)炉内装入物の棚吊り、(2)炉内ガスの吹き抜け、のトラブルを引き起こす。(1)の棚吊りは、炉内装入物を下から押し上げる炉下部のガス圧力が過大となることにより装入物の降下ができなくなり、高炉操業の継続が困難と成る。(2)の吹き抜けは、炉断面の内の特定の通気抵抗が低い箇所に炉内ガスが集中することであり、炉下部で発生した2000℃〜2300℃の炉内ガスが、そのままの温度で、炉頂に吹き抜けるため、炉頂部の装入装置その他の装置を損傷すると共に、炉内温度が一気に低下する。
以上のことより、高炉操業では、炉内装入物の通気抵抗を低減することが重要である。
【0003】
炉内で通気抵抗が最も大きいのは、融着帯である。融着帯とは、炉内で鉄鉱石が高温により軟化、融着するゾーンである。高炉では、コークスと鉄鉱石は、交互に装入され、コークス層と鉱石層を形成するが、融着帯は、鉱石層が軟化を開始し、溶け落ちるまでの鉱石層が変化した層である。鉱石の粒子と粒子の間隙は閉塞されるので、炉内ガスの通気は極端に悪化する。以上のことにより、高炉の通気抵抗を低減するためには、炉内の融着帯の通気抵抗を下げることが重要な課題である。
【0004】
鉱石層の1/2以下の厚みの部分に、石炭粉を含む混合物を熱間成形して得られた炭材
内装塊成鉱を含ませる提案がある(特許文献1)。
又、含炭非焼成ペレットと焼成ペレットとの混合物を鉱石層の一部と代替するように装入する提案がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−301205号公報
【特許文献2】特許第4603628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、鉱石層に炭材内装塊成鉱を含ませるものであり、圧潰強度の高い炭材内装塊成鉱を鉱石層に混合し、燃料比の低下と、粉の発生を防止して通気抵抗を低減するものであり、鉱石層の軟化、融着による通気抵抗の上昇を防止するものではない。
特許文献2に記載の発明は、鉱石層の一部を含炭非焼成ペレットと焼成ペレットとの混合物に代替することで、鉱石層の構成を変更するものであるが、焼成ペレットの還元促進により還元剤比の低減を図るものであり、鉱石層の軟化、融着による通気抵抗の上昇を防止するものではない。
そこで、本発明の目的は、鉱石層の軟化、融着により形成される融着帯の通気抵抗を下げ、通気性が良好な高炉の操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鉱石層として、塩基度が低い非焼成含炭塊成鉱と塩基度が高い焼結鉱を混合して高炉に装入すれば、通気抵抗が小さな融着帯が形成されるという新たな知見を得た。本発明は該知見に基づくものである。
【0008】
(1)非焼成含炭塊成鉱と焼結鉱を原料として用いる高炉の操業方法であって、
前記非焼成含炭塊成鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が、前記焼結鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)より小さいことを特徴とする高炉の操業方法。
(2)前記非焼成含炭塊成鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が0.5以上、1.0以下であり、
前記焼結鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が1.0を超え、2.0以下であることを特徴とする(1)に記載の高炉の操業方法。
(3)前記非焼成含炭塊成鉱と前記焼結鉱の合計に対し、前記非焼成含炭塊成鉱の質量比が、10質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする(1)及び(2)のいずれかに記載の高炉の操業方法。
【発明の効果】
【0009】
鉱石層の軟化、融着により形成される融着帯の通気抵抗を下げ、通気性が良好な高炉の操業方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】荷重軟化試験装置を示す図。
【図2】焼結鉱及び非焼成含炭塊成鉱のΔP(圧力損失)を示す図。
【図3】非焼成含炭塊成鉱のTS200(圧力損失が200mmHOとなる温度)を示す図。
【図4】非焼成含炭塊成鉱配合比率とS値(圧力損失の温度積分値)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明における非焼成含炭塊成鉱及び焼結鉱の軟化溶融温度(高温性状)を調査するための方法について説明する。
図1は、荷重軟化試験装置の断面図であり、この装置を用いて非焼成含炭塊成鉱及び焼結鉱が軟化溶融する際の圧力損失やTS200を計測する。
下段電気炉6と上段電気炉5は、フランジにより接合されており、一体構造をなしている。下段電気炉6は、還元ガスを予熱するために設置され、上段電気炉5は、試料3の加熱に用いられる。含炭塊成鉱などの試料3は、ルツボに装入された後、反応管内に設置される。試料3は、ルツボ内で、上下のコークス層に挟んで装入される。
予め、所定の組成及び流量に調整された還元ガスは、還元ガス入口7から、反応管内に導入され、下段電気炉6で予熱された後、ルツボ内の試料3へ導入される。反応後のガスは、反応ガス出口2から排出され、この排出ガスの一部を採取して、ガス分析計で、その成分を分析する。
同時に、熱電対4で、試料3の直上部の温度を測定し、還元ガス入口7と反応ガス出口2におけるガス圧力を測定する。この圧力の差から、試料3の通気抵抗を計測する。また、試料3が昇温及び還元される過程において、荷重印加装置1により試料3に任意の荷重を与え、実炉での荷重条件を模擬する。なお、図中、8は液滴収容部、9は液滴検知器である。試料3として、所定の含炭塊成鉱や焼結鉱を装入し、還元ガス入口7と反応ガス出口2の間の圧力差から各温度の圧力損失ΔPを計測する。
本試験では、非焼成含炭塊成鉱、或いは非焼成含炭塊成鉱と焼結鉱の混合試料を高さ70mmにセットし、所定温度、ガス条件で反応試験をしたものであり、TS200とは、圧力損失が200mmHOに達したときの温度を示し、S値とは、圧力損失を温度で積分したものである。すなわち、TS200は、高炉内における融着帯上面温度を意味し、S値は、融着帯全体の通気抵抗を示す指標である。
【0012】
図2に非焼成含炭塊成鉱及び焼結鉱のΔP(圧力損失)を示す。高炉に用いる鉄鉱石としては、一般に、焼結鉱の割合が、70質量%〜95質量%を占めるので、焼結鉱の軟化、融着の特性が高炉の圧力損失に与える影響が大きい。図2でAは、塩基度(質量比CaO/SiO=1.79、以下C/Sと記す。)の焼結鉱の場合である。試料の焼結鉱は、昇温されるに従い軟化することで、1200℃頃から、ΔP(圧力損失)が発生する。TS200(圧力損失が200mmHOとなる温度)は、1250℃程度であり、ΔP(圧力損失)のピークは、1280℃程度である。その後の昇温により、焼結鉱は、溶け落ち、ΔP(圧力損失)は徐々に減少し、1250℃程度で完全に溶け落ち完了してΔP(圧力損失)はなくなる。
図2でBは、塩基度(C/S=1.2)の非焼成含炭塊成鉱の場合である。焼結鉱の場合に比べ、TS200及びΔP(圧力損失)ピーク温度は、若干低いが、焼結鉱と同様な挙動である。Cは、塩基度(C/S=0.56)の非焼成含炭塊成鉱の場合である。TS200及びΔP(圧力損失)ピーク温度は、焼結鉱(C/S=1.79)及び塩基度(C/S=1.2)の非焼成含炭塊成鉱に比べ低温であり、ΔP(圧力損失)も小さい。このことより、塩基度(C/S=0.56)の非焼成含炭塊成鉱は、より低温で軟化を開始し、より低温で溶け落ちを完了し、焼結鉱(C/S=1.79)とは、まったく異なる挙動をすることが分かった。
【0013】
図2において、Dは、焼結鉱(C/S=1.79)に質量割合10%の非焼成含炭塊成鉱(C/S=0.56)を混合した場合のΔP(圧力損失)を示す。混合物のΔP(圧力損失)は大幅に低下した。
非焼成含炭塊成鉱(C/S=0.56)を焼結鉱(C/S=1.79)と混ぜて使用した場合に、非焼成含炭塊成鉱が1000〜1200℃で軟化・溶融・溶け落ちるが、焼結鉱が塊のまま残存しているため、当温度では焼結鉱がスペーサーとなり、圧力損失がない。一方、1200〜1400℃になると焼結鉱が軟化・溶融するが、非焼成含炭塊成鉱が存在した部位は非焼成含炭塊成鉱が溶け落ちて空洞となるため、その部位にガスが流れ、高炉の通気性が改善されると考えられる。
【0014】
次に、塩基度の異なる非焼成含炭塊成鉱を製造し、その軟化の挙動を調査した。
塩基度(C/S)が0.40〜1.23の非焼成含炭塊成鉱の原料を表1に示す。バインダ−としては、早強ポートランドセメントを用い、炭材はコークスであり、塩基度調整のため異なる鉱石を用いた。
【0015】
【表1】

単位;%
【0016】
図3にサンプル1〜サンプル6の塩基度(C/S)と非焼成含炭塊成鉱のTS200を示す。非焼成含炭塊成鉱の塩基度(C/S)が0.5以上、1.0以下の場合に、TS200(圧力損失が200mmHOとなる温度)は低温であり、早期に軟化溶融を開始することが分かった。
【0017】
次に、焼結鉱(C/S=1.79)に塩基度を変更した非焼成含炭塊成鉱の配合比率をいろいろ変更した試験を行った。図4に非焼成含炭塊成鉱配合比率とS値(圧力損失の温度積分値)を示す。非焼成含炭塊成鉱の塩基度(C/S)が、0.50〜0.95で、非焼成含炭塊成鉱配合比率が質量10%〜質量50%の場合にS値(圧力損失の温度積分値)が小さくなることが分かった。
【0018】
高炉で使用する焼結鉱の塩基度は、焼結鉱使用割合により変動するが、非焼成含炭塊成鉱の塩基度より高ければよい。本発明の効果を奏するためには、焼結鉱の塩基度は1.0を越え〜2.0が好ましく、1.4〜1.7がより好ましいが、非焼成含炭塊成鉱の塩基度はそれよりも小さければよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
鉱石層の軟化、融着により形成される融着帯の通気抵抗を下げ、通気性が小さな高炉の操業方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0020】
1…荷重印加装置、2…反応ガス出口、3…試料、4…熱電対、5…上段電気炉、6…下段電気炉、7…還元ガス入口、8…液滴収容部、9…液滴検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非焼成含炭塊成鉱と焼結鉱を原料として用いる高炉の操業方法であって、
前記非焼成含炭塊成鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が、前記焼結鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)より小さいことを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
前記非焼成含炭塊成鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が0.5以上、1.0以下であり、
前記焼結鉱の塩基度(質量比CaO/SiO)が1.0を超え、2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記非焼成含炭塊成鉱と前記焼結鉱の合計に対し、前記非焼成含炭塊成鉱の質量比が、10質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれかに記載の高炉の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82971(P2013−82971A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223968(P2011−223968)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)