説明

高炉用微粉炭吹込みランス

【課題】変形許容範囲が拡大され、微粉炭を長期にわたって吹き込むことができる高炉用微粉炭吹込みランスを提案する。
【解決手段】高炉羽口の送風通路を通して微粉炭を炉内に吹き込むための吹込みランスを、高炉羽口1の送風通路M内に向けて角度をもって挿入されるランス本体3aと、このランス本体3aにつながる吹込み経路を備え、前記送風通路Mに沿う軸芯Lを有する先端開口部3bとで構成する。そして、先端開口部3bの突端に、該突端が、前記送風通路Mの壁面に指向する傾斜4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源の代替となる微粉炭を、羽口の送風経路を通して高炉内へ吹き込むのに好適な微粉炭吹込みランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉操業においては、高炉の炉頂部から原料である鉄鉱石とコークスを装入する一方、高炉下部に設けられた羽口といわれる部分からは1200℃にもなる熱風が吹き込まれる。
【0003】
高炉内の羽口前では、熱風中の酸素とコークスとの反応により、一酸化炭素ガスが生成され、この一酸化炭素ガスが高炉内を上昇していき、この一酸化炭素がスと炉頂から降下してくる鉄鉱石との交流反応により還元・浸炭・溶融のプロセスが進行し、溶融したメタルが高炉炉内の底部へと溜まることになる。
【0004】
また、最近では、コークスよりも安価で、かつ熱源の代替となる微粉炭の利用を図るべく、上記羽口部の送風経路に、吹込みランスを挿入、設置し、該吹込みランスを通して微粉炭を吹き込む高炉操業も行われるようになってきている。
【0005】
吹込みランスを通して微粉炭を吹き込む高炉操業では、炉内の溶銑、スラグの成分調整と微粉炭の有効活用を図ることができることから、とくに有用な操業方法でるとされていた。しかし、該吹込みランスは、常時、高温に曝されるため熱変形を起こすのが不可避であり、これにより微粉炭が羽口の壁面に接触して摩耗が生じ、最悪の場合、羽口が破損するというトラブルを引き起こすことが懸念される。
【0006】
そのため、変形量が大きい吹込みランスについては、操業途中で微粉炭の吹込みを停止する措置がとられているが、微粉炭の吹込みを停止した吹込みランスが高炉の周りの一部に集中した場合、高炉の周りにおける熱的な周バランスが崩れ、高炉操業を阻害する原因にもなる。
【0007】
上記のような従来の不具合の改善を図った先行技術としては、吹込み用ランスのランス先端の開孔面の角度を、羽口軸心線に対して±30°の範囲にある開先孔面を設けることにより、羽口からの送風を阻害することなしに粉体の安定吹込みを継続するようにした、例えば、特許文献1に開示の吹込み用ランスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62―74010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のような従来の吹込みランスにおいては、熱の影響により粉体の吹込み口の向きが変わるような変形を起こした場合に、吹込みにかかる微粉炭が羽口の壁面に接触するおそれもあり、微粉炭の吹込みを停止せざるを得ないという問題が依然として残されている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、多少の変形を来たすようなことがあっても微粉炭が羽口の壁面に早期のうちに接触して摩耗を引き起こすことのない、変形許容範囲の緩和された吹込みランスを提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、高炉羽口の送風通路内に配置され、炉内に向けて微粉炭を吹き込む吹込みランスであって、前記吹込みランスは、前記高炉羽口の送風通路内に向けて角度をもって挿入されるランス本体と、このランス本体につながる吹込み経路を備え、前記送風通路に沿う軸芯を有する先端開口部からなり、前記先端開口部の突端に、前記送風通路の壁面に指向する傾斜を設けたことを特徴とする高炉用微粉炭吹込みランスである。
【0012】
上記の構成からなる高炉用微粉炭吹込みランスにおいては、
(1)前記傾斜を、前記先端開口部の軸芯に直交する直線を基準とした場合に、該基準とのなす角度にして、10°以上、15°以下とすること、
(2)上記角度として、より好ましくは、12°±0.2とすること、
(3)前記吹込みランスを、前記突端の最突出部を間隔をおいて相互に背面合わせにした2本で一組になるダブルランスとすること、
が本発明の課題を解決するための具体的手段として好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる高炉用微粉炭吹込みランスによれば、吹込みランスを、高炉羽口の送風通路内に所望の角度でもって斜めに挿入されるランス本体と、このランス本体につながる吹込み経路を備え、送風通路に沿う軸芯を有する先端開口部とで構成し、該先端開口部の突端に、送風通路の壁面に向けて指向する傾斜を設けたため、先端開口部のうちの高炉羽口の壁面に最も近い側においては、吹込みにかかる微粉炭が高炉羽口の壁面に沿って噴出することになる。これにより、熱影響等で吹込みランスの噴出口の向きが多少変わるような変形が引き起こされても微粉炭が早期のうちに羽口の壁面に接触することがない。
【0014】
また、本発明の高炉用微粉炭吹込みランスによれば、前記傾斜の角度を、前記先端開口部の軸芯に直交する直線を基準として、10°以上、15°以下、より好ましくは、12°±0.2の範囲に設定したため、傾斜の最突出部側から噴出される微粉炭の吹き出し角度が大きくなり微粉炭の燃焼効率が改善される。
【0015】
さらに、上記の構成からなる高炉用微粉炭吹込みランスによれば、先端開口部の突端における最突出部を間隔をおいて相互に背面合わせにした2本で一組になるダブルランスとしたことにより、微粉炭の効率的な吹込みが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従う微粉炭吹込みランスをその平面について模式的に示した図である。
【図2】図1に示した吹込みランスの先端開口部を拡大して示した図である。
【図3】従来の吹込みランスによる微粉炭の吹込み状況を示した図である。
【図4】微粉炭の吹込み率の変化を比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明に従う微粉炭吹込みランスの実施の形態を高炉羽口に組み付けた状態で模式的に示した図(平面図)である。
【0018】
図における符号1は、高炉の炉体下部に配置される羽口、2は、羽口1の後端部につながり、該羽口1を保持するブローパイプである。ブローパイプ2および羽口1は、高炉の周囲の複数箇所に設けられており、各送風通路Mを通して熱風を高炉内に吹き込むことができるようになっている。
【0019】
また、符号3は、微粉炭吹込みランスである。この微粉炭吹込みランス3は、羽口1の軸芯1aを挟んで左右に2本配置したダブルランスとして示してあり、高炉羽口の送風通路M内に向けて所望の角度をもって挿入されるランス本体3aと、このランス本体3aにつながる吹込み経路を備え、羽口1の送風通路Mに沿う軸芯Lを有する先端開口部3bから構成されている。
【0020】
また、4は、吹込みランス3の先端開口部3bの突端に設けられた傾斜である。この傾斜4は、送風通路Mに指向する角度を有している。
【0021】
上記の構成からなる吹込みランスにおいては、ランス本体3aを通り抜けた微粉炭は先端開口部3bの突端(開口端)から、図2に示すような状態で吹き込まれる。すなわち、先端開口部3bの突端が送風経路Mの壁面に指向する傾斜を有するため、該先端開口部3bのうちの羽口1の壁面に最も近い側Pにおいては、ランス本体3aの先端開口部3bから直線状に噴出するため、羽口1の壁面に沿って微粉炭がほぼ平行に噴出する一方、最突出部が形成される切先側Pにおいては、羽口1の反壁面側に向けて噴出角度が拡がるように噴出する。
【0022】
このため、熱影響等によりランス自体に多少の変形を来たしたとしても、吹込みにかかる微粉炭が簡単に羽口1の壁面に簡単に接触することはなく、しかも、送風通路Mの中央部域では、該微粉炭は拡散される傾向にあるため、燃焼効率が改善される。
【0023】
上記のような効果は、とくに、傾斜4によって形成された切先側Pを相互に背面合わせにした2本で一組になるダブルランスとすることにより、より一層顕著となる。なお、先端開口部3bは、羽口1の送風通路Mに沿う軸芯Lを有するが、該軸芯Lが送風通路Mに沿うようになっていることで熱風の吹込みを阻害することなしに微粉炭の吹込みを可能としている。
【0024】
傾斜4について、本発明では、先端開口部3bの軸芯Lに直交する直線Lを基準として、その基準とのなす角度θを10°以上、15°以下、より好ましくは、12°±0.2の範囲に設定することとしたが、傾斜端面4の角度θを10°以上、15°以下、より好ましくは、12°±0.2の範囲に収めることにより、先端開口部3bからの微粉炭の噴出角度が最も安定し、羽口1の壁面への微粉炭の接触が避けられると共に、微粉炭の効率的な吹込みが可能となる。
【0025】
本発明に従う吹込みランスは、熱変形によって微粉炭を吹き込むことが困難となるに至るまでの期間をより一層延長することができるため、微粉炭の吹込み停止となる吹込みランスの本数が減少し、吹込みランスの取替え本数も著しく減少させることができる。
【0026】
また、高炉の周りにおける熱バランスも良好となり安定した高炉操業につながる。
【実施例】
【0027】
傾斜端面の角度θ:12°になる20A、Sch80(JIS G3459)の吹込みランスを図1に示すような配置にして吹込み量(90kg/t・溶銑、120kg/t・溶銑)の条件で高炉内への微粉炭の吹込みを行い、微粉炭の吹込みが困難となるに至るまでの期間(吹込みランス自体の熱変形により微粉炭が羽口の壁面に接触して摩耗を引き起こすまでの期間)について調査した。
【0028】
その結果、図3に示すようなフラットな先端面を有する吹込みランスを用いた微粉炭の吹込みにおいては吹込みランスの取替えに要するまでの期間が平均で107日であったのに対して、本発明に従う吹込みランスによる吹込みにおいては、平均で194日であって、吹込みランスの使用期間(寿命)を著しく延長できることが確認された。
【0029】
また、これに伴い、年間に使用される吹き込みランスの使用本数も80本程度削減された。
【0030】
微粉炭の吹込み率(吹込み可能羽口/全羽口)に関しては、図4に示すような状況にあって本発明に従う吹込みランスを使用した場合(適合例)においては、従来の吹込みランスよる吹込み(比較例)に比べ、微粉炭の吹込み率が平均5%程度向上することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、変形許容範囲が拡大され、微粉炭の吹込みを長期にわたって継続可能な高炉用微粉炭吹込みランスが提供できる。
【符号の説明】
【0032】
1 羽口
1a 軸芯
2 ブローパイプ
3 微粉炭吹込みランス
3a ランス本体
3b 先端開口部
4 傾斜端面
M 送風通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉羽口の送風通路内に配置され、炉内に向けて微粉炭を吹き込む吹込みランスであって、
前記吹込みランスは、前記高炉羽口の送風通路内に向けて角度をもって挿入されるランス本体と、このランス本体につながる吹込み経路を備え、前記送風通路に沿う軸芯を有する先端開口部からなり、
前記先端開口部の突端に、該突端が前記送風通路の壁面に指向する傾斜を設けたことを特徴とする高炉用微粉炭吹込みランス。
【請求項2】
前記傾斜は、前記先端開口部の軸芯に直交する直線を基準とした場合に、該基準とのなす角度が、10°以上、15°以下であることを特徴とする請求項1に記載した高炉用微粉炭吹込みランス。
【請求項3】
前記角度が、12°±0.2であることを特徴とする請求項2に記載した高炉用微粉炭吹込みランス。
【請求項4】
前記吹込みランスが、前記突端の最突出部を間隔をおいて相互に背面合わせにした2本で一組になるダブルランスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載した高炉用微粉炭吹込みランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36091(P2013−36091A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173847(P2011−173847)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】