説明

高炭素鋼の抵抗溶接方法及び抵抗溶接装置

【課題】
内部まで浸炭処理されている高炭素―高クロム鋼材からなる第1の被溶接物と第2の被溶接物とを簡単に抵抗溶接でき、大きな溶接強度を得ること。
【解決手段】
内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなる第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に加圧力をかけた状態で、第1、第2の被溶接物の間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を流す第1の接合工程と、第1のパルス状溶接電流からクーリング時間Tcをおいて単一の第2のパルス状溶接電流I2を流す第2の接合工程と、第2のパルス状溶接電流を通電した後に、第1、第2のパルス状溶接電流の通電時間よりも長い時間、第1、第2のパルス状溶接電流のピーク値よりも小さなピーク値の交流溶接電流iを通電する第3の接合工程を順次行う高炭素鋼の抵抗溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素鋼、特に内部まで浸炭焼入れ処理がなされている高炭素―高クロム鋼材などの抵抗溶接に適した抵抗溶接方法及び抵抗溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ式抵抗溶接は、エネルギー蓄積用コンデンサに蓄えた電気エネルギーを極く短い期間に被溶接物間に放出し、パルス状溶接電流として流すことにより良好な溶接結果が得られる溶接方法であることで広く知られている。このような溶接にあっては、交流電流を幾サイクルにもわたって流す交流溶接とは違って、通常、ごく短い時間に溶接部及びその周りの小さい領域だけが急激に加熱され、また自然状態で急冷される。このような急熱、急冷の場合、これら被溶接物が炭素の含有率が高い高炭素鋼、あるいは表面を浸炭処理した高炭素鋼などからなると、その溶接部の硬度が増大し、脆弱になって機械的強度が大幅に低下することが知られている。
【0003】
したがって、従来では被溶接物間に加圧力を加えた状態で、パルス状溶接電流を被溶接物間に流した後に、数十サイクル、例えば20〜30サイクルにもわたって交流電流を流して後熱処理を行い、溶接部の焼き戻しを行ってその硬度を許容値以下まで戻して強度の低下を抑制することが開示されている。しかし、交流電流を流して後熱処理を行った場合には、発熱時間が長くなるために被溶接物の広い範囲で高温になり、このことが被溶接物の変色、熱歪み、溶接電極の損耗などを招来し、溶接品質を低下させていた。この問題点を解決する方法として、第1のパルス状溶接電流を流した後に、単一の第2のパルス状溶接用電流を流して焼き戻しを行って高い溶接品質が得られる高炭素鋼の抵抗溶接方法も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−326076
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1に開示されている抵抗溶接方法は、表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼と通常の鋼材である低炭素鋼などを抵抗溶接する場合には非常に有効であって、被溶接物の変色、熱歪みなどを生じることなく、高い溶接強度が得られる。しかしながら、例えば、JIS規格でSUJと呼ばれているような高炭素―高クロム鋼材は、内部まで浸炭焼入れ処理されているので、前掲の特許文献1に開示されている抵抗溶接方法をもってしても、高炭素―高クロム鋼材と低炭素鋼との溶接強度は、表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼の溶接時の溶接強度に比べて大幅に低下してしまうという問題がある。また、前述したような方法、例えば単一のパルス状溶接電流を被溶接物間に流した後に、数十サイクル、例えば20〜30サイクルにもわたって交流電流を通電する抵抗溶接方法によっても同様に溶接強度を向上させることができない。つまり、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼の抵抗溶接にあっては、外観の問題を別にしても、表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼の溶接時の溶接強度に到底達しなかった。
【0005】
本発明は、レーザ溶接装置のような価格の高い溶接装置を用いずに、従来広く行われている抵抗溶接方法によって、内部まで浸炭処理されている高炭素鋼材からなる第1の被溶接物と低炭素鋼又は、表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼、あるいは内部まで浸炭処理されている高炭素鋼材からなる第2の被溶接物とを簡単に抵抗溶接することができ、しかも溶接強度を大幅に向上させることができる抵抗溶接方法及び抵抗溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなる第1の被溶接物と、第2の被溶接物との間に加圧力をかけた状態で溶接電流を通電して、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを溶接する高炭素鋼の抵抗溶接方法において、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を流す第1の接合工程と、前記第1のパルス状溶接電流からクーリング時間Tcをおいて単一の第2のパルス状溶接電流I2を流す第2の接合工程と、前記第2のパルス状溶接電流I2を通電した後に、前記第1のパルス状溶接電流I1の通電時間、及び前記第2のパルス状溶接電流I2の通電時間よりも長い時間、前記第1のパルス状溶接電流I1及び前記第2のパルス状溶接電流I2のピーク値よりも小さなピーク値の交流溶接電流iを通電する第3の接合工程を順次行うことを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法を提供する。
【0007】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記第2のパルス状溶接電流I2のピーク値は、前記第1のパルス状溶接電流I1のピーク値の80〜130%であることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法を提供する。
【0008】
第3の発明は、前記第1の発明又は前記第2の発明において、前記第2の被溶接物は、前記第1の被溶接物よりも炭素含有率が低い低炭素鋼又は表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼からなることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法を提供する。
【0009】
第4の発明は、前記第1の発明ないし前記第3の発明のいずれかにおいて、前記第2の被溶接物は、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなり、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に、炭素含有率が低い低炭素鋼又は表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼からなる金属部材を介在させる工程を前記第1の接合工程の前に備えることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法を提供する。
【0010】
第5の発明は、交流電源と、エネルギー蓄積用コンデンサと、前記交流電源と前記エネルギー蓄積用コンデンサとの間に接続されて前記交流電源からの電力によって前記エネルギー蓄積用コンデンサを充電する充電回路と、第1の1次巻線と第2の1次巻線及び2次巻線とを有する溶接用トランスと、前記エネルギー蓄積用コンデンサに蓄えられた電荷を前記第1の1次巻線を介して放電するための第1のスイッチ回路と、前記交流電源と前記第2の1次巻線との間に備えられた第2のスイッチ回路とを備えて、前記2次巻線から、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼である第1の被溶接物と、第2の被溶接物との間に溶接電流を流して抵抗溶接を行う高炭素鋼の抵抗溶接装置であって、前記充電回路の充電動作によって前記エネルギー蓄積用コンデンサが第1の設定電圧値まで充電された後、前記第1のスイッチ回路はオンして前記第1の被溶接物と前記2の被溶接物との間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を通電した後にオフし、次に、前記充電回路の充電動作によって前記エネルギー蓄積用コンデンサが第2の設定電圧値まで充電された後、前記第1のスイッチ回路は、クーリング時間の経過後に再びオンして前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に単一の第2のパルス状溶接電流I2を通電した後にオフし、前記第2のスイッチ回路は、前記第1のスイッチ回路の第2回目のオフ後にオンして、前記交流電源からの交流電力を前記溶接用トランスを介して供給し、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に交流溶接電流iを通電することを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置を提供する。
【0011】
第6の発明は、前記第5の発明において、前記第1のスイッチ回路は、前記第1のパルス状溶接電流I1と前記第2のパルス状溶接電流I2とが前記溶接用トランスの前記第1の1次巻線を互いに逆方向に流れるように極性変換する構成を有することを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置を提供する。
【0012】
第7の発明は、交流電源と、第1のエネルギー蓄積用コンデンサと、第2のエネルギー蓄積用コンデンサと、前記交流電源と前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサとの間に接続されて前記交流電源からの電力によって前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサを充電する第1の充電回路と、前記交流電源と前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサとの間に接続されて前記交流電源からの電力によって前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサを充電する第2の充電回路と、第1の1次巻線と第2の1次巻線及び2次巻線を有する溶接用トランスと、前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサに蓄えられた電荷を前記第1の1次巻線を介して放電するための第1のスイッチ回路と、前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサに蓄えられた電荷を前記第1の1次巻線又は別の第3の1次巻線を介して放電するための第3のスイッチ回路と、前記交流電源と前記第2の1次巻線との間に備えられた第2のスイッチ回路とを備えて、前記2次巻線から、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼である第1の被溶接物と、第2の被溶接物との間に溶接電流を流して抵抗溶接を行う高炭素鋼の抵抗溶接装置であって、前記第1の充電回路の充電動作によって前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサが第1の設定電圧まで充電された後、前記第1のスイッチ回路はオンして前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサの蓄積電荷を放電することにより、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を通電した後にオフし、前記第2の充電回路の充電動作によって前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサが第2の設定電圧まで充電された後、前記第3のスイッチ回路はクーリング時間の経過後にオンして前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサの蓄積電荷を放電することにより、前記第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に単一の第2のパルス状溶接電流I2を通電した後にオフし、前記第2のスイッチ回路は、前記第3のスイッチ回路のオフ後にオンして、前記交流電源から前記第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に交流溶接電流iを通電することを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置を提供する。
【0013】
第8の発明は、前記第7の発明において、前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサ及び第2のエネルギー蓄積用コンデンサの蓄積電荷は、前記第1の1次巻線に逆極性で放電、又は逆極性で前記第1の1次巻線と前記第3の1次巻線にそれぞれ放電されることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
前記第1の発明によれば、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼を、特別な構造のプロジェクションを必要とすることなく、簡便な接合方法で溶接強度を向上させることができる。
【0015】
前記第2の発明によれば、前記第1の発明により得られる効果の他に、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼をより安定にかつ大きな溶接強度で抵抗溶接することができる。
【0016】
前記第3の発明によれば、前記第1の発明又は前記第2の発明により得られる効果の他に、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼と低炭素鋼又は表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼とを大きな溶接強度で抵抗溶接できる。
【0017】
前記第4の発明によれば、前記第1の発明又は前記第2の発明により得られる効果の他に、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼同士を抵抗溶接でき、所期の大きな溶接強度を得ることができる。
【0018】
前記第5の発明によれば、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼を、特別な構造のプロジェクションを必要とすることなく、所期の大きな溶接強度を得ることができる簡単で比較的経済的な抵抗溶接装置を提供できる。
【0019】
前記第6の発明によれば、前記第5の発明により得られる効果の他に、特別な手段を施すことなく溶接用トランスの磁心を偏励磁させないので、より経済性に優れた抵抗溶接装置を提供することができる。
【0020】
前記第7の発明によれば、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼を、特別な構造のプロジェクションを必要とすることなく、短い溶接サイクルで、所期の大きな溶接強度を得ることができる抵抗溶接装置を提供できる。
【0021】
前記第8の発明によれば、前記第7の発明により得られる効果の他に、溶接用トランスを偏励磁させないので、特別な偏励磁用抑制手段を施すことなく、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼を、安定に抵抗溶接できる抵抗溶接装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[実施形態1]
図1ないし図4によって、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は本発明にかかる高炭素鋼の抵抗溶接方法を説明するため図であり、溶接電流を示している。図2は本発明にかかる高炭素鋼の抵抗溶接方法を実現するための抵抗溶接装置の第1の実施形態を示す図である。図3は溶接電極と被溶接物とを示す図である。図4は放電電流の極性転換を行えるスイッチ回路の一例を示す図である。図2において、交流電源1は商用交流電源又は交流発電機であり、交流電源1には制御機能を有する整流回路からなる充電回路2が接続されている。充電回路2の出力には複数の電解コンデンサを直並列に接続してなるエネルギー蓄積用コンデンサ3が接続され、エネルギー蓄積用コンデンサ3は第1のスイッチ回路4を通して溶接用トランス5の第1の1次巻線5Aに接続されている。第1のスイッチ回路4については詳細を示さないが、駆動信号でオンオフするサイリスタ又はIGBT、あるいはトランジスタなどのような大電流用半導体スイッチとこれのオンオフ時間を予め決めたシーケンスに従って制御するコントローラなどからなる。
【0023】
溶接用トランス5は第2の1次巻線5Bを有し、その第2の1次巻線5Bは第2のスイッチ回路6を通して交流電源1に接続されている。第2のスイッチ回路6は第1のスイッチ回路4と同様な構成のものであるが、オンオフする時間が第1のスイッチ回路4と異なり、そのオンオフ動作については後述する。溶接用トランス5は1次巻線5A、5Bに比べて巻数が大幅に少ない1〜2ターン程度の巻数を有する2次巻線5Cを備える。2次巻線5Cには溶接電極7、8が接続されており、溶接時にはこれら溶接電極7と8との間に第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とが挟まれ、図示しない加圧機構が溶接電極7と8とを加圧することにより、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とが加圧される。その加圧機構は一般的なものを用いているので、図示するのを省略し、説明しないが、図1に示しているような加圧力Pを溶接電極7と8との間に印加できるようなものである。
【0024】
ここで第1の被溶接物W1は、従来の抵抗溶接方法では所期の溶接強度を得ることができない高炭素―高クロム鋼材からなり、第2の被溶接物W2は通常の低炭素鋼からなる。JIS規格でSUJと称されている高炭素―高クロム鋼材からなる第1の被溶接物W1は、表面浸炭焼入れ処理が施された高炭素鋼に比べて少なくとも表面よりも内部まで浸炭焼入れ処理が行われたものである。高炭素―高クロム鋼材は、ラジアルベアリング又はスラストベアリングのような軸受などに用いられている材料で、硬度が高く、耐摩耗性が非常に大きい。なお、第1、第2のスイッチ回路4、6はそれぞれ大電力用半導体スイッチであって、これら大電力用半導体スイッチを予め決められたシーケンスでオンオフ制御する共通の制御回路を別に備えても良い。また、第1、第2のスイッチ回路4、6はインバータ回路であってもよい。
【0025】
ここで本発明を説明する前に図3を用いて、溶接電極7と8及び第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2の具体例について述べる。図3(A)において、第1の被溶接物W1は例えばJIS規格でSUJと称されている高炭素―高クロム鋼材からなる丸棒であり、先端部分が断面で示されているように、その先端面には一般的なリングプロジェクションAが形成されている。第2の被溶接物W2は、低炭素鋼又は表面が浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなる。図面で上側の溶接電極7は、詳細は示さないが、複数個、例えば縦方向に等しく3分割されている一般的な構造のものであり、それら3個の把持部7A、7B(他の1個は陰になるために図示されていない。)が放射方向に動くことによって、3個の把持部の内面が縮径又は拡径し、第1の被溶接物W1を把持又は開放する。下部側の溶接電極8の上には第2の被溶接物W2が載置されており、溶接電極7がリングプロジェクションAを下側にして第1の被溶接物W1を把持した状態で、溶接電極7が下降、又は溶接電極8が上昇し、第1の被溶接物W1のリングプロジェクションAが第2の被溶接物W2の上面に当接する。そして、図示しない加圧機構が動作して溶接電極7と溶接電極8との間に、図1に示すような加圧力Pを加える。なお、プロジェクションはリングプロジェクションに制限されることなく、他の一般的なプロジェクションでも勿論よい。
【0026】
図3(B)に示す第1の被溶接物W1は、先端が球状面Bなっている前述の高炭素―高クロム鋼からなる丸棒であり、その球状面Bの先端が第2の被溶接物W2の上面に当接している。この第1の被溶接物W1の場合には球状面Bの先端がプロジェクションの役割を果たしている。溶接電極7は図3(A)に示したものと同様な構造である。第2の被溶接物W2は低炭素鋼などの金属材料からなる丸棒であり、その上端面の中央面域は少なくとも平坦であり、その平坦な面に第1の被溶接物W1の球状面Bが当接される。下側の溶接電極8も溶接電極7と同様な構造であり、例えば縦方向に等しく3分割されている3個の把持部8A、8B(他の1個は陰になるために図示されていない。)からなる。溶接電極8も溶接電極7と同様に、縮径と拡径との拡縮動作を行うことにより、第2の被溶接物W2の把持、開放を行う。なお、第1の被溶接物W1がボールベアリングのボールなどの玉球であっても、同様な形態で抵抗溶接することができる。図示しないが、この場合には、一例として溶接電極7はその玉球の上半分を収容できる半球状凹所を備えており、玉球を吸着保持できる吸引口又は磁石をその半球状凹所に有する。又は、下側の溶接電極8が前述の半球状凹所を有し、下側の溶接電極8に玉球を保持させても良い。
【0027】
また、本発明の抵抗溶接方法によれば、第1の被溶接物W1が高炭素―高クロム鋼材などからなる内部まで深く浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなる他の形状の高炭素鋼材であっても、第1の被溶接物W1又は第2の被溶接物W2の溶接箇所に一般的なプロジェクションが形成されていれば、従来の抵抗溶接方法に比べて大幅に高い溶接強度を得ることができる。ただし、第1の被溶接物W1に比べて第2の被溶接物W2の硬度がかなり低い金属材料からなる場合には、前述の高炭素鋼材からなる第1の被溶接物W1にプロジェクションが形成されているのが好ましい。この場合には、抵抗溶接時にそのプロジェクションが第2の被溶接物W2に食い込み易いので、逆の場合に比べて大きな溶接強度が得られる。
【0028】
次に溶接動作について説明しながら、本発明に係る抵抗溶接方法について説明する。先ず、充電回路2は交流電源1からの交流電力を整流して直流電力に変換し、エネルギー蓄積用コンデンサ3を第1の設定電圧まで充電する。この第1の設定電圧は、例えば400〜450Vである。充電回路2は、予め決められた時間だけオンする構成、あるいは図示しない電圧検出器がエネルギー蓄積用コンデンサ3の充電電圧が第1の設定電圧に達したことを検出するときオフする構成のいずれであっても良い。エネルギー蓄積用コンデンサ3の充電電圧が第1の設定電圧値に達するときに、第1のスイッチ回路4がオンし、エネルギー蓄積用コンデンサ3の充電電荷を放電して溶接用トランス4の第1の1次巻線5Aにパルス状溶接電流を流す。この溶接電流は図1に示す電流I1であり、例えば数万から数十万アンペアの電流ピーク値を有し、パルス幅は10〜100ミリ秒である。このパルス状溶接電流I1は、図1に示すように、溶接電極間の加圧力Pがほぼ直線的に増大している過程で通電され、第1の接合工程が行われる。なお、充電回路2の動作によってエネルギー蓄積用コンデンサ3の充電電圧の値を制御することにより、第1のパルス状溶接電流I1のピーク値と後述する第2のパルス状溶接電流I2のピーク値とを調整することができる。
【0029】
この第1の接合工程では、ごく短時間に大電流を被溶接物に流して第1回目の接合を行うので、他の抵抗溶接方法と同様に接合時に一緒に焼き入れが行われてしまうが、交流抵抗溶接に比べて溶接部とその周りの狭い範囲が高温になるだけであり、接合部において焼き入れされる範囲は大幅に狭いが、接合部は脆く、溶接強度は低い。ここで第1のスイッチ回路4は、予め決めたオン時間が経過した後にオフし、エネルギー蓄積用コンデンサ3の蓄積電荷の放電を止める。例えば、溶接電流I1が溶接にあまり寄与しないピーク値の数十%程度の電流値まで減少する時点で第1のスイッチ回路4がオフするようにオフ時間の設定がなされていれば、エネルギー蓄積用コンデンサ3にある程度の量の電荷が残留し、次の第2回目の接合工程の開始時刻を早めることが可能となる。ここで、第1のスイッチ回路4のオフの直後に充電回路2はオン動作を始めて、エネルギー蓄積用コンデンサ3の充電を開始する。
【0030】
次に、第1のパルス状溶接電流I1の通電後、第1のクーリング時間Tc1の経過直後に、第2回目の接合工程を行う。第1のクーリング時間Tc1は、パルス状溶接電流I1の通電によって塑性流動化(軟化)した溶接部が凝固するまでに要する時間であり、第2回目の接合工程で接合効果を向上させるが、あまり焼入れ処理が行われないように第1のクーリング時間Tc1が必要とされる。しかし、第2のパルス状溶接電流I2をできるだけ小さくするためには、溶接部の硬化直後の方がその温度が十分に高いので最も有利であるので、第1のクーリング時間Tc1は必要最小限であることが好ましい。しかしながら、この実施形態1では第1のパルス状溶接電流I1を流した後、エネルギー蓄積用コンデンサ3を第2の設定電圧値まで充電しなければならないので、実施形態1ではエネルギー蓄積用コンデンサ3を第2の設定電圧値まで充電するのに要する時間が最小限でも必要であるので、第1のクーリング時間Tcを前記最小限の時間よりは短くできない。
【0031】
第1のスイッチ回路4がオフすると、充電回路2がオンし、エネルギー蓄積用コンデンサ3を充電し始める。そして、エネルギー蓄積用コンデンサ3がほぼ第2の設定電圧値まで充電され、第1のクーリング時間Tc1が経過すると、第1のスイッチ回路4がオンし、エネルギー蓄積用コンデンサ3の蓄積電荷を放電する。これにより単一の第2のパルス状溶接電流I2が、継続して加圧力Pが印加されている溶接電極7、8間に流れる。この単一のパルス状溶接電流I2はパルス状溶接電流I1のピーク値の80〜130%のピーク値を有し、パルス状溶接電流I1の波形と類似である。前述のように、溶接部の硬化直後から時間が経過するのに伴い第2のパルス状溶接電流I2のピーク値を大きくする必要があるという傾向はあるが、種々の実験の結果、第2のパルス状溶接電流I2のピーク値はパルス状溶接電流I2のピーク値のほぼ80%から130%の範囲が良いという結果が得られた。
【0032】
パルス状溶接電流I2のピーク値がパルス状溶接電流I1のピーク値のほぼ80%よりも小さい場合には、後述する第3の接合工程を行っても、溶接強度の向上が十分でなくなる。この原因は、高炭素―高クロム鋼材からなる第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合部における焼き戻しが行われないことと、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合部における実質的な接合深さが微調整されないことにある。他方、第2のパルス状溶接電流I2のピーク値を第1のパルス状溶接電流I1のピーク値のほぼ130%よりも大きくなると、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合部における実質的な接合深さ向上し、接合面で双方の金属が互いになじむが、接合部に注入されるエネルギーが大きすぎるために焼入れが行われ、接合部の硬度が再び上昇して脆くなり、このことが総合的には溶接強度を低下させる原因になっている。
【0033】
この点についてもう少し詳しく述べる。第1回目の接合工程を行う前と行った後とを比較すると、第1回目の接合工程を行う前は第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とが当接されているだけであるので接触抵抗があるが、第1回目の接合工程を行った後では接触抵抗がゼロである。したがって、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合部分の抵抗は材料の抵抗だけになるので、当然に第1回目の接合工程を行った後の方が抵抗は小さくなる。したがって、第2回目の接合工程で、第1のパルス状溶接電流I1と同じ大きさのピーク値を有する第2のパルス状溶接電流I2を通電しても、接合部における発熱は第1回目の接合工程のときよりも小さくなる。このことから、第2のパルス状溶接電流I2は第1のパルス状溶接電流I1のピーク値より大きくてもよいが、第2のパルス状溶接電流I2が大きすぎると、接合部に焼入れが行われる。したがって、その焼入れによる硬度の上昇の程度と第2のパルス状溶接電流I2の増大に伴う接合部の実質的な接合深さの微調整との兼ね合いで、総合的に溶接強度を低下させない第2のパルス状溶接電流I2の上限は、種々の実験結果から第1のパルス状溶接電流I1のピーク値のほぼ130%となる。
【0034】
しかしながら、高炭素―高クロム鋼材のような内部まで浸炭処理されている高炭素鋼からなる第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との抵抗溶接にあっては、前述の第1、第2の溶接工程を行っても、同じ条件で表面が浸炭処理されている高炭素鋼と低炭素鋼とを抵抗溶接したときの溶接強度の半分強から2/3程度になるだけであり、期待する溶接強度を得ることができない。したがって、本発明では前述の第2の接合工程の後に、第2のクーリング時間Tc2を経て第3の接合工程を行う。前記第2の接合工程で第1のスイッチ回路4がオフし、第2のパルス状溶接電流I2の通電が終了した後、第2のクーリング時間Tc2が経つと、第2のスイッチ回路6がオンして第3の接合工程が行われる。第2のスイッチ回路6がオンすると、交流電源1から交流電流がスイッチ回路6を通して溶接用トランス5の第2の1次巻線5Bを通して流れ、第2の1次巻線5Bの巻数と2次巻線5Cの巻数との比率で決まる交流電流が第3の交流溶接電流iとして第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とを通して流れる。
【0035】
第3の交流溶接電流iの通電期間は、第1のパルス状溶接電流I1、第2のパルス状溶接電流I2それぞれの通電期間よりも大幅に長く、例えば商用周波数の10〜30サイクル、つまり200〜600ミリ秒である。また、第3の交流溶接電流iのピーク値は第1、第2のパルス状溶接電流I1、I2に比べて大幅に小さい。したがって、第1、第2の接合工程に比べて徐々に温度を上げて行くことになり、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2の広い範囲が高温になり、接合部分は十分に焼き戻しが行われ、外観上は質が低下するが、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との材料が互いに十分になじみあうので、接合部の溶接強度は大幅に向上する。第2回目の接合工程の後の溶接強度と第3回目の接合工程の後の溶接強度を比較すると、例えば溶接強度がほぼ1.9倍程度に増大し、表面が浸炭処理された高炭素鋼と低炭素鋼との溶接強度と同程度の所期の溶接強度が得られた。ここで、第2回目の接合工程を省略し、第1の接合工程の後で種々の長さのクーリング時間を設けて、種々の通電期間で交流電流を通電しても接合強度がほとんど向上しなかった。
【0036】
なお、抵抗溶接方法としては第1のパルス状溶接電流I1と第2のパルス状溶接電流I2とが同極性又は異極性であっても同じ溶接結果が得られるので、抵抗溶接装置としては溶接用トランスの偏励磁の心配がない極性転換機能を有するものが好ましい。図4に示すスイッチ回路4は、前述したような制御型の半導体スイッチ素子4A〜4Dからなる、極性転換機能を有する回路の一例である。図1に示したように、第1のパルス状溶接電流I1と第2のパルス状溶接電流I2とを溶接用トランス5の第1の1次巻線5Aに同極性で流すと、溶接用トランス5の磁心が一方向に強く励磁されてしまうので偏励磁を起こし、溶接装置が正常に動作できなくなることがある。この溶接用トランス5の偏励磁現象を防止又は緩和するために、第1のパルス状溶接電流I1と第2のパルス状溶接電流I2とが第1の1次巻線5Aを流れる方向を逆にすればよい。図4に示すスイッチ回路4では、例えば、第1の接合工程で半導体スイッチ素子4Aと4Bとがオンし、第2の接合工程で半導体スイッチ素子4Cと4Dとを対でオンさせることにより、溶接用トランス5の第1の1次巻線5Aに交互に逆方向のパルス状溶接電流I1、I2を流すことができる。このように1次巻線5Aに極性の異なるパルス状溶接電流I1、I2を交互に流すことにより、第1、第2の接合工程毎に溶接用トランス5の磁心の磁束をほぼゼロ、あるいは固定値まで低減させることができるので、偏励磁現象を防止又は緩和するための特別なリセット回路が不要になる。なお、図4において、4Xは半導体スイッチ素子4A〜4Dを前述のように予め決められたシーケンスで動作させるコントローラである。
【0037】
[実施形態2]
実施形態1の抵抗溶接装置に比べて構成が複雑にはなるが、実施形態1に比べて図1に示した第1のクーリング時間Tc1をエネルギー蓄積用コンデンサの充電時間に影響されることなく必要最初限度まで短縮できる抵抗溶接回路の実施形態2について図1及び図5により説明する。図5において、図2で用いた記号と同じ記号は同一の名称の部材を示すものとする。抵抗溶接方法は実施形態1で述べた方法とほぼ同じであるので、詳しくは説明しない。実施形態2では、第1の充電回路2とは別に第2の充電回路10、第2の充電回路10の充電動作によって充電される第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11、第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11の充電電荷を放電する第3のスイッチ回路12を別途備える。第1の充電回路2と第1のエネルギー蓄積用コンデンサ3と第1のスイッチ回路4とからなる第1の給電回路20に対して、付加された第2の充電回路10と第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11と第3のスイッチ回路12とからなる第2の給電回路30は並列配置になっている。
【0038】
次に、実施形態2に係る抵抗溶接装置の動作説明を行う。第1の給電回路20の動作は実施形態1とほぼ同様であるので詳しい説明は省略するが、第1のエネルギー蓄積用コンデンサ3に充電された電荷は第1のスイッチ回路4のオンにより、溶接用トランス5の第1の1次巻線5Aに矢印方向a1に放出される。これによって、図1に示した第1のパルス状溶接電流I1が溶接電極7と第1、第2の被溶接物W1、W2と溶接電極8とを介して流れ、第1の接合工程が行われる。このとき、第2の給電回路30にあっては、クーリング時間Tc1の経過前までに第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11が第2の設定電圧値になるように予め充電しておく。したがって、第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11は、第1のパルス状溶接電流I1の通電後、クーリング時間Tc1の経過前に必ず第2の設定電圧値まで充電されているので、クーリング時間Tc1が必要最小限に短くても、第3のスイッチ回路12のオンにより、クーリング時間Tc1の経過直後に所定のピーク値の第2のパルス状溶接電流I2を第1、第2の被溶接物W1、W2に通電し、第2の接合工程を行うことができる。
【0039】
この際、第3のスイッチ回路12のオンによって、第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11の電荷は溶接用トランス5の第1の1次巻線5Aを矢印a1とは逆の矢印a2方向に放出される。したがって、第1のパルス状溶接電流I1が正極性であるとすると、第2のパルス状溶接電流I2は負極性となるので、前述したように、第1、第2のパルス状溶接電流I1、I2によって溶接用トランス5の磁心が一方向のみに励磁されることがなく、溶接用トランス5が偏励磁されることがない。このため、第1のスイッチ回路4及び第3のスイッチ回路12を図4に示したような極性転換機能を有する回路構成にする必要は無いので、半導体スイッチ素子の個数を少なくでき、また駆動シーケンスも簡便にでき、コストの低減と信頼性の向上を達成できる。
【0040】
そして、第2のパルス状溶接電流I2の通電終了後、第2のクーリング時間Tc2の経過直後に第2のスイッチ回路6がオンし、所定時間、交流溶接電流iを溶接電極7と8との間の第1、第2の被溶接物W1、W2に通電し、第2の接合工程を行う。この抵抗溶接装置によっても、前述の高炭素鋼材からなる第1の被溶接物W1と低炭素鋼又は表面が浸炭処理された高炭素鋼からなる第2の被溶接物W2とを抵抗溶接することができ、実施形態1と同様に満足できる溶接強度を得ることができた。なお、この抵抗溶接装置では、第1のパルス状溶接電流I1を通電するための第1の給電回路20、第2のパルス状溶接電流I2を通電するための第2の給電回路30を別個に設けているので、第1のパルス状溶接電流I1と第2のパルス状溶接電流I2のピーク値及び蓄積エネルーを別々に任意に決めることができ、溶接工程のサイクルタイムを短くできるばかりでなく、より最適な抵抗溶接を行うことができ、より高い溶接強度を得ることができる。
【0041】
なお、実施形態2では、溶接工程のサイクルタイムをより短くするために、第1の充電回路2は第1のスイッチ回路4のオフ直後にオン動作を開始できるように、また、第2の充電回路10は第3のスイッチ回路12のオフ直後にオン動作を開始できるように、シーケンスが組まれていることが望ましい。また、図示しないが、第1の1次巻線5Aと逆極性に巻かれた第3の1次巻線を溶接用トランス5に設け、その第3の1次巻線に第2のエネルギー蓄積用コンデンサ11の蓄積電荷を放出してもよい。また、以上の実施形態1、2ではスイッチ回路4と6、及びスイッチ回路12が半導体スイッチ素子とこれらを駆動するコントローラとからなるものとして説明したが、スイッチ回路4と6、及びスイッチ回路12をそれぞれ半導体スイッチ素子とスナバ回路などから構成し、これら半導体スイッチ素子をシーケンスに従って共通に、つまり総合的に制御する制御回路をスイッチ回路4と6、及びスイッチ回路12とは別に備えても良い。
【0042】
以上述べた実施形態1、2においては、第1の被溶接物W1は、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼材からなり、第2の被溶接物W2は低炭素鋼又は表面が浸炭処理された高炭素鋼からからなるものとして説明したが、第2の被溶接物W2が第1の被溶接物W1と同様な内部まで深く浸炭処理されている高炭素鋼材からなるものであってもよい。この場合には、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物双方が、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなるので、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との間に低炭素鋼からなる金属部材を介在させ、第1、第2の被溶接物間に挟み、加圧力Pをかけた状態で、前記第1、第2、第3の接合工程を順次行うことによって、前述高炭素鋼材からなる第1の被溶接物と第2の被溶接物同士を所期の溶接強度で抵抗溶接することが可能になる。実施形態1、2では電極間の加圧力Pを継続して印加した状態で第1から第3の接合工程を行っているので、被溶接物が熱ひずみによる変形などを抑制することができ、また、塑性流動化した高炭素鋼材と塑性流動化した低炭素鋼とが接合部において互いによりなじむので、溶接強度がより大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る高炭素鋼の抵抗溶接方法を説明するための図である。
【図2】本発明に係る抵抗溶接方法を実現し得る抵抗溶接装置の実施形態1を示す図である。
【図3】本発明に係る高炭素鋼の抵抗溶接方法を実施するための溶接電極と被溶接物との一例を示す図である。
【図4】本発明に係る抵抗溶接装置に用いられるスイッチ回路の具体的な一例を示す図である。
【図5】本発明に係る抵抗溶接方法を実現し得る抵抗溶接装置の実施形態2を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1・・・交流電源
2・・・第1の充電回路
3・・・第1のエネルギー蓄積用コンデンサ
4・・・第1のスイッチ回路
5・・・溶接用トランス
5A、5B・・・溶接用トランス5の第1、第2の1次巻線
5C・・・溶接用トランス5の2次巻線
6・・・第2のスイッチ回路
7、8・・・溶接電極
10・・・第2の充電回路
11・・・第2のエネルギー蓄積用コンデンサ
12・・・第2のスイッチ回路
20・・・第1の給電回路
30・・・第2の給電回路
W1、W2・・・第1、第2の被溶接物
I1・・・第1のパルス状溶接電流
I2・・・第2のパルス状溶接電流
i・・・交流溶接電流
Tc1・・第1のクーリング時間
Tc2・・第2のクーリング時間
P・・・溶接電極間加圧力


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなる第1の被溶接物と、第2の被溶接物との間に加圧力をかけた状態で溶接電流を通電して、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを溶接する高炭素鋼の抵抗溶接方法において、
前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を流す第1の接合工程と、
前記第1のパルス状溶接電流からクーリング時間Tcをおいて単一の第2のパルス状溶接電流I2を流す第2の接合工程と、
前記第2のパルス状溶接電流I2を通電した後に、前記第1のパルス状溶接電流I1の通電時間、及び前記第2のパルス状溶接電流I2の通電時間よりも長い時間、前記第1のパルス状溶接電流I1及び前記第2のパルス状溶接電流I2のピーク値よりも小さなピーク値の交流溶接電流iを通電する第3の接合工程を順次行うことを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2のパルス状溶接電流I2のピーク値は、前記第1のパルス状溶接電流I1のピーク値の80〜130%であることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記第2の被溶接物は、前記第1の被溶接物よりも炭素含有率が低い低炭素鋼又は表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼からなることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、
前記第2の被溶接物は、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼からなり、
前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に、炭素含有率が低い低炭素鋼又は表面が浸炭焼入れ処理された高炭素鋼からなる金属部材を介在させる工程を前記第1の接合工程の前に備えることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接方法。
【請求項5】
交流電源と、エネルギー蓄積用コンデンサと、前記交流電源と前記エネルギー蓄積用コンデンサとの間に接続されて前記交流電源からの電力によって前記エネルギー蓄積用コンデンサを充電する充電回路と、第1の1次巻線と第2の1次巻線及び2次巻線とを有する溶接用トランスと、前記エネルギー蓄積用コンデンサに蓄えられた電荷を前記第1の1次巻線を介して放電するための第1のスイッチ回路と、前記交流電源と前記第2の1次巻線との間に備えられた第2のスイッチ回路とを備えて、前記2次巻線から、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼である第1の被溶接物と、第2の被溶接物との間に溶接電流を流して抵抗溶接を行う高炭素鋼の抵抗溶接装置であって、
前記充電回路の充電動作によって前記エネルギー蓄積用コンデンサが第1の設定電圧値まで充電された後、前記第1のスイッチ回路はオンして前記第1の被溶接物と前記2の被溶接物との間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を通電した後にオフし、
次に、前記充電回路の充電動作によって前記エネルギー蓄積用コンデンサが第2の設定電圧値まで充電された後、前記第1のスイッチ回路は、クーリング時間の経過後に再びオンして前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に単一の第2のパルス状溶接電流I2を通電した後にオフし、
前記第2のスイッチ回路は、前記第1のスイッチ回路の第2回目のオフ後にオンして、前記交流電源からの交流電力を前記溶接用トランスを介して供給し、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に交流溶接電流iを通電することを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1のスイッチ回路は、前記第1のパルス状溶接電流I1と前記第2のパルス状溶接電流I2とが前記溶接用トランスの前記第1の1次巻線を互いに逆方向に流れるように極性変換する構成を有することを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置。
【請求項7】
交流電源と、第1のエネルギー蓄積用コンデンサと、第2のエネルギー蓄積用コンデンサと、前記交流電源と前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサとの間に接続されて前記交流電源からの電力によって前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサを充電する第1の充電回路と、前記交流電源と前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサとの間に接続されて前記交流電源からの電力によって前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサを充電する第2の充電回路と、第1の1次巻線と第2の1次巻線及び2次巻線を有する溶接用トランスと、前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサに蓄えられた電荷を前記第1の1次巻線を介して放電するための第1のスイッチ回路と、前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサに蓄えられた電荷を前記第1の1次巻線又は別の第3の1次巻線を介して放電するための第3のスイッチ回路と、前記交流電源と前記第2の1次巻線との間に備えられた第2のスイッチ回路とを備えて、前記2次巻線から、内部まで浸炭焼入れ処理されている高炭素鋼である第1の被溶接物と、第2の被溶接物との間に溶接電流を流して抵抗溶接を行う高炭素鋼の抵抗溶接装置であって、
前記第1の充電回路の充電動作によって前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサが第1の設定電圧まで充電された後、前記第1のスイッチ回路はオンして前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサの蓄積電荷を放電することにより、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物との間に単一の第1のパルス状溶接電流I1を通電した後にオフし、
前記第2の充電回路の充電動作によって前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサが第2の設定電圧まで充電された後、前記第3のスイッチ回路はクーリング時間の経過後にオンして前記第2のエネルギー蓄積用コンデンサの蓄積電荷を放電することにより、前記第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に単一の第2のパルス状溶接電流I2を通電した後にオフし、
前記第2のスイッチ回路は、前記第3のスイッチ回路のオフ後にオンして、前記交流電源から前記第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に交流溶接電流iを通電することを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1のエネルギー蓄積用コンデンサ及び第2のエネルギー蓄積用コンデンサの蓄積電荷は、前記第1の1次巻線に逆極性で放電、又は逆極性で前記第1の1次巻線と前記第3の1次巻線にそれぞれ放電されることを特徴とする高炭素鋼の抵抗溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−80363(P2008−80363A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262869(P2006−262869)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)