高精度加速度測定装置
【課題】感度方向の加速度を高精度で測定する高精度加速度測定装置を提供する。
【解決手段】感度方向の加速度を測定する加速度センサと、前記感度方向と異なる非感度方向における加速度を減衰するフィルタとを備え、前記フィルタは、前記加速度センサと共に移動可能な錘と、前記錘を前記非感度方向に付勢する第1の弾性体と、前記錘を前記感度方向に付勢する第2の弾性体を備え、前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の共振周波数が測定の周波数域内も入るように前記第2の弾性体のバネ定数を設定した。
【解決手段】感度方向の加速度を測定する加速度センサと、前記感度方向と異なる非感度方向における加速度を減衰するフィルタとを備え、前記フィルタは、前記加速度センサと共に移動可能な錘と、前記錘を前記非感度方向に付勢する第1の弾性体と、前記錘を前記感度方向に付勢する第2の弾性体を備え、前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の共振周波数が測定の周波数域内も入るように前記第2の弾性体のバネ定数を設定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度を測定する高精度加速度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車体と、車体を移動するように回転可能な車輪と、車輪を回転可能に支持する車軸と、車軸を支持する軸箱を含む。軸箱は、車体の加速度を測定する加速度測定装置を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−519901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加速度測定装置が、例えば、感度方向としての左右方向の加速度(左右加速度)を測定する場合、加速度測定装置は非感度方向としての上下方向の加速度(上下加速度)の影響を受けて左右加速度を正確に測定することができない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、感度方向の加速度を高精度で測定する高精度加速度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴は、次の要素を備えた高精度加速度測定装置を提供する。同装置は、感度方向の加速度を測定する加速度センサと、前記感度方向と異なる非感度方向における加速度を減衰するフィルタとを備え、前記フィルタは、前記加速度センサと共に移動可能な錘と、前記錘を前記非感度方向に付勢する第1の弾性体と、前記錘を前記感度方向に付勢する第2の弾性体を備え、前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の共振周波数が測定の周波数域内も入るように前記第2の弾性体のバネ定数を設定したことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る高精度加速度測定装置において、前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の逆フィルタ情報を格納する解析用コンピュータを備えるとよい。
【0008】
本発明に係る高精度加速度測定装置において、前記第1の弾性体の弾性中心は前記非感度方向において前記錘の重心と一致すると好適である。
【0009】
本発明に係る高精度加速度測定装置において、記第1の弾性体はバネ及び樹脂体の一方であると好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1の弾性体及び錘からなるフィルタは非感度方向の加速度を減衰するので、加速度センサは非感度方向の加速度の影響を受けないで感度方向の加速度を正確に測定する。
【0011】
錘及び第2の弾性体は感度方向の高周波域として分類される著大な加速度を小さくするので、高い分解能であるが定格容量の小さい加速度センサの使用を許容する。
【0012】
第1の弾性体の弾性中心と錘の重心とを前記非感度方向で一致させることにより、弾性中心を支点とした第1の弾性体の扇運動的な揺動を抑制するので、前記感度方向の正確な加速度の測定を許容する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
第1の実施形態
図1を参照して、鉄道車両1は、車輪11と、車輪11を回転可能に支持する車軸12と、車軸12の軸受けとしての軸箱13と、軸箱13に配置された軸バネ14と、軸バネ14に支持された台車枠15と、台車枠15の上に配置された空気バネ16と、空気バネ16を介在して台車枠15に支持された車体17とを備える。鉄道車両1は、さらに、軸箱13に取り付けられた加速度測定装置20を備える。
【0015】
図2を参照して、加速度測定装置20は、軸箱13の上に配置された支持部材21と、支持部材21の上に設置された第1の弾性体としての第1のバネ22と、第1のバネ22によって支持された支持体23と、支持体23に移動可能に支持された錘24と、支持体23と錘24との間に配置された第2の弾性体としての第2のバネ25と、錘24の上に配置された加速度センサとしての低加速度センサ26と、錘24の上に配置されたマイクロコンピュータ27と、マイクロコンピュータ27と電気的に接続した無線ボード28を備える。
【0016】
ここで、第1のバネ22は、軸箱13に対して垂直の姿勢で設置され、上下方向に支持体23を付勢する。第1のバネ22は高い左右剛性を有する。第1のバネ22は、バネ−質量系の機械式高加速度除去フィルタ(以下、ローパスフィルタと称する。)を構成する。すなわち、第1のバネ22は、鉄道車両1の振動のうち高周波成分としての高加速度をカットする。なお、第1のバネ22はバネ機能の他にダンピング機能を奏する。
【0017】
支持体23は、第1のバネ22の一端が固定された矩形の基壁23aと、基壁23aの四辺のそれぞれから上方へ延びる側壁23bとを有する。
【0018】
直方体の錘24は、支持体23の基壁23a上に移動可能に配置される。錘24は第1
のバネ22と組み合わされてバネ−質量系の上下振動に対するローパスフィルタを構成する。
【0019】
第2のバネ25は、軸箱13に対して水平の姿勢で、側壁23bと錘24との間に配置され、左右方向に錘24を付勢する。第2のバネ25は、錘24と組み合わされて左右振動に対するローパスフィルタを構成する。第2のバネ25は、錘24と共に著大な左右加速度を小さくする。
【0020】
低加速度センサ26は、鉄道車両1の左右方向を感度方向とし、鉄道車両1の上下方向を非感度方向として設定される。低加速度センサ26は、定格容量は小さいが高分解能であり、例えば、3G以下の測定レンジを有する。
【0021】
加速度測定装置20は、さらに、軸箱13の上に設置された高加速度センサ31と、免振材34を介在して軸箱13に配置されたマイクロコンピュータ32と、マイクロコンピュータ32と電気的に接続した無線ボード33を含む。
【0022】
ここで、高加速度センサ31は、例えば、100G以下の測定レンジを有し、鉄道車両1の振動や衝撃による加速度を検知する。
【0023】
図3を参照して、鉄道車両1は、低加速度センサ26及び高加速度センサ31の測定した加速度を解析するための解析用コンピュータ41を含む。解析用コンピュータ41は、無線ボード28、33を経由してマイクロコンピュータ27、32とデータを送受信する。解析用コンピュータ41は、錘24及び第2のバネ25からなるフィルタ系の逆フィルタ情報を格納する。この逆フィルタは、低加速度センサ26の測定した左右加速度を実際の左右加速度に再現する。
【0024】
次に、加速度測定装置20の使用方法を説明する。
【0025】
測定の前に逆フィルタの情報を決定し、解析用コンピュータ41に格納する。すなわち、例えば、工場において加振台を用いて、錘24と第2のバネ25とからなる系について振動周波数に対する倍率を測定する。この系について図4に示すような振動周波数に対する倍率の履歴情報を解析用コンピュータ41に格納しておく。
【0026】
測定の際には、無線ボート28、32を用いて「測定開始」の指令をマイクロコンピュータ27、32に入力する。マイクロコンピュータ27、32は、低加速度センサ26及び高加速度センサ31の測定を開始させる。
【0027】
鉄道車両1が左右方向に不整がある線路や左右の高さの異なる線路を通過するとき、鉄道車両1に左右加速度が加わる。さらに、鉄道車両1がレールの継目を通過した場合、鉄道車両1に大きな上下加速度を生じさせる。ここで、第1のバネ22及び錘24からなるローパスフィルタは上下加速度を減衰させるので、低加速度センサ26は上下加速度に影響されない。また、錘24及び第2のバネ25は著大な左右加速度を小さくして、低加速度センサ26の定格容量に左右加速度を収める。これにより、低加速度センサ26は、鉄道車両1の左右加速度を高精度で測定する。
【0028】
マイクロコンピュータ27は、無線ボード28を経由して解析用コンピュータ41へ測定した左右加速度のデータを送る。解析用コンピュータ41は、前記逆フィルタを用いて、測定された左右加速度に各周波数における倍率の逆数を乗じて実際の左右加速度を求める。
【0029】
一方、高加速度センサ31の測定した加速度は、マイクロコンピュータ32へ送られる。マイクロコンピュータ32は、無線ボード33を経由して測定加速度を解析用コンピュータ41へ送る。
【0030】
以上の実施形態によれば、第1のバネ22及び錘24からなるローパスフィルタは振動又は衝撃による上下加速度を減衰するので、低加速度センサ26は上下加速度の影響を受けないで鉄道車両1の左右加速度を正確に測定することができる。
【0031】
錘24及び第2のバネ25は左右加速度を小さくするので、小さな定格容量にも係わらず高い分解能を有した低加速度センサ26の使用を許容する。同様に、大量生産の安価なセンサがワイドレンジセンサとして使用され得る。
【0032】
また、錘24及び第1のバネ22の系並びに錘24及び第2のバネ25の系は低加速度センサ26の付属回路(アンプ、電源回路)を振動から保護する。
【0033】
なお、第2のバネ25のバネ定数は、バネ−質量系24、25の共振周波数が測定される周波数域(例えば0〜15Hz)内に入るように設定してもよい。第2のバネ25は測定データのSN比を上げて、共振周波数付近の左右加速度を増幅し、その他の周波数の左
右加速度を減衰するのでSN比の高い測定を許容する。この点について図4を参照して説明する。曲線A1はX(Hz)に共振周波数を有するバネ−質量系の振動周波数に対する倍率の履歴を例示する。曲線A2はY(Hz)に共振周波数を有するバネ−質量系の振動周波数に対する倍率の履歴を例示する。曲線A2のバネ−質量系に測定範囲の左右加速度が入力された場合、必要としない測定範囲外の周波数の加速度が倍率1を越える。つまり、ノイズが増幅される。これに対して、曲線A1のバネ−質量系に測定範囲内の周波数の左右加速度が入力された場合、必要とする加速度が最大Z倍に増幅されて出力される一方、測定範囲外の周波数の左右加速度は減衰される。すなわち、バネ−質量系の共振周波数が測定範囲の周波数域内に収まるように第2のバネ25のバネ定数を設定すると、SN比の高い測定が実行される。
【0034】
<実施例>
次に、本実施形態の加速度測定装置20がシュミレーションされた実施例を説明する。
【0035】
図5(A)に示すグラフは、非感度方向、即ち、上下方向の加速度のデータを示す。図5(B)に示すグラフは、比較例であり、本実施の形態のローパスフィルタを有しない加速度測定装置を用いて測定した左右加速度を示す。図5(C)に示すグラフは、実施例を用いて測定した左右加速度を示す。
【0036】
実施例では、比較例に対して、矢印Qで示すように、小さな高周波のノイズが減少する。また、実施例では、比較例に対して、矢印Rで示すように、非感度方向の高加速度Pの影響によるスパイクが小さくなっている。以上から、実施例では上下加速度の影響を低減して左右加速度が測定される。
【0037】
第2の実施形態
図6を参照して、加速度測定装置20Aは、図2に示す軸箱13に取り付けられた支持部材21Aと、支持部材21Aの底壁21aから延びる側壁21bの上に設置された第1のバネ22と、第1のバネ22によって上下方向に付勢された支持体23Aを含む。支持体23Aは、第1のバネ22が固定された第1の支持体23cと、第1の支持体23cの下面に固定された凹形の第2の支持体23dとを含む。
【0038】
加速度測定装置20Aは、第2の支持体23dの底壁の上に置かれた錘24と、第2の支持体23dの側壁に固定されると共に錘24を左右方向に付勢する第2のバネ25を含む。錘24の重心Gは上下方向において第1のバネ22の弾性中心Cと一致する。弾性中心Cは第1のバネ22の扇運動的な揺動の支点となる。
【0039】
加速度測定装置20Aは、錘24の上に設置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Aの底壁21aの下面に設置された高速度加速度センサ31Aを含む。これらのセンサ26A、31Aは、マイクロコンピュータ及び無線通信装置を有し、解析コンピュータ41とデータを送受信する。
【0040】
次に、加速度測定装置20Aの使用方法を説明する。
【0041】
支持部材21Aに左右加速度及び上下加速度が加わる。第1のバネ22は伸縮して上下加速度を減衰させるので、支持体23A及び錘24は上下方向へ大きく変位しない。これにより、低加速度センサ26Aは非感度方向の上下加速度の影響を受けない。
【0042】
一方、第1のバネ22は左右加速度により弾性中心Cを支点に扇運動的に揺動しようとする。このとき、第1のバネ22の弾性中心Cは上下方向において錘24の重心Gと一致するので、加速度測定装置20Aの慣性モーメントを小さくし、弾性中心Cを支点として
第1のバネ22を扇運動的に揺動しにくくさせる。これにより、低加速度センサ25Aに対する左右加速度の誤差を無くす。
【0043】
第2のバネ25は著大な左右加速度を小さくして錘24に左右加速度を伝達する。これにより、低加速度センサ26Aは左右加速度を高精度で測定する。低加速度センサ26A及び高加速度センサ31Aは、それぞれ、測定した加速度を解析用コンピュータ41へ無線で送信する。
【0044】
第3の実施形態
図7を参照して、加速度測定装置20Bは、図2に示す軸箱13に取り付けられた支持部材21Bと、支持部材21Bの底壁21aの上に設置された第1のバネ22と、支持部材21Bの側壁21bに設置された第2のバネ25と、第2のバネ25の先端に固定されたプレート29を含む。加速度測定装置20Bは、第1のバネ22によって上下方向に付勢された錘24を含む。錘24は、プレート29を介在して、第2のバネ25によって左右方向に付勢される。
【0045】
この加速度測定装置20Bによれば、第1のバネ22は支持部材21Bの上下加速度を減衰し、第2のバネ25は支持部材21Bの著大な左右加速度を小さくして錘24に左右加速度を伝達する。プレート29は錘24と面接触しているので、左右加速度を錘24に確実に伝え、また、接触による摩擦力により、上下加速度を一層減じることができる。これにより、低加速度センサ26Aは左右加速度を高精度で測定する。
【0046】
第4の実施形態
図8を参照して、加速度測定装置20Cは、図2に示す軸箱13に取り付けられた支持部材21Cと、支持部材21Cの底壁21aに支持された錘24と、錘24と支持部材21Cの底壁21aとの間に配置されたバネ22と、錘24と支持部材21Cの側壁21bとの間に配置されたコロ36と、錘24の上に配置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Cの底壁21aに配置された高加速度センサ31Aを含む。この実施形態では、第2のバネ25の代わりにコロ36を用いた点に特徴を有する。このコロ36は第1の実施形態の第2のバネ25の剛性を無限大にしたものとみなされる。
【0047】
この加速度測定装置20Cによれば、錘24は支持部材21Cと共に左右方向に移動する。バネ22は錘24を上方向に付勢して支持部材21Cの上下加速度を減衰する。コロ36は錘24の上下方向の移動をガイドする。これにより、低加速度センサ26Aは上下加速度に影響されること無く、左右加速度を高精度で測定する。
【0048】
また、コロ36を用いるので、第2のバネ25を考慮する必要なく、逆フィルタを簡単にする。
【0049】
なお、コロ36の代わりにスライドレールを用いてもよい。
【0050】
<実施例>
図9、図10を参照して、本実施形態の加速度測定装置20Cによる測定結果を説明する。
【0051】
図9は上下方向の加速度の測定結果をパワースペクトル密度として整理した図である。縦軸はパワースペクトル密度((m/s2)2/Hz)を示し、横軸は振動の周波数(Hz)を示す。ラインB1は低加速度センサ26Aの測定結果を示す。ラインB2は比較としての支持部材21Cにおける測定結果を示す。
【0052】
10Hz付近から500Hzの振動において、低加速度センサ26Aのパワースペクトル密度は、支持部材21Cのパワースペクトル密度に対して減少した。一方、500Hzから1000Hzの振動において、低加速度センサ26Aのパワースペクトル密度は、支持部材21Cのパワースペクトル密度に対して増加した。この理由は、バネ、錘、コロ等の部品間の遊びがメイカニカルノイズを発生させたためであると推測される。
【0053】
図10は、上下方向の加速度の測定結果を時刻歴波形として整理した図である。同図(A)は、支持部材21Cの上下方向の加速度を示す。同図(B)は低加速度センサ26Aによって測定された上下方向の加速度を示す。縦軸は上下方向の加速度(m/s2)を示し、横軸は時間(sec)を示す。
【0054】
低加速度センサ26Aの上下方向の加速度は、時間経過において支持部材21Cの上下方向の加速度に対して一定の程度で減少した。
【0055】
以上より、バネ22からなるフィルタ、すなわち免振装置は支持部材21Cの上下方向加速度を小さくして低加速度センサ26Aへ伝達することが確認された。よって、低加速度センサ26Aは左右方向の加速度を高精度に測定する。
【0056】
第5の実施形態
図11を参照して、加速度測定装置20Dは加速度測定装置20Cを変形したものである。加速度測定装置20Dは、支持部材21Dと、支持部材21Dの底壁21aに支持されると共に上下方向に直列に配置された錘24A、24Bと、錘24Aと支持部材21Dの底壁21aとの間に配置されたバネ22Aと、錘24Aと錘24Bとの間に配置されたバネ22Bと、錘24A、24Bと支持部材21Dの側壁21bとの間に配置されたコロ36と、錘24Bの上に配置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Dの底壁21aに配置された高加速度センサ31Aを含む。
【0057】
この加速度測定装置20Dによれば、複数段の錘24A、24Bは上下加速度を一層低減し、高精度の左右加速度の測定を許容する。特に、バネ22A、22Bの剛性や錘24A、24Bの質量を調整することにより、バネ22A、22Bの負担過重を変えると、それぞれのバネ22A、22Bの免振する周波数域を変え、広い周波数領域で大きな免振を許容する。
【0058】
第6の実施形態
図12を参照して、本実施形態の加速度測定装置20Eを説明する。加速度測定装置20Eは、加速度測定装置20Dを変形したものである。加速度測定装置20Eは、支持部材21Dと、支持部材21Dの底壁21aに支持されると共に上下方向に直列に配置された錘24A、24Bと、錘24Aと支持部材21Dの底壁21aとの間に配置されたバネ22と、錘24Aと錘24Bとの間に配置された第1の弾性体としての樹脂体37と、錘24A、24Bと支持部材21Dの側壁21bとの間に配置されたスライドテーブル38と、錘24Bの上に配置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Dの底壁21aに配置された高加速度センサ31Aを含む。
【0059】
ここで、樹脂体37は、主としてダンピング機能を有すると共にバネ機能を有する。
【0060】
スライドテーブル38は、側壁21bに固定されたレール38aと、レール38aに移動可能に係合したテーブル38bを有する。テーブル38bは、それぞれ、錘24A、24Bと固定されている。
【0061】
この加速度測定装置20Eによれば、樹脂体37はダンピング機能を有し、効果的にメ
カニカルノイズを減じるので、低周波に加えて高周波の上下加速度を吸収し、高精度の左右加速度の測定を達成する。
【0062】
<実施例>
図13、14を参照して、加速度測定装置20Eの測定結果を説明する。
【0063】
図13は、上下方向の加速度の測定結果をパワースペクトル密度として整理した図である。縦軸はパワースペクトル密度((m/s2)2/Hz)を示し、横軸は振動の周波数(Hz)を示す。ラインC1は低加速度センサ26Aの測定結果を示す。ラインC2は比較としての支持部材21Dの測定結果を示す。
【0064】
10Hz付近から500Hz及び500Hzから1000Hzの振動において、低加速度センサ26Aのパワースペクトル密度は、支持部材21Dのパワースペクトル密度に対して、減少した。また、加速度測定装置20Eは、図9に示す結果と比較して、10Hz付近から500Hzに加えて500Hzから1000Hzの振動においてもパワースペクトル密度を大きく減少させた。以上の結果は、樹脂体37のダンピング効果に寄与するものと推測される。
【0065】
図14は、上下方向の加速度の測定結果を時刻歴波形として整理した図である。同図(A)は、支持部材21Dの上下方向の加速度を示す。同図(B)は低加速度センサ26Aによって測定された上下方向の加速度を示す。縦軸は上下方向の加速度(m/s2)を示し、横軸は時間(sec)を示す。低加速度センサ26Aの上下方向の加速度は、時間経過において支持部材21Dの上下方向の著大な加速度に対して大きく減少した。また、図10に示す結果と比較して、加速度測定装置20Eの上下方向の加速度は加速度測定装置20Cの上下方向の加速度より大きく減少した。
【0066】
以上より、バネ22及び樹脂体37からなるフィルタ、すなわち免振装置は、支持部材21Dの上下方向の著大な加速度を小さくして低加速度センサ26Aに伝達することが確認された。よって、低加速度センサ26Aは左右方向の加速度を高精度に測定する。
【0067】
第7の実施形態
図15を参照して本実施形態の加速度測定装置20Fを説明する。加速度測定装置20Fは、図8に示す加速度測定装置20Cと同様の構成である。本実施形態では低加速度センサ26Aは上下方向を感度方向として設定される。
【0068】
この実施形態によれば、バネ22は著大な上下加速度を小さくするので、加速度測定装置20Fは小さな定格容量の加速度センサ26Aで上下加速度を高精度に測定する。すなわち、線形性、再現性、ヒステリシスは低加速度センサ26Aの定格容量の数%と定義されるので、定格容量が小さい程測定誤差も小さくなる。また、バネ22の逆フィルタを用いると、実際の上下方向の振動を再現することができる。
【0069】
なお、本実施の形態は本発明の趣旨の範囲において修正、変更可能である。本実施の形態では、左右方向を感度方向とし、上下方向を非感度方向としたが、例えば、左右方向を非感度方向とし、上下方向を感度方向としてもよい。また、3次元加速度計を用いる場合、左右方向、上下方向及び前後方向のうち二方向を感度方向とし、残りの一方向を非感度方向としてもよい。
【0070】
また、加速度測定装置の測定対象は鉄道車両に限られず、自動車、飛行機、船舶、地震計、工作機械の振動計測、建物内の発電機、スポーツ工学などの各種分野に応用される。
【0071】
また、バネ要素(例えば、バネ)とダンピング要素(例えば、樹脂体)とは並列に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係わる加速度測定装置を適用した鉄道車両の概略図である。
【図2】図1に示す加速度測定装置の拡大概略図である。
【図3】加速度測定装置の測定システムを示すブロック図である。
【図4】バネ−質量系の振動周波数に対する倍率を示すグラフである。
【図5】鉄道車両の加速度を測定した結果を示すグラフであり、(A)は非感度方向の加速度を示し、(B)はローパスフィルタなしの加速度測定装置で感度方向の加速度を測定した比較例を示し、(C)は実施形態の加速度測定装置で感度方向の加速度を測定した実施例を示す。
【図6】第2の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図7】第3の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図8】第4の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図9】図8に示す加速度測定装置に関する上下方向の加速度のパワースペクトル密度を示すグラフである。
【図10】(A)は支持部材の上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフであり、(B)は図8に示す低加速度センサによって測定された上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフである。
【図11】第5の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図12】第6の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図13】図12に示す加速度測定装置に関する上下方向の加速度のパワースペクトル密度を示すグラフである。
【図14】(A)は支持部材の上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフであり、(B)は図12に示す低加速度センサによって測定された上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフである。
【図15】第7の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0073】
1 鉄道車両
11 車輪
12 車軸
13 軸箱
14 軸ばね
15 台車枠
16 空気ばね
17 車体
20 加速度測定装置
21 支持部材
22 第1のバネ
24 錘
25 第2のバネ
26 低加速度センサ
27 マイクロコンピュータ
28 無線ボード
31 高加速度センサ
32 マイクロコンピュータ
33 無線ボード
41 解析用コンピュータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度を測定する高精度加速度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車体と、車体を移動するように回転可能な車輪と、車輪を回転可能に支持する車軸と、車軸を支持する軸箱を含む。軸箱は、車体の加速度を測定する加速度測定装置を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−519901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加速度測定装置が、例えば、感度方向としての左右方向の加速度(左右加速度)を測定する場合、加速度測定装置は非感度方向としての上下方向の加速度(上下加速度)の影響を受けて左右加速度を正確に測定することができない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、感度方向の加速度を高精度で測定する高精度加速度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴は、次の要素を備えた高精度加速度測定装置を提供する。同装置は、感度方向の加速度を測定する加速度センサと、前記感度方向と異なる非感度方向における加速度を減衰するフィルタとを備え、前記フィルタは、前記加速度センサと共に移動可能な錘と、前記錘を前記非感度方向に付勢する第1の弾性体と、前記錘を前記感度方向に付勢する第2の弾性体を備え、前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の共振周波数が測定の周波数域内も入るように前記第2の弾性体のバネ定数を設定したことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る高精度加速度測定装置において、前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の逆フィルタ情報を格納する解析用コンピュータを備えるとよい。
【0008】
本発明に係る高精度加速度測定装置において、前記第1の弾性体の弾性中心は前記非感度方向において前記錘の重心と一致すると好適である。
【0009】
本発明に係る高精度加速度測定装置において、記第1の弾性体はバネ及び樹脂体の一方であると好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1の弾性体及び錘からなるフィルタは非感度方向の加速度を減衰するので、加速度センサは非感度方向の加速度の影響を受けないで感度方向の加速度を正確に測定する。
【0011】
錘及び第2の弾性体は感度方向の高周波域として分類される著大な加速度を小さくするので、高い分解能であるが定格容量の小さい加速度センサの使用を許容する。
【0012】
第1の弾性体の弾性中心と錘の重心とを前記非感度方向で一致させることにより、弾性中心を支点とした第1の弾性体の扇運動的な揺動を抑制するので、前記感度方向の正確な加速度の測定を許容する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
第1の実施形態
図1を参照して、鉄道車両1は、車輪11と、車輪11を回転可能に支持する車軸12と、車軸12の軸受けとしての軸箱13と、軸箱13に配置された軸バネ14と、軸バネ14に支持された台車枠15と、台車枠15の上に配置された空気バネ16と、空気バネ16を介在して台車枠15に支持された車体17とを備える。鉄道車両1は、さらに、軸箱13に取り付けられた加速度測定装置20を備える。
【0015】
図2を参照して、加速度測定装置20は、軸箱13の上に配置された支持部材21と、支持部材21の上に設置された第1の弾性体としての第1のバネ22と、第1のバネ22によって支持された支持体23と、支持体23に移動可能に支持された錘24と、支持体23と錘24との間に配置された第2の弾性体としての第2のバネ25と、錘24の上に配置された加速度センサとしての低加速度センサ26と、錘24の上に配置されたマイクロコンピュータ27と、マイクロコンピュータ27と電気的に接続した無線ボード28を備える。
【0016】
ここで、第1のバネ22は、軸箱13に対して垂直の姿勢で設置され、上下方向に支持体23を付勢する。第1のバネ22は高い左右剛性を有する。第1のバネ22は、バネ−質量系の機械式高加速度除去フィルタ(以下、ローパスフィルタと称する。)を構成する。すなわち、第1のバネ22は、鉄道車両1の振動のうち高周波成分としての高加速度をカットする。なお、第1のバネ22はバネ機能の他にダンピング機能を奏する。
【0017】
支持体23は、第1のバネ22の一端が固定された矩形の基壁23aと、基壁23aの四辺のそれぞれから上方へ延びる側壁23bとを有する。
【0018】
直方体の錘24は、支持体23の基壁23a上に移動可能に配置される。錘24は第1
のバネ22と組み合わされてバネ−質量系の上下振動に対するローパスフィルタを構成する。
【0019】
第2のバネ25は、軸箱13に対して水平の姿勢で、側壁23bと錘24との間に配置され、左右方向に錘24を付勢する。第2のバネ25は、錘24と組み合わされて左右振動に対するローパスフィルタを構成する。第2のバネ25は、錘24と共に著大な左右加速度を小さくする。
【0020】
低加速度センサ26は、鉄道車両1の左右方向を感度方向とし、鉄道車両1の上下方向を非感度方向として設定される。低加速度センサ26は、定格容量は小さいが高分解能であり、例えば、3G以下の測定レンジを有する。
【0021】
加速度測定装置20は、さらに、軸箱13の上に設置された高加速度センサ31と、免振材34を介在して軸箱13に配置されたマイクロコンピュータ32と、マイクロコンピュータ32と電気的に接続した無線ボード33を含む。
【0022】
ここで、高加速度センサ31は、例えば、100G以下の測定レンジを有し、鉄道車両1の振動や衝撃による加速度を検知する。
【0023】
図3を参照して、鉄道車両1は、低加速度センサ26及び高加速度センサ31の測定した加速度を解析するための解析用コンピュータ41を含む。解析用コンピュータ41は、無線ボード28、33を経由してマイクロコンピュータ27、32とデータを送受信する。解析用コンピュータ41は、錘24及び第2のバネ25からなるフィルタ系の逆フィルタ情報を格納する。この逆フィルタは、低加速度センサ26の測定した左右加速度を実際の左右加速度に再現する。
【0024】
次に、加速度測定装置20の使用方法を説明する。
【0025】
測定の前に逆フィルタの情報を決定し、解析用コンピュータ41に格納する。すなわち、例えば、工場において加振台を用いて、錘24と第2のバネ25とからなる系について振動周波数に対する倍率を測定する。この系について図4に示すような振動周波数に対する倍率の履歴情報を解析用コンピュータ41に格納しておく。
【0026】
測定の際には、無線ボート28、32を用いて「測定開始」の指令をマイクロコンピュータ27、32に入力する。マイクロコンピュータ27、32は、低加速度センサ26及び高加速度センサ31の測定を開始させる。
【0027】
鉄道車両1が左右方向に不整がある線路や左右の高さの異なる線路を通過するとき、鉄道車両1に左右加速度が加わる。さらに、鉄道車両1がレールの継目を通過した場合、鉄道車両1に大きな上下加速度を生じさせる。ここで、第1のバネ22及び錘24からなるローパスフィルタは上下加速度を減衰させるので、低加速度センサ26は上下加速度に影響されない。また、錘24及び第2のバネ25は著大な左右加速度を小さくして、低加速度センサ26の定格容量に左右加速度を収める。これにより、低加速度センサ26は、鉄道車両1の左右加速度を高精度で測定する。
【0028】
マイクロコンピュータ27は、無線ボード28を経由して解析用コンピュータ41へ測定した左右加速度のデータを送る。解析用コンピュータ41は、前記逆フィルタを用いて、測定された左右加速度に各周波数における倍率の逆数を乗じて実際の左右加速度を求める。
【0029】
一方、高加速度センサ31の測定した加速度は、マイクロコンピュータ32へ送られる。マイクロコンピュータ32は、無線ボード33を経由して測定加速度を解析用コンピュータ41へ送る。
【0030】
以上の実施形態によれば、第1のバネ22及び錘24からなるローパスフィルタは振動又は衝撃による上下加速度を減衰するので、低加速度センサ26は上下加速度の影響を受けないで鉄道車両1の左右加速度を正確に測定することができる。
【0031】
錘24及び第2のバネ25は左右加速度を小さくするので、小さな定格容量にも係わらず高い分解能を有した低加速度センサ26の使用を許容する。同様に、大量生産の安価なセンサがワイドレンジセンサとして使用され得る。
【0032】
また、錘24及び第1のバネ22の系並びに錘24及び第2のバネ25の系は低加速度センサ26の付属回路(アンプ、電源回路)を振動から保護する。
【0033】
なお、第2のバネ25のバネ定数は、バネ−質量系24、25の共振周波数が測定される周波数域(例えば0〜15Hz)内に入るように設定してもよい。第2のバネ25は測定データのSN比を上げて、共振周波数付近の左右加速度を増幅し、その他の周波数の左
右加速度を減衰するのでSN比の高い測定を許容する。この点について図4を参照して説明する。曲線A1はX(Hz)に共振周波数を有するバネ−質量系の振動周波数に対する倍率の履歴を例示する。曲線A2はY(Hz)に共振周波数を有するバネ−質量系の振動周波数に対する倍率の履歴を例示する。曲線A2のバネ−質量系に測定範囲の左右加速度が入力された場合、必要としない測定範囲外の周波数の加速度が倍率1を越える。つまり、ノイズが増幅される。これに対して、曲線A1のバネ−質量系に測定範囲内の周波数の左右加速度が入力された場合、必要とする加速度が最大Z倍に増幅されて出力される一方、測定範囲外の周波数の左右加速度は減衰される。すなわち、バネ−質量系の共振周波数が測定範囲の周波数域内に収まるように第2のバネ25のバネ定数を設定すると、SN比の高い測定が実行される。
【0034】
<実施例>
次に、本実施形態の加速度測定装置20がシュミレーションされた実施例を説明する。
【0035】
図5(A)に示すグラフは、非感度方向、即ち、上下方向の加速度のデータを示す。図5(B)に示すグラフは、比較例であり、本実施の形態のローパスフィルタを有しない加速度測定装置を用いて測定した左右加速度を示す。図5(C)に示すグラフは、実施例を用いて測定した左右加速度を示す。
【0036】
実施例では、比較例に対して、矢印Qで示すように、小さな高周波のノイズが減少する。また、実施例では、比較例に対して、矢印Rで示すように、非感度方向の高加速度Pの影響によるスパイクが小さくなっている。以上から、実施例では上下加速度の影響を低減して左右加速度が測定される。
【0037】
第2の実施形態
図6を参照して、加速度測定装置20Aは、図2に示す軸箱13に取り付けられた支持部材21Aと、支持部材21Aの底壁21aから延びる側壁21bの上に設置された第1のバネ22と、第1のバネ22によって上下方向に付勢された支持体23Aを含む。支持体23Aは、第1のバネ22が固定された第1の支持体23cと、第1の支持体23cの下面に固定された凹形の第2の支持体23dとを含む。
【0038】
加速度測定装置20Aは、第2の支持体23dの底壁の上に置かれた錘24と、第2の支持体23dの側壁に固定されると共に錘24を左右方向に付勢する第2のバネ25を含む。錘24の重心Gは上下方向において第1のバネ22の弾性中心Cと一致する。弾性中心Cは第1のバネ22の扇運動的な揺動の支点となる。
【0039】
加速度測定装置20Aは、錘24の上に設置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Aの底壁21aの下面に設置された高速度加速度センサ31Aを含む。これらのセンサ26A、31Aは、マイクロコンピュータ及び無線通信装置を有し、解析コンピュータ41とデータを送受信する。
【0040】
次に、加速度測定装置20Aの使用方法を説明する。
【0041】
支持部材21Aに左右加速度及び上下加速度が加わる。第1のバネ22は伸縮して上下加速度を減衰させるので、支持体23A及び錘24は上下方向へ大きく変位しない。これにより、低加速度センサ26Aは非感度方向の上下加速度の影響を受けない。
【0042】
一方、第1のバネ22は左右加速度により弾性中心Cを支点に扇運動的に揺動しようとする。このとき、第1のバネ22の弾性中心Cは上下方向において錘24の重心Gと一致するので、加速度測定装置20Aの慣性モーメントを小さくし、弾性中心Cを支点として
第1のバネ22を扇運動的に揺動しにくくさせる。これにより、低加速度センサ25Aに対する左右加速度の誤差を無くす。
【0043】
第2のバネ25は著大な左右加速度を小さくして錘24に左右加速度を伝達する。これにより、低加速度センサ26Aは左右加速度を高精度で測定する。低加速度センサ26A及び高加速度センサ31Aは、それぞれ、測定した加速度を解析用コンピュータ41へ無線で送信する。
【0044】
第3の実施形態
図7を参照して、加速度測定装置20Bは、図2に示す軸箱13に取り付けられた支持部材21Bと、支持部材21Bの底壁21aの上に設置された第1のバネ22と、支持部材21Bの側壁21bに設置された第2のバネ25と、第2のバネ25の先端に固定されたプレート29を含む。加速度測定装置20Bは、第1のバネ22によって上下方向に付勢された錘24を含む。錘24は、プレート29を介在して、第2のバネ25によって左右方向に付勢される。
【0045】
この加速度測定装置20Bによれば、第1のバネ22は支持部材21Bの上下加速度を減衰し、第2のバネ25は支持部材21Bの著大な左右加速度を小さくして錘24に左右加速度を伝達する。プレート29は錘24と面接触しているので、左右加速度を錘24に確実に伝え、また、接触による摩擦力により、上下加速度を一層減じることができる。これにより、低加速度センサ26Aは左右加速度を高精度で測定する。
【0046】
第4の実施形態
図8を参照して、加速度測定装置20Cは、図2に示す軸箱13に取り付けられた支持部材21Cと、支持部材21Cの底壁21aに支持された錘24と、錘24と支持部材21Cの底壁21aとの間に配置されたバネ22と、錘24と支持部材21Cの側壁21bとの間に配置されたコロ36と、錘24の上に配置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Cの底壁21aに配置された高加速度センサ31Aを含む。この実施形態では、第2のバネ25の代わりにコロ36を用いた点に特徴を有する。このコロ36は第1の実施形態の第2のバネ25の剛性を無限大にしたものとみなされる。
【0047】
この加速度測定装置20Cによれば、錘24は支持部材21Cと共に左右方向に移動する。バネ22は錘24を上方向に付勢して支持部材21Cの上下加速度を減衰する。コロ36は錘24の上下方向の移動をガイドする。これにより、低加速度センサ26Aは上下加速度に影響されること無く、左右加速度を高精度で測定する。
【0048】
また、コロ36を用いるので、第2のバネ25を考慮する必要なく、逆フィルタを簡単にする。
【0049】
なお、コロ36の代わりにスライドレールを用いてもよい。
【0050】
<実施例>
図9、図10を参照して、本実施形態の加速度測定装置20Cによる測定結果を説明する。
【0051】
図9は上下方向の加速度の測定結果をパワースペクトル密度として整理した図である。縦軸はパワースペクトル密度((m/s2)2/Hz)を示し、横軸は振動の周波数(Hz)を示す。ラインB1は低加速度センサ26Aの測定結果を示す。ラインB2は比較としての支持部材21Cにおける測定結果を示す。
【0052】
10Hz付近から500Hzの振動において、低加速度センサ26Aのパワースペクトル密度は、支持部材21Cのパワースペクトル密度に対して減少した。一方、500Hzから1000Hzの振動において、低加速度センサ26Aのパワースペクトル密度は、支持部材21Cのパワースペクトル密度に対して増加した。この理由は、バネ、錘、コロ等の部品間の遊びがメイカニカルノイズを発生させたためであると推測される。
【0053】
図10は、上下方向の加速度の測定結果を時刻歴波形として整理した図である。同図(A)は、支持部材21Cの上下方向の加速度を示す。同図(B)は低加速度センサ26Aによって測定された上下方向の加速度を示す。縦軸は上下方向の加速度(m/s2)を示し、横軸は時間(sec)を示す。
【0054】
低加速度センサ26Aの上下方向の加速度は、時間経過において支持部材21Cの上下方向の加速度に対して一定の程度で減少した。
【0055】
以上より、バネ22からなるフィルタ、すなわち免振装置は支持部材21Cの上下方向加速度を小さくして低加速度センサ26Aへ伝達することが確認された。よって、低加速度センサ26Aは左右方向の加速度を高精度に測定する。
【0056】
第5の実施形態
図11を参照して、加速度測定装置20Dは加速度測定装置20Cを変形したものである。加速度測定装置20Dは、支持部材21Dと、支持部材21Dの底壁21aに支持されると共に上下方向に直列に配置された錘24A、24Bと、錘24Aと支持部材21Dの底壁21aとの間に配置されたバネ22Aと、錘24Aと錘24Bとの間に配置されたバネ22Bと、錘24A、24Bと支持部材21Dの側壁21bとの間に配置されたコロ36と、錘24Bの上に配置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Dの底壁21aに配置された高加速度センサ31Aを含む。
【0057】
この加速度測定装置20Dによれば、複数段の錘24A、24Bは上下加速度を一層低減し、高精度の左右加速度の測定を許容する。特に、バネ22A、22Bの剛性や錘24A、24Bの質量を調整することにより、バネ22A、22Bの負担過重を変えると、それぞれのバネ22A、22Bの免振する周波数域を変え、広い周波数領域で大きな免振を許容する。
【0058】
第6の実施形態
図12を参照して、本実施形態の加速度測定装置20Eを説明する。加速度測定装置20Eは、加速度測定装置20Dを変形したものである。加速度測定装置20Eは、支持部材21Dと、支持部材21Dの底壁21aに支持されると共に上下方向に直列に配置された錘24A、24Bと、錘24Aと支持部材21Dの底壁21aとの間に配置されたバネ22と、錘24Aと錘24Bとの間に配置された第1の弾性体としての樹脂体37と、錘24A、24Bと支持部材21Dの側壁21bとの間に配置されたスライドテーブル38と、錘24Bの上に配置された低加速度センサ26Aと、支持部材21Dの底壁21aに配置された高加速度センサ31Aを含む。
【0059】
ここで、樹脂体37は、主としてダンピング機能を有すると共にバネ機能を有する。
【0060】
スライドテーブル38は、側壁21bに固定されたレール38aと、レール38aに移動可能に係合したテーブル38bを有する。テーブル38bは、それぞれ、錘24A、24Bと固定されている。
【0061】
この加速度測定装置20Eによれば、樹脂体37はダンピング機能を有し、効果的にメ
カニカルノイズを減じるので、低周波に加えて高周波の上下加速度を吸収し、高精度の左右加速度の測定を達成する。
【0062】
<実施例>
図13、14を参照して、加速度測定装置20Eの測定結果を説明する。
【0063】
図13は、上下方向の加速度の測定結果をパワースペクトル密度として整理した図である。縦軸はパワースペクトル密度((m/s2)2/Hz)を示し、横軸は振動の周波数(Hz)を示す。ラインC1は低加速度センサ26Aの測定結果を示す。ラインC2は比較としての支持部材21Dの測定結果を示す。
【0064】
10Hz付近から500Hz及び500Hzから1000Hzの振動において、低加速度センサ26Aのパワースペクトル密度は、支持部材21Dのパワースペクトル密度に対して、減少した。また、加速度測定装置20Eは、図9に示す結果と比較して、10Hz付近から500Hzに加えて500Hzから1000Hzの振動においてもパワースペクトル密度を大きく減少させた。以上の結果は、樹脂体37のダンピング効果に寄与するものと推測される。
【0065】
図14は、上下方向の加速度の測定結果を時刻歴波形として整理した図である。同図(A)は、支持部材21Dの上下方向の加速度を示す。同図(B)は低加速度センサ26Aによって測定された上下方向の加速度を示す。縦軸は上下方向の加速度(m/s2)を示し、横軸は時間(sec)を示す。低加速度センサ26Aの上下方向の加速度は、時間経過において支持部材21Dの上下方向の著大な加速度に対して大きく減少した。また、図10に示す結果と比較して、加速度測定装置20Eの上下方向の加速度は加速度測定装置20Cの上下方向の加速度より大きく減少した。
【0066】
以上より、バネ22及び樹脂体37からなるフィルタ、すなわち免振装置は、支持部材21Dの上下方向の著大な加速度を小さくして低加速度センサ26Aに伝達することが確認された。よって、低加速度センサ26Aは左右方向の加速度を高精度に測定する。
【0067】
第7の実施形態
図15を参照して本実施形態の加速度測定装置20Fを説明する。加速度測定装置20Fは、図8に示す加速度測定装置20Cと同様の構成である。本実施形態では低加速度センサ26Aは上下方向を感度方向として設定される。
【0068】
この実施形態によれば、バネ22は著大な上下加速度を小さくするので、加速度測定装置20Fは小さな定格容量の加速度センサ26Aで上下加速度を高精度に測定する。すなわち、線形性、再現性、ヒステリシスは低加速度センサ26Aの定格容量の数%と定義されるので、定格容量が小さい程測定誤差も小さくなる。また、バネ22の逆フィルタを用いると、実際の上下方向の振動を再現することができる。
【0069】
なお、本実施の形態は本発明の趣旨の範囲において修正、変更可能である。本実施の形態では、左右方向を感度方向とし、上下方向を非感度方向としたが、例えば、左右方向を非感度方向とし、上下方向を感度方向としてもよい。また、3次元加速度計を用いる場合、左右方向、上下方向及び前後方向のうち二方向を感度方向とし、残りの一方向を非感度方向としてもよい。
【0070】
また、加速度測定装置の測定対象は鉄道車両に限られず、自動車、飛行機、船舶、地震計、工作機械の振動計測、建物内の発電機、スポーツ工学などの各種分野に応用される。
【0071】
また、バネ要素(例えば、バネ)とダンピング要素(例えば、樹脂体)とは並列に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係わる加速度測定装置を適用した鉄道車両の概略図である。
【図2】図1に示す加速度測定装置の拡大概略図である。
【図3】加速度測定装置の測定システムを示すブロック図である。
【図4】バネ−質量系の振動周波数に対する倍率を示すグラフである。
【図5】鉄道車両の加速度を測定した結果を示すグラフであり、(A)は非感度方向の加速度を示し、(B)はローパスフィルタなしの加速度測定装置で感度方向の加速度を測定した比較例を示し、(C)は実施形態の加速度測定装置で感度方向の加速度を測定した実施例を示す。
【図6】第2の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図7】第3の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図8】第4の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図9】図8に示す加速度測定装置に関する上下方向の加速度のパワースペクトル密度を示すグラフである。
【図10】(A)は支持部材の上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフであり、(B)は図8に示す低加速度センサによって測定された上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフである。
【図11】第5の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図12】第6の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【図13】図12に示す加速度測定装置に関する上下方向の加速度のパワースペクトル密度を示すグラフである。
【図14】(A)は支持部材の上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフであり、(B)は図12に示す低加速度センサによって測定された上下方向の加速度の時刻歴波形を示すグラフである。
【図15】第7の実施形態に係わる加速度測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0073】
1 鉄道車両
11 車輪
12 車軸
13 軸箱
14 軸ばね
15 台車枠
16 空気ばね
17 車体
20 加速度測定装置
21 支持部材
22 第1のバネ
24 錘
25 第2のバネ
26 低加速度センサ
27 マイクロコンピュータ
28 無線ボード
31 高加速度センサ
32 マイクロコンピュータ
33 無線ボード
41 解析用コンピュータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感度方向の加速度を測定する加速度センサと、
前記感度方向と異なる非感度方向における加速度を減衰するフィルタとを備え、
前記フィルタは、
前記加速度センサと共に移動可能な錘と、
前記錘を前記非感度方向に付勢する第1の弾性体と、前記錘を前記感度方向に付勢する第2の弾性体を備え、
前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の共振周波数が測定の周波数域内も入るように前記第2の弾性体のバネ定数を設定したことを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高精度加速度測定装置において、
前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の逆フィルタ情報を格納する解析用コンピュータを備えることを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高精度加速度測定装置において、
前記第1の弾性体の弾性中心は前記非感度方向において前記錘の重心と一致することを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の高精度加速度測定装置において、
前記第1の弾性体はバネ及び樹脂体の一方であることを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項1】
感度方向の加速度を測定する加速度センサと、
前記感度方向と異なる非感度方向における加速度を減衰するフィルタとを備え、
前記フィルタは、
前記加速度センサと共に移動可能な錘と、
前記錘を前記非感度方向に付勢する第1の弾性体と、前記錘を前記感度方向に付勢する第2の弾性体を備え、
前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の共振周波数が測定の周波数域内も入るように前記第2の弾性体のバネ定数を設定したことを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高精度加速度測定装置において、
前記錘及び前記第2の弾性体からなる系の逆フィルタ情報を格納する解析用コンピュータを備えることを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高精度加速度測定装置において、
前記第1の弾性体の弾性中心は前記非感度方向において前記錘の重心と一致することを特徴とする高精度加速度測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の高精度加速度測定装置において、
前記第1の弾性体はバネ及び樹脂体の一方であることを特徴とする高精度加速度測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−40963(P2013−40963A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257691(P2012−257691)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2008−261400(P2008−261400)の分割
【原出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第216回 鉄道総研月例発表会 主催者名:財団法人鉄道総合技術研究所 開催日:平成20年9月17日
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2008−261400(P2008−261400)の分割
【原出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第216回 鉄道総研月例発表会 主催者名:財団法人鉄道総合技術研究所 開催日:平成20年9月17日
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
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