高純度ペンタマイシン
純度95%を超えるペンタマイシン、ペンタマイシンの特定の多形および溶媒和物、それらの精製法、ならびにペンタマイシンの分解の速度を減少させる方法を記載している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高純度ペンタマイシン、ペンタマイシンの特定の多形および溶媒和物、それらの精製法、ならびに純度95%を超えるペンタマイシンの分解の速度を減少させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ペンタマイシンは、アンホテリシンBおよびニスタチンA1と同様に、抗真菌活性を有するポリエンマクロライド抗生物質のクラスに属する。ペンタマイシンは天然源から入手でき、例えばS.ウメザワ(S. Umezawa)およびY.タナカ(Y. Tanaka)が「J. Antibiotics, Ser. A, vol. XI, no. 1, pages 26 to 29 (1958)」に記載したアクチノマイセス属のストレプトマイセス・ペンチクス(penticus)の菌糸体、またはグラクソ(Glaxo)に与えられた英国特許第884711号に記載されているストレプトマイセス・ロゼオルテウス(roseoluteus)(NRRL2776、NCIB8984)などの特定のストレプトマイセス菌株から単離されうる。該特許は抗生物質ラゴシンの製造に向けられているが、これは下記のパンデイ(Pandey)らの論文「J. Antibiotics vol. XXXV no. 8, pages 988-996 (1982)」にてフンギクロミンおよびコゴマイシンと同一であると示されている。ラゴシンは、該英国特許の2ページ、右欄、48〜49行に、固体および溶液の両方で光に感受性があると述べられている。
【0003】
ペンタマイシン(=フンギクロミン)の絶対配置は、分解産物と部分合成のスペクトル比較によって決定された(T. Oishi, Pure & Appl. Chem., vol. 61, no. 3, pp. 427-430 (1989)」)。Y.イガラシ(Y. Igarashi)らが「J. Antibiot. vol. 58, no. 8, pp. 523-525 (2005)」に発表したX線分析によると、ペンタマイシンは下記の式を有する。
【化1】
【0004】
例えば、デイビッド・R.ウォーゼン(David R. Worthen)らの論文「Drug Development and Industrial Pharmacy、vol. 27(4), 277-286 (2001)」の478ページの左欄に述べられているように、「ポリエン抗真菌の製造および精製は、それらの特有の化学的不安定性によって困難なものとなっている。ポリエンは典型的には、加水分解性エステル、アセタール、およびヘミアセタール、ならびに酸化されやすい共役ポリエン系を含む、1個または数個の潜在的に不安定な構造的官能性を有する(19)。それゆえ、全てのポリエン抗真菌は、ある程度は、大量培養におけるそれらの製造および回収の間に通常直面する条件によって不活性化または明白な分解にさらされる。これらの潜在的に分解性の条件の中で最も注目すべきものは、湿度、温度上昇、空気中の酸素、多価金属、および光照射を含む(19、20)」。該論文で述べられている参考文献19および20は、(19)「I. M. Teresin, Polyene Antibiotics-Present and Future; University of Tokyo Press: Tokyo, 1976; 122-123」、および(20)「K.Thoma and N. Kubler, Photostability of antifungal agents. 2. Photostability of polyene antibiotics. Pharmazie vol. 52, 294-302 (1997)」である。
【0005】
上記のウォーゼン(Worthen)の論文は、478ページの左欄で、「ポリエン精製をさらに複雑にしているのは、ストレプトマイセスからの実質的に全ての粗ポリエン単離物は、数種類の異なった物理化学的に類似しているアイソフォームを含み、その中の1つだけが臨床用途に望ましいであろうという事実である」と続けている。
【0006】
上記を考慮すると、最初は異なる物質であると考えられていたため、ペンタマイシンは3つの他の名称、すなわちラゴシン、フンギクロミン、およびコゴマイシンをも与えられていたことは驚くべきことではない。R.C.パンデイ(R. C. Pandey)らが、「J. Antibiotics vol. XXXV no. 8, pages 988-996 (1982)」のアブストラクトで述べているように、「1つ以上の中心でいくつかの立体化学的相違を有すると以前は記載されていた3つのポリエンマクロライド抗生物質、フンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンは、立体化学的側面を含む全ての点で同一であると示されている。それらの性質で以前に観察された相違は、現在は高速液体クロマトグラフィーによって分離可能な不純物の量の相違によるものであるとされている。3つの抗生物質は全て、1つの主成分と数種の微量成分を含む」(強調は筆者による)。パンデイ(Pandey)の該論文の988ページの表Iに、フンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの融点が文献値として190〜240℃の範囲であると示されている。
【0007】
メルクインデックス(12版)の727ページの登録番号4312は、フンギクロミンの融点が157〜162℃(分解)であると記載している。
【0008】
パンデイ(Pandey)の論文の主題は、該3つのマクロライド抗生物質の物理化学的および生物学的比較であり、純度95%を超えるペンタマイシンの提供ではない。その995ページの「ディスカッション」の初めに述べられているように、CCD(向流分配)精製を繰り返した後でさえ、全ての微量成分を除去することは可能ではなかった。そのように精製されたフンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの融点は、990ページの表2に、157〜165℃の範囲であると示されている。該「ディスカッション」の第二段落に、HPLCについて、不純物からのフンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの最適な分離は、メタノール−水(60:40)を移動相として用いることによって達成されたと記載されている。水に対するメタノールの比率を下げると、ピークは非常に広くなり、保持時間が増加した;該比率の増加は保持時間を減少させ、分離を困難にした。パンデイ(Pandey)の論文の表2の右欄から明らかなように、フンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの保持時間は下記と同一の条件下のHPLCで6.00分である:992ページ、第3および4行、990ページ、表2の脚注4、ならびに989ページの終わりから3段落目、すなわち、C18μBondapak逆相カラム(3.9mm ID×30cm)、UV(357nm)検出器、メタノール−水(60:40)溶媒系、および流速1.5ml/分を用いる。
【0009】
本発明の出願人は、第三者が行う試験を注文し、粗ペンタマイシン、すなわち純度約92%のペンタマイシンをパンデイ(Pandey)の論文に記載されている条件下で精製することを行わせた。ペンタマイシン含有溶出液画分を蒸発させ、以前に用いたのと同一のHPLC条件下で再検査した後、純度約90%のペンタマイシンのみが単離された。単離したペンタマイシンのHPLCクロマトグラムにより、粗ペンタマイシンには存在していなかった新たな不純物が9.5%存在することが明らかになった。この知見は、パンデイ(Pandey)の論文には、ペンタマイシンがHPLC分離後に単離され、または結晶化されたとはどこにも述べられていないという事実を示している。パンデイ(Pandey)の論文に示されている唯一の融点(157〜240℃の範囲!)は、表1の文献に由来する融点および表2の向流分配に由来する融点である。結論として、パンデイ(Pandey)の論文に開示されているHPLC条件は、単離後に純度95%を超えるペンタマイシンを得るために用いることはできない。
【0010】
注目すべきは、ペンタマイシンは12個の不斉中心を含む比較的大きく、かつ、構造的に複雑な分子であり、212(=4096)個の立体異性体があることである。さらに、ペンタマイシンは、シス−トランス−異性化を受けうる5個の二重結合を含む。ペンタマイシンの安定性が非常に繊細であることに留意すると、可能な4096個の立体異性体の正しいものを全て化学合成するには年月がかかるであろうし、それ自体で発明であろうし、かつ、経済的展望からは、上記のストレプトマイセス菌株による生合成と比較して非常に費用がかかるであろう。
【0011】
ペンタマイシンの繊細な安定性は、例えばR.W.リッカーズ(R. W. Rickards)らの「J. Antibiotics vol. XXIII, no. 12, pages 603-611」から明らかであり、そこでは抗酸化剤によって阻害されうるラジカル付加工程によるメタノール溶液中のラゴシンの空気中の自動酸化を記載している。リッカーズ(Rickards)らによると、ラゴシンの主要な最初の自動酸化産物は特定のエポキシドであり、一方で、長期の自動酸化は高酸化産物をもたらし、最終的にポリマー性物質をもたらす。上記のウォーゼン(Worthen)の論文の記載に完全に従って、リッカーズ(Rickards)らは603ページで、マクロライド抗生物質のポリエンサブグループのメンバーは「総じて不安定であり、酸、アルカリ、熱、空気または光にさらすと分解および生物学的活性の喪失を伴う。特に、主にポリエン発色団と関連する空気および光に対するこの感受性は、臨床用途の前の保存において問題となる」と記載している。
【0012】
上記の英国特許第884711号は、8ページ、41行の実施例1で、「純粋なラゴシン」が得られたと述べている。該実施例1は、ブタノールで発酵ブロスカッティングを抽出すること、抽出液を濃縮すること、水を加えること、ジエチルエーテルで洗浄すること、濾過すること、ソックスレーを用いてメタノールで抽出すること、および濾過することのステップからなる発酵ブロスからのラゴシンの回収を記載し、該英国特許の8ページ、33および35行によると、純度「およそ75%」のラゴシンが得られると記載している。不純物を除去するとされる作業をするために、純度75%のラゴシンは、8ページの34〜42行に記載しているように、ソックスレーを用いてクロロホルムで抽出し、空気乾燥し、エチルエーテルで抽出し、空気乾燥し、メタノールで再抽出する。メタノールを一晩冷却すると、「純粋なラゴシン」とされるものが得られるが、融点は提供されていない。
【0013】
該英国特許の上記文章を読んだ当業者にとって、上記の手順によって純度75%のラゴシンが実際にさらに精製されうることは非常に疑わしいものであろう。これは、ジエチルエーテルおよびメタノールでの処理が以前に既になされたが、ラゴシンの純度が75%以上に増加しなかったからである。それゆえ、該処理の反復によって実質的に純度が増加するのであろうか?さらに、リッカーズ(Rickards)らが記載したように、空気中でラゴシンを乾燥するステップは、酸化をもたらすと予想される(上記を参照のこと)。最後に、本出願の実施例8からも明らかなように、メタノールからの粗ペンタマイシンの結晶化では、(結晶化を3回繰り返した場合でさえ)純度95%を超えるペンタマイシンを得ることはできない。本発明者が発見したように、これは、特定の不純物がペンタマイシンと共に結晶化し、それゆえ、結晶化によっては除去することができず、本発明に記載したような他の手段によってのみ除去することができるからである。ペンタマイシンは比較的大きな分子であるため、ほんの小さな相違、例えば5つの二重結合のうち1つのエポキシ化だけで不純物はペンタマイシンと区別しうることを留意すべきである。確かに、構造的に互いに非常に近い化合物の分離は非常に多くの問題をもたらす。英国特許第884,711号の実施例1の手順では「純粋な」ラゴシンを得ることができないことは上記より既に予想できることであるが、本発明の出願人は外部の研究所に、該実施例に記載された精製法をできる限り正確に再現するように依頼した。結果は本出願の実施例10に記載している。予想されたように、中間体物質について「およそ75%」の純度がおよそ確認することができた(実測値:67.3%)一方、さらなる精製ステップでは「純粋な」ペンタマイシンを得られず、純度70.1%のペンタマイシンのみが得られた。
【0014】
ペンタマイシンは1980年代にスイスで商標名ペンタシン(Pentacin(登録商標))にて登録された薬物の活性成分であったが、純度および安定性について、登録された製品仕様に適合することが困難であったため(販売された製剤が抗酸化剤を含んでいたにもかかわらず)、市場から撤退した。スイスの登録証の製品仕様によると、ペンタマイシンの純度は95%であった。しかしながら、今日利用できる現代の分析手段を用いると、過去に登録されたペンタマイシンに存在した多数の不純物は検出されず、それゆえ、過去の実際のペンタマイシンの純度は95%よりもかなり低かったことが今では分かっている。
【0015】
ペンタマイシン自体は親油性部分と非常に親水性の部分を有しており、それゆえ、界面活性剤と似たような振る舞いをする。さらに、それは水に比較的不溶性であり、ゲルを形成する傾向にあり、ほとんどろ過することができない。
【0016】
集中的な取り組みにもかかわらず、本発明者は、長い間、ペンタマイシンの純度を93%以上に増加させることができなかった。実際、本発明があるまでは、93%の純度閾値は乗り越えられないように思えた。
【0017】
本発明者が解決すべき課題は、ペンタマイシンの純度を93%以上、特に95%以上に増加させ、ペンタマイシンをスイスの医薬品市場に再導入し得、かつ他の国で薬物として登録することができるのに十分安定な形態にすることであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の記載
長く、最初は実りのなかった試みの末、今では驚くべきことに、本特許出願の発明者は、どのようにペンタマイシンが93%を超える、特に95%を超える純度にて製造され得、かつ、分解に対してうまく安定化されうるのかを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、特定の不純物が同一の結晶格子にてペンタマイシンと共に結晶化するらしく、それゆえ結晶化によるさらなる精製が不可能であることを発見した。実施例8に示すように、粗ペンタマイシンのメタノールからの3回連続した結晶化の後でさえ、得られた生成物は、なおも約10%の不純物を含む。該不純物は、ペンタマイシンと構造的に非常に似た化合物、例えばペンタマイシンの様々なエポキシド、ヒドロキシ基がオキソ基に交換され、もしくはメトキシ基にメチル化されているペンタマイシン誘導体、二重結合が単結合に還元されているペンタマイシン誘導体、テトラヒドロピラノン環を含むペンタマイシン誘導体、および/または、潜在的に、ペンタマイシンの立体異性体を含み、それゆえ、単純な従来の手段によってそれら全てを除去することはできない。
【0020】
現在では、ペンタマイシンは、好ましくはメタノールまたはエタノールなどのアルコール性溶媒中で、モルホリン(1:1のモル比)、N−メチルピロリドン(NMP;1:1のモル比)、N−エチルピロリドン(NEP)、またはテトラヒドロフラン(THF)などの小さな極性のヘテロ環と特定の溶媒和物を形成し、それら溶媒和物の一部、例えばNMPおよび特にモルホリンとの溶媒和物は有用な性質を有し、すなわち、それらは驚くべきことに、現在の経験に従うと、メチル第3級ブチルエーテル(MTBE)またはトルエンなどの非極性の溶媒中ではなくメタノールまたはエタノール中で製造すると、閾値93%以上にペンタマイシンを精製することに用いることができることが分かってきた。溶媒和物と共結晶の間の相違は、単に上記の小さな極性のヘテロ環が室温で液体であるか固体であるかに帰するだけであるため、本文章の文脈において、用語「溶媒和物」は、共結晶も含むと理解されるべきである。
【0021】
それゆえ、本発明は、化学純度93%を超える、好ましくは95%を超える、より好ましくは96%を超える、および最も好ましくは97重量%を超えるペンタマイシンの精製法、ならびにペンタマイシンの特定の溶媒和物および多形、ならびにペンタマイシンを精製および/または安定化するためのそれらの使用に関する。
【0022】
本発明者は、ペンタマイシンを、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびN−メチルピロリドン(NMP)に溶解した多数の結晶化実験を実施した。そのようにして得られた溶液に、結晶化が起こるまで抗溶媒を加えたが、ここで抗溶媒はペンタマイシンの溶解度が非常に低い溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、またはアセトニトリルなどの溶媒を意味する。高容量の抗溶媒、例えばメタノールに溶解したペンタマイシンの結晶化も検査した。
【0023】
該結晶化実験の過程の中で、ペンタマイシンがモルホリンおよびN−メチルピロリドンと溶媒和物を形成するが、DMSOとは溶媒和物を形成せず、かつ、該溶媒和物は驚くべきことに、該溶媒和物の再結晶化の反復によって、ペンタマイシンと共結晶化する不純物を減少させるために用いられうることを発見した。
【0024】
ペンタマイシンと共結晶化する不純物を除去する1つの方法は、ペンタマイシンとモルホリンの溶媒和物を連続的に製造および結晶化することであり、最初に針状の形態(図1参照)に結晶化し、次いで針状の多形性モルホリン溶媒和物をフレーク状の形態(図2参照)に結晶化するモルホリン溶媒和物に変換し、次いでモルホリンを除去することである。フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物と比較すると、針状の溶媒和物はあまり精製に適切ではない。これまでに得られた(限定的ではあるが)実験的経験によると、それは再結晶化によって十分に閾値93%を上回るように精製することはできない。それゆえ、針状の溶媒和物はできる限り早く、例えばフレーク状の溶媒和物の種結晶を加えることによってフレーク状の溶媒和物に変換される。針状およびフレーク状のモルホリン溶媒和物の連続的な製造は、1つのポット内にて行われうる。モルホリン溶媒和物の製造は、好ましくは窒素などの保護ガス下で、光から保護し、かつ、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、または好ましくはブチルヒドロキシトルエン(BHT)、すなわち2,6−ジ第3級ブチル−4−メチルフェノールなどの抗酸化剤の存在下で行われる。結晶化は好ましくは、適切な極性溶媒、例えば適切なアルコール、例えば適切なアルカノール、例えばエタノール、または最も好ましくはメタノール中で行われる。より長鎖のアルコールおよび非極性の溶媒、例えばトルエン、MTBEなどでは、ほとんど精製効果が達成されなかった。モルホリン中ではペンタマイシンの溶解度が高過ぎるため、モルホリンも単一の溶媒としては有効ではない。フレーク状のモルホリン溶媒和物の形成による精製は、所望の純度が得られるまで必要に応じて何度でも繰り返される。
【0025】
溶媒系の中でペンタマイシンに対するモルホリンの量を増加させると、針状多形のフレーク状多形への変換を促進する。上記のように、該変換はフレーク状多形の種結晶を加えることによっても促進することができる。
【0026】
本発明は、粗ペンタマイシン、適切なアルコール、特に低級アルカノール、例えばエタノールまたは好ましくはメタノール、モルホリン、およびBHTなどの適切な抗酸化剤の混合物を、好ましくは温度約5〜50℃で、好ましくは室温で、有利には窒素などの保護ガス下、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物が結晶化するまで攪拌し、例えば濾過によってそれを単離し、メタノールなどの低級アルカノールで洗浄し、必要であれば、得られたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物を粗ペンタマイシンの代わりに用いて上記手順を1回以上繰り返すことによって、得られたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物をさらに精製することによって、フレーク状のモルホリン溶媒和物(ペンタマイシンとモルホリンの1:1のモル比)を形成することによる、粗ペンタマイシンを精製する方法に関する。
【0027】
本発明は、粗ペンタマイシン、適切なアルコール、特に低級アルカノール、例えばエタノールまたは好ましくはメタノール、N−メチルピロリドン(NMP)、およびBHTなどの適切な抗酸化剤の混合物を、好ましくは温度約5〜50℃で、好ましくは室温で、有利には窒素などの保護ガス下、NMP溶媒和物が結晶化するまで攪拌し、例えば濾過によってそれを単離し、メタノールなどの低級アルカノールで洗浄し、必要であれば、上記手順を繰り返すことによって得られたNMP溶媒和物をさらに精製することによって、NMP溶媒和物を形成することによる、粗ペンタマイシンを精製する方法にも関する。
【0028】
NMP溶媒和物を用いる上記方法によって、ペンタマイシンと共結晶化する2つの不純物のうち1つ、すなわち相対保持時間(rrt)1.54(本明細書で記載するHPLC系にて)の不純物(imp)が除去されうる一方で、rrt0.83の別の不純物は3.3%のレベルしか減少させることができない。
【0029】
モルホリンおよびNMPは、溶媒和物を数時間、メタノールまたは好ましくはエタノール中、例えば温度0℃〜+50℃で、好ましくは室温で攪拌し、得られた結晶を濾過し、それらをメタノールまたは好ましくはエタノールで洗浄し、必要であれば、得られた生成物に含まれるモルホリンまたはNMPが0.1%未満になるまで該精製法を繰り返すことによって、それぞれのペンタマイシン溶媒和物から除去される。
【0030】
残存するモルホリンまたはNMPは、DMSO/エタノールまたはDMSO/メタノールからの結晶化によって除去することができ、それによってペンタマイシンの多形Aが得られる。
【0031】
ペンタマイシンは、非晶質形態(図8および図9参照)ならびに多形A以外の他のいくつかの多形体(以下多形B〜Eと称する)にて存在することが分かった。他の多形と比較すると、多形Aは粉末回折X線にて下記の2θ角(±約0.2°):2.28、7.38および20.16の線によって区別され、多形Bは9.54、21.28および22.32に線を生じ、多形Cは7.04に特性線を有し、多形Dは2.58に特性線を有し、多形Eは3.32にあまり強くない特性線を有し、粗ペンタマイシン(図11および図12参照)は8.84および13.14に特性線を示す。多形Aについての上記の2θ角(±約0.2°):2.28、7.38および20.16を実施例7の対応する値、すなわち2.22、7.29および20.17と比較すると、小さな相違が認められる。これは、それぞれの数値が異なる測定に由来するという事実によるものである。しかしながら、該相違は、±0.2°の2θ角について十分に国際的に許容される実験誤差の範囲内である。
【0032】
多形Aは、例えば酢酸エチルを加えた後にペンタマイシンのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液から結晶化する。
【0033】
非晶質ペンタマイシンは、例えばアセトニトリルを加えた後にペンタマイシンのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液から得られる。
【0034】
多形Bは、メタノール/クロロホルムから結晶化する。
【0035】
多形C(図10参照)は、ペンタマイシンのジメチルホルムアミド溶液に60℃でメタノールを加え、メタノールを加え、0℃まで冷却することによって得られる。
【0036】
多形Eは、ジメチルスルホキシド/アセトニトリルから結晶化する。
【0037】
多形Aは、熱力学的に最も安定な多形であるようである。その示差走査熱量測定(DSC)図(図7に示している)は、1つの単一シグナルを示す。それとは対照的に、他の結晶性多形のDSC図は、2つ以上のシグナルを示し(例えば図10の多形CのDSC参照)、それゆえ、徐々に温度を増加させると他の多形体に転移することを示している。純粋な多形Aの最も驚くべきかつ全く予測できない性質は、空気にさらしたときのその安定性であり(実施例9参照)、これはこれまでに知られている純粋なペンタマイシンの全ての形態と全く対照的である。
【0038】
本発明のペンタマイシンの高純度形態、特に化学純度95%を超えるペンタマイシンの多形Aは、例えば、カンジダ、特にカンジダ・アルビカンス、および膣トリコモナスに起因する膣および粘膜感染を治療するための膣坐剤などの局所使用のための医薬製剤の形態にて、好ましくは哺乳類を含む温血動物、特にヒトを治療する方法に用いることができる。
【0039】
局所使用のための該医薬製剤、例えば膣坐剤は、例えば適切な医薬賦形剤と共に濃度0.1〜5重量%のペンタマイシンを含み、投与単位、すなわち坐剤あたり3mg〜150mgのペンタマイシンを含む。膣坐剤は、例えば体重約60kgのヒト女性に、1日1〜2回提供される。
【0040】
要約すると、本発明は、化学純度95%を超える、好ましくは化学純度97%を超えるペンタマイシン、特に多形Aの形態にある、とりわけ化学純度95%を超える、好ましくは97%を超える多形Aの形態にあるペンタマイシンであって、相対強度が単なる目安として提供されるX線粉末回折スペクトルにおいて、下記の最も強い線の2θ値±約0.2°によって特徴付けられるペンタマイシンに関する:
【表1】
。
【0041】
本発明はさらに、溶媒和物の形態にあるペンタマイシン、特にペンタマイシンの精製に適切な溶媒和物の形態にあるペンタマイシン、例えばヘテロ環化合物、好ましくは、例えばN−メチル−ピロリドンまたは好ましくはモルホリンなどの低分子量ヘテロ環化合物との溶媒和物の形態にあるペンタマイシンであり、針状のモルホリン溶媒和物、または好ましくはフレーク状のモルホリン溶媒和物などの形態にあるペンタマイシンであって、特に化学純度95%を超える、96%を超える、または好ましくは97%を超える溶媒和物、特に相対強度が単なる目安として提供される粉末X線回折スペクトルにおいて、下記の最も強い線の2θ値±約0.2°を有するフレーク状のモルホリン溶媒和物に関する:
【表2】
。
【0042】
本発明はさらに、ペンタマイシンの化学的精製のための上記のペンタマイシン溶媒和物の使用に関する。
【0043】
本発明はさらに、化学純度93%以下のペンタマイシンを適切な溶媒和物、特に上記の溶媒和物の1つに変換し、該溶媒和物を結晶化によって精製し、例えばC1−5−アルカノール中の長時間の攪拌によってペンタマイシンを溶媒和物から遊離させることによるペンタマイシンの精製法であって、該精製法が、必要であれば、好ましくは2,6−ジ第3級ブチル−4−メチルフェノールなどの適切な抗酸化剤の存在下で行われる、ペンタマイシンの精製法に関する。
【0044】
本発明はさらに、ペンタマイシンをその多形Aの形態に変換することによって、化学純度95%を超えるペンタマイシンの分解の速度を有意に減少させる方法に関し、特に多形Aへの変換が、酢酸エチルを加えた後、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から結晶化することによって達成される方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、針状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の写真を示す。
【図2】図2は、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の写真を示す。
【図3】図3は、針状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の粉末回折図を示す。
【図4】図4は、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図5】図5は、ペンタマイシンの多形Aの粉末X線回折図を示す。
【図6】図6は、ペンタマイシンの多形Aの写真を示す。
【図7】図7は、ペンタマイシンの多形Aの示差走査熱量測定(DSC)図を示す。
【図8】図8は、非晶質ペンタマイシンのDSCを示す。
【図9】図9は、非晶質ペンタマイシンの粉末X線回折図を示す。
【図10】図10は、ペンタマイシンの多形CのDSC(上)およびX線(下)を示す。
【図11】図11は、粗ペンタマイシンの粉末X線回折図(上)およびDSCを示す。
【図12】図12は、粗ペンタマイシンの高圧液体クロマトグラム(HPLC)を示す。
【図13】図13は、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に記載されているメタノールからの3回の結晶化後に記録されたペンタマイシンのDSC(上)および粉末X線回折図(下)を示す。
【図14】図14は、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に記載されているメタノールからの3回の結晶化後に記録されたペンタマイシンのHPLCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
実験の詳細な記載
粉末X線スペクトルは、Rigaku Miniflex回折計に記録する(CuKα照射、記録範囲2〜40°[2θ]、ステップ幅0.02°[2θ]、記録間隔0.0083°[2θ]、プローブ容器:シリコン)。記録した2θ角の実験誤差は約±0.2°である。相対強度の実験誤差は大きい。それゆえ、相対強度は単なる目安であると理解されるべきである。
【0047】
下記の実施例は本発明を説明する。略語「rrt」は「相対保持時間」、すなわちHPLC(高速液体クロマトグラフィー)内の不純物の正味の保持時間と、ペンタマイシンの正味の保持時間の間の比を意味する。実施例にて用いられている用語「imp rrt」は、ペンタマイシンに対する不純物の保持時間を意味し、すなわちペンタマイシンのrrtは1.00である。1.00以下の相対保持時間は不純物がペンタマイシンよりも早く溶出されることを意味し、1.00より大きい相対保持時間は不純物がペンタマイシンよりも後に溶出されることを意味する。例えば、「imp rrt=0.83:8.0%」は、相対保持時間0.83で8%量の不純物があることを意味する。HPLCの慣例により、検出された化合物のパーセンテージはそれぞれのシグナルの面積を反映する面積パーセントとして表され、すなわち上記の例では、8.0%は面積パーセントである。
【0048】
本明細書で記載しているHPLCクロマトグラフィーは、Agilent(登録商標)1100システムまたはこれに相当するものを用いて行っている。移動相は溶液AおよびBを含み、溶液Aは水−アセトニトリル−トリフルオロ酢酸の650:350:0.01(v:v:v)比の溶液であり、溶液Bはアセトニトリル−2−プロパノール−トリフルオロ酢酸の750:250:0.01(v:v:v)比の溶液である。
【0049】
分析するサンプルはアセトニトリル−水−テトラヒドロフランの1:1:2(v:v:v)比の溶液に溶解し、そこへアセトニトリル−水−テトラヒドロフランの1:1:2(v:v:v)比の溶液に溶解した0.1%(w:v)のBHTを加え、終濃度0.6mg/mlで検査する。
【0050】
HPLCは、Waters Atlantis(登録商標)dC18RP250x4.6mm、5μmカラムで行う。Atlantis dC18カラムは、シリカベースのラインの二機能的に結合した逆相C18カラムである。下記のパラメーターを用いている:
グラジエント:
【表3】
流速:1.0ml/分
温度:40℃
検出:320nm
注入量:5μl。
【実施例】
【0051】
実施例1:針状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物
メタノール(1.75g)およびモルホリン(0.75g)の混合物に、ブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジ第3級ブチル−4−メチルフェノール)(4mg)および粗ペンタマイシン(500mg;化学純度:80.6%);ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。粗ペンタマイシンのHPLCクロマトグラムは、不純物に起因する2つの主要なピークを示す。第1のピークは相対保持時間(rrt)0.83を有する。このピークは、同一の保持時間を有する(少なくとも)2つの異なる不純物からなる。これら2つの不純物の全量は、合わせて8%である。第2の主要な不純物はrrt1.54を有し、出発物質中のこの不純物の量は7%である。
【0052】
該混合物を室温で3日間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(1mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、針状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(362mg;化学純度:86.2%;ペンタマイシン含有量:75%;モルホリン含有量:10%;imp rrt=0.83:5.3%;imp rrt=1.54:6.5%)を得る。
【0053】
上記から明らかなように、針状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物中では、rrt0.83およびrrt1.54での両不純物の量は、出発物質として用いた粗ペンタマイシンと比較して減少している。
【0054】
実施例2:フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1:1のモル比)
メタノール(1.5g)およびモルホリン(1g)の混合物に、BHT(4mg)および粗ペンタマイシン(500mg;化学純度:80.6%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。該混合物を室温で3日間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(1mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシンとモルホリンを1:1のモル比にて含むフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(327mg;化学純度:90.9%;ペンタマイシン含有量:82%;imp rrt=0.83:4.3%;imp rrt=1.54:3.0%)を得る。
【0055】
注意:攪拌30分後は、主として針状多形が顕微鏡下で観察される。3日間攪拌後、結晶形は「フレーク」状に変化する。
【0056】
上記から明らかなように、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物中のrrt0.83およびrrt1.54での両不純物の量は、出発物質として用いた粗ペンタマイシンおよび実施例1に記載した針状多形の両方と比較してさらに減少している。
【0057】
ペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1:1のモル比)の針状多形の粉末X線回折スペクトルは、図3に示している。
【0058】
実施例3:種結晶を用いたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の製造
メタノール(11.52g)およびモルホリン(7.68g)の混合物に、BHT(10mg)および粗ペンタマイシン(4.0g;化学純度:80.6%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。該混合物にフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の種結晶(12mg;フレーク状多形)を播種し、室温で10時間攪拌する。次いで、さらなる分量の粗ペンタマイシン(2.4g)を加え、該混合物を一晩攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(3mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン(5.46g;化学純度:89,2%;ペンタマイシン含有量:82%;imp rrt=0.83:4.9%;imp rrt=1.54:4.0%;含有量補正収率:78%;理論収率:87%)を得る。
【0059】
実施例4:フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の精製
メタノール(20.6g)およびモルホリン(13.7g)の混合物に、BHT(4mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(4.75g;化学純度:89.2%;ペンタマイシン含有量:81%;imp rrt=0.83:4.9%;imp rrt=1.54:4.0%)を加える。該混合物を室温で16時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(2mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、精製されたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(3.45g)を得る。この物質の一部(3.39g)を、メタノール(10.8g)、モルホリン(7.2g)およびBHT(4mg)の混合物に加える。該混合物を室温で16時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(1mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、さらに精製されたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(2.27g;化学純度:93.7%;ペンタマイシン含有量:83%;imp rrt=0.83:3.2%;imp rrt=1.54:2.0%)を得る。
【0060】
実施例5:フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の連続的な再結晶化
メタノール(1.5g)およびモルホリン(1.0g)の混合物に、BHT(5mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(385mg;化学純度:87.7%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:5.4%;imp rrt=1.54:4.7%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(230mg;化学純度:94.5%;imp rrt=0.83:3.0%;imp rrt=1.54:1.5%)を得る。
【0061】
メタノール(0.84g)およびモルホリン(0.56g)の混合物に、BHT(3mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(220mg;化学純度:94.5%;imp rrt=0.83:3.0%;imp rrt=1.54:1.5%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(144mg;化学純度:96.2%;imp rrt=0.83:2.3%;imp rrt=1.54:0.82%)を得る。
【0062】
メタノール(0.6g)およびモルホリン(0.4g)の混合物に、BHT(2mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(244mg;化学純度:96%;imp rrt=0.83:2.3%;imp rrt=1.54:1.0%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物ペンタマイシン(162mg;化学純度:96.6%;imp rrt=0.83:1.9%;imp rrt=1.54:0.7%)を得る。
【0063】
メタノール(0.42g)およびモルホリン(0.28g)の混合物に、BHT(2mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(140mg;化学純度:96.6%;imp rrt=0.83:1.9%;imp rrt=1.54:0.7%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(89mg;化学純度:97.3%;imp rrt=0.83:1.6%;imp rrt=1.54:0.5%)を得る。
【0064】
得られたペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1:1のモル比)のフレーク状多形の粉末X線回折スペクトルは、図4に示している。最も強い線の2θ角[度]±約0.1°、および相対強度[%]は下記の通りである:
【表4】
。
【0065】
上記から明らかなように、rrt0.83およびrrt1.54での両不純物の量は、出発物質として用いた粗ペンタマイシン、実施例1に記載した針状多形、および実施例2に記載したフレーク状の粗ペンタマイシン−モルホリン溶媒和物と比較して、精製されたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物中においてさらに減少している。
【0066】
実施例6:ペンタマイシン−N−メチルピロリドン溶媒和物(1:1のモル比)
ステップ6.1〜6.8は、上記の溶媒和物の製造および反復結晶化によるその精製を示す。そこから明らかなように、imp rrt=1.54は効率的に除去されるが、もう一方の主要なimp rrt=0.83は3.3%のレベルしか減少しない。
【0067】
ステップ6.1:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の製造
メタノール(65g)およびN−メチルピロリドン(NMP;65g)の混合物に、BHT(100mg)および粗ペンタマイシン(20g;化学純度:80.6%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。該混合物を室温で5時間攪拌した。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(17.3g;化学純度:86.9%;ペンタマイシン含有量:71%;imp rrt=0.83:5.8%;imp rrt=1.54:5.0%)を得る。
【0068】
ステップ6.2:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第1回目の再結晶化
メタノール(50g)およびNMP(50g)の混合物に、BHT(100mg)およびステップ6.1から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(17.3g;化学純度:86.9%;ペンタマイシン含有量:71%;imp rrt=0.83:5.8%;imp rrt=1.54:5.0%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(9.7g;化学純度:91.5%;ペンタマイシン含有量:81%;imp rrt=0.83:4.3%;imp rrt=1.54:2.9%)を得る。
【0069】
ステップ6.3:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第2回目の再結晶化
メタノール(30g)およびNMP(30g)の混合物に、BHT(100mg)およびステップ6.2から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(9.65g)を加える。該混合物を室温で5時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(7.5g;化学純度:93.5%;ペンタマイシン含有量:83%;imp rrt=0.83:3.8%;imp rrt=1.54:1.9%)を得る。
【0070】
ステップ6.4:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第3回目の再結晶化
メタノール(22g)およびNMP(22g)の混合物に、BHT(100mg)およびステップ6.3から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(7.45g)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(4.0g;化学純度:94.9%;ペンタマイシン含有量:87%;imp rrt=0.83:3.5%;imp rrt=1.54:1.2%)を得る。
【0071】
ステップ6.5:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第4回目の再結晶化
メタノール(12g)およびNMP(12g)の混合物に、BHT(50mg)およびステップ6.4から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(3.6g)を加える。該混合物を室温で3日間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(5mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(2.78g;化学純度:95.8%;ペンタマイシン含有量:86%;imp rrt=0.83:3.3%;imp rrt=1.54:0.5%)を得る。
【0072】
ステップ6.6:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第5回目の再結晶化
メタノール(8g)およびNMP(8g)の混合物に、BHT(50mg)およびステップ6.5から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(2.5g)を加える。該混合物を室温で4時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(4mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(3.1g;化学純度:95.8%;ペンタマイシン含有量:71%(残留溶媒のため);imp rrt=0.83:3.3%;imp rrt=1.54:0.4%)を得る。
【0073】
ステップ6.7:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第6回目の再結晶化
メタノール(6g)およびNMP(6g)の混合物に、BHT(50mg)およびステップ6.6から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(2.3g)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(3mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(1.6g;化学純度:96.0%;ペンタマイシン含有量:88%;imp rrt=0.83:3.3%;imp rrt=1.54:0.3%)を得る。
【0074】
ステップ6.5〜6.7から明らかなように、相対保持時間0.83で存在する不純物の量は3.3%のままであり、さらに減少させることはできなかった。
【0075】
実施例7:ペンタマイシン−モルホリン溶媒和物からのペンタマイシンの多形Aの製造
フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1.5g;モルホリンの含有量:8%;化学純度:97.2%)に、エタノール(13g)およびBHT(5mg)を加え、該混合物を室温で2時間攪拌する。結晶を濾過し、エタノール(2mlで3回)で洗浄する。結晶に再びエタノール(13g)およびBHT(5mg)を加え、該混合物を室温で2時間攪拌する。結晶を濾過し、エタノール(2mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン(1.1g;モルホリンの含有量:<0.1%;化学純度:97.3%)を得る。
【0076】
得られた生成物を80℃で窒素下、DMSOに溶解し、メタノールまたはエタノールをゆっくりと加えることによって結晶化し、0℃まで冷却し、得られた結晶を濾過し、それをメタノールまたはエタノールで洗浄すると、ペンタマイシンの多形Aが得られる。結晶の写真は図6に示している。
【0077】
ペンタマイシンの多形AのDSCは、図7に示している(開始温度253.7;ピーク温度254.4℃)。
ペンタマイシンの多形Aの粉末X線回折スペクトルは、図5に示している。
最も強い線の2θ角[度]±約0.2°、および相対強度[%]は、下記の通りである:
【表5】
。
【0078】
実施例8:粗ペンタマイシンのメタノールからの反復結晶化
それぞれ図11および図12に示しているX線、DSC、およびHPLCを示す粗ペンタマイシンを、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に記載しているようにメタノールから3回結晶化する。
【0079】
10gの粗ペンタマイシンを、600mlの沸騰メタノール中で約15分間攪拌する。熱メタノール溶液を濾過し、濾液を再び加熱し、沈殿が生じるまでメタノールの容量を減少させる。室温まで冷却し、30分間保存した後、固体物質を濾過によって単離し、30mlの冷(4℃)メタノールで洗浄する。40℃の水浴温度で16mbarに達した後、濾過ケーキを真空蒸発によって30分間乾燥する。回収率は調査していない。
【0080】
第1回目のメタノール結晶化から得られた3分の2の部分(Two of three parts)を400mlの沸騰メタノールに再溶解する。透明な溶液を攪拌しながらさらに加熱し、メタノールの容量を150mlまで減少させる。室温まで冷却し、30分間保存した後、固体物質を濾過によって単離し、30mlの冷メタノール(4℃)で洗浄する。40℃の水浴温度で16mbarに達した後、濾過ケーキを真空蒸発によって30分間乾燥する。回収率は調査していない。
【0081】
第2回目のメタノール結晶化から得られた3分の2の部分(Two of three parts)を300mlの沸騰メタノールに再溶解する。透明な溶液をさらに加熱し、メタノールの容量をおよそ75mlまで減少させる。室温まで冷却し、30分間保存した後、固体物質を濾過によって単離し、30mlの冷メタノール(4℃)で洗浄する。40℃の水浴温度で16mbarに達した後、濾過ケーキを真空蒸発によって30分間乾燥する。回収率は調査していない。
【0082】
図14に示しているHPLCクロマトグラムから明らかなように、得られた生成物は化学純度が約90%にすぎないペンタマイシンである。図14(3回結晶化後のHPLC)を図12(結晶化前のHPLC)と比較すると、一部の微量な不純物が除去されているが、2つの主要な不純物がなおも存在していることが分かる。得られた生成物の粉末X線回折スペクトルおよびDSC(ピーク温度243.55℃)は、図13に示している。DSCのピーク温度243.55℃は、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に報告されている融点(分解)236〜237℃に匹敵し、本発明のペンタマイシンの多形Aについて図7に示しているピーク温度254.42℃よりも明らかに低い。
【0083】
実施例9:ペンタマイシンの多形Aの安定性
空気および熱にさらした場合の純度95%を超える多形Aの安定性を、非晶質ペンタマイシン(純度95%を超えるペンタマイシンを含む)の安定性と以下で比較する:
【0084】
非晶質ペンタマイシンは、アセトニトリルを加えることによって、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から沈殿を得、次いで濾過し、沈殿を乾燥することによって製造する。
【0085】
純度95%を超えるペンタマイシンの多形Aは、酢酸エチルを加えることによって、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から結晶を得、次いで濾過し、沈殿を乾燥することによって製造する。
【0086】
上記のようにして得られた非晶質ペンタマイシンのサンプルと、上記のようにして得られた多形Aのサンプルを、開放容器中、約6日間60℃でインキュベートし、さらに2週間40℃でインキュベートする。分解の過程をHPLCによってモニターし、100%に設定したゼロ時間(t0)での初期状態と比較した純度の減少を測定する。インキュベーション後、非晶質ペンタマイシンの分解量は11%である一方、多形Aの分解量はわずか1%である。
【0087】
実施例10:英国特許第884,711号の実施例1の再現
英国特許第884,711号の8ページの実施例1に記載されている工程と類似の工程により、3.5kgの発酵ブロスカッティングを16リットルのブタノールで抽出し、抽出液を55℃で600mlまで減圧濃縮し、次いで、600mlの蒸留水を加える。ペースト状になるまで濃縮した後、1リットルのジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。得られた40gの固体を、ソックスレーにて6時間、メタノールでさらに抽出処理し、4℃で結晶化し、濾過する。HPLCによると、得られた結晶は純度67.3%のペンタマイシンを含んでいる。これは、該英国特許の8ページ、33行および35行に報告されている純度およそ75%に匹敵する。1.9gの結晶をソックスレーにて100mlのクロロホルムで2時間洗浄し、次いで、ソックスレーにて2時間、ジエチルエーテルで抽出する。得られた固体をソックスレーにてメタノールで4時間再抽出する。4℃で40時間冷却し、真空下で乾燥することによって得られた結晶は、HPLCによると純度70.1%のペンタマイシンを含む。これは、「純粋」とされるラゴシン(ペンタマイシン)が得られるという英国特許第884,711号の8ページ、41行に匹敵するものである。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高純度ペンタマイシン、ペンタマイシンの特定の多形および溶媒和物、それらの精製法、ならびに純度95%を超えるペンタマイシンの分解の速度を減少させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ペンタマイシンは、アンホテリシンBおよびニスタチンA1と同様に、抗真菌活性を有するポリエンマクロライド抗生物質のクラスに属する。ペンタマイシンは天然源から入手でき、例えばS.ウメザワ(S. Umezawa)およびY.タナカ(Y. Tanaka)が「J. Antibiotics, Ser. A, vol. XI, no. 1, pages 26 to 29 (1958)」に記載したアクチノマイセス属のストレプトマイセス・ペンチクス(penticus)の菌糸体、またはグラクソ(Glaxo)に与えられた英国特許第884711号に記載されているストレプトマイセス・ロゼオルテウス(roseoluteus)(NRRL2776、NCIB8984)などの特定のストレプトマイセス菌株から単離されうる。該特許は抗生物質ラゴシンの製造に向けられているが、これは下記のパンデイ(Pandey)らの論文「J. Antibiotics vol. XXXV no. 8, pages 988-996 (1982)」にてフンギクロミンおよびコゴマイシンと同一であると示されている。ラゴシンは、該英国特許の2ページ、右欄、48〜49行に、固体および溶液の両方で光に感受性があると述べられている。
【0003】
ペンタマイシン(=フンギクロミン)の絶対配置は、分解産物と部分合成のスペクトル比較によって決定された(T. Oishi, Pure & Appl. Chem., vol. 61, no. 3, pp. 427-430 (1989)」)。Y.イガラシ(Y. Igarashi)らが「J. Antibiot. vol. 58, no. 8, pp. 523-525 (2005)」に発表したX線分析によると、ペンタマイシンは下記の式を有する。
【化1】
【0004】
例えば、デイビッド・R.ウォーゼン(David R. Worthen)らの論文「Drug Development and Industrial Pharmacy、vol. 27(4), 277-286 (2001)」の478ページの左欄に述べられているように、「ポリエン抗真菌の製造および精製は、それらの特有の化学的不安定性によって困難なものとなっている。ポリエンは典型的には、加水分解性エステル、アセタール、およびヘミアセタール、ならびに酸化されやすい共役ポリエン系を含む、1個または数個の潜在的に不安定な構造的官能性を有する(19)。それゆえ、全てのポリエン抗真菌は、ある程度は、大量培養におけるそれらの製造および回収の間に通常直面する条件によって不活性化または明白な分解にさらされる。これらの潜在的に分解性の条件の中で最も注目すべきものは、湿度、温度上昇、空気中の酸素、多価金属、および光照射を含む(19、20)」。該論文で述べられている参考文献19および20は、(19)「I. M. Teresin, Polyene Antibiotics-Present and Future; University of Tokyo Press: Tokyo, 1976; 122-123」、および(20)「K.Thoma and N. Kubler, Photostability of antifungal agents. 2. Photostability of polyene antibiotics. Pharmazie vol. 52, 294-302 (1997)」である。
【0005】
上記のウォーゼン(Worthen)の論文は、478ページの左欄で、「ポリエン精製をさらに複雑にしているのは、ストレプトマイセスからの実質的に全ての粗ポリエン単離物は、数種類の異なった物理化学的に類似しているアイソフォームを含み、その中の1つだけが臨床用途に望ましいであろうという事実である」と続けている。
【0006】
上記を考慮すると、最初は異なる物質であると考えられていたため、ペンタマイシンは3つの他の名称、すなわちラゴシン、フンギクロミン、およびコゴマイシンをも与えられていたことは驚くべきことではない。R.C.パンデイ(R. C. Pandey)らが、「J. Antibiotics vol. XXXV no. 8, pages 988-996 (1982)」のアブストラクトで述べているように、「1つ以上の中心でいくつかの立体化学的相違を有すると以前は記載されていた3つのポリエンマクロライド抗生物質、フンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンは、立体化学的側面を含む全ての点で同一であると示されている。それらの性質で以前に観察された相違は、現在は高速液体クロマトグラフィーによって分離可能な不純物の量の相違によるものであるとされている。3つの抗生物質は全て、1つの主成分と数種の微量成分を含む」(強調は筆者による)。パンデイ(Pandey)の該論文の988ページの表Iに、フンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの融点が文献値として190〜240℃の範囲であると示されている。
【0007】
メルクインデックス(12版)の727ページの登録番号4312は、フンギクロミンの融点が157〜162℃(分解)であると記載している。
【0008】
パンデイ(Pandey)の論文の主題は、該3つのマクロライド抗生物質の物理化学的および生物学的比較であり、純度95%を超えるペンタマイシンの提供ではない。その995ページの「ディスカッション」の初めに述べられているように、CCD(向流分配)精製を繰り返した後でさえ、全ての微量成分を除去することは可能ではなかった。そのように精製されたフンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの融点は、990ページの表2に、157〜165℃の範囲であると示されている。該「ディスカッション」の第二段落に、HPLCについて、不純物からのフンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの最適な分離は、メタノール−水(60:40)を移動相として用いることによって達成されたと記載されている。水に対するメタノールの比率を下げると、ピークは非常に広くなり、保持時間が増加した;該比率の増加は保持時間を減少させ、分離を困難にした。パンデイ(Pandey)の論文の表2の右欄から明らかなように、フンギクロミン、ラゴシン、およびコゴマイシンの保持時間は下記と同一の条件下のHPLCで6.00分である:992ページ、第3および4行、990ページ、表2の脚注4、ならびに989ページの終わりから3段落目、すなわち、C18μBondapak逆相カラム(3.9mm ID×30cm)、UV(357nm)検出器、メタノール−水(60:40)溶媒系、および流速1.5ml/分を用いる。
【0009】
本発明の出願人は、第三者が行う試験を注文し、粗ペンタマイシン、すなわち純度約92%のペンタマイシンをパンデイ(Pandey)の論文に記載されている条件下で精製することを行わせた。ペンタマイシン含有溶出液画分を蒸発させ、以前に用いたのと同一のHPLC条件下で再検査した後、純度約90%のペンタマイシンのみが単離された。単離したペンタマイシンのHPLCクロマトグラムにより、粗ペンタマイシンには存在していなかった新たな不純物が9.5%存在することが明らかになった。この知見は、パンデイ(Pandey)の論文には、ペンタマイシンがHPLC分離後に単離され、または結晶化されたとはどこにも述べられていないという事実を示している。パンデイ(Pandey)の論文に示されている唯一の融点(157〜240℃の範囲!)は、表1の文献に由来する融点および表2の向流分配に由来する融点である。結論として、パンデイ(Pandey)の論文に開示されているHPLC条件は、単離後に純度95%を超えるペンタマイシンを得るために用いることはできない。
【0010】
注目すべきは、ペンタマイシンは12個の不斉中心を含む比較的大きく、かつ、構造的に複雑な分子であり、212(=4096)個の立体異性体があることである。さらに、ペンタマイシンは、シス−トランス−異性化を受けうる5個の二重結合を含む。ペンタマイシンの安定性が非常に繊細であることに留意すると、可能な4096個の立体異性体の正しいものを全て化学合成するには年月がかかるであろうし、それ自体で発明であろうし、かつ、経済的展望からは、上記のストレプトマイセス菌株による生合成と比較して非常に費用がかかるであろう。
【0011】
ペンタマイシンの繊細な安定性は、例えばR.W.リッカーズ(R. W. Rickards)らの「J. Antibiotics vol. XXIII, no. 12, pages 603-611」から明らかであり、そこでは抗酸化剤によって阻害されうるラジカル付加工程によるメタノール溶液中のラゴシンの空気中の自動酸化を記載している。リッカーズ(Rickards)らによると、ラゴシンの主要な最初の自動酸化産物は特定のエポキシドであり、一方で、長期の自動酸化は高酸化産物をもたらし、最終的にポリマー性物質をもたらす。上記のウォーゼン(Worthen)の論文の記載に完全に従って、リッカーズ(Rickards)らは603ページで、マクロライド抗生物質のポリエンサブグループのメンバーは「総じて不安定であり、酸、アルカリ、熱、空気または光にさらすと分解および生物学的活性の喪失を伴う。特に、主にポリエン発色団と関連する空気および光に対するこの感受性は、臨床用途の前の保存において問題となる」と記載している。
【0012】
上記の英国特許第884711号は、8ページ、41行の実施例1で、「純粋なラゴシン」が得られたと述べている。該実施例1は、ブタノールで発酵ブロスカッティングを抽出すること、抽出液を濃縮すること、水を加えること、ジエチルエーテルで洗浄すること、濾過すること、ソックスレーを用いてメタノールで抽出すること、および濾過することのステップからなる発酵ブロスからのラゴシンの回収を記載し、該英国特許の8ページ、33および35行によると、純度「およそ75%」のラゴシンが得られると記載している。不純物を除去するとされる作業をするために、純度75%のラゴシンは、8ページの34〜42行に記載しているように、ソックスレーを用いてクロロホルムで抽出し、空気乾燥し、エチルエーテルで抽出し、空気乾燥し、メタノールで再抽出する。メタノールを一晩冷却すると、「純粋なラゴシン」とされるものが得られるが、融点は提供されていない。
【0013】
該英国特許の上記文章を読んだ当業者にとって、上記の手順によって純度75%のラゴシンが実際にさらに精製されうることは非常に疑わしいものであろう。これは、ジエチルエーテルおよびメタノールでの処理が以前に既になされたが、ラゴシンの純度が75%以上に増加しなかったからである。それゆえ、該処理の反復によって実質的に純度が増加するのであろうか?さらに、リッカーズ(Rickards)らが記載したように、空気中でラゴシンを乾燥するステップは、酸化をもたらすと予想される(上記を参照のこと)。最後に、本出願の実施例8からも明らかなように、メタノールからの粗ペンタマイシンの結晶化では、(結晶化を3回繰り返した場合でさえ)純度95%を超えるペンタマイシンを得ることはできない。本発明者が発見したように、これは、特定の不純物がペンタマイシンと共に結晶化し、それゆえ、結晶化によっては除去することができず、本発明に記載したような他の手段によってのみ除去することができるからである。ペンタマイシンは比較的大きな分子であるため、ほんの小さな相違、例えば5つの二重結合のうち1つのエポキシ化だけで不純物はペンタマイシンと区別しうることを留意すべきである。確かに、構造的に互いに非常に近い化合物の分離は非常に多くの問題をもたらす。英国特許第884,711号の実施例1の手順では「純粋な」ラゴシンを得ることができないことは上記より既に予想できることであるが、本発明の出願人は外部の研究所に、該実施例に記載された精製法をできる限り正確に再現するように依頼した。結果は本出願の実施例10に記載している。予想されたように、中間体物質について「およそ75%」の純度がおよそ確認することができた(実測値:67.3%)一方、さらなる精製ステップでは「純粋な」ペンタマイシンを得られず、純度70.1%のペンタマイシンのみが得られた。
【0014】
ペンタマイシンは1980年代にスイスで商標名ペンタシン(Pentacin(登録商標))にて登録された薬物の活性成分であったが、純度および安定性について、登録された製品仕様に適合することが困難であったため(販売された製剤が抗酸化剤を含んでいたにもかかわらず)、市場から撤退した。スイスの登録証の製品仕様によると、ペンタマイシンの純度は95%であった。しかしながら、今日利用できる現代の分析手段を用いると、過去に登録されたペンタマイシンに存在した多数の不純物は検出されず、それゆえ、過去の実際のペンタマイシンの純度は95%よりもかなり低かったことが今では分かっている。
【0015】
ペンタマイシン自体は親油性部分と非常に親水性の部分を有しており、それゆえ、界面活性剤と似たような振る舞いをする。さらに、それは水に比較的不溶性であり、ゲルを形成する傾向にあり、ほとんどろ過することができない。
【0016】
集中的な取り組みにもかかわらず、本発明者は、長い間、ペンタマイシンの純度を93%以上に増加させることができなかった。実際、本発明があるまでは、93%の純度閾値は乗り越えられないように思えた。
【0017】
本発明者が解決すべき課題は、ペンタマイシンの純度を93%以上、特に95%以上に増加させ、ペンタマイシンをスイスの医薬品市場に再導入し得、かつ他の国で薬物として登録することができるのに十分安定な形態にすることであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の記載
長く、最初は実りのなかった試みの末、今では驚くべきことに、本特許出願の発明者は、どのようにペンタマイシンが93%を超える、特に95%を超える純度にて製造され得、かつ、分解に対してうまく安定化されうるのかを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、特定の不純物が同一の結晶格子にてペンタマイシンと共に結晶化するらしく、それゆえ結晶化によるさらなる精製が不可能であることを発見した。実施例8に示すように、粗ペンタマイシンのメタノールからの3回連続した結晶化の後でさえ、得られた生成物は、なおも約10%の不純物を含む。該不純物は、ペンタマイシンと構造的に非常に似た化合物、例えばペンタマイシンの様々なエポキシド、ヒドロキシ基がオキソ基に交換され、もしくはメトキシ基にメチル化されているペンタマイシン誘導体、二重結合が単結合に還元されているペンタマイシン誘導体、テトラヒドロピラノン環を含むペンタマイシン誘導体、および/または、潜在的に、ペンタマイシンの立体異性体を含み、それゆえ、単純な従来の手段によってそれら全てを除去することはできない。
【0020】
現在では、ペンタマイシンは、好ましくはメタノールまたはエタノールなどのアルコール性溶媒中で、モルホリン(1:1のモル比)、N−メチルピロリドン(NMP;1:1のモル比)、N−エチルピロリドン(NEP)、またはテトラヒドロフラン(THF)などの小さな極性のヘテロ環と特定の溶媒和物を形成し、それら溶媒和物の一部、例えばNMPおよび特にモルホリンとの溶媒和物は有用な性質を有し、すなわち、それらは驚くべきことに、現在の経験に従うと、メチル第3級ブチルエーテル(MTBE)またはトルエンなどの非極性の溶媒中ではなくメタノールまたはエタノール中で製造すると、閾値93%以上にペンタマイシンを精製することに用いることができることが分かってきた。溶媒和物と共結晶の間の相違は、単に上記の小さな極性のヘテロ環が室温で液体であるか固体であるかに帰するだけであるため、本文章の文脈において、用語「溶媒和物」は、共結晶も含むと理解されるべきである。
【0021】
それゆえ、本発明は、化学純度93%を超える、好ましくは95%を超える、より好ましくは96%を超える、および最も好ましくは97重量%を超えるペンタマイシンの精製法、ならびにペンタマイシンの特定の溶媒和物および多形、ならびにペンタマイシンを精製および/または安定化するためのそれらの使用に関する。
【0022】
本発明者は、ペンタマイシンを、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびN−メチルピロリドン(NMP)に溶解した多数の結晶化実験を実施した。そのようにして得られた溶液に、結晶化が起こるまで抗溶媒を加えたが、ここで抗溶媒はペンタマイシンの溶解度が非常に低い溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、またはアセトニトリルなどの溶媒を意味する。高容量の抗溶媒、例えばメタノールに溶解したペンタマイシンの結晶化も検査した。
【0023】
該結晶化実験の過程の中で、ペンタマイシンがモルホリンおよびN−メチルピロリドンと溶媒和物を形成するが、DMSOとは溶媒和物を形成せず、かつ、該溶媒和物は驚くべきことに、該溶媒和物の再結晶化の反復によって、ペンタマイシンと共結晶化する不純物を減少させるために用いられうることを発見した。
【0024】
ペンタマイシンと共結晶化する不純物を除去する1つの方法は、ペンタマイシンとモルホリンの溶媒和物を連続的に製造および結晶化することであり、最初に針状の形態(図1参照)に結晶化し、次いで針状の多形性モルホリン溶媒和物をフレーク状の形態(図2参照)に結晶化するモルホリン溶媒和物に変換し、次いでモルホリンを除去することである。フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物と比較すると、針状の溶媒和物はあまり精製に適切ではない。これまでに得られた(限定的ではあるが)実験的経験によると、それは再結晶化によって十分に閾値93%を上回るように精製することはできない。それゆえ、針状の溶媒和物はできる限り早く、例えばフレーク状の溶媒和物の種結晶を加えることによってフレーク状の溶媒和物に変換される。針状およびフレーク状のモルホリン溶媒和物の連続的な製造は、1つのポット内にて行われうる。モルホリン溶媒和物の製造は、好ましくは窒素などの保護ガス下で、光から保護し、かつ、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、または好ましくはブチルヒドロキシトルエン(BHT)、すなわち2,6−ジ第3級ブチル−4−メチルフェノールなどの抗酸化剤の存在下で行われる。結晶化は好ましくは、適切な極性溶媒、例えば適切なアルコール、例えば適切なアルカノール、例えばエタノール、または最も好ましくはメタノール中で行われる。より長鎖のアルコールおよび非極性の溶媒、例えばトルエン、MTBEなどでは、ほとんど精製効果が達成されなかった。モルホリン中ではペンタマイシンの溶解度が高過ぎるため、モルホリンも単一の溶媒としては有効ではない。フレーク状のモルホリン溶媒和物の形成による精製は、所望の純度が得られるまで必要に応じて何度でも繰り返される。
【0025】
溶媒系の中でペンタマイシンに対するモルホリンの量を増加させると、針状多形のフレーク状多形への変換を促進する。上記のように、該変換はフレーク状多形の種結晶を加えることによっても促進することができる。
【0026】
本発明は、粗ペンタマイシン、適切なアルコール、特に低級アルカノール、例えばエタノールまたは好ましくはメタノール、モルホリン、およびBHTなどの適切な抗酸化剤の混合物を、好ましくは温度約5〜50℃で、好ましくは室温で、有利には窒素などの保護ガス下、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物が結晶化するまで攪拌し、例えば濾過によってそれを単離し、メタノールなどの低級アルカノールで洗浄し、必要であれば、得られたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物を粗ペンタマイシンの代わりに用いて上記手順を1回以上繰り返すことによって、得られたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物をさらに精製することによって、フレーク状のモルホリン溶媒和物(ペンタマイシンとモルホリンの1:1のモル比)を形成することによる、粗ペンタマイシンを精製する方法に関する。
【0027】
本発明は、粗ペンタマイシン、適切なアルコール、特に低級アルカノール、例えばエタノールまたは好ましくはメタノール、N−メチルピロリドン(NMP)、およびBHTなどの適切な抗酸化剤の混合物を、好ましくは温度約5〜50℃で、好ましくは室温で、有利には窒素などの保護ガス下、NMP溶媒和物が結晶化するまで攪拌し、例えば濾過によってそれを単離し、メタノールなどの低級アルカノールで洗浄し、必要であれば、上記手順を繰り返すことによって得られたNMP溶媒和物をさらに精製することによって、NMP溶媒和物を形成することによる、粗ペンタマイシンを精製する方法にも関する。
【0028】
NMP溶媒和物を用いる上記方法によって、ペンタマイシンと共結晶化する2つの不純物のうち1つ、すなわち相対保持時間(rrt)1.54(本明細書で記載するHPLC系にて)の不純物(imp)が除去されうる一方で、rrt0.83の別の不純物は3.3%のレベルしか減少させることができない。
【0029】
モルホリンおよびNMPは、溶媒和物を数時間、メタノールまたは好ましくはエタノール中、例えば温度0℃〜+50℃で、好ましくは室温で攪拌し、得られた結晶を濾過し、それらをメタノールまたは好ましくはエタノールで洗浄し、必要であれば、得られた生成物に含まれるモルホリンまたはNMPが0.1%未満になるまで該精製法を繰り返すことによって、それぞれのペンタマイシン溶媒和物から除去される。
【0030】
残存するモルホリンまたはNMPは、DMSO/エタノールまたはDMSO/メタノールからの結晶化によって除去することができ、それによってペンタマイシンの多形Aが得られる。
【0031】
ペンタマイシンは、非晶質形態(図8および図9参照)ならびに多形A以外の他のいくつかの多形体(以下多形B〜Eと称する)にて存在することが分かった。他の多形と比較すると、多形Aは粉末回折X線にて下記の2θ角(±約0.2°):2.28、7.38および20.16の線によって区別され、多形Bは9.54、21.28および22.32に線を生じ、多形Cは7.04に特性線を有し、多形Dは2.58に特性線を有し、多形Eは3.32にあまり強くない特性線を有し、粗ペンタマイシン(図11および図12参照)は8.84および13.14に特性線を示す。多形Aについての上記の2θ角(±約0.2°):2.28、7.38および20.16を実施例7の対応する値、すなわち2.22、7.29および20.17と比較すると、小さな相違が認められる。これは、それぞれの数値が異なる測定に由来するという事実によるものである。しかしながら、該相違は、±0.2°の2θ角について十分に国際的に許容される実験誤差の範囲内である。
【0032】
多形Aは、例えば酢酸エチルを加えた後にペンタマイシンのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液から結晶化する。
【0033】
非晶質ペンタマイシンは、例えばアセトニトリルを加えた後にペンタマイシンのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液から得られる。
【0034】
多形Bは、メタノール/クロロホルムから結晶化する。
【0035】
多形C(図10参照)は、ペンタマイシンのジメチルホルムアミド溶液に60℃でメタノールを加え、メタノールを加え、0℃まで冷却することによって得られる。
【0036】
多形Eは、ジメチルスルホキシド/アセトニトリルから結晶化する。
【0037】
多形Aは、熱力学的に最も安定な多形であるようである。その示差走査熱量測定(DSC)図(図7に示している)は、1つの単一シグナルを示す。それとは対照的に、他の結晶性多形のDSC図は、2つ以上のシグナルを示し(例えば図10の多形CのDSC参照)、それゆえ、徐々に温度を増加させると他の多形体に転移することを示している。純粋な多形Aの最も驚くべきかつ全く予測できない性質は、空気にさらしたときのその安定性であり(実施例9参照)、これはこれまでに知られている純粋なペンタマイシンの全ての形態と全く対照的である。
【0038】
本発明のペンタマイシンの高純度形態、特に化学純度95%を超えるペンタマイシンの多形Aは、例えば、カンジダ、特にカンジダ・アルビカンス、および膣トリコモナスに起因する膣および粘膜感染を治療するための膣坐剤などの局所使用のための医薬製剤の形態にて、好ましくは哺乳類を含む温血動物、特にヒトを治療する方法に用いることができる。
【0039】
局所使用のための該医薬製剤、例えば膣坐剤は、例えば適切な医薬賦形剤と共に濃度0.1〜5重量%のペンタマイシンを含み、投与単位、すなわち坐剤あたり3mg〜150mgのペンタマイシンを含む。膣坐剤は、例えば体重約60kgのヒト女性に、1日1〜2回提供される。
【0040】
要約すると、本発明は、化学純度95%を超える、好ましくは化学純度97%を超えるペンタマイシン、特に多形Aの形態にある、とりわけ化学純度95%を超える、好ましくは97%を超える多形Aの形態にあるペンタマイシンであって、相対強度が単なる目安として提供されるX線粉末回折スペクトルにおいて、下記の最も強い線の2θ値±約0.2°によって特徴付けられるペンタマイシンに関する:
【表1】
。
【0041】
本発明はさらに、溶媒和物の形態にあるペンタマイシン、特にペンタマイシンの精製に適切な溶媒和物の形態にあるペンタマイシン、例えばヘテロ環化合物、好ましくは、例えばN−メチル−ピロリドンまたは好ましくはモルホリンなどの低分子量ヘテロ環化合物との溶媒和物の形態にあるペンタマイシンであり、針状のモルホリン溶媒和物、または好ましくはフレーク状のモルホリン溶媒和物などの形態にあるペンタマイシンであって、特に化学純度95%を超える、96%を超える、または好ましくは97%を超える溶媒和物、特に相対強度が単なる目安として提供される粉末X線回折スペクトルにおいて、下記の最も強い線の2θ値±約0.2°を有するフレーク状のモルホリン溶媒和物に関する:
【表2】
。
【0042】
本発明はさらに、ペンタマイシンの化学的精製のための上記のペンタマイシン溶媒和物の使用に関する。
【0043】
本発明はさらに、化学純度93%以下のペンタマイシンを適切な溶媒和物、特に上記の溶媒和物の1つに変換し、該溶媒和物を結晶化によって精製し、例えばC1−5−アルカノール中の長時間の攪拌によってペンタマイシンを溶媒和物から遊離させることによるペンタマイシンの精製法であって、該精製法が、必要であれば、好ましくは2,6−ジ第3級ブチル−4−メチルフェノールなどの適切な抗酸化剤の存在下で行われる、ペンタマイシンの精製法に関する。
【0044】
本発明はさらに、ペンタマイシンをその多形Aの形態に変換することによって、化学純度95%を超えるペンタマイシンの分解の速度を有意に減少させる方法に関し、特に多形Aへの変換が、酢酸エチルを加えた後、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から結晶化することによって達成される方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、針状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の写真を示す。
【図2】図2は、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の写真を示す。
【図3】図3は、針状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の粉末回折図を示す。
【図4】図4は、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン(1:1)溶媒和物の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図5】図5は、ペンタマイシンの多形Aの粉末X線回折図を示す。
【図6】図6は、ペンタマイシンの多形Aの写真を示す。
【図7】図7は、ペンタマイシンの多形Aの示差走査熱量測定(DSC)図を示す。
【図8】図8は、非晶質ペンタマイシンのDSCを示す。
【図9】図9は、非晶質ペンタマイシンの粉末X線回折図を示す。
【図10】図10は、ペンタマイシンの多形CのDSC(上)およびX線(下)を示す。
【図11】図11は、粗ペンタマイシンの粉末X線回折図(上)およびDSCを示す。
【図12】図12は、粗ペンタマイシンの高圧液体クロマトグラム(HPLC)を示す。
【図13】図13は、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に記載されているメタノールからの3回の結晶化後に記録されたペンタマイシンのDSC(上)および粉末X線回折図(下)を示す。
【図14】図14は、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に記載されているメタノールからの3回の結晶化後に記録されたペンタマイシンのHPLCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
実験の詳細な記載
粉末X線スペクトルは、Rigaku Miniflex回折計に記録する(CuKα照射、記録範囲2〜40°[2θ]、ステップ幅0.02°[2θ]、記録間隔0.0083°[2θ]、プローブ容器:シリコン)。記録した2θ角の実験誤差は約±0.2°である。相対強度の実験誤差は大きい。それゆえ、相対強度は単なる目安であると理解されるべきである。
【0047】
下記の実施例は本発明を説明する。略語「rrt」は「相対保持時間」、すなわちHPLC(高速液体クロマトグラフィー)内の不純物の正味の保持時間と、ペンタマイシンの正味の保持時間の間の比を意味する。実施例にて用いられている用語「imp rrt」は、ペンタマイシンに対する不純物の保持時間を意味し、すなわちペンタマイシンのrrtは1.00である。1.00以下の相対保持時間は不純物がペンタマイシンよりも早く溶出されることを意味し、1.00より大きい相対保持時間は不純物がペンタマイシンよりも後に溶出されることを意味する。例えば、「imp rrt=0.83:8.0%」は、相対保持時間0.83で8%量の不純物があることを意味する。HPLCの慣例により、検出された化合物のパーセンテージはそれぞれのシグナルの面積を反映する面積パーセントとして表され、すなわち上記の例では、8.0%は面積パーセントである。
【0048】
本明細書で記載しているHPLCクロマトグラフィーは、Agilent(登録商標)1100システムまたはこれに相当するものを用いて行っている。移動相は溶液AおよびBを含み、溶液Aは水−アセトニトリル−トリフルオロ酢酸の650:350:0.01(v:v:v)比の溶液であり、溶液Bはアセトニトリル−2−プロパノール−トリフルオロ酢酸の750:250:0.01(v:v:v)比の溶液である。
【0049】
分析するサンプルはアセトニトリル−水−テトラヒドロフランの1:1:2(v:v:v)比の溶液に溶解し、そこへアセトニトリル−水−テトラヒドロフランの1:1:2(v:v:v)比の溶液に溶解した0.1%(w:v)のBHTを加え、終濃度0.6mg/mlで検査する。
【0050】
HPLCは、Waters Atlantis(登録商標)dC18RP250x4.6mm、5μmカラムで行う。Atlantis dC18カラムは、シリカベースのラインの二機能的に結合した逆相C18カラムである。下記のパラメーターを用いている:
グラジエント:
【表3】
流速:1.0ml/分
温度:40℃
検出:320nm
注入量:5μl。
【実施例】
【0051】
実施例1:針状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物
メタノール(1.75g)およびモルホリン(0.75g)の混合物に、ブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジ第3級ブチル−4−メチルフェノール)(4mg)および粗ペンタマイシン(500mg;化学純度:80.6%);ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。粗ペンタマイシンのHPLCクロマトグラムは、不純物に起因する2つの主要なピークを示す。第1のピークは相対保持時間(rrt)0.83を有する。このピークは、同一の保持時間を有する(少なくとも)2つの異なる不純物からなる。これら2つの不純物の全量は、合わせて8%である。第2の主要な不純物はrrt1.54を有し、出発物質中のこの不純物の量は7%である。
【0052】
該混合物を室温で3日間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(1mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、針状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(362mg;化学純度:86.2%;ペンタマイシン含有量:75%;モルホリン含有量:10%;imp rrt=0.83:5.3%;imp rrt=1.54:6.5%)を得る。
【0053】
上記から明らかなように、針状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物中では、rrt0.83およびrrt1.54での両不純物の量は、出発物質として用いた粗ペンタマイシンと比較して減少している。
【0054】
実施例2:フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1:1のモル比)
メタノール(1.5g)およびモルホリン(1g)の混合物に、BHT(4mg)および粗ペンタマイシン(500mg;化学純度:80.6%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。該混合物を室温で3日間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(1mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシンとモルホリンを1:1のモル比にて含むフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(327mg;化学純度:90.9%;ペンタマイシン含有量:82%;imp rrt=0.83:4.3%;imp rrt=1.54:3.0%)を得る。
【0055】
注意:攪拌30分後は、主として針状多形が顕微鏡下で観察される。3日間攪拌後、結晶形は「フレーク」状に変化する。
【0056】
上記から明らかなように、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物中のrrt0.83およびrrt1.54での両不純物の量は、出発物質として用いた粗ペンタマイシンおよび実施例1に記載した針状多形の両方と比較してさらに減少している。
【0057】
ペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1:1のモル比)の針状多形の粉末X線回折スペクトルは、図3に示している。
【0058】
実施例3:種結晶を用いたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の製造
メタノール(11.52g)およびモルホリン(7.68g)の混合物に、BHT(10mg)および粗ペンタマイシン(4.0g;化学純度:80.6%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。該混合物にフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の種結晶(12mg;フレーク状多形)を播種し、室温で10時間攪拌する。次いで、さらなる分量の粗ペンタマイシン(2.4g)を加え、該混合物を一晩攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(3mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン(5.46g;化学純度:89,2%;ペンタマイシン含有量:82%;imp rrt=0.83:4.9%;imp rrt=1.54:4.0%;含有量補正収率:78%;理論収率:87%)を得る。
【0059】
実施例4:フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の精製
メタノール(20.6g)およびモルホリン(13.7g)の混合物に、BHT(4mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(4.75g;化学純度:89.2%;ペンタマイシン含有量:81%;imp rrt=0.83:4.9%;imp rrt=1.54:4.0%)を加える。該混合物を室温で16時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(2mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、精製されたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(3.45g)を得る。この物質の一部(3.39g)を、メタノール(10.8g)、モルホリン(7.2g)およびBHT(4mg)の混合物に加える。該混合物を室温で16時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(1mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、さらに精製されたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(2.27g;化学純度:93.7%;ペンタマイシン含有量:83%;imp rrt=0.83:3.2%;imp rrt=1.54:2.0%)を得る。
【0060】
実施例5:フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物の連続的な再結晶化
メタノール(1.5g)およびモルホリン(1.0g)の混合物に、BHT(5mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(385mg;化学純度:87.7%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:5.4%;imp rrt=1.54:4.7%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(230mg;化学純度:94.5%;imp rrt=0.83:3.0%;imp rrt=1.54:1.5%)を得る。
【0061】
メタノール(0.84g)およびモルホリン(0.56g)の混合物に、BHT(3mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(220mg;化学純度:94.5%;imp rrt=0.83:3.0%;imp rrt=1.54:1.5%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(144mg;化学純度:96.2%;imp rrt=0.83:2.3%;imp rrt=1.54:0.82%)を得る。
【0062】
メタノール(0.6g)およびモルホリン(0.4g)の混合物に、BHT(2mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(244mg;化学純度:96%;imp rrt=0.83:2.3%;imp rrt=1.54:1.0%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物ペンタマイシン(162mg;化学純度:96.6%;imp rrt=0.83:1.9%;imp rrt=1.54:0.7%)を得る。
【0063】
メタノール(0.42g)およびモルホリン(0.28g)の混合物に、BHT(2mg)およびフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(140mg;化学純度:96.6%;imp rrt=0.83:1.9%;imp rrt=1.54:0.7%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(0.5mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(89mg;化学純度:97.3%;imp rrt=0.83:1.6%;imp rrt=1.54:0.5%)を得る。
【0064】
得られたペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1:1のモル比)のフレーク状多形の粉末X線回折スペクトルは、図4に示している。最も強い線の2θ角[度]±約0.1°、および相対強度[%]は下記の通りである:
【表4】
。
【0065】
上記から明らかなように、rrt0.83およびrrt1.54での両不純物の量は、出発物質として用いた粗ペンタマイシン、実施例1に記載した針状多形、および実施例2に記載したフレーク状の粗ペンタマイシン−モルホリン溶媒和物と比較して、精製されたフレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物中においてさらに減少している。
【0066】
実施例6:ペンタマイシン−N−メチルピロリドン溶媒和物(1:1のモル比)
ステップ6.1〜6.8は、上記の溶媒和物の製造および反復結晶化によるその精製を示す。そこから明らかなように、imp rrt=1.54は効率的に除去されるが、もう一方の主要なimp rrt=0.83は3.3%のレベルしか減少しない。
【0067】
ステップ6.1:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の製造
メタノール(65g)およびN−メチルピロリドン(NMP;65g)の混合物に、BHT(100mg)および粗ペンタマイシン(20g;化学純度:80.6%;ペンタマイシン含有量:80%;imp rrt=0.83:8.0%;imp rrt=1.54:7.0%)を加える。該混合物を室温で5時間攪拌した。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(17.3g;化学純度:86.9%;ペンタマイシン含有量:71%;imp rrt=0.83:5.8%;imp rrt=1.54:5.0%)を得る。
【0068】
ステップ6.2:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第1回目の再結晶化
メタノール(50g)およびNMP(50g)の混合物に、BHT(100mg)およびステップ6.1から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(17.3g;化学純度:86.9%;ペンタマイシン含有量:71%;imp rrt=0.83:5.8%;imp rrt=1.54:5.0%)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(9.7g;化学純度:91.5%;ペンタマイシン含有量:81%;imp rrt=0.83:4.3%;imp rrt=1.54:2.9%)を得る。
【0069】
ステップ6.3:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第2回目の再結晶化
メタノール(30g)およびNMP(30g)の混合物に、BHT(100mg)およびステップ6.2から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(9.65g)を加える。該混合物を室温で5時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(7.5g;化学純度:93.5%;ペンタマイシン含有量:83%;imp rrt=0.83:3.8%;imp rrt=1.54:1.9%)を得る。
【0070】
ステップ6.4:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第3回目の再結晶化
メタノール(22g)およびNMP(22g)の混合物に、BHT(100mg)およびステップ6.3から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(7.45g)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(10mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(4.0g;化学純度:94.9%;ペンタマイシン含有量:87%;imp rrt=0.83:3.5%;imp rrt=1.54:1.2%)を得る。
【0071】
ステップ6.5:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第4回目の再結晶化
メタノール(12g)およびNMP(12g)の混合物に、BHT(50mg)およびステップ6.4から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(3.6g)を加える。該混合物を室温で3日間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(5mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(2.78g;化学純度:95.8%;ペンタマイシン含有量:86%;imp rrt=0.83:3.3%;imp rrt=1.54:0.5%)を得る。
【0072】
ステップ6.6:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第5回目の再結晶化
メタノール(8g)およびNMP(8g)の混合物に、BHT(50mg)およびステップ6.5から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(2.5g)を加える。該混合物を室温で4時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(4mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(3.1g;化学純度:95.8%;ペンタマイシン含有量:71%(残留溶媒のため);imp rrt=0.83:3.3%;imp rrt=1.54:0.4%)を得る。
【0073】
ステップ6.7:ペンタマイシン−NMP溶媒和物の第6回目の再結晶化
メタノール(6g)およびNMP(6g)の混合物に、BHT(50mg)およびステップ6.6から得られたペンタマイシン−NMP溶媒和物(2.3g)を加える。該混合物を室温で18時間攪拌する。結晶を濾過し、メタノール(3mlで2回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン−NMP溶媒和物(1.6g;化学純度:96.0%;ペンタマイシン含有量:88%;imp rrt=0.83:3.3%;imp rrt=1.54:0.3%)を得る。
【0074】
ステップ6.5〜6.7から明らかなように、相対保持時間0.83で存在する不純物の量は3.3%のままであり、さらに減少させることはできなかった。
【0075】
実施例7:ペンタマイシン−モルホリン溶媒和物からのペンタマイシンの多形Aの製造
フレーク状のペンタマイシン−モルホリン溶媒和物(1.5g;モルホリンの含有量:8%;化学純度:97.2%)に、エタノール(13g)およびBHT(5mg)を加え、該混合物を室温で2時間攪拌する。結晶を濾過し、エタノール(2mlで3回)で洗浄する。結晶に再びエタノール(13g)およびBHT(5mg)を加え、該混合物を室温で2時間攪拌する。結晶を濾過し、エタノール(2mlで3回)で洗浄し、減圧下で乾燥し、ペンタマイシン(1.1g;モルホリンの含有量:<0.1%;化学純度:97.3%)を得る。
【0076】
得られた生成物を80℃で窒素下、DMSOに溶解し、メタノールまたはエタノールをゆっくりと加えることによって結晶化し、0℃まで冷却し、得られた結晶を濾過し、それをメタノールまたはエタノールで洗浄すると、ペンタマイシンの多形Aが得られる。結晶の写真は図6に示している。
【0077】
ペンタマイシンの多形AのDSCは、図7に示している(開始温度253.7;ピーク温度254.4℃)。
ペンタマイシンの多形Aの粉末X線回折スペクトルは、図5に示している。
最も強い線の2θ角[度]±約0.2°、および相対強度[%]は、下記の通りである:
【表5】
。
【0078】
実施例8:粗ペンタマイシンのメタノールからの反復結晶化
それぞれ図11および図12に示しているX線、DSC、およびHPLCを示す粗ペンタマイシンを、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に記載しているようにメタノールから3回結晶化する。
【0079】
10gの粗ペンタマイシンを、600mlの沸騰メタノール中で約15分間攪拌する。熱メタノール溶液を濾過し、濾液を再び加熱し、沈殿が生じるまでメタノールの容量を減少させる。室温まで冷却し、30分間保存した後、固体物質を濾過によって単離し、30mlの冷(4℃)メタノールで洗浄する。40℃の水浴温度で16mbarに達した後、濾過ケーキを真空蒸発によって30分間乾燥する。回収率は調査していない。
【0080】
第1回目のメタノール結晶化から得られた3分の2の部分(Two of three parts)を400mlの沸騰メタノールに再溶解する。透明な溶液を攪拌しながらさらに加熱し、メタノールの容量を150mlまで減少させる。室温まで冷却し、30分間保存した後、固体物質を濾過によって単離し、30mlの冷メタノール(4℃)で洗浄する。40℃の水浴温度で16mbarに達した後、濾過ケーキを真空蒸発によって30分間乾燥する。回収率は調査していない。
【0081】
第2回目のメタノール結晶化から得られた3分の2の部分(Two of three parts)を300mlの沸騰メタノールに再溶解する。透明な溶液をさらに加熱し、メタノールの容量をおよそ75mlまで減少させる。室温まで冷却し、30分間保存した後、固体物質を濾過によって単離し、30mlの冷メタノール(4℃)で洗浄する。40℃の水浴温度で16mbarに達した後、濾過ケーキを真空蒸発によって30分間乾燥する。回収率は調査していない。
【0082】
図14に示しているHPLCクロマトグラムから明らかなように、得られた生成物は化学純度が約90%にすぎないペンタマイシンである。図14(3回結晶化後のHPLC)を図12(結晶化前のHPLC)と比較すると、一部の微量な不純物が除去されているが、2つの主要な不純物がなおも存在していることが分かる。得られた生成物の粉末X線回折スペクトルおよびDSC(ピーク温度243.55℃)は、図13に示している。DSCのピーク温度243.55℃は、「J. Antibiotics, ser. A, vol. XI, no.1, Jan. 1958, pp. 26-29」に報告されている融点(分解)236〜237℃に匹敵し、本発明のペンタマイシンの多形Aについて図7に示しているピーク温度254.42℃よりも明らかに低い。
【0083】
実施例9:ペンタマイシンの多形Aの安定性
空気および熱にさらした場合の純度95%を超える多形Aの安定性を、非晶質ペンタマイシン(純度95%を超えるペンタマイシンを含む)の安定性と以下で比較する:
【0084】
非晶質ペンタマイシンは、アセトニトリルを加えることによって、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から沈殿を得、次いで濾過し、沈殿を乾燥することによって製造する。
【0085】
純度95%を超えるペンタマイシンの多形Aは、酢酸エチルを加えることによって、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から結晶を得、次いで濾過し、沈殿を乾燥することによって製造する。
【0086】
上記のようにして得られた非晶質ペンタマイシンのサンプルと、上記のようにして得られた多形Aのサンプルを、開放容器中、約6日間60℃でインキュベートし、さらに2週間40℃でインキュベートする。分解の過程をHPLCによってモニターし、100%に設定したゼロ時間(t0)での初期状態と比較した純度の減少を測定する。インキュベーション後、非晶質ペンタマイシンの分解量は11%である一方、多形Aの分解量はわずか1%である。
【0087】
実施例10:英国特許第884,711号の実施例1の再現
英国特許第884,711号の8ページの実施例1に記載されている工程と類似の工程により、3.5kgの発酵ブロスカッティングを16リットルのブタノールで抽出し、抽出液を55℃で600mlまで減圧濃縮し、次いで、600mlの蒸留水を加える。ペースト状になるまで濃縮した後、1リットルのジエチルエーテルで洗浄し、濾過する。得られた40gの固体を、ソックスレーにて6時間、メタノールでさらに抽出処理し、4℃で結晶化し、濾過する。HPLCによると、得られた結晶は純度67.3%のペンタマイシンを含んでいる。これは、該英国特許の8ページ、33行および35行に報告されている純度およそ75%に匹敵する。1.9gの結晶をソックスレーにて100mlのクロロホルムで2時間洗浄し、次いで、ソックスレーにて2時間、ジエチルエーテルで抽出する。得られた固体をソックスレーにてメタノールで4時間再抽出する。4℃で40時間冷却し、真空下で乾燥することによって得られた結晶は、HPLCによると純度70.1%のペンタマイシンを含む。これは、「純粋」とされるラゴシン(ペンタマイシン)が得られるという英国特許第884,711号の8ページ、41行に匹敵するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学純度95%を超えるペンタマイシン。
【請求項2】
相対強度が単なる目安として提供されるX線粉末回折スペクトルにおいて、下記の最も強い線の2θ値±約0.2°によって特徴付けられる化学純度95%を超える多形Aの形態にある、請求項1記載のペンタマイシン
【表1】
。
【請求項3】
ヘテロ環化合物との溶媒和物の形態にあるペンタマイシン。
【請求項4】
モルホリン溶媒和物の形態にある、請求項3記載のペンタマイシン。
【請求項5】
ペンタマイシンの化学的精製のための、ヘテロ環化合物とのペンタマイシン溶媒和物の使用。
【請求項6】
化学純度93%以下のペンタマイシンをヘテロ環化合物との適切な溶媒和物に変換し、結晶化によって該溶媒和物を精製し、該溶媒和物からペンタマイシンを遊離させることによる、ペンタマイシンの精製法。
【請求項7】
該溶媒和物がモルホリン溶媒和物である、請求項6記載の精製法。
【請求項8】
ペンタマイシンがC1−5−アルカノール中での長時間の攪拌によって該溶媒和物から遊離する、請求項6または7記載の精製法。
【請求項9】
適切な抗酸化剤の存在下で行われる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の精製法。
【請求項10】
純度95%を超えるペンタマイシンの分解の速度を多形Aに変換することによって有意に減少させる方法。
【請求項11】
多形Aへの変換が、酢酸エチルを加えた後、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から結晶化することによって達成される、請求項10記載の方法。
【請求項1】
化学純度95%を超えるペンタマイシン。
【請求項2】
相対強度が単なる目安として提供されるX線粉末回折スペクトルにおいて、下記の最も強い線の2θ値±約0.2°によって特徴付けられる化学純度95%を超える多形Aの形態にある、請求項1記載のペンタマイシン
【表1】
。
【請求項3】
ヘテロ環化合物との溶媒和物の形態にあるペンタマイシン。
【請求項4】
モルホリン溶媒和物の形態にある、請求項3記載のペンタマイシン。
【請求項5】
ペンタマイシンの化学的精製のための、ヘテロ環化合物とのペンタマイシン溶媒和物の使用。
【請求項6】
化学純度93%以下のペンタマイシンをヘテロ環化合物との適切な溶媒和物に変換し、結晶化によって該溶媒和物を精製し、該溶媒和物からペンタマイシンを遊離させることによる、ペンタマイシンの精製法。
【請求項7】
該溶媒和物がモルホリン溶媒和物である、請求項6記載の精製法。
【請求項8】
ペンタマイシンがC1−5−アルカノール中での長時間の攪拌によって該溶媒和物から遊離する、請求項6または7記載の精製法。
【請求項9】
適切な抗酸化剤の存在下で行われる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の精製法。
【請求項10】
純度95%を超えるペンタマイシンの分解の速度を多形Aに変換することによって有意に減少させる方法。
【請求項11】
多形Aへの変換が、酢酸エチルを加えた後、純度95%を超えるペンタマイシンのジメチルスルホキシド溶液から結晶化することによって達成される、請求項10記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−516434(P2011−516434A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502256(P2011−502256)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002054
【国際公開番号】WO2009/121495
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(510262459)ルマヴィータ・アクチェンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Lumavita AG
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002054
【国際公開番号】WO2009/121495
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(510262459)ルマヴィータ・アクチェンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Lumavita AG
【Fターム(参考)】
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