説明

高耐久性低放射積層体

【課題】高湿度環境下での耐久性に優れ、なおかつ可視光透過率を損なわない低放射積層体を得ることを目的とした。
【解決手段】基材上に、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする窒化物層と、該窒化物層上にAgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする金属層とを有し、該窒化物層と該金属層とがn回(nは1以上の整数)積層された積層膜を有する低放射積層体であって、該積層膜の上に、N、O、及びCからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むSiを主成分とするオーバーコート層を有することを特徴とする低放射積層体である。また本発明の低放射積層体は、前記オーバーコート層が、SiONC膜またはSiNO膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用、車輌用、船舶用、航空機用等の窓ガラスとして有用な低放射積層体に関するものであり、特に、高耐久性を有する低放射積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
日射遮蔽性、高断熱性の機能を有する低放射積層体は、可視光線を透過し、なおかつ赤外線を反射する機能を有する積層膜を有するものであり、近年、建築用窓ガラスや、車輌用、船舶用、航空機用等の窓ガラスに用いられている。上記低放射積層体を用いた窓ガラスは、窓ガラスを通じて車内や室内に照射される太陽光の特定の波長部分を遮蔽し、車内や室内の温度上昇を抑制して、冷房機器の負荷を低減させる効果があるものであり、より優れた断熱性と高い可視光透過率を示すことが求められている。
【0003】
一般的に、低放射積層体は電気伝導性が高いほど赤外線反射率が高くなり、優れた遮熱性が発現される。AgやAlは優れた電気伝導性を有していることから広く用いられているが、一方で、特にAgは熱、光、湿度等の環境に起因する凝集が生じやすいため、欠陥の発生や膜の剥離等が生じやすいとされている。そのため、可視光透過率の向上と上記のAgに生じる欠陥を抑制する目的で、透明基材上に、誘電体層/Ag層/誘電体層、といった積層膜が様々考案されている。
【0004】
低放射積層体を形成する方法として、生産性の観点からスパッタリング法等の蒸着法を用いて基材上に薄膜を形成する方法が広く採用されている。
【0005】
例えば、特許文献1ではガラス基材上に約450〜600Åの厚さを有するSi、約7Å未満の厚さを有するニッケル又はクロム層、約115〜190Åの厚さを有する銀層、約7Å未満の厚さを有するニッケル又はクロム層、約580〜800Åの厚さを有するSiからなる多層膜を形成した断熱ガラス・ユニットが開示されている。
【0006】
また特許文献2では、赤外領域における特性を有する金属層と、この層の下に誘電材料の第1のコーティング及びこの金属層の上に誘電材料の第2のコーティングと金属層の直ぐ上にあってこれと接触する保護金属層からなるもの、具体的にはガラス/AlN/ZnO/Ag/Nb/Siなどが開示されている。
【0007】
また、本出願人が既に出願した特許文献3には、第1薄膜層をITO薄膜またはAlN薄膜、第2薄膜層として厚さ40〜200Åの銀または銅の薄膜、第3薄膜層として厚さ30〜150Åの金属亜鉛薄膜、第4薄膜層をITO薄膜またはAlN薄膜と少なくとも順次交互に積層し、常にITO薄膜またはAlN薄膜層を最外側薄膜層とするものを開示している。
【0008】
さらに、本出願人が既に出願した特許文献4には、透明ガラス基板表面に、アルミニウムを主成分とする金属の窒化物よりなる下部誘電体層、Niを主成分とする金属層あるいは窒化物層、銀を主成分とする金属層あるいは窒化物層、アルミニウムを主成分とする金属の窒化物よりなる上部誘電体層が順次積層された熱線反射層が形成されてなることを特徴とする高耐久性熱線反射ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−268733号公報
【特許文献2】特開平8−238710号公報
【特許文献3】特公平7−91089号公報
【特許文献4】特開2001−328847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AlやSiを主成分とする窒化物層は、高い可視光透過率を示し、また上記の低放射積層体の金属層としてAgを用いる場合、該Ag層上の誘電体層として用いると、成膜時に酸素を用いないことからAgの酸化による劣化を抑制することが可能であり、さらにシミュレーションによって正確な光学特性を求めることが可能であることから、上記の低放射積層体の窒化物層として非常に有用であるが、該窒化物層は環境中の水分等により欠陥が生じるという問題があり、低放射積層体として用いるのは難しかった。
【0011】
例えば、特許文献3に記載されているようなAlNを誘電体層に用いた場合、高湿度環境下に放置したときAlN膜の酸化に起因して発生する直径0.1mm未満の扇状欠陥を抑制することが困難となることがあった。
【0012】
また、先行文献4に記載されている熱線反射層は、AlN膜とAg膜との間にNiを主成分とする金属膜を形成することで、Ag膜及びAlN膜に由来する欠陥の発生を抑制せしめたものであるが、AlN膜とAg膜との間にNiを主成分とする金属膜を用いることで、該金属膜により可視光透過率が減少する問題が生じることがあった。
【0013】
そこで本発明は、高湿度環境下での耐久性に優れ、なおかつ可視光透過率を損なわない低放射積層体を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、基材上に、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする窒化物層と、該窒化物層上にAgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする金属層とを有し、該窒化物層と該金属層とがn回(nは1以上の整数)積層された積層膜を有する低放射積層体であって、該積層膜の上に、N、O、及びCからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むSiを主成分とするオーバーコート層を有することを特徴とする低放射積層体である。
【0015】
また本発明の低放射積層体は、前記積層膜において、n回目に積層された金属膜上に、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする窒化物層と、該窒化物層上に前記オーバーコート層とを有することを特徴とする。
【0016】
また本発明の低放射積層体は、前記オーバーコート層が、SiNOC膜またはSiNO膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の低放射積層体は高い可視光透過率を有し、高湿度環境下に長期間放置したとき、該積層体表面に扇状欠陥が発生するのを抑制するものである。また、本発明の好適な実施形態のひとつは、成膜時における金属層の酸化を抑制することが可能であるため、従来使用している金属層を保護する層をあえて使用しなくとも良好な低放射積層体を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】スパッタリング装置の概略図。
【図2】本発明の低放射積層体の第1の実施形態を示す断面図。
【図3】本発明の低放射積層体の第2の実施形態を示す断面図。
【図4】実施例1で得られた低放射積層体の耐湿性試験後の光学顕微鏡写真。
【図5】比較例1で得られた低放射積層体の耐湿性試験後の光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態の断面図を図2に示す。当該実施形態は、図2に示すように、基材3上に、窒化物層13と金属層14とを積層した積層膜17と、該積層膜16上に形成された窒化物層16と、該窒化物層16上に形成されたオーバーコート層15とを有する。
【0020】
前記積層膜17の窒化物層13は透明で、なおかつ可視光の反射を抑える効果を有するものであり、AlN、Siが好適に使用される。該窒化物層13の膜厚としては、20〜60nm程度とするのが好ましい。
【0021】
前記金属層14は、基材3上に該窒化物層13を形成した際、成膜装置に導入したガスの入れ替えやセパレーション、およびターゲット表面のリフレッシュをする必要がないことから、Agを主成分とすることが好ましい。また、該金属層14の膜厚は7〜20nm程度が好ましく、7nm未満、もしくは20nmを超えると、低放射積層体が良好な放射性もしくは良好な可視光透過率を達成できない可能性がある。
【0022】
前記オーバーコート層15は、大気中の酸素や水分の浸透を抑制し、可視光透過性を大きく損なうことなく該オーバーコート層15より下層に形成された前記窒化物層13、16や前記金属層14の酸化を抑制する。該オーバーコート層15は、可視光透過性や耐湿性等を損なわない程度であれば、Al、Ti、Zrから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含んでいてもよい。また、該オーバーコート層15は5nm程度の膜厚で十分な効果が得られ、膜厚をさらに厚くしても充分な効果が得られるが膜厚の増加とともに可視光透過率が低下することから、膜厚は5〜50nm程度が好ましく、より好ましくは5〜20nmとしてもよい。
【0023】
本発明の第1の実施形態において、前記金属層14上に形成される窒化物層16としては、例えばSi、Al、B等が挙げられ、特にAlN、Siが好適に用いられる。該窒化物層16を該金属層上14に形成することで、可視域の反射を抑える効果を有するとともに、該金属層14の酸化を保護することが可能となる。該窒化物層16の膜厚としては、20〜60nm程度であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の第2の実施形態の断面図を図3に示す。当該実施形態は、基材3上に、窒化物層13、金属層14、窒化物層13、金属層14、窒化物層16、オーバーコート層15、をこの順に形成したものであり、前記第1の実施形態が前記積層膜17の積層回数を1回としたものであるのに対し、当該実施形態は該積層膜17の積層回数を2回としたものであることが異なっている。当該実施形態において、第1の積層膜17と第2の積層膜17同士は接して形成されており、該第1の積層膜17の金属層14と、該第2の金属層14との間に形成される、該第2の窒化物層13の膜厚は、60〜120nm程度であることが好ましい。
【0025】
当該実施形態は、可視光透過性が第1の実施形態と同程度でありながら、第1の実施形態よりも低い放射性を達成したものである。
【0026】
本発明の低放射積層体において、基材3には、可視光に光透過性を有する透明基材が用いられる。該透明基材は、ガラス基材が好適に使用される。
【0027】
ガラス基材の例としては、建築用や車両用をはじめとする窓や鏡、ディスプレイ用に使用されているソーダ石灰ケイ酸塩ガラスからなるフロ−ト板ガラス、又はロ−ルアウト法で製造されたソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等無機質の透明性がある板ガラスが挙げられる。
【0028】
当該板ガラスには、無色のもの、着色のもの共に使用可能で、基材の形状は、平板、曲げ板を問わず、さらには、風冷強化ガラス、化学強化ガラス等の各種強化ガラスの他に網入りガラスも使用できる。さらには、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス、TFT用ガラス、PDP用ガラス、光学フィルタ用基材ガラス等の各種ガラス基材を用いることができる。
【0029】
また、ガラス基材以外の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂等の樹脂基材が挙げられる。
【0030】
本発明の低放射積層体において、該積層膜17の該窒化物層13と該金属層14との間、該積層膜17と該オーバーコート層15との間に、可視光透過性や耐湿性等の性質を損なわなければ、1層以上が介在してもよい。上記の介在させる層は、例えば、Si、Sn、Zn、Al、Ti、Ta等の窒化物や窒酸化物、該金属層の酸化を防ぐ保護層として、Zn、Sn、Ti、Nb、Al、NiCr、Cr、Zr、Ta、Zn合金、及びTi合金等を主成分とする層等が挙げられる。なお、「基材上」とは、形成する膜が基材に接するものでも、基材と該膜との間に他の膜が介在するものでも良い。
【0031】
また、前記金属層14上に形成される層は誘電体とすることがよく、成膜装置内に導入したガスの入れ替えやセパレーション、およびターゲット表面をリフレッシュする必要がないことから、窒化物層が形成されるのが好ましい。
【0032】
本発明の低放射積層体は、スパッタリングなどの蒸着プロセスを用いて形成されることが好ましい。蒸着プロセスには、スパッタリング以外にも電子ビーム蒸着、イオンビームデポジション、イオンプレーティングなどを用いても良い。生産性を考慮すると、図1に示されるようなスパッタ成膜機にて成膜を行うことが好ましい。
【0033】
図1において、基材3を基材ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー8内を真空ポンプ5によって排気し、成膜中、真空ポンプ5は連続して稼働させ、真空チャンバー内の雰囲気ガスは、ガス導入管7より導入し、ガスの流量をマスフローコントローラー(図示せず)により制御して調整する。成膜中の真空チャンバ−内の圧力は、真空チャンバーと真空ポンプの間に設置されたバルブ6の開度を制御することで調節する。裏側にマグネット4が配置されたターゲット1を用い、ターゲットへ電源コード9を通じで電源10より投入する。基材ホルダー2は搬送ロール12上を搬送され、ターゲット1の前を通過し、このとき基材3上に薄膜が形成される。
【0034】
前記積層膜17を形成する際、使用するターゲットには所望の薄膜に応じた金属ターゲットを用いればよく、主成分となる金属以外の異種金属が添加された合金ターゲットを用いてもよい。また、使用するガスは適宜選択されればよく、例えばAr、Xe、Ne、Kr、N等の不活性ガスや、上記ガスを2種類以上混合した混合ガス、上記ガス及び混合ガスに任意の第3成分を含む混合ガス等が挙げられる。
【0035】
また、前記オーバーコート層15を形成する際、ターゲットとしてSi、Si、SiC等のSi系ターゲットが好適に使用される。Siターゲットを用いる場合、スパッタガスにAr、反応性ガスにNとCOとの混合ガスを用いること、Siターゲットを用いる場合、スパッタガスにAr、反応性ガスにOやCOガスを用いること、SiCターゲットを用いる場合、スパッタガスにAr、反応性ガスにOやNの混合ガスを用いることが好ましい。また、該スパッタガスにはAr以外にXe、Ne、Krなどのガスを用いてもよい。また上記Si系ターゲットは、導電性を付与するために、数at%のBやPなどが添加されていても良い。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は係る実施例に限定されるものではない。また、実施例および比較例における各層の膜厚は基材側から見た反射光の色調が、入射角を変えてもニュートラル(入射角0°〜60°の範囲にてJIS Z8729で規定するL*a*b*色度座標図において、−10≦a*≦0、−15≦b*≦0であること)となるよう構成されている。なお、得られた低放射積層体について、下記の測定法により評価した。
【0037】
(1)光学特性
低放射積層体を自記分光光度計(日立製作所製U−4000)を用いて測定し、JIS R 3106に準拠して可視光透過率(波長範囲380〜780nm)、日射透過率(波長範囲300〜2100nm)を求めた。また、このとき光源はD65光源を用いた。さらに、赤外分光光度計(日立製作所製270‐30)を用いて測定し(波数2000〜400cm−1)、JIS R 3106に準拠して垂直放射率を求めた。
【0038】
(2)耐湿性
低放射積層体を、30℃、90%RH環境下に2週間保持した後、中心から大きさ200mm×200mmの領域を目視で判定し、判定結果を表1に記載した。また、欠陥の形状および大きさはマイクロスコープ(キーエンス製VHX−500)を用いて観察した。なお、2週間経過時、直径0.1mm未満、もしくは直径0.1mm以上の大きさの欠陥数が3個以内のものを合格とし、○印とした。また、欠陥の数が3〜10個のものを△印、10個以上のものを×印とした。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1
大きさ300mm×300mm×3mmのフロート法で得られたソーダ石灰ケイ酸塩ガラス(以下FL3と表記することもある)をアルカリ、純水で超音波洗浄し、乾燥した。
【0041】
DCマグネトロンスパッタリング装置の真空槽内に予めAl、Ag、Siの各ターゲットを取り付け、前記ガラス基材をターゲットに対向して往復できるようにセットした。次に成膜前の圧力が2×10―4Paとなるまで真空槽内の排気を十分に行った後、該真空槽内に流量45sccmのArガスと12sccmのNガスを導入して圧力を0.3Paに保持し、前記Alターゲットに約1kWの電力を印加し、ガラスを搬送させ第1層として約18nm厚さのAlN膜を成膜した。
【0042】
次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Agターゲットに0.12kWの電力を印加し、第2層として約12nmの厚さのAg膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Alターゲットに1kWの電力を印加し、第3層として約46nm厚さのAlN膜を成膜した。次いで真空槽内を再び2×10−4Paまで排気した後、真空槽内に流量17sccmのArガスと34sccmのNガスと6sccmのCOガスを導入して圧力0.3Paに保持し、前記Siターゲットに約2kWの電力を印加し、ガラスを搬送させ第4層として11nmのSiNOC膜を成膜した。成膜が完了した後、ガラスを成膜室から取り出した。
【0043】
上記で得られた低放射積層体の性能を評価した結果、表1に示すように可視光透過率が約77%と高く、日射透過率は56%と低いため、遮熱性に優れたものであることが示された。さらに、図4に示すように高湿度環境下に放置した場合を想定した加速試験(耐湿性試験)においても、2週間にわたってほとんど欠陥は認められなかったことから、高湿度環境下に長期間耐え得る高耐久性低放射積層体であることがわかった。
【0044】
実施例2
第1層を膜厚20nmのSiとした以外は実施例1と同様の手順で低放射積層体を得た。
得られた低放射積層体は、可視光の透過率が約77%と高く、さらに日射透過率は約56%と優れており、さらに耐湿性においても優れた性能を示しており、高耐久性低放射積層体として望ましいものであった。
【0045】
実施例3
実施例1と同様に、DCマグネトロンスパッタリング装置の真空槽内に予めAl、Ag、Siの各ターゲットを取り付け、前記ガラス基材をターゲットに対向して往復できるようにセットした。つぎに成膜前の圧力が2×10―4Paとなるまで真空槽内の排気を十分に行った後、該真空槽内に流量45sccmのArガスと12sccmのNガスを導入して圧力を0.3Paに保持し、前記Alターゲットに約1kWの電力を印加し、ガラスを搬送させ第1層として約28nm厚さのAlN膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Agターゲットに0.12kWの電力を印加し、第2層として約13nm厚さのAg膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Alターゲットに1kWの電力を印加し、第3層として約88nm厚さのAlN膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Agターゲットに0.12kWの電力を印加し、第4層として14nm厚さのAg膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Alターゲットに1kWの電力を印加し、第5層として約30nm厚さのAlN膜を成膜した。次いで真空槽内を再び2×10−4Paまで排気した後、該真空槽内に流量17sccmのArガスと34sccmのNガスと6sccmのCOガスを導入して圧力0.3Paに保持し、前記Siターゲットに約2kWの電力を印加し、ガラスを搬送させ第6層として10nmのSiNOC膜を成膜した。成膜が完了した後、ガラスを成膜室から取り出した。
【0046】
得られた低放射積層体は、可視光の透過率が約77%と高く、さらに日射透過率は約40%と非常に優れたものであった。さらに、耐湿性においても優れた性能を示しており、高耐久性低放射積層体として望ましいものであった。
【0047】
比較例1
DCマグネトロンスパッタリング装置の真空槽内に予めAl、Agの各ターゲットを取り付け、前記ガラス基材をターゲットに対向して往復できるようにセットした。つぎに成膜前の圧力が2×10―4Paとなるまで真空槽内の排気を十分に行った後、該真空槽内に流量45sccmのArガスと12sccmのNガスを導入して圧力を0.3Paに保持し、前記Alターゲットに約1kWの電力を印加し、ガラスを搬送させ第1層として約15nm厚さのAlN膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Agターゲットに0.12kWの電力を印加し、第2層として約12nmの厚さのAg膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Alターゲットに1kWの電力を印加し、第3層として約50nm厚さのAlN膜を成膜した。成膜が完了した後、ガラスを成膜室から取り出した。
【0048】
得られた低放射積層体は、可視光の透過率が78%と高いものの、30℃、90%RH環境下に2週間放置すると、図5に示すように目視で確認できる0.1mm未満の扇状欠陥が50個以上全面に発生し、高湿度環境下に長期放置できるものではなく、所望する高耐久性低放射積層体ではなかった。
【0049】
比較例2
DCマグネトロンスパッタリング装置の真空槽内に予めAl、Ag、NiCrの各ターゲットを取り付け、前記ガラス基材をターゲットに対向して往復できるようにセットした。つぎに成膜前の圧力が2×10―4Paとなるまで真空槽内の排気を十分に行った後、該真空槽内に流量45sccmのArガスと12sccmのNガスを導入して圧力を0.3Paに保持し、前記Alターゲットに約1kWの電力を印加し、ガラスを搬送させ第1層として約41nm厚さのAlN膜を成膜した。
【0050】
次いで前記真空槽内を再び2×10−4Paまで排気した後、真空槽内に流量45sccmのArガスを導入して圧力を0.3Paに保持し、前記NiCrターゲット約0.1kWの電力を印加し、AlN膜上に第2層として約0.5nm厚さのNiCr膜を成膜した。
【0051】
次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Agターゲットに約0.12kWの電力を印加し、前記NiCr膜上に第3層として約13nm厚さのAg膜を成膜した。
【0052】
次いで前記真空槽内を再び2×10−4Paまで排気した後、該真空槽内に流量45sccmのArガスと12sccmのNガスを導入して圧力を約0.3Paに保持し、前記Alターゲットに約1kWの電力を印加し、前記Ag膜上に第4層として約88nm厚さのAlN膜を成膜した。
【0053】
次いで前記真空槽内を再び2×10−4Paまで排気した後、真空槽内に流量45sccmのArガスを導入して圧力を0.3Paに保持し、前記NiCrターゲット約0.1kWの電力を印加し、AlN膜上に第5層として約0.5nm厚さのNiCr膜を成膜した。次いで同じガス組成で約0.3Paに保持したまま、前記Agターゲットに約0.12kWの電力を印加し、前記NiCr膜上に第6層として約14nm厚さのAg膜を成膜した。
【0054】
次いで前記真空槽内を再び2×10−4Paまで排気した後、該真空槽内に流量45sccmのArガスと12sccmのNガスを導入して圧力を約0.3Paに保持し、前記Alターゲットに約1kWの電力を印加し、前記Ag膜上に第7層として35nm厚さのAlN膜を成膜した。成膜が完了した後、ガラスを成膜室から取り出した。
【0055】
得られた低放射積層体は、耐湿性に優れるものの、可視光の透過率は実施例3に比べて約7%低く、所望する高耐久性低放射積層体ではなかった。
【符号の説明】
【0056】
1 ターゲット
2 基材ホルダー
3 基材
4 マグネット
5 真空ポンプ
6 開閉バルブ
7 ガス導入管
8 真空チャンバー
9 電源コード
10 電源
11 バッキングプレート
12 搬送ロール
13 窒化物層
14 金属層
15 オーバーコート層
16 窒化物層
17 積層膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする窒化物層と、該窒化物層上にAgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする金属層とを有し、該窒化物層と該金属層とがn回(nは1以上の整数)積層された積層膜を有する低放射積層体であって、該積層膜の上に、N、O、及びCからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むSiを主成分とするオーバーコート層を有することを特徴とする低放射積層体。
【請求項2】
前記積層膜において、n回目に積層された金属膜上に、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする窒化物層と、該窒化物層上に前記オーバーコート層とを有することを特徴とする請求項1に記載の低放射積層体。
【請求項3】
前記オーバーコート層が、SiNOCまたはSiNOであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低放射積層体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された低放射積層体を含むことを特徴とする低放射ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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