説明

高速差動用クワッドケーブル

【課題】ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化を抑制できる高速差動用クワッドケーブルを提供すること。
【解決手段】本発明の高速差動用クワッドケーブル1は、複数本の導線11aを撚り合わせた内部導体11の外周に誘電体層12を設けた信号線10を4芯、右方向もしくは左方向に撚り合わせ、その外側に複数本の導線16aを4芯の信号線の撚り方向と同一方向に撚り合わせた外部導体16を設けた構成となっている。このように、4芯の信号線の撚り方向と外部導体の撚り方向とが同一方向となるように構成したので、ケーブルの摺動時の4芯の信号線と外部導体の挙動が近似したものとなると推測され、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4芯の信号線を用いて信号の差動伝送を行う高速差動用クワッドケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、データ伝送が高速ビットレートで行われる場合に用いられる伝送線路として、高速差動ケーブルがある。このような高速差動ケーブルは、特許文献1に示されており、この特許文献1には、複合作動ペアケーブル(クワッドケーブル又はカッドケーブルともいう)が開示されている。このクワッドケーブルは、信号導線を絶縁体により被覆した4本の絶縁電線を充填芯材を中心に環状に配し、絶縁電線を囲んで絶縁スペーサを配している。そして、絶縁スペーサの外周に編組導体又はアルミ化されたポリエステルからなるシールド導体を配し、その外周を外被で覆った構成となっている。このようなクワッドケーブルはツインナクスケーブルと比べ細線化可能であるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平9−511359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ロボットに搭載されているカメラは、ロボットの動作に合わせて回転や昇降等の動作が可能なように構成されている。このため、一例として挙げるカメラリンクケーブルは、カメラの動作に追従して屈曲して摺動することになる。ところが、特許文献1に開示されているクワッドケーブルでは、ケーブルの摺動初期に特性インピーダンスや減衰量が例えば著しく上昇して変動し、電気特性の悪化現象が発生するため、摺動されるケーブルには適用困難である。この問題を解決するために、本発明者は、鋭意、研究、開発を続けた結果、摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化を防止できるクワッドケーブルの構成を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化を抑制できる高速差動用クワッドケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明の高速差動用クワッドケーブルでは、複数本の導線を撚り合わせた内部導体の外周に誘電体層を設けた信号線を4芯、右方向もしくは左方向に撚り合わせ、前記4芯の信号線の外周にバッファ層を設け、前記バッファ層の外周にテープ状部材を螺旋状に巻き付けた第1の巻回層を設け、前記第1の巻回層の外周に複数本の導線を前記4芯の信号線の撚り方向と同一方向に撚り合わせた外部導体を設け、前記外部導体の外周にテープ状部材を螺旋状に巻き付けた第2の巻回層を設け、前記第2の巻回層の外周に外被を設けたことを特徴としている。
【0007】
このように、4芯の信号線の撚り方向と外部導体の撚り方向とが同一方向となるように構成したので、ケーブルの摺動時の4芯の信号線と外部導体の挙動が近似したものとなると推測され、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化を抑制することができる。
【0008】
また、前記4芯の信号線の中心および該信号線と前記バッファ層の間には、高周波特性の良好な部材が介在されている。このように、高周波特性の良好な部材を介在させることにより、信号線同士の摺動を改善することができ、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る高速差動用クワッドケーブルの軸と直交する方向の図である。
【図2】実施例および比較例の高速差動用クワッドケーブルを摺動試験したときの特性インピーダンスおよび減衰量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る高速差動用クワッドケーブルの軸と直交する方向の図である。この高速差動用クワッドケーブル1は、複数本の導線11aを撚り合わせた中心導体11(内部導体)の外周に誘電体層12を形成した信号線10を、右方向もしくは左方向に4芯撚り合わせ、その際、4芯の信号線10の中心に介在13を配置している。さらに、4芯の信号線10の外周の隣接する信号線10間にも介在13を配置し、4芯の信号線10の誘電体層12および介在13の外側にバッファ層14を形成する。
【0012】
このバッファ層14の外周にテープ状部材でなる第1の巻回層15を形成し、第1の巻回層15の外周に複数本の導線16aを4芯の信号線10の撚り方向と同一方向に撚り合わせたシールド層(外部導体)16を形成する。さらに、シールド層16の外周にテープ状部材でなる第2の巻回層17を形成し、第2の巻回層17の外周にジャケット(外被)18を形成した構成となっている。
【0013】
中心導体11の導線11aは、例えば銀めっき高抗張力合金線が使用可能である。誘電体層12には、例えばテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂が使用可能である。介在13には、例えば多孔質ポリテトラフルオロエチレン(EPTFE)、延伸PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等の高周波特性が良好なフッ素樹脂が使用可能である。バッファ層14には、例えばEPTFE等のフッ素樹脂が使用可能である。
【0014】
第1および第2の巻回層15,17には、ALPET、即ちアルミ箔とポリエチレンテレフタレート(PET)とを、接着層としてポリ塩化ビニル(PVC)を介して積層してテープ状に形成した金属化テープが使用可能である。第1および第2の巻回層15,17は、バッファ層14およびシールド層16を包囲するように外周に螺旋状(いわゆる、スパイラル巻き)に設けられる。なお、第1および第2の巻回層15,17は、上記したような金属化テープを用いたが、例えば、PETに銅、アルミ等の金属を蒸着した金属蒸着テープあるいはアルミ箔、銅箔等の金属箔をテープ化した金属テープを用いても良いことは勿論のことである。シールド層16の導線16aは、例えば錫メッキ錫入り合金線が使用可能である。ジャケット18には、例えばFEPが使用可能である。
【0015】
このような構成の高速差動用クワッドケーブル1は以下の手順により作製される。先ず、複数本の導線11aを撚って中心導体11とし、この中心導体11の外周に押出機(図示せず)を用いてFEPを押出し被覆して第1の誘電体層12を形成した信号線10を作製する。次に、4本の信号線10を誘電体層12が軸方向に接触するように、右方向もしくは左方向に撚り合わせ、その際、4芯の信号線10の中心にEPTFEもしくは延伸PFAでなる介在13を配置し、さらに、4芯の信号線10の外周の隣接する信号線10間にも介在13を配置する。
【0016】
そして、4芯の信号線10の誘電体層12および介在13の外側を包囲するように例えばEPTFEテープを巻回してバッファ層14を形成する。このバッファ層14の外周を包囲するように金属化テープを螺旋状に巻回(スパイラル巻き)して第1の巻回層15を形成する。そして、第1の巻回層15の外周に複数本の導線16aを4芯の信号線10の撚り方向と同一方向である右方向もしくは左方向に撚ってシールド層16を形成する。このシールド層16の外周を包囲するように金属化テープを螺旋状に巻回(スパイラル巻き)して第2の巻回層17を形成する。最後に、第2の巻回層17の外周に絶縁テープを巻き付けて、もしくは押出機を用いて絶縁体を押出し被覆してジャケット18を形成する。以上により、高速差動用クワッドケーブル1が完成する。
【0017】
以上のような構成の高速差動用クワッドケーブル1によれば、4芯の信号線10の撚り方向とシールド層16の導線16aの撚り方向とが同一方向となるように構成したので、ケーブルの摺動時の4芯の信号線10とシールド層16の挙動が近似したものとなると推測され、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量などの電気特性の悪化を抑制することができる。また、信号線10の中心および該信号線10とバッファ層14の間に、高周波特性の良好な介在13を配置しているので、信号線10同士の摺動を改善することができ、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化をさらに抑制することができる。
【0018】
次に、実施例として本実施形態の高速差動用クワッドケーブル1および比較例として従来の高速差動用クワッドケーブルを作製して摺動試験を行い、それらのインピーダンスおよび減衰量を測定したので、この測定結果について図2を参照して説明する。ここで、測定に使用した実施例の高速差動用クワッドケーブル1は、以下のようにして作製されている。中心導体11の導線11aとして外径0.079mmの銀めっき高抗張力合金線を19本用意し、該導線11aを撚って中心導体11とする。そして、この中心導体11の外周に外径0.65mmとなるように図示しない押出機を用いてFEPを押出し被覆して誘電体層12を形成し信号線10とする。
【0019】
4本の信号線10を誘電体層12が軸方向に接触するように、右方向もしくは左方向に撚り合わせ、その際、4芯の信号線10の中心の1箇所にEPTFEの介在13を配置し、さらに、4芯の信号線10の外周の隣接する信号線10間の4箇所にもEPTFEの介在13を配置する。そして、4本の信号線10の誘電体層12および介在13の外側を包囲するように、厚さ0.18mmとなるようにEPTFEを被覆してバッファ層14を形成する。
【0020】
そして、バッファ層14の外周を包囲するように、厚さ10μmのアルミ箔と厚さ12μmのPETとを厚さ2〜3μmのPVC(接着層)を介して積層してなるALPETを螺旋状に巻回(スパイラル巻き)して第1の巻回層15を形成する。そして、導線16aとして外径0.08mmの錫メッキ錫入り合金線を71本用意し、第1の巻回層15の外周に4芯の信号線10の撚り方向と同一方向である右方向もしくは左方向に撚ってシールド層16を形成する。
【0021】
さらに、シールド層16の外周を包囲するように、厚さ10μmのアルミ箔と厚さ12μmのPETとを厚さ2〜3μmのPVC(接着層)を介して積層してなるALPETを螺旋状に巻回(スパイラル巻き)して第2の巻回層17を形成する。最後に、第2の巻回層17の外周を包囲するように、厚さ0.05mmのFEPを被覆してジャケット18を形成する。一方、測定に使用した比較例の高速差動用クワッドケーブルは、上述の実施例の高速差動用クワッドケーブル1と略同一構成であるが、71本の導線16aを第1の巻回層の外周に4芯の信号線の撚り方向と逆方向である方向に撚ってシールド層を形成した点のみ異なる構成となっている。
【0022】
図2は、実施例の高速差動用クワッドケーブル1および比較例の高速差動用クワッドケーブルを1mとしてケーブル両端にコネクタを接続し、摺動試験機のマンドレル(曲げ半径15mm)にセットして100回/分で5000回の摺動試験を行ったときの特性インピーダンスZo(Ω)および周波数(GHz)を0.1GHzと1.0GHzとしたときの減衰量(dB/m)の変化を示す図である。
【0023】
図2から明らかなように、比較例の高速差動用クワッドケーブルでは、特性インピーダンスZo(Ω)は、初期値が100.38(Ω)であったものが5000回の摺動試験後は109.2(Ω)となり、変化率は8.8%であった。一方、実施例の高速差動用クワッドケーブル1では、特性インピーダンスZo(Ω)は、初期値が100.8(Ω)であったものが5000回の摺動試験後は102.89(Ω)となり、変化率は2.1%と比較例の高速差動用クワッドケーブルと比べ良好な値を示している。
【0024】
また、比較例の高速差動用クワッドケーブルでは、0.1GHzの周波数(GHz)の減衰量(dB/m)は、初期値が0.343(dB/m)であったものが5000回の摺動試験後は0.405(dB/m)となり、変化率は18.1%であった。また、1.0GHzの周波数(GHz)の減衰量(dB/m)は、初期値が1.32(dB/m)であったものが5000回の摺動試験後は1.74(dB/m)となり、変化率は31.8%であった。
【0025】
一方、実施例の高速差動用クワッドケーブル1では、0.1GHzの周波数(GHz)の減衰量(dB/m)は、初期値が0.375(dB/m)であったものが5000回の摺動試験後は0.376(dB/m)となり、変化率は0.3%と比較例の高速差動用クワッドケーブルと比べ非常に良好な値を示している。また、1.0GHzの周波数(GHz)の減衰量(dB/m)は、初期値が1.17(dB/m)であったものが5000回の摺動試験後は1.28(dB/m)となり、変化率は9.4%とこれも比較例の高速差動用クワッドケーブルと比べ非常に良好な値を示している。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の高速差動用クワッドケーブル1によれば、ケーブルの摺動初期における特性インピーダンスや減衰量の悪化を抑制することができるため、摺動されるケーブル、例えばロボットに搭載されているカメラリンクケーブルに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の高速差動用クワッドケーブルは、カメラリンクケーブルのみならず、摺動されると共に高速ビットレートで長距離のデータ伝送を行う機器、例えば、ノート型のコンピュータや折り畳み式の携帯電話等の可動部を有する電子機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 高速差動用クワッドケーブル、10 信号線、11 中心導体(内部導体)、11a 導線、12 誘電体層、13 介在、14 バッファ層、15 第1の巻回層、16 シールド層(外部導体)、16a 導線、17 第2の巻回層、18 ジャケット(外被)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導線を撚り合わせた内部導体の外周に誘電体層を設けた信号線を4芯、右方向もしくは左方向に撚り合わせ、前記4芯の信号線の外周にバッファ層を設け、前記バッファ層の外周にテープ状部材を螺旋状に巻き付けた第1の巻回層を設け、前記第1の巻回層の外周に複数本の導線を前記4芯の信号線の撚り方向と同一方向に撚り合わせた外部導体を設け、前記外部導体の外周にテープ状部材を螺旋状に巻き付けた第2の巻回層を設け、前記第2の巻回層の外周に外被を設けたことを特徴とする高速差動用クワッドケーブル。
【請求項2】
前記4芯の信号線の中心および該信号線と前記バッファ層の間に、高周波特性の良好な部材を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の高速差動用クワッドケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−129261(P2011−129261A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283822(P2009−283822)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】