説明

高電圧発生回路

【目的】 高電圧発生回路における高圧安定化制御を応答性よく行い、一次コイルに流れ込む電流変化を少くしてスイッチングノイズを小さくする。
【構成】 フライバックトランス3の一次コイル1側に、水平出力トランジスタ6とダンパーダイオード4と共振コンデンサ5とを並列に接続する。同一次コイル1に還流用ダイオード12を直列接続させ、一次コイル1と水平出力トランジスタ6と還流用ダイオード12とより電流還流回路を形成する。一次コイル1の一端側に制御トランジスタ11と駆動電源8を接続する。同制御トランジスタ11にスイッチ断続制御回路を接続し、高圧出力電圧の降下量が大きくなると制御トランジスタ11の断続スイッチオン期間を長くしてフライバックパルスの波高値を高くすることにより高圧出力電圧の安定化を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フライバックパルスを昇圧してその昇圧出力を陰極線管のアノードへ加える高電圧発生回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】テレビジョン受像機やディスプレイ装置の陰極線管に数10KVという高い電圧を印加する高電圧発生回路には、通常高圧出力電圧の安定化を行う高圧安定化回路が備えられている。この高圧安定化回路を組み込んだ従来の高電圧発生回路が図6に示されている。同図において、フライバックトランス3の一次側にダンパーダイオード4と、共振コンデンサ5と、水平出力スイッチ素子としての水平出力トランジスタ6と、電圧制御回路7と、駆動電源8とを有しており、水平出力トランジスタ6のオフ時にフライバックトランス3の一次コイル1と共振コンデンサ5とのLC直列共振によってフライバックパルスを発生させ、このフライバックパルスをフライバックトランス3で昇圧して陰極線管9のアノードに加えるものである。電圧制御回路7はこの陰極線管9のアノードに加わる高圧出力電圧を検出し、例えば高圧出力電圧が降下したとき、その降下量に応じて駆動電源8の電源電圧を高くなる方向に制御してフライバックパルスの波高値を高くし、常に高圧出力電圧が一定となるよう制御する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図6に示す従来の高電圧発生回路では電圧制御回路7に周知の如く大容量のコンデンサ(図示せず)が使用されており、そのため同コンデンサの時定数によって高圧安定化制御の応答性が悪くなるという問題があった。
【0004】本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は高圧安定化制御の応答性の優れた高電圧発生回路を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、次のように構成されている。すなわち、本発明は、フライバックトランスの一次側に水平出力スイッチ素子と、この水平出力スイッチ素子のオフ時にフライバックトランスの一次コイルとのLC共振によってフライバックパルスを発生させる共振コンデンサと、このフライバックパルスの波高値を制御する高圧制御スイッチ素子とを有し、高圧制御スイッチ素子のオフ時に前記フライバックトランスの一次コイルと水平出力スイッチ素子を通って還流する電流還流回路が形成されている高電圧発生回路であって、前記高圧制御スイッチ素子には水平出力スイッチ素子がオンしているトランジスタ期間でスイッチオン・オフを繰り返し断続制御するスイッチ断続制御回路が接続されており、このスイッチ断続制御回路は高圧出力電圧の降下量が大きくなるにつれ断続スイッチオンのパルス幅を大きくすることを特徴として構成されている。
【0006】
【作用】水平出力スイッチ素子がオンしているトランジスタ期間に高圧制御スイッチ素子はスイッチ断続制御回路によりオン・オフを繰り返す。高圧制御スイッチ素子の1続スイッチオンのパルス幅に応じて駆動電源から一次コイルを通る電流が一次コイルに電磁エネルギとして蓄えられる。
【0007】次に、水平出力スイッチ素子がオフしたとき同一次コイルと共振コンデンサとのLC共振によりフライバックパルスが発生する。高圧出力電圧の降下量が大きくなればなるほど前記高圧制御スイッチ素子の断続スイッチオンのパルス幅が大きくなってフライバックパルスの波高値は高くなり、高圧出力電圧の降下量が補償されて高圧出力電圧の安定化が行われる。
【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1には本発明に係る高電圧発生回路の一実施例の回路構成が示されている。本実施例が従来例と異なる特徴的なことは、従来例では高圧出力電圧の安定化を電源電圧を制御する方式で行ったが、本実施例では、スイッチ動作によりフライバックパルスの波高値の大きさを制御するスイッチ制御方式にし、かつ、このスイッチ制御方式を特有な回路構成としたことである。
【0009】同図において、フライバックトランス3の一次コイル1の一端側、例えば巻き始め側には還流用ダイオード12が接続されており、この一次コイル1と還流用ダイオード12との直列回路に並列に水平出力スイッチ素子としての水平出力トランジスタ6と、ダンパーダイオード4と、共振コンデンサ5とがそれぞれ接続されており、水平出力トランジスタ6のエミッタ側はアース側(グランド側)に接続されている。同水平出力トランジスタ6のベース側は水平ドライブ回路(図示せず)から図2の(a)に示すような水平ドライブ信号(HD信号)が加えられる。一次コイル1と水平出力トランジスタ6と還流用ダイオード12とより電流還流回路が形成されている。
【0010】前記一次コイル1と還流用ダイオード12との直列接続部には高圧制御スイッチ素子として機能する制御トランジスタ11のエミッタ側が接続されており、制御トランジスタ11のコレクタ側は駆動電源8の正極側に接続され、駆動電源8の負極側はグランド側に接続されている。そして、前記制御トランジスタ11には並列にダイオード13が接続されている。
【0011】フライバックトランス3の二次コイル2の高圧端側は、高圧整流ダイオード19とコンデンサ20との半波整流回路を介して陰極線管9のアノードに接続されている。二次コイル2の高圧端側には分圧抵抗体16,17の直列回路が接続されており、この分圧抵抗体16,17により分圧されて高圧出力電圧EH が検出される。
【0012】前記制御トランジスタ11のベース側は、高圧出力電圧の降下量に応じてスイッチオンのタイミングを可変制御するスイッチ断続制御回路が接続されている。このスイッチ断続制御回路は、エラーアンプ14と差動増幅器15と基準鋸波信号発生回路22とを有して構成されている。エラーアンプ14は高圧出力電圧の検出電圧ES と基準電源18の基準電圧EO とを比較し、高圧出力電圧の降下量に応じた図2の(b)に示すような比較信号EC を差動増幅器15の非反転入力端子側に加える。差動増幅器15の反転入力端子側は水平ドライブ信号よりも周波数の高い図2の(b)に示すような常に一定の鋸波EM を発生する基準鋸波信号発生回路22に接続されている。差動増幅器15では図2の(b)に示すように前記比較信号EC と鋸波EM とを比較してこの鋸波EM の立ち下がり部分と比較信号EC との交点で立ち上がり、鋸波EM の立ち上がり部分と比較信号EC との交点で立ち下がる同図の(c)に示すような断続したパルスドライブ信号EP を出力し、これを前記制御トランジスタ11のベース側に加えている。つまり、差動増幅器15は高圧出力電圧の降下量が大きくなるにつれ、すなわち、比較信号EC のレベルが高くなるにつれ、オンのパルス幅を大きくし、オフのパルス幅を小さくしたパルスドライブ信号EP を作り出して制御トランジスタ11に加えている。
【0013】この実施例は上記のように構成されており、次に図2のタイムチャートと図3の各動作回路図に基づき高圧出力電圧の安定化動作を説明する。まず、t1 〜t1A期間では、t1 の時点で水平出力トランジスタ6がHD信号に同期してオフすることによって共振コンデンサ5と一次コイル1とが直列LC共振を開始し、水平出力トランジスタ6がオフする前に駆動電源8からの電流によって一次コイル1に蓄えられていた電磁エネルギは共振コンデンサ5の静電エネルギに図2の(e)に示すように変換されフライバックパルスが作り出されていく。次にt1A〜t2 期間では制御トランジスタ11がオフとなるので駆動電源8を経由することなく還流用ダイオード12を経由して一次コイル1の電磁エネルギは共振コンデンサ5に静電エネルギとして変換されて蓄積され、t2 で一次コイル1の電磁エネルギが全て静電エネルギに変換され、フライバックパルスのピークとなる。
【0014】t2 〜t3 期間では、共振コンデンサ5と一次コイル1とのLC共振により今度は共振コンデンサ5の静電エネルギが一次コイル1の電磁エネルギに逆変換されて行き、水平出力トランジスタ6のコレクタ電圧は徐々に低下し、t3 の時点でコレクタ電圧は零になり、フライバックパルスが作り出される。
【0015】次に、コレクタ電圧が零電位より小さくなるとダンパーダイオード4がオンしてダンパー期間t3 〜t4 となり、グランド側からダンパーダイオード4を通って一次コイル1側にダンパー電流が流れ、t4 の時点でダンパーダイオード4のアノード側の電圧がカソード側の電圧よりも低くなってダンパーダイオード4がオフする。
【0016】次に、t4 〜t5 のトランジスタ期間では制御トランジスタ11がオンしているTON期間と制御トランジスタ11がオフしているTOFF 期間とが、制御トランジスタ11のオン・オフ状態により繰り返される。TON期間では水平出力トランジスタ6と制御トランジスタ11とが共にオンしており、図2の(d)に示すように駆動電源8から一次コイル1を経て水平出力トランジスタ6側に電流が時間の経過とともに増加する態様で流れ、一次コイル1に、電磁エネルギが蓄積される。次に、TOFF 期間では、水平出力トランジスタ6がオン状態であるが制御トランジスタ11がオフとなるので、制御トランジスタ11側に流れる電流の経路が遮断されるので、電流は一次コイル1、水平出力トランジスタ6、還流用ダイオード12を順に経て一次コイル1に至る閉ループ、すなわち電流還流回路を還流し、電磁エネルギは保持される。以上のTON期間とTOFF 期間の動作が繰り返されてt5 に至ると最初のt1 の状態に一致し、以上のt1 〜t5 の動作が繰り返されることにより、回路動作が継続される。
【0017】このように本実施例によれば、高圧出力電圧の降下量が大きくなればなるほどトランジスタ期間内の制御トランジスタ11の断続スイッチオンの期間TONが長くなり、駆動電源8から一次コイル1に電流が多く流れ一次コイル1に電磁エネルギが多く蓄積され、水平出力トランジスタ6のオフ時に発生するフライバックパルスの波高値は高くなり、高圧出力電圧の降下量が補償されて高圧出力電圧の安定化が行われる。
【0018】また、本実施例は、従来のような電圧制御方式でなく、スイッチ制御方式によって高圧出力電圧EH の安定化を行っているので、大容量のコンデンサを使用する必要がないので高圧安定化制御の応答性が向上する。
【0019】さらに、水平出力トランジスタ6がオンしているトランジスタ期間に制御トランジスタ11がオンしているTON期間では、一次コイル1に流れる電流は図2の(d)に示すように増加し、制御トランジスタ11がオフしているTOFF 期間では、一次コイル1に流れる電流のレベルが維持されて、電流は電流還流回路を還流し、次に制御トランジスタ11がオンすると、その電流レベルから一次コイル1に電流が増加して流れる。以上のようなTON期間とTOFF 期間とを繰り返して、一次コイル1に電流が流れて、同図の(d)に示すように電流の変化が緩やかな直線状態となり、電磁エネルギが蓄積される。
【0020】トランジスタ期間内で、同図の(g),(h)に示すように1回だけ制御トランジスタ11をオンさせ、このトランジスタオンのタイミングを制御することで、高圧安定化制御を行うこともできるが、この場合には、制御トランジスタ11のオン・オフ時に一次コイル1に流れる電流が大きく変化し、スイッチングノイズの発生が大きくなる。本実施例では、制御トランジスタ11がオン時に一次コイル1に電磁エネルギを蓄積し、制御トランジスタがオフ時に電流還流回路を還流するという動作を繰り返すようにしたので、トランジスタ期間における制御トランジスタ11のオン時からオフ時に至る電流の増加量が小さくなり、オン時の電流レベルはオフ時の電流還流回路を還流する電流レベルと等しく、オン・オフ時にレベル差の小さい電流の変化が断続的に繰り返される。トランジスタ期間の始期から終期にかけての電流の増加量は、図2の(d)に示すように直線状態となり、かつ、制御トランジスタ11のオン・オフ時の電流変化が極めて小さくなる。
【0021】制御トランジスタ11のオン・オフ時に発生するスイッチングノイズは、一次コイル1に流れる電流の変化が大きい程、大きく発生する傾向があるので、本実施例のように、一次コイル1に流れる電流の変化を極めて小さくした場合には、スイッチングノイズの発生が極めて小さくなり、トランジスタ期間でのスイッチングノイズのトータル量は図2の(g),(h)に示すように、トランジスタ期間に1度だけ制御トランジスタをオンさせるものよりも格段に小さくなり、スイッチングノイズによるディスプレイ画面への悪影響を小さくすることができる。
【0022】また、同図の(g),(h)に示すように、トランジスタ期間内で1回だけ制御トランジスタ11をオンさせる場合には、制御トランジスタ11のオフ時に電流還流回路を還流する電流値が大きくなるので、各回路素子には電力損失が大きく生ずるが、本実施例によれば、トランジスタ期間内で制御トランジスタのオン・オフ動作のスイッチング制御を断続的に行っているので、還流も断続的に生ずるため、その電流値も分散されて小さくなり、電流還流回路の各回路素子から発生する電力損失も分散されて小さくなり、トランジスタ期間内のトータル電力損失量も格段に小さくなる。
【0023】なお、本実施例は、上記実施例に限定されることはなく、様々な実施の態様を採り得る。例えば、上記実施例での水平出力トランジスタ6や制御トランジスタ11は、電界効果トランジスタ(FET)等で構成してもよい。
【0024】また、図4に示すように、共振コンデンサを5aと5bの直列回路によって構成し、スイッチ25のオン・オフ制御によって共振容量の大きさを可変し、広範囲の周波数領域のマルチスキャンタイプのものに対応することができる。
【0025】さらに、図5に示すように、共振コンデンサ5に並列に偏向ヨーク26と補正コンデンサ27との直列回路を接続して、偏向高圧一体型の回路構成とすることも可能である。
【0026】さらに、上記実施例では、トランジスタ期間以外でも制御トランジスタ11をオン・オフを繰り返すようにしたが、トランジスタ期間以外では制御トランジスタ11がオフするようにしてもよい。
【0027】さらに、制御トランジスタ11と並列にコンデンサ28を接続する(図5の点線部分)ことにより、トランジスタ期間の電流波形をよりなだらかにして、スイッチングノイズの発生をより分散させて、画面への悪影響をより一層軽減できる。
【0028】
【発明の効果】本発明は、高圧制御スイッチ素子のオン・オフ制御によって、高圧出力電圧の安定化を行うスイッチ制御方式であるので、従来の電圧制御方式の場合のような大容量のコンデンサを使用しないので、高圧安定化制御の応答性がよくなる。
【0029】また、水平出力スイッチ素子がオン状態のトランジスタ期間で、高圧制御スイッチ素子がオン・オフを繰り返すことによってフライバックトランスの一次コイルへの電磁エネルギの蓄積が逐次行われるため、一次コイルに流れる電流の変化量が小さくなり、スイッチングノイズの発生を小さく分散させることができるので、スイッチングノイズによる画面への悪影響を小さくすることができる。
【0030】さらに、トランジスタ期間内で高圧制御トランジスタのオン・オフ動作を断続的に行っているので、高圧制御トランジスタのオフ時における電流還流回路での還流も断続的に生ずるため、その電流も分散されて小さくなり、各回路素子から発生する電力損失を小さくでき、トランジスタ期間内のトータル電力損失量も十分小さなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る高電圧発生回路の一実施例を示す回路構成図である。
【図2】同実施例の回路の動作を示すタイムチャートである。
【図3】同実施例の回路の動作タイミングの説明図である。
【図4】マルチスキャンタイプの他の実施例の回路説明図である。
【図5】偏向電圧一体型タイプのさらに他の実施例の回路説明図である。
【図6】従来の高電圧発生回路の説明図である。
【符号の説明】
1 一次コイル
3 フライバックトランス
5 共振コンデンサ
6 水平出力スイッチ素子
11 高圧制御スイッチ素子
H 高圧出力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フライバックトランスの一次側に水平出力スイッチ素子と、この水平出力スイッチ素子のオフ時にフライバックトランスの一次コイルとのLC共振によってフライバックパルスを発生させる共振コンデンサと、このフライバックパルスの波高値を制御する高圧制御スイッチ素子とを有し、高圧制御スイッチ素子のオフ時に前記フライバックトランスの一次コイルと水平出力スイッチ素子を通って還流する電流還流回路が形成されている高電圧発生回路であって、前記高圧制御スイッチ素子には水平出力スイッチ素子がオンしているトランジスタ期間でスイッチオン・オフを繰り返し断続制御するスイッチ断続制御回路が接続されており、このスイッチ断続制御回路は高圧出力電圧の降下量が大きくなるにつれ断続スイッチオンのパルス幅を大きくする構成とした高電圧発生回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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