説明

高TANかつ高SBN原油を混合する方法、並びに微粒子によって誘発される全原油ファウリングおよびアスファルテンによって誘発される全原油ファウリングを低減する方法

熱交換機器を汚染する可能性に事前に対処するために、基原油に高溶解分散力(HSDP)原油を添加する。HSDP成分は、コーキングが熱交換面に影響する前に、アスファルテン微粒子を溶解し、無機微粒子の懸濁を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製油所および石油化学工場における全原油、混合物および留分の処理に関する。特に、本発明は、微粒子によって誘発される原油ファウリングおよびアスファルテンによって誘発される原油ファウリングの低減に関する。本発明は、予熱列の熱交換器、加熱炉および他の製油所プロセスユニットにおけるファウリングを低減するために高全酸価(TAN)および高溶解ブレンド価(solubility blending number)(SBN)原油を混合することに関する。
【背景技術】
【0002】
ファウリングは、一般に、処理装置の表面の不要な物質の蓄積として定義される。石油処理において、ファウリングは、熱交換器表面の不要な炭化水素ベースの堆積物の蓄積である。それは、精製処理システムおよび石油化学処理システムの設計および動作において概して普遍的な問題として認識されており、2つの点で装置の動作に影響を与える。第1に、ファウリング層は熱伝導率が低い。これにより、熱伝達に対する抵抗が増大し、熱交換器の有効性が低減する。第2に、堆積が発生すると、断面積が低減し、それにより装置全体にわたって圧力降下が増大し、熱交換器における圧力および流れが非効率になる。
【0003】
石油タイプの流れに関連する熱交換器におけるファウリングは、化学反応、腐食、不溶性材料の堆積、および流体と熱交換壁との温度差によって不溶性になる材料の堆積を含む、多数のメカニズムから発生する可能性がある。たとえば、本発明者らは、たとえば図1および図2に示すように、酸化鉄(錆)微粒子が存在する場合、低硫黄、低アスファルテン(LSLA)原油および高硫黄、高アスファルテン(HSHA)原油混合物にファウリングが著しく増大し易いことを示した。
【0004】
急速なファウリングのより一般的な根本原因の1つは、特に、原油アスファルテンがヒータ管表面温度に過度に露出される場合に発生するコークスの形成である。熱交換器の他方の側の液体が全原油よりはるかに高温であり、それにより、表面または膜の温度が相対的に高くなる。アスファルテンは、油から析出しこれら高温面に付着する可能性がある。急速なファウリングの別の一般的な原因は、塩および微粒子の存在に帰する。塩/微粒子は、原油から析出し、熱交換器の高温面に付着する可能性がある。無機汚染物質は、全原油および混合物のファウリングにおいて開始および促進の両方の一因となる。酸化鉄、炭酸カルシウム、シリカ、ナトリウムおよび塩化カルシウムはすべて、汚染されたヒータロッドの表面にかつコークス堆積物を通して直接付着することが分かった。
【0005】
特に後方列の熱交換器において、かかる表面温度に長い時間露出されることにより、有機体およびアスファルテンが熱劣化してコークスになる可能性がある。そして、コークスは断熱材として作用し、表面がユニットを通過する油を加熱するのを妨げることにより、熱交換器における熱伝達効率を低下させる原因となる。塩、沈殿物および微粒子は、予熱列の熱交換器、加熱炉および他の下流ユニットのファウリングにおける主な要因となることが分かった。脱塩器ユニットが、依然として、製油所がかかる汚染物質を除去しなければならない唯一の機会であり、供給原油とのかかる材料のキャリーオーバから非効率がもたらされることが多い。
【0006】
製油所における油の混合は一般的であるが、混合物によっては、非相溶性であって、プロセス機器を急速に汚染する可能性があるアスファルテンの析出をもたらすものもある。原油の不適当な混合により、アスファルテン沈殿物が生成される可能性があり、それは熱伝達効率を低下させることが知られている。未処理の原油の大部分の混合物は非相溶性でない可能性があるが、一旦非相溶性混合物が得られると、通常、結果として生じる急速なファウリングおよびコーキングにより、短時間で精製プロセスを停止する必要がある。製油所をより収益性の高いレベルまで戻すためには、汚染された熱交換器を清掃する必要があり、それには通常、後述するように熱交換器を運用から外すことが必要となる。
【0007】
熱交換器の管内ファウリングにより、効率およびスループットが低下しエネルギー消費が追加されるため、石油精製所に毎年何億ドルものコストがかかる。エネルギーのコストが上昇することにより、熱交換器のファウリングはプロセス収益性に更により大きい影響を与える。石油精製所および石油化学工場ではまた、熱伝達装置において全原油、混合物および留分の熱処理中に発生するファウリングの結果として清掃が必要であるため、運転コストが高くなる。多くのタイプの製油所装置がファウリングの影響を受けるが、コスト見積りにより、収益損の大部分が、予熱列の交換器における全原油、混合物および留分のファウリングによってもたらされることが分かった。
【0008】
熱交換器のファウリングにより、製油所は清掃プロセスのために頻繁にコストのかかる電源遮断を行うことが余儀なくされる。現在、大部分の製油所は、化学的または機械的清掃を行うために熱交換器の動作を停止することにより、熱交換器の管束のオフライン清掃を行う。清掃は、スケジュールされた時間または使用に基づくか、または実際の監視されたファウリング状態に基づく場合がある。かかる状態は、熱交換効率の損失を評価することによって確定され得る。しかしながら、オフライン清掃は運用を中断する。これは、非生産期間があることになるため、小さい製油所には特に負担となる可能性がある。
【0009】
微粒子がファウリングを促進しアスファルテンが熱劣化するかまたはコークスになる前に、加熱面から微粒子およびアスファルテンが析出/付着するのを防止することができることが必要である。コーキングメカニズムには温度と時間とがともに必要である。時間因子は、微粒子を表面に近づけないことにより、かつアスファルテンを溶液内に維持することにより、大幅に低減することができる。かかるファウリングの低減および/または除去により、連続運転時間が長くなり(清掃の頻度が減少)、性能およびエネルギー効率が向上するとともに、費用のかかるファウリング軽減オプションに対する必要も低減する。
【0010】
製油所および原油スケジューラによっては、目下、予熱列の機器のアスファルテン析出および結果としてのファウリングを最小限にするために混合ガイドラインに従う。かかるガイドラインは、混合物の溶解ブレンド価(SBN)(SBNでも表す)と不溶解価(insolubility number)(I)との一定の関係を達成するように原油を混合することを提案している。SBNは、トルエン/n−ヘプタン等、種々の比率のモデル溶媒混合物との油の相溶性に関するパラメータである。参照により本明細書に援用される特許文献1において記載されているように、SBNは、同様に確定されるIに関連する。混合ガイドラインによっては、アスファルテン析出およびファウリングを最小限にするために、SBN/I混合比>1.3およびデルタ(SBN−I)>10を提案している。しかしながら、これら混合物は、アスファルテン析出を最小限にする消極的な手法として使用されるように設計されている。
【0011】
製油所機器のファウリングおよびコーキングを防止するように相溶性を維持しながら、潜在的に非相溶性である2つ以上の石油系油を混合する方法を改善する試みがなされてきた。特許文献1は、各供給流に対して不溶解価(I)を確定することと、各流れに対して溶解ブレンド価(SBN)を確定することと、供給流を結合して、混合物のSBNが混合物のいずれの成分のIよりも大きいようにすることと、を含む混合の方法を開示している。別の方法では、特許文献2は、石油系油を、混合物のSBNを混合物のいずれの油のIの1.4倍より高く維持するために、一定比率で結合する混合方法を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,871,634号明細書
【特許文献2】米国特許第5,997,723号明細書
【特許文献3】米国特許出願第11/436,602号明細書
【特許文献4】米国特許出願第11/436,802号明細書
【特許文献5】米国仮特許出願第60/815,845号明細書
【特許文献6】米国仮特許出願第60/751,985号明細書
【特許文献7】米国仮特許出願第60/815,844号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらの混合物は、アスファルテンによって誘発されるファウリングおよび微粒子によって誘発/促進されるファウリングに関連する両ファウリングを最小限にしない。有機、無機およびアスファルテン析出に対処し、それにより関連するファウラント堆積および/または蓄積を最小限にする事前の手法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、製油所における原油の処理に関連するファウリングを低減する方法を提供することである。熱交換器におけるファウリングを低減しかつ/または軽減することが望ましい。本発明を熱交換器に関して説明するが、本発明は熱交換器に限定されるようには意図されておらず、むしろ、本発明は、微粒子ファウリングおよび/またはアスファルテンファウリングのいずれかに関連するファウリング状態が発生する可能性のある他の構成要素(限定されないがパイプスチル、コーカ、ビスブレーカ等を含む)に適用可能であることが考えられる。当然ながら、本発明を他の処理施設および熱交換器、特に、精製プロセス中に受けるのと同様にファウリングを受け易く、かつ修理および清掃のためにオフラインにすることが不都合であるものに適用することが可能である。本発明に関連する一方法は、基原油を所定量の高溶解分散力(solvency dispersive power)(HSDP)原油と混合することを含む。HSDP原油の添加が、アスファルテンによって誘発されるファウリングと微粒子によって誘発/促進されるファウリングとをともに軽減することに有効であることが分かった。基原油は、全原油、2つ以上の原油の混合物またはその留分からなってもよい。HSDP原油は、全酸価(TAN)が少なくとも0.3である。HSDP原油として、限定されないが本明細書で説明する例を含むさまざまな原油を使用することができることが考えられる。他のHSDP原油は、TANが少なくとも0.3であれば、本発明の範囲内にあり、かつ基原油との混合に適していると考えられる。HSDP原油のTANは少なくとも0.5であることが好ましい。HSDP原油のTANは少なくとも1.0であることが更に好ましい。HSDP原油のTANは4を超えてもよいことが考えられる。また、最も有効なHSDP原油は分子量(たとえば重量平均)がより高いことも確定された。混合原油は、製油所内でファウリングが著しく低減して処理される。従って、製油所運転の効率が向上する。
【0015】
本発明によれば、HSDP原油の所定量は、混合基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも5%に等しい。HSDP原油は、混合基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも10%を占めてもよい。HSDP原油は、混合基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも25%を占めてもよい。HSDP原油の含有量は、混合基原油およびHSDP原油の総量の50%を超過しないことが好ましい。
【0016】
ファウリングを軽減する目的で本発明によれば、HSDP原油は、溶解ブレンド価(SBN)が少なくとも75であるべきである。SBNは少なくとも100であることが好ましい。SBNは少なくとも110であることがより好ましい。
【0017】
本発明の別の態様は、熱交換器におけるファウリングを低減する方法を提供することである。本方法は、基原油を所定量のHSDP原油と混合することを含む。基原油は、全原油、2つ以上の原油の混合物またはその留分からなってもよい。HSDP原油は、SBNが少なくとも85である。SBNは少なくとも100であることが好ましい。SBNは少なくとも110であることがより好ましい。HSDP原油の所定量は、混合基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも5%から多くとも50%に等しい。
【0018】
本発明の別の態様は、限定されないが熱交換器等を含む製油所構成要素においてアスファルテンによって誘発されるファウリングと微粒子によって誘発されるファウリングおよび/または促進とをともに低減し軽減することができる混合原油である。混合原油は、基原油とHSDP原油とを含む。HSDP原油は、TANが少なくとも0.3である。HSDP原油は、混合原油の総量の少なくとも5%を占める。HSDP原油としてさまざまな原油を使用することができることが考えられる。他のHSDP原油は、TANが少なくとも0.3であれば、本発明の範囲内にあり、かつ基原油と混合するのに適していると考えられる。HSDP原油のTANは少なくとも0.5であることが好ましい。HSDP原油のTANは少なくとも1.0であることがより好ましい。HSDP原油のTANは4を超過してもよい、ということが考えられる。本発明によれば、HSDP原油はSBNが少なくとも75であることが好ましい。SBNは少なくとも100であることがより好ましい。SBNは少なくとも110であることがより好ましい。
【0019】
混合原油に必要なHSDP原油の量は、HSDP原油のTAN値および/またはSBN値に基づいて変化する。HSDP原油のTAN値および/またはSBN値が高いほど、限定されないが熱交換器等を含む製油所構成要素においてアスファルテンによって誘発されるファウリングと微粒子によって誘発されるファウリングおよび/または促進を低減しかつ/または軽減する混合原油を生成するために必要なHSDP原油の量は低減する。HSDP原油は、混合原油の総量の5%〜50%の間を占めることが好ましい。
【0020】
本発明者らは、本発明に関連するファウリングの低減は、現場での(in−situ)ファウラント形成および除去メカニズムをやめることによるものであり、かつそのメカニズムの結果ではない、ということを確定した。本発明のこれらの態様および他の態様は、詳細な説明および添付図面をともに見ることにより明らかとなろう。
【0021】
ここで、添付図面に関連して本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】LSLA原油のファウリングに対する微粒子の影響を示すグラフである。
【図2】HSHA原油混合物のファウリングに対する微粒子の影響を示すグラフである。
【図3】本発明によるHSDP原油と混合された場合のHSHA原油混合物に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図4】本発明によるHSDP原油と混合された場合のLSLA原油に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図5】本発明によるHSDP原油Aと混合された場合のHSHA原油混合物に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図6】本発明によるHSDP原油Aと混合された場合のLSLA原油に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図7】本発明によるHSDP原油Bと混合された場合のHSHA原油に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図8】本発明によるHSDP原油Bと混合された場合のLSLA原油に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図9】本発明によるさまざまなHSDP原油(A〜G)と混合された場合のLSLA原油に関連するファウリングの低減を示す試験結果を例示するグラフである。
【図10】本発明によって使用されるアルコア(Alcor)ファウリングシミュレータの概略図である。
【0023】
図面において、同様の参照数字はそれぞれの図において対応する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここで、図に関連して本発明をより詳細に説明する。本発明は、製油所内に位置する熱交換器および他の構成要素におけるファウリングを低減することを目的とする。この目的は、所定量の高溶解分散力(HSDP)原料との、全原油、2つ以上の原油の混合物またはその留分からなってもよい混合基原油によって達成される。HSDP原油を添加することにより、アスファルテンによって誘発されるファウリングと微粒子によって誘発/促進されるファウリングとの両方が軽減される。これらHSDP原油のSbnが高いことにより、原油および/または混合物の残りにおけるいかなるアスファルテンの溶解性も向上させることができる。TANの存在は、原油混合物における微粒子の分散を助けるものと考えられており、それによりそれらが加熱面に付着することが防止される。ファウリングの低減を達成するために、HSDP原油は全酸価(TAN)が少なくとも0.3であるべきである。TANレベルが高いほど、ファウリングが更に低減されかつ軽減される可能性がある。HSDP原油は、溶解ブレンド価(SBN)が少なくとも75であるべきである。SBNが高いほど、ファウリングが更に低減されかつ軽減される可能性がある。混合原油に必要なHSDP原油の量は、HSDP原油のTAN値および/またはSBN値に基づいて変化する。HSDP原油のTAN値および/またはSBN値が高いほど、限定されないが熱交換器等を含む製油所構成要素においてアスファルテンによって誘発されるファウリングと微粒子によって誘発されるファウリングおよび/または促進とをともに低減しかつ/または軽減する混合原油を生成するために必要なHSDP原油の量が低減する。HSDP原油は、混合原油の総量の5%〜50%の間を占めることが好ましい。
【0025】
そして、混合原油を製油所内で処理する。混合原油は、基原油に比較して改善された特性を示す。特に、混合原油は、微粒子を含む基原油に比較してファウリングが著しく低減する。これにより、熱交換器内の熱伝達が向上しエネルギー消費量全体が低減する。
【0026】
図10は、原油に微粒子を添加することでファウリングにいかなる影響があるかと、HSDP原油の添加がファウリングの低減および軽減にいかなる影響があるかと、を測定するために使用されるアルコア(Alcor)試験構成を示す。試験構成は、原油の供給物(feed supply)を収容する貯蔵器10を有している。原油の供給物は、全原油を含む基原油かまたは2つ以上の原油を含む混合原油を含んでもよい。供給物はまた、HSDP原油を含んでもよい。供給物は、およそ150℃/302°Fの温度まで加熱され、その後、垂直に向けられた加熱ロッド12を含むシェル11に供給される。加熱ロッド12を、炭素鋼から形成してもよい。加熱ロッド12は、熱交換器における管をシミュレートしている。加熱ロッド12は、所定温度まで電気的に加熱され、試験中かかる所定温度で維持される。通常、ロッド表面温度はおよそ370℃/698°Fおよび400℃/752°Fである。供給物は、加熱ロッド12にわたっておよそ3.0mL/分の流速で圧送される。使用済み供給物は、貯蔵器10の上部において収集される。使用済み供給物は、封止されたピストンにより未処理供給油から分離されており、それにより貫流運転が可能となる。システムは、試験中に気体が油に溶解したままであることを確実にするために、窒素によって加圧されている(400〜500psig)。バルク流体入口温度および出口温度に対し、かつロッド12の表面に対して、熱電対読取値が記録される。
【0027】
一定表面温度試験中、加熱面にファウラントが堆積し蓄積する。ファウラント堆積物は熱劣化してコークスになる。コークス堆積物により、表面がその上を通過する油を加熱する効率および/または能力を低減する断熱効果がもたらされる。結果としての出口バルク流体温度の低下は、ファウリングが続く限り所定期間にわたって続く。この温度の低下を出口液体ΔTまたはdTと呼び、それは、原油/混合物のタイプ、試験条件、および/または塩、沈殿物または他のファウリング促進材の存在等、他の影響によって決まる可能性がある。標準アルコアファウリング試験を180分間行う。出口液体温度の全体的な低下によって測定される全体的なファウリングを、ΔT180またはdT180と呼ぶ。
【0028】
図1および図2は、原油の微粒子の存在が製油所構成要素またはユニットのファウリングに与える影響を示している。酸化鉄(Fe)粒子が存在する場合、粒子を含まない同様の原油と比較してファウリングが増大している。本発明を、基原油例として低硫黄、低アスファルテン即ちLSLA全原油と高硫黄、高アスファルテン即ちHSHA原油混合物とを使用することに関連して説明する。これら油を、原油のいくつかの分類を表すものとして選択した。LSLA原油は、SBNが低く、反応性硫黄が高く、アスファルテンが低い原油を表す。HSHA混合原油は、アスファルテンおよび反応性硫黄がともに高い原油を表す。これら原油の使用は単に例示の目的であり、本発明は、LSLA原油およびHSHA原油のみを用いる適用に限定されるようには意図されていない。本発明は、限定されないが熱交換器を含む製油所構成要素においてファウリングがもたらされかつ/またはファウリングを生成する、すべての全原油および混合原油並びにそれらの配合において適用されることが意図されている。ファウリングの存在により、熱交換器内に収容されている加熱管またはロッドの熱伝達が低減する。上述したように、ファウリングの存在は、熱交換器性能および効率に悪影響を及ぼす。
【0029】
本発明者らは、高TANかつ/または高SBNである原油を基原油に添加することにより、微粒子によって誘発されるファウリングが低減することが分かった。ファウリング低減の程度は、混合物全体におけるTANレベルの関数であることが分かった。これは、ナフテン酸が、混合物に存在する微粒子が湿潤して、本来促進されかつ加速されたファウリング/コーキングが発生する加熱面に付着しないようにすることができるためであると考えられる。大部分の高TAN原油は、非常に高いSBNレベルも有しており、それは、アスファルテンを溶解しかつ/またはそれらを溶液により効果的に維持するのに役立つことが示されており、それはまた、本来原油および混合物の非相溶性および略非相溶性によって発生するファウリングも低減する。これら原油は、高溶解分散力(HSDP)原油として分類される。基原油に所定量のHSDP原油が添加されると、ファウリングが著しく低減し、その場合、HSDP原油は、TANが0.3程度に低く、SBNが75程度に低い。所定量のHSDP原油は、混合原油(即ち、基原油+HSDP原油)の総量の5%程度を占めてもよい。
【0030】
標本試験を行って、HSDP原油Aおよび/またはBをHSHA基原油に添加することにより基油のファウリングに与えられる影響を確定した。その結果を図3に示す。図3は、図2の変形であり、所定量のHSDP原油の添加に関連するファウリングの低減が、HSHA原油を含む基原油と混合されている。一例では、HSHAを含む基原油は、HSDP原油と混合されており、それは混合原油の総量の25%を占めている。HSDP原油を、TANがおよそ4.8でありSBNがおよそ112であるHSDP原油Aと印す。図3に示すように、微粒子を含む基原油および微粒子のない基油の両方に比較してファウリングが著しく低減している。別の例では、HSHAを含む基原油は、HSDP原油と混合されており、それは混合原油の総量の50%を占めている。TANがおよそ1.1でありSBNがおよそ115であるHSDP原油は、HSDP原油Bである。基原油のファウリングに対するHSDP原油Bの影響は、HSDP原油Aほど著しくはないが、それでもなお、HSDP原油Bは、微粒子を含む基原油のファウリングを著しく低減させる。
【0031】
標本試験を行って、HSDP原油AおよびBの添加による基油のファウリングへの影響を確定した。結果を図4に示す。図4は、図1の変形であり、所定量のHSDP原油の添加に関連するファウリングの低減が基原油と混合されている。図示する例では、基原油はLSLA原油であり、HSDP原油Aと混合されており、それは、混合原油の総量の25%を占めている。HSHA原油へのHSDP原油Aの添加と同様に、微粒子を含む基原油および微粒子のない基油両方と比較して、ファウリングが著しく低減している。他の図示する例では、LSLA基原油はHSDP原油Bと混合されており、それは、混合原油の総量の50%を占めている。基原油のファウリングに対するHSDP原油Bの影響はHSDP原油Aほど著しくはないが、HSDP原油Bもまた、微粒子を含む基原油のファウリングを著しく低減させる。
【0032】
標本試験を行って、LSLA全原油またはHSHA混合原油のいずれかを含む基油にHSDP原油Aを添加した場合の基油のファウリングに対する影響も確定した。HSDP A原油は、TANがおよそ4.8であり、SBNがおよそ112である。HSHA混合物に対するHSDP Aの影響に関連する結果を図5に示す。LSLA全原油に対するHSDP Aの影響に関連する結果を図6に示す。両基油に対し、HSDP原油としてHSDP A原油を添加することにより、ファウリングが低減した。
【0033】
図5〜図8に示すように、混合原油における所定量のHSDP原油含有率が上昇するに従って、ファウリングの低減が増大した。
【0034】
本発明の利益の上記例示的な例は、HSDP原油として例としてのA原油およびB原油の使用に基づいている。本発明は、HSDP原油のこれらの例のみに限定されるようには意図されていない。TANが少なくともおよそ0.3でありSBNが少なくともおよそ75である他のHSDP原油が、ファウリングの低減を達成する。図9は、LSLA全原油の基油へのさまざまなHSDP原油の添加によるファウリングに対する有益な影響を示す。下の表1に要約するように、HSDP原油の添加により、微粒子を含む基原油に比較してファウリングが低減する結果となった。
【0035】
【表1】

【0036】
当業者には、本発明の範囲から逸脱することなくさまざまな変更および/または変形を行ってもよいということが明らかとなろう。添付の明細書に含まれるすべての事項が、限定する意味ではなく単に例示するものとして解釈されるものであるように意図されている。本発明を、製油所運転における熱交換器の文脈で説明したが、本発明はそのように限定されるようには意図されておらず、むしろ、本発明は、限定されないがパイプスチル、コーカ、ビスブレーカ等を含む他の製油所構成要素におけるファウリングを低減しかつ/または軽減することに適していることが考えられる。更に、本発明に関連して説明したHSDP原油の使用を、ファウリングを低減しかつ/または低減する他の技法と組み合わせてもよい、ということが考えられる。かかる技法には、限定されないが、(i)開示内容が特に参照により本明細書に援用される特許文献3および特許文献4に記載されているような、熱交換器管に対する低エネルギー面および改良鋼面の提供、(ii)開示内容が特に参照により本明細書に援用される特許文献4に記載されているような、制御された機械的振動の使用、(iii)開示内容が特に参照により本明細書に援用される、「熱交換におけるファウリングの低減(Reduction of Fouling in Heat Exchangers)」と題する2006年6月23日に出願された特許文献5に記載されているような、表面コーティングと組み合わせてもよい流体脈動および/または振動の使用、(iv)開示内容が特に参照により本明細書に援用される、特許文献6に記載されているような、熱交換器管への電解研磨および/または表面コーティングおよび/または変更の使用、および(v)開示内容が特に参照により本明細書に援用される、「製油所における熱交換器ファウリングを低減する方法(A Method of Reducing Heat Exchanger Fouling in a Refinery)」と題する2006年6月23日に出願された特許文献7に記載されているような、それらの組合せがある。このように、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内にある、本明細書における方法の変更および変形を包含することが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油を加熱する熱交換器におけるファウリングを低減する方法であって、
基原油を提供する工程;および
前記基原油を所定量の高溶解分散力(HSDP)原油と混合する工程であって、前記HSDP原油の全酸価(TAN)が少なくとも0.3である工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
原油を加熱する熱交換器におけるファウリングを低減する方法であって、
基原油を提供する工程;および
前記基原油を所定量の高溶解分散力(HSDP)原油と混合する工程であって、前記HSDP原油のSBNが少なくとも75である工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記所定量が、前記混合された基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも5%に等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定量が、前記混合された基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも10%に等しいことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定量が、前記混合された基原油およびHSDP原油の総量の少なくとも25%に等しいことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記所定量が、前記混合された基原油およびHSDP原油の総量の多くとも50%に等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも75であることを特徴とする請求項1、3、4、5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも85であることを特徴とする請求項項1、3、4、5、6または7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも100であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記HSDP原油のTANが少なくとも2であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記HSDP原油のTANが少なくとも3であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項12】
前記HSDP原油のTANが少なくとも4であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項13】
前記基原油が、全原油と少なくとも2つの原油の混合物とのうちの1つであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
混合原油であって、
基原油;および
高溶解分散力(HSDP)原油であって、全酸価(TAN)が少なくとも0.3であり、前記混合原油が有する総量の少なくとも5%であるHSDP原油
を含むことを特徴とする混合原油。
【請求項15】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも75であることを特徴とする請求項14に記載の混合原油。
【請求項16】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも85であることを特徴とする請求項15に記載の混合原油。
【請求項17】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも100であることを特徴とする請求項16に記載の混合原油。
【請求項18】
前記HSDP原油のSBNが少なくとも110であることを特徴とする請求項17に記載の混合原油。
【請求項19】
前記HSDP原油が、前記総量の少なくとも10%であることを特徴とする請求項14〜18のいずれかに記載の混合原油。
【請求項20】
前記HSDP原油が、前記総量の少なくとも25%であることを特徴とする請求項19に記載の混合原油。
【請求項21】
前記HSDP原油が、前記総量の多くとも50%であることを特徴とする請求項20に記載の混合原油。
【請求項22】
前記基原油が、全原油または少なくとも2種の原油の混合物のうちの1つであることを特徴とする請求項21に記載の混合原油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−501665(P2010−501665A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525590(P2009−525590)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/018403
【国際公開番号】WO2008/024309
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】