説明

魚介類の免疫賦活方法、魚介類の飼育方法

【課題】簡便且つ安価に、魚介類の免疫作用を賦活することができる魚介類の免疫賦活方法の提供。
【解決手段】5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることを特徴とする、魚介類の免疫賦活方法及び、魚介類の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の免疫賦活方法及び魚介類の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、多くの種類の魚介類が食用や観賞用として、人工的に飼育(養殖)されている。人工的な飼育においては通常、自然の河川や湖沼内で魚介類が生息している際よりも過密な状態で飼育が行わる。このような場合、生産効率の向上は達成されるが、一方で、細菌類やウィルスによる感染症が発生した場合、同一区域内で飼育されている魚介類において感染症が蔓延する率が高いという問題があった。
細菌類やウィルスの感染防止を目的として、近年では魚介類に対する抗生物質やワクチン等の薬剤も使用されている。しかしながら、未だワクチンの開発されていないウィルスが多いという問題や、薬剤耐性を獲得する細菌類やウィルスが発生するという問題、薬剤の価格による飼育コスト高騰の問題、さらには食用魚介類に薬剤を使用することによる安全面の問題等があり、さらなる解決策が求められていた。
【0003】
そのため最近では、免疫賦活作用を有し、且つ自然由来の物質を魚介類に投与する方法が提案されている。免疫賦活作用を有する物質としては、β−グルカンが広く知られている。
たとえば引用文献1には、5‘−ヌクレオチド類、遊離アミノ酸、β−グルカン及びマンナンを含有する酵母エキス組成物が、子豚、子牛及び雛において摂餌促進作用を有し、マウス及びモルモットにおいて免疫増強作用を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−184595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、魚介類の飼育において、ワクチンが開発されていないウィルスが多いという問題があるが、特に甲殻類においては有効なワクチンがほとんど開発されていないため、対策が急務となっている。例えば甲殻類に感染する代表的なウィルスとしては、White Spot Syndrome Virus(WSSV)が挙げられる。WSSVはエビ等の甲殻類において非常に感染性及び致死性の高いウィルスであって、垂直感染のみならず水平感染で伝播するため、該ウィルスが伝播した際の水産業におけるダメージは大きいものであった。
【0006】
しかしながら、引用文献1に記載された免疫賦活用酵母エキス組成物は、魚介類に投与した際に、該魚介類が抗菌能や上述したようなウィルスに対して抗ウィルス能を獲得するか否か、即ち魚介類において免疫賦活能を有するか否かは明らかにされていない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、簡便且つ安価に、魚介類の免疫作用を賦活することができる魚介類の免疫賦活方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、5’−ヌクレオチド類及び遊離アミノ酸を特定の割合で含有する酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることにより、簡便且つ安価に、魚介類の免疫作用を賦活することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する魚介類の免疫賦活方法及び魚介類の飼育方法を提供するものである。
(1)5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることを特徴とする、魚介類の免疫賦活方法。
(2)前記5’−ヌクレオチド類がイノシン酸及びグアニル酸を含有する、(1)の魚介類の免疫賦活方法。
(3)β−グルカン及びマンナンの含有量が、それぞれ1質量%未満である(1)又は(2)の魚介類の免疫賦活方法。
(4)前記魚介類がコイ又はエビである(1)〜(3)のいずれかの魚介類の免疫賦活方法。
(5)前記酵母エキスが、トルラ酵母、ビール酵母及びパン酵母からなる群から選ばれる1種以上から得られた酵母エキスである(1)〜(4)のいずれかの魚介類の免疫賦活方法。
(6)5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることを特徴とする、魚介類の飼育方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の魚介類の免疫賦活方法及び魚介類の飼育方法によれば、5’−ヌクレオチド類及び遊離アミノ酸を特定の割合で含有する酵母エキスを投与するまたは該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることにより、簡便且つ安価に、魚介類の免疫作用を賦活することが可能となる。そのため、本発明の免疫賦活方法を用いることにより、魚介類を細菌やウィルス等による感染症に耐えうるものとすることができるため、魚介類の工業的生産における生産効率向上が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実験例1における、Vibrio nigripulchritudoに感染したクルマエビの生存率を示すグラフ図である。
【図2】実験例1における、White Spot Syndrome Virusに感染したクルマエビの生存率を示すグラフ図である。
【図3】実験例2における、コイのタイプIインターフェロン遺伝子の頭腎組織における発現解析の結果を示すグラフ図である。
【図4】実験例2における、コイのインターフェロンγ1遺伝子の頭腎組織における発現解析の結果を示すグラフ図である。
【図5】実験例2における、コイのインターフェロンγ2遺伝子の頭腎組織における発現解析の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において魚介類としては特に限定されるものではなく、魚類、甲殻類、貝類、頭足類等のいずれであってもよい。具体的には、コイ、アユ、マス、フナ、サケ等の淡水魚;ブリ、タイ、カンパチ、フグ、マグロ、アジ等の海水魚;クルマエビ、ウシエビ、イセエビ、タラバガニ、ロブスター等の甲殻類;カキ、ホタテ、アサリ、シジミ、ハマグリ、サザエ等の貝類;タコ、イカ等の頭足類が挙げられる。なかでも、本発明における魚介類としては、魚類又は甲殻類であることが好ましく、コイ又はエビであることがより好ましい。
本発明において免疫賦活とは、生体が本来有する免疫系を活性化し、免疫機能を高めることを意味する。
【0012】
本発明の魚介類の免疫賦活方法は、5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させるものである。このような効果が得られる理由は明らかではないが、従来の酵母エキスに比して比較的多い含有量の5’−ヌクレオチド類及び遊離アミノ酸を含むことで、これらが魚介類の免疫系に直接又は間接的に作用し、魚介類の免疫作用が賦活すると考えられる。
【0013】
本発明において酵母エキスとは、酵母が有する様々な成分を抽出したものであり、アミノ酸やペプチド、核酸、ミネラル等が含まれている。また、酵母の種類や培養条件、抽出条件によって、各種成分の含有比を調整することができる。
【0014】
本発明において用いられる酵母エキスの原料となる酵母は、特に限定されるものではなく、食品製造の分野において通常用いられている可食性の酵母を用いることができる。可食性の酵母由来の酵母エキスであれば、薬剤を投与した場合とは異なり、魚介類内の投与物の蓄積を懸念する必要がなく、好ましい。
このような酵母として具体的には、食料や飼料等の製造に用いられているトルラ酵母、パン製造に用いられているパン酵母、ビール製造に用いられているビール酵母等がある。
なかでも増殖性が良好であることから、パン酵母又はトルラ酵母であることが好ましく、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌又はキャンディダ(Candida)属菌であることがより好ましく、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はキャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)であることが特に好ましい。
【0015】
酵母エキスの原料としては、1種類の酵母を用いてもよく、複数種類の酵母を用いてもよい。例えば、サッカロマイセス・セレビシエとキャンディダ・ユーティリスとをそれぞれ別個に培養及び集菌した後、得られた菌体を混合して混合菌体を成し、該混合菌体から抽出することにより得られた酵母エキスであってもよく;培養した各酵母を別個に抽出することにより得られた酵母エキスを混合することにより得られた酵母エキスであってもよい。なお、酵母の培養は、常法により行うことができる。
【0016】
酵母エキスの抽出方法は特に限定されるものではなく、酵母等の生物原料からエキスを抽出する際に通常用いられる方法のうち、いずれの方法を用いてもよい。該抽出方法として、例えば、自己消化法、酵素分解法等がある。ここで、自己消化法とは、酵母が本来有している酵素の働きにより、酵母を可溶化し、抽出する方法であり、遊離アミノ酸含有量の多い酵母エキスを得ることができる。一方、酵素分解法とは、熱処理等により、酵母が有する酵素等を不活性化した後、分解酵素を添加して酵母を可溶化し、抽出する方法である。外部から適当な酵素を添加することにより、酵素反応を簡便に制御し得るため、遊離アミノ酸や核酸の含有量を調整することができる。
【0017】
酵素分解法において用いられる酵素は、通常生体成分を分解する際に用いられる酵素であれば、特に限定されるものではなく、任意の酵素を用いることができる。該酵素として、例えば、酵母の細胞壁を分解し得る酵素、タンパク質分解酵素、核酸分解酵素等があり、これらを適宜併用することにより、酵母から各種成分を効率よく抽出することができる。
【0018】
該タンパク質分解酵素として、エンド型プロテアーゼとエキソ型プロテアーゼを併用することがより好ましい。酵母エキス中の遊離アミノ酸含量を多くすることができるためである。また、該核酸分解酵素として、5’−ホスホジエステラーゼを用いることがより好ましい。核酸成分のうち、主な呈味成分である5’−リボヌクレオチド類の酵母エキス中の含量を多くすることができるためである。
【0019】
本発明において用いられる酵母エキスの5’−ヌクレオチド類の含有量は、20質量%以上であれば、特に限定されるものではないが、20〜60質量%であることが好ましい。作用機序は明らかではないが、酵母エキス中の5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上と比較的多いことにより、免疫賦活化がより良好となる。上限は特に限定されるものではないが、60質量%以下であることが好ましい。
5’−ヌクレオチド類として具体的には、5’−リボヌクレオチド類が好ましく、該5’−リボヌクレオチド類として、例えば、5’−イノシン酸、5’−グアニル酸、5’−アデニル酸、5’−ウリジル酸、5’−シチジル酸、及びこれらの金属塩等が挙げられる。
本発明において用いられる酵母エキスは、イノシン酸及びグアニル酸の合計量、すなわち、酵母エキス中に含まれている5’−イノシン酸、5’−グアニル酸、及び、これらの金属塩等の合計量が多い酵母エキスであることがより好ましい。特に、酵母エキス中のイノシン酸含有量とグアニル酸含有量の合算値(以下、IG核酸含量という。)が1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されるものではないが、40質量%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明において用いられる酵母エキスの遊離アミノ酸含有量は、5質量%以上であれば、特に限定されるものではないが、10質量%以上であることが好ましい。上限は特に限定されるものではないが、40質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明において用いられる酵母エキスは、上述した5’−ヌクレオチド類、遊離アミノ酸以外の成分として、タンパク質、ペプチド、ミネラル、有機酸、ビタミン類等を含有していてもよいが、β−グルカンやマンナン等の酵母の細胞壁に由来する成分を含有しないことが好ましい。
β−グルカン及びマンナンを含有しない酵母エキスは、常法により製造することができる。例えば、自己消化法、酵素分解法等によって酵素消化及び抽出された酵母エキスを分画し、細胞壁に由来する不溶性画分を除去することより、β−グルカン及びマンナンを含有しない酵母エキスを得ることができる。
【0022】
酵母エキスの形態は特に限定されるものではなく、後述する投与の形態や対象とする魚介類の種類等を考慮して、様々な形態の酵母エキスを用いることができる。例えば、粉末状、ペースト状、液体状のいずれであってもよい。
【0023】
本発明において魚介類に酵母エキスを投与する方法は特に限定されるものではなく、例えば、ゾンデ、シリンジ等を用いて酵母エキス自体を魚介類の体内に直接注入する方法、魚介類の飼育された水中に酵母エキスを溶解又は分散し、魚介類に自発的に摂取させる方法、等が挙げられる。
また、魚介類に酵母エキス配合の飼料を摂餌させる方法において、飼料としては上述したような酵母エキスを含むものであれば特に限定されるものではなく、酵母エキスのみからなる飼料であってもよく、一般的な魚介類用飼料に酵母エキスを含有させた飼料を摂餌させるものであってもよい。魚介類飼料は、通常魚介類の飼育に使用される飼料を用いることができる。酵母エキスを魚介類用飼料に含有させて用いる場合、該酵母エキスは魚介類用飼料の製造段階で含有されていてもよく、製造された魚介類用飼料に振りかける、コーティングする等により含有や担持させてもよい。
【0024】
なかでも、魚介類の酵母エキス摂取量を容易に調整でき、使用する酵母エキス量を低減することが可能であるため、酵母エキス配合の飼料を摂餌させる方法、又は酵母エキス自体を魚介類の体内に直接注入する方法を用いることが好ましく、簡便に投与が行えることから、酵母エキス配合の飼料を摂餌させる方法が特に好ましい。
【0025】
酵母エキスを魚介類体内へ摂取させる量は、免疫賦活作用を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、酵母エキスの種類や濃度、魚介類の種類等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、酵母エキス含有飼料を摂餌する場合であれば、魚介類体重1kgに対して、1日あたりの酵母エキス投与量が5〜2000mgとなるように調整することが好ましく、10〜1000mgであることがより好ましく、10〜500mgであることがさらに好ましい。また、注入により投与する場合であれば、魚介類体重1kgに対して、1回あたりの酵母エキス投与量が5〜2000mgとなるように調製することが好ましく、10〜1000mgであることがより好ましく、10〜800mgであることがさらに好ましい。
本発明では、有効成分と考えられる5’−ヌクレオチド類や遊離アミノ酸を上述したように比較的多く含有するため、該酵母エキスの魚介類における使用量を比較的少ないものとすることができ、酵母エキスにかかるコストの低減が可能であるため好ましい。
酵母エキスの投与、または酵母エキス含有飼料の摂餌は、1回でまとめて行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。1日に複数回行う場合は、該複数回の酵母エキス摂取量の合計が、上記1日あたりの酵母エキス摂取量の範囲内となることが好ましい。
【0026】
本発明の魚介類の飼育方法は、5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させるものであって、上記魚介類の免疫賦活方法と同様に、魚介類の免疫を賦活化させることができる。
本発明の魚介類の飼育方法において、5’−ヌクレオチド類、遊離アミノ酸、それらの含有量、投与方法、摂餌する方法、摂取させる量は上記魚介類の免疫賦活方法と同様である。
投与以外の魚介類の飼育方法については特に限定されるものではなく、通常の方法により海水又は淡水内において魚介類を飼育することができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下に示す本実施例においては、酵母エキスとして「バーテックスIG20」(商品名、テーブルマーク社製)、及び「CW−I」(商品名、テーブルマーク社製)を用いた。これらはいずれもパン酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ由来の酵母エキスである。これらの酵母エキスに含有されている遊離アミノ酸量、全アミノ酸量、及び核酸量を表1に示す。なお、核酸量は、5’−イノシン酸ナトリウムと5’−グアニル酸ナトリウムの合計量(7水和物として計算)を酵母エキス中の含有比(質量%)で示している。
表1から明らかなように、IG20は遊離アミノ酸含有量とIG含有量とが共に高い酵母エキスである。また、CW−Iは遊離アミノ酸及びIGを含有するがその濃度は高くなく、その一方で細胞壁由来の不溶性成分であるβ−グルカンを含有する酵母エキスである。
【0028】
【表1】

【0029】
[実験例1]
酵母エキスを含む飼料を摂餌させたクルマエビの、細菌及びウィルスに対する生存率について検討した。
まず、平均体重約10gのクルマエビ(Marsupenaeus japonicus)を、20℃の人工海水で満たした60cm水槽内で飼育した。上記酵母エキス バーテックスIG20又はCW−Iを、0.1質量%又は0.5質量%含有する混合試料を1日あたり0.5g、計7日間摂餌させ、その後細菌又はウィルスに人工的に感染させ、感染試験後の生存率を調べた。対照区(コントロール群)には酵母エキスを含まない混合試料を摂餌させた。
【0030】
具体的には、細菌感染群では、摂餌期間終了から24時間後にVibrio nigripulchritudoを、直接腹腔内に100μL(1×10cfu/個体)注射した。V.nigripulchritudoは、ウォーターバスを用いて27℃で14時間培養し、上記濃度に調製した。
また、ウィルス感染群では、まず、White Spot Syndrome Virus(WSSV)に感染したクルマエビから組織(エラ、肝膵臓、心臓、リンパ様器官)を摘出し、PBS内でホモジナイズし、PBSで1/1000に希釈したホモジナイズ液を調整した。海水4Lを入れたタンク中に、該ホモジナイズ液を50mL添加した。上記摂餌期間終了から24時間経過後のクルマエビを、該タンク内に2時間浸漬し、2時間後、元の水槽に戻した。
V.nigripulchritudoに感染させたクルマエビの生存試験の結果を図1に、WSSVに感染させたクルマエビの生存試験の結果を図2に示す。なお、WSSV感染実験は、バーテックスIG20摂餌群及びコントロール群では13日間経過観察を行い、CW−I摂餌群のみ10日間経過観察を行った。
【0031】
図1の結果から、V.nigripulchritudo感染後11日目において、バーテックスIG20摂餌群は生存率が65%であったのに対し、CW−I摂餌群の生存率は40%、コントロール群の生存率は13%と顕著に低いことが明らかである
また、図2の結果から、WSSV感染後13日目において、バーテックスIG20 0.1質量%又は0.5質量%摂餌群は生存率がそれぞれ71%、59%であった。また、CW−I 0.1質量%摂餌群の10日目の生存率は42%であり、コントロール群の13日目の生存率は12%であって、バーテックスIG20摂餌群に比べて生存率が顕著に低いことが明らかである。
上記の結果から、バーテックスIG20を摂餌させたクルマエビでは、ウィルス及び細菌に感染した場合の生存率が向上し、バーテックスIG20が免疫賦活効果を奏することが確認できた。
【0032】
[実験例2]
酵母エキスを接種したコイにおける、免疫関連遺伝子の発現量の変化について検討した。
まず、平均体重約100gのコイ(Cyprinus carpio L.)を、20℃の人工海水で満たした水槽内で飼育し、試験開始前に予備飼育を1日間行った。接種量0.1ccが酵母エキス50mg/体重1kgとなるように上記酵母エキス バーテックスIG20をPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.0)で調整し、経口ゾンデを用いて0.1ccを1日1回、計3日間経口投与した。対照区(コントロール群)には0.1ccのPBSを同様に経口投与した。
これらのコイを投与期間終了1日後、3日後、5日後に回収し、以下の様に免疫関連遺伝子の発現量について調べた。
【0033】
明らかになっているコイ(Cyprinus carpio L.)のcDNA塩基配列より、タイプI IFN、IFN-γ1、IFN-γ2遺伝子に対して、プライマーを作製し、PCRに用いるYoichi Kitaoらの手法(Molecular Immunology、46(2009)2548−2556)を用いた。まず、コイの頭腎組織(約20μg)を用い、常法に従ってRNAの抽出を行い、このRNAを用いて、RT−PCR反応をサーマルサイクラーC1000(Bio−rad、USA)を用いて行い、コイ頭腎組織内のcDNAを合成した。さらに、β−アクチン及びタイプI IFN、IFN-γ1、IFN-γ2遺伝子をそれぞれプライマーを用いてPCRを、サーマルサイクラーC1000(Bio−rad、USA)にて行った。PCR終了後、1.5%アガロースゲルにて電気泳動を行った後、デジタル撮影によりバンドをTIFF画像ファイルとして保存した。保存したファイルを、Science Lab 99 Image Gauge software(富士フィルム社製)を用い定量化し、バンドの密度からPCR産物の増幅率を求めた。これをもとに、β−アクチン遺伝子に対する各遺伝子の発現率を求め、グラフを作成した。図3にタイプI IFN遺伝子、図4にインターフェロンγ1遺伝子、図5にインターフェロンγ2遺伝子の発現解析の結果を示す。図3〜5中のコントロールは、PBS経口投与終了1日後の結果である。
なお、タイプI IFNは、主にウィルス感染細胞によって産生されることが知られており、抗ウィルス作用に関与すると考えられるサイトカインである。一方、インターフェロンγ1/2は、主にマクロファージを活性化する作用を有することが知られており、細胞性免疫応答において重要な役割を担うと考えられるサイトカインである。
【0034】
上記発現解析の結果、バーテックスIG20を投与したコイ頭腎組織でのタイプI IFN遺伝子は投与期間終了後1日目と3日目において1%水準で有意な発現の増加を示した(図3)。インターフェロンγ1とγ2はともに投与期間後3日目において1%水準で有意な発現量の増加を示した(図4,5)。上記の結果から、バーテックスIG20を投与したコイでは、免疫関連遺伝子の発現量が変化し、バーテックスIG20が免疫賦活効果を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の魚介類の免疫賦活方法は、水産業において好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることを特徴とする、魚介類の免疫賦活方法。
【請求項2】
前記5’−ヌクレオチド類がイノシン酸及びグアニル酸を含有する、請求項1に記載の魚介類の免疫賦活方法。
【請求項3】
β−グルカン及びマンナンの含有量が、それぞれ1質量%未満である請求項1又は2に記載の魚介類の免疫賦活方法。
【請求項4】
前記魚介類がコイ又はエビである請求項1〜3のいずれか一項に記載の魚介類の免疫賦活方法。
【請求項5】
前記酵母エキスが、トルラ酵母、ビール酵母及びパン酵母からなる群から選ばれる1種以上から得られた酵母エキスである請求項1〜4のいずれか一項に記載の魚介類の免疫賦活方法。
【請求項6】
5’−ヌクレオチド類の含有量が20質量%以上であり、且つ遊離アミノ酸の含有量が10質量%以上である酵母エキスを投与する、または該酵母エキス配合の飼料を摂餌させることを特徴とする、魚介類の飼育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66399(P2013−66399A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206071(P2011−206071)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000140650)テーブルマーク株式会社 (55)
【Fターム(参考)】