説明

魚釣用スピニングリール

【課題】ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールを提供する。
【解決手段】ハンドル軸5の回転操作に応じて回転しスプール4に釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータ3と、先端にスプール4が取り付けられたスプール軸12と、ハンドル軸5の回転操作運動をスプール軸12の前後往復動に変換するスプール往復動機構13と、を備え、スプール往復動機構13は、操作者の操作に応じて釣糸をスプール4から引き出すロータ3の回転時にスプール軸13を前後往復動させない状態に切り換える切換部材18を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用スピニングリールに関し、特に、ハンドルの回転操作運動を、スプールの前後往復動に変換するスプール往復動機構をリール本体内に設けた魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚釣用スピニングリールは、ハンドルの回転操作で釣糸案内部を有するロータを回転させると共に、ハンドルの回転運動をリール本体内部に設けたスプール往復動機構により前後動方向に変換することで前後往復動するスプールに、ロータの釣糸案内部を介して釣糸が巻回される構成を有している。
【0003】
従来、このような魚釣用スピニングリールにおいて、リール本体に上方に向けて牽引可能に取り付けられた操作レバーの牽引操作や、リール本体の後部に設けた操作具の回転操作により、魚のヒットに伴う釣糸の繰り出しによって逆回転するロータに制動力を付与するロータ制動装置を備え、ロータの逆回転をフリーに行わせる一方、操作者の回転操作等により魚とのやり取りを可能とするものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】実公平1−20858号公報
【特許文献2】実公平1−39194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような魚釣用スピニングリールにおいては、ロータの逆回転に連動してスプールが高速で前後往復動することとなる。このため、この前後往復動に応じて発生する振動が、操作者に不快感を与えると共に、釣糸を介して魚に違和感を与えて魚を暴れさせ、魚を取り逃がしたり釣糸を切断したりする原因となり、また、リール本体のネジ締結部に伝わってネジの緩みの原因となるという問題がある。
【0005】
また、ロータの逆回転に連動してスプールが高速で前後往復動するので、スプール往復動機構における変換係合部(例えば、ウォームシャフトとピン係合部や、係合突起と係合溝)の磨耗や、前後往復動の方向転換時の抵抗発生によるロータ逆回転時のフリー性の劣化を引き起こす原因となるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑みて為されたものであり、ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用スピニングリールは、ハンドル軸の回転操作に応じて回転しスプールに釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータと、先端にスプールが取り付けられたスプール軸と、ハンドル軸の回転操作運動をスプール軸の前後往復動に変換するスプール往復動機構と、を備え、スプール往復動機構は、操作者の操作に応じて釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸を前後往復動させない状態に切り換える切換部材を備えることを特徴とする。
【0008】
上記した構成の魚釣用スピニングリールによれば、操作者の操作に応じて切換部材が、釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸を前後往復動させない状態に切り換えることから、スプールの前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0009】
また、釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸の前後往復動が防止されることから、スプール往復動機構の前後往復動に変換する部材の磨耗を回避することができるので、スプール往復動機構の耐久性に優れたリールを提供することができる。また、スプールの前後往復動の方向転換時の抵抗発生によりロータの逆回転時におけるフリー性が劣化する事態を回避することができるので、ロータ逆回転時におけるフリー性に優れたリールを提供することができる。
【0010】
さらに、切換部材によって、操作者の操作に応じて釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸を前後往復動させる状態とさせない状態とに切り換えられることから、例えば、釣場の状況(魚の種類、大きさや数量等)や釣りの方法等に応じて選択的にスプールの前後動を切り換えることができるので、釣り場の状況等に応じて変化する操作者の様々な要求に幅広く対応することが可能となる。
【0011】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用スピニングリールは、ハンドル軸の回転操作に応じて回転しスプールに釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータと、先端にスプールが取り付けられたスプール軸と、釣糸をスプールに巻回するロータ正回転時に前記スプール軸を前後往復動させる一方、釣糸をスプールから引き出すロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させないように動力伝達を行う一方向クラッチを有するスプール往復動機構と、を備え、前記スプール往復動機構は、操作者の操作に応じてロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させる状態に切り換える切換部材を備えることを特徴とする。
【0012】
上記した構成の魚釣用スピニングリールにおいても、操作者が切換部材によりスプール往復動機構の状態を切り換えていない場合においては、スプール往復動機構が、釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸を前後往復動させないことから、スプールの前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0013】
また、釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸の前後往復動が防止されることから、スプール往復動機構の前後往復動に変換する部材の磨耗を回避することができるので、スプール往復動装置の耐久性に優れたリールを提供することができる。また、スプールの前後往復動の方向転換時の抵抗発生によりロータの逆回転時におけるフリー性が劣化する事態を回避することができるので、ロータ逆回転時におけるフリー性に優れたリールを提供することができる。
【0014】
さらに、操作者の操作に応じて切換部材が、釣糸をスプールから引き出すロータ逆回転時にスプール軸を前後往復動させる状態に切り換えることから、スプールの前後往復動に応じて発生する振動を防止する必要がない場合にまでスプール軸の前後往復動を規制することが回避され、例えば、釣場の状況(魚の種類、大きさや数量等)や釣りの方法等に応じて選択的にスプールの前後往復動の有無を切り換えることができるので、釣り場の状況等に応じて変化する操作者の様々な要求に幅広く対応することが可能となる。
【0015】
上記構成において、スプール往復動機構は、ハンドル軸の回転操作に応じて回転しその周面に螺旋溝が形成されたウォームシャフトと、スプール軸の一端に固定され螺旋溝に係合する係合ピンを有する摺動子と、ハンドル軸の回転をウォームシャフトに伝達するウォームギヤと、を備え、前記一方向クラッチを前記ウォームシャフトとウォームギヤとの連結部分に配設すると共に、前記切換部材は、前記ウォームシャフトとウォームギヤとの連結状態を切り換えることでロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させる状態に切り換えるようにしても良い。この場合には、操作者の切換え操作に応じてウォームシャフトとウォームギヤとの連結状態を切り換えることでロータ逆回転時にスプール軸を前後往復動させる状態に切り換えるので、一方向クラッチの作用に関わらず、ロータ逆回転時に、確実にスプール軸を前後往復動させる状態に切り換えることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールが得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る魚釣用スピニングリールの全体的な構成を示している。
【0019】
図1に示すように、本発明に係る魚釣用スピニングリールのリール本体1には、釣竿に装着されるリール脚2が一体形成されており、その前方には回転可能に支持されたロータ3と、ロータ3の回転運動と同期して前後動可能に支持されたスプール4が配設されている。
【0020】
ロータ3は、スプール4の周囲を回転する一対の腕部3aを備えており、各腕部3aの夫々の前端部には、ベール3bの基端部を取り付けたベール支持部材3cが釣糸巻取り位置と釣糸放出位置との間で回動自在に支持されている。なお、ベール3bの一方の基端部は、ベール支持部材3cに一体的に設けられた釣糸案内部3dに取り付けられている。
【0021】
リール本体1内には、ハンドル軸5が回転可能に支持されており、その突出端部には、ハンドル6が取り付けられている。また、ハンドル軸5には、巻取り駆動機構が係合しており、この巻取り駆動機構は、ハンドル軸5に一体回転可能に装着された駆動ギヤ(フェースギヤ)7と、この駆動ギヤ7に噛合すると共にハンドル軸5と直交する方向に延出し、内部に軸方向に延出する空洞部が形成されたピニオン8とを備えている。
【0022】
ピニオン8は、一対の前後に配置した軸受け9を介してリール本体1内に回転可能に支持されている。また、スプール4側に向けて延出しており、その先端部において、ロータ3が取り付けられている。ピニオン8には、その中間部分に一方向クラッチ10が取り付けられており、リール本体1の外部に設けられたレバー11を回動操作することで一方向クラッチ10を作動させ、ハンドル6(ロータ3)の釣糸繰出し方向の逆回転を防止する公知の逆転防止装置を構成するようになっている。
【0023】
ピニオン8の内部に形成された空洞部には、ハンドル軸5と直交する方向に延出し、先端側にスプール4を装着したスプール軸(メインシャフト)12が軸方向に移動可能に挿通されている。また、ピニオン8には、スプール4(スプール軸12)を前後往復動させるためのスプール往復動機構13が係合している。
【0024】
スプール往復動機構13は、リール本体1内に回転可能に支持され、スプール軸12と平行に延出するウォームシャフト14と、スプール軸12の基端部に抜け止め固定された摺動子15と、ウォームシャフト14の端部に取り付けられ、ピニオン8と噛合するウォームギヤ16とを備えている。ウォームシャフト14とウォームギヤ16との間には、ハンドル6の釣糸巻取り方向の回転における回転駆動力のみをウォームシャフト14に伝達すべく、後述する一方向クラッチ17が配設されている。また、ウォームギヤ16よりスプール4側の位置には、操作者の操作に応じてウォームギヤ16の回転駆動力をウォームシャフト14に直接伝達するか、一方向クラッチ17を介して伝達するかを切り換える、後述する切換部材18が配設されている。
【0025】
摺動子15は、スプール軸12に対して、ビス等によって回り止め固定される本体15aを備えており、この本体15aにはウォームシャフト14の外周面に形成された螺旋溝14aと係合する係合ピン15bが保持されている。ウォームシャフト14が回転駆動されると、摺動子15は、係合ピン15bを介して前後方向に往復駆動される。
【0026】
このような構成を有する魚釣用スピニングリールにおいて、ハンドル6により巻取り操作を行うと、ロータ3が巻取り駆動機構を介して回転駆動されると共に、スプール4がスプール往復動機構13を介して前後往復動されるので、釣糸は、釣糸案内部3dを介してスプール4の巻回胴部4aに均等に巻回されるようになっている。
【0027】
次に、上記したスプール往復動機構13のウォームギヤ16内に配設した一方向クラッチ17の構成及び作用、並びに、切換部材18の構成及び動作について説明する。図2は、スプール往復動機構13のウォームギヤ16周辺の拡大図であり、図3は、図2に示すA−A線に沿った断面図である。なお、以下の説明では、図2の左方側からみた状態で時計回り方向の回転を正転と呼び、反時計回り方向の回転を逆転と呼ぶものとする。
【0028】
操作者がハンドル6を釣糸巻取り方向に回転させると、これに応じて駆動ギヤ7が図2に示す矢印B方向に回転駆動し、ピニオン8を介してウォームギヤ16は逆転駆動される。一方、魚による釣糸の繰り出しによりロータ3が逆転駆動されると、これに応じてピニオン8を介してウォームギヤ16は正転駆動される。
【0029】
図3に示すように、一方向クラッチ17は、ウォームギヤ16の内側に回り止めされた状態で収容される外輪21と、この外輪21とウォームシャフト14との間に配置される転がり部材22と、この転がり部材22に一定方向の付勢力を付与するバネ23と、このバネ23の付勢力による転がり部材22の移動を規制する保持部材24とから構成される。外輪21には、各転がり部材22の大きさに応じて楔領域とフリースペースが設けられ、ウォームギヤ16の回転方向に応じて転がり部材22が両者間を移動するように構成されている。
【0030】
具体的には、釣糸巻取り操作に応じてウォームギヤ16が逆転駆動(図3で反時計回り方向)されると、その駆動力は、一方向クラッチ17に伝達される。このとき、一方向クラッチ17の転がり部材22はバネ23の付勢力により楔領域に移行するため、ウォームギヤ16の駆動力を一方向クラッチ17を介してウォームシャフト14に伝達する(なお、ウォームシャフト14は逆転駆動される)。一方、魚による釣糸の繰り出しに応じてウォームギヤ16が正転駆動(図3で時計回り方向)されると、その駆動力は、一方向クラッチ17に伝達される。このとき、一方向クラッチ17の転がり部材22は、バネ23の付勢力に抗して外輪21のフリースペースに移行するため、ウォームギヤ16の駆動力をウォームシャフト14に伝達することはない。
【0031】
このように、ピニオン8と噛合するウォームギヤ16とウォームシャフト14との間に一方向クラッチ17を介在させ、釣糸をスプール4から引き出す方向のロータ3の逆転時における回転駆動力をウォームシャフト14に伝達しないようにしているので、魚により釣糸が繰り出された場合でもウォームシャフト14が回転することはない。このため、スプール4が前後往復動することもないので、従来、このスプール4の前後往復動に応じて発生していた振動を防止することが可能となる。この結果、この振動に起因して発生していた諸問題を全て解決することが可能となる。
【0032】
すなわち、スプール4の前後往復動に応じて発生していた振動による操作者における不快感を除去することができるので、快適なロータ3の逆転による釣糸の繰り出し操作を行うことが可能となる。また、当該振動により釣糸を介して魚に違和感を与えるのを防止することができるので、この違和感により魚を暴れさせ、魚を取り逃がしたり釣糸を切断したりする事態を回避することができる。この結果、魚への影響を極力小さくすることができるので、釣果を向上させることが可能となる。さらに、当該振動によりリール本体1に締結されたネジが緩む事態を回避することができるので、リール本体1のメンテナンス等に要するコストや時間を低減することが可能となる。
【0033】
また、ロータ3が逆回転した場合でもウォームシャフト14が回転しないため、スプール往復動機構13における螺旋溝14aと係合ピン15bとが、従来のようにスプール4の前後往復動に応じて磨耗する事態を回避することができるので、当該スプール往復動機構13の耐久性を向上させることが可能となる。さらに、ロータ3が逆回転した場合でもウォームシャフト14が回転しないため、スプール4の前後往復動の方向転換時の抵抗発生によりロータ3の逆回転時におけるフリー性が劣化する事態を回避することができるので、快適に釣糸の繰り出し操作を行うことが可能となる。
【0034】
一方、切換部材18は、図2に示すように、ウォームギヤ16よりスプール4側の位置に、ウォームシャフト14に回り止め固定して取り付けられている。また、ウォームギヤ16のスプール4側の側面の周方向に複数形成された凹部16aに係合する凸部を有する係合部18aと、リール本体1の表面に露出し操作者の操作を受け付ける操作部18bと、操作部18bの裏面からリール本体1内に向けて形成された連結部18cの端部が係合(回転可能で軸方向係止)する環状凹部から成る溝部18dと、を有している。なお、操作部18bの裏面には、リール本体1の表面に形成された凹部に入り込むことで操作部18bの現在の位置を弾性的に保持させる凸部18eが形成されている。
【0035】
また、切換部材18は、ウォームシャフト14の軸方向に一定範囲で移動可能にウォームシャフト14に取り付けられ、操作者による操作部18bの切換操作に応じてウォームシャフト14に沿って移動可能となっている。ウォームシャフト14には、切換部材18よりもスプール4側の位置にバネ19が取り付けられており、このバネ19は、切換部材18の係合部18aがウォームギヤ16の凹部16aに係合する方向に付勢している。
【0036】
このような切換部材18において、操作者により操作部18bを矢印B方向に切換操作された場合、バネ19の付勢力に抗して切換部材18が前方側(スプール4側)へ移動し、これに伴って係合部18aの凸部がウォームギヤ16の凹部16aから退避する。この場合、ウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結が解除され、ウォームギヤ16の回転がウォームシャフト14に伝達されなくなる。このため、ウォームギヤ16の回転駆動力は、一方向クラッチ17を介してウォームシャフト14に伝達されることとなる。なお、図2においては、2点鎖線でウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結が解除された状態について示している。
【0037】
このように、ウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結が解除された状態においては、一方向クラッチ17の作用により、釣糸をスプール4から引き出す方向のロータ3の逆転時における回転駆動力がウォームシャフト14に伝達されないので、上述のような効果を得ることが可能となる。すなわち、スプール4の前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができ、この振動に起因して発生していた諸問題を全て解決できるという効果を得ることが可能となる。
【0038】
一方、ウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結を解除した状態から、操作者により操作部18bが矢印C方向に切換操作された場合、切換部材18が後方側(ウォームギヤ16側)へ移動し、これに伴って係合部18aの凸部がウォームギヤ16の凹部16aに進入する。この場合、ウォームシャフト14とウォームギヤ16とが連結され、ウォームシャフト14がウォームギヤ16と一体的に回転するようになる。このため、ウォームギヤ16の回転駆動力は、一方向クラッチ17を介さず、直接ウォームシャフト14に伝達されることとなる。なお、図2においては、実線でウォームシャフト14とウォームギヤ16とが連結された状態について示している。
【0039】
このように、ウォームシャフト14とウォームギヤ16とが連結された状態においては、一方向クラッチ17の作用に関わらず、ウォームシャフト14がウォームギヤ16と一体的に回転する。このため、釣糸をスプールから引き出すロータ逆回転時にスプール4が前後往復動する状態となる。この結果、スプール4の前後往復動に応じて発生する振動を防止する必要がない場合にまでスプール4の前後往復動を規制することが回避され、例えば、釣場の状況(魚の種類、大きさや数量等)や釣りの方法等に応じて選択的にスプール4の前後往復動の有無を切り換えることができるので、釣り場の状況等に応じて変化する操作者の様々な要求に幅広く対応することが可能となる。
【0040】
以上説明したように本実施の形態に係る魚釣用スピニングリールでは、スプール往復動機構13に、釣糸をスプール4に巻回するロータ正回転時にスプール軸12を前後往復動させる一方、釣糸をスプール4から引き出すロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させないように動力伝達を行う一方向クラッチ17を設けると共に、操作者の操作に応じてロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させる状態に切り換える切換部材18を設けている。これにより、操作者が切換部材18によりスプール往復動機構13の状態を切り換えていない場合においては、スプール往復動機構13が、釣糸をスプール4から引き出すロータの回転時にスプール軸12を前後往復動させないことから、スプール4の前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0041】
また、釣糸をスプール4から引き出すロータ3の回転時にスプール軸12の前後往復動が防止されることから、スプール往復動機構13の前後往復動に変換する部材の磨耗を回避することができるので、スプール往復動装置13の耐久性に優れたリールを提供することができる。また、スプール4の前後往復動の方向転換時の抵抗発生によりロータ3の逆回転時におけるフリー性が劣化する事態を回避することができるので、ロータ逆回転時におけるフリー性に優れたリールを提供することができる。
【0042】
さらに、操作者の操作に応じて切換部材18が、釣糸をスプール4から引き出すロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させる状態に切り換えることから、スプール4の前後往復動に応じて発生する振動を防止する必要がない場合にまでスプール軸12の前後往復動を規制することが回避され、例えば、釣場の状況(魚の種類、大きさや数量等)や釣りの方法等に応じて選択的にスプール4の前後往復動の有無を切り換えることができるので、釣り場の状況等に応じて変化する操作者の様々な要求に幅広く対応することが可能となる。
【0043】
特に、上記実施の形態の魚釣用スピニングリールにおいて、スプール往復動機構13に、ウォームシャフト14と、このウォームシャフト14にハンドル軸12の回転を伝達するウォームギヤ16と、を設け、上記一方向クラッチ17をウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結部分に配設する。そして、切換部材18は、ウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結状態を切り換えることで、ロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させる状態に切り換える。このように、操作者の切換え操作に応じてウォームシャフト14とウォームギヤ16との連結状態を切り換えることで、ロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させる状態に切り換えるので、一方向クラッチ17の作用に関わらず、ロータ逆回転時に、確実にスプール軸12を前後往復動させる状態に切り換えることが可能となる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0045】
上記実施の形態に係る魚釣用スピニングリールにおいては、スプール往復動装置13が、釣糸をスプールに巻回するロータ正回転時に前記スプール軸を前後往復動させる一方、釣糸をスプールから引き出すロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させないように動力伝達を行う一方向クラッチを有することを前提として、切換部材18が、操作者の操作に応じてロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させる状態に切り換える場合について説明している。しかし、これに限定されず、スプール軸12における前後往復動の有無を逆にすることが含まれるのは言うまでもない。
【0046】
すなわち、切換部材18でウォームシャフト14とウォームギヤ16とを連結しておき、通常使用時においてロータ3の正転、逆転に関わらず、スプール軸12を前後往復動させる一方、操作者の操作に応じて、ロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させない状態に切り換えるようにしても良い。この場合においても、操作者の操作に応じて切換部材18が、釣糸をスプール4から引き出すロータ逆回転時にスプール軸12を前後往復動させない状態に切り換えることから、スプール4の前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、上記実施の形態と同様に、上述した優れた効果を得ることが可能となる。
【0047】
以上、本発明に係る魚釣用スピニングリールの実施系形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々変形することが可能である。上記した実施形態においては、一般的なオープンフェース型の魚釣用スピニングリールについて説明しているが、本発明は、ロータ3の逆転時にスプール4を前後往復動させないようにする必要があるリールであれば、クローズドフェース型のリールにも適用することが可能であり、上述した優れた効果を得ることが可能となる。
【0048】
特に、魚による釣糸の繰り出しに応じて逆回転するロータ3に制動力を付与するロータ制動装置を備え、意図的にロータ3の逆回転をフリーに行わせる一方、操作者のロータ制動装置に対する操作により魚とのやり取りを可能とする、上述した従来技術の特許文献1(実公平1−20858号公報)に開示された所謂レバーブレーキリールにおいては、上述した優れた効果に加え、更に顕著な効果を得ることが可能となる。
【0049】
すなわち、レバーブレーキリールにおいては、釣糸を繰り出す量は操作者のロータ制動装置に対する操作に依存することとなるが、本発明を適用することでロータ3の逆転時に発生していた振動が除去されるので、ロータ制動装置に対する操作に集中することが可能となり、魚とのやり取りをより一層楽しみながら魚釣りを行うことが可能となる。
【0050】
また、以上の説明において、スプール往復動機構13に配設される一方向クラッチ17は、上記構成に限定されることなく、他の構成を有する一方向クラッチを適用することが可能である。例えば、ラチェットと爪とを組み合わせて一方向クラッチを構成しても良いし、又、巻バネの締付力を利用して構成するようにしてもよい。このように変更した場合においても、上述した本実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールを提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの全体的な構成を示す図。
【図2】スプール往復動機構のギヤ周辺の拡大図。
【図3】図2に示すA−A線に沿った断面図。
【符号の説明】
【0053】
1 リール本体
3 ロータ
4 スプール
5 ハンドル軸
7 駆動ギヤ
12 スプール軸
13 スプール往復動機構
14 ウォームシャフト
16 ウォームギヤ
17 一方向クラッチ
18 切換部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル軸の回転操作に応じて回転しスプールに釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータと、先端にスプールが取り付けられたスプール軸と、前記ハンドル軸の回転操作運動を前記スプール軸の前後往復動に変換するスプール往復動機構と、を備え、前記スプール往復動機構は、操作者の操作に応じて釣糸をスプールから引き出す前記ロータの回転時に前記スプール軸を前後往復動させない状態に切り換える切換部材を備えることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
ハンドル軸の回転操作に応じて回転しスプールに釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータと、先端にスプールが取り付けられたスプール軸と、釣糸をスプールに巻回するロータ正回転時に前記スプール軸を前後往復動させる一方、釣糸をスプールから引き出すロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させないように動力伝達を行う一方向クラッチを有するスプール往復動機構と、を備え、前記スプール往復動機構は、操作者の操作に応じてロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させる状態に切り換える切換部材を備えることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
前記スプール往復動機構は、前記ハンドル軸の回転操作に応じて回転しその周面に螺旋溝が形成されたウォームシャフトと、前記スプール軸の一端に固定され前記螺旋溝に係合する係合ピンを有する摺動子と、前記ハンドル軸の回転を前記ウォームシャフトに伝達するウォームギヤと、を備え、前記一方向クラッチを前記ウォームシャフトとウォームギヤとの連結部分に配設すると共に、前記切換部材は、前記ウォームシャフトとウォームギヤとの連結状態を切り換えることでロータ逆回転時に前記スプール軸を前後往復動させる状態に切り換えることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用スピニングリール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−12(P2007−12A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180145(P2005−180145)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】