説明

魚釣用スピニングリール

【課題】ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールを提供する。
【解決手段】ハンドル軸5の回転操作に応じて回転しスプール4に釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータ3と、先端にスプール4が取り付けられたスプール軸12と、ハンドル軸5の回転操作運動をスプール軸13の前後往復動に変換するスプール往復動機構14と、を備え、スプール往復動機構41は、釣糸をスプール4から引き出すロータ3の回転速度に応じてスプール軸13を前後往復動させない状態に切り換えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用スピニングリールに関し、特に、ハンドルの回転操作運動を、スプールの前後往復動に変換するスプール往復動機構をリール本体内に設けた魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚釣用スピニングリールは、ハンドルの回転操作で釣糸案内部を有するロータを回転させると共に、ハンドルの回転運動をリール本体内部に設けたスプール往復動機構により前後動方向に変換することで前後往復動するスプールに、ロータの釣糸案内部を介して釣糸が巻回される構成を有している。
【0003】
従来、このような魚釣用スピニングリールにおいて、リール本体に上方に向けて牽引可能に取り付けられた操作レバーの牽引操作や、リール本体の後部に設けた操作具の回転操作により、魚のヒットに伴う釣糸の繰り出しによって逆回転するロータに制動力を付与するロータ制動装置を備え、ロータの逆回転をフリーに行わせる一方、操作者の回転操作等により魚とのやり取りを可能とするものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】実公平1−20858号公報
【特許文献2】実公平1−39194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような魚釣用スピニングリールにおいては、ロータの逆回転に連動してスプールが高速で前後往復動することとなる。このため、この前後往復動に応じて発生する振動が、操作者に不快感を与えると共に、釣糸を介して魚に違和感を与えて魚を暴れさせ、魚を取り逃がしたり釣糸を切断したりする原因となり、また、リール本体のネジ締結部に伝わってネジの緩みの原因となるという問題がある。
【0005】
また、ロータの逆回転に連動してスプールが高速で前後往復動するので、スプール往復動機構における変換係合部(例えば、ウォームシャフトとピン係合部や、係合突起と係合溝)の磨耗や、前後往復動の方向転換時の抵抗発生によるロータ逆回転時のフリー性の劣化を引き起こす原因となるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑みて為されたものであり、ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用スピニングリールは、ハンドル軸の回転操作に応じて回転しスプールに釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータと、先端にスプールが取り付けられたスプール軸と、ハンドル軸の回転操作運動をスプール軸の前後往復動に変換するスプール往復動機構と、を備え、スプール往復動機構は、釣糸をスプールから引き出すロータの回転速度に応じてスプール軸を前後往復動させない状態に切り換えることを特徴とする。
【0008】
上記した構成の魚釣用スピニングリールによれば、ロータの回転速度に応じてスプール軸を前後往復動させない状態に切り換えることから、スプールの前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0009】
また、釣糸をスプールから引き出すロータの回転時にスプール軸の前後往復動が防止されることから、スプール往復動機構の前後往復動に変換する部材の磨耗を回避することができるので、スプール往復動機構の耐久性に優れたリールを提供することができる。また、スプールの前後往復動の方向転換時の抵抗発生によりロータの回転時におけるフリー性が劣化する事態を回避することができるので、ロータ回転時におけるフリー性に優れたリールを提供することができる。
【0010】
上記構成の魚釣用スピニングリールにおいて、スプール往復動機構は、例えば、釣糸をスプールから引き出すロータの回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸を前後往復動させない状態に切り換えるようにしても良い。この場合には、ロータの回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸を前後往復動させない状態に切り換えることから、魚の釣糸の繰出しに伴ってロータの回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸が前後往復動するのを防止することができる。この結果、ロータ3が一定速度以上の速度で回転した場合におけるスプールの前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0011】
また、上記構成の魚釣用スピニングリールにおいて、スプール往復動機構は、ロータの回転駆動力をスプール軸に伝達する動力伝達経路上に、ロータの回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸に対するロータの回転駆動力の伝達を遮断する動力遮断部材を備えるようにしても良い。この場合には、ロータの回転速度が一定速度に達すると、動力遮断部材によってスプール軸に対するロータの回転駆動力の伝達が遮断されることから、この動力遮断部材の作用によって、魚の釣糸の繰出しに伴ってロータの回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸が前後往復動するのを確実に防止することができる。
【0012】
特に、スプール往復動機構は、上記動力遮断部材として、ロータの回転により発生する遠心力で作動し、スプール軸に対するロータの回転駆動力の伝達を遮断する作動部材を備えるようにしても良い。この場合には、ロータの回転速度が一定速度に達すると、この回転により発生する遠心力で作動する作動部材によってスプール軸に対するロータの回転駆動力の伝達が遮断されることから、この作動部材を作動させるための特別な機構を設けることなく当該作動部材を配設するだけで、ロータの回転が一定速度に達した場合にスプール軸が前後往復動するのを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールが得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの全体的な構成を示している。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る魚釣用スピニングリールのリール本体1には、釣竿に装着されるリール脚2が一体形成されており、その前方には回転可能に支持されたロータ3と、ロータ3の回転運動と同期して前後動可能に支持されたスプール4が配設されている。
【0017】
ロータ3は、スプール4の周囲を回転する一対の腕部3aを備えており、各腕部3aの夫々の前端部には、ベール3bの基端部を取り付けたベール支持部材3cが釣糸巻取り位置と釣糸放出位置との間で回動自在に支持されている。なお、ベール3bの一方の基端部は、ベール支持部材3cに一体的に設けられた釣糸案内部3dに取り付けられている。
【0018】
リール本体1内には、ハンドル軸5が回転可能に支持されており、その突出端部には、ハンドル6が取り付けられている。また、ハンドル軸5には、巻取り駆動機構が係合しており、この巻取り駆動機構は、ハンドル軸5に一体回転可能に装着された駆動ギヤ(フェースギヤ)7と、この駆動ギヤ7に噛合する従動ギヤ8(ピニオン)が周面に形成されると共にハンドル軸5と直交する方向に延出し、内部に軸方向に延出する空洞部が形成されたピニオン筒軸9と、を備えている。
【0019】
ピニオン筒軸9は、軸受け10及びリール本体1内に形成した軸受部1aで回転可能に支持されている。また、スプール4側に向けて延出しており、その先端部において、ロータ3が取り付け固定されている。ピニオン筒軸9に形成された従動ギヤ8の上方に、従動ギヤ8のスプール4側端部に一体的に取り付けられたラチェット8aに対して係脱可能に構成された係合部材11が配設されている。係合部材11は、リール本体1の外部に設けられたレバー12に対する回動操作によりラチェット8aに対する係脱が切り替えられ、ハンドル6(ロータ3)の釣糸繰出し方向の逆回転を防止する公知の逆転防止装置を構成するようになっている。
【0020】
ピニオン筒軸9の内部に形成された空洞部には、ハンドル軸5と直交する方向に延出し、先端側にスプール4を装着したスプール軸(メインシャフト)13が軸方向に移動可能に挿通されている。また、ピニオン筒軸9には、スプール4(スプール軸12)を前後往復動させるためのスプール往復動機構14の一部を為す連結ギヤ15が回転可能に装着されている。連結ギヤ15は、軸受け10側に設けられた大径ギヤ15a及びロータ3側に設けられ外周に凹凸が形成された係止部15b(小径ギヤ)を有している。
【0021】
スプール往復動機構14は、上述の連結ギヤ15と、ロータ3の内側でリール本体1の前方側であって連結ギヤ15と対向する位置に取り付けられ、ロータ3の回転速度に対応して発生する遠心力に応じて係止部15bに対して係脱可能に構成された遠心作動部材16と、リール本体1内に回転可能に支持され、スプール軸13と平行に延出するウォームシャフト17と、スプール軸13の基端部に抜け止め固定された摺動子Sと、ウォームシャフト17の端部に取り付けられ、連結ギヤ15の大径ギヤ15aと噛合するギヤ18とを備えている。
【0022】
上記摺動子Sは、スプール軸13に対してビス等によって回り止め固定されると共に、ウォームシャフト17の外周面に形成された螺旋溝17aと係合する係合ピンPを有している。そして、ウォームシャフト17が回転駆動されると、この摺動子Sは、係合ピンPを介して前後方向に往復駆動される。この結果、スプール4(スプール軸13)が前後方向に往復駆動される。
【0023】
このような構成を有する魚釣用スピニングリールにおいて、ハンドル6により巻取り操作を行うと、ロータ3が巻取り駆動機構を介して回転駆動されると共に、スプール4がスプール往復動機構14を介して前後往復動されるので、釣糸は、釣糸案内部3dを介してスプール4の巻回胴部4aに均等に巻回されるようになっている。
【0024】
次に、上記したスプール往復動機構14を構成する連結ギヤ15及び遠心作動部材16の構成及び作用について説明する。図2は、スプール往復動機構14を構成する連結ギヤ15周辺の拡大図であり、図3は、図2に示すA−A線に沿った断面から図2の右方側を示す図である。
【0025】
図2及び図3に示すように、連結ギヤ15は、ピニオン筒軸9の外周に回り止め嵌合されたカラー19の外周に回転可能に取り付けられている。遠心作動部材16は、連結ギヤ15側の先端部が連結ギヤ15の係止部15bに対して係脱可能に構成されるように、その基端部がロータ3におけるピニオン筒軸9の近傍である基部3aに軸支されている。
【0026】
遠心作動部材16の基端部の近傍には、遠心作動部材16に一定の付勢力を付与する付勢部材20が配設されている。付勢部材20は、その一端がロータ3の側面部に固定される一方、その他端が遠心作動部材16の外側部分に係止されており、遠心作動部材16の先端部を係止部15b側に付勢するように、ピニオン筒軸9の近傍に取り付けられている。
【0027】
付勢部材20が有する付勢力は、ロータ3の回転速度が一定速度に達するまでは遠心作動部材16の先端部を係止部15bに係合させる一方、一定速度に達した場合に遠心作動部材16の先端部を係止部15bから離脱させる付勢力に設定されている。このように付勢力を付勢部材20に設定することで、遠心作動部材16は、ロータ3の回転速度が高速領域の一定速度に達した場合に作動し、連結ギヤ15に対するロータ3の回転駆動力の伝達を遮断する動力遮断部材として機能する。
【0028】
なお、本実施形態においては、上記付勢部材20による遠心作動部材16の係止部15bへの係脱が切り換えられるロータ3の回転速度を、魚による釣糸の繰出しによってのみ発生し得る回転速度、逆にいうと、ハンドル6を用いた釣糸の巻取りによって発生し得ない回転速度に設定している。
【0029】
図2及び図3においては、付勢部材20の付勢力により遠心作動部材16の先端部が係止部15bに係合した場合について実線で示し、遠心作動部材16の先端部が係止部15bから離脱した場合について点線で示している。また、図3に示すように、遠心作動部材16の先端部が係止部15bに係合した場合においては、係止部15bの歯間に遠心作動部材16の先端部が進入した状態となる一方、遠心作動部材16の先端部が係止部15bから離脱した場合においては、遠心作動部材16の先端部が係止部15bの歯間から退避した状態となっている。
【0030】
遠心作動部材16の先端部が係止部15bに係合した場合においては、ロータ3の回転駆動力が連結ギヤ15に伝達されるので、これに応じてギヤ18も回転する。そして、このギヤ18の回転に応じてウォームシャフト17も回転するので、これに応じて摺動子Sが移動することによりスプール4(スプール軸13)が前後に往復動することなる。
【0031】
これに対して、遠心作動部材16の先端部が係止部15bから離脱した状態においては、ロータ3の回転駆動力が連結ギヤ15に伝達されることはないので、連結ギヤ15が回転することはない。したがって、ギヤ18及びウォームシャフト17も回転することはないので、スプール4(スプール軸13)が前後に往復動することもない。
【0032】
このように、本実施の形態の魚釣用スピニングリールにおいては、ハンドル6に対する回転操作をスプール軸13の前後往復動に変換するスプール往復動機構14を配設し、このスプール往復動機構13で、釣糸をスプールから引き出すロータ3の回転速度に応じて、より具体的には、ロータ3の回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸13を前後往復動させない状態に切り換えるようにしている。これにより、ロータ3の回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸13が前後往復動させない状態に切り換えられることから、魚の釣糸の繰出しに伴ってロータ3の回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸13が前後往復動するのを防止することができる。この結果、スプール3の前後往復動に応じて発生していた振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0033】
また、釣糸をスプール4から引き出すロータ3の回転時にスプール軸13の前後往復動が防止されることから、スプール往復動機構14の前後往復動に変換する部材の磨耗を回避することができるので、スプール往復動機構14の耐久性に優れたリールを提供することができる。また、スプール4の前後往復動の方向転換時の抵抗発生によりロータ3の回転時におけるフリー性が劣化する事態を回避することができるので、ロータ回転時におけるフリー性に優れたリールを提供することができる。
【0034】
特に、スプール往復動機構は、ロータ3の回転駆動力をスプール軸13に伝達する動力伝達経路上に、ロータ3の回転速度が一定速度に達した場合に連結ギヤ15に対するロータ3の回転駆動力の伝達を遮断する動力遮断部材(遠心作動部材16)を設けている。これにより、ロータ3の回転速度が一定速度に達すると、動力遮断部材によって連結ギヤ15に対するロータ3の回転駆動力の伝達が遮断されることから、この動力遮断部材の作用によって、魚の釣糸の繰出しに伴ってロータ3の回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸13が前後往復動するのを確実に防止することができる。
【0035】
より具体的には、スプール往復動機構14は、上記動力遮断部材として、ロータ3の回転により発生する遠心力で作動し、連結ギヤ15に対するロータ3の回転駆動力の伝達を遮断する遠心作動部材16を備えている。これにより、ロータ3の回転速度が一定速度に達すると、この回転により発生する遠心力で作動する遠心作動部材16によって連結ギヤ15に対するロータ3の回転駆動力の伝達が遮断されることから、この遠心作動部材16を作動させるための特別な機構を設けることなく当該遠心作動部材16を配設するだけで、ロータ3の回転速度が一定速度に達した場合にスプール軸13が前後往復動するのを確実に防止することが可能となる。
【0036】
以上、本発明に係る魚釣用スピニングリールの第1の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々変形することが可能である。上記した実施形態においては、連結ギヤ15がカラー19を介して回転可能にピニオン筒軸9に装着される場合について示しているが、この連結ギヤ15をピニオン筒軸9に装着する際の構成については、適宜変形することが可能である。例えば、連結ギヤ15とピニオン筒軸9との間に一方向クラッチを介在させることが可能である。
【0037】
以下、図4を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。なお、これらの図において、図4は、第2の実施形態に係る魚釣用スピニングリールのスプール往復動機構14を構成する連結ギヤ15周辺の拡大図である。また、以下に説明する実施形態では、上記した第1の実施形態と同様な構成要素については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。さらに、図4の左方側からみた状態で時計回り方向の回転を正転と呼び、反時計回り方向の回転を逆転と呼ぶものとする。
【0038】
図4に示すスプール往復動機構14において、連結ギヤ15とピニオン筒軸9との間には、ハンドル6の釣糸巻取り方向の回転における回転駆動力のみをギヤ18に伝達すべく、一方向クラッチ21が配設されている。なお、この一方向クラッチ21は、ハンドル6の釣糸巻取り方向の回転における回転駆動力のみをギヤ18に伝達できれば、どのような構成を採っても良い。
【0039】
例えば、一方向クラッチ21は、連結ギヤ15の内側に回り止めされた状態で収容される外輪と、この外輪とピニオン筒軸9との間に配置される転がり部材と、この転がり部材に一定方向の付勢力を付与するバネと、このバネの付勢力による転がり部材の移動を規制する保持部材とから構成される。上記外輪には、各転がり部材の大きさに応じて楔領域及びフリースペースが設けられ、連結ギヤ15の回転方向に応じて転がり部材が両者間を移動するように構成されている。
【0040】
このような一方向クラッチ21において、釣糸巻取り操作に応じてピニオン筒軸9が正転駆動されると、その駆動力は一方向クラッチ21に伝達される。このとき、一方向クラッチ21の転がり部材は、バネの付勢力により楔領域に移行するため、ピニオン筒軸9の駆動力を一方向クラッチ21を介してギヤ18に伝達する。一方、魚による釣糸の繰り出しに応じてロータ3が逆転駆動されると、その駆動力は一方向クラッチ21に伝達される。このとき、一方向クラッチ21の転がり部材は、バネの付勢力に抗して外輪のフリースペースに移行するため、ロータ3の回転駆動力をギヤ18に伝達することはないが、遠心作動部材16と係止部15bとの係合状態より、ロータ3の逆転駆動力は、遠心作動部材16を介して連結ギヤ15を回転させ、ギヤ18、ウォームシャフト17、摺動子Sを介して、スプール4を前後往復動させる。
【0041】
しかしながら、上記第1の実施形態で説明したように、魚による釣糸の繰り出しに応じてロータ3の回転速度が一定速度に達し、一定速度以上の速度で逆転駆動された場合には、その遠心力により遠心作動部材16の先端部が係止部15bから離脱する。この場合には、一方向クラッチ21のフリー作用により連結ギヤ15は回転せず、ロータ3の回転駆動力は、ギヤ18に伝達されることはなく、スプール4は、前後往復動しない。
【0042】
このように、本実施の形態に係る魚釣用スピニングリールによれば、上記第1の実施形態の構成に加え、ロータ3の回転駆動力をスプール軸13に伝達する動力伝達経路上に配置される、ピニオン筒軸9とギヤ18との間に一方向クラッチ21を介在させ、釣糸をスプール4から引き出す方向のロータ3の逆転時における回転駆動力をギヤ18に伝達しないようにしている。このため、釣糸巻取り操作時においては、ロータ3の回転速度に関係なくスプール4は前後往復動するが、魚により一定速度以上の速度で釣糸が繰り出されてロータ3が高速で逆回転した場合は、遠心作動部材16が係止部15bから離間して一方向クラッチ21のフリー作用によって、ロータ3の回転駆動力はスプール往復動機構14に伝達されず、スプール4の前後往復動に応じて発生する振動を防止することができるので、振動に伴う操作者における不快感を除去すると共に、魚へ与える影響を低減することを通じて釣果を向上させることが可能となる。
【0043】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0044】
例えば、上記した実施形態においては、一般的なオープンフェース型の魚釣用スピニングリールについて説明しているが、本発明は、ロータ3の逆転時にスプール4を前後往復動させないようにする必要があるリールであれば、クローズドフェース型のリールにも適用することが可能であり、上述した優れた効果を得ることが可能となる。
【0045】
特に、魚による釣糸の繰り出しに応じて逆回転するロータ3に制動力を付与するロータ制動装置を備え、意図的にロータ3の逆回転をフリーに行わせる一方、操作者のロータ制動装置に対する操作により魚とのやり取りを可能とする、上述した従来技術の特許文献1(実公平1−20858号公報)に開示された所謂レバーブレーキリールにおいては、上述した優れた効果に加え、更に顕著な効果を得ることが可能となる。
【0046】
すなわち、レバーブレーキリールにおいては、釣糸を繰り出す量は操作者のロータ制動装置に対する操作に依存することとなるが、本発明を適用することでロータ3の逆転時に発生していた振動が除去されるので、ロータ制動装置に対する操作に集中することが可能となり、魚とのやり取りをより一層楽しみながら魚釣りを行うことが可能となる。
【0047】
また、以上の説明において、スプール往復動機構14に配設される一方向クラッチ21は、上記構成に限定されることなく、他の構成を有する一方向クラッチを適用することが可能である。例えば、ラチェットと爪とを組み合わせて一方向クラッチを構成しても良いし、また、巻バネの締付力を利用して構成するようにしてもよい。このように変更した場合においても、上述した本実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、ロータの逆回転時に発生する振動に起因する諸問題を解決することができると共に、スプール往復動機構の耐久性、並びにロータ逆回転時におけるフリー性に優れた魚釣用スピニングリールを提供するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚釣用スピニングリールの全体的な構成を示す図。
【図2】スプール往復動機構を構成する連結ギヤ周辺の拡大図。
【図3】図2に示すA−A線に沿った断面から図2の右方側を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る魚釣用スピニングリールのスプール往復動機構を構成する連結ギヤ周辺の拡大図。
【符号の説明】
【0050】
1 リール本体
3 ロータ
4 スプール
5 ハンドル軸
7 駆動ギヤ
9 ピニオン筒軸
13 スプール軸
14 スプール往復動機構
15 連結ギヤ
16 遠心作動部材
17 ウォームシャフト
18 ギヤ
21 一方向クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル軸の回転操作に応じて回転しスプールに釣糸を案内する釣糸案内部を有するロータと、先端にスプールが取り付けられたスプール軸と、前記ハンドル軸の回転操作運動を前記スプール軸の前後往復動に変換するスプール往復動機構と、を備え、前記スプール往復動機構は、釣糸をスプールから引き出す前記ロータの回転速度に応じて前記スプール軸を前後往復動させない状態に切り換えることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記スプール往復動機構は、釣糸をスプールから引き出す前記ロータの回転速度が一定速度に達した場合に前記スプール軸を前後往復動させない状態に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
前記スプール往復動機構は、前記ロータの回転駆動力を前記スプール軸に伝達する動力伝達経路上に、前記ロータの回転速度が一定速度に達した場合に前記スプール軸に対する前記ロータの回転駆動力の伝達を遮断する動力遮断部材を備えることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項4】
前記スプール往復動機構は、前記動力遮断部材として、前記ロータの回転により発生する遠心力で作動し、前記スプール軸に対する前記ロータの回転駆動力の伝達を遮断する作動部材を備えることを特徴とする請求項3に記載の魚釣用スピニングリール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−6786(P2007−6786A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192035(P2005−192035)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】