説明

魚釣用スピニングリール

【課題】ロータ逆転時の衝撃力を吸収し、安定した衝撃吸収性能を得ることができる小型かつ軽量構造の逆転防止装置を備えた魚釣用スピニングリールを提供すること。
【解決手段】ハンドル18の操作に連動して軸筒部32を中心として回転するロータ30の逆転を防止する逆転防止装置50を備え、釣糸の繰り出しに伴う衝撃力を緩和する魚釣用スピニングリール10であって、逆転防止装置50は、ロータ30の円筒部46の内周部にこの円筒部46に対して回転可能に支持した逆転防止体52と、ロータ30が逆転方向に回転したときに、この逆転防止体52に係合して逆転方向に移動するのを阻止する阻止部材54と、逆転防止体54とロータ30との間に介在されてロータの逆転を阻止するときに、逆転防止体に作用する衝撃力を吸収する弾発部材56と、この弾発部材56の変形を抑制する摩擦力を形成するフリクション部材58とを有する魚釣用スピニングリール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドル操作に連動回転するロータの逆転を防止する逆転防止装置を備えた魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハンドル操作に連動回転するロータの逆転を防止する逆転防止装置を備えた魚釣用スピニングリールは、ロータの逆転を防止した状態で釣糸を巻き取っているときに、例えばかかっている大きな魚の引きで、釣糸に急激に過大な引張力が加わって釣糸が切断したり、あるいは急激な衝撃力により逆転防止装置の係止部や支持部が破損したりすることがある。
【0003】
このような過大な引張作用が釣糸あるいは逆転防止機構に与えるショックを吸収するため、回転阻止手段の操作で回転を阻止される逆転防止部材としてラチェットをロータに対して回転可能に支持させ、これらのロータとラチェットとの間に、衝撃吸収用のコイル状スプリングを有するショックアブソーバを設けたスピニングリールが知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭60−30632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来のスピニングリールは、スプール軸を挿通するピニオン軸あるいはロータを支持する筒状部の外周にラチェットを設け、このロータを支持する筒状部の外周に装着したコイル状スプリングの一端をロータで支持し、他端をラチェットで支持することでショックアブソーバを形成するため、作用するモーメントあるいはトルクの関係上、ロータ逆転時の大きな衝撃力を吸収することができない。
【0005】
また、ロータの逆転防止時すなわちラチェットが回転阻止手段により回転を阻止され、かつショックアブソーバであるコイル状のスプリングが完全に締付けられたときに、ロータとラチェットとがコイル状のスプリングのそれぞれの端部を介して連結されるため、力を伝達する支持面積が極めて小さく、耐支持強度が不十分であり、耐久性に劣る。また、ラチェットとロータとの間に回転範囲を規制する規制手段を設けた場合であっても、この規制手段はショックアブソータとは別個に、ラチェットの側面から突出させた突起にロータ側から突出させた突起を係合させるもので、力を伝達する支持面積が極めて小さく、十分な耐支持強度が得られず、耐久性に劣る。
【0006】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、ロータ逆転時の大きな衝撃力を吸収すると共に、長期間にわたって安定した衝撃吸収性能を得ることができる小型かつ軽量構造の逆転防止装置を備えた魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の魚釣用スピニングリールは、ハンドル操作に連動して回転支軸を中心として回転するロータの逆転を防止する逆転防止装置を備え、この逆転防止装置が、ロータの逆転を阻止するときに、釣糸案内部を介する釣糸の繰り出しに伴う衝撃力を緩和する魚釣用スピニングリールであって、前記逆転防止装置は、前記ロータの円筒部の内周部にこの円筒部に対して所定角度回転可能に支持した逆転防止体と、前記ロータが逆転方向に回転したときに、この逆転防止体に係合してこの逆転防止体が逆転方向に移動するのを阻止する阻止部材と、前記逆転防止体とロータとの間に介在されてロータの逆転を阻止するときに逆転防止体に作用する衝撃力を吸収する弾発部材と、この弾発部材とロータとの少なくとも一方に設けられるフリクション部材とを有することを特徴とする。
【0008】
上記のフリクション部材は、逆転防止体に対向する弾発部材の端部に設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明による魚釣用スピニングリールは、阻止部材に係合する逆転防止体がロータの円筒部の内周部に所定角度回転可能に支持され、弾発部材がフリクション部材と共に衝撃を吸収することにより、この逆転防止体が回転支軸から径方向外方に大きく離間した位置で、フリクション部材による摩擦力の作用を受けつつロータの逆転防止時の衝撃を吸収するため、弾発部材を強力な大型化あるいは重量化することなく、ロータ逆転防止時の大きな衝撃力を吸収することができると共に、逆転防止体を安定した状態で支持することができるため、長期間にわたって安定した衝撃吸収性能を得ることができる。
【0010】
更に、フリクション部材による摩擦力により、弾発部材を変形させた状態に、少なくとも一時的に保持することができることにより、ロータに対する逆転防止体および弾発部材の組み込みを容易に行うことができる。
【0011】
このフリクション部材が逆転防止体に対向する弾発部材の端部に設けられる場合には、逆転防止体がこのフリクション部材を介して弾発部材を押圧するため、力を伝達する支持面積が充分大きく、ロータ逆転防止時の安定した衝撃吸収性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1から図5は、本発明の好ましい実施形態による魚釣用スピニングリール10を示す。
図1に全体を示すように、本実施形態の魚釣用スピニングリール10は、リール本体12と、リール本体12から延出するリール取付脚部14とを有し、このリール取付脚部14の端部には、図示しない釣竿に取り付けられる竿取付部14aが形成されている。リール本体12内にはハンドル軸16が図示しないボール軸受を介して回転可能に支持されており、このハンドル軸16の端部にハンドル18が取付けられている。このハンドル軸16のリール本体12内に配置される部位には、駆動機構20の一部を形成するドライブギア22を配置してある。
【0013】
ドライブギア22には、ハンドル軸16に対して直交する方向に延在しかつ軸受24a,24bを介してリール本体12の筒状突部12a内に回転可能に支持されたピニオンギア26が噛合している。このピニオンギア26は、円筒状構造の回転軸筒28の基端部に形成されており、ピニオンギア26と反対側の先端部には、ロータ30の回転支軸である軸筒部32が回り止めされて装着され、ナット34によりこの軸筒部28に一体的に固定されている。このナット34の締付力は、軸筒部32から、スペーサ23を間に配置した一対の軸受24a,24bを介してリール本体12の筒状突部12aで支えられる。このロータ30の基端部の径方向に対向した部位に、一対の腕部36が突設されており、この腕部36は、ロータ30の基端部から先端側に向けて軸方向に延び、その先端部に、ベール38が反転自在に取付けられている。このベール38の一方の端部は、ハンドル18側に設けられた釣糸案内部(図示しない)に取り付けられている。
【0014】
また、このピニオンギア26および回転軸筒28内には、スプール軸40が摺動可能に支持されており、上述のドライブギア22およびピニオンギア26を介してハンドル軸16で作動される通常のオシレーティング機構42により、軸方向に沿う一定のストロークで往復駆動することができる。このスプール軸40の先端には、釣糸が巻回される巻回胴部44aとロータ30が配置されるスカート部44bとを有するスプール44が着脱可能に取付けられ、スプール軸40と共にこのハンドル軸16と直交する方向に往復動することができる。
【0015】
この魚釣用スピニングリール10は、ハンドル18を回転操作してハンドル軸16を回転させると、オシレーティング機構42およびスプール軸40を介してスプール44が前後に一定ストロークで往復動すると同時に、ドライブギア22およびピニオンギア26を介してロータ30が回転する。これにより、ロータ30と共に回転する釣糸案内部を介して、スプール44の巻回胴部44aに釣糸が均等に巻回される。
【0016】
図2から図5に拡大して示すように、本実施形態のロータ30は、上述の軸筒部32を囲む円筒部46と、この軸筒部32の先端部と円筒部46の中間部とを連結するディスク状部48とを有し、円筒部46はリール本体12側およびスプール40側の双方の端部が軸方向外方に開口する。この円筒部46は、リール本体12側が軸筒部32よりも突出してリール本体12の筒状突部12aを囲み、スプール44側が回転軸筒28よりも突出してナット34をこの内部に収容する。この円筒部46はスプール44のストローク長よりも長く形成してあり、スプール44が往復動する際、スカート部44bから円筒部46の内部が露出することはない。
【0017】
ロータ30内には、図4に実線の矢印Rで示す逆転方向すなわち釣糸繰出し方向に回転するのを阻止する逆転防止装置50が設けられている。本実施形態の逆転防止装置50は図2および図3に示すように、円筒部46の内周に沿って所定角度回転可能に支持された環状構造の逆転防止体52と、ロータ30が逆転方向Rに回転したときに、この逆転防止体52に係合してこの逆転防止体52が逆転方向Rに移動するのを阻止する阻止部材54と、逆転防止体52とロータ30との間に介在されてロータ30の逆転を阻止するときに、このロータ30が逆転防止体52に与える衝撃力を吸収する弾発部材56と、この弾発部材56の変形を抑えてロータ30内への弾性部材56の保持性を向上する摩擦力を形成するフリクション部材58とで形成されている。
【0018】
図2,図3および図5に示すように、ロータ30のディスク状部48は、円筒部46の内周面に沿って円弧状に延びる本実施形態では3つの切欠部49が周方向に沿って同じ長さで半径方向および周方向に等間隔に形成されている。一方、このロータ30に支持される逆転防止体52は、円筒部46の内周面に沿うリング状部60と、互いに周方向に等間隔に離隔した位置でこのリング状部60の端部からスプール44側に突出する係合突部62とを有し、この係合突部62をリール本体12側から切欠部49内に突入させた状態で装着される。このロータ30と逆転防止体52との間には、例えば合成樹脂で形成された保護用環状体64が介挿され、ロータ30に対して逆転防止体52と弾発部材56とフリクション部材58とが直接接触するのを防止されている。これにより、ロータ30と逆転防止体52および弾発部材56との間の異種金属の接触による電食等の発生を防止することができ、更に、滑動性の向上を図ることもできる。
【0019】
逆転防止体52のリング状部60は、径方向に厚肉に形成されてディスク状部48で支えられる基部60aと、この基部60aに対して段部を形成すると共にその内周面に係止歯61が形成される歯部60bとを有し、この基部60aと歯部60bとの間に形成される段部を介して、ディスク状部48にネジ止めされた抜け止めプレート63で、軸方向に移動不能でかつ回動可能に保持されている。
【0020】
逆転防止体52と共に抜け止めプレート63で保持される保護用環状体64は、リング状部60とロータ30の円筒部46との間に介挿される周壁部64aと、リング状部60の基部60aとロータ30のディスク状部48との間に介挿される平板部64bと、それぞれがロータ30の切欠部49内に突入して逆転防止体52のリング状部60と共に上述の弾発部材56およびフリクション部材58の収容空間を規定するドーム部64cとを有する。
【0021】
平板部64bは、隣接するドーム部64c間で、リング状部60の基部60aに重なる状態に配置されており、この基部60aを超えて半径方向内方に突出することはない。また、各ドーム部64cは、切欠部49の壁面に当接する2つの円弧状の周壁部65aおよび2つの平坦状の端壁部65b(図3および図5参照)のスプール44側を頂壁部65c(図2および図5参照)で閉じかつリール本体12側を開口させて上述の切欠部49に対応した円弧状に延設され、この開口に臨む側壁部の端部には、切欠部49の周縁部に沿ってディスク状部48に当接する係止縁部64d(図2参照)が形成されている。
【0022】
本実施形態のフリクション部材58は、この保護用環状体64のドーム部64cの周壁部65aに摩擦係合するため、これらの周壁部65aに対応する円弧状の側面58aを有する。また、リング状部60aおよび係合突部62に対向する面はそれぞれ平坦に形成され、弾発部材56に対向する端部には突起58bが形成されている。この突起58bを介して、本実施形態の弾発部材56を形成する圧縮コイルバネの開口にこの突起58bを嵌合(わずかな弾性変形が好ましい)することにより、弾発部材56とフリクション部材58とを容易に連結することができる。
【0023】
このようなフリクション部材58は、保護用環状体64およびリール本体12との間で、弾発部材56の移動あるいは伸縮等の変形を抑制する摩擦力を形成することができるものであれば、どのような材料で形成することも可能である。例えばゴム材のような比較的柔軟な弾性力を有する材料で形成する場合には、ドーム部64cの周壁部65cに沿った形状に変形することができるため、側面58aを円弧状に精度良く形成する必要はなく、摩擦力を形成するための適宜の形状とすることができる。一方、例えば合成樹脂のような比較的硬質の材料で形成する場合には、周壁部65cの内面を粗面に形成し、フリクション部材58との間に形成する摩擦力を増大させる表面の粗面化処理が施される。いずれの場合も、フリクション部材58と保護用環状体64との間の摩擦力は、弾発部材56であるコイルバネをその反発力に抗して一時的に圧縮した状態に保持することができる程度の大きさに設定される。
【0024】
これらの逆転防止体52と保護用環状体64とを、ロータ30に装着する場合は、保護用環状体64の各ドーム部64c内に、逆転防止体52の係合突部62と、本実施形態ではそれぞれ同一寸法の圧縮コイルバネで形成した弾発部材56と、フリクション部材58とを挿入する。この弾発部材56をドーム部64c内に挿入するときは、予め弾発部材56の一端にフリクション部材58を取付けておくのが好ましい。
【0025】
このフリクション部材58を一端に取付けた弾発部材56は、反対側の先端を、逆転方向R(図4参照)の前方に位置する端壁部65bに係止させて支え、周壁部65cに沿ってドーム部64c内に延設し、フリクション部材58を周壁部65c間に摩擦で挟持させる。これとは逆に、フリクション部材58をドーム部64c内で位置決めした後、弾発部材56を圧縮しつつ先端を端壁部65bに係止させてもよい。いずれの場合も、フリクション部材58とこれに対向する端壁部65bとの間には、リング状部60と共に逆転防止体52を形成する係合突部62を収容可能な間隙を形成しておくことが好ましい。
【0026】
そして、フリクション部材58とこれに対向する端壁部65bとの間の間隙内に逆転防止体52の係合突部62を挿入すると、弾発部材56の付勢力に抗して、フリクション部材58が摩擦変形しながら押圧移動され、逆転防止体52の係合突部62が近接する端壁部65bに当接される。これにより、保護用環状体64と逆転防止体52と弾発部材56とフリクション部材58とが1つの組立用ユニットを形成する。このユニットでは、各ドーム部64cが保護用環状体64の外周部に配置されていることにより、弾発部材56とフリクション部材58と逆転防止体52とを組込む際に、最も広いスペースが確保され、しかも、コイルバネで形成された弾発部材56を、周壁部64aに沿わせてフリクション部材58の摩擦作用でドーム部64c内に装着保持することができるため、弾性部材56とフリクション部材58のドーム部64c内の姿勢が安定し、逆転防止体52の係合突部62の取付け作業が極めて簡単に行える。
【0027】
更に、フリクション部材58が、弾発部材56を圧縮変形した状態でドーム部64c内に一時的に保持するため、本実施形態では3つである弾発部材56を同時に圧縮しつつ係合突部62を挿入する作業を行う必要はないので、これら3つの弾発部材56の付勢力の影響を受けることなく、逆転防止体52を保護用環状体64に極めて簡単に取付けることが可能となる。
【0028】
このように逆転防止体52と弾発部材56とフリクション部材58とを保護用環状体64に組込んでユニット構造とした後、各ドーム部64cをディスク状部48の切欠部49内に挿入し、逆転防止体52のリング状部60の内周部に形成された段部を介して、抜け止めプレート63でこのロータ30に保持する。保護用環状体64は、ドーム部64cが切欠部49に嵌合することにより、ロータ30に対する回動を阻止され、平板部64bがディスク状部48とリング状部60との間に挟持され、係止縁部64dがディスク状部48と抜け止めプレート63との間に保持されることにより、軸方向移動を阻止される。これに対し、逆転防止体52は、保護用環状体64と抜け止めプレート63との間で接触保持されているだけであるため、ドーム部64c内の係合突部62がフリクション部材58を介して弾発部材56を圧縮しつつロータ30に対して回動することができる。なお、本実施形態では、図2に示すように、逆転防止体52の外周面に形成した環状溝52a内にOリング状の摩擦部材66(ゴム材)を配置し、逆転防止体52と保護用環状体64との間に、摩擦力を形成可能な構造に形成してある。
【0029】
図2および図4に示すように、逆転防止体52が逆転方向Rに回転するのを阻止する阻止部材54は、リング状部60の係止歯61に対向した部位で、基端部をリール本体12の筒状突部12aの端面に設けられた支軸68に回動自在に保持され、先端部の係止爪54aが逆転方向Rの後方に向けて、係止歯61に係合する位置までレバー状に延びる。この阻止部材54の中間位置から、作動ピン69が突出し、摩擦板70に形成された長孔72内に挿入され、この長孔72で案内されつつ移動することができる。
【0030】
摩擦板70は、C字状に形成された基部74を軸筒部32の周部に弾性的に摩擦係合させて保持されており、筒状突部12aから突出するストッパピン76で、その移動範囲が規定されている。すなわち、ロータ30が逆転方向Rに回転すると、その軸筒部32および円筒部46が逆転方向Rに移動し、摩擦板70は、軸筒部32と共に逆転方向Rに移動する。これにより、摩擦板70は、長孔72および作動ピン69を介して阻止部材54を移動し、係止爪54aを係止歯61に係合させる。これにより、係止歯61を形成した逆転防止体52は、阻止部材54を介してリール本体12の筒状突部12aで逆転方向Rへの回転を阻止される。これとは逆に、ハンドル18により、ロータ30が図4に点線で示す正転方向F(釣糸巻取方向)に回転すると、摩擦板70が軸筒部32と共に時計方向に回転し、係止爪54aが係止歯61から離隔する方向に阻止部材54を回動した後、ストッパピン76で係止される。これにより、阻止部材54が図4に二点鎖線で示す位置に保持される。阻止部材54と係止歯61との係合が解除されることにより、ロータ30は、阻止部材54に阻害されること無く、正転方向Fに回転することができる。
【0031】
この魚釣用スピニングリール10には、図4に二点鎖線で示す位置に阻止部材54を配置してロータ30を正逆転可能とする状態と、実線で示す位置に阻止部材54を配置して正転可能でかつ逆転不能の状態とに切換える切換カム78が設けられており、この切換カム78の切換操作を、図1に示すように、リール本体12の後端壁部に設けた切換レバー80を通じて行うことができる。切換レバー80が逆転防止位置に配置されると、阻止部材54は図4に実線で示す位置に配置される。また、この逆転防止位置から正逆転可能位置に切換えられると、切換カム78により、阻止部材54は二点鎖線で示す位置に配置され、ロータ30は逆転方向Rおよび正転方向Fのいずれにも自由に回転することができる。
【0032】
このように形成された逆転防止装置50は、阻止部材54が図4に実線で示す逆転防止位置にあるときに、例えば魚の引き等で、軸筒部32を中心としてロータ30を逆転方向Rに回転する力に急激に作用すると、この急激な力が一対の腕部36(図1)を介してロータ30に作用し、ロータ30が逆転方向Rに回転し、釣糸を繰出す。このとき、ロータ30に設けられた逆転防止装置50は、逆転防止体52が係止歯61およびこれに係合する阻止部材54によりリール本体12に対する回動を阻止されているため、阻止部材54に対してロータ30および保護用環状体64が逆転方向に回転し、弾発部材56を係合突部62との間で圧縮すなわち変形させる。これにより、釣糸案内部を介する釣糸の繰り出しに伴う大きな衝撃力が緩和される。
【0033】
各弾発部材56が完全に圧縮されると、この圧縮された弾発部材56およびフリクション部材58を介してロータ30のディスク状部48と逆転防止体52の係合突部62とが連結され、ロータ30の逆転が阻止される。ロータ30に作用する逆転方向Rの力が複数の弾発部材56を介して、しかもディスク状部48から複数の係合突部62に作用するため、力を伝達する支持面積が極めて大きく、耐支持強度が極めて大きい。特に、係合突部62と弾発部材56との間にはフリクション部材58が配置されるため、逆転防止体52と弾発部材56との間の力を伝達する支持面積が充分に大きく形成され、安定した状態で衝撃を吸収することができる。
【0034】
このように弾発部材56が圧縮変形されるときは、保護用環状体64が係合突部62及びこの係合突部62で支えられたフリクション部材58に対して移動するため、保護用環状体64のドーム部64cとフリクション部材58との間には、移動を開始するときに、弾発部材56の変形を抑制する静止摩擦力が作用し、移動を開始した後は、運動摩擦力が作用する。これらの摩擦力は弾発部材56の衝撃吸収力を増大し、したがって、より大きな衝撃力を吸収することができる。また、リング状部60に装着されたOリング状の摩擦部材66も、フリクション部材58と同様に、逆転防止体52とロータ30の摩擦力により、弾発部材56の衝撃吸収力を増大する。
【0035】
この魚釣用スピニングリール10によると、阻止部材54に係止歯61を介して係合する逆転防止体52がロータ30の円筒部46の内周部に所定角度回転可能に支持され、弾発部材56で衝撃を吸収することにより、この逆転防止体52が軸筒部32から径方向外方に大きく離間した位置で、ロータ30の逆転時の衝撃が吸収され、弾発部材56を大型化あるいは重量化して強力にすることなく、ロータ30の逆転時の大きな衝撃力を吸収することができる。更に、この逆転防止体52を安定した状態で支持することができるため、長期間にわたって安定した衝撃吸収性能を得ることができる。
【0036】
更に、フリクション部材58による摩擦力により、弾発部材56を変形させた状態に、少なくとも一時的に保持することができることにより、ロータ30に対する逆転防止体52および弾発部材56の組み込みを容易に行うことができる。このフリクション部材58が逆転防止体52に対向する弾発部材56の端部に設けられる場合には、逆転防止体52がこのフリクション部材58を介して弾発部材56を押圧するため、力を伝達する支持面積が充分大きく、ロータ逆転防止時の安定した衝撃吸収性能を得ることができる。
【0037】
図6は変形例によるフリクション部材82を示す。なお、以下に説明する変形例あるいは実施形態は、図1から図5を参照して説明した実施形態と基本的には同様であるため、同様な部位には同様な符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0038】
図6の(A)およびこのB−B線に沿う断面を示す(B)から明らかなように、この変形例によるフリクション部材82はスリーブ状に形成され、弾発部材56の係合突部62に近接する端部の外周部に配置されている。図示のように、フリクション部材82から弾発部材56の端部を係合突部62側に突出させてもよいが、この弾発部材56の端部と面一状に配置してもよい。また、弾発部材56の端部をドーム部64c内に保持し、弾発部材56の変形を妨げる力を形成できるものであれば、一部だけでなく、例えば弾発部材56の外周部の全長にわたって延設してもよい。
【0039】
尚、フリクション部材82を、弾発部材56の外周ではなく、ドーム部64cの周壁部65aの内面に貼付形成して摩擦力を作用させても良い。
【0040】
図7に示すフリクション部材84は、ドーム部64cの周壁部65aおよび頂壁部65cの3つの内面に摺接するブロック状に形成してある。この周壁部65aの内面には、ガイド溝86を形成してあり、フリクション部材84の側面から突出するた突条88をこのガイド溝86に嵌合することにより、このフリクション部材84を安定した状態で移動することができる。これとは逆に、ガイド溝86をフリクション部材84に形成し、このガイド溝86に嵌合する突条88をドーム部64cの周壁部65aに形成してもよい。
【0041】
なお、上述の実施形態あるいは変形例では、3つのドーム部64cを周方向に沿って等間隔に配置し、それぞれに弾発部材56を配置したが、このようなドーム部64cは2つあるいは4つ以上であってもよく、この場合には、ロータ30のディスク状部48にも対応する数の切欠部49を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の好ましい実施形態による魚釣用スピニングリールの一部を欠截した部分断面図。
【図2】図1の魚釣用リールのロータの内部の逆転防止装置の説明図。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図。
【図4】図2のIV−IV線に沿う断面図。
【図5】図2の逆転防止装置の保護用環状部材に対する逆転防止体と弾発部材との配置状態を示す説明図。
【図6】変形例による逆転防止装置をドーム部に配置した状態で示す説明図。
【図7】他の変形例による逆転防止装置の図6と同様な説明図。
【符号の説明】
【0043】
10…魚釣用スピニングリール、12…リール本体、18…ハンドル、30…ロータ、32…軸筒部、46…円筒部、50…逆転防止装置、52…逆転防止体、54…阻止部材、56…弾発部材、58…フリクション部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル操作に連動して回転支軸を中心として回転するロータの逆転を防止する逆転防止装置を備え、この逆転防止装置が、ロータの逆転を阻止するときに、釣糸案内部を介する釣糸の繰り出しに伴う衝撃力を緩和する魚釣用スピニングリールであって、
前記逆転防止装置は、前記ロータの円筒部の内周部にこの円筒部に対して所定角度回転可能に支持した逆転防止体と、前記ロータが逆転方向に回転したときに、この逆転防止体に係合してこの逆転防止体が逆転方向に移動するのを阻止する阻止部材と、前記逆転防止体とロータとの間に介在されてロータの逆転を阻止するときに逆転防止体に作用する衝撃力を吸収する弾発部材と、この弾発部材とロータとの少なくとも一方に設けられるフリクション部材とを有することを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記フリクション部材は、前記逆転防止体に対向する前記弾発部材の端部に設けられる請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−43295(P2008−43295A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224276(P2006−224276)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】