説明

魚釣用スピニングリール

【課題】不適切な釣糸の放出操作を行なった場合でも、ロータの回転数が過度に上昇するのを抑制できる魚釣用スピニングリールを提供する。
【解決手段】ベールアーム機構27は、釣糸巻き取り位置と釣糸放出位置との間で反転可能である。逆転防止機構31は、釣糸を巻き取る方向へのロータ15の正回転を許容するとともにロータ15の逆回転を禁止するON位置と、ロータ15の正・逆回転を許容するOFF位置との間で切り換えが可能である。制動機構は、逆転防止機構31がOFF位置に切り換えられた状態でロータ15が少なくとも逆回転した時にロータ15に制動力を付与し、逆転防止機構31がON位置に切り換えられた時にロータ15に対する制動力の付与を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸を巻き取る方向および釣糸を巻き取り方向とは逆方向に回転可能なロータを有する魚釣用スピニングリールに係り、特に釣糸を放出する時のロータの過度の回転を抑制するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣用スピニングリールは、釣糸を巻き付けるスプールと、釣糸を巻き取る際のハンドル操作に追従して回転するロータを備えている。ロータは、リール本体に支持された筒部と、筒部のリール本体側の端部からスプールに向けて突出する一対のアーム部とを有し、これらアーム部の先端の間にベールアーム機構が取り付けられている。
【0003】
ベールアーム機構は、アーム部の先端に回動可能に支持された一対のベール支持部材と、これらベール支持部材の間に跨るベールとを含み、一方のベール支持部材に釣糸案内部としてのラインローラが設けられている。ベールアーム機構は、釣糸巻き取り位置と釣糸放出位置との間で反転可能であるとともに、釣糸巻取り位置又は釣糸放出位置のいずれかに選択的に振り分けて保持されるようになっている。
【0004】
ベールアーム機構が釣糸巻き取り位置に回動された状態では、ベールおよびラインローラがスプールの外周面と向かい合うように位置するとともに、釣糸がラインローラを経由してスプールの外周面に導かれている。ベールアーム機構が釣糸放出位置に回動された状態では、ベールがスプールの外周面から離脱している。そのため、仕掛けを投擲する時のような釣糸の放出操作は、ベールアーム機構を釣糸巻き取り位置から釣糸放出位置に起こした状態で行われる。
【0005】
一方、魚釣用スピニングリールは、スプールから釣糸が放出される時に、ロータが釣糸を巻き取る方向とは逆方向に回転するのを防ぐ逆転防止機構を装備している。逆転防止機構は、釣糸を巻き取る方向へのロータの正回転を許容するとともに釣糸を巻き取る方向とは逆方向へのロータの逆回転を禁止するON位置と、ロータの正回転および逆回転を共に許容するOFF位置との間で切り換えが可能となっている。逆転防止機構の切り換え操作は、リール本体の外に露出する切り換えレバーを釣人が手で操作することにより実行される。
【0006】
ところで、例えば仕掛けを投擲する際には、釣人は、切り換えレバーを介して逆転防止機構をON位置に切り換えるととともに、ベールアーム機構を釣糸放出位置に起こしてから釣竿をスイングする。仕掛けの飛距離を大きくするため、釣竿を勢いよくスイングした場合に、釣竿からリール本体に加わる衝撃や慣性等によりロータが釣糸を巻き取る方向に回転することがあり得る。これにより、ベールアーム機構が釣糸放出位置から釣糸巻き取り位置に復帰してしまい、釣糸が切れたりロータが破損することがある。
【0007】
このような不具合を改善するため、特許文献1に開示された魚釣用スピニングリールでは、ベールアーム機構を釣糸放出位置に回動させた時に、ロータが釣糸巻き取り方向に回転するのを防ぐ回転規制機構を付設している。
【0008】
回転規制機構は、ロータの一方のアーム部に設けられたロータ側規制体と、リール本体の前部に設けられたリール側規制体とを備えている。ロータ側規制体は、ベールアーム機構を釣糸放出位置に回動させた時に、リール本体側に移動して、リール側規制体に当接するようになっている。
【0009】
この構成によれば、例えば仕掛けを投擲する際には、逆転防止機構によるロータの逆転防止機能と、回転規制機構によるロータの回転防止機能とが相乗的に作用する。そのため、ロータの不用意な回転やがたつきが解消され、ベールアーム機構を釣糸放出位置に確実に保持することができる。
【特許文献1】特開2002−281873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の魚釣用スピニングリールによると、例えば仕掛けを投擲する際には、釣人は、逆転防止機構をON位置に切り換えるとともに、ベールアーム機構を釣糸放出位置に起こした状態で、釣竿を狙ったポイントに向けてスイングする。
【0011】
この際、例えば、釣人が咄嗟の判断、又はうっかりとして逆転防止機構をOFF位置としたままベールアーム機構を釣糸放出位置に起こさずに投擲操作を行なった場合、勢いよく放出された釣糸によって釣糸巻き取り位置にあるラインローラが強く引っ張られてしまう。これにより、ロータが釣糸を放出する方向に超高速で回転して、ロータの各部に衝撃的な負荷が加わることがあり、ロータが破損するといった問題が生じてくる。
【0012】
すなわち、釣人がキャスティングの基本を無視して不適切な投擲操作を実行した場合は、ロータの逆転防止機構および回転規制機構は何等機能しないことになる。したがって、魚釣用スピニングリールを製造するに当っては、様々な釣場の状況の下で予期しない投擲操作が行なわれることを見越してロータの破損対策を講じることが必要であり、これを実現する上での具体的な対応が求められている。
【0013】
本発明の目的は、誤って逆転防止機構をOFF位置としたままベールアーム機構を釣糸放出位置に起こさずに釣糸の放出操作を行なった場合でも、ロータの回転数が過度に上昇するのを抑制でき、ロータの破損等の問題を回避できる魚釣用スピニングリールを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係る魚釣用スピニングリールは、
釣糸を巻き取る際に操作するハンドルを有するリール本体と、
上記リール本体に支持され、上記ハンドルの操作に連動して回転するロータと、
上記ロータに設けられ、釣糸をスプールに導く釣糸巻き取り位置と釣糸をスプールから放出する釣糸放出位置との間で反転可能なベールアーム機構と、
釣糸を巻き取る方向への上記ロータの正回転を許容するとともに釣糸を巻き取る方向とは逆方向への上記ロータの逆回転を禁止するON位置と、上記ロータの正回転および逆回転を許容するOFF位置との間で切り換えが可能な逆転防止機構と、を具備するとともに、
上記逆転防止機構がOFF位置に切り換えられた状態で上記ロータが少なくとも逆回転した時に上記ロータに制動力を付与するとともに、上記逆転防止機構がON位置に切り換えられている時に上記ロータに対する制動力の付与を解除する制動機構をさらに備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、たとえロータが正逆回転可能な時にベールアーム機構を釣糸放出位置に移動させずに釣糸の放出操作を行なったとしても、釣糸により引っ張られて逆方向に回転するロータに制動力が付与される。したがって、ロータが逆方向に超高速で回転するのを防止でき、ロータに加わる負荷を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の第1の実施の形態を、図1ないし図3に基づいて説明する。
【0017】
図1は、魚釣用スピニングリール1を開示している。スピニングリール1は、金属製のリール本体2を備えている。リール本体2は、その上端から上向きに延びる脚部3を有している。脚部3は、図示しない釣竿のリールシートに固定される。
【0018】
リール本体2は、脚部3と一体化されたリールボディ4と、リールボディ4の左側面を覆う蓋部材5aと、リールボディ4の後端を閉じる後部キャップ5bとを備えている。リールボディ4、蓋部材5aおよび後部キャップ5bは、リール本体2の内部に中空のギヤボックス6を形成している。
【0019】
リールボディ4の前端に円筒部7が一体に形成されている。円筒部7は、ギヤボックス6の前方に向けて突出している。円筒部7とギヤボックス6との間は、隔壁8によって仕切られている。
【0020】
図1に示すように、リール本体2のギヤボックス6にハンドル軸9が回転自在に支持されている。ハンドル軸9は、円筒部7と直交するように水平に配置されている。ハンドル軸9の上にドライブギヤ10が同軸状に固定されている。ハンドル軸9の一端は、リール本体2の側方に突出している。ハンドル軸9の一端に釣人が釣糸を巻き取る際に操作するハンドル11が取り付けられている。
【0021】
円筒部7の内側に駆動軸筒13が同軸状に挿通されている。駆動軸筒13は、隔壁8を貫通するとともに、リールボディ4に複数の軸受14を介して回転自在に支持されている。駆動軸筒13の前部は、円筒部7からリール本体2の前方に突出している。
【0022】
駆動軸筒13の前部に金属製のロータ15が取り付けられている。ロータ15は、駆動軸筒13が貫通するボス部16と、円筒状の筒部17とを有している。ボス部16は、駆動軸筒13と一体に回転するようにロックナット18を介して駆動軸筒13に固定されている。筒部17は、リール本体2の円筒部7を外側から同軸状に取り囲んでいる。
【0023】
さらに、ロータ15は、図示しない一対のアーム部を有している。アーム部は、既に知られているように、筒部17の後端からリール本体2の前方に向けて延びるとともに、筒部17を間に挟んでロータ15の径方向に互いに向かい合っている。
【0024】
図1に示すように、駆動軸筒13の後部は、ギヤボックス6の内部に導かれている。駆動軸筒13の後部にピニオンギヤ20が形成されている。ピニオンギヤ20は、ドライブギヤ10と噛み合っている。
【0025】
釣人が手でハンドル11を回すと、ハンドル11の回転がハンドル軸9、ドライブギヤ10およびピニオンギヤ20を介して駆動軸筒13に伝わり、駆動軸筒13がハンドル11の操作に連動して回転する。これにより、駆動軸筒13に直結されたロータ15が釣糸を巻き取る方向に回転する。本実施の形態では、釣糸を巻き取る方向へのロータ15の回転を正回転とし、釣糸を巻き取る方向とは逆方向へのロータ15の回転を逆回転と規定している。
【0026】
駆動軸筒13の内側にスプール軸21が挿通されている。スプール軸21は、軸方向に直線的に往復動可能にリール本体2に支持されている。スプール軸21の前部は、ロータ15の前方に突出している。スプール軸21の後部は、ピニオンギヤ20を貫通してギヤボックス6の内部に導かれている。
【0027】
スプール軸21の前部にスプール22が固定されている。スプール22は、スカート部23および釣糸巻回胴部24を有している。スカート部23は、ロータ15の筒部17を外側から同軸状に取り囲んでおり、このスカート部23の外周面に沿ってロータ15のアーム部が回転するようになっている。釣糸巻回胴部24は、スカート部23の前方に向けて同軸状に突出しており、この釣糸巻回胴部24の前端に前側フランジ25が形成されている。
【0028】
図1に示すように、リール本体2のギヤボックス6内にギヤ方式のオシレート機構26が収容されている。オシレート機構26は、ハンドル軸9の回転運動を往復直線運動に変換してスプール軸21に伝達する。そのため、ハンドル11の操作によりロータ15が回転すると、これと同期してスプール22がスプール軸21と一緒に軸方向に直線的に往復動するようになっている。
【0029】
オシレート機構26は、ギヤ方式に特定されるものではない。例えば、ギヤボックス6内にピニオンギヤ20と噛み合うねじ軸を収容するとともに、スプール軸22の後端にねじ軸のカム溝に係合する摺動子を固定した、いわゆるウォームシャフト方式のオシレート機構を用いてもよい。
【0030】
図1に示すように、ロータ15は、スプール22の釣糸巻回胴部24に釣糸を巻き付けるベールアーム機構27を備えている。ベールアーム機構27は、一対のベール支持部材28(一方のみを図示)およびベール29を有している。
【0031】
ベール支持部材28は、ロータ15の各アーム部の前端部に回動可能に支持されており、一方のベール支持部材28に釣糸をスプール22に案内するラインローラ30が設けられている。ベール29は、スプール22から放出された釣糸をピックアップするためのものであり、ベール支持部材28の間に跨っている。
【0032】
ベール支持部材28は、釣糸巻き取り位置と、釣糸放出位置との間で選択的に回動可能にロータ15に支持されている。ベール支持部材28は、ロータの一方のアーム部に配置された公知の振り分け機構により、釣糸巻き取り位置および釣糸放出位置のいずれか一方に振り分けて保持されるとともに、他方に向けて反転動作が可能となっている。さらに、ベール支持部材28は、釣糸を巻き取る方向にハンドル11を操作した時に、公知の反転復帰機構により釣糸放出位置から釣糸巻き取り位置に自動的に復帰される。
【0033】
図1および図2に示すように、リール本体2の円筒部7にローラ式の一方向クラッチ31が収容されている。一方向クラッチ31は、ロータ15の回転方向を規制する逆転防止機構の一例であり、内輪32、外輪33および複数のローラ34を備えている。
【0034】
内輪32は、駆動軸筒13の外周面に同軸状に固定されて、この駆動軸筒13およびロータ15と一体に回転する。外輪33は、円筒状の保護筒35を介してリール本体2の円筒部7の内側に回転不能に嵌合されている。ローラ34は、内輪32と外輪33との間に介在されているとともに、保持器36を介して内輪32および外輪33の周方向に間隔を存して並んでいる。
【0035】
外輪33は、ローラ34に対応する位置に、ローラ34が入り込むように凹む複数のカム面37を有している。各カム面37は、ローラ34の自由な回転を許容する自由回転領域と、ローラ34の外周面に食い込むことでローラ34の自由な回転を制限する規制領域とを含んでいる。自由回転領域と規制領域とは、外輪33の周方向に並んでいる。ローラ34を保持する保持器36は、ローラ34を自由回転領域に移動させるクラッチOFF位置と、ローラ34を規制領域に移動させるクラッチON位置との間で回動が可能となっている。
【0036】
保持器36がクラッチOFF位置に回動されると、ローラ34は内輪32と外輪33との間で自由に回転することができる。そのため、内輪32と一体に回転するロータ15は、正回転および逆回転が共に許容される正逆回転可能状態に移行する。
【0037】
一方、保持器36がクラッチON位置に回動されると、ローラ34は、内輪32がロータ15と一緒に逆回転した時に、外輪33のカム面37と内輪32の外周面との間に食い込んで自由な回転が制限される。このローラ34の楔作用により、内輪32の回転が阻止され、ロータ15は、正回転を許容しつつ逆回転を禁止する逆転防止状態に移行する。
【0038】
図1および図2に示すように、保持器35は、操作部材38を有している。操作部材38は、外輪33および保護筒35を貫通して一方向クラッチ31の外に突出している。一方向クラッチ31を収容するリール本体2の円筒部7は、操作部材38が入り込む収容部39を有している。収容部39は、円筒部7の径方向外側に向けて突出するとともに、円筒部7の軸方向に延びている。
【0039】
図1に示すように、リール本体2は、一方向クラッチ31をクラッチOFF位置又はクラッチON位置に操作する切り換え機構41を備えている。切り換え機構41は、操作軸42と切り換えレバー43とで構成されている。
【0040】
操作軸42は、リール本体2の前後方向に延びている。操作軸42は、後半部42aと前半部42bとを有している。後半部42aは、リール本体2のギヤボックス6に回動可能に支持されて、ハンドル軸9の上方に位置している。後半部42aの後端は、リール本体2の後端からリール本体2の外に突出している。前半部42bは、後半部42aの回転中心線O1に対し偏心しているとともに、円筒部7の収容部39内に導かれている。操作軸42の前半部42bの前端は、操作部材38に開けた長孔38aを貫通している。
【0041】
切り換えレバー43は、操作軸42の後半部42aの後端に取り付けられている。切り換えレバー43は、釣人が手で操作できるようにリール本体2の外に露出している。切り換えレバー43は、図2に実線で示す第1の位置と、図2に二点鎖線で示す第2の位置との間で移動可能となっている。
【0042】
切り換えレバー43を第1の位置に移動させると、操作軸42が後半部42aの回転中心線O1の周りに所定の角度範囲に亘って回動する。この回動により、操作軸42の回転中心線O1から偏心している前半部42bが円弧を描くように揺動する。操作軸32の前半部42bの前端は、保持器36の操作部材38の長孔38aに係合しているので、操作軸32の前半部42bの動きが操作部材38に伝わるとともに、この操作部材38を介して保持器36がクラッチON位置に回動される。
【0043】
この結果、一方向クラッチ31のローラ34が外輪33のカム面37と内輪32の外周面との間に食い込んで内輪32の回転を阻止する。よって、ロータ15は、正回転を許容しつつ逆回転を禁止する逆転防止状態に移行する。
【0044】
切り換えレバー43を第1の位置から第2の位置に移動させると、操作軸32の前半部42bの動きが操作部材38を介して保持器36に伝わり、この保持器36がクラッチOFF位置に回動される。これにより、内輪32と外輪33との間でのローラ34の挟み込みが解除されるので、ロータ15は、正回転および逆回転が許容される正逆回転可能状態に移行する。
【0045】
図1に示すように、操作軸42の後半部42aの外周面に二つの平面を有する位置決め部45が形成されている。位置決め部45は、切り換えレバー43を第1の位置又は第2の位置に移動させた時に、ギヤボックス6に固定した板ばね46に接触する。この接触により、操作軸42の自由な回動が制限されて、一方向クラッチ31の保持器36がクラッチON位置又はクラッチOFF位置に保持される。
【0046】
図1および図3に示すように、リール本体2の円筒部7に収容部39を横断するスリット状の溝部48が形成されている。溝部48は、ロータ15の径方向に延びるとともに、収容部39の外周面に開口している。
【0047】
リール本体2の溝部48に制動機構50が組み込まれている。制動機構50は、制動部材51とコイルバネ52とを備えている。制動部材51は、例えば繊維強化樹脂やコルクのようなロータ15よりも軟質な材料により長方形の板状に形成されている。制動部材51は、溝部48に摺動可能に嵌合されて、ロータ15の径方向に移動可能となっている。制動部材51は、先端縁部51aと基端縁部51bとを有している。制動部材51の先端縁部51aは、溝部48からロータ15の筒部17の内周面に向けて突出している。
【0048】
筒部15の内周面に例えば金属製のライニング材53が貼り付けられている。ライニング材53は、筒部15の周方向に連続するリング状をなすとともに、制動部材51の先端縁部51aと向かい合っている。制動部材51の先端縁部51aは、ライニング材53の内周面に沿うように円弧状に湾曲している。
【0049】
制動部材51の基端縁部51bは、溝部48の底に位置している。基端縁部51bの中央部に切り欠き54が形成されている。コイルバネ52は、切り欠き54と溝部48の底との間に圧縮状態で介在されている。
【0050】
したがって、制動部材51は、先端縁部51aがライニング材53に押し付けられる制動位置と、先端縁部51aがライニング材53から離脱する制動解除位置との間で移動可能であり、常にコイルバネ52により制動位置に向けて付勢されている。
【0051】
図3に示すように、制動部材51の中央部に四角い貫通孔56が形成されている。貫通孔56は、リール本体2の収容部39の内側に位置するとともに、この貫通孔56を操作軸42の前半部42bが貫通している。
【0052】
図3の(A)に示すように、操作軸42の前半部42bは、切り換えレバー43を第1の位置に移動させた時に、貫通孔56の開口縁部56aに接触するように揺動する。この揺動により、制動部材51がコイルバネ52の付勢力に抗して溝部48内に押し戻され、制動部材51の先端縁部51aがライニング材53から離脱する。
【0053】
図3の(B)に示すように、操作軸42の前半部42bは、切り換えレバー43を第1の位置から第2の位置に移動させた時に、貫通孔56の開口縁部56aから離れる方向に揺動し、制動部材51から切り離される。これにより、制動部材51がコイルバネ52の付勢力を受けて溝部48からライニング材53に向けて突出し、制動部材51の先端縁部51aがライニング材53に突き当たる。そのため、制動部材51とライニング材53との接触部分に摩擦抵抗が発生し、ロータ15に直に制動力が付加される。
【0054】
このような構成の魚釣用スピニングリール1において、例えば仕掛けを投擲する時、釣人は、切り換えレバー43を第1の位置に移動させることで一方向クラッチ31をクラッチON位置に操作し、かつベール29を釣糸放出位置に回動させる。そのため、スプール22から釣糸が放出される状態では、ベール29が釣糸から離脱するとともに、ロータ15は一方向クラッチ31によって正回転のみが許容された逆転防止状態に保持されている。
【0055】
さらに、切り換えレバー43が第1の位置に移動された状態では、制動部材51が操作軸42の前半部42bによって制動解除位置に押し戻されており、制動部材51の先端縁部51aがロータ15のライニング材53から離脱している。したがって、ロータ15に制動力が付与されることはなく、ロータ15は釣糸を巻き取る方向に自由に回転し得る状態に保持されている。
【0056】
よって、釣人が釣竿をスイングすると、その時の慣性により釣糸がスプール22から勢いよく放出される。
【0057】
このようにスプール22から釣糸を放出する時は、一方向クラッチ31をクラッチON位置に操作するとともに、ベール29を釣糸放出位置に回動させることが基本となる。
【0058】
ところが、実際の釣場の状況等により、釣人が誤って一方向クラッチ31をクラッチOFF位置としたままベール29を釣糸放出位置に回動させずに釣竿をスイングしてしまうと、釣糸巻き取り位置にあるラインローラ30が釣糸により強く引かれて、ロータ15が逆回転を開始する。
【0059】
しかるに、上記第1の実施の形態によると、一方向クラッチ31がクラッチOFF位置に操作されている状態では、切り換えレバー43が第2の位置に保持されている。切り換えレバー43が第2の位置にあると、操作軸42の前半部42bが制動部材51から切り離されて、制動部材51の先端縁部51aがロータ15のライニング材53に押し付けられている。そのため、制動部材51とライニング材53との接触部分に生じる摩擦抵抗がロータ15の逆回転に対抗する制動力として働く。
【0060】
このことから、釣人がキャスティングの基本を無視した不適切な釣糸の放出操作を行なったとしても、釣糸に引っ張られて逆回転するロータ15に直接制動力が付与される。そのため、ロータ15が超高速で逆回転するのを回避することができ、ロータ15のアーム部に加わる負荷を軽減してロータ15の破損を防止することができる。
【0061】
さらに、逆回転するロータ15の回転速度が低下して、仕掛けの投擲距離が不足することから、釣人は、切り換えレバー43の位置およびベール29の位置が不適切であることを知ることができる。そのため、釣人は、切り換えレバー43およびベール29を適正な位置に復帰させる動作に直ちに移行することができ、この点でもロータ15の破損防止に有効に寄与するといった利点がある。
【0062】
本発明は上記第1の実施の形態に特定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。
【0063】
例えば、図4ないし図6は、本発明の第2の実施の形態を開示している。
【0064】
この第2の実施の形態は、制動力を受けるロータ15の構成が上記第1の実施の形態と相違しており、それ以外の魚釣用スピニングリールの構成は、第1の実施の形態と同様である。そのため、第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
図4に示すように、ロータ15の筒部17の内周面に一方向クラッチ61が取り付けられている。一方向クラッチ61は、ロータ15と連動して回転する回転部材の一例であり、外輪62、内輪63および複数のローラ64(一つのみを図示)を備えている。
【0066】
外輪62は、筒部17の内周面に嵌合されている。外輪62の外周面上に複数の凸部65(一つのみを図示)が形成されている。凸部65は、筒部17の内周面に形成された凹部66に係合されている。この係合により、筒部17に対する外輪62の周り止めがなされて、外輪62が筒部17と一体に回転する。
【0067】
外輪62は、筒部17の内周面に位置する段差部67と、筒部17の内周面に取り付けたサークリップ68との間で挟み込まれている。これにより、筒部17の軸方向対する外輪62の位置決めがなされている。
【0068】
さらに、外輪62の内周面に複数の凹部70(一つのみを図示)が形成されている。凹部70は、外輪62の周方向に間隔を存して並んでいるとともに、各凹部70の底にカム面71が形成されている。
【0069】
内輪63は、外輪62の内側に同軸状に保持されて、リール本体2の円筒部7および収容部39を取り囲んでいる。内輪63および外輪62は、相対的に回転可能であり、内輪63の内周面が制動部材51の先端縁部51aと向かい合っている。制動部材51の先端縁部51aは、内輪63の内周面に沿うように円弧状に湾曲している。制動部材51は、先端縁部51aが内輪63の内周面に押し付けられる制動位置と、先端縁部51aが内輪63の内周面から離脱する制動解除位置との間で移動可能となっている。
【0070】
図5および図6に示すように、ローラ64は、外輪62と内輪63との間に介在されている。ローラ64は、夫々凹部70に収容されて、カム面71に接している。カム面71は、ローラ64の自由な回転を許容する自由回転領域と、ローラ64の外周面に食い込むことでローラ64の自由な回転を制限する規制領域とを含んでいる。自由回転領域と規制領域とは、外輪62の周方向に並んでいる。カム面71に接するローラ64は、コイルバネ72により常に規制領域に向けて付勢されている。
【0071】
このような第2の実施の形態によると、釣人が一方向クラッチ31をクラッチOFF位置としたままベール29を釣糸放出位置に回動させずに釣糸の放出操作を行なった場合、釣糸巻き取り位置にあるラインローラ30が釣糸により強く引かれて、ロータ15が図 に矢印で示す方向に逆回転する。このロータ15の逆回転に追従して一方向クラッチ61の外輪62が同方向に連れ回るので、ローラ64がカム面71の規制領域に移動する。これにより、ローラ64が外輪62のカム面71と内輪63との間に食い込んで自由な回転が制限される。このローラ64の楔作用により、内輪63および外輪62た互いに結合されて、内輪63がロータ15と一緒に逆回転する。
【0072】
さらに、一方向クラッチ31がクラッチOFF位置に操作されている状態では、切り換えレバー43が第2の位置に保持されている。切り換えレバー43が第2の位置にあると、操作軸42の前半部42bが制動部材51から切り離されて、図6に示すように、制動部材51の先端縁部51aが内輪63の内周面に押し付けられている。そのため、制動部材51と内輪63との接触部分に生じる摩擦抵抗がロータ15の逆回転を制限する制動力として働く。
【0073】
したがって、釣人がキャスティングの基本を無視した不適切な釣糸の放出操作を行なったとしても、釣糸に引っ張られて逆回転するロータ15に一方向クラッチ61を介して間接的に制動力が付与される。よって、ロータ15が超高速で逆回転するのを回避することができ、ロータ15の破損を防止することができる。
【0074】
図7および図8は、本発明の第3の実施の形態を開示している。
【0075】
この第3の実施の形態は、ロータ15に制動力を付加するための構成が上記第1の実施の形態と相違しており、それ以外の魚釣用スピニングリールの構成は第1の実施の形態と同様である。そのため、第3の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0076】
図7および図8に示すように、リール本体2のギヤボックス6の内部に制動機構80が組み込まれている。制動機構80は、円盤状のブレーキロータ81と制動部材82とを備えている。
【0077】
ブレーキロータ81は、駆動軸筒13の外周面に同軸状に固定されて、駆動軸筒13と一体に回転する。本実施の形態の場合、駆動軸筒13はロータ15と一体に回転するので、ブレーキロータ81がロータ15と連動して回転する回転部材の一例となっている。
【0078】
制動部材82は、ガイドピン83を介して隔壁8のうちギヤボックス6に臨む面に支持されている。制動部材82は、カム受け部84と嵌合溝85とを有している。カム受け部84は、操作軸42の後半部42aの真下に位置して、この後半部42aの外周面と向かい合っている。
【0079】
嵌合溝85は、カム受け部84とブレーキロータ81との間に位置している。嵌合溝85は、ブレーキロータ81の外周部が摺動可能に嵌合するように、ブレーキロータ81の外周部に向けて開口している。
【0080】
制動部材82は、嵌合溝85内にブレーキロータ81の外周部が嵌合する制動位置と、嵌合溝85からブレーキロータ81の外周部が離脱する制動解除位置との間でスライド可能に隔壁8に支持されており、常にコイルバネ87により制動解除位置に向けて付勢されている。
【0081】
さらに、操作軸42の後半部42aの外周面に、押圧カム88が形成されている。押圧カム88は、制動部材82のカム受け部84に向けて張り出すカムノーズ89を有している。カムノーズ89は、切り換えレバー43を第2の位置に操作した時に、カム受け部84に接触する。この接触により、制動部材82がコイルバネ87の付勢力に抗して制動解除位置から制動位置に向けて押圧され、ブレーキロータ81の外周部が制動部材82の嵌合溝85に摺動可能に嵌合するようになっている。
【0082】
このような第3の実施の形態によると、釣人が一方向クラッチ31をクラッチOFF位置としたままベール29を釣糸放出位置に回動させずに釣糸の放出操作を行なった場合、釣糸巻き取り位置にあるラインローラ30が釣糸により強く引かれて、ロータ15が逆回転する。ロータ15のボス部16は、駆動軸筒13にロックナット18を介して固定されているので、駆動軸筒13およびブレーキロータ81がロータ15に追従して逆回転する。
【0083】
さらに、一方向クラッチ31がクラッチOFF位置に操作されている状態では、切り換えレバー43が第2の位置に保持されている。切り換えレバー43が第2の位置にあると、
図8に示すように、操作軸42の上の押圧カム88のカムノーズ89が制動部材82のカム受け部84に当接し、制動部材82を制動解除位置から制動位置に向けて押圧する。
【0084】
これにより、制動部材82の嵌合溝85内にブレーキロータ81の外周部が摺動可能に嵌合する。そのため、嵌合溝85の内面とブレーキロータ81との接触部分に摩擦抵抗が生じるとともに、この摩擦抵抗が駆動軸筒13ひいてはロータ15の逆回転に対抗する制動力として働く。
【0085】
したがって、釣人がキャスティングの基本を無視した不適切な釣糸の放出操作を行なったとしても、釣糸に引っ張られて逆回転するロータ15にブレーキロータ81を介して間接的に制動力が付与される。よって、ロータ15が超高速で逆回転するのを回避することができ、ロータ15の破損を防止することができる。
【0086】
なお、逆転防止機構は、上記第1の実施の形態のようなローラ式の一方向クラッチに限らない。例えば、逆転防止歯車および逆転防止歯車に引っ掛かる係止部材とを備えたラチェット式の一方向クラッチを用いてもよい。
【0087】
さらに、一方向クラッチがクラッチOFF位置に切り換えられている時に、釣糸放出操作に伴う振動や慣性によって正回転しようとするロータに制動力を付与するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る魚釣用スピニングリールを一部断面で示す側面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る魚釣用スピニングリールの断面図。
【図3】(A)は、図1のF3-F3線に沿う断面図、(B)は、制動部材がロータのライニング材に押し付けられた状態を示す断面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る魚釣用スピニングリールの断面図。
【図5】図4のF5-F5線に沿う断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態において、制動部材が一方向クラッチの内輪に押し付けられた状態を示す断面図。
【図7】本発明の第3の実施の形態において、スライド部材が制動解除位置に移動されて、制動部材の嵌合溝がブレーキロータから離脱した状態を示す断面図。
【図8】本発明の第3の実施の形態において、スライド部材が制動位置に移動されて、制動部材の嵌合溝がブレーキロータの外周部に嵌合した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0089】
1…魚釣用スピニングリール、2…リール本体、11…ハンドル、15…ロータ、22…スプール、27…ベールアーム機構、31…逆転防止機構(一方向クラッチ)、50,80…制動機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣糸を巻き取る際に操作するハンドルを有するリール本体と、
上記リール本体に支持され、上記ハンドルの操作に連動して回転するロータと、
上記ロータに設けられ、釣糸をスプールに導く釣糸巻き取り位置と釣糸をスプールから放出する釣糸放出位置との間で反転可能なベールアーム機構と、
釣糸を巻き取る方向への上記ロータの正回転を許容するとともに釣糸を巻き取る方向とは逆方向への上記ロータの逆回転を禁止するON位置と、上記ロータの正回転および逆回転を許容するOFF位置との間で切り換えが可能な逆転防止機構と、を具備する魚釣用スピニングリールであって、
上記逆転防止機構がOFF位置に切り換えられた状態で上記ロータが少なくとも逆回転した時に上記ロータに制動力を付与するとともに、上記逆転防止機構がON位置に切り換えられている時に上記ロータに対する制動力の付与を解除する制動機構をさらに備えていることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
請求項1の記載において、上記制動機構は、上記ロータに制動力を付与する制動位置と、上記ロータに対する制動力の付与を解除する制動解除位置との間で移動可能な制動部材を有することを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
請求項2の記載において、上記逆転防止機構を上記OFF位置又は上記ON位置に操作する切り換え機構をさらに備えており、この切り換え機構は、上記逆転防止機構を上記OFF位置に切り換えた時に上記制動部材を制動位置に移動させるとともに、上記逆転防止機構を上記ON位置に切り換えた時に上記制動部材を制動解除位置に移動させることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項4】
請求項3の記載において、上記制動部材は、上記制動位置に移動された時に、上記ロータの筒部の内面に接触することで、上記ロータに直接制動力を付与することを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項5】
請求項3の記載において、上記制動部材は、上記制動位置に移動された時に、上記ロータと連動して回転する回転部材に接触することで、上記ロータに間接的に制動力を付与することを特徴とする魚釣用スピニングリール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−153496(P2009−153496A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338316(P2007−338316)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】