説明

鳥類の卵管内でタンパク質を発現させるための遺伝子構築物、およびこれを用いたタンパク質の生産方法

【課題】 本発明はトランスジェニック鳥類(ニワトリ)を用いた安全なタンパク質生産系を実現すべく、ウィルスベクター系を用いることなく、ニワトリを始めとする鳥類の卵管において所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物、および当該遺伝子構築物を用いたタンパク質の生産方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明の遺伝子構築物は、ニワトリ由来オボアルブミン遺伝子のゲノム配列を含んでおり、オボアルブミン遺伝子の翻訳開始点に外来遺伝子が挿入されている。当該遺伝子構築物を用いてニワトリ細胞に外来遺伝子を導入すれば、当該外来遺伝子がコードするタンパク質はニワトリ卵管で特異的に発現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニワトリを始めとする鳥類の卵管において目的タンパク質を発現させるための遺伝子構築物、および当該遺伝子構築物を用いたタンパク質の生産方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、有用タンパク質の生産においては、その生産量が高い、生産コストが安い等の理由から、大腸菌、枯草菌、酵母等の微生物が用いられてきた。しかし目的とするタンパク質によっては、糖鎖の付加、高次構造がその機能に重要な影響を及ぼす場合があり、かかるタンパク質を上記微生物で生産しようとしても、うまく発現しない場合や、発現したとしてもその目的とする活性(機能)が得られない場合がある。
【0003】
そこで、近年は、有用タンパク質の生産において、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、およびウシを含む哺乳類、並びにニワトリ、ウズラを含む鳥類、等の高等生物を用いることが検討され、そのタンパク質の生産系の開発が行なわれている。例えば、トランスジェニックウシを用いて、その乳中にタンパク質を生産する方法が知られている(例えば、非特許文献7参照)。また、近年そのヒトに極めて類似した糖鎖構造を有するタンパク質生産するとの理由から、ニワトリを始めとする鳥類がタンパク質生産系として特に注目されている。ニワトリを始めとする鳥類は、その卵中にタンパク質、抗体を蓄積することができる。例えば、特許文献1、および非特許文献1〜6には、レトロウィルスベクター、レンチウィルスベクター等のウィルスベクター系を利用してトランスジェニックニワトリを作製し、血中、卵(卵白)中に有用タンパク質、抗体を生産する方法について記載されている。
【0004】
しかし、上記のごとくウィルスベクターを用いた場合、例え複製能を欠損したとしても、自然界からのウィルス感染やゲノムに組み込まれたプロウィルスを引き金として複製能が回復し、ウィルス疾患を引き起こす可能性がある。よってトランスジェニックニワトリの大量飼育が難しいという欠点がある。さらに医療用や食品用など人体に作用させるタンパク質を生産させる場合、ウィルスタンパク質の混入などの危険性があり、実用化が難しい。
【0005】
また非特許文献1に記載されている従来公知のトランスジェニックニワトリでは、ヒトサイトメガロウィルスプロモーターなど全身強発現型プロモーターの下流に目的遺伝子を挿入した発現ベクターを用いているため、目的遺伝子の発現部位を限定することができず、所望のタンパク質は全身で強く発現する。したがって目的遺伝子の如何によってはニワトリの生育または生命に悪影響を及ぼす場合があり、タンパク質生産を行なうことができない、または永続的にタンパク質生産を行なうことができない場合がある。さらに生産された目的タンパク質はトランスジェニックニワトリの全身に蓄積するため、タンパク質を回収する際に該ニワトリを屠殺する必要が生じる場合があり、タンパク質の回収が非常に困難である。またタンパク質を回収する際にトランスジェニックニワトリにダメージを与える場合があり、タンパク生産を永続的に行なうことができない。
【0006】
そこで特許文献1には、ニワトリの卵中に目的タンパク質を発現させるための発現ベクターとして、ニワトリオボアルブミン、リゾチーム、コンアルブミン、オボムコイドプロモーター及びエンハンサー配列の一部を利用したニワトリ卵管特異的発現ベクターが開示されている。しかし当該ベクターは、遺伝子の導入効率を上げるため、骨格として複製欠損レトロウィルスベクターを用いているものである。したがって既に述べたウィルスベクターに関する問題点を依然として有している。
【特許文献1】特表2000−512149号公報(公表日:平成12(2000)年9月19日、国際公開日:平成9年12月18日)
【非特許文献1】Micael J. McGrew, Adrian Sherman, Fiona M. Ellard, Simon G. Lillico, Hazel J. Gilhooley, Alan J. Kingsman, Kyriacos A. Mitrophanous, and Helen Sang, EMBO reports VOL 5, NO7, 2004. 728-733
【非特許文献2】Alex J. Harvey, Gordon Speksnijder, Larry R. Baugh, Julie A. Morris, and Robert Ivalie, 2002. nature biotechnology Vol.19, 396-399
【非特許文献3】P. E. Mozdziak, S. Borwornpinyo, D. W. McCoy, and J. N. Petitte, 2003. DEVELOPMENTAL DYNAMICS 226, 439-445
【非特許文献4】Jeffrey C. Rapp, Alex J. Harvey, Gordon L. Speksnijder, Wei Hu & Robert Ivarie, 2003. Transgenic Research 12, 569-575
【非特許文献5】Mo Sun Kwon, Bon Chul Koo, Bok Ruyl Choi, Hoon Taek Lee, Young Hye Kim, Wang-Shik Ryu, Hosup Shim, Jin-Hoi Kim, Nam-Hyung Kim, and Teoan Kim, 2004, Biochemical and Biophysical Research Communications 320, 442-448
【非特許文献6】Paul E. Mozdziak, Simone Pophal, Suparerk Borwornpinyo and James N. Petitte, 2003, American Society for Nutritional Science. 3076-3079
【非特許文献7】Brophy B, Smolenski G, Wheeler T, Wells D, L'Huillier P, Laible G. Cloned transgenic cattle produce milk with higher levels of beta-casein and kappa-casein.Nat Biotechnol. 2003 Feb;21(2):157-62.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち本発明の目的は、トランスジェニック鳥類(特にニワトリ)を用いた安全なタンパク質生産系を実現すべく、ウィルスベクター系を用いることなく、ニワトリを始めとする鳥類の卵管で、所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物、好ましくはニワトリを始めとする鳥類の卵管特異的に所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物、および当該遺伝子構築物を用いたタンパク質の生産方法を提供することにある。鳥類の卵管において外来遺伝子を発現させることができれば、最終的に鳥類の卵内、特に卵白内に所望のタンパク質を発現させることが可能なタンパク質生産系を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく、鳥類、特にニワトリの卵白の大部分(約54%)を構成するオボアルブミンの発現系に着目して鋭意検討を行なった。その結果、所望のタンパク質をコードする遺伝子(以下「外来遺伝子」という)の発現ベクターとして、二ワトリが元来有するオボアルブミン遺伝子の発現モジュールを、そのまま利用することによって、ニワトリの卵管(特に卵管膨大部)で所望のタンパク質を発現させることができるということを発見し、本発明を完成させるに至った。卵管膨大で所望のタンパク質を発現させることができれば、所望のタンパク質は最終的にオボアルブミンと同様、卵白中に蓄積されることとなる。
【0009】
すなわち本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、鳥類の卵管内で所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物であって、鳥類由来オボアルブミン遺伝子のゲノム配列を含むことを特徴としている。
【0010】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、上記鳥類がニワトリであってもよい。
【0011】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、オボアルブミン転写領域、およびオボアルブミン転写開始点から5’末端方向に約900bpまでの領域を少なくとも含む構成であってもよい。
【0012】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、オボアルブミン転写領域、およびオボアルブミン転写開始点から5’末端方向に約8000bpまでの領域を含む構成であってもよい。
【0013】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、オボアルブミン転写領域、オボアルブミンプロモーター配列、ステロイドホルモン応答配列、NRE、DNase I-hypersensitive regions I、DNase I-hypersensitive regions II、DNase I-hypersensitive regions III、DNase I-hypersensitive regions IV、および Half Plindromic motifesを少なくとも含む構成であってもよい。
【0014】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、配列番号3に示される塩基配列の第7107位から第15608位の塩基配列を少なくとも含む構成であってもよい。
【0015】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、配列番号3に示される塩基配列を含む構成であってもよい。
【0016】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、配列番号1に記載の塩基配列を有するという構成であってもよい。
【0017】
また本発明にかかる遺伝子構築物は、上記課題を解決するために、配列番号2に記載の塩基配列を有するという構成であってもよい。
【0018】
一方、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記課題を解決するために、上記本発明にかかる遺伝子構築物へ外来遺伝子を挿入する挿入工程、および上記挿入工程によって得られた遺伝子構築物を鳥類由来細胞へ導入する導入工程、を含むことを特徴としている。
【0019】
また本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記課題を解決するために、上記挿入工程は、遺伝子構築物に含まれるオボアルブミン翻訳開始点より3’末端側の領域に外来遺伝子を導入する工程であってもよい。
【0020】
また本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記課題を解決するために、上記挿入工程は、遺伝子構築物に含まれるオボアルブミンコード鎖に外来遺伝子を挿入する工程であってもよい。
【0021】
また本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記課題を解決するために、上記鳥類が、ニワトリであってもよい。
【0022】
一方、本発明にかかるタンパク質の生産キットは、上記課題を解決するために、上記本発明にかかる遺伝子構築物、を含むことを特徴としている。
【0023】
なおオボアルブミン遺伝子は既に公知であるが、当該遺伝子のゲノム配列そのままを外来遺伝子の導入手段として用いて行なうことによって、導入した外来遺伝子がコードする目的タンパク質が卵管内で特異的に発現するということは一切知られておらず、また当業者であっても容易に予想し得なかったことである。さらに遺伝子導入用のベクターはそのサイズが大きくなればなるほどその導入効率が低下することが知られており、少なくとも9kbp以上のサイズを有するオボアルブミン遺伝子を遺伝子導入用のベクターとして用いることを、当業者は到底考えない。
【発明の効果】
【0024】
上記本発明にかかる遺伝子構築物によれば、所望のタンパク質をニワトリ等の鳥類の卵管膨大部において、好ましくは鳥類の卵管膨大部特異的に発現させることができる。卵管膨大部において所望のタンパク質を発現させることができれば、オボアルブミンが卵白中へ分泌されるのと同様にして、所望のタンパク質を卵白中へ分泌および蓄積させることができる。またオボアルブミンの発現系を利用しているため、所望のタンパク質を卵白中に高含有させることが可能である。よって本発明は、最終的に鳥類の卵内、特に卵白内に所望のタンパク質を発現させることが可能なタンパク質生産系の実現に寄与することができる。
上記タンパク質発現系における所望のタンパク質の取得は、ニワトリが産んだ卵を集め、その卵白から回収すればよく、非常に簡便である。さらに所望のタンパク質は最終的に卵白中に高含有しているため、その精製も容易である。また、所望のタンパク質の発現部位を卵管膨大部に限定することができるため、発現した所望のタンパク質がニワトリ個体に悪影響を及ぼす可能性が低くなり、トランスジェニックニワトリを用いたタンパク質生産を永続的に行なうことが可能となる。さらに、本発明にかかる遺伝子構築物は、ウィルスベクターを一切用いていないため、外環境に対しても安全なタンパク質生産手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
(0.鳥類(特にニワトリ)をタンパク質の生産系として用いるメリットについて)
本発明は、最終的にトランスジェニック鳥類(特にニワトリ)をタンパク質の生産工場として利用することを意図している。現在、トランスジェニック哺乳類(ウシ、ネズミ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)をタンパク質の生産工場として利用されている。表1にトランジェニック動物をタンパク質の生産工場として利用する場合において、トランスジェニック哺乳類に対するトランスジェニックニワトリのメリットを示した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、乳1kgあたりのタンパク質含量は約10gであるのに対して、卵1kgあたりのタンパク質含量は約130gと卵の方が約13倍高い。またウシ体重1kgあたりのタンパク質含量は137gであるのに対して、ニワトリ体重1kgあたりのタンパク質含量は1073gとニワトリの方が約7倍高い。
【0029】
また性成熟に要する期間を比較すると、ウシ(乳牛)が27ヶ月(810日)、ヒツジが18ヶ月(540日)かかるのに対して、ニワトリは5ヶ月(150日)と明らかに短い(対乳牛比で19%、対ヒツジ比で23%)。したがってニワトリの場合は、動物飼育にかかる日数および費用が少ないというメリットがある。
【0030】
また生産したタンパク質の精製の難易度を比較すると、乳タンパク質の組成が複雑であるのに対して、卵白タンパク質の組成は単純であり、ニワトリを用いてタンパク質を生産した方が、タンパク質の精製を容易に行なうことができる。
【0031】
さらにヒト用の医薬品(タンパク質)を生産する場合において、ウシ等の哺乳類はヒトと進化的に近く、当該医薬品(タンパク質)の影響を受け易い。一方ニワトリの場合はヒトと進化的に遠く、当該医薬品(タンパク質)の影響を受け難い。したがってニワトリの方がヒト用の医薬品の製造に好適である。しかもニワトリによって生産されるタンパク質の糖鎖はヒトに近いというメリットもある。
【0032】
以上のように、ニワトリを始めとする鳥類をタンパク質の生産工場として利用するメリとは多大にあるといえる。
【0033】
(1.本発明にかかる遺伝子構築物)
本発明にかかる遺伝子置換ベクターは、鳥類の卵管内で所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物であって、鳥類由来オボアルブミン遺伝子のゲノム配列を含むことを特徴としている。ここで「鳥類」とは、ニワトリ、ウズラ、七面鳥、アヒル、等の家禽および他の鳥を意図する。
【0034】
本発明にかかる遺伝子構築物は、オボアルブミン遺伝子のゲノム配列を含むことを特徴としている。ここで「オボアルブミン遺伝子」とは、オボアルブミンタンパク質をコードする構造遺伝子(オボアルブミンコード鎖)、およびオボアルブミンタンパク質の発現および発現調節に関与する調節遺伝子を含む、オボアルブミンタンパク質の合成に関与するゲノムDNA上の一連のDNA領域を意味する。また「オボアルブミン遺伝子のゲノム配列」とは、上記オボアルブミン遺伝子の塩基配列、または当該オボアルブミン遺伝子の部分塩基配列(以下「オボアルブミン遺伝子断片」という)の塩基配列を有するポリヌクレオチドのことを意味する。なお上記オボアルブミン遺伝子断片は、オボアルブミンタンパク質をコードする領域(オボアルブミンコード鎖)を少なくとも含む遺伝子断片のことを意味する。ただし、上記オボアルブミン遺伝子断片には、オボアルブミンコード鎖の全てが含まれている必要はない。また当該ポリヌクレオチドは、天然物から調製したものであっても、化学合成によって調製したものであってもよい。
【0035】
例えばニワトリについてゲノム解析が行なわれており、例えばニワトリ(HB−15)では、配列番号3に示される塩基配列を有する約16kbpのDNA領域がオボアルブミンタンパク質の合成に関与するほぼ全ての領域(「全オボアルブミン遺伝子」)であるということが知られている(Woo S.L., Beattie W.G., Catterall J.F., Dugaiczyk A., Staden R., Brownlee G.G., O’Malley B.W. Complete nucleotide sequence of the chicken chromosomal ovalbumin gene and its biological significance. Biochemistry 1981. 20 (22) 6437-6446. 参照)。またニワトリ以外の鳥類では、例えば七面鳥(Meleagris gallopavo)およびウズラ(Coturnix coturnix)について、オアルブミン遺伝子の解析が行なわれており、そのcDNAのシーケンスや転写開始点近傍の上流域のゲノム配列が決定されている(七面鳥:gene bank Accession No.AF06546およびAF157499参照。ウズラ(Coturnix coturnix)gene bank Accession No.AY354922およびX53964、並びにMucha J., Klaudiny J., Klaudinyova V., Hanes J., Simuth J. The sequence of Japanese quail ovalbumin cDNA. Nucleic Acids Res. 1990. 18(18), 5553-5553.参照)。なお全オボアルブミン遺伝子は配列番号3に示される塩基配列に限定されるものではなく、(i)配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、もしくは(ii)配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドのいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドをも含まれる。なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0036】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0037】
配列番号3に示される塩基配列の第9689位は転写開始点であり(特に「オボアルブミン転写開始点」という)、当該オボアルブミン転写開始点より3’側(下流側)の領域が転写領域(特に「オボアルブミン転写領域」という)、すなわちオボアルブミン遺伝子において、RNAへ転写される領域である。当該オボアルブミン転写領域には、5’非翻訳領域(「5’UTR」)、シグナル配列、オボアルブミンコード鎖、イントロン、転写調節領域が含まれている。特にシグナル配列は、オボアルブミンタンパク質の卵白内への分泌および取り込みを指向する。
【0038】
一方、ニワトリのオボアルブミン遺伝子においてオボアルブミン転写開始点から5’末端側(上流側)約8,000bpまでの領域内に、オボアルブミン遺伝子の発現に関与する領域が含まれているということが知られており、とりわけ転写開始点から5’末端側約900bpまでの領域に、オボアルブミンプロモーター配列(基本転写因子結合配列)、およびステロイドホルモン応答配列(例えばδEF1結合配列、USF-1&2結合配列、COUP-TF結合配列、HNF member 結合配列、Chirp-II結合配列、NF-kB様因子結合配列)、NRE(the negative regulatory element、例えばIRF-4 complex結合配列、Silencer phosphoprotein結合配列)、DNase I-hypersensitive regions I、DNase I-hypersensitive regions II、DNase I-hypersensitive regions III、DNase I-hypersensitive regions IV, Half Plindromic motifes等、オボアルブミン遺伝子の発現調節およびオボアルブミン遺伝子の卵管特異的な発現に関与する重要な領域が存在するということが知られている(Dillner N.D., Sanders M.M. Hormone respose units: The ovalbumin modeol. Rescent Res. Devel. Mol. Cell Biol. 2000. 1, 93-108.;Kato S., Tora L. Yamauchi J., Masushige S., Bellard M., Chambon P. A far upstream estrogen response element of the ovalbumin gene contains several half-palindromic 5’-TGACC-3’motifs acting synergistically. Cell 1992. 68, 731-742.;Kaye J.S., Pratt-Kaye S., Bellard M., Dretzen G., Bellard F., Chambon P. Steroid hormone dependence of four DNase I-hypersensitive regions located within the 7000-bp 5’-flanking segment of the ovalbumin gene. EMBO J. 1986. 5(2) 277-285.参照)。なお「オボアルブミンプロモーター配列」とは、オボアルブミン遺伝子において、オボアルブミン転写開始点から5’末端側に存在し、オボアルブミンのmRNAの合成を担うプロモーターの塩基配列を意味する(Dillner N.D., Sanders M.M. Hormone respose units: The ovalbumin modeol. Rescent Res. Devel. Mol. Cell Biol. 2000. 1, 93-108.参照)。また「ステロイドホルモン応答配列」は、エストロジェン等のステロイドホルモンのシグナルに応答して転写を活性化する働きを持つシスエレメントのことを意味する(Dillner N.D., Sanders M.M. Hormone respose units: The ovalbumin modeol. Rescent Res. Devel. Mol. Cell Biol. 2000. 1, 93-108.参照)。
【0039】
本発明にかかる遺伝子構築物は、鳥類の卵管内で所望のタンパク質を発現させるために、オボアルブミンタンパク質の発現機構を利用するものである。ニワトリにおいてオボアルブミンタンパク質は、卵を構成する卵白タンパク質の大部分(約54%)を構成するタンパク質である(Li-Chen, E. and Nakai, S. (1989) Critical Reviews in Poultry Biology, 2:21参照)。したがってオボアルブミンタンパク質の発現機構を利用すれば、最終的に所望のタンパク質を卵白タンパク質内に高生産することができる。
【0040】
またオボアルブミンタンパク質は、ニワトリの卵管、特に卵管膨大部において特異的に合成および分泌がなされる。またニワトリのオボアルブミンタンパク質は、卵の生合成の開始から約3〜3.5時間の極めて限られた時間においてのみ発現されるということが知られている(今井清 (1980) 食卵の科学と利用(佐藤泰 編)pp.1-17, 地球社 参照)。したがってオボアルブミンタンパク質の発現機構を利用すれば、所望のタンパク質を極めて限られた時間においてのみ発現させることができ、かつ卵管膨大部特異的に発現させることができる。
【0041】
よってオボアルブミンタンパク質の発現機構を利用してタンパク質の生産を行なえば、所望のタンパク質の取得は、ニワトリが産んだ卵を集め、その卵白から回収すればよく、非常に簡便に行なうことができるという効果を奏する。さらに所望のタンパク質は卵白中に高含有しているため、その精製も容易である。また発現した所望のタンパク質は、極めて限られた時間において短時間発現され、さらに卵殻によって鳥類細胞とは隔離されるため、該タンパク質が鳥類個体に与える影響が少なくタンパク質生産を永続的に行なうことができる。
【0042】
上記のオボアルブミンタンパク質の発現機構を利用するためには、オボアルブミンタンパク質の合成に関与するゲノムDNA上の一連のDNA領域(オボアルブミン遺伝子)そのものを利用すればよい。すなわち、本発明の遺伝子構築物には、オボアルブミン遺伝子のゲノム配列が含まれていればよいということになる。オボアルブミン遺伝子内のオボアルブミンコード鎖に所望のタンパク質をコードする外来遺伝子を挿入し、当該遺伝子構築物をニワトリを始めとする鳥類に導入して形質転換を行なうことによって、オボアルブミンタンパク質の発現調節機構の作用を受け、所望のタンパク質は最終的に卵内に蓄積することとなる。
【0043】
より詳細には、上記遺伝子構築物によってニワトリ等の鳥類のゲノム上で相同組換えが起こった場合には、所望のタンパク質はオボアルブミンタンパク質と同様の機構によって卵白内で合成、蓄積されることとなる。さらに、オボアルブミンタンパク質と完全に置き換えて発現させることができる。一方、相同組換えが起こらずにゲノム上のランダムな位置に外来遺伝子が導入された場合には、オボアルブミンタンパク質の部位特異的な発現調節機構によって、所望の部位すなわち卵管(特に卵管膨大部)以外では、所望のタンパク質は発現しない。したがって、ランダムな部位でタンパク質が発現することによる鳥類個体(ニワトリ個体)への悪影響は回避できる。
【0044】
なお本発明にかかる遺伝子構築物は、全オボアルブミン遺伝子のゲノム配列が含まれている必要はなく、オボアルブミン転写領域、オボアルブミンプロモーター配列(基本転写因子結合配列)、およびステロイドホルモン応答配列(例えば、δEF1結合配列、USF-1&2結合配列、COUP-TF結合配列、HNF member 結合配列、Chirp-II結合配列、NF-kB様因子結合配列)、NRE(例えばIRF-4 complex結合配列、Silencer phosphoprotein結合配列)シグナル配列が少なくとも含まれた領域のゲノム配列が含まれていればよい。上記領域が含まれることによって、オボアルブミンタンパク質の部位特異的な発現機構を利用することができる。なおオボアルブミンプロモーター配列(基本転写因子結合配列)、およびステロイドホルモン応答配列(例えば、δEF1結合配列、USF-1&2結合配列、COUP-TF結合配列、HNF member 結合配列、Chirp-II結合配列、NF-kB様因子結合配列)、NRE (the negative regulatory element、IRF-4 complex結合配列、Silencer phosphoprotein結合配列)は、既述の通り、オボアルブミン転写開始点から5’末端(上流)方向に約900bpまでの領域にその大部分が含まれていることが知られているため、本発明にかかる遺伝子構築物には、オボアルブミン転写領域、オボアルブミン転写開始点から5’末端(上流)方向に約900bpまでの領域を少なくとも含むゲノム配列が含まれていればよい。すなわち本発明にかかる遺伝子構築物には、オボアルブミン転写領域、当然オボアルブミン転写開始点から5’末端(上流)方向に約900bpを超える範囲のゲノム配列が含まれていてもよい。なお「約900bp」とは800bp〜1000bp、好ましくは850bp〜950bp、より好ましくは870bp〜930bpを意味する。例えば上記本発明にかかる遺伝子構築物に含まれていることが好ましいオボアルブミン遺伝子のゲノム配列としては、配列番号3に示される塩基配列の第7107位から第15608位の塩基配列が挙げられる。配列番号3に示される塩基配列の第7107位から第15608位の塩基配列を配列番号20に示した。なお、上記塩基配列には配列番号3に示される塩基配列の第7107位よりも上位(第7107位よりも5’末端側に位置する)の塩基配列がさらに含まれていてもよい。
【0045】
また本発明にかかる遺伝子構築物を用いて相同組換えを起こる確率を増加させる場合には、外来遺伝子の5’側(上流側)および3’側(下流側)に存在するオボアルブミン遺伝子のゲノム配列はできるだけ長いことが好ましいといえる。一般に、相同組み換えを起こさせる場合、相同領域の塩基は長ければ長いほど、より好ましい。しかし、長くなりすぎると遺伝子の導入効率が低下するため、100kbp以下が好ましく、特に8kbp程度が好ましいといえる(Nature Genetics, volume 36, Number 8, pp867-871,2004、およびBlood First Edition Paper, prepublished online ay 1,2003;DOI10.1182/blood-2003-03-0708参照)。したがって、例えば本発明にかかる遺伝子構築物は、オボアルブミン転写領域、およびオボアルブミン転写開始点から5’末端(上流)方向に約8000bpまでの領域を含むゲノム配列が含まれていればよい。またオボアルブミン転写開始点から3’末端(下流)方向、すなわちオボアルブミン転写領域についても同様に、約8000bpのゲノム配列が本発明にかかる遺伝子構築物に含まれていることが好ましいといえる。オボアルブミンの転写領域は約7500bpであることが知られているから(Woo S.L., Beattie W.G., Catterall J.F., Dugaiczyk A., Staden R., Brownlee G.G., O’Malley B.W. Complete nucleotide sequence of the chicken chromosomal ovalbumin gene and its biological significance. Biochemistry 1981. 20 (22) 6437-6446.参照)、本発明にかかる遺伝子構築物に含まれるオボアルブミン転写領域は全長であることがこの好ましいといえる。なお「約8000bp」とは7500bp〜8500bp、好ましくは7700bp〜8300bp、より好ましくは7900bp〜8100bpを意味する。例えば本発明にかかる遺伝子構築物に含まれていることが好ましいゲノム配列とは、配列番号3に示される第1位から第15608位の塩基配列が挙げられる。本発明にかかる遺伝子構築物が、上記好ましい範囲のゲノム配列を含むことによって、オボアルブミンタンパク質の発現調節機構を利用することができ、かつ相同組換えの確率を向上させることができるという効果を奏する。
【0046】
なお本発明かかる遺伝子構築物に含まれるオボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、公知のゲノムDNAの塩基配列情報からプライマーを設計し、ニワトリ等の鳥類のゲノムDANを鋳型としてPCR等の増幅反応を行なえば、容易に入手することができる。PCR等の反応条件については、最適な条件を適宜検討の上、採用すればよい。
【0047】
ところで本発明にかかる遺伝子構築物に含まれるオボアルブミン遺伝子のゲノム配列には、外来遺伝子を挿入するための制限酵素認識配列が挿入された態様であってもよい。上記態様によれば、外来遺伝子の挿入が容易に行なうことができるという効果を奏する。制限酵素認識配列に対応する制限酵素の種類は、オボアルブミン遺伝子のゲノム配列内にその認識配列が無いものであれば特に限定されるものではない。また挿入する制限酵素認識配列は一種類に限られず、複数種類の制限酵素認識配列が挿入されていてもよい。本発明にかかる遺伝子構築物では、例えば、XhoI、BamHI、EagI、SacII、AatII、AscI、BsiWI、BspEI、BsrFI、BssHII、BssSI、BstBI、BstXI、EciI、FseI、FspI、KasI、MluI、NaeI、NarI、NgoMIV、NotI、NruI、PflFI、PmeI、PshAI、PvuI、RsrII、SalI、SbfI、SfiI、SfoI、SgrAI、SmaI、Tth111I、XmaI等が利用可能である。
【0048】
また本発明にかかる遺伝子構築物の外来遺伝子挿入位置に、ヒスチジンタグ等の精製用タグをコードするポリヌクレオチドが挿入されていてもよい。合成された所望のタンパク質を、当該精製用タグによって容易に回収・精製することができる。例えば上記ヒスチジンタグは、ニッケルカラムを用いて容易に目的の所望のタンパク質を回収・精製することができる。また精製用タグは、従来公知のものを適宜選択の上、用いればよく、上記ヒスチジンタグのほか、GST(glutathion S transferase)タグ、FLAGタグ、V5タグ、mycタグ、チオレドキシンタグ、AvitagTM等が利用可能である(例えば、先端バイオ用語集、羊土社p15-20参照)。また所望のタンパク質を切り出すためのペプダーゼ配列が含まれていてもよい。
【0049】
さらに、本発明にかかる遺伝子構築物には、選択マーカー遺伝子が含まれていてもよい。上記選択マーカー遺伝子は、特に限定されるものではなく、従来公知のものを適宜選択の上、用いればよい。例えばブラストシジンS耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン、ピューロマシシン、ゼオシン等が挙げられる。また、プロモーターと当該プロモーターに制御可能に連結された選択マーカー遺伝子を含んでなる選択マーカー発現カセットが、オボアルブミン遺伝子の一部または全部をコードする遺伝子断片に挿入されている態様であってもよい。またこの他、上記選択マーカー発現カセットには、ポリA付加シグナル、等のDNAセグメントが含まれていてもよい。
【0050】
なお、本発明にかかる遺伝子構築物の基本骨格は、特に限定されるものではなく、従来公知のベクターを適宜選抜の上、用いればよい。またかかる従来公知のベクター由来のDNAセグメント(ポリA付加シグナル、ヒスチジンタグ等の精製用タグ、薬剤耐性マーカー、myc epitope等の検出用タグ)が含まれていてもよい。環状であっても、リニア形状であってもよい。ただし、相同組み換えを志向する場合には、、本発明にかかる遺伝子構築物がリニア形状であることが好ましい。
【0051】
ところで本発明にかかる遺伝子構築物は、(1)相同組み換えを志向するベクターとして使えることの他に、(2)非相同組み換えが起こった場合にも卵管内で特異的に所望のタンパク質を発現させるためのベクターとして利用可能である。つまり本発明にかかる遺伝子構築物は、所望のタンパク質の特徴に応じて(1)相同組み換えによってホモまたはヘテロのタンパク質生産系を構築するか、(2)非相同組み換えによって、卵本来のタンパク質組成を保ち卵としての機能を保ちつつ、大量の外来タンパク質を卵にのみ産生させるのか、の2通りの利用が可能である。(2)の場合はステーブルミュータントを選択するために、例えばゼオシン耐性遺伝子を持つ市販ベクター(pSV40/Zeo2, インビトロジェン社)を利用して本発明にかかる遺伝子構築物を構築すればよい。本発明者らは後述する実施例において、ゼオシン添加培地で、CHO−K1のステーブルミュータントを選択できることを確認している。さらにゲノムDNAを鋳型とするPCRにより、ゼオシン培地で選択された形質転換細胞のゲノムに、本発明にかかる遺伝子構築物のDNA配列が含まれることを確認している。
【0052】
なお本発明にかかる遺伝子構築物は、すでに外来遺伝子が挿入された構成であってもよい。例えば、後述する実施例において作製した遺伝子構築物(pOV-8.0kおよびpOv-0.9k)のごとく、オボアルブミン遺伝子の翻訳開始点に外来遺伝子として(Enhanced Green Fluorescent Protein遺伝子(以下「EGFP遺伝子」という))が挿入された構成であってもよい。pOV-8.0kの塩基配列を配列番号1に示し、pOV-0.9kの塩基配列を配列番号2に示した。挿入される外来遺伝子は特に限定されるものではなく、宿主となる鳥類が元来生産しないタンパク質をコードする遺伝子であっても、元来生産するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。当該遺伝子構築物を用いて、EGFP以外のタンパク質を生産する場合は、EGFP遺伝子を所望の外来遺伝子と置換すればよい。置換の方法は公知の遺伝子工学的手法を用いればよい。
【0053】
(2.本発明にかかるタンパク質の生産方法)
本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記「1.本発明にかかる遺伝子構築物」の項で説示した本発明にかかる遺伝子構築物へ外来遺伝子を挿入する挿入工程、および上記挿入工程によって得られた遺伝子構築物を鳥類由来細胞へ導入する導入工程を含むことを特徴としている。なお以下の説明においては挿入工程を経る前の遺伝子構築物を「遺伝子構築物」と表記し、挿入工程を経た後の遺伝子構築物を「挿入遺伝子構築物」と表記する場合がある。
【0054】
<挿入工程>
本挿入工程において外来遺伝子は、遺伝子構築物に含まれるオボアルブミン翻訳開始点より3’末端側(下流側)の領域に挿入されることが好ましい。特にオボアルブミンコード鎖に外来遺伝子が挿入さることが好ましい。オボアルブミンタンパク質の発現調節機構の作用を受けて所望のタンパク質が卵管膨大部において発現し、最終的には卵内に蓄積させることが可能になるからである。なお遺伝子構築物へ外来遺伝子を挿入する手法については、特に限定されるものではなく、通常の遺伝子工学的手法を用いればよい。例えば、適当な位置に制限酵素認識配列を挿入した遺伝子構築物、および上記と同様の制限酵素認識配列をその両端(5’末端および3’末端)に付加した外来遺伝子を、該制限酵素で切断し、その後各遺伝子断片を通常のライゲーションの手法により連結すればよい。
【0055】
また外来遺伝子の挿入を予定しているオボアルブミン遺伝子のゲノム配列上の位置から3’末端(上流側)の遺伝子断片と、5’末端側(下流側)の遺伝子断片を別個にPCR等で増幅しておき、3’末端(上流側)の遺伝子断片と、5’末端側(下流側)との間に上記外来遺伝子を連結する方法であってもよい。なお3’末端(上流側)の遺伝子断片、5’末端側(下流側)、および外来遺伝子をPCR等により取得する際には、適当な制限酵素認識配列が各遺伝子断片の末端に付加されるようにPCR等を行なうことが好ましい。上記各遺伝子断片の連結を容易に行なうことができるからである。
【0056】
なお上記付加することが好ましい制限酵素認識配列は、「1.本発明にかかる遺伝子構築物」の項で示した観点により、適宜選択すればよい。
【0057】
<導入工程>
本発明における導入工程は、挿入遺伝子構築物を鳥類由来細胞へ導入する工程であり、その具体的方法については公知の方法を適宜選択の上、採用すればよい。例えば、リポフェクション法、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等があげられる。後述する実施例では、エレクトロポレーションを行なって、ニワトリ由来卵管組織に外来遺伝子導入を行なっている。
【0058】
外来遺伝子が導入されたか否かは、薬剤耐性マーカー等の選択マーカーによって、判定すればよい。このとき、1週間程度細胞培養を行なって、一過性の発現(transient expression)を排除し、安定形質転換細胞(stable transformant)をセレクトすることが好ましい。
【0059】
また鳥類由来細胞は、特に限定されるものではなく、ニワトリを始めとする鳥類由来の細胞を用いればよい。ただし本発明の最終的な目的は、鳥類の卵白内に所望のタンパク質を蓄積させることであるため、トランスジェニック鳥類(特にニワトリ)を作製する必要がある。トランジェニック鳥類(特にニワトリ)を作製する方法としては、公知の方法により行なえばよい。例えば、鳥類(特にニワトリ)の胚盤様細胞から樹立したES様細胞にかかる挿入遺伝子構築物を導入し、目的の遺伝子座に遺伝子置換が起きた細胞のみを選択した後、鳥類(特にニワトリ)の胚へ戻す事により、遺伝子改変された体細胞と通常の体細胞を有するキメラ鳥類(特にニワトリ)を作製する方法が挙げられる。すなわち本発明にかかるタンパク質の生産方法には、導入工程において得られた鳥類由来細胞を鳥類個体に導入する工程、をさらに含むものであってもよい。
【0060】
この他、トランスジェニック鳥類(特にニワトリ)を作製する方法としては、本明細書中で参考として援用される米国特許第5,162,215号に記載されるように、挿入遺伝子構築物を、X期で停止された新たに産卵されたニワトリの卵において、胚盤葉に非常に近接して(例えば、胚盤葉のすぐ下に)マイクロインジェクションすればよい(一般には、7日齢以下であり、インキュベートされていない)。より詳細には、直径約5mmの開口部が、通常は、下にある殻膜を損傷することなく卵殻に穴をあけ得る、研磨用の回転チップを備えた穴あけ機の使用によって、卵の側部に作製される。次いで、膜が、外科用メスまたは18ゲージ針および母指鉗子(thumb forceos)の使用によって切除され、その結果、殻および膜の一部が除去され、それによって胚が露呈する。胚は、肉眼または6倍〜50培の倍率で光学解剖顕微鏡により観察することができる。挿入遺伝子構築物を含む溶液(通常は、組織培養培地)が、マイクロマニピュレーターおよび非常に小さい直径の針(好ましくは、ガラスの、先端部が40〜60μMの外径、その長さにそって1mmの外径)を使用して胚盤葉のすぐ下または周辺の領域にマイクロインジェクションされる。マイクロインジェクションのための溶液の容量は好ましくは5〜20μlである。マイクロインジェクション後、卵は、殼膜およびシール剤(好ましくは、接着剤またはパラフィン)でシールされる。次いで、シールされた卵は、正常な胚増殖および胚発生を可能にする孵化時間までおよびそれを含む種々の時間、約38℃(99.5°F)でインキュベートされる。外来遺伝子が導入されたか否かは、孵化した雛由来のDNAを、当該分野で公知の手段によって検出できる。
【0061】
<タンパク質回収工程>
本発明のタンパク質生産方法には、タンパク質回収工程が含まれていてもよい。本発明にかかるタンパク質の生産方法によって生産されたタンパク質は卵管内で発現し、最終的に卵中(特に卵白中)に蓄積されることとなる。したがって当該タンパク質を卵白中に蓄積させた場合においては、トランスジェニックニワトリが産んだ卵から卵白を回収する工程、および当該卵白から所望のタンパク質を取得する工程が本発明のタンパク質生産方法に含まれている方法であってもよい。
【0062】
卵から卵白を回収する工程は、卵の殻を割り、卵黄と卵白を分離する公知の方法または手段を用いればよい。かかる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば特開2003−235460号公報(平成15年8月26日公開)、特開2000−300446(平成12年10月31日公開)、特開平11−266790号公報(平成11年10月5日公開)等が挙げられる。
【0063】
なお、オボアルブミンタンパク質の結晶化の方法については古くから研究されており、例えばNisbet A.D., Saundry R.H., Moir A.J., Fothergill L.A., Fothergill J.E. The complete amino-acid sequence of hen ovalbumin. 1981. Eur. J. Biochem. 115(2), 335-345.等を参照することができる。
【0064】
また卵白からタンパク質を回収する工程としては、卵白を公知分画手段(ゲルろ過、イオン交換カラム、アフィニティーカラム、硫安分画等)を用いて、所望のタンパク質を回収すればよい。なお所望のタンパク質がオボアルブミンとの融合タンパク質として生産されている場合には、オボアルブミン遺伝子と所望のタンパク質の境界に適当なペプチダーゼ切断配列等を設けておけば、オボアルブミンと所望のタンパク質とを容易に分離することができる。ペプチダーゼとしては、例えばカテプシンDが挙げられ、その切断配列としては、ウズラ、ウシ由来のカテプシンD切断配列(Gerhartz B, Auerswald EA, Mentele R, Fritz H, Machleidt W, Kolb HJ, Wittmann J. Proteolytic enzymes in yolk-sac membrane of quail egg. Purification and enzymatic characterisation. Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol. 1997 Sep;118(1):159-66.参照)や、ウシ由来のカテプシンD切断配列が挙げられる(Pohl J, Baudys M, Kostka V. Chromophoric peptide substrates for activity determination of animal aspartic proteinases in the presence of their zymogens: a novel assay. Anal Biochem. 1983 Aug;133(1):104-9.参照)。
【0065】
また、所望のタンパク質にヒスチジンタグ等の精製用タグが付加されていれば、さらに容易に所望のタンパク質を回収することができる。ヒスチジンタグを利用して所望のタンパク質を回収する場合は、卵白液をニッケルカラムに供し、レジンに吸着したタンパク質を溶出すればよい。
【0066】
(3.本発明にかかるタンパク質の生産キット)
本発明にかかるタンパク質の生産キットは、本発明にかかる遺伝子構築物が含まれていることを特徴としている。なお本発明にかかるタンパク質生産キットに含まれる遺伝子構築物には、外来遺伝子が既に挿入されているものであっても、挿入されていないものであってもよい。
【0067】
外来遺伝子が既に遺伝子構築物に挿入されている場合は、当該本発明にかかるタンパク質生産キットの使用者が、既に挿入されている外来遺伝子と、所望の外来遺伝子とを置換して使用すればよい。また、外来遺伝子が挿入されていない遺伝子構築物が本発明にかかるタンパク質生産キットに含まれている場合には、使用者が適宜目的とする外来遺伝子を挿入して使用すればよい。
【0068】
上記の他、本発明にかかるタンパク質生産キットには、遺伝子を導入するために必要な器具・試薬類、タンパク質を回収・精製するために必要な器具・試薬類等が含まれていてもよい。上記遺伝子を導入するために必要な器具・試薬類としては、例えば、エレクトロポレーター、サーマルサイクラー、チューブ、制限酵素、緩衝液等が挙げられる。また、タンパク質を回収・精製するために必要な器具・試薬類としては、電気泳動装置、アガロースゲル、ニッケルカラム等の精製用カラム、精製に用いられるレジン、緩衝液等が挙げられる。
【0069】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また本明細書において挙げた全ての技術文献は、本発明の説明において援用される。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお以下の実施例において、鳥類の一例としてニワトリを用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。ニワトリを始めとする鳥類は、共通した卵の生産システムを有しており、ニワトリにおいて示された本発明の効果はニワトリ以外の鳥類(ウズラ、七面鳥、アヒル等)においても同様に得られるということを、当業者であれば容易に理解する。
【0071】
〔実施例1:本発明にかかる遺伝子構築物の各種培養細胞への外来遺伝子導入効果の確認〕
<本発明の遺伝子構築物の作製>
ニワトリ(HB−15、Dr. Olli Vainio (Turku University, Turku, Finland, 現 University of Oulu, Oulu, Finland)より入手)の3日胚から調製したゲノムDNAを鋳型として、各種オボアルブミン遺伝子断片(以下それぞれ「断片A」、「断片B」、「断片C」という)をPCRにより取得した。オボアルブミン遺伝子の転写開始点を+1位とし、転写開始点を起点として5’末端側をマイナス方向、3’末端側をプラス方向とした場合、断片Aはオボアルブミン遺伝子の−8034位〜+1654位のDNA断片、断片Bはオボアルブミン遺伝子の−928位〜+1654位のDNA断片、断片Cはオボアルブミン遺伝子の+1655位〜+7574位のDNA断片である。
【0072】
断片Aを増幅する際に用いたプライマーは、
Ov-8kF+XhoI:5’-cactcgagCTCAACAGGCAGAAATAACAAACAGTATTGC-3’(配列番号4)、
Ov+2995R+BamHI:5’-gaggatccGGTGAACTCTGAGTTGTCTAGAGCAAACAGCAG-3’(配列番号5)を用いて増幅を行なった。なお上記プライマーセットによって増幅される断片Aの5’末端にXhoIの制限酵素認識配列(ctcgag)、3’末端にBamHIの制限酵素認識配列(ggatcc)を付加することを意図して、Ov-8kF+XhoIは5’末端に(cactcgag)を付加し、Ov+2995R+BamHIの5’末端に(gaggatcc)を付加した。なおOv-8kF+XhoIの5’末端から第1塩基および第2塩基の(ca)、並びに、Ov+2995R+BamHIの5’末端から第1塩基および第2塩基の(ga)は、後に行なうTAクローニングのために付加した配列である。
【0073】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 2μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 2μl;Template (1 ng/μl) 2.5μl;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水 34.25μl/合計50μl]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0074】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 66℃ 1 min, 72℃ 10 min) ×2 → (94℃ 30 sec, 72℃ 10 min) ×28 → 72℃ 7 min →4℃とした。
【0075】
上記PCR産物(断片A)の塩基配列を配列番号10に示した。なお当該PCR産物(断片A)は、TOPO XL OCR Cloning Kit (Invitrogen社)を用いてTAクローニングを行なった。TAクローニングは、添付のマニュアルに準じて行なった。
【0076】
断片Bを増幅する際に用いたプライマーは、
Ov-928F+XhoI2:5’-ctcgagCAAACAGTGCTTTACAGAGGTCAG-3’(配列番号6)、
Ov+2995R+BamHI2:5’-ggatccGGTGAACTCTGAGTTGTCTAGAGC-3’(配列番号7)を用いて増幅を行なった。なお上記プライマーセットによって増幅される断片Bの5’末端にXhoIの制限酵素認識配列(ctcgag)、3’末端にBamHIの制限酵素認識配列(ggatcc)を付加することを意図して、Ov-928F+XhoI2は5’末端に(ctcgag)を付加し、Ov+2995R+BamHIの5’末端に(ggatcc)を付加した。
【0077】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 1μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 1μl;Template (1 ng/μl) 2.5μl;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水 36.25μl/合計50μl]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0078】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 58℃ 1 min, 72℃ 2 min) ×2 → (94℃ 30 sec, 67℃ 1 min, 72℃ 2min) ×28 → 72℃ 7 min →4℃とした。
【0079】
上記PCR産物(断片B)の塩基配列を配列番号11に示した。なお当該PCR産物(断片B)は、TOPO XL OCR Cloning Kit (Invitrogen社)を用いてTAクローニングを行なった。TAクローニングは、添付のマニュアルに準じて行なった。
【0080】
断片Cを増幅する際に用いたプライマーは、
Ov+2996F+EagI:5’-cggccgATGGGCTCCATCGGTG-3’(配列番号8)、
Ov+8906R+SacII:5’-tccccgcgggAGCTTAAACATGTTTTTATTATGATTAAAGG-3’(配列番号9)を用いて増幅を行なった。なお上記プライマーセットによって増幅される断片Cの5’末端にEagIの制限酵素認識配列(cggccg)、3’末端にSacIIの制限酵素認識配列(ccgcgg)を付加することを意図して、Ov+2996F+EagIは5’末端に(cggccg)を付加し、Ov+8906R+SacIIの5’末端に(tccccgcggg)を付加した。
【0081】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 1μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 1μl;Template (1 ng/μl) 2.5μl;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水 36.25μl/合計50μl]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0082】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 54℃ 1 min, 72℃ 6 min) ×2 → (94℃ 30 sec, 70℃ 1 min, 72℃ 6 min) ×28 → 72℃ 7 min → 4℃とした。
【0083】
上記PCR産物(断片C)の塩基配列を配列番号12に示した。なお当該PCR産物(断片C)は、TOPO XL OCR Cloning Kit (Invitrogen社)を用いてTAクローニングを行なった。TAクローニングは、添付のマニュアルに準じて行なった。
【0084】
一方、pIRES2-EGFP (BD Biosciences Clonthech社)を鋳型として、レポーター遺伝子として使用するEGFP遺伝子をPCRにより取得した。
【0085】
EGFP遺伝子を増幅する際に用いたプライマーは、
EGFP2F+BamHI:5’-ggatccATGGTGAGCAAGG-3’(配列番号13)、
EGFP2R+EagI:5’-cggccgCTTGTACAGCTCGTC-3’(配列番号14)を用いて増幅を行なった。なお上記プライマーセットによって増幅されるEGFP遺伝子の5’末端にBamHIの制限酵素認識(ggatcc)、3’末端にEagIの制限酵素認識配列(cggccg)を付加することを意図して、EGFP2F+BamHIは5’末端に(ggatcc)を付加し、EGFP2R+EagIの5’末端に(cggccg)を付加した。
【0086】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 1μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 1μl;Template (1 ng/μl) 1μl;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水 35.75μl/合計50μl]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0087】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 46℃ 1 min, 72℃ 30 sec) ×2 → (94℃ 30 sec, 60℃ 1 min, 72℃ 30sec) ×28 → 72℃ 7 min →4℃とした。
【0088】
上記PCR産物(EGFP遺伝子)の塩基配列を配列番号15に示した。なお当該PCR産物(EGFP遺伝子)は、pGEM-T Easy Vector System (Promega社)を用いてTAクローニングを行なった。TAクローニングは、添付のマニュアルに準じて行なった。
【0089】
断片A、断片C、EGFP遺伝子を連結して、断片Aと断片Cの間にEGFP遺伝子が挿入された遺伝子構築物pOv-8.0kを構築した。当該pOV-8.0kの塩基配列を配列番号1に示した。また断片B、断片C、EGFP遺伝子を連結して、断片Bと断片Cの間にEGFP遺伝子が挿入された遺伝子構築物pOv-0.9kを構築した。当該pOV-0.9kの塩基配列を配列番号2に示した。なお連結は、はじめにpBluescript II SK(-)のマルチクローニングサイト内のEagIおよびSacIIサイトを利用して断片Cを挿入したプラスミドを作製し、次にプラスミドのEagIおよびBamHIサイトを利用してEGFP遺伝子断片を挿入し、最後にプラスミドのBamHIおよびXhoIサイトを利用して断片Aまたは断片Bを挿入することで行なった。またλ DNAのNgoMIVおよびApaI消化断片とpOv-0.9kをpBluescript II SK(-)内で連結したpOv-0.9k+λも構築した。pOv-0.9k+λの構築は、λDNAをApaI、NgoMIV、ApaLIで同時に消化して得られる9954bpのλDNA断片(ApaI、NgoMIV断片)をpOv-0.9kのApaIおよびNgoMIVサイトを利用して挿入して作製した。
【0090】
上記のようにして構築したpOv-8.0k、pOv-0.9k、および pOv-0.9k+λの模式図を図1に示した。またpOv-8.0k、pOv-0.9k、および pOv-0.9k+λからの遺伝子発現を説明する模式図を図2に示した。図2に示すとおり、オボアルブミン遺伝子は8つのエクソンに分断される遺伝子であり、その翻訳開始点は+1654位であり、イントロンなど非コード鎖の占める割合が非常に高い遺伝子である。レポーター遺伝子であるEGFP遺伝子は、オボアルブミン遺伝子の翻訳開始点+1654位に挿入されており、上記遺伝子構築物からN末端側にEGFPが付加されたオボアルブミンタンパク質が合成される。
【0091】
なおコントロールベクターとしてpEGFP-N1(4.7kbp、GenBank Accession #U55762、Clontech社製、図3に模式図を示す)、および当該pEGFP-N1のEcoO109Iサイトにλ DNAを挿入して全長19.8kbpとしたもの(pEGFP-N1+λ)を用いた。なおpEGFP-N1+λの全長を19.8kbpとしたのは、pOv-8.0kの全長と同等のサイズにするためである。一般にベクターのサイズが大きくなるほど遺伝子の導入効率が低下するということが知られている。コントロールベクターとpOv-8.0kのサイズをそろえることによって、遺伝子導入効率に因らない真のオボアルブミンプロモーターの活性を検討することができる。
【0092】
<エレクトロポレーションによる各種培養細胞へ遺伝子導入>
pBluescript II SK(-)から切り出した各遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)および、コントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いて以下に示す各種培養細胞株へ遺伝子導入を行なった。
【0093】
細胞株:ニワトリ肝臓由来LMH(HSRRB(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)より分譲)、ニワトリ胚線維芽細胞株CHCC−OU2(樹立者(岡山大・Hajime Ogura)より分譲)DT40(HSRRB(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)より分譲)、およびチャイニーズハムスター卵巣由来細胞株CHO−K1(HSRRB(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)より分譲)を用いた。
【0094】
装置:Gene Pulser Xcell(BIO−RAD社製)を用いた。
【0095】
方法:
LMHおよびLMH/2Aの場合は、1×10 cells、10μg各DNAを100μl 10%牛胎児血清を含むDMEM培地に懸濁し、0.2cm間隔キュベットを用い、110V、25msの矩形波で遺伝子導入を行なった。LMHは10%牛胎児血清を含むDMEM培地を用いて、37℃、5% CO2にて培養した。
【0096】
CHCC−OU2の場合は、1×10 cells、10μg各DNAを100μl 10%牛胎児血清を含むDMEM培地に懸濁し、0.2cm間隔キュベットを用い、110V、25ms矩形波で遺伝子導入を行なった。CHCC−OU2は10%牛胎児血清を含むDMEM培地を用いて、37℃、5% CO2にて培養した。
【0097】
DT40の場合は、1×10 cells、40μg各DNAを400μl 10%牛胎児血清を含むDMEM培地に懸濁し、0.4cm間隔キュベットを用い、270V、950μFの減衰波で遺伝子導入を行なった。DT40は10%牛胎児血清を含むDMEM培地を用いて、37℃、5% CO2にて培養した。
【0098】
CHO−K1の場合は、1×10 cells、40μg各DNAを400μl 10%牛胎児血清を含むHam’s F12培地に懸濁し、0.4cm間隔キュベットを用い、270V、950μFの矩形波で遺伝子導入を行なった。CHO−K1は10%牛胎児血清を含むHam’s F12培地を用いて、37℃、5% CO2にて培養した。
【0099】
<結果>
遺伝子導入後、24時間後の各種細胞についてEGFPの発現を蛍光顕微鏡(IX71(OLYMPUS社製))で観察を行なった。その結果を示す蛍光顕微鏡像を図4に示した。図4a,b,c,d,e,f,g,hは各種遺伝子構築物を導入したCHO−K1の結果を示し、図4i,j,k,l,m,n,o,pは各種遺伝子構築物を導入したLMHの結果を示し、図4q,r,s,t,u,v,w,xは各種遺伝子構築物を導入したCHCC−OU2の結果を示し、図4y,z,aa,ab,ac,ad,ae,afは各種遺伝子構築物を導入したDT40の結果を示した。
【0100】
また図4a,b,i,j,q,r,y,zはpEGFP−N1を各種細胞へ導入した結果を示し、図4c,d,k,l,s,t,aa,abはpEGFP−N1+λを各種細胞へ導入した結果を示し、図4e,f,m,n,u,v,ac,adはpOv-0.9kを各種細胞へ導入した結果を示し、図4g,h,o,p,w,x,ae,afはpOv-8.0kを各種細胞へ導入した結果を示した。
【0101】
また図4a,c,e,g,i,k,m,o,q,s,u,w,y,aa,ac,aeは明視野による観察(50倍)の結果を示した。また図4b,d,f,h,j,l,n,p,r,t,v,x,z,ab,ad,afはWIBAフィルターによる蛍光観察(50倍)の結果を示した。なお図中のバーは、400μmを示すスケールである。
【0102】
明視野における黒色の点が各種細胞であり、蛍光観察における白色の点がEGFPによる蛍光を示した細胞を示す。コントロールベクターであるpEGFP−N1およびpEGFP−N1+λを用いて遺伝子導入を行なった各種細胞は、EGFPの発現が観察された。一方、本発明の遺伝子構築物であるpOv-0.9kおよびpOv-8.0kの場合はEGFPの発現がほとんど観察されなかった。
【0103】
結果をより詳細に考察すべく、全細胞数に対するEGFPの蛍光を示した細胞数(EGFPを発現した細胞数)の割合(%)を求めた。その結果を表2および図5に示した。表2中、括弧内に示す数字は、同種細胞に各種遺伝子構築物を導入したそれぞれの結果においてpEGFP−N1+λの結果を100とした場合の比(%)を示している。また図5(a)は各種遺伝子構築物を導入したCHO−K1の結果を示し、図5(b)は各種遺伝子構築物を導入したLMHの結果を示し、図5(c)は各種遺伝子構築物を導入したCHCC−OU2の結果を示し、図5(d)は各種遺伝子構築物を導入したDT40の結果を示した。
【0104】
【表2】

【0105】
pOv-8.0kはDT40でわずかに(<10-6)EGFPが発現したものの、その他の細胞株(CHO−K1,LMH,CHCC−OU2)では発現が確認されなかった。またpOv-0.9kはDT40でわずかに(<10-6)EGFPが発現したほか、CHO−K1では全体の約6%(コントロールのpEGFP−N1+λと比較して約76.8%に相当する)でEGFPの発現が確認された。その他の細胞株(LMH、CHCC−OU2)ではEGFPの発現は確認されなかった。なお、いずれの細胞(CHO−K1,LMH,CHCC−OU2,DT40)の場合においても、pEGFP−N1のEGFPが発現した割合に比して、pEGFP−N1+λのそれが低いという結果であった。これは導入する遺伝子構築物のサイズが大きくなったことによる、遺伝子導入効率の低下が原因であると考えられた。
【0106】
〔実施例2:本発明にかかる遺伝子構築物のニワトリ卵管への外来遺伝子導入効果の確認〕
<エレクトロポレーションによる各種培養細胞へ遺伝子導入>
pBluescript II SK(-)から切り出した各遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)および、コントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった。
【0107】
材料:生後約1年の白色レグホーン 雌
DNA:各遺伝子構築物およびコントロールベクター(各100μg)
装置:CUY21(ネッパジーン社製)を用いた。
【0108】
方法:エーテル麻酔したニワトリを開腹して、卵管膨大部を取り出し、ベクターを注射した後、25〜50V、電圧負荷時間100msec、電圧負荷休息時間900msecで6回、エレクトロポレーションを行なった。エレクトロポレーション終了後、卵管および腹部を縫合し、約半日間飼育した。その後、ニワトリを安楽死させた後、再び開腹して卵管膨大部を切り出し、実体蛍光顕微鏡(SZX−RFL2(OLYMPUS社製))で観察を行なった。
【0109】
<結果>
各種遺伝子構築物またはコントロールベクターを用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なったニワトリ卵管の蛍光顕微鏡像を図6に示した。なお図6(a)はpEGFP−N1を用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった結果を示し、図6(b)はpOv-0.9kを用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった結果を示し、図6(c)はpOv-8.0kを用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった結果を示した。同図中、白色の点がEGFPの発色部分である。
【0110】
図6に示したように、pOV-8.0kを用いて遺伝子導入を行なった場合およびpOv-0.9kを用いて遺伝子導入を行なった場合はいずれもEGFPが検出された。しかし、コントロールのpEGFP−N1を用いて遺伝子導入を行なった場合のそれと比較するとやや低いものであった。ただし、pEGFP−N1+λを用いて遺伝子導入を行なった場合の結果とは同等またはそれ以上であった(データ示さず)。
【0111】
実施例1および2の結果から、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)を用いて遺伝子導入を行なった各種培養細胞においては所望のタンパク質(EGFP)が発現しないが、ニワトリ卵管内では所望のタンパク質(EGFP)を発現することができるということが分かった。
【0112】
〔実施例3:ニワトリ肝臓由来エストロジェンレセプター発現細胞株LMH/2Aへの遺伝子導入効果の確認〕
実施例1の結果から、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)を用いて遺伝子導入を行なった各種培養細胞においてEGFPが発現しないということが分かった。このことは、上記各種培養細胞がエストロジェンレセプターを発現しないため、エストロジェンシグナルが入らないことが原因であることが予想された。そこでエストロジェンシグナルが原因であるか否かを検討すべく、エストロジェンレセプターを常時発現する細胞株LMH/2Aへ、各種遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k、pOv-0.9k+λ)を導入し、エストロジェンで誘導した場合にEGFPが発現するか否かを検討した。
【0113】
<細胞株>
ニワトリ肝臓由来エストロジェンレセプター発現細胞株LMH/2A(American Type Culture Collection より分譲)。
【0114】
<方法>
pBluescript II SK(-)から切り出した各遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k、pOv-0.9k+λ)および、コントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いてLMH/2Aへ遺伝子導入を行なった。遺伝子導入はエレクトロポレーション法により行なった。エレクトロポレーション条件は、実施例1におけるLMHと同様に行なった。
【0115】
エレクトロポレーションの後、すぐに50nMエストロジェン(17β-エストラジオール:SIGMA社)を含むフェノールレッド不含DMEM10%牛胎児血清中でLMH/2Aを培養し、24時間後および48時間後にEGFPの発現を蛍光顕微鏡で観察した。
【0116】
<結果>
図8に24時間後の結果を示した。図8(a)、(b)、(k)および(l)はpEGFP-N1の場合の結果を示しており、同図(a)はエストロジェン含有培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(b)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示し、同図(k)はエストロジェン不含培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(l)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示す。
【0117】
また図8(c)、(d)、(m)および(n)はpEGFP-N1+λの場合の結果を示しており、同図(c)はエストロジェン含有培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(d)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示し、同図(m)はエストロジェン不含培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(n)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示す。
【0118】
また図8(e)、(f)、(o)および(p)はpOv-0.9kの場合の結果を示しており、同図(e)はエストロジェン含有培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(f)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示し、同図(o)はエストロジェン不含培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(p)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示す。
【0119】
また図8(g)、(h)、(q)および(r)はpOv-0.9k+λの場合の結果を示しており、同図(g)はエストロジェン含有培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(h)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示し、同図(q)はエストロジェン不含培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(r)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示す。
【0120】
また図8(i)、(j)、(s)および(t)はpOv-8.0kの場合の結果を示しており、同図(i)はエストロジェン含有培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(j)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示し、同図(s)はエストロジェン不含培地で培養したLMH/2Aの明視野による顕微鏡観察の結果を示し、同図(t)は同LMH/2Aの蛍光観察を行なった結果を示す。なお蛍光観察における白色の点がEGFPによる蛍光を示した細胞を示す。
【0121】
図8(b)、(d)、(f)、(h)、(j)、(l)、(n)、(p)、(r)、および(t)の下に、全細胞数に対するEGFPの蛍光を示した細胞数(EGFPを発現した細胞数)の割合(%)を記載した。なお、いずれの細胞においてもEGFPの蛍光が観察されなかった場合には「−」と記載した。
【0122】
図8の結果より、エストロジェンレセプターを発現するLMH/2A細胞においても、本発明にかかる各種遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k、pOv-0.9k+λ)を用いて遺伝子導入を行なった場合はEGFPが発現しないということが分かった(図8(f)、(h)、(j)参照)。よって、実施例1において培養細胞内でEGFPが発現しなかったのは、エストロジェンシグナルが原因で無いということが分かった。
【0123】
したがって、実施例1〜3の結果より、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k、pOv-0.9k+λ)は、鳥類(特にニワトリ)の卵管内で所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物である、換言すれば卵管特異的発現ベクターであるということが分かった。
【0124】
〔実施例4:薬剤耐性遺伝子を含む本発明にかかる遺伝子構築物〕
<遺伝子構築物の作製>
pSV40/Zeo2(インビトロジェン社)のSacII−XhoIサイトに上記pOV-8.0kまたはpOv-0.9kを挿入した遺伝子構築物(pOV-8.0k/ZeoまたはpOv-0.9k/Zeo)を作製した。具体的には、pSV40/Zeo2を鋳型として、末端にXhoIサイトを持つプライマーpSV40Zeo2-F-XhoI(CTCGAGGGTGTGGAAAGTC:配列番号16)、および末端にSacIIサイトを持つプライマーpSV40Zeo2-R-SacII(CCGCGGATGTGAGCAAAAGG:配列番号17)を用いてPCR増幅を行なった増幅断片をTOPO TA Cloning Kit (Invitrogen社)を用いてTAクローニングを行なった後、XhoI、SacIIにて切り出しベクターとして用いた。そこにpOV-8.0kおよびpOv-8.0kのインサート部分(XhoIおよびSacIIの消化断片)を挿入してゼオシン(Zeocin)耐性遺伝子を含む遺伝子構築物とした。図7に当該pOV-8.0k/ZeoまたはpOv-0.9k/Zeoの構造を示す模式図を示した。
【0125】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;25 mM MgCl2 2μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 1μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 1μl;Template (1 ng/μl) 1μl;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水 35.75μl/合計50μl]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0126】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 45℃ 1 min, 72℃ 3 min) × 2 → (94℃ 30 sec, 58℃ 1 min, 72℃ 2 min) × 28 → 72℃ 15 min → 4℃とした。
【0127】
またpEGFP/Zeoを陽性対照として使用した。当該pEGFP/Zeoは以下のようにして構築した。pEGFP−N1からマルチクローニングサイト内のBglII−BamHIを取り除いてセルフライゲーションしたものを鋳型として、プライマー(Gal+EGFP+polyA-Kas:GGCGCCTAGTTATTAATAGTAATCAA(配列番号18))および(GalEGFPpolyA-R-Sal:GTCGACTTAAGATACATTGATGAG(配列番号19))を用いてCMVプロモーターからポリAまでをPCR増幅した。かかる増幅断片をTOPO TA Cloning Kit (Invitrogen社)を用いてTAクローニングを行なってTOPO/EGFPpolyA-MCSを構築した。TOPO/EGFPpolyA-MCSのHindIII−SacI部分にpSV40/Zeo2のZeoカセット(SacI-HindIII断片)を挿入し、TOPO/EGFPpolyA-MCS/SV40/Zeo(=pEGFP/Zeo)とした。
【0128】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;25 mM MgCl2 2μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 1μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 1μl;Template (1 ng/μl) 1μl;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水 35.75μl/合計50μl]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0129】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 44℃ 1 min, 72℃ 1 min) × 2 → (94℃ 30 sec, 54℃ 1 min, 72℃ 1 min) × 28 → 72℃ 15 min → 4℃とした。
【0130】
<遺伝子導入および細胞培養>
pOV-8.0k/ZeoまたはpOv-0.9k/ZeoをCHO−K1へ、エレクトロポレーション法にて遺伝子導入を行ない、ゼオシン添加培地により形質転換体の選択が可能であることを確認した。より具体的には、CHO−K1(1×10 cells)、40μg各DNAを400μl 10%牛胎児血清を含むHam’s F12培地に懸濁し、0.4cm間隔キュベットを用い、270V、950μFの矩形波で遺伝子導入を行なった。CHO−K1は10%牛胎児血清を含むHam’s F12培地を用いて、37℃、5% CO2にて培養した。エレクトロポレーション48時間後から500μg/mlゼオシン(Zeocin)を含む培地に交換し、その後は3〜5日毎に培地交換しながらステーブルミュータントを選択した。
【0131】
<顕微鏡観察結果>
図9にエレクトロポレーション後、20日間培養した各種細胞の顕微鏡観察の結果を示した。図9(a)はpEGFP/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示し、同図(b)は同CHO−K1細胞の蛍光観察の結果を示した。また図9(c)は陰性対照として電気刺激のみ与えたCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示し、同図(d)はpOv-0.9k/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示し、同図(e)はpOv-8.0k/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示した。
【0132】
図9(a)および(b)の結果より、pEGFP/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞では薬剤耐性によりEGFPを発現するCHO−K1細胞が選択された。一方pOV-8.0k/ZeoまたはpOv-0.9k/Zeoを用いて遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞では、EGFPの蛍光は観察されなかったが、ゼオシンを含む選択培地中で成育可能な細胞が選択された。
【0133】
<EGFP遺伝子導入の確認>
ゼオシンにより選抜した各種CHO−K1細胞について、EGFP遺伝子が導入されているか否かを確認した。具体的には以下のようにした。
(1)CHO−K1細胞に上記各種遺伝子構築物を用いて遺伝子導入を行なった。エレクトロポレーションは、上記と同様にした。
(2)エレクトロポレーション後のCHO−K1細胞を上記と同様にして培養を行なった。
(3)31日間培養したCHO−K1細胞のゲノムDNAを、High Pure PCR Template Preparation Kit(入手先:ロシュ社)を用いて調製した。
(4)上記で調製したゲノムDNAを鋳型とし、EGFPプライマー(EGFP2F+BamHI(配列番号13)、EGFP-2R+EagI(配列番号14))を用いてPCRを行なった。
(5)アガロースゲル電気泳動でEGFPのバンドを確認した。
【0134】
上記PCRの反応液は、[10 × ExTaq Buffer 5μl;dNTP mixture (2.5 mM each) 4μl;Forword primer (10 pmol/μl) 1μl;Reverse primer (10 pmol/μl) 1μl;Template 100ng;TaKaRa ExTaq (5 units/μl) 0.25μl;超純水にて50μlにメスアップする]であった。ExTaq Buffer およびTaKaRa ExTaqTM は、タカラバイオ株式会社から購入したものを用いた。
【0135】
またPCRはGene Amp PCR 9700(Applied Biosystems社製)を用いて行ない、温度条件は94℃ 5 min → (94℃ 30 sec, 60℃ 1 min, 72℃ 30sec) × 30 → 72℃ 7 min → 4℃とした。
【0136】
結果を図10に示した。図10の第1レーンおよび第7レーンはDANサイズマーカーを示し、第2レーンはpOv-0.9k/Zeoにより遺伝子導入を行なった場合の結果を示し、第3レーンはpOv-8.0k/Zeoにより遺伝子導入を行なった場合の結果を示し、第4レーンはpEGFP/Zeoにより遺伝子導入を行なった場合の結果を示した。また第5レーンはコントロールとして遺伝子導入を行なっていないCHO−K1ゲノムを鋳型に用いた場合を示し、第6レーンは鋳型なしでPCR反応をかけた場合の結果を示した。
【0137】
図10の結果より、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-0.9k/Zeo、およびpOv-8.0k/Zeo)を用いて遺伝子導入を行なった全ての細胞について、EGFPの特異的なバンド(同図中、白線で囲む)が検出された。よってゼオシンによって選択された細胞には、外来遺伝子(EGFP遺伝子)が安定的に組み込まれているといえる。
【0138】
したがって薬剤耐性遺伝子を含んだ本発明にかかる遺伝子構築物によれば、薬剤耐性を指標として形質転換細胞を容易に選択することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
以上のように、本発明にかかる遺伝子構築物によれば、所望のタンパク質をニワトリ等の鳥類の卵管膨大部において、好ましくは鳥類の卵管膨大部特異的に発現させることができる。卵管膨大部において所望のタンパク質を発現させることができれば、オボアルブミンが卵白中へ分泌されるのと同様にして、所望のタンパク質を卵白中へ分泌および蓄積させることができる。またオボアルブミンの発現系を利用しているため、所望のタンパク質を卵白中に高含有させることが可能である。よって本発明は、最終的に鳥類の卵内、特に卵白内に所望のタンパク質を発現させることが可能なタンパク質生産系の実現に寄与することができる。上記タンパク質発現系における所望のタンパク質の取得は、ニワトリが産んだ卵を集め、その卵白から回収すればよく、非常に簡便である。さらに所望のタンパク質は最終的に卵白中に高含有しているため、その精製も容易である。また、所望のタンパク質の発現部位を卵管膨大部に限定することができるため、発現した所望のタンパク質がニワトリ個体に悪影響を及ぼす可能性が低くなり、トランスジェニックニワトリを用いたタンパク質生産を永続的に行なうことが可能となる。さらに、本発明にかかる遺伝子構築物は、ウィルスベクターを一切用いていないため、外環境に対しても安全なタンパク質生産手段を提供することができる。
【0140】
したがって、本発明は、医薬品産業、酵素産業等タンパク質の生産に関与する産業に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明にかかる遺伝子構築物の一例であるpOv-8.0k、pOv-0.9k、および pOv-0.9k+λの模式図である。
【図2】本発明にかかる遺伝子構築物の一例であるpOv-8.0k、pOv-0.9k、および pOv-0.9k+λからの遺伝子発現を説明する模式図である。
【図3】実施例においてコントロールベクターとして使用したpEGFP-N1の模式図である。
【図4】実施例1において、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)またはコントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いて遺伝子導入を行なった各種細胞(CHO−K1,LMH,CHCC−OU2,DT40)の遺伝子導入24時間後の蛍光顕微鏡像である。
【図5】実施例1において、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)またはコントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いて遺伝子導入を行なった各種細胞(CHO−K1,LMH,CHCC−OU2,DT40)について、全細胞数に対するEGFPを発現した細胞数の割合(%)を示す図であり、(a)は各種遺伝子構築物を導入したCHO−K1の結果を示し、(b)は各種遺伝子構築物を導入したLMHの結果を示し、(c)は各種遺伝子構築物を導入したCHCC−OU2の結果を示し、(d)は各種遺伝子構築物を導入したDT40の結果である。
【図6】本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k)またはコントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった卵管の蛍光顕微鏡像であり、(a)はpEGFP−N1を用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった結果を示し、(b)はpOv-0.9kを用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった結果を示し、(c)はpOv-8.0kを用いてニワトリ卵管へ遺伝子導入を行なった結果を示す。
【図7】本発明にかかる遺伝子構築物の一例であるpOV-8.0k/ZeoおよびpOv-0.9k/Zeoの模式図である。
【図8】実施例3において、本発明にかかる遺伝子構築物(pOv-8.0k、pOv-0.9k、pOv-0.9k+λ)またはコントロールベクター(pEGFP-N1、pEGFP-N1+λ)を用いて遺伝子導入を行なったLMH/2Aの遺伝子導入24時間後の蛍光顕微鏡像である。
【図9】実施例4の結果を示す図であり、(a)はpEGFP/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示し、(b)は同CHO−K1細胞の蛍光観察の結果を示し、(c)は陰性対照として遺伝子導入を行なわなかったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示し、(d)はpOv-0.9k/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示し、(e)はpOv-8.0k/Zeoにより遺伝子導入を行なったCHO−K1細胞の明視野の観察結果を示す。
【図10】実施例4において、ゼオシンにより選抜した各種CHO−K1細胞について、EGFP遺伝子が導入されているか否かを検討した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類の卵管内で所望のタンパク質を発現させるための遺伝子構築物であって、
鳥類由来オボアルブミン遺伝子のゲノム配列を含むことを特徴とする遺伝子構築物。
【請求項2】
上記鳥類がニワトリであることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子構築物。
【請求項3】
上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、オボアルブミン転写領域、およびオボアルブミン転写開始点から5’末端方向に約900bpまでの領域を少なくとも含む、請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項4】
上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、オボアルブミン転写領域、およびオボアルブミン転写開始点から5’末端方向に約8000bpまでの領域を含む、請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項5】
上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、オボアルブミン転写領域;オボアルブミンプロモーター配列;ステロイドホルモン応答配列;NRE;DNase I-hypersensitive regions I;DNase I-hypersensitive regions II;DNase I-hypersensitive regions III;DNase I-hypersensitive regions IV;および Half Plindromic motifesを少なくとも含む、請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項6】
上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、配列番号3に示される塩基配列の第7107位から第15608位の塩基配列を少なくとも含む、請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項7】
上記オボアルブミン遺伝子のゲノム配列は、配列番号3に示される塩基配列を含む、請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項8】
配列番号1に記載の塩基配列を有することを特徴とする請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項9】
配列番号2に記載の塩基配列を有することを特徴とする請求項2に記載の遺伝子構築物。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の遺伝子構築物へ外来遺伝子を挿入する挿入工程、および上記挿入工程によって得られた遺伝子構築物を鳥類由来細胞へ導入する導入工程、を含むことを特徴とするタンパク質の生産方法。
【請求項11】
上記挿入工程は、遺伝子構築物に含まれるオボアルブミン翻訳開始点より3’末端側の領域に外来遺伝子を導入する工程である、請求項10に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項12】
上記挿入工程は、遺伝子構築物に含まれるオボアルブミンコード鎖に外来遺伝子を挿入する工程である、請求項10に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項13】
上記鳥類が、ニワトリであることを特徴する請求項10ないし12のいずれか1項に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項14】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の遺伝子構築物、を含むことを特徴とするタンパク質の生産キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−262875(P2006−262875A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89885(P2005−89885)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】