説明

黒糖加工氷糖

【課題】大粒径の氷糖の結晶体の内部に黒糖の色素成分や風味成分を効率よく保持できるようにし、効率よく製造可能な黒糖風味の氷糖とすることである。
【解決手段】種結晶を黒糖溶解液に浸し、45〜55℃の温度範囲に調整して所定期間育晶し、この所定期間の中期にこれ以前または以後より1〜5℃高温に調整した育晶期間を設け、この育晶期間中に亀裂を有するショ糖結晶を形成して、このショ糖結晶の内部または表面に黒糖成分の着色成分、ミネラル成分もしくは風味成分を収蔵または付着させて黒糖加工氷糖を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、黒糖加工氷糖およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、砂糖は、その種類として分蜜糖と含蜜糖とに大別され、前者は結晶化された後、ブドウ糖や果糖などの結晶化しにくい成分を糖蜜として遠心分離することにより、ショ糖の純度を高めて結晶性を高めたものであるのに対して、後者の含蜜糖はショ糖などを結晶化した後、非結晶成分である糖蜜も含めて冷却して一体に固化したものである。
【0003】
後者の代表例が、黒砂糖とも呼ばれる黒糖であり、その成分としては、ショ糖の他にもブドウ糖、果糖、フラクトオリゴ糖などが含まれ、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル、さらにはビタミンB群やナイアシンなどのビタミン類も含まれており、分蜜糖に比べて深い風味があり、精製糖に比べて多成分であって健康的にも好ましい食品または調味料である。
【0004】
ショ糖結晶体を0.2〜3mm程度まで成長させた小粒状のものは粗目(ザラメ)と呼ばれ、黒糖成分を含ませて風味付けしたものが知られている。
【0005】
また、氷砂糖とも称される氷糖は、ショ糖の結晶を粗目よりもさらに大きく、通常4mm以上の粒径に成長させたものであって、以下の2つの育晶方法が知られている。
その一つの静置結晶法は、浅くて平らな蒸発皿またはパレット状の結晶皿に、ショ糖の種結晶(シード)を浸すように過飽和のショ糖液(仕込み液)を入れ、所定温度に維持して蒸発速度を調整しながら育晶し、比較的扁平状な結晶が積み重なった状態に成長したロック氷糖が得られる。
【0006】
また、他の一つの流動結晶法は、回転式の結晶機を用いて回転させながら育晶することにより、結晶面が全方向に均等に成長するため、結晶粒は立体的に釣り合いのとれた形状となったクリスタル氷糖が得られる。
【0007】
ところで、ショ糖を含む黒糖風味の食品として、加工黒糖と称されるものが知られているが、このものは黒糖にショ糖、廃糖蜜などを加えて単に混合したものであり、黒糖成分とショ糖結晶とは結晶化によって一体化されていないものである。
【0008】
また、ショ糖結晶である粗目に対して黒糖風味を保持させたものとして、黒糖風味の粗目(ざらめ)が知られている。
このものは、粗目の表面に黒糖蜜が含まれる皮膜を被覆したものであり、黒糖のように着色され、黒糖の風味も付与されている。この粗目は、ショ糖結晶体に還元糖を付着させて極性を弱めておき、表面に所定量の黒糖蜜が含まれる皮膜を被覆することによって、黒糖成分を結晶体の表面に効率よく保持させるようにして着色性および風味性を高めている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−45242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記した黒糖風味の粗目(ざらめ)を、例えば最大径4mm以上の氷糖にまで大きく育晶させると、結晶体の表面には黒糖成分が付着しているものの内部には黒糖成分が侵入していないため、表面が溶解してしまうと、その後は黒糖風味が乏しいショ糖結晶体となり、氷糖全体として黒糖風味を充分に味わえないという問題点がある。
【0011】
また、結晶体の表面には黒糖成分が付着させる手法を改良し、氷糖の内部にも黒糖風味を保持させるように、大粒の粒径に育晶するまでショ糖結晶体を多層構造に形成し、各層の表面に還元糖と黒糖蜜膜を何層にも塗り重ねることは可能であるが、煩雑な作業を要するため、製造効率の点で実用可能な黒糖加工氷糖の製造方法ではないという問題点がある。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、大粒径の氷糖の結晶体の内部にまで黒糖の色素成分や風味成分を効率よく保持できるようにし、また効率よく実用的で製造可能な黒糖風味の氷糖とすることである。
【0013】
また、製造方法に係るこの発明の課題としては、形成される結晶体に黒糖風味を保持させながら、比較的大きな氷糖(氷砂糖)にまで結晶体を成長させて氷糖を効率よく実用性を高めて製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明においては、還元糖を含む黒糖溶解液からショ糖結晶を氷糖(粒径4mm以上)にまで成長させ、この氷糖は還元糖の付着したショ糖結晶の内部または表面に、黒糖由来の着色成分、ミネラル成分または風味成分を収蔵もしくは付着させてなる黒糖加工氷糖としたのである。
【0015】
上記したように構成されるこの発明の黒糖加工氷糖は、還元糖を含む黒糖溶解液からショ糖結晶体が成長する際に、黒糖に含まれる色素などの着色成分、ミネラル成分または風味成分が、還元糖と共にショ糖結晶の内部または表面に収蔵または付着される。
【0016】
そのような収蔵の機序は、黒糖溶解液中の還元糖によって、ショ糖結晶の極性は弱められ、負に帯電している着色成分、ミネラル成分または風味成分は、ショ糖結晶に近づきやすくなり、ショ糖結晶に収蔵または付着する確率が高められるからである。
【0017】
この発明でいう「収蔵」は、一般的な意味と同様に取り入れて収めることをいい、化学的に性質を変化させることなく、物理的に一体に保持されることをいう。
例えば、結晶片同士の重なり合う結晶面同士の間隙、または結晶面に形成される襞や凹凸、亀裂にも上記した機序によって、黒糖由来の色素、ミネラルまたは風味を効率よく取り入れて化学的に性質を変化させることなく保持され、すなわち収蔵または付着できる。
【0018】
このようにして形成された結晶体は、黒糖風味を充分に保持し、比較的大きな粒径の氷糖にまで結晶体を成長させたものであっても、効率よく黒糖の好ましい風味などの特有成分を保持したものになる。
【0019】
このような黒糖加工氷糖を効率よく製造するためには、種結晶を黒糖溶解液に浸し、過飽和状態で45〜55℃に温度調整して育晶し、この育晶期間の中期に、それ以前の初期または中期以後の後期より1〜5℃高温に調整した高温育晶期間を設け、この高温育晶期間中に結晶成長を促進することが好ましい。
【0020】
この育晶期間中にショ糖結晶も形成が促進されて、ショ糖結晶の内部または表面に黒糖成分の着色成分、ミネラル成分もしくは風味成分を収蔵または付着させる黒糖加工氷糖が製造される。
【0021】
45〜55℃の温度範囲に調整すると共に、この所定期間の中期にこれ以前または以後より1〜5℃高温に調整した育晶期間を設けると、この育晶期間中に亀裂や襞などの凹凸を有するショ糖結晶を効率よく形成することができる。
【0022】
そのために、より好ましい温度調整としては、例えば初期または中期以後の後期より1〜5℃高温に調整する条件で、前記育晶期間の当初から2〜4日間の初期に48〜50℃の温度で静置し、次いで3〜5日間の中期は49〜53℃で静置し、その後6〜10日間の後期は48〜50℃で静置することである。
【0023】
仕込みの当初から2〜4日間の初期、好ましくは仕込み日から3日間において、48〜50℃の温度で静置することにより、結晶核を形成させ、じっくりと緻密な結晶を成長させることができる。
【0024】
また、その後の3〜5日間の中期、好ましくは仕込み日から4日目以後の4日間は、49〜53℃、好ましくは50〜53℃、より好ましくは51〜53℃で静置することにより、可及的に結晶成長の速度を上げて速やかに結晶成長を促進させる。
【0025】
さらに、その後の6〜10日間、好ましくは8日目からムロ出しの日までの後期は、48〜50℃で静置することにより、結晶育成速度を抑えてじっくりと緻密に結晶を育成する。
【0026】
このような育晶を行なう際に、前記種結晶が、還元糖の付着した蔗糖結晶体であれば、ショ糖結晶の成長の初期から黒糖成分の着色成分、ミネラル成分もしくは風味成分をより効率よく収蔵または付着させることができる。
【0027】
上記した黒糖加工氷糖の製造方法において、上記した所定温度範囲で育晶を進めるために好ましい黒糖溶解液のブリックス(Bx)濃度としては、Bx60〜75であることが好ましい。上記所定濃度範囲未満の低濃度でも、上記所定濃度範囲を超える高濃度でも育晶期間中に亀裂や襞などの凹凸を有するショ糖結晶を効率よく形成する効率が低くなって好ましくない。
【発明の効果】
【0028】
この発明は、還元糖の付着したショ糖結晶の内部または表面に、黒糖由来の着色成分、ミネラル成分または風味成分を収蔵もしくは付着させた黒糖加工氷糖としたので、大粒径の氷糖の結晶体の内部に黒糖の色素成分や風味成分を効率よく保持できるようにし、効率よく製造可能な黒糖風味の氷糖となる利点がある。
【0029】
また、種結晶を黒糖溶解液に浸し、所定温度に調整して所定期間育晶する黒糖加工氷糖の製造方法としたので、形成される結晶体に黒糖風味を保持させながら、比較的大きな氷糖(氷砂糖)にまで結晶体を成長させて黒糖風味の氷糖を効率よく製造できるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の黒糖加工氷糖は、還元糖を含む黒糖溶解液からショ糖結晶を粒径4mm以上にまで成長させた氷糖からなり、この氷糖は還元糖の付着したショ糖結晶の内部または表面に、黒糖由来の着色成分、ミネラル成分または風味成分を収蔵もしくは付着させている。
【0031】
黒糖溶解液は、通常の黒糖を温水などに溶解した水溶液であり、例えば70〜90℃に加熱した温水にBx65〜70程度になるように黒糖を攪拌しながら溶解したものを採用することができる。
【0032】
黒糖は、通常、以下のようにして製造される。すなわち、原料となるサトウキビを裁断し圧搾して搾汁を得て、この搾汁(pH4〜5)に含まれる酸や酵素が糖を分解するのを防止するために、石灰を加えてpHを6.8〜7.0に調整し、また酵素の働きを止めると共に蛋白質類を固化するために加熱する。
【0033】
その後、マットやスカムなどの不純物を沈殿させて濾過し、これをケーキとして除去して搾汁液を清浄液にする。さらに、清浄液の水分を蒸発させて、糖液を濃縮し、シロップ(Bx60〜70)にする。次いで、シロップにした糖液を更に濃縮して糖を結晶化させて黒砂糖(固形の含蜜糖)を得ることができる。
【0034】
この発明に用いる還元糖は、塩基性溶液中でアルデヒド基とケトン基を形成する糖であり、例えばスクロースが加水分解した転化糖である上白糖、中白糖、黒糖または異性化糖であり、このうち異性化糖としてはグルコース、フルクトースなどの単糖またはこれらの混合物が挙げられ、通常、黒糖およびその溶解液(水溶液)にもこのような還元糖分が1〜2質量%程度含まれている。
【0035】
また、黒糖由来の着色成分としては、クロロフィル、カロチン、キサントフィル、フミン酸、フラボノイドは原料由来の低分子量のものであり、また製造工程に由来するものとしてメラノイジン、メラニン、カラメル、ヘキソースのアルカリ分解物などの高分子物質が挙げられる。
【0036】
ミネラル成分としては、製造工程中に加えられる成分も含めて、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどが挙げられる。
また、風味成分や香気成分としては、ピラジン類やフェノール類が挙げられる。
【0037】
この発明に用いる還元糖を含む黒糖溶解液は、黒糖を加熱溶解するか、または加熱しながら適宜に水を加えて温水溶液として得ることができる。このような黒糖溶解液の濃度は、ブリックス(Bx)濃度60〜75に調整しておくことが、表面に亀裂や襞などの凹凸を有するショ糖結晶を効率よく形成するために好ましい。
【0038】
この発明に用いる種結晶は、粒径3mm以下のショ糖結晶体である粗目糖またはそれより大粒の粗目糖を用いても良いが、それと併用または単独で、この発明で得られる黒糖加工氷糖を用い、その粒径を5〜7メッシュ(Me)の標準篩を通過する粒径に整粒したものを使用することもできる。
【0039】
特に、種結晶として、黒糖加工氷糖のように還元糖の付着した蔗糖結晶体を使用することが、ショ糖結晶の成長の初期から黒糖成分の着色成分、ミネラル成分もしくは風味成分を効率よく収蔵または付着させるために好ましいことである。
【0040】
育晶期間と温度は、過飽和状態で45〜55℃に温度調整して育晶し、この育晶期間の中期に、それ以前の初期または中期以後の後期より1〜5℃高温に調整した高温育晶期間を設ける。
【0041】
具体的には、育晶の当初から2〜4日間の初期に、48〜50℃の温度で静置し、次いで3〜5日間の中期は49〜53℃の範囲で初期または中期以後の後期より1〜5℃高温に調整して静置し、その後6〜10日間の後期は48〜50℃で静置することが好ましい。
【0042】
これによって結晶核である粗目糖の周囲に還元糖を含むショ糖結晶の育晶層を設け、この育晶層に黒糖の着色成分、ミネラル成分または風味成分を収蔵もしくは付着させてなる黒糖加工氷糖が得られる。
育晶期間の全日数は、12〜18日として好ましい結果を得ているが、特にこの日数に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[実施例1、2]
沖縄(波照間)産の黒糖を原料とし、温水に浸漬し、80℃に加温して攪拌し、Bx68程度の濃度に溶解した。次いで、60Meスクリーンで濾過し、Bx65〜70の範囲になるように表1の特性を有するものA、Bに調整した。次いで、得られた黒糖溶解液A、Bを各結晶皿(370×307×45mm)にそれぞれ2.3リットルずつ入れ、さらに種結晶として、大粒系中粗目と黒糖加工氷糖篩下(5〜7Me)を10〜30g/皿を用いてムロに入れ、それぞれ実施例1、2の氷糖黒糖を製造した。
なお、ムロは、温度コントローラー付の遠赤外線ヒーターを用いて密閉された空間内を45〜55℃に保つ部屋とし、初期または中期以後の後期より1〜5℃高温に調整して表2の範囲で経時的に温度調整を行なった。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
そして、上述のようにする育晶を各実施例について、6回行ない、ムロ出し日は、1回目 12日目、2回目 14日目、3回目 18日目、4回目 18日目、5回目 16日目、6回目14日目とした。
【0047】
ムロ出しの後は、定法に従って遠心分離を行ない、分蜜と洗浄を完了し、さら風乾と篩別によって黒糖加工氷糖の製品を得た。
得られた黒糖加工氷糖(製品)の出来高は、以下の表3の通りであった。
【0048】
【表3】

【0049】
以上のようにして得られた黒糖加工氷糖は、黒糖風味を充分に保持し、比較的大きな粒径の氷糖にまで結晶体を成長させたものであっても、結晶体の内部まで黒糖の色素成分や好ましい風味成分を充分に保持したものであり、また歩留まりもよく、効率よく実用的に製造可能なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元糖を含む黒糖溶解液からショ糖結晶を成長させた氷糖からなり、この氷糖は還元糖の付着したショ糖結晶の内部または表面に、黒糖由来の着色成分、ミネラル成分または風味成分を収蔵もしくは付着させてなる黒糖加工氷糖。
【請求項2】
種結晶を黒糖溶解液に浸し、過飽和状態で45〜55℃に温度調整して育晶し、この育晶期間の中期に、それ以前の初期または中期以後の後期より1〜5℃高温に調整した高温育晶期間を設け、この高温育晶期間中に結晶成長を促進する請求項1に記載の黒糖加工氷糖の製造方法。
【請求項3】
前記育晶期間の当初から2〜4日間の初期に48〜50℃の温度で静置し、次いで3〜5日間の中期は49〜53℃で静置し、その後6〜10日間の後期は48〜50℃で静置する請求項2に記載の黒糖加工氷糖の製造方法。
【請求項4】
前記種結晶が、還元糖の付着した蔗糖結晶体である請求項2または3に記載の黒糖加工氷糖の製造方法。
【請求項5】
前記種結晶を浸す当初の黒糖溶解液のブリックス(Bx)濃度が、Bx60〜75である請求項2〜4のいずれかに記載の黒糖加工氷糖の製造方法。

【公開番号】特開2013−5742(P2013−5742A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139369(P2011−139369)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(399074905)株式会社鴻商店 (2)