説明

黒鉛坩堝およびそれを用いたセラミック系材料の分析方法

【課題】安価な材料からなり、試料が白金と合金化する成分を含んでいても、アルカリ溶融法による分析に使用することが可能な黒鉛坩堝、および該黒鉛坩堝を使用してアルカリ溶融法により効率よく精度の高い分析を行うことが可能な分析方法を提供する。
【解決手段】黒鉛坩堝を、灰分が10μg/g以下の黒鉛から形成し、セラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するのに用いることができるようにする。
セラミック系材料中の所定成分の分析を行うにあたって、セラミック系材料とアルカリとを、本発明の黒鉛坩堝に投入して加熱することによりアルカリ溶融させた後、アルカリ溶融塊を酸に溶解させて分析試料溶液を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛坩堝およびそれを用いたセラミック系材料の分析方法に関し、詳しくは、定量分析に用いることが可能な黒鉛坩堝およびそれを用いたアルカリ溶融法を利用したセラミック系材料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、誘電体セラミック、磁性体セラミック、圧電体セラミックなどのセラミック系材料は、そのままでは酸などに溶解せず、分析に適した溶液とすることができない。そこでそのような物質を分析する場合、試料を酸などに溶解させて分析に供するのに適した溶液とするために、前処理を行うことが必要になる。そして、この前処理の方法としては、例えば、加熱酸溶解法、μ−WAVE酸溶解法、アルカリ溶融法(アルカリ融解法)などの方法がある。
【0003】
しかしながら、上述のセラミック系材料の場合、加熱酸溶解法やμ−WAVE酸溶解法では、試料を完全に溶解させることができない場合が少なくない。
【0004】
そこで、セラミック系材料(試料)を融剤であるアルカリ(例えば炭酸ナトリウムやホウ酸など)の存在下に加熱してアルカリ溶融させ、酸に可溶なガラス形態とした後、これを酸に溶解させることにより試料溶液とする、いわゆるアルカリ溶融法(アルカリ融解法)が広く用いられている(非特許文献1参照)。
【0005】
そして、このアルカリ溶融法の場合、1000℃付近の高温にまで加熱することが可能で、耐薬品性にも優れた白金坩堝を用い、試料とアルカリとをこの白金坩堝に投入して加熱することにより、試料をアルカリ溶融させるのが一般的である。
【0006】
しかしながら、白金坩堝を構成する白金(Pt)と合金化する成分(例えば、Pb,Bi,Zn,Mn,Cu,Ni,Cr,Co,Feなど)が試料に含まれていると、アルカリ溶融の工程で白金坩堝の構成材料であるPtと、Pb,Zn,Mnなどの成分が合金化反応して、坩堝に穴があいたり、割れが生じたり、あるいは表面に合金の斑点が生じたりする場合があり、正確な定量分析を行うことができない場合や、白金坩堝を繰り返して使用に供することができなくなる場合が生じるという問題点がある。
【0007】
また、ダメージをうけた白金坩堝は、白金を精製して坩堝の形に再度成型することが必要になり、コストの増大を招くという問題点がある。
【0008】
なお、上記非特許文献1に記載されている、ニッケル坩堝やジルコニウム坩堝などの白金以外の材料からなる坩堝の場合、白金坩堝に比べて、加熱温度が制約されたり、耐薬品性が劣ったりするため、白金坩堝を用いる場合よりも分析精度が低いというような問題点があるのが実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】平成15年1月10日、丸善株式会社発行、「分析試料前処理ハンドブック」、第314頁、第315頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、安価な材料からなり、白金と合金化する成分を含むセラミック系材料の場合にも、アルカリ溶融法による定量分析に使用することが可能な黒鉛坩堝、および該黒鉛坩堝を使用してアルカリ溶融法により効率よく分析を行うことが可能なセラミック系材料の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の黒鉛坩堝は、上記課題を解決することを可能にするものであり、セラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するために用いられる黒鉛坩堝であって、灰分が10μg/g以下の黒鉛から構成されていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の黒鉛坩堝は、白金と合金化反応する成分を含む前記セラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するために用いられるものであることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の黒鉛坩堝は、ガス抜き孔を有する蓋部材を備えていることが望ましい。
【0014】
また、本発明の黒鉛坩堝においては、内側底部が半球形状を有していることが望ましい。
【0015】
また、本発明のセラミック系材料の分析方法は、
セラミック系材料中の所定成分の分析を行うために用いられる分析方法であって、セラミック系材料とアルカリとを、請求項1〜4のいずれかに記載の黒鉛坩堝に投入して加熱することによりアルカリ溶融させる工程と、
前記工程で生成したアルカリ溶融体を酸に溶解させて分析試料溶液を調製する工程と
を備えていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明のセラミック系材料の分析方法は、前記セラミック系材料が、白金と合金化する成分を含むものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の黒鉛坩堝は、灰分が10μg/g(=10ppm)以下の黒鉛から構成されており、不純物の含有量が極めて少ないことから、セラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するのに用いた場合における、坩堝から試料やアルカリ溶融体側への不純物の移行量を抑えることが可能であるとともに、坩堝を構成する黒鉛は、アルカリ溶融工程に対する実用性のある耐性を備えている。
したがって、本発明の黒鉛坩堝を用いることにより、セラミック系材料のアルカリ溶融法による定量分析を精度よく実施することができる。
【0018】
なお、本発明において、セラミック系材料とは、例えば、
(a)本来の特性を備えたセラミックを製造するためのセラミック原料粉末(混合物)や、該セラミック原料粉末にバインダーや分散剤などを添加した配合物、
(b)上記(a)のセラミック原料粉末や配合物を仮焼する工程を経て得られる仮焼粉末、
(c)上記(b)の仮焼粉末にバインダーや溶剤を添加し、シート状に成形したセラミックグリーンシート、
(d)本焼成の工程を経て得られる本来の特性を備えたセラミック成形体やセラミック粉末
などを含むものであり、さらに他の態様の種々の材料を含むものである。
【0019】
また、上述の(a)〜(d)の種々の態様のセラミック系材料は、フェライトなどの磁性体セラミック、チタン酸バリウム系などの誘電体セラミック、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系などの圧電体セラミックをはじめとする種々のセラミック系材料を含むものである。
【0020】
また、白金と合金化反応する成分(例えば、Pb,Bi,Zn,Mn,Cu,Ni,Cr,Co,Feなど)を含むセラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するのに白金坩堝を用いた場合、アルカリ溶融の工程で白金坩堝の構成材料であるPtと、このPtとの合金化成分であるPb,Bi,Zn,Mn,Cu,Ni,Cr,Co,Feなどの成分が合金化反応して、白金坩堝に穴があいたり、割れが生じたりする場合があるが、本発明の黒鉛坩堝は、分析の対象となるセラミック系材料が、上述のようなPtと合金化する成分を含む場合にも、アルカリ溶融の工程で、これらの成分と反応して損傷するようなことがない。そのため、本発明の黒鉛坩堝を用いることにより、Ptと合金化する成分を含むセラミック系材料のアルカリ溶融法による定量分析を精度よく実施することが可能になり、特に有意義である。
【0021】
なお、経験的に、Pb,Bi,Zn,Mn,Cu,Ni,Cr,Co,Feなどを0.1重量%以上含むセラミック系材料は、Ptと合金化反応を起こしやすく、白金坩堝を用いたアルカリ溶融法により分析を行うことが困難な材料であることが確認されており、本発明の黒鉛坩堝はこのような材料の定量分析を行う場合に好適に用いることができる。
【0022】
また、Ptと合金化する金属には、酸化物であってもアルカリ溶融工程で容易にPtと合金化するPb,Bi,Zn,Mnなどの金属や、例えば共存する有機物がアルカリ溶融工程で高温に加熱されて燃焼、分解するのに伴って酸化物が金属に還元されたときにPtと合金化しやすい金属などがあるが、黒鉛は、これらのいずれの金属が含まれているセラミック系材料を分析する場合にも、特に問題なく適用することが可能である。
【0023】
また、ガス抜き孔を有する蓋部材を備えた構成とすることにより、バインダーや分散剤などの有機物が燃焼、またはNa2CO3などの融剤が分解して発生するCO2ガスを排出することができる。CO2ガスが排出された後、融剤が揮発してガス抜き孔をふさぐので、アルカリ溶融工程で揮発するような材料(例えば、Zn,Pb,Bi,Snなど)を含むセラミック系材料を分析する場合における揮発性材料の揮発を抑制、防止して、精度の高い定量分析を行うことが可能になる。
【0024】
なお、ガス抜き孔数や大きさは、坩堝の容積との関係を考慮して定めることが望ましい。通常は、例えば、坩堝の容積30mlに対して、ガス抜き孔の開口面積(ガス抜き孔が複数個ある場合には合計面積)が約6mm2となるようにすることが望ましい。
ただし、ガス抜き孔を多数個に分割して孔径が小さくなりすぎると閉塞のおそれがあるため、孔径は1mm以上とすることが望ましい。
上述のような要件を満たすことにより、アルカリ溶融工程で発生するガスを逃がしつつ、揮発成分の揮発を効率よく抑制、防止することができて好ましい。
【0025】
また、本発明の黒鉛坩堝においては、その内側底部を半球形状とすることにより、溶融したアルカリと試料の反応を確実に行わせたり、アルカリ溶融した後のアルカリ溶融体(アルカリ溶融塊)を効率よく酸に溶解させたりすることが可能になり好ましい。
【0026】
また、本発明の分析方法は、セラミック系材料とアルカリとを、本発明の黒鉛坩堝に投入して加熱することによりアルカリ溶融させる工程と、アルカリ溶融工程で生成したアルカリ溶融体(アルカリ溶融塊)を酸に溶解させて分析試料溶液を調製する工程とを備えているため、セラミック系材料を確実にアルカリ溶融させて、試料が確実に溶解した分析用試料溶液を調製することが可能になる。
また、黒鉛坩堝を構成する黒鉛に含まれる不純物(灰分)が10μg/g以下と少ないため、分析結果への影響を十分に抑えることができる。
したがって、本発明によれば、セラミック系材料について精度の高い定量分析を効率よく行うことができる。
【0027】
なお、黒鉛坩堝は、試料の採取量を多くして、多量のアルカリの共存下でアルカリ溶融を行うことにより、試料中の微量不純物などの定量を精度よく行うことが可能である。なお、試料の採取量を多くして、多量のアルカリの共存下でアルカリ溶融を行うと、損耗が激しくなるが、本発明の黒鉛坩堝は白金坩堝に比べて安価であるため、分析精度を重視するような場合は、坩堝の損耗を覚悟して、試料採取料を多くして分析を行うことにより、それほど甚大なコストの増大を招くことなく、精度の高い分析結果を得ることができる。
【0028】
一方、黒鉛坩堝は、繰り返して使用すると徐々に損耗するため、白金坩堝ほど繰り返して使用することができないが、それでも、相当回数(例えば、10回前後)の繰り返し使用は可能である。
また、分析の対象となる成分の種類やその含有率などにもよるが、繰り返して使用した場合にも、坩堝に分析対象成分が蓄積されてゆく、いわゆるメモリー汚染の影響は軽微であることが確認されている。
【0029】
また、本発明の分析方法では、黒鉛坩堝を用いるようにしているため、セラミック系材料が、試料が白金と合金化反応する成分を含んでいて、白金坩堝が使用できないような場合にも、何ら問題なくアルカリ溶融法による分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例にかかる黒鉛坩堝の構成を示す図である。
【図2】(a)は図1の黒鉛坩堝を構成する坩堝本体の平面図、(b)は図1の黒鉛坩堝を構成する蓋部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0032】
この実施例1では本発明の一実施例にかかる黒鉛坩堝について説明する。
図1は、本発明の一実施例にかかる黒鉛坩堝を示す正面断面図であり、図2(a)は坩堝本体の平面図、(b)は蓋部材の平面図である。
この黒鉛坩堝は、図1,2に示すように、坩堝本体(黒鉛坩堝)1と蓋部材10とを備えている。
坩堝本体1および蓋部材10はいずれも、不純物として灰分(強熱残分)が10μg/g以下の純度を有する黒鉛から形成されている。
【0033】
なお、この実施例1では、坩堝本体1および蓋部材10を、形状加工した後に、フッ素雰囲気中で熱処理を行う純化処理により、灰分を10μg/g以下にまで低減させている。
【0034】
坩堝本体1は平面形状が円形で、内側底部2は半球形状となるように切削加工されている。
なお、この実施例1では、坩堝本体1の高さT1は40mm、外径D1は36mm、内径D2は30mmとされており、容積が約30mlとなるように構成されている。
【0035】
また、蓋部材10の下面側には、坩堝本体1の開口部3にはまり込む環状突起11が形成されている。
さらに、蓋部材10には、2つのガス抜き孔12が形成されている。なお、2つのガス抜き孔12は、2個の開口面積の合計が約6mm2となるように、それぞれの直径が2mmとされている。
なお、この実施例1では、蓋部材10の高さT2は6mm、外径D3は36mmとされている。
【実施例2】
【0036】
この実施例2では、上記実施例1の黒鉛坩堝を用いて、アルカリ溶融法により、セラミック系材料の組成分析を行う方法について説明する。なお、この実施例2では、磁性体セラミック(フェライト系セラミック)の製造に用いられるセラミック系材料の組成分析を行う場合を例にとって説明する。
【0037】
<原料粉末の調合>
以下の原料粉末を、ZrO2ボール(粉砕・混合メディア)を用いて粉砕・混合することにより、分析の対象であるセラミック系材料(フェライト系セラミックの製造に用いられるセラミック系材料)を調製した。
(a)Fe23粉末
(b)ZnO粉末
(c)CuO粉末
(d)NiO粉末
(e)Bi23粉末
なお、上記の各原料粉末の配合割合は表1の調合組成の欄に示す通りである。上記各原料粉末のうち、ZnO,Bi23などは特に白金(Pt)と合金化しやすい材料で、白金坩堝を用いてアルカリ溶融を行うには支障のある材料である。
【0038】
以下、上述のフェライト系セラミックの製造に用いられるこのセラミック系材料の定量分析方法について説明する。
(1)まず上記原料粉末を0.1g秤取し、実施例1の黒鉛坩堝(坩堝本体)に投入した。
【0039】
(2)次に、融剤として、Na2CO3を3.0g秤取して、坩堝本体に投入し、蓋部材により蓋をした状態で、高周波誘導加熱型の自動溶融装置を用いて1000℃まで昇温し、1000℃で約3分間保持した後、加熱を停止し、放冷することにより、常温に戻した。
なお、1000℃に達した時点から、加熱を停止して、温度が常温に戻るまでの間(すなわち、1000℃での3分間+1000℃から常温に戻るまでの約3分間の合計約6分間)は、坩堝本体を揺動させた。
【0040】
(3)放冷後、冷えて固まったアルカリ融解塊を希塩酸で溶解し、ろ過処理を行った後、内標準元素を添加し100mlに定容した。
【0041】
(4)上記(3)の溶液についてICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて各成分濃度の測定を行い、その値から、セラミック系材料中の各成分の割合を求めた。
表1に、各成分の調合組成(原料粉末の配合割合)と、上述の定量分析の結果、すなわち、各成分の分析結果から求めた測定組成を併せて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、成分の分析結果から求めた測定組成の値は、調合組成の値とよく一致することが確認された。
なお、Ptと合金化する成分であって、揮発成分でもあるZnなどを多く含んでいても、上述のように精度の高い分析を行うことができるのは、本発明の分析方法においては、Znなどの成分と合金せず、あるいはZnなどの成分を吸蔵することのない黒鉛製の坩堝を用いていること、および、坩堝の容量との関係において適切な大きさのガス抜き孔を設けた蓋部材を備えた構成として、揮発成分の無用の揮発を防止するようにしていることによるものである。
なお、表1に示すように、この実施例2で分析の対象とされているセラミック系材料には、ZrO2は配合されていない(配合組成にZrO2は含まれていない)にもかかわらず、表1の測定組成にはZrO2が0.21重量%含まれているが、このZrO2は、粉砕・混合メディアであるZrO2ボールに由来するものである。
表1の測定組成において、ZrO2を除いた組成について各成分の割合を計算し直すと、その値は調合組成により近づくことになるが、Zrの含有量(混入量)は全体から見れば少ないので、各成分の割合を計算し直しても値の変化はわずかであることから、表1には特に示していない。
【0044】
なお、セラミック電子部品の製造工程では、セラミック中に粉砕・混合メディアなどに由来する不純物(この実施例2ではZrO2)がコンタミネーションとして混入することが問題になる場合があるが、本発明の分析方法によれば、そのようなコンタミネーションを効率よく定量することができる。
【0045】
また、この実施例2で分析の対象とした上述のセラミック系材料に、分散剤を2.5重量%の割合で添加した試料について、熱重量分析(TG)を行うとともに、同様の方法で組成分析を行ったところ、重量変化量(減少量)が2.5重量%であること、および、残部についての各成分の割合(測定組成)が、上記表1の測定組成と差のない値となることが確認された。
【実施例3】
【0046】
この実施例3では、セラミック系材料として、圧電体セラミック(PZT系セラミック)の製造に用いられるセラミック系材料について組成分析を行う場合を例にとって説明する。
【0047】
<原料粉末の調合>
以下の原料粉末を、ZrO2ボール(粉砕・混合メディア)を用いて粉砕・混合することにより、分析の対象であるセラミック系材料(PZT系セラミック材料の製造に用いられるセラミック系材料)を調製した。
(a)PbO粉末
(b)TiO2粉末
(c)Nb25粉末
(d)NiO粉末
(e)ZrO2粉末
(f)SiO2粉末
なお、各原料粉末の配合割合は表2の調合組成の欄に示す通りである。上記各原料粉末のうち、PbOなどは特に白金(Pt)と合金化しやすい材料である。
【0048】
以下、圧電体セラミック(PZT系セラミック)の製造に用いられるこのセラミック系材料の定量分析方法について説明する。
(1)まず、上記原料粉末を0.5g秤取し、実施例1の黒鉛坩堝(坩堝本体)に投入した。
【0049】
(2)次に、融剤として、Na2CO3を3.0g秤取して、坩堝本体に投入し、蓋部材により蓋をした状態で、高周波誘導加熱型の自動溶融装置を用いて1000℃まで昇温し、1000℃で約3分間保持した後、加熱を停止し、放冷することにより、常温に戻した。
なお、1000℃に達した時点から、加熱を停止して、温度が常温に戻るまでの間(すなわち、1000℃での3分間+1000℃から常温に戻るまでの約3分間の合計約6分間)は、坩堝本体を揺動させた。
【0050】
(3)放冷後、冷えて固まったアルカリ融解塊を希塩酸で溶解し、ろ過処理を行った後、内標準元素を添加し100mlに定容した。
【0051】
(4)上記(3)の溶液についてICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて各成分濃度の測定を行い、その値から、セラミック系材料中の各成分の割合を求めた。
表2に、各成分の調合組成(原料粉末の配合割合)と、上述の定量分析の結果、すなわち、各成分の分析結果から求めた測定組成を併せて示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2より、各成分の分析結果から求めた測定組成の値は、調合組成の値とよく一致していることがわかる。
なお、Ptと合金化する成分であって、揮発成分でもあるPbなどを多く含んでいても、上述のように精度の高い分析を行うことができるのは、本発明の分析方法においては、Pbなどの成分と合金せず、あるいはPbなどの成分を吸蔵することのない黒鉛製の坩堝を用いていること、および、坩堝の容量との関係において適切な大きさのガス抜き孔を設けた蓋部材を備えた構成として、揮発成分の無用の揮発を防止するようにしていることによるものである。
【0054】
なお、表2の測定組成においてZrO2の割合が調合組成よりも0.2重量%程度大きくなっているが、これは粉砕・混合メディアであるZrO2ボールに由来するものであると考えられる。
【0055】
なお、上記実施例2の場合と同様に、セラミック系材料に、分散剤を2.5重量%の割合で添加した試料について、熱重量分析(TG)を行うとともに、上と同様の方法で組成分析を行ったところ、重量変化量(減少量)が2.5重量%であること、および、残部についての各成分の割合(測定組成)が上記表2の測定組成と差のない値となることが確認された。
【実施例4】
【0056】
チタン酸バリウム(BaTiO3)と、Dy,Mn,Mg,および分散剤を含む原料粉末を、ZrO2ボールを粉砕・混合メディアとして粉砕・混合することによりセラミック系材料を調製した。
【0057】
そして、このセラミック系材料について、粉砕・混合メディアであるZrO2ボールに由来するZrO2の含有量(コンタミネーションの混入量)を、以下の方法で測定した。
(1)まず、上記原料粉末を0.2g秤取し、実施例1の黒鉛坩堝(坩堝本体)に投入した。
【0058】
(2)次に、融剤として、Na2CO3を3.0g秤取して、坩堝本体に投入し、蓋部材により蓋をした状態で、高周波誘導加熱型の自動溶融装置を用いて1000℃まで昇温し、1000℃で約3分間保持した後、加熱を停止し、放冷することにより、常温に戻した。
なお、1000℃に達した時点から、加熱を停止して、温度が常温に戻るまでの間(すなわち、1000℃での3分間+1000℃から常温に戻るまでの約3分間の合計約6分間)は、坩堝本体を揺動させた。
【0059】
(3)放冷後、冷えて固まったアルカリ融解塊を希塩酸で溶解し、ろ過処理を行った後、内標準元素を添加し100mlに定容した。
【0060】
(4)上記(3)の溶液についてICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いてZrO2の濃度を測定し、その値から、セラミック系材料中のZrO2の割合を求めた。
【0061】
その結果、セラミック系材料中のZrO2の割合は0.21重量%であることが確認された。
そして、この実施例4では、上述のようにアルカリ溶融に使用した黒鉛坩堝を繰り返して使用し、同じセラミック系材料について、ZrO2の濃度を繰り返して測定した(具体的には、この実施例4ではZrO2の濃度を4回繰り返して測定した)。そして、繰り返し測定におけるZrO2濃度の測定結果の挙動を確認した。
【0062】
その結果、4回繰り返して測定した場合のいずれの測定においても、ZrO2濃度は0.21%で、黒鉛坩堝へのZrO2の吸着などが問題となるようなことはないことが確認された。
【0063】
なお、この結果を検討すると、セラミック材料中のZrO2は0.21重量%であり、上記(1)の工程で試料を0.2g採取したとすると、試料中のZrO2の量は0.00042gとなり、上記(3)の工程でアルカリ融解塊を希塩酸で溶解し、100mlに定容したとすると、この溶液中のZrO2の濃度は4.2μg/mlとなる。
【0064】
これに対し、上記(2)の工程におけるアルカリ溶融の工程で生じるアルカリ溶融塊が、上記(3)の工程で希塩酸による溶解処理を行った後に残る量は僅かであり、例えば、採取試料の1/100が残留したとしても(通常の操作では1/100も残留することはない)、残留したアルカリ溶融塊に含まれるZrO2に由来するZrO2の量は、その次の回の分析における分析値の1/100を占める(上述の100mlに定容したときの濃度としては0.042μg/ml程度となる)に過ぎず、分析の対象となる成分が、特別に黒鉛に選択吸着されるような物質であるような場合を除いては、数度の繰返し使用がその分析結果に大きな悪影響を及ぼすことがないことは当然の結果であると考えられる。
【0065】
なお、本発明は、上記の各実施例に限定されるものではなく、黒鉛坩堝の具体的な形状や寸法、分析の対象となるセラミック系材料の種類、分析の対象となる成分の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 坩堝本体
2 内側底部
3 開口部
10 蓋部材
11 環状突起
12 ガス抜き孔
1 坩堝本体の高さ
1 坩堝本体の外径
2 坩堝本体の内径
2 蓋部材の高さ
3 蓋部材の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するために用いられる黒鉛坩堝であって、灰分が10μg/g以下の黒鉛から構成されていることを特徴とする黒鉛坩堝。
【請求項2】
白金と合金化反応する成分を含む前記セラミック系材料をアルカリ溶融法により分析するために用いられるものであることを特徴とする黒鉛坩堝。
【請求項3】
ガス抜き孔を有する蓋部材を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の黒鉛坩堝。
【請求項4】
内側底部が半球形状を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒鉛坩堝。
【請求項5】
セラミック系材料中の所定成分の分析を行うために用いられる分析方法であって、セラミック系材料とアルカリとを、請求項1〜4のいずれかに記載の黒鉛坩堝に投入して加熱することによりアルカリ溶融させる工程と、
前記工程で生成したアルカリ溶融体を酸に溶解させて分析試料溶液を調製する工程と
を備えていることを特徴とするセラミック系材料の分析方法。
【請求項6】
前記セラミック系材料が、白金と合金化する成分を含むものであることを特徴とする請求項5記載のセラミック系材料の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−196910(P2011−196910A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65917(P2010−65917)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】