説明

(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法

【課題】異臭が低減され、かつ保存時に匂い劣化を起こしにくい(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法を提供する。
【解決手段】ホモファルネシル酸アミド又はモノシクロホモファルネシル酸アミドを、酸性剤の存在下で環化し、次いで加水分解することにより(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルデカヒドロナフト[2,1−b]フラン−2(1H)−オン類を得、さらに還元反応及び環化反応を順次行うことにより得られた粗(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類を、(i)アルコール及び金属水酸化物の存在下に加熱するアルカリ処理工程並びに(ii)酸水溶液による洗浄処理工程に付する、(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
で表される(−)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン及びその光学異性体(以下、(±)−アンブロキサンと称する)は、香気特性と残香性に優れる重要なアンバー様香料の素材である。
該(±)−アンブロキサンは不斉炭素を複数有するため、ジアステレオマーが存在する。下記一般式(II)
【0005】
【化2】

【0006】
で表される(±)−アンブロキサンのジアステレオマー混合物(以下、(±)−アンブロキサン類と称する)の製造方法としては、ホモファルネシル酸アミド又はモノシクロホモファルネシル酸アミドを酸性剤の存在下に環化し、次いで加水分解した後、公知の還元反応及び環化反応を行なう方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−56663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された発明は、(±)−アンブロキサン類を安価かつ短工程にて製造できるため工業的に有利な製造方法であるが、製造直後の(±)−アンブロキサン類(以下、粗(±)−アンブロキサン類とも称する)にはアミン様の異臭があるという問題があった。
本発明者らは、該アミン様の異臭を取り除く手段を検討し、粗(±)−アンブロキサン類に蒸留操作や酸で洗浄する処理等を試したところ、処理直後には異臭はほとんど無いが、保存中に経時的にアミン様の異臭が発生し、匂い品質が劣化していくことが判明した。この様に、特許文献1に開示された発明には、容易には解決できない匂い品質に関する課題が残っており、得られる粗(±)−アンブロキサン類を応用するにあたって、用途や使用量等で制約を受ける恐れがある。
そこで、本発明の課題は、特許文献1に記載のホモファルネシル酸アミド又はモノシクロホモファルネシル酸アミドを経由する方法で得られる粗(±)−アンブロキサン類を用いた、異臭が低減され、かつ長期保存によっても匂い劣化を起こしにくい(±)−アンブロキサン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ホモファルネシル酸アミド又はモノシクロホモファルネシル酸アミドを、酸性剤の存在下で環化し、次いで加水分解することにより、(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルデカヒドロナフト[2,1−b]フラン−2(1H)−オン類(以下、(±)−スクラレオライド類とも称する)を得、さらに還元反応及び環化反応を順次行うことにより得られた粗(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類(下記一般式(II)
【0010】
【化3】

【0011】
で表される(±)-アンブロキサン類を含有する)を、
(i)アルコール及び金属水酸化物の存在下に加熱するアルカリ処理工程並びに(ii)酸水溶液による洗浄処理工程に付する、
(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類(II)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、異臭が低減され、かつ長期保存によっても匂い劣化を起こし難い(±)−アンブロキサン類(II)の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の(±)−アンブロキサン類(II)の製造方法では、前記特許文献1に開示された方法に準じて製造される粗(±)−アンブロキサン類(II)を用いる。この粗(±)−アンブロキサン類(II)の製造方法を以下に説明する。
【0014】
(ホモファルネシル酸アミド(III)の製造)
本発明に用いられるホモファルネシル酸アミド(III)は、一般式(III)
【0015】
【化4】

【0016】
で表される化合物である。
一般式(III)中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示し、波線はシス又はトランス配置の炭素−炭素単結合を示す。
【0017】
ホモファルネシル酸アミド(III)は、例えば市販の(±)−ネロリドールと下記一般式(IV)で表されるN,N−ジアルキルホルムアミドジアセタールから製造することができる。
【0018】
【化5】

【0019】
一般式(IV)中、R1及びR2は一般式(III)中での定義と同じであり、R3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0020】
(モノシクロホモファルネシル酸アミド(V)の製造)
本発明に用いられるモノシクロホモファルネシル酸アミドは、一般式(V)
【0021】
【化6】

【0022】
で表される化合物である。一般式(V)中、R1、R2及び波線は一般式(III)中での定義と同じであり、点線はいずれかの位置に炭素−炭素二重結合があることを示す。
【0023】
モノシクロホモファルネシル酸アミド(V)は、例えばジヒドロヨノンとビニルマグネシウムブロマイドとを反応させるか、又はジヒドロヨノンにアセチレンを付加した後にリンドラー触媒等を用いた選択水添によって(±)−モノシクロネロリドールとし、さらに上記ホモファルネシル酸アミドと同様に前記一般式(IV)で表されるN,N−ジアルキルホルムアミドジアセタールとの反応を行うことで製造できる。
【0024】
((±)−スクラレオライド類の製造)
本発明における(±)−スクラレオライド類は一般式(VI)
【0025】
【化7】

【0026】
で示される化合物である。(±)−スクラレオライド類(VI)は、酸性剤の存在下で、ホモファルネシル酸アミド(III)又はモノシクロホモファルネシル酸アミド(V)を環化し、更に得られる反応混合物に水を添加し、加水分解を行うことで得られる。
環化反応に用いる酸性剤としては、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、クロロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等の硫酸と同等又はそれ以上の酸強度を有するブレンステッド酸、及び四塩化スズ、四塩化チタン等の金属塩化物や三フッ化ホウ素エーテル錯体等のルイス酸を挙げることができる。
【0027】
(粗(±)−アンブロキサン類(II)の製造)
粗(±)−アンブロキサン類(II)は、上記で得られた(±)−スクラレオライド類(VI)を、西独国第3240054号明細書や「テトラへドロン(Tetrahedron)、1987年、第43巻、p.1871」等の既知法で還元、次いで環化することにより得ることができる。具体的には、下記化学反応式(A)に示すように、(±)−スクラレオライド類(VI)を水素化リチウムアルミニウム等の還元剤の共存下で還元して一般式(VII)で表される(±)−ジオール体に変換し、これを例えばオキシ塩化リン等の脱水剤の共存下で環化して粗(±)−アンブロキサン類(II)を得ることができる。
【0028】
【化8】

【0029】
得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)は、蒸留や再結晶等の通常の有機化合物の分離精製を行なうことができるが、前記した通り、通常の方法ではアミン様の異臭が発生し、かつ長期保存によって匂い劣化が起こり易い。
【0030】
本発明では、以上の方法により得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)を、少なくとも後述のアルカリ処理工程(i)及び酸洗浄処理工程(ii)にて処理することにより、異臭が低減され、かつ長期保存によっても匂い劣化を起こし難い(±)−アンブロキサン類(II)を得ることができる。
【0031】
[アルカリ処理工程(i)]
本工程では、粗(±)−アンブロキサン類(II)を、アルコール及び金属水酸化物の存在下に加熱する。
(アルコール)
本発明で用いられるアルコールとは、分子中に少なくとも1つの水酸基を有する有機化合物のことを言い、分子中に1つ以上のエーテル結合や不飽和結合を有するものも含まれる。このアルコールとしては、飽和又は不飽和脂肪族アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、グリセリン、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく挙げられる。
【0032】
飽和又は不飽和脂肪族アルコールとしては、直鎖又は分岐であってもよいが、沸点が処理工程の実施温度よりも高ければ、耐圧設備等の設備負荷を軽減できるため、飽和又は不飽和脂肪族アルコールの炭素数は4以上が好ましく、6以上がより好ましく、10以上がより好ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。また、操作容易性の観点から、炭素数は50以下が好ましく、30以下がより好ましく、26以下がさらに好ましい。具体的にはブタノール、ブテノール、オクタノール、オクテノール、デカノール、デセノール、テトラデカノール、テトラデセノール、エイコサノール、エイコセノール、テトラコサノール、テトラコセノール、ヘキサコサノール、ヘキサコセノール等が挙げられる。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0033】
上記アルキレングリコールモノアルキルエーテルや、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキレン基の炭素数は、入手容易性の観点から、2又は3が好ましく、2がより好ましく、また、アルキル基の炭素数は、入手容易性の観点から、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましく、1がさらに好ましい。
上記アルキレングリコールやポリアルキレングリコールのアルキレン基の炭素数は、入手容易性の観点から、2又は3が好ましく、2がより好ましい。
以上の中でも、アルコールとしては、異臭低減効率の観点から、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましく、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルがさらに好ましい。
アルコールの使用量は、粗(±)−アンブロキサン類(II)に対して0.1〜3質量倍が好ましく、異臭低減効率の観点から、0.15質量倍以上がより好ましく、0.2質量倍以上がさらに好ましく、かつ製造コスト低減の観点から、1.5質量倍以下がより好ましく、1質量倍以下がより好ましく、0.6質量倍以下がさらに好ましい。
【0034】
(金属水酸化物)
アルカリ処理工程(i)で用いる金属水酸化物としては、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。これらの中でも、異臭低減効率の観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
金属水酸化物の使用量は、粗(±)−アンブロキサン類(II)に対して0.1〜1質量倍が好ましく、操作容易性及び製造コスト低減の観点から、0.1〜0.5質量倍がより好ましい。
なお、金属水酸化物の使用形態に特に制限は無く、例えば金属水酸化物をそのまま用いても水溶液の形態で用いてもよい。但し、金属水酸化物を水溶液として添加する場合、異臭低減効率の観点から、金属水酸化物水溶液の添加終了後に反応系から水を除去した後、又は除去しながら後述の温度に加熱することによってアルカリ処理を行うことが好ましい。
【0035】
アルカリ処理工程(i)における温度は100℃以上にすることが好ましく、異臭低減効率の観点から、より好ましくは100〜300℃、より好ましくは150〜300℃、さらに好ましくは150〜200℃である。
アルカリ処理工程(i)では水が生成するが、異臭低減効率の観点から、生成する水を留去しながら実施することが好ましい。
なお、アルカリ処理工程(i)の終了後は、適宜蒸留等の通常の有機化合物の分離精製手段により精製を行うことができる。
【0036】
[酸洗浄処理工程(ii)]
酸洗浄処理工程(ii)は、酸水溶液で洗浄する工程である。
酸水溶液中の酸としては特に限定されず、無機酸、有機酸を適宜用いることができる。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。また、有機酸としては、ギ酸、酢酸等が挙げられる。これらの中でも、異臭低減効率の観点から、無機酸が好ましく、硫酸、塩酸、リン酸がより好ましく、リン酸がさらに好ましい。
酸水溶液の濃度は、操作性の観点から、1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%がより好ましく、3〜7質量%がさらに好ましい。
酸水溶液の使用量は、酸の使用量に換算すると、異臭低減効率の観点から、粗(±)−アンブロキサン類(II)に対して0.001〜0.5質量倍が好ましく、0.005質量倍以上がより好ましく、0.01質量倍以上がより好ましく、0.02質量倍以上がさらに好ましい。また、生産性及び製造コスト低減の観点から、0.2質量倍以下がより好ましく、0.1質量倍以下がより好ましく、0.05質量倍以下がさらに好ましい。
酸洗浄処理工程(ii)は、操作容易性及び異臭低減効率の観点から、20〜90℃で行うことが好ましいが、分層時間の短縮の観点から、30℃以上で行うことがより好ましく、40℃以上で行うことがさらに好ましく、一方、70℃以下で行うことがより好ましく、60℃以下で行うことがさらに好ましい。酸洗浄処理工程(ii)は、水と分層可能な炭化水素類等の溶媒の存在下又は不存在下で行うことができるが、異臭低減効率の観点から、溶媒の不存在下で行うことが好ましい。
なお、酸洗浄処理工程(ii)の終了後は、適宜蒸留等の通常の有機化合物の分離精製手段により精製を行う事ができる。
【0037】
本発明では、前記アルカリ処理工程(i)と酸洗浄処理工程(ii)のどちらを先に行ってもよく、さらに、両工程間に溶媒除去や蒸留等による精製を行ってもよい。異臭低減効率の観点から、アルカリ処理工程(i)と酸洗浄処理工程(ii)のいずれかの工程の前に蒸留精製することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下の製造例、実施例及び比較例において、%は特に断りがない限り質量百分率を示す。
(収率・回収率の測定法)
各例において、収率はガスクロマトグラフィー(以下、GCと称する)内標定量分析法によって求めた。ただし、(±)−スクラレオライド、(±)−ジオール体、(±)−アンブロキサンのジアステレオマーの定量分析には、それぞれ(±)−スクラレオライド、(±)−ジオール体、(±)−アンブロキサンの検量線を用いた。
各例中の回収率とは、(±)−アンブロキサン類(II)の回収率を示し、GCの内部標準法によって求めた操作前後の(±)−アンブロキサン類(II)の質量から算出した。
【0039】
(GC分析条件)
GC分析機器:Agilent Technology 6850A
カラム:DB−WAX(30m×250μm×0.25μm)
昇温条件:オーブン80℃→6℃/分→220℃(32分間保持)
(計55分)
キャリアガス:ヘリウム
流量:2.0ml/分
注入口:200℃
注入量:1μm(スプリット 100:1)
検出器:FID 280℃
内部標準:n−テトラデカン
【0040】
(異臭強度の評価法)
下記実施例及び比較例で得られた、(±)−アンブロキサン類(II)のアミン様の異臭の強さは、専門パネラー3名(A,B,C)による官能評価で評価した。評価は、(±)−アンブロキサン類(II)の製造直後、及び25℃で3週間保存した後に、下記基準に従って行った。
5:非常に強く感じる
4:強く感じる
3:感じる
2:わずかに感じる
1:全く感じない
【0041】
製造例1[粗(±)−アンブロキサン類(II)の製造]
(ホモファネシル酸アミド(III)の合成)
キシレン663.5gに(±)−ネロリドール736.5g(3.3mol、幾何異性体比率:E/Z=60/40)とN,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール447.9g(3.6mol)を加え、副生するメタノールを留出させながら24時間還流下で撹拌した。溶媒留去後に減圧下で蒸留し、ホモファルネシル酸ジメチルアミドの4つの幾何異性体の混合物(ホモファネシル酸アミド(III))700g(純度97%、収率74%)を得た。液体クロマトグラフィー分析より求めた幾何異性体比率は(3E,7E)体:32%、(3Z,7E)体:27%、(3E,7Z)体:22%、(3Z,7Z)体:19%であった。
((±)−スクラレオライド類(VI)の合成)
【0042】
濃硫酸733.3g(7.0kmol)とジクロロメタン6.7kgの混合液を0℃に冷却し、ホモファルネシル酸ジメチルアミド666.7g(純度97%、2.3kmol)の10%ジクロロメタン溶液を2時間かけて滴下した。水3.3kgを加えた後に25℃で50時間撹拌した。水酸化ナトリウム水溶液で水層を中和後、有機層を分離し、さらに水層をジクロロメタン3.3kgで2度抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄後、乾燥、溶媒留去して橙色固体600.2gを得た。分析の結果、この固体には(±)−スクラレオライドのジアステレオマー混合物が計400.1g(収率68%)含まれており、(±)−スクラレオライドのジアステレオ選択性は41%であった。
【0043】
((±)−ジオール体(VII)の合成)
無水ジエチルエーテル2.6kgに水素化リチウムアルミニウム73.3g(1.9mol)を懸濁させ0℃に冷却したところに、(±)−スクラレオライドのジアステレオマー混合物238.3g(0.9mol)を含む固体523.8gを無水ジエチルエーテル2.6kgに溶かした溶液を15分かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間還流下で撹拌した。室温まで冷却した後に10%水酸化ナトリウム水溶液3.9kgを滴下し、分離した水層をジエチルエーテル2.6kgで2度抽出した。合わせた有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄後、乾燥し、溶媒を留去して薄黄色半固体550.5gを得た。分析の結果、この半固体には(±)−ジオール体のジアステレオマー混合物が計233.1g(収率96%)含まれていた。
【0044】
(粗(±)−アンブロキサン類(II)の合成)
無水ピリジン6.0kgに(±)−ジオール体のジアステレオマー混合物210.0g(0.8mol)を含む半固体510.0gを溶解させて0℃に冷却したところに、オキシ塩化リン156.0g(1.0mol)を5分かけて滴下し、さらに2時間撹拌した。続いて0℃で10%−水酸化ナトリウム水溶液3.0kgを滴下し、分離した水層をジエチルエーテル3.0kgで2度抽出した。合わせた有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄後、乾燥し、溶媒を留去して油状の粗(±)−アンブロキサン類(II)450.0gを得た。分析の結果、この粗(±)−アンブロキサン類(II)には(±)−アンブロキサン類(II)が計132.0g(収率68%)含まれており、(±)−アンブロキサンのジアステレオ純度は44%であった。
【0045】
実施例1
(アルカリ処理工程(i))
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)300.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;88.0g)に、固体の水酸化ナトリウム42.2g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル84.9gを加え、生成する水を留出させながら170℃で10時間攪拌した。70℃で水147.5gを加え、攪拌した後静置し、水層を分離することで、(±)−アンブロキサン類(II)87.6gを含む混合物256.9gを得た(回収率99.5%)。
(蒸留精製)
アルカリ処理工程(i)の後、さらに減圧下(0.66kPa)、槽内温度152〜224℃で蒸留することで、(±)−アンブロキサン類(II)87.4gを含む混合物97.0gを得た(蒸留回収率99.8%)。
(酸洗浄処理工程(ii))
続いて、(±)−アンブロキサン類(II)81.0gを含む混合物90.0gに、5%リン酸水溶液45.0gを加え、50℃で30分間攪拌後、静置し、水層を分離した。同様の操作を続けて2回繰り返し、(±)−アンブロキサン類(II)を80.3g含む混合物89.1gを得た(回収率99.1%)。
製造条件及び回収率等を表1に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0046】
実施例2〜5
実施例1において、アルカリ処理工程(i)で用いたアルコール及び酸洗浄処理工程(ii)で用いた酸水溶液を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に実験及び評価を行った。
製造条件及び回収率等を表1に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0047】
実施例6
(アルカリ処理工程(i))
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)150.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;44.0g)に、固体の水酸化ナトリウム21.1g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル42.5gを加え、生成する水を留出させながら170℃で10時間攪拌した。70℃で水73.8gを加え、攪拌した後静置し、水層を分離することで、(±)−アンブロキサン類(II)43.8gを含む混合物128.5gを得た(回収率99.5%)。
(酸洗浄処理工程(ii))
続いて、(±)−アンブロキサン類(II)34.1gを含む混合物100.0gに、5%リン酸水溶液50.0gを加え、50℃で30分間攪拌後、静置し、水層を分離した。同様の操作を続けて2回繰り返すことで、(±)−アンブロキサン類(II)33.8gを含む混合物99.0gを得た(回収率99.1%)。
製造条件及び回収率等を表1に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0048】
実施例7
(酸洗浄処理工程(ii))
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)250.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;73.3g)に5%リン酸水溶液125.0gを加え、50℃で30分間攪拌後、静置し、水層を分離した。同様の操作を続けて2回繰り返すことで、(±)−アンブロキサン類(II)72.7gを含む混合物247.8gを得た(回収率99.1%)。
(蒸留精製)
さらに減圧下(0.66kPa)、槽内温度152〜224℃で蒸留することで、(±)−アンブロキサン類(II)72.5gを含む混合物102.9gを得た(蒸留回収率99.8%)。
(アルカリ処理工程(i))
続いて、(±)−アンブロキサン類(II)35.3gを含む混合物50.0gに、固体の水酸化ナトリウム7.1g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル14.2gを加え、生成する水を留出させながら170℃で10時間攪拌した。70℃で水90.0gを加え、攪拌した後静置し、水層を分離することで、(±)−アンブロキサン類(II)35.1gを含む混合物38.9gを得た(回収率99.5%)。
製造条件及び回収率等を表1に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0049】
実施例8
(酸洗浄処理工程(ii))
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)250.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;73.3g)に5%リン酸水溶液125.0gを加え、50℃で30分間攪拌後、静置し、水層を分離した。同様の操作を続けて2回繰り返すことで、(±)−アンブロキサン類(II)72.7gを含む混合物247.8gを得た(回収率99.1%)。
(アルカリ処理工程(i))
続いて、(±)−アンブロキサン類(II)58.7gを含む混合物200.0gに、固体の水酸化ナトリウム28.1g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル56.6gを加え、生成する水を留出させながら170℃で10時間攪拌した。70℃で水98.3gを加え、攪拌した後静置し、水層を分離することで、(±)−アンブロキサン類(II)58.4gを含む混合物171.1gを得た(回収率99.5%)。
製造条件及び回収率等を表1に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0050】


【表1】

【0051】
比較例1
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)そのものについて匂い評価を行った。その結果を表3に示す。
【0052】
比較例2
(蒸留精製)
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)100.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;29.3g)を減圧下(0.66kPa)、槽内温度152〜224℃で蒸留することで、(±)−アンブロキサン類(II)29.3gを含む混合物41.5gを得た(蒸留回収率99.8%)。
製造条件及び回収率等を表2に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0053】
比較例3
実施例1において、アルカリ処理工程(i)に用いたジエチレングリコールモノメチルエーテル(アルコール)をテトラエチレングリコールジメチルエーテル(エーテル)に変更したこと以外は、実施例1と同様に実験及び評価を行った。
製造条件及び回収率等を表2に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0054】
比較例4
(アルカリ処理工程(i))
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)150.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;44.0g)に、固体の水酸化ナトリウム21.1g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル42.5gを加え、生成する水を留出させながら170℃で10時間攪拌した。70℃で水73.8gを加え、攪拌した後静置し、水層を分離することで、(±)−アンブロキサン類(II)43.8gを含む混合物128.4gを得た(回収率99.5%)。
製造条件及び回収率等を表2に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0055】
比較例5
(酸洗浄処理工程(ii))
製造例1で得られた粗(±)−アンブロキサン類(II)50.0g((±)−アンブロキサン類(II)の含量;14.7g)に、5%リン酸水溶液25.0gを加え、50℃で30分間攪拌後、静置し、水層を分離した。同様の操作を続けて2回繰り返すことで、(±)−アンブロキサン類(II)14.5gを含む混合物49.0gを得た(回収率99.1%)。
製造条件及び回収率等を表2に示し、得られた混合物の匂い評価の結果を表3に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
表3より、比較例1〜5に比べて実施例1〜8では、(±)−アンブロキサン類(II)の製造直後、及び3週間保存後のいずれの評価においてもアミン様の異臭が大幅に低減されていることを確認できた。特に、実施例1、2及び7では、(±)−アンブロキサン類(II)の製造直後、及び3週間保存後のいずれの評価においても、アミン様の異臭が全く感じられないことが確認できた。
よって、本発明の製造方法によれば、ホモファルネシル酸アミド又はモノシクロホモファルネシル酸アミドを経由する方法で得られる粗(±)−アンブロキサン類(II)をアルカリ処理及び酸洗浄処理をすることでアミン様の異臭を低減し、かつ保存時に匂い劣化を起こし難い(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類((±)−アンブロキサン類(II))を製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により得られる(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フランは、アミン様の異臭が少なく、かつ保存時に匂い劣化を起こし難いため、香気特性と残香性に優れるアンバー様香料の素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモファルネシル酸アミド又はモノシクロホモファルネシル酸アミドを、酸性剤の存在下で環化し、次いで加水分解することにより、(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルデカヒドロナフト[2,1−b]フラン−2(1H)−オン類を得、さらに還元反応及び環化反応を順次行うことにより得られた粗(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類を、
(i)アルコール及び金属水酸化物の存在下に加熱するアルカリ処理工程並びに(ii)酸水溶液による洗浄処理工程に付する、
(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法。
【請求項2】
前記(i)のアルカリ処理工程を100〜300℃で行う、請求項1に記載の(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法。
【請求項3】
前記(i)のアルカリ処理工程で使用するアルコールが、飽和又は不飽和脂肪族アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、グリセリン、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法。
【請求項4】
前記(i)のアルカリ処理工程で使用する金属水酸化物が、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物である、請求項1〜3のいずれかに記載の(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法。
【請求項5】
前記(ii)の洗浄処理工程で使用する酸水溶液中の酸が、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸又は酢酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の(±)−3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン類の製造方法。

【公開番号】特開2010−189285(P2010−189285A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33159(P2009−33159)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】