説明

1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法

【課題】煩雑な後処理を必要とすることがなく、入手が容易な原料を使用し、簡便な方法により、1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物を得ることができる、工業的に好適な1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】パラジウム化合物の存在下、特定の(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物を酸化反応させ、一般式(2)


(式中、Arは、アリール基またはヘテロアリール基を示す。なお置換基を有していても良い。)で示される1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法に関する。1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物は、例えば、医薬や液晶材料の製造原料として有用な化合物である。(例えば、非特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法としては、例えば、トラン化合物とヨウ素をジメチルスルホキシド中で、還流下で反応させる方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
又、炭素−炭素の三重結合に、亜鉛とマンガンとからなる金属塩を反応させる方法(例えば、非特許文献3参照)、ルテニウム、水銀、モリブデン等の遷移金属触媒を反応させる方法(例えば、非特許文献4参照)、三酸化硫黄と反応させる方法(例えば、非特許文献5参照)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Tetrahedron,56,3399(2000)
【非特許文献2】Synthesis.,131(1991)
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,105,7755(1983).
【非特許文献4】Helvetica Chimica Acta.,2531(1981)
【非特許文献5】Synthesis.,1001(2001) 更に、非対称へテロアリールエチニルベンゼン化合物をパラジウムの存在下でジメチルスルホキシドと反応させる方法が開示されている(例えば、非特許文献6参照)。
【非特許文献6】Tetrahedron,58,1607(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、従来開示されている製造方法では、目的物を高収率で得るためには、ヨウ素が多量に必要であるという問題や、反応操作が煩雑である上に、安全性及び毒性の問題があり、工業的な製造方法としては採用されうるものではなかった。そのため、かかる問題の解決が望まれていた。
又、非対称へテロアリールエチニルベンゼン化合物をパラジウムの存在下でジメチルスルホキシドと反応させる方法では、ベンゼン環上に電子供与性基が存在する場合には反応がうまく進行するが、電子吸引性基が存在する場合、その基に影響されて収率の低下や反応が進行しないことが明確に記載されている(Sheme4〜5)。
【0005】
即ち、本発明の課題は、上記問題点を解決し、煩雑な後処理を必要とすることがなく、入手が容易な原料を使用し、簡便な方法により、1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物を得ることができる、工業的に好適な1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、パラジウム化合物の存在下、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Arは、アリール基又はヘテロアリール基を示す。なお、ベンゼン環上の任意の水素原子は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
で示される(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物を酸化反応させることを特徴とする、一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Arは、前記と同義である。なお、ベンゼン環上の任意の水素原子は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
で示される1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、煩雑な後処理を必要とすることがなく、入手が容易な原料を使用し、簡便な方法により、1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物を得ることができる、工業的に好適な1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の反応で使用する(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Arは、アリール基又はヘテロアリール基を示すが、アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、フルオロフェニル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられ、ヘテロアリール基としては、例えば、キノリル基、ピリジル基、ピロリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等が挙げられる。
【0013】
なお、ベンゼン環上の任意の水素原子は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基、ハロゲン原子で置換されていても良く、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0014】
本発明の反応において使用するパラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム等のハロゲン化パラジウム;酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム等のパラジウム有機酸塩;シアン化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等のパラジウム無機酸塩;酸化パラジウム;パラジウムアセチルアセトナート、ジアセトニトリルジクロロパラジウム、ジアセタトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムポリマー担持体、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビスベンゾニトリルジクロロパラジウム等のパラジウム錯体が挙げられるが、好ましくはハロゲン化パラジウム、更に好ましくは塩化パラジウム、臭化パラジウムが使用される。なお、これらのパラジウム化合物は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。又、前記パラジウム錯体の場合には、パラジウム源と配位子とを系内で反応させて使用しても構わない。
【0015】
前記パラジウム化合物の使用量は、(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物1gに対して、好ましくは0.001〜10g、更に好ましくは0.01〜1gである。
【0016】
本発明においてはスルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄酸化物を使用するが、前記スルホキシド化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられ、前記スルホン化合物としては、例えば、ジメチルスルホン、エチルフェニルスルホン、スルホラン等が挙げられるが、好ましくはジメチルスルホキシド、スルホラン、更に好ましくはジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0017】
前記有機硫黄酸化物の使用量は、(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物1ミリモルに対して、好ましくは5.1〜10ml、更に好ましくは5.5〜8ml、特に好ましくは6〜8mlである。
【0018】
本発明は有機硫黄酸化物以外の溶媒の存在下で行っても良く、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のアミン類、ピロリジン、ピリジン、キノリン等の含窒素複素環類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2,4−ジオン等の尿素類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素類が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独で又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0019】
前記溶媒の使用量は、(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物1gに対して、好ましくは0.5〜100ml、更に好ましくは0.7〜50ml、特に好ましくは1〜30mlである。
【0020】
前記溶媒の使用量は、(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物1gに対して、好ましくは1〜100ml、更に好ましくは2〜50ml、特に好ましくは3〜30mlである。
【0021】
本発明の反応は、例えば、(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物、パラジウム化合物及びジメチルスルホキシド中で混合し、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは0〜200℃、更に好ましくは20〜150℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0022】
本発明の反応によって1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物が得られるが、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製することができる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例1(1‐(4‐ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオンの合成)
【0025】
【化3】

【0026】
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlの容器に、フェニルエチニル‐4‐ペンタフルオロスルファニルベンゼン0.50g(1.64mmol)、ジメチルスルホキシド10ml及び塩化パラジウム0.033g(0.19mmol)を加えた後、攪拌しながら140℃で4時間反応させた。反応終了後、反応液を冷却し、エーテル50ml加え飽和塩化ナトリウム水溶液30mlで3回洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、濃縮物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;(1)ヘキサン→(2)ヘキサン:酢酸エチル=30:1→20:1(容量比))で精製し、黄色固体として、1‐(4‐ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン0.39gを得た(単離収率;71%)。
なお、1‐(4‐ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオンは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0027】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));7.51〜7.57(2H,m)、7.61〜7.73(1H,m)、7.89〜8.11(6H,m)
CI−MS(m/e);337(M+1)
【0028】
実施例2(1‐(4‐ペンチルフェニル)‐2‐(3‐ペンタフルオロスルファニル‐4‐フルオロフェニル)エタン‐1,2−ジオンの合成)
【0029】
【化4】

【0030】
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積30mlの容器に、2−フルオロ−5−(4−n−ペンチル−フェニルエチニル)ペンタフルオロスルファニルベンゼン0.50g(1.27mmol)、ジメチルスルホキシド10ml及び塩化パラジウム0.040g(0.23mmol)を加えた後、攪拌しながら140℃で4時間反応させた。反応終了後、反応液を冷却し、水90mlを加えた後にトルエン50mlで3回抽出し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、濃縮物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン→ヘキサン:酢酸エチル=19:1(容量比))で精製し、黄色固体として、1‐(4‐ペンチルフェニル)‐2‐(3‐ペンタフルオロスルファニル‐4‐フルオロフェニル)エタン‐1,2−ジオン0.45gを得た(単離収率;83%)。
なお、1‐(4‐ペンチルフェニル)‐2‐(3‐ペンタフルオロスルファニル‐4‐フルオロフェニル)エタン‐1,2−ジオンは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0031】
H−NMR(CDCl,δ(ppm));0.89(3H,t,J=6.8Hz)、1.26〜1.38(4H,m)、1.60〜1.78(2H,m)、2.70(2H,t,J=7.7Hz)、7.32〜7.38(3H,m)、7.88〜7.92(2H,m)、8.10〜8.15(1H,m)、8.48〜8.50(1H,m)
CI−MS(m/e);425(M+1)
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、煩雑な後処理をする必要がなく、入手が用意な原料を使用して簡便な方法により、1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物を得ることができる、工業的に好適な1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム化合物の存在下、一般式(1)
【化1】

(式中、Arは、アリール基又はヘテロアリール基を示す。なお、ベンゼン環上の任意の水素原子は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
で示される(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物と、スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の有機硫黄酸化物とを反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】

(式中、Arは、前記と同義である。なお、ベンゼン環上の任意の水素原子は、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
で示される1‐(ペンタフルオロスルファニルベンゼン)‐2‐フェニルエタン‐1,2−ジオン化合物の製造方法。
【請求項2】
Arがフェニル基又は直鎖状のアルキル基を有するフェニル基である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
有機硫黄酸化物の使用量が(アリール又はヘテロアリール)エチニルペンタフルオロスルファニルベンゼン化合物1ミリモルに対して5.5〜8mlである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
式(3a)及び(3b)で示される化合物。
【化3】


【公開番号】特開2010−168295(P2010−168295A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10862(P2009−10862)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】