説明

1,3位−2置換ピロリジン化合物またはその塩の改良された製造法

【課題】 工業的に実施可能で効率的に、所定の1,3位−2置換ピロリジン化合物およびその塩を高純度で製造する方法を提供する。
【解決手段】
上記課題は、1,3位−2置換ピロリジン化合物の遊離塩基を含有する有機溶媒溶液中に水を共存させた後に、ハロゲン化水素酸を加えて晶析を行うことで解決される。これにより、カラムクロマトグラフィーによる精製を行う事無く、除去しにくい特定の類縁体からなる不純物ならびに着色成分を十分に除去した高純度の1,3位−2置換ピロリジン化合物およびその塩を取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度の1,3位−2置換ピロリジン化合物またはその塩の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3位−2置換ピロリジン化合物は、ムスカリン様受容体の拮抗作用を有する化合物として有用であり、そのうち、ダリフェナシンは尿失禁治療薬として上市されている。
【0003】
通常、ダリフェナシンは臭化水素塩として製造されており、その製造法としては、例えば、3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)ピロリジンに、アセトニトリル溶媒下、炭酸カリウムならびに5−(2−ブロモエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフランを作用させる方法等によるカップリング反応にてダリフェナシンを合成した後、カラムクロマトグラフィー精製にて泡沫状のダリフェナシンを取得し、これをアセトン溶媒中に溶解させ、臭化水素酸を加えて晶析することでダリフェナシンの臭化水素酸塩として取得する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−282360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記製法では目的物を高純度化するためにカラムクロマトグラフィーによる精製を実施している。従って、工業的な製造においてはその実用性の面で好ましい方法とは言えなかった。
【0006】
また、本発明者らが特許文献1に記載の方法をカラムクロマトグラフィーによる精製を省略して実施したところ、カップリング反応にて副生する特定の類縁体不純物が十分に除去できなかった。また、取得したダリフェナシンの臭化水素酸塩が淡赤色に着色するという課題が見られた。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑み、工業的に実施可能で効率的に高純度のダリフェナシンまたはその塩を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カラムクロマトグラフィーによる精製を行う事無く、除去しにくい特定の類縁体からなる不純物ならびに着色成分を十分に除去した高純度のダリフェナシンのハロゲン化水素酸塩を取得できる方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、水を共存させた、下記式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、*1は不斉炭素を表す。)表される1,3位−2置換ピロリジン化合物遊離塩基の有機溶媒溶液に、ハロゲン化水素酸を加えて晶析を行うことを特徴とする下記式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、HXはハロゲン化水素酸、*1は不斉炭素を表す。)で表される化合物の製造法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明にかかる方法によれば、カラムクロマトグラフィー等煩雑な方法による精製を行うことなく、除去しにくい特定の類縁体からなる不純物ならびに着色成分を十分に除去した高純度のダリフェナシンのハロゲン化水素酸塩を取得することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明について詳述する。
【0016】
まず、下記式(1):
【0017】
【化3】

【0018】
で表される1,3位−2置換ピロリジン化合物の遊離塩基(以下、遊離塩基(1)とする)の製造方法の1つである、下記式(3):
【0019】
【化4】

【0020】
で表されるピロリジン誘導体(以下、ピロリジン誘導体(3)とする)と下記式(4):
【0021】
【化5】

【0022】
で表されるジヒドロベンゾフラン体(以下、ジヒドロベンゾフラン体(4)とする)を用いて、1,3位−2置換ピロリジン化合物の遊離塩基(1)を製造する方法について説明する。
【0023】
前記式(1)および(3)において、*1で表される不斉炭素はR体の絶対配置を有していても良く、S体の絶対配置を有していても良いが、医薬品用途としてこれらの化合物を使用する場合、前記式(1)および(3)で表される化合物の絶対配置としては、S体が好ましい。
【0024】
前記式(3)で表される化合物は、特開平2−282360号公報に記載の方法によって製造できる。尚、前記式(3)で表される化合物は例えば、カラムクロマトグラフィーや晶析にて精製してから用いてもよい。
【0025】
前記式(4)において、Yは脱離基であり、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基またはトリフルオロメタンスルホニルオキシ基が挙げられ、好ましくは臭素原子である。
【0026】
ピロリジン誘導体(3)とジヒドロベンゾフラン体(4)とのカップリング反応は、有機溶媒中、塩基存在下で行う。
【0027】
本反応で使用する有機溶媒は、反応に影響を及ぼさない限りにおいては特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−へキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭素、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール等のアルコール、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミドなどを挙げることができる。これらの中でもアセトニトリルが特に好ましい。なお、これらの溶媒は、単独で用いても2種以上併用しても良く、また、その混合比率に特に制限は無い。
【0028】
使用する塩基としては特に制限されず、無機塩基でも有機塩基でも使用することができる。
【0029】
無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩を挙げることができる。
【0030】
また、有機塩基としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の3級アミンを挙げることができる。これらの中でも無機塩基が好ましく、特に好ましくは炭酸カリウムである。
【0031】
溶媒の使用量に関しては、特に制限されないが、ピロリジン誘導体(3)1重量部に対して、下限は0.1重量部、好ましくは1重量部であり、上限は50重量部、好ましくは10重量部である。
【0032】
反応温度に関しては、特に制限されないが、下限は30℃であり、好ましくは50℃以上であり、上限は120℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0033】
塩基の使用量は、通常、ピロリジン誘導体(3)1モルに対して、およそ化学量論以上あればよいが、通常、0.8〜10モル、好ましくは1.0〜5.0モルである。
【0034】
ジヒドロベンゾフラン体(4)の使用量は、およそ化学量論以上あればよいが、通常、ピロリジン誘導体(3)1モルに対して、0.8〜5.0モル、好ましくは0.9〜2.0モル、より好ましくは、1.0〜1.5モルである。
【0035】
ジヒドロベンゾフラン体(4)の添加速度に関しては、後述するダリフェナシン類縁体(RRT1.32不純物)の副生を抑制するため、ゆっくりと添加するのが好ましい。具体的には、ジヒドロベンゾフラン体(4)の使用量の全量を1時間以上かけて添加するのが好ましい。より好ましくは3時間以上、特に好ましくは7時間以上である。尚、ジヒドロベンゾフラン体(4)は粉体の状態で添加してもよいし、適当な有機溶媒に溶解させてから添加しても良い。
【0036】
尚、RRTとはHPLC分析における相対保持時間のことであり、以下の計算式で算出される値であり、上述したRRT1.32不純物とは、ダリフェナシン遊離塩基(1)のHPLC分析における保持時間を1分としたとき、1.32分に検出される不純物である。
RRT(相対保持時間)=不純物ピーク検出時間(分)/ダリフェナシンピーク検出時間(分)
【0037】
ジヒドロベンゾフラン体(4)添加後の後反応は、上述のRRT1.32不純物を分解させるため長時間行うのが好ましい。好ましくは10時間以上、より好ましくは15時間以上、特に好ましくは20時間以上である。
【0038】
上記反応操作は、一般的には、撹拌下に行う。撹拌強度としては、単位容積当たりの撹拌所要動力としては、好ましくは0.01kW/m3以上であり、より好ましくは0.05kW/m3以上、更に好ましくは0.1kW/m3以上である。
【0039】
次に、遊離塩基(1)を晶析工程に付し、下記式(2):
【0040】
【化6】

【0041】
で表されるダリフェナシンのハロゲン化水素酸塩(以下、ハロゲン化水素酸塩(2)とする)を結晶として取得する方法について説明する。
【0042】
前記式(2)において、HXはハロゲン化水素酸を表す。ハロゲン化水素酸としては、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸が挙げられ、好ましくは臭化水素酸である。
【0043】
前記式(2)において、*1は不斉炭素を表す。*1で表される不斉炭素はR体の絶対配置を有していても良く、S体の絶対配置を有していても良いが、医薬品用途としてこれらの化合物を使用する場合、一般式(2)で表される化合物の絶対配置としては、S体が好ましい。
【0044】
次に、反応について説明する。
【0045】
遊離塩基(1)は、上記方法によって得られたものでもよいし、他の方法によって得られたものでもよい。上記の方法で行ったカップリング反応の反応液から遊離塩基(1)を取得する場合は、一般的な後処理を行えばよい。例えば、上記反応液に水または無機塩基を含有する水溶液および有機溶媒を加えて分液し、遊離塩基(1)を含む有機層を取得すればよい。得られた有機層は、必要に応じて水洗し、減圧濃縮によって溶媒を留去する。また、必要に応じて溶媒置換を行うことも可能である。
【0046】
上記後処理において使用する無機塩としては、特に制限されず、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩を挙げることができる。これらの中でもアルカリ金属炭酸塩が好ましく、特に好ましくは炭酸カリウムである。
【0047】
上記後処理において使用する有機溶媒としては、特に制限されず、例えばベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭素、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、n−ブタノール、sec−ブタノール等のアルコールなどを挙げることができる。これらの中でも酢酸エチルが特に好ましい。
【0048】
このようにして取得した遊離塩基(1)の有機溶媒溶液に水を共存させた後、ハロゲン化水素酸を添加して晶析を行うことにより、ハロゲン化水素酸塩(2)を結晶として取得することができる。
【0049】
上記遊離塩基(1)の有機溶媒溶液において、有機溶媒は、上記後処理に用いた溶媒をそのまま用いてもよいし、当該溶媒を留去した後、異なる有機溶媒を添加してもよい。不純物除去の観点からは、ケトンまたはアルコールを用いるのが好ましい。
【0050】
ケトンとしては特に制限されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、好ましくはアセトンである。
【0051】
アルコールとしては特に制限されず、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノールなどが挙げられ、好ましくはエタノールである。
【0052】
上記溶媒の使用量としては、特に制限されないが、通常、遊離塩基(1)1重量部に対して、下限は0.1重量部、好ましくは0.5重量部、より好ましくは1重量部であり、上限は50重量部、好ましくは20重量部、より好ましくは10重量部である。
【0053】
晶析前の遊離塩基(1)の有機溶媒溶液中に共存させる水分量は、除去すべき不純物の含有量、着色の程度、及び収率等を総合的に勘案し、事前のラボ検討等により適宜設定することができるが、通常、下限は遊離塩基(1)1モルに対して、1モル以上、好ましくは3モル以上、より好ましくは5モル以上であり、上限は50モル以下、好ましくは20モル以下、より好ましくは10モル以下である。高品質のハロゲン化水素酸塩(2)を取得するためには、遊離塩基(1)の有機溶媒溶液に含まれる水分量は、起晶時点で、遊離塩基(1)1モルに対して7モル以上であるのが好ましい。
【0054】
用いられるハロゲン化水素酸は、上述のとおりである。
【0055】
ハロゲン化水素酸の使用量は、通常、遊離塩基(1)1モルに対して、0.7〜5.0モル、好ましくは0.9〜2.0モル、より好ましくは、1.0〜1.5モルである。
【0056】
ハロゲン化水素酸の添加速度に関しては、急激な結晶析出によるスラリーの流動性悪化と結晶品質の低下を回避するために、ゆっくりと添加するのが好ましい。具体的には、ハロゲン化水素酸の使用量の全量を1/2時間以上かけて添加するのが好ましい。より好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは2時間以上、特に好ましくは3時間以上である。
【0057】
ハロゲン化水素酸の添加温度に関しては、低温で添加した場合、結晶分離時のろ過性が悪く、また結晶への着色が強くなることから、中〜高温にて添加するのが好ましい。具体的には、30℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。
【0058】
上記操作は、通常、撹拌下に実施される。撹拌強度としては、単位容積当たりの撹拌所要動力としては好ましくは0.01kW/m3以上であり、より好ましくは0.05kW/m3以上、更に好ましくは0.1kW/m3以上である。
【0059】
添加するハロゲン化水素酸は、水や適当な有機溶媒に溶解させた後に遊離塩基(1)の有機溶媒溶液に添加してもよいし、ガスとして吹き込んでもよい。
【0060】
本工程で実施する晶析方法としては、特に制限されないが、例えば、冷却晶析法、濃縮晶析法、溶媒置換を用いる晶析法、貧溶媒を混合することによる晶析法、及び/又は塩析法等の一般に用いられる晶析法を、単独又は適宜組み合わせて実施することができる。尚、本晶析では必要に応じて種晶を添加しても良い。
【0061】
以上のように、ハロゲン化水素酸添加前に予め水を共存させておくことで、より優れた不純物除去効果が期待できる。遊離塩基(1)の有機溶媒溶液中の水分量が多い場合、晶析収率の低下を招くものの、予め加える水分量を適切に制御することにより、上述のダリフェナシン類縁体を効率的に十分に除去しつつ、結晶への着色を低減でき、高純度のダリフェナシンのハロゲン化水素酸塩(2)を取得できる。
【0062】
このようにして得られるダリフェナシンのハロゲン化水素酸塩(2)は、遠心分離、加圧分離、減圧濾過等の一般的な固液分離方法を用いて結晶として採取することができる。得られた結晶は、更に、必要に応じて、例えば、減圧乾燥(真空乾燥)することにより乾燥結晶として取得することができる。
【0063】
尚、言うまでもなく、本発明により取得されるダリフェナシンのハロゲン化水素酸塩(2)の結晶は、高純度の結晶である。すなわち、化学純度が96%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、とりわけ99.5%以上である。また、ハロゲン化水素酸塩(2)に含まれる不純物としては、例えば上述の類縁体が挙げられるが、本発明の方法により得られるハロゲン化水素酸塩(2)中の不純物量は、普通0.2%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下、特に好ましくは不検出である。また、取得した結晶には着色は無く、白色の結晶である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。これらの実施例は無論本発明を何ら限定するものではない。
【0065】
尚、実施例に記載しているダリフェナシンの遊離塩基(1)およびハロゲン化水素酸塩(2)の化学純度および類縁不純物量は、以下のHPLC法により分析した。
【0066】
[化学純度、及び類縁不純物量の分析法]
カラム Phenomenex社製{Luna 5μ C18(2) 250×4.6mm}、移動相A:リン酸バッファー水溶液(pH=7.0)、移動相B:アセトニトリル、流速:1.0ml/min、検出:UV215nm、カラム温度:40℃
グラジエント条件
時間(分) A液(%) B液(%)
0 50 50
20 30 70
35 30 70
35.1 50 50

保持時間:3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン、ダリフェナシンの遊離塩基(1);9.1分、RRT1.32不純物;12.0分
【0067】
(不純物量の算出式)
不純物量(area%)=不純物ピークの面積値/ダリフェナシンピークの面積値
【0068】
(実施例1)3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン(式(1)で表される化合物)
3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)ピロリジン65.5g(0.2318mol、純度:99.3wt%)と炭酸カリウム60.9g(0.4406mol)にアセトニトリル455gを加え、スラリー溶液とした。このスラリー溶液を80℃に昇温し、5−(2−ブロモエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン63.2g(0.2783mol)を含有するアセトニトリル溶液258.2gを7時間かけて添加した。5−(2−ブロモエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフランを添加した後、20時間撹拌し、室温付近まで冷却した。次に、反応液に酢酸エチル520gと10%炭酸カリウム水溶液325gを加え、分液して水層を廃棄し、有機層を得、更に有機層を水130gにて水洗した。続いて、この溶液が約190gになるまで減圧濃縮し、更にアセトン2208g加えて減圧濃縮して、3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジンを94.9g(0.2225mol)含有するアセトン溶液950g取得した(収率96%)。HPLC分析の結果、RRT1.32不純物:1.4area%であった。
【0069】
(実施例2)3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩(一般式(2)で表される化合物)
3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン(ダリフェナシンの遊離塩基)94.6g(0.2218mol)含有するアセトン溶液950g中の水分量がダリフェナシンの遊離塩基1モルに対して4.7モルとなるように調整し、該溶液を50℃に昇温した。次に、47%HBr水42.0g(0.2440mol)を2時間かけて添加した。この47%HBr水添加中に結晶が析出した。この得られたスラリーを1時間撹拌した後、0℃まで徐々に冷却し、同温度にて一晩撹拌した後、析出した結晶を減圧濾過し、得られた結晶を冷アセトン450mLにて洗浄した。得られた湿結晶を減圧乾燥し、3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩94.7g(0.1866mol)を白色の結晶にて取得した(晶析収率84%)。HPLC分析の結果、化学純度:99.9area%、RRT1.32不純物:0.04area%であった。尚、結晶分離時のろ過性は非常に良好であった。
【0070】
1H NMR(400 MHz, CDCl3):δ= 11.41(1H, bs); 7.15-7.40(10H, m); 7.02(1H, s); 6.8 7(1H, d); 6.65(1H, d); 5.78(1H, s); 5.59(1H, s); 4.53(2H, t); 3.80-3.98(1H, m); 3. 70(1H, s); 3.49(1H, t); 3.18-3.29(1H, m); 3.14(2H, t); 3.00-3.15(4H,m); 2.81-2. 99(2H, m); 2.10-2.25(1H, m).
【0071】
13C NMR(400 MHz, CDCl3):δ= 175.1; 159.0; 142.3; 141.9; 129.0; 128.8; 128.7; 128.5; 127.9; 127.7; 127.6; 127.5; 125.2; 109.3; 71.2; 62.7; 57.0; 56.3; 53.9; 43.6; 31.2; 29.6; 28.1.
【0072】
IR(KBr):3468, 3259, 3209, 3096, 2959, 2854, 2696, 2361, 2343, 1668, 1576, 1493, 1443, 1364, 1350, 1248, 983, 704 cm-1
【0073】
粉末エックス線(Cu−Kα)における主な回折角(2θ±0.1): 8.1°, 11.4°, 17.0°, 18.2°, 18.7°, 19.0°, 19.5°, 20.0°, 20.2°, 20.7°, 21.9°, 22.0°, 24.5°, 24.6°, 25.1°, 25.8°,26.7°, 27.2°, 27.5°, 28.6°, 28.7°
【0074】
融点:231−232℃
旋光度:[α]D25=+45.8(c 1.0,EtOH)
【0075】
(実施例3,4)3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩(一般式(2)で表される化合物)
晶析前に共存する水分量がダリフェナシンの遊離塩基1モルに対して1.2モルまたは3.5モルとなるようにして、実施例2の方法に従い晶析を行った。
【0076】
晶析前に共存する水分量を変えて晶析を行った結果は、以下の表のとおりである。
【0077】
【表1】

【0078】
(比較例1)3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩(一般式(2)で表される化合物)
3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)ピロリジン20.0g(71.3mmol)と5−(2−ブロモエチル)−2,3−ジヒドロベンゾフラン19.4g(85.4mmol)、炭酸カリウム18.5g(133.9mmol)にアセトニトリル200gを加え、80℃に昇温した。昇温後、2時間撹拌し、室温付近まで冷却した。次に、反応液に塩化メチレン200gと10%炭酸カリウム水溶液200gを加え分液して水層を廃棄し、有機層を得た。この有機層を濃縮乾固し、粗3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン(ダリフェナシンの遊離塩基)34.2gを泡沫として得た。
【0079】
次に、ダリフェナシンの遊離塩基を1g(2.3mmol)含有するアセトン溶液10gを25℃に温度調節した後、47%HBr水443.1mg(2.5mmol)を5分程度で添加した。この47%HBr水添加中に結晶が析出した。得られたスラリーを1時間撹拌した後、0℃まで徐々に冷却し、同温度にて一晩撹拌した後、析出した結晶を減圧濾過し、得られた結晶を冷アセトン5mLにて洗浄した。得られた湿結晶を減圧乾燥し、3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩0.95g(1.9mmol、晶析収率80%)を淡赤色の結晶にて取得した。HPLC分析の結果、化学純度:98.9area%、RRT1.32不純物:0.7area%であった。尚、結晶分離時のろ過性は良好であった。
【0080】
(比較例2)3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩(一般式(2)で表される化合物)
実施例1の製法にて取得した3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン(ダリフェナシンの遊離塩基)1g(2.3mmol)含有するアセトン溶液10g中の水分量がダリフェナシンの遊離塩基1モルに対して0.5モルとなるように調整し、該溶液を5℃に温調した。次に47%HBr水443.1mg(2.5mmol)を5分程度で添加した。この47%HBr水添加中に結晶が析出した。得られたスラリーを1時間撹拌した後、0℃まで徐々に冷却し、同温度にて一晩撹拌した後、析出した結晶を減圧濾過し、得られた結晶を冷アセトン5mLにて洗浄した。得られた湿結晶を減圧乾燥し、3−(S)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジン・臭化水素酸塩1.02g(2.0mmol、晶析収率86%)を濃赤色の結晶にて取得した。HPLC分析の結果、化学純度:99.3area%、RRT1.32不純物:0.26area%であった。尚、結晶分離時のろ過性は悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を共存させた、下記式(1):
【化1】

(式中、*1は不斉炭素を表す。)表される1,3位−2置換ピロリジン化合物の遊離塩基の有機溶媒溶液に、ハロゲン化水素酸を添加して晶析を行うことを特徴とする下記式(2):
【化2】

(式中、HXはハロゲン化水素酸、*1は不斉炭素を表す。)で表される1,3位−2置換ピロリジン化合物のハロゲン化水素酸塩の製造法。
【請求項2】
共存させる水の量が、1,3位−2置換ピロリジン化合物の遊離塩基(1)1モルに対して1モル以上である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
有機溶媒がケトンまたはアルコールである請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
ケトンがアセトンである請求項3に記載の製造法。
【請求項5】
アルコールがエタノールである請求項3に記載の製造法。
【請求項6】
ハロゲン化水素酸の添加温度が30℃以上である請求項1〜5のいずれかに記載の製造法。
【請求項7】
1,3位−2置換ピロリジン化合物の遊離塩基(1)が、塩基及び有機溶媒中で、下記式(3):
【化3】

(式中、*1は不斉炭素を表す。)で表されるピロリジン誘導体に下記式(4):
【化4】

(式中、Yは脱離基を表す。)で表されるジヒドロベンゾフラン体を作用させて得られたものである請求項1〜6のいずれかに記載の製造法。
【請求項8】
次のi)〜iii)を順次行うことを特徴とする請求項7に記載の製造法。
i)遊離のピロリジン誘導体(3)、塩基及び有機溶媒を混合する。
ii)i)で得られた混合物を加温する。
ii)ジヒドロベンゾフラン体(4)を逐次添加する。
【請求項9】
ジヒドロベンゾフラン体(4)の添加時間が1時間以上である請求項8に記載の製造法。
【請求項10】
ジヒドロベンゾフラン体(4)の添加温度が30℃以上である請求項8または9に記載の製造法。
【請求項11】
ジヒドロベンゾフラン体(4)を添加した後、10時間以上反応を行う請求項7〜10のいずれかに記載の製造法。