説明

1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの製造方法

【課題】工業規模でl,4,7,10−テトラアザシクロドデカンを製造するために実施可能な方法を提供する。
【解決手段】ベンジルアジリジンの環状四量体化による1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(シクレン)の製造方法であって、ベンジルエタノールアミンを現場で硫酸と反応させることによりベンジルアジリジンを形成し、ベンジルアジリジンを単離することなく、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸又は硫酸より選ばれる、0.25〜0.35モルの強酸の存在下においてテトラベンジルシクレンに四量体化し、そして水素化によってベンジル基を除去することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(シクレン)及びその誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(シクレン)は、広い用途があり、大環状配位子としても、同じく、例えば、ガドブトロール(INN)、ガドベナート(INN)又はガドテリドール(INN)などの、医薬で利用される種々な金属含有錯体を製造するときの遊離体としても使用される。
【0003】
1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンは、ふつう2個の直鎖式前駆物質を環状縮合させ、数段階の合成経路をへて製造される(J.Chem.Rev.1989,929;The Chemistry of Macrocyclic Ligand Complexes,Cambridge UniversityPress,Cambridge,U.K.1989)。この方法の欠点は、合成段階の数が多く、総合収率が悪く、そして合成の間に生成する無機塩の廃物量が多いことにある。
【0004】
1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンを製造するために、原理的に簡単らしく見える方法として、N−置換アジリジンの環状四量体化がある。文献には、この反応を種々に変形した方法が記載されている。このとき先ず最初にベンジルエタノールアミンから、相当するN−置換のアジリジンが製造され、そして分離される。引き続いてアジリジンを、例えば、p−TsOHなどのブレンステッド酸(J.HeterocyclicChem.1968,305)、又はトリアルキルアルミニウムのようなルイス酸(米国特許US 3,828,023)、又はBF3−エーテラート(Tetra-hedron Letters,1968,305)の存在下において、僅かな収率ながら環状四量体化する。この方法は、わずか少量の物質(<5g)を製造するために実施されるにもかかわらず、最初の出版物が発行されてから16年間も技術の水準を保っている(国際特許WO 95/31444)。
【0005】
従来から記録された環状四量体化の反応には、すべて純粋なアジリジンを使用する必要があるが、この物質にはよく知られるように強い突然変異誘発性と発がん性がある(Roth,Giftliste,VCH Weinheim)。この理由により、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンを製造するために最も簡単のようにみえるアジリジンの環状四量体化に関して、技術規模で実施できる方法を、とうてい見出し得るものではない。従って、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンを製造するために、技術的に実施でき、環境負荷が少なく、広い範囲で危険のない方法に関して、多大な関心が寄せられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、この発明の課題は、工業規模でl,4,7,10−テトラアザシクロドデカンを製造するために実施可能な方法を提供し、上述の欠点を克服し、そして特に突然変異誘発性と発がん性を示すアジリジン中間工程に人々が曝される危険性を、回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、特許請求の範囲に特徴づけられるような発明による方法によって解決される。ここではアジリジンのベンジル誘導体を環状四量体化することによってシクレン誘導体を製造する方法を扱うが、その特徴は、アジリジンのベンジル誘導体を、その場で製造し、分離すること無しに、強酸を添加して、シクレンのテトラベンジル誘導体に至るまで四量体化して、引き続きベンジル基を、水素化によって除去することにある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
この発明の範囲では、シクレン誘導体の定義は、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン、並びに、エチレン架橋が、アルキル置換基であるような誘導体も包含する。従ってシクレン誘導体の概念には、例えば、化合物〔2S−(2α,5α,8α,11α)〕−2,5,8,11−テトラメチル−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン 及び 〔2S−(2α,5α,8α,11α)〕−2,5,8,11−テトラエチル−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンも包含される。
【0009】
同じように本発明の範囲では、cyclenのテトラベンジル誘導体の概念には、1,4,7,10−テトラベンジル−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン、並びに、エチレン架橋が、アルキル置換基であるような誘導体も包含される。この発明の範囲におけるアジリジンのベンジル誘導体の概念には、ベンジルアジリジン、並びに、アジリジン環に、アルキル置換基がみられるような誘導体が包含される。従って、ベンジルアジリジン誘導体の概念には、例えば、化合物(S)−1−ベンジル−2−メチル−アジリジン及び(S)−1−ベンジル−2−エチル−アジリジンも含まれる。
【0010】
従って本発明は、相当する遊離体を四量体化することによって、所望により置換された1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン誘導体を製造する方法に関する。本発明は、好ましくは、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの製造に関する。
【0011】
本発明の方法の好ましい実施形態は、容易に得られるベンジルエタノールアミンから出発して、有機溶媒(例えば、トルエン、シクロヘキサン、ヘプタンなど、濃度:10〜20%)の中で1〜1.4当量の濃硫酸を加えて加熱(80〜150℃、好ましくは90〜110℃)して、ここに生成する水を共沸蒸留によって相当する硫酸エステルへ移す。ここでの反応時間は2〜10時間である。エステルに2〜5当量のカセイアルカリ水溶液(例えば、NaOH、KOH)を加えて加熱し、ここに生成するベンジルアジリジンを、第1反応容器と共に閉じた系を形成する第2反応容器の中で、水と連続的に共沸蒸留する。このようにして生成した水性のベンジルアジリジン−エマルションを、有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、THF)で希釈して、モル当たりのベンジルアジリジンに、少なくとも0.25〜0.4モル(好ましくは0.25〜0.35モル)(すなわち生成物に関して当量に当たる量)の強酸を連続添加すると、驚くべきことにテトラベンジル化したシクレンのできる反応が完全に進行する。有機溶媒として、例えば、エタノール、メタノール又はテトラヒドロフラン(THF)を使用することができる。強酸として、例えば、p−トルエンスルホン酸(p−TsOH)、メタンスルホン酸(MsOH)、硫酸又はBF3−エーテラートを使用することができる。生成物を得るには、この反応混合物を、アルカリ処理(0.2〜0.5当量の塩基、例えば、NaOH、KOH)した後に、極性溶媒(例えば、THF、エタノール、アセトン、イソプロパノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、フラン、ジオキサン、水又はこれらの混合物)から結晶として取り出し、引き続いて有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、THF)の中で触媒(Pd/C、テトラベンジル化したシクレン誘導体に関して5〜20%の量、圧力1〜20bar)の力を借りて水素化する。触媒を濾過して溶媒を蒸留すると、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンが、総合理論収率45〜60%の収量で得られる。
【0012】
この合成と同様にして、例えば、L−2−ベンジルアミノプロパノール又はL−2−ベンジルアミノブタノールなどのアルキル置換ベンジルエタノールアミンを使用してもシクレン誘導体を得ることができるが、これらには、エチレン架橋に枝分れがある。これらの合成における好ましい実施形態によると、上述の合成プロセスと同様にしてL−2−ベンジルアミノプロパノールから(S)−1−ベンジル−2−メチル−アジリジンが製造され、これを分離しないで四量体化によって〔2S−(2α,5α,8α,11α)〕−2,5,8,11−テトラメチル−1,4,7,10−テトラアザ(ベンジル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンに変化させ、水素化によって〔2S−(2α,5α,8α,11α)〕−2,5,8,11−テトラメチル−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンが得られる。
【0013】
アジリジンのベンジル誘導体を環状四量体化する本発明の方法が、現在知られている技術水準による方法と区別される点は、アジリジンを純粋な形で分離する必要がないことである。記載の処理方法によると閉じた系でプロセスを進めることが可能なために、人類と環境を、発がん性のアジリジンに曝す危険性から回避できる。
【0014】
技術水準として知られるベンジルアジリジンを、環状四量体化する方法とは対照的に、酸(p−TsOH、MsOH、硫酸、BF3エーテラート又はトリアルキルアルミニウム)の触媒量に代えて、化学量論量(1モルのベンジルアジリジンについて0.25〜0.35モル)が使用される。今までに知られた方法の規模を拡大して、その方法によって、より大量の1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの製造を試みる場合に、触媒量のp−TsOHを、その場で製造されるベンジルアジリジン−エマルションの反応に使用しても理論収率の12〜25%に達するに過ぎない。驚くべきことに、今や発見されたことは、60〜78℃において6〜9時間の間に0.25〜0.35当量(ベンジルアジリジンに関する)のp−TsOHを、共沸蒸留したベンジルアジリジン−エマルションに連続添加することにより、1,4,7,10−テトラベンジル−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカンの収率が改良され、理論値の60〜65%にも達することである。
【0015】
公知の方法と比較して、この方法が示すその他の長所は、全体の収率が高く、廃物量(アジリジン製造における硫酸ナトリウム及び水素化におけるトルエン)がより少なくなることにある。
【実施例】
【0016】
実施例1
トルエン690mlに溶かしたベンジルエタノールアミン95mlの溶液に濃硫酸53mlを加える。生成した懸濁液を、2時間、沸騰するまで加熱する。ここで生成する水(14ml)を、水分離器を補助にして分離する。20℃まで冷却してから、反応混合物を1300mlの水と混合し、10分間、十分な攪拌を行って、有機物相を分離する。引き続いて、この水相を、第2反応容器に入れた水95mlとNaOH92.2gの溶液に円滑に注ぐ。反応混合物を、沸騰するまで加熱する。蒸留ブリッジを通して第3反応容器内で、水−N−ベンジルアジリジン−エマルション880gを蒸留する。このエマルションに、エタノール880mlを加えて60℃まで加熱する。この中に水19mlに溶かしたp−TsOH38.0gの溶液を、8時間かけて計量ポンプを通して添加する。添加を終了した後で、還流のもとに2時間煮沸する。引き続いて反応混合物を、NaOH12.0gと水20mlの溶液と混合する。沈澱した生成物を、濾過して、2:1のエタノール−THFの混合液600mlから再結晶する。このようにして得られたテトラベンジル化したシクレン(53g)を、イソプロパノール500mlに溶かし、10gのPd/C(10%)を使用して80℃で、20barの水素圧のもとに水素化する。触媒を濾過した後に、反応溶液を、蒸発濃縮し、そして生成物を、トルエンから再結晶する。シクレン15.9g(理論値の55%)が、無色の結晶として得られる。融点:110〜112℃。
【0017】
実施例2
ベンジルエタノールアミン95mlを、実施例1に記載したように硫酸と、引き続いてNaOHと反応させる。ここに得られた水性のN−ベンジルアジリジン−エマルションを、エタノール2.6Lと混合して、50℃まで加熱する。これに水15mlに溶かしたp−TsOH29.3gの溶液を、8時間かけて計量ポンプを通して添加する。添加を終了した後で、還流のもとに2時間煮沸する。引き続いて反応混合物を、NaOH9.5gと水20mlの溶液と混合する。沈澱した生成物を、濾過して、2:1のエタノール−THFの混合液600mlから再結晶する。このようにして得られたテトラベンジル化したシクレン(55.7g)を、イソプロパノール500mlに溶かし、10gのPd/C(10%)を使用して80℃で、20barの水素圧のもとに水素化する。触媒を濾過した後に、反応溶液を、蒸発濃縮し、生成物を、トルエンから再結晶する。シクレン15.9g(理論値の58%)が、無色の結晶として得られる。融点:111〜113℃。
【0018】
実施例3
実施例1と同じようにして、四量体化だけを、0.33当量のメタンスルホン酸を用いて行う。シクレンの収率:52%、融点:110〜112℃。
【0019】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンジルアジリジンの環状四量体化による1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(シクレン)の製造方法であって、ベンジルエタノールアミンを現場で硫酸と反応させることによりベンジルアジリジンを形成し、ベンジルアジリジンを単離することなく、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸又は硫酸より選ばれる、0.25〜0.35モルの強酸の存在下においてテトラベンジルシクレンに四量体化し、そして水素化によってベンジル基を除去することを含む方法。

【公開番号】特開2009−185077(P2009−185077A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127490(P2009−127490)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【分割の表示】特願平9−530592の分割
【原出願日】平成9年2月26日(1997.2.26)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)