説明

2−(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体の製造方法

【課題】2-メトキシイミノ-2-[2-(クロロメチル)フェニル]酢酸誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】下式Iで表される2-(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体を、下式IIで表される化合物のエーテル結合を開裂することによって製造する方法であって、塩化水素および不活性溶媒の存在下で反応を行うこと、ならびに反応混合物に、鉄、インジウムならびにそのハロゲン化物、酸化物およびトリフラートからなる群から選択される触媒を添加することにより製造する。


(式中、Xは、C1-C4-アルコキシまたはメチルアミノ、Rは、C1-C4-アルキル、C1-C4-アルコキシ、C1-C2-ハロアルキル、C1-C4-アルキルカルボニル、C1-C4-アルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、ニトロまたはシアノである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式I
【化1】

【0002】
(式中、Xは、C1-C4-アルコキシまたはメチルアミノである)
で表される2-(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体を、
式II
【化2】

【0003】
(式中、Rは、C1-C4-アルキル、C1-C4-アルコキシ、C1-C2-ハロアルキル、C1-C4-アルキルカルボニル、C1-C4-アルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、ニトロまたはシアノであり、Xは、上記に定義したとおりである)
で表される化合物のエーテル開裂によって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
J. Chem. Research (S) 232-3 (1985)およびJ. Org. Chem. 64, 4545 (1981)には、シリカに担持させた特定のルイス酸、例えばヨウ化ナトリウム/三フッ化ホウ素または塩化鉄(III)の存在下で、ベンジルエーテルを開裂させる方法が開示されている。ルイス酸は、化学量論量よりも多い量で使用されるので、この方法は経済的ではない。
【0005】
Synlett (10), 1575-6 (1999)には、インジウムおよび塩化アンモニウム水溶液の存在下で、4-ニトロベンジルエーテルを開裂する方法が記載されている。インジウムは、開裂されるエーテルを基準として8当量を超える過剰量で使用されている。
【0006】
式Iで表される2-(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体を、適切なベンジルエーテルIIの開裂によって製造する方法は、国際公開WO-A 97/21686号に記載されている。この方法には、ベンジルエーテルIIを、2モル当量以上の過剰量の三塩化ボロンと混合することが含まれる。
【0007】
従来の方法では、化学量論量よりも多いルイス酸が使用されている。使用されるルイス酸の取扱いはさらに問題が多く、その大部分はかなり腐食性である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、上記のような欠点なしで、式Iで表される2-(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体をベンジルエーテルから高収率かつ高選択的に触媒を用いて製造する方法を提供することである。また、ベンジルエーテルIIを高い選択性で、すなわち標的の化合物I中のメトキシイミノフェニルグリオキシル酸単位が保持された状態で開裂することにも留意しなければならない。
【0009】
本発明者らは、上記目的が、塩化水素および不活性溶媒の存在下でエーテル開裂を行い、反応混合物に、鉄、インジウムならびにそのハロゲン化物、酸化物およびトリフラートからなる群から選択される触媒を添加することによって達成されることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
塩化水素は、一般的に、気体状態で反応混合物中に導入される。しかしながら、塩化水素を凝縮させることも可能である。一般に、塩化水素は、ベンジルエーテルに対して1〜25モル当量、好ましくは1〜10モル当量、より好ましくは3〜5モル当量で使用される。
【0011】
有用な触媒としては、鉄、インジウムならびにそのハロゲン化物、酸化物およびトリフラートからなる群から選択されるルイス酸が挙げられる。好ましい触媒は、鉄およびインジウム(III)の塩化物であり、特に、酸化鉄(III)および塩化鉄(III)である。触媒は、0.001〜0.5モル当量、好ましくは0.01〜0.2モル当量の濃度で使用される。
【0012】
有用な溶媒としては、芳香族(ハロゲン化)炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼンおよびベンゾトリフルオリド; 脂肪族(ハロゲン化)炭化水素、例えばペンタン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンおよび四塩化炭素; 脂環式炭化水素、例えばシクロヘキサンおよびシクロペンタン; エーテル類、例えばジメトキシエタン、ジエチルエーテルおよびジ-イソプロピルエーテル; ならびにエステル類、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒の混合物も使用可能である。
【0013】
好ましい溶媒は、芳香族(ハロゲン化)炭化水素および脂肪族(ハロゲン化)炭化水素である。
【0014】
ルイス塩基、例えばピリジン、N,N-ジメチルアニリンまたはエタンチオール、および/またはさらなる助剤、例えば塩化トリメチルシリルを反応混合物に加えることが都合がよい場合がある。
【0015】
二相系で、相間移動触媒、例えばテトラブチルアンモニウムクロリド、テトラヘキシルアンモニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリドまたはトリフェニルベンジルアンモニウムクロリドの存在下にて行うことも都合がよい場合がある。
【0016】
反応温度は、通常、0〜100℃、好ましくは30〜70℃である。反応圧力は、通常、0〜6バールである。好ましくは、大気圧下で反応を行う。
【0017】
保護ガス雰囲気下でエーテル開裂を行うことも都合がよい。
【0018】
エーテル開裂に有用な出発物質としては、最初に述べたベンジルエーテルIIが挙げられる。それらは文献記載の方法によって入手可能である(欧州特許出願公開第253 213号、欧州特許出願公開第254 426号、欧州特許出願公開第398 692号または欧州特許出願公開第477 631号)。特に、現在市販されている作物保護剤、例えば2-メトキシイミノ-2-[(2-メチルフェニルオキシメチル)フェニル]酢酸メチル(Kresoxim-methyl、欧州特許出願公開第253 213号)が好適である。
【0019】
エーテル開裂後、一般に、抽出により反応混合物を後処理する。例えば、塩酸などの鉱酸水溶液を用いて抽出することによって、触媒不純物を除去することができる。フェノール開裂生成物は、有利には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いて抽出することによって除去することができる。
【0020】
得られた2-(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体は、さらに直接処理してもよく、不活性溶媒に溶解してもよく、または溶媒を留去した後の溶融物としてもよい。
【0021】
メタノール、エタノール、n-ブタノールもしくはその混合物またはアルコールとジメチルホルムアミドとの混合物中で再結晶化を行うことにより粗生成物をさらに精製することができる。粗生成物は、溶融結晶化によって精製することもできる。
【実施例】
【0022】
製法例
実施例1
7.5g(24mmol)のkresoxim-methylを150mlのクロロベンゼンに溶解した。次いで、0.32g(2.4mmol)の塩化鉄(III)を加え、50℃に加熱している段階中、1時間以内に2.6g(72mmol)の塩化水素をガス状で加えた。反応混合物を撹拌しながら50℃にさらに2時間保持し、次いで、HPLCによって転化率を監視した。反応終了後、反応溶液を冷却し、10mlのメタノールと混合した。反応混合物を、まず塩酸で抽出し、次いで水酸化ナトリウムで抽出した。有機相を中性になるまで洗浄し、次いで溶媒を除去した。2-メトキシイミノ-2-[(2-クロロメチル)フェニル]酢酸メチルの収率は75%であった。
【0023】
実施例2
7.5g(24mmol)のkresoxim-methylを150 mlのトルエンに溶解した。次いで、0.53g(2.4mmol)の塩化インジウム(III)を加え、40℃に加熱している段階中、1時間以内に2.6g(72mmol)の塩化水素をガス状で加えた。反応混合物を撹拌しながら40℃にさらに4時間保持し、次いで実施例1と同様にして後処理した。2-メトキシイミノ-2-[(2-クロロメチル)フェニル]酢酸メチルの収率は80%であった。
【0024】
実施例3
実施例1のエーテル開裂を、150mlの1,2-ジクロロエタン中で繰り返した。100℃に加熱している段階中、1時間以内に4.1g(112mmol)の塩化水素をガス状で加えた。反応混合物を100℃にさらに5時間保持した。生成物の収率は80%であった。
【0025】
比較例4
7.5g(24mmol)のkresoxim-methylを、150mlのトルエンに溶解した。次いで、0.32g(2.4mmol)の塩化アルミニウムを加え、100℃に加熱している段階中、1時間以内に2.6g(72mmol)の塩化水素をガス状で加えた。反応混合物を撹拌しながら100℃にさらに2時間保持し、次いで実施例1と同様にして後処理した。生成物の収率は30%であった。
【0026】
比較例5
7.5g(24mmol)のkresoxim-methylを150mlの1,2-ジクロロエタンに溶解した。次いで、0.63g(2.4mmol)の四塩化スズを加え、85℃に加熱している段階中、1時間以内に2.6g(72mmol)の塩化水素をガス状で加えた。反応混合物を撹拌しながら85℃にさらに4時間保持し、次いで実施例1と同様にして後処理した。生成物の収率は30%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

(式中、Xは、C1-C4-アルコキシまたはメチルアミノである)
で表される2-(クロロメチル)フェニル酢酸誘導体を、
式II
【化2】

(式中、Rは、C1-C4-アルキル、C1-C4-アルコキシ、C1-C2-ハロアルキル、C1-C4-アルキルカルボニル、C1-C4-アルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、ニトロまたはシアノであり、Xは、上記に定義したとおりである)
で表される化合物のエーテル開裂によって製造する方法であって、
塩化水素および不活性溶媒の存在下で反応を行い、反応混合物に、鉄、鉄ハロゲン化物、鉄酸化物、鉄トリフラート、インジウム、インジウムハロゲン化物、インジウム酸化物、およびインジウムトリフラートからなる群から選択される触媒を添加することを含む、
上記方法。
【請求項2】
使用される触媒が塩化鉄(III)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1モル当量の式IIで表される化合物に対して、触媒を、0.001〜0.5モル当量の濃度で使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1モル当量の式IIで表される化合物に対して、1〜25モル当量の塩化水素を使用する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
使用される不活性溶媒が、ハロゲン化されていてもよい芳香族または脂肪族の炭化水素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−31027(P2010−31027A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224405(P2009−224405)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【分割の表示】特願2003−571244(P2003−571244)の分割
【原出願日】平成15年2月6日(2003.2.6)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】