説明

2−18F−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(18F−FDG)−溶液を得るための方法

【課題】オートクレーブ処理でき、一方で依然として作成8時間後の放射化学的純度が95%より高いという規格に適合する、18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液を提供すること。
【解決手段】本発明は、放射線分解の低減やオートクレーブ処理能力など、18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液の1またはそれ以上の物理的/化学的特徴を改良する方法に関する。その方法は、a)18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液の用意、および、b)弱酸をベースとする少なくとも1種の緩衝剤の18F−フルオロ−2−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液への添加、の各段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的/化学的特徴(即ち、放射化学的安定性)が改良された2−[18
]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(本明細書で18F−フルオロ−デオキシ−
グルコースまたは18F−FDGとも記載される)−溶液を得るための方法、およびかく
して得られる(滅菌)18F−FDG−溶液に関する。
【0002】
近年、核医学の分野において、化合物18F−FDGは、心臓学および神経学における
重要な使用の他に、従来の手段では検出不可能な癌組織を検出する能力、または該疾患の
誤診を訂正する能力を示してきた。これは、細胞が悪性化するときに細胞内で生じる根本
的変化を利用するためである;癌細胞はグルコースを効率的にエネルギーに変換する能力
を失う。結果的に、それらは、20ないし50倍までもの、より多くのグルコースを必要
とする。
【0003】
18F−FDGは、通常、十分に自動化された合成機の補助により調製される。この化
合物は患者に注射される必要があるので、この化合物を含有する溶液は、注射前に滅菌さ
れることが必要である。しかしながら、この化合物の放射化学的純度は、標準的なオート
クレーブ処理段階の間に激烈に低下し、かくしてこの化合物は、欧州および米国薬局方に
より命じられる規格に適合しなくなる。加えて、放射性同位元素の放射線分解および半減
期の両方のために、18F−FDGは、合成後、急速に放射化学的純度を失う。このこと
は、この化合物を使用できる期間を限定している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、オートクレーブ処理でき、一方で依然として作成8時間後の放射化学
的純度が95%より高いという規格に適合する、18F−フルオロ−デオキシ−グルコー
ス(FDG)−溶液を提供することである。加えて、合成後、溶液中の18F−FDGの
放射線分解の影響を低減させることも本発明の目的である。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液の物理的/化学的特徴の1つまたはそれ以上の改良法であって、
a)18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液を用意すること、および、
b)弱酸をベースとする少なくとも1種の緩衝剤を18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液に添加すること、
の各段階を含む方法。
(項目2)
改良された物理的/化学的特徴が18F−FDG−溶液のオートクレーブ処理される能力であり、かくして該溶液を医学的適用に適するようにする、項目1に記載の方法。
(項目3)
改良された物理的/化学的特徴が、18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液の放射線分解の低減である、項目1に記載の方法。
(項目4)
弱酸をベースとする緩衝剤が、クエン酸塩、酢酸塩、アスコルビン酸塩およびこれらの組合せからなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目5)
クエン酸塩緩衝剤のpHが5.5より低く、好ましくはpH2ないし5.5である、請求項4に記載の方法。
(項目6)
酢酸塩緩衝剤のpHが3.0ないし5.5である、項目4に記載の方法。
(項目7)
アスコルビン酸塩緩衝剤のpHが3.0ないし5.5である、項目4に記載の方法。
(項目8)
110℃ないし145℃の温度で18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液をオートクレーブ処理することによる、滅菌18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液の調製方法。
(項目9)
130℃ないし140℃の温度で18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液をオートクレーブ処理することによる、滅菌18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液の調製方法。
(項目10)
134℃の温度で18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液をオートクレーブ処理することによる、滅菌18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液の調製方法。
(項目11)
該オートクレーブ処理プロセスが1ないし30分間実施される、項目8に記載の方法。
(項目12)
該オートクレーブ処理プロセスが1ないし10分間実施される、項目8に記載の方法。
(項目13)
該オートクレーブ処理プロセスが2ないし5分間実施される、項目8に記載の方法。
(項目14)
項目1の方法によって得られる、物理的/化学的特徴が改良された18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液。
(項目15)
項目8の方法によって得られる、滅菌フルデオキシグルコース(FDG)−溶液。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明に至る研究において、18F−FDG−溶液を緩衝することが、物理的/化学的
特徴(即ち、放射化学的安定性)に強い効果があることが判明した。驚くべきことに、弱
酸をベースとする緩衝剤が、18F−FDG−溶液の物理的/化学的特徴(即ち、放射化
学的安定性)を、この溶液をオートクレーブ処理して、少なくとも95%の放射化学的純
度を維持することを可能にする程度まで、改良することが判明した。
【0006】
本発明によると、このことは、以下の各段階を含む方法により達成される:
a)18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(18F−FDG)−溶液を用意すること
、および、
b)弱酸をベースとする少なくとも1種の緩衝剤を18F−FDG−溶液に添加すること

弱酸緩衝剤は、生理的に許容し得るものであるべきであり、好ましくは、クエン酸塩緩
衝剤、酢酸塩緩衝剤、アスコルビン酸塩緩衝剤またはこれらの緩衝剤の組合せである。
【0007】
18F−FDG−溶液の物理的/化学的特徴の改良は、クエン酸塩緩衝剤のpHが5.5より低い、特に2ないし5.5のときに得られる。酢酸塩緩衝剤については、これらの特徴は、3.0ないし5.5のpH価で得られる。アスコルビン酸塩緩衝剤は、酢酸塩緩衝剤と同様のpH範囲である3.0ないし5.5で使用される。
【0008】
18F−FDG−溶液のオートクレーブ処理は、110℃ないし150℃、好ましくは
130℃ないし140℃、より好ましくは134℃の温度で実施する。これらの温度は、
18F放射性同位元素の安定性と半減期を考慮して最適であることが判明した。18F−
FDG−溶液のオートクレーブ処理プロセスは、1ないし30分間、好ましくは1ないし
10分間、より好ましくは2ないし5分間実施する。これらの範囲は、109.8分間と
いう比較的短い18F放射性同位元素の半減期を考慮して最適化された。
【0009】
続く実施例で本発明をさらに明らかにする。それは、例示説明目的のみのために与えら
れ、本発明の範囲を限定していない。
【実施例】
【0010】
実施例
実施例1
pH範囲4.5ないし5.5での18F−FDG−溶液のオートクレーブ処理
本実施例では、塩水中の非緩衝溶液と比較して、弱酸で緩衝された18F−フルオロ−
デオキシ−グルコース(FDG)−溶液の放射化学的純度を研究するために、3回の試験
を実施した。
【0011】
作成後すぐに、18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液を、ART(活性参照時(Activity Reference Time))(t=0)の放射能濃度3mCi/mlに、塩水で希釈する。作成2時間後、18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液0.5mlを有する容器を調製し、緩衝剤(10mM)0.1mlと混合し、オートクレーブ処理した。
表1は、様々に緩衝された18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液の、134℃で5分間オートクレーブ処理した後の放射化学的純度を示す。測定は、オートクレーブ処理後すぐに、KAVO SterimasterTM を使用して実行した。
【0012】
表1
pH範囲4.5ないし5.5での18F−FDG−溶液のオートクレーブ処理
【表1】

【0013】
試験した全緩衝剤は、非緩衝参照サンプルであるNaCl/pH6.2よりも高い放射
化学的純度をもたらした。最良の結果をもたらした緩衝剤は、pH4.5のクエン酸塩緩
衝剤である。オートクレーブ処理しなかったサンプルと比較して、3回の実験のうち1回
のみが1%の放射化学的純度の低下を示した(試験1)。
【0014】
低pH範囲(pH2−3)での18F−FDG−溶液のオートクレーブ処理
本実施例では、弱酸でpH2−3に緩衝された18F−フルオロ−デオキシ−グルコー
ス(FDG)−溶液の放射化学的純度を研究するために、2回の試験を実施した。
【0015】
作成後すぐに、18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液を、ART
(12:00時)の放射能濃度3mCi/mlに、塩水で希釈する。作成2時間後、18
F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液0.5mlを有する容器を調製し
、緩衝剤(100mM)0.1mlと混合し、オートクレーブ処理した。
表2は、様々に緩衝された18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液
の、134℃で5分間オートクレーブ処理した後の放射化学的純度を示す。
【0016】
表2
低pH範囲(pH2−3)での18F−FDG−溶液のオートクレーブ処理
【表2】

【0017】
試験した3種全部の緩衝剤は、非緩衝参照サンプルであるNaCl/pH6.2よりも
高い放射化学的純度をもたらした。参照サンプル(放射化学的純度が9%低下)と比較し
て、弱酸で緩衝されたサンプルについて、ほんの2−3%の放射化学的純度の低下が観察
された。全緩衝剤(アスコルビン酸塩、クエン酸塩および酢酸塩)について、非オートク
レーブ処理サンプル(表1)と比較して、有意な放射化学的純度の低下は測定されなかっ
た。
【0018】
実施例3
18F−FDGの放射線分解
18F−FDGの放射線分解を約8.5時間にわたり測定した。放射能濃度は、ART
(t=0)で3mCi/mlであった。
2つの緩衝剤を試験し、0.9%NaCl/pH6.9中の参照サンプルと比較した。第1の緩衝剤は、クエン酸塩緩衝剤pH4.5であり、第2の緩衝剤は、アスコルビン酸塩緩衝剤pH4.5であった。期間中に、サンプルの放射化学的純度の測定を5回実行した。結果を表3に示す。
【0019】
表3
18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液の放射線分解
【表3】

【0020】
試験した両緩衝剤中の放射線分解は、0.9%NaClサンプルと比較して低減した。
アスコルビン酸塩緩衝剤を使用したときに最大の放射線分解の低減が観察された。8.5
時間後に、ほんの2%の活性の低減が観察された。この低減は、クエン酸塩緩衝剤および
0.9%NaClでは、各々4%および6%であった。結論として、18F−FDGは、
アスコルビン酸塩またはクエン酸塩緩衝剤の添加後、これらの緩衝剤を添加しないときよ
りも安定である。
【0021】
実施例4
18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液のオートクレーブ処理と放射
線分解
サンプルをオートクレーブ処理した後、18F−FDGの放射線分解を約7.5時間にわたり測定した。2つの緩衝剤を試験し、0.9%NaCl/pH6.9中の参照サンプルと比較した。第1は、クエン酸塩緩衝剤pH4.5であり、第2は、アスコルビン酸塩緩衝剤pH4.5であった。期間中に、サンプルの放射化学的純度の測定を3回実行した。結果を表4に示す。
【0022】
表4
18F−フルオロ−デオキシ−グルコース(FDG)−溶液のオートクレーブ処理と放射
線分解
【表4】

【0023】
弱酸緩衝剤の添加後、18F−FDGはオートクレーブ処理条件下で安定である。この
緩衝剤を添加しないと、サンプルの放射化学的純度は、90%未満に劇的に低下する。ク
エン酸塩緩衝剤は、アスコルビン酸塩と比較して、より良好な18F−FDG−溶液の安
定性をもたらす。さらに、試験した両緩衝剤中のオートクレーブ処理後の放射線分解は、
NaClサンプルと比較して低減した。アスコルビン酸塩緩衝剤を使用したときに最大の
放射線分解の低減が観察された。7.5時間後に、ほんの1%の活性の低減が観察された
。この低減は、クエン酸塩緩衝剤およびNaClサンプルでは、各々2%および3%であ
った。結論として、18F−FDG−溶液は、アスコルビン酸塩またはクエン酸塩緩衝剤
の添加後に、オートクレーブ処理中にこれらの緩衝剤が存在しないときよりも安定である
。オートクレーブ処理後、両緩衝剤中で、18F−FDG−溶液の放射線分解は低減した


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【公開番号】特開2010−248244(P2010−248244A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171216(P2010−171216)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【分割の表示】特願2003−587417(P2003−587417)の分割
【原出願日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【出願人】(595181003)マリンクロッド・インコーポレイテッド (203)
【氏名又は名称原語表記】Mallinckrodt INC.
【Fターム(参考)】