説明

3−アミノチオフェン誘導体の製造方法

【課題】農薬中間体として有用な3−アミノチオフェン誘導体を工業的に安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を塩基性条件下で加水分解して一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の塩に誘導する。得られた一般式(2)の化合物を酸性条件下で脱炭酸反応を行って一般式(3)で表される3−アミノチオフェンの塩に誘導後、中和により一般式(4)の3−アミノチオフェン誘導体を製造する方法であって、各工程の中間体と生成物の分解を抑制することで、収率を向上させることができる。


[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属を表し、HXは酸を表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農園芸用殺菌剤、またはその中間体として有用な3−アミノチオフェン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平9−235282号公報(欧州特許公開公報0737682A1)には、種々の植物病害に対して強力な防除効果を有するある種の2−アルキル−3−アミノチオフェン誘導体とその製造法が記載されている。
【0003】
上記化合物の有用な中間体である3−アミノチオフェンの製造方法として種々の方法が知られている。例えば、特公昭44−12895号公報にはテトラヒドロチオフェン−3−オンとヒドロキシルアミンを反応させることで3−(ヒドロキシイミノ)テトラヒドロチオフェンを合成し、酸処理により芳香族化を行って3−アミノチオフェンを合成する方法が記載されている(化1)。
【0004】
【化1】

【0005】
また、Journal of Heterocyclic Chemistry,10(6),1067−1068(1973)では、3−チオフェンカルボキサミドの転位反応により3−アミノチオフェンを合成する方法が記載されている(化2)。
【0006】
【化2】

【0007】
しかし、これら文献に記載の方法では原料や中間体の物理化学的性情や反応制御の観点から化学工学的安全性の確保が難しく、工業化に際して問題がある。
また、特開平1−128980号公報では、3−ブロモチオフェンを3−フタルイミドに誘導後、脱保護して3−アミノチオフェンを製造する方法が知られている(化3)。
【0008】
【化3】

【0009】
しかし、本文献に記載の方法でもフタルイミドに起因する大量の廃棄物や銅廃棄物が出るため、工業化に際して望ましくない。
Synthetic Communications,25(23),3729−3734(1995)では、工業的に安価に入手可能な3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を出発原料として、加水分解反応により得られた3−アミノチオフェン−2−カルボン酸誘導体に変換後、無水シュウ酸により脱炭酸反応を行い、3-アミノチオフェン誘導体を得ている(化4)。
【0010】
【化4】

【0011】
[式中、Rは置換されていてもよいアルキル基を表す]
本法は工業的にも応用可能な製造法であるが、3−アミノチオフェンの収率が60%前後であることから経済性の観点から満足のいくものではない。また、中間体である3−アミノチオフェン−2−カルボン酸は容易に脱炭酸反応が起こり、3−アミノチオフェンを生成する。生成物である3−アミノチオフェンは、取り扱い方法に注意を払わないと容易に分解する不安定な物質であることが知られている。このように本方法では不安定な中間体や生成物を取り扱うために、収率の低下やばらつきが起こりやすく、工業的な安定生産に際して問題がある。
【0012】
上記同様に、3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を原料として3−アミノチオフェンを製造する方法が、WO2005−040110号公報、US6492383号公報、Tetrahedron Letters,46,109−112(2005)に記載されているが、3−アミノチオフェンの収率が29−56%であり、満足のいくものではない。Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,14,21−24(2004)では、Scheme2に3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチルを原料として、3−アミノチオフェンが85%の収率で得られることが記載されているが、詳細な実験方法は記載されておらず、参考文献として引用されているUS6492383号公報では、収率は40%と記載されている。
【0013】
すなわち、これまで3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を原料として、エステルの加水分解反応と続く脱炭酸反応で3−アミノチオフェンを製造する方法において、工業生産の観点から、高収率で安定的に製造可能な方法は知られていない。
【特許文献1】特開平9−235282号公報(欧州特許公開公報0737682A1)
【特許文献2】特公昭44−12895号公報
【特許文献3】特開平1−128980号公報
【特許文献4】WO2005−040110号公報
【特許文献5】US6492383号公報
【非特許文献1】Journal of Heterocyclic Chemistry,10(6),1067−1068(1973)
【非特許文献2】Synthetic Communications,25(23),3729−3734(1995)
【非特許文献3】Tetrahedron Letters,46,109−112(2005)
【非特許文献4】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,14,21−24(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、工業的に入手可能な3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を原料として、農薬中間体として有用な3−アミノチオフェン誘導体を工業的に安価、かつ安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記の課題を解決するために、3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を原料として3−アミノチオフェン誘導体を製造する方法を鋭意検討し、中間体である3−アミノチオフェン−2−カルボン酸とその塩、生成物である3−アミノチオフェンとその塩の分解を抑制することが可能な方法を見出し、製造方法に応用することで、農薬中間体として有用な工業化可能な3−アミノチオフェン誘導体の安価な製造方法として本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は次の[1]〜[8]に関する。
[1] 一般式(1)(化5)
【0017】
【化5】

【0018】
[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基を表す]で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体の加水分解により、一般式(2)(化6)
【0019】
【化6】

【0020】
[式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属を表す]で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩を製造し、酸性条件下で脱炭酸反応を行って、一般式(3)(化7)
【0021】
【化7】

【0022】
[式中、HXは酸を表す]で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩を製造後、中和により式(4)(化8)
【0023】
【化8】

【0024】
の3−アミノチオフェンを製造する方法において、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩または中和により得られる式(5)(化9)
【0025】
【化9】

【0026】
の3−アミノチオフェン−2−カルボン酸を単離することなく、脱炭酸反応を行うことを特徴とする一般式(4)で表される3−アミノチオフェンの製造方法。
【0027】
[2] 一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩の中和方法が、一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩の水溶液をアルカリ性水溶液と有機溶媒の二相系溶液に添加することを特徴とする一般式(4)で表される3−アミノチオフェンを製造する[1]記載の方法。
【0028】
[3] 一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩の脱炭酸反応を行う際に、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩の水溶液を酸性水溶液と有機溶媒の二相系溶液に添加して一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩を製造することを特徴とする[1]または[2]記載の方法。
[4] 一般式(1)中、Rが炭素数1〜12のアルキル基である[1]〜[3]の何れか一項記載の方法。
[5] 一般式(1)中、Rがメチル基、エチル基である[4]記載の方法。
[6] 一般式(2)中、Mがアルカリ金属である[1]〜[5]の何れか一項記載の方法。
[7] 一般式(2)中、Mがナトリウム(Na)である[6]記載の方法。
[8] 一般式(3)中、HXが塩化水素(HCl)である[1]〜[7]の何れか一項記載の方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、中間体と生成物の分解を抑制可能な方法を見出し、製造法に応用することで、工業的に入手可能な3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を原料として、農薬中間体として有用な3−アミノチオフェン誘導体を工業的に応用可能な方法で安価、かつ安定的に製造することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明における3−アミノチオフェンの製造方法は、一般式(1)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体を加水分解し、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩に誘導後、酸性条件下で脱炭酸反応を行い、得られた一般式(3)で表される3−アミノチオフェンの塩の中和により、式(4)で表される3−アミノチオフェンを製造する際に、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩、または中和により得られる式(5)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸を単離することなく、脱炭酸反応を行うことを特徴とする3−アミノチオフェンの製造方法である。(化10)
【0031】
【化10】

【0032】
[Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属を表し、HXは酸を表す]で表される。
一般式(1)で表される化合物において、下記に限定されるものではないが、Rの代表的な例として以下のものが挙げられる。
【0033】
即ち、炭素数1〜12のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基等を例示することができる。
【0034】
Rで表される炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基は置換されていてもよく、その場合、炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基の置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基またはイソブチル基等のアルキル基、ビニル基またはプロペニル基等のアルケニル基、エチニル基またはプロピニル基等のアルキニル基、トリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基、メトキシ基またはエトキシ基等のアルコキシ基、トリフルオロメトキシ基またはジフルオロメトキシ基等のハロゲン置換アルコキシ基、メチルチオ基またはエチルチオ基等のアルキルチオ基、フェニル基、ナフチル基、フラン、チオフェン、オキサゾール、ピロール、1H−ピラゾール、3H−ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、イソチアゾール、テトラヒドロフラン、ピリジン等のヘテロ環、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子等のハロゲン原子をそれぞれ例示することができる。
【0035】
一般式(2)で表される化合物において、Mで表される金属の例を挙げる。下記に限定されるものではないが、アルカリ金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等を、アルカリ土類金属の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等をそれぞれ例示することができる。
【0036】
一般式(3)で表される化合物中のHX、または脱炭酸反応で使用するHXで表される酸の例を挙げる。下記に限定されるものではないが、代表例として、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シアノ酢酸、安息香酸、クエン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0037】
一般式(1)で表される化合物の加水分解反応について、下記に限定されるものではないが、例を挙げて説明する。
【0038】
反応に使用される塩基としては、下記に限定されるものではないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられ、これら塩基の混合物も使用可能である。反応に使用される塩基の量は、目的とする反応が進行する限りにおいて限定されるものではないが、通常、一般式(1)で表される化合物に対して1.0〜20.0当量である。
【0039】
反応に使用される溶媒として、下記に限定されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられ、単独でも混合でも使用可能である。溶媒の使用量は、特に限定されることはないが、通常、一般式(1)で表される化合物の重量に対して、1倍以上40倍以下の重量が好ましい。
【0040】
上記反応の反応温度および反応時間は広範囲に変化させることができる。一般的には、反応温度は目的とする反応が進行し、原料、中間体、生成物が分解しなければ、特に制限を設けるものではないが、0〜100℃が好ましく、反応時間は目的とする反応が進行すれば特に制限を設けるものではないが、好ましくは0.1〜50時間である。
【0041】
尚、上記加水分解反応における種々の条件、すなわち、塩基の種類及びその使用量、溶媒の種類及びその使用量、反応温度、反応時間の各々の条件を適宜相互に選択し、組み合わせることができる。
【0042】
前述の通り、従来技術では加水分解反応終了後、生成物である式(5)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸を単離し、次操作の脱炭酸反応を実施している。一般に、3−アミノチオフェン−2−カルボン酸は容易に脱炭酸反応を起こすことが知られており、生成物である式(4)で表される3−アミノチオフェンは不安定な物質であることことから、単離操作における収率の低下やばらつきが起こりやすく好ましくない。
【0043】
一方、3−アミノチオフェン−2−カルボン酸誘導体の安定性試験の結果、これら化合物は塩の状態であれば安定であることが判明した。一般式(1)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体の加水分解反応で得られる3−アミノチオフェン−2−カルボン酸は、反応液中においては一般式(2)で表される塩の状態で存在していることから、本反応液を中和して式(5)で表されるカルボン酸の単離を行わず、反応液を脱炭酸反応が起こりうるpHまで酸性化し、脱炭酸反応を行うことで式(5)で表されるカルボン酸の単離に伴う収率低下を回避することを可能にし、収率の向上を達成した。
【0044】
式(5)または一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸またはその金属塩の脱炭酸反応について、上記加水分解反応により得られる反応液を用いた方法について、下記に限定されるものではないが、例を挙げて説明する。
【0045】
反応に使用される酸としては、下記に限定されるものではないが、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シアノ酢酸、安息香酸、クエン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、これら酸の混合物も使用可能である。反応に使用される酸の量は、目的とする反応が進行し、原料、中間体、生成物が分解しなければ限定されるものではないが、通常、式(5)または一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸またはその金属塩に対して1.0〜20.0当量である。
【0046】
反応に使用される溶媒として、下記に限定されるものではないが、例を挙げる。本反応は、前段の加水分解反応の反応液を原料として使用するため、溶媒には加水分解反応で使用した、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等、およびこれらの混合溶媒が使用され、さらに、MIBK(4−メチル−2−ペンタノン)等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒等を加えて、混合して使用することもできる。溶媒の使用量は、特に限定されることはないが、通常、式(5)または一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸またはその金属塩の重量に対して、1倍以上40倍以下の重量が好ましい。
【0047】
反応条件下における3−アミノチオフェンの安定性試験の結果、本化合物はpH4付近の弱酸性領域で最も安定性が低く、強酸性やアルカリ性の領域では安定であることがわかった。3−アミノチオフェンを取り扱う際は、本化合物が不安定な弱酸性の状態をできるだけ回避し、強酸性或いはアルカリ性にて取り扱うことが収率低下や反応成績のばらつきを抑制する上で重要である。
【0048】
脱炭酸反応はpH5程度の弱酸性で反応が開始することから、強アルカリ性である加水分解で生じた3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩に酸を加えて反応を行う場合は、生成した3−アミノチオフェンが不安定な弱酸性状態に存在する危険性が高く、酸性溶液に加水分解反応液を加えて反応した場合の方が生成する3−アミノチオフェンが不安定なpHに存在する危険性を回避することができる為、反応収率の向上に寄与できることを見出した。具体的には、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩の脱炭酸反応を行う際に、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩の水溶液を酸性水溶液と有機溶媒の二相系溶液に添加して一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩を製造する。
【0049】
脱炭酸反応の反応温度および反応時間は広範囲に変化させることができる。一般的には、反応温度は目的とする反応が進行し、原料、中間体、生成物が分解しなければ、特に制限を設けるものではないが、−10〜100℃が好ましく、0〜30℃が更に好ましい。反応時間は目的とする反応が進行すれば特に制限を設けるものではないが、好ましくは0.1〜50時間である。
【0050】
また、脱炭酸反応で生成する3−アミノチオフェンは反応液中に塩の状態で存在する。生成した一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸により形成される塩の水溶液をアルカリ性にpH調整して、有機溶媒中に式(4)で表される3−アミノチオフェンとして抽出する。前記pH調整の際に、強酸性の3−アミノチオフェンと酸により形成される塩を含む反応液にアルカリ性の水溶液を添加してpHを調整する場合と比較して、アルカリ性の水溶液と有機溶媒との混合溶媒系(ニ相系溶媒)に強酸性の3−アミノチオフェンの塩を含む反応液を加えてpH調整をする場合の方が、3−アミノチオフェンが不安定なpHに滞留する危険性を減ずることができ、反応収率の向上に寄与できることを見出した。
【0051】
pH調整に用いる塩基は、下記に限定されるものではないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられ、これら塩基の混合物も使用可能である。pH調整時の温度は、生成物が分解しなければ特に制限を設けるものではないが、−10〜30℃が好ましい。
【0052】
使用される溶媒として、下記に限定されるものではないが、例えば、MIBK等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒等が例示できる。溶媒の使用量は、特に限定されることはないが、通常、一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸により形成される塩の重量に対して、1倍以上40倍以下の重量が好ましい。
【0053】
尚、上記脱炭酸反応および後処理における種々の条件、すなわち、反応に用いる酸の種類およびその使用量、後処理に用いるアルカリの種類及びその使用量、溶媒の種類及びその使用量、反応温度、反応時間等の各々の条件を適宜相互に選択し、組み合わせることができる。
【0054】
また、得られる3−アミノチオフェンの溶液は、溶媒を適宜選択することで別の反応にそのまま使用可能であるが、安定な形態として酸との塩により単離することも可能である。
【0055】
塩として単離する際に用いられる酸は、下記に限定されるものではないが代表的な例として、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、トリフルオロ酢酸、シアノ酢酸、安息香酸、4−シアノ安息香酸、2−クロロ安息香酸、2−ニトロ安息香酸、クエン酸、フマル酸、マロン酸、シュウ酸、マレイン酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸等の有機酸等が挙げられる。3−アミノチオフェンと塩を形成する際の酸の使用量については、特に制限は無いが、一価の酸については一般式(4)で表される3−アミノチオフェン誘導体に対して1.0モル当量以上が好ましく、多価の酸については一般式(4)で表される3−アミノチオフェン誘導体と塩を形成する理論当量以上が好ましい。塩を形成する際の温度は−20〜100℃が好ましく、より好ましくは−10〜30℃である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例および試験例で本説明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチルを原料とした3−アミノチオフェンの合成法
【0058】
【化11】

【0059】
48%水酸化ナトリウム水溶液(16.48g,0.20mol)を水(51.90g)で希釈した後に、室温で3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチル(98.70%,30.00g,0.19mol)を加え、60℃で3時間反応させた。反応液を25℃まで冷却した後に、原料夾雑物由来の不溶物を濾過、水(9.77g)で洗浄した。得られた濾洗液にトルエン(148.05g)を加えた。窒素気流下で反応液温を25℃に保ちながら36%塩酸水(44.83g,0.44mol)を滴下した。滴下終了後、反応液は酸性状態となり、25℃で3時間反応させた。反応液を5℃以下に冷却し、窒素雰囲気下で分液した。有機層に−5℃に冷却した25%水酸化ナトリウム(40.69g,0.25mol)を加え、得られた二層系溶液に攪拌下で水層を滴下してアルカリ性とした。有機層を分離後、水層にトルエン(148.05g)を加えて抽出し、得られた有機層と先の有機層を混合し、目的とする3−アミノチオフェンのトルエン溶液(301.62g,3−アミノチオフェン濃度:6.03wt%,含量:18.19g,収率:96.56%)。
【0060】
〔実施例2〕3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチルを原料とした3−アミノチオフェンの合成法
【0061】
【化12】

【0062】
32%水酸化ナトリウム水溶液(64.13g,0.51mol)を水(204.50g)で希釈した後に、室温で3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチル(94.87%,68.00g,0.41mol)を加え、70℃で3時間反応させた。反応液を25℃まで冷却した後に、MIBK(267.08g)を加えた。窒素気流下で反応液温を25℃に保ちながら35%塩酸水(98.09g,0.94mol)を滴下した。滴下終了後、反応液は酸性状態となり、25℃で5時間反応させた。反応液を5℃以下に冷却し、窒素雰囲気下で32%水酸化ナトリウム水溶液(68.74g,0.55mol)を加え、アルカリ性とした。有機層を分離後、水層にMIBK(267.12g)を加えて、窒素気流下で抽出し、得られた有機層と先の有機層を混合し、目的とする3−アミノチオフェンのMIBK溶液(556.40g,3−アミノチオフェン濃度:6.73wt%,含量:37.47g,収率:92.15%)。
【0063】
〔実施例3〕3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチルを原料とした3−アミノチオフェンの合成法
【0064】
【化13】

【0065】
32%水酸化ナトリウム水溶液(77.50g,0.62mol)を水(246.14g)で希釈した後に、室温で3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチル(97.06%,80.00g,0.49mol)を加え、70℃で3時間反応させた。反応液を25℃まで冷却した後に、MIBK(321.46g)を加えた。窒素気流下で反応液温を25℃に保ちながら36%塩酸水(118.07g,1.17mol)を滴下した。滴下終了後、反応液は酸性状態となり、25℃で5時間反応させた。反応液を−5℃以下に冷却し、窒素雰囲気下で分液した。有機層に−25℃に冷却した25%水酸化ナトリウム(105.91g,0.66mol)を加え、得られた二層系溶液に攪拌下で水層を滴下してアルカリ性とした。有機層を分離後、水層にMIBK(321.46g)を加えて、窒素気流下、−5℃で抽出し、得られた有機層と先の有機層を混合し、目的とする3−アミノチオフェンのMIBK溶液(705.74g,3−アミノチオフェン濃度:6.62wt%,含量:46.72g,収率:96.16%)。
【0066】
〔実施例4〕3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチルを原料とした3−アミノチオフェンの合成法
【0067】
【化14】

【0068】
32%水酸化ナトリウム水溶液(73.75g,0.59mol)を水(85.23g)で希釈した後に、室温で3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチル(97.01%,78.00g,0.48mol)を加え、60℃で3時間反応させた。反応液を25℃まで冷却した後に、不溶物を濾過により除き、水(25.11g)で洗浄した。得られた濾液を、MIBK(328.73g)と36%塩酸水(108.36g,1.07mol)の二層系溶液に窒素気流下で25℃で滴下した。滴下終了後、反応液は酸性状態となり、25℃で2時間反応させた。反応液を5℃以下に冷却し、窒素雰囲気下で32%水酸化ナトリウム水溶液(81.25g,0.65mol)を加え、アルカリ性とした。有機層を分離後、水層にMIBK(312.12g)を加えて、窒素気流下で抽出し、得られた有機層と先の有機層を混合し、目的とする3−アミノチオフェンのMIBK溶液(652.98g,3−アミノチオフェン濃度:6.87wt%,含量:44.86g,収率:94.25%)。
【0069】
〔実施例5〕3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチルを原料とした3−アミノチオフェンの合成法
【0070】
【化15】

【0071】
32%水酸化ナトリウム水溶液(77.14g,0.62mol)を水(86.92g)で希釈した後に、室温で3−アミノチオフェン−2−カルボン酸メチル(97.01%,80.00g,0.49mol)を加え、60℃で3時間反応させた。反応液を25℃まで冷却した後に、不溶物を濾過により除き、水(25.61g)で洗浄した。得られた濾液を、MIBK(310.43g)と36%塩酸水(110.01g,1.09mol)の二層系溶液に窒素気流下で25℃で滴下した。滴下終了後、反応液は酸性状態となり、25℃で2時間反応させた。反応液を−5℃以下に冷却し、窒素雰囲気下で分液した。有機層に−25℃に冷却した25%水酸化ナトリウム(106.64g,0.67mol)を加え、得られた二層系溶液に攪拌下で水層を滴下してアルカリ性とした。有機層を分離後、水層にMIBK(310.43g)を加えて、窒素気流下で−5℃で抽出し、得られた有機層と先の有機層を混合し、目的とする3−アミノチオフェンのMIBK溶液(671.99g,3−アミノチオフェン濃度:7.04wt%,含量:47.30g,収率:97.35%)。
【0072】
〔実施例6〕3−アミノチオフェンベンゼンスルホン酸塩の合成法
【0073】
【化16】

【0074】
実施例5と同様の方法で得られた3−アミノチオフェンのMIBK溶液(300.00g,3−アミノチオフェン濃度:6.80wt%,含量:20.10g,202.72mmol)を窒素置換後、60℃、60mmHgで減圧脱水した。得られたMIBK溶液を0℃に冷却後、攪拌下でベンゼンスルホン酸一水和物(98%,40.09g,222.99mmol)を徐々に加え、0℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾過し、MIBK(40.20g)で洗浄し、減圧下で乾燥することで目的とする3−アミノチオフェンベンゼンスルホン酸塩を薄黄色結晶として得た(51.38g,収率97.60%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)(化1)
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基を表す]で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸エステル誘導体の加水分解により、一般式(2)(化2)
【化2】

[式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属を表す]で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩を製造し、酸性条件下で脱炭酸反応を行って、一般式(3)(化3)
【化3】

[式中、HXは酸を表す]で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩を製造後、中和により式(4)(化4)
【化4】

の3−アミノチオフェンを製造する方法であって、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩または中和により得られる式(5)(化5)
【化5】

の3−アミノチオフェン−2−カルボン酸を単離することなく、脱炭酸反応を行うことを特徴とする一般式(4)で表される3−アミノチオフェンの製造方法。
【請求項2】
一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩の中和方法が、一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩の水溶液をアルカリ性水溶液と有機溶媒の二相系溶液に添加することを特徴とする一般式(4)で表される3−アミノチオフェンを製造する請求項1記載の方法。
【請求項3】
一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩の脱炭酸反応を行う際に、一般式(2)で表される3−アミノチオフェン−2−カルボン酸の金属塩の水溶液を酸性水溶液と有機溶媒の二相系溶液に添加して一般式(3)で表される3−アミノチオフェンと酸より形成される塩を製造することを特徴とする請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
一般式(1)中、Rが炭素数1〜12のアルキル基である請求項1〜請求項3の何れか一項記載の方法。
【請求項5】
一般式(1)中、Rがメチル基、エチル基である請求項4記載の方法。
【請求項6】
一般式(2)中、Mがアルカリ金属である請求項1〜請求項5の何れか一項記載の方法。
【請求項7】
一般式(2)中、Mがナトリウム(Na)である請求項6記載の方法。
【請求項8】
一般式(3)中、HXが塩化水素(HCl)である請求項1〜請求項7の何れか一項記載の方法。

【公開番号】特開2010−143826(P2010−143826A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104715(P2007−104715)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】