説明

3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩の製造方法

【課題】導電性ポリマーのモノマー原料として有用な、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を安全且つ効率よく、更には環境にも考慮した工業的に有利に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】安価・容易に入手可能なハロゲノ酢酸エステルから臭気の強い中間物質であるチオジグリコール酸ジエステルを単離することなく、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価・容易に入手可能なハロゲノ酢酸エステルから臭気の強い中間物質であるチオジグリコール酸ジエステルを単離することなく3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩は、導電性ポリマーのモノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェンの有用原料であることが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
従来、例えば3,4−ジヒドロキシ−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステルの合成法としてチオジグリコール酸ジメチルエステルとシュウ酸ジメチルをナトリウムメトキシド存在下、メタノール中で反応させる方法が知られている(非特許文献1)。また3,4−ジヒドロキシ−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステルの合成法としてチオジグリコール酸ジエチルエステルとシュウ酸ジメチルをナトリウムエトキシド存在下、エタノール中で反応させる方法が知られている(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、上記の方法ではいずれも強い不快臭を有するチオジグリコール酸ジメチルエステルまたはチオジグリコール酸ジエチルエステルを出発物質として使用していることから、大量生産を行う際には環境上の問題を生じる可能性がある。また、臭気を抑える為に設備を導入または使用すると余分なエネルギーを使用することから昨今の環境問題を考慮すると好ましくない。
【0005】
従って、従来の3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルの製造方法は、工業的に必ずしも最適な方法とは言えない。
【特許文献1】特開2002−193972号公報
【特許文献2】米国特許7202369 B2号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー (Journal of the American Chemical Society)、第67巻、1945年、P.2217〜2218.
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー (Journal of the American Chemical Society)、第73巻、1951年、P.2956〜2957.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を安全且つ効率よく、更には環境にも考慮した工業的に有利に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を重ねた結果、安価・容易に入手可能なハロゲノ酢酸エステルから臭気の強い中間物質であるチオジグリコール酸ジエステルを単離することなく3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を製造することに成功し、本発明を完成した。
【0008】
本発明に係わる3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩の製造法は、
項1. 工程(a):一般式(1);
【0009】
【化1】

(式中、Aはハロゲン原子、Bは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表されるハロゲノ酢酸エステルと硫黄導入剤を反応させることを特徴とする一般式(2);
【0010】
【化2】

(式中、Bは前記と同様である。)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを得る工程、
工程(b):前記の一般式(2)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを塩基の存在下、一般式(3);
【0011】
【化3】

(式中、Bは前記と同様である。)で表されるシュウ酸ジエステルを塩基の存在下反応させることを特徴とする一般式(4);
【0012】
【化4】

(式中、Bは前記と同様、Mは水素またはアルカリ金属を表す。)3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を得る工程、
を含む、一般式(4)で表される3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩の製造方法において、一般式(2)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを単離しない製造方法。
項2. ハロゲノ酢酸エステルがクロロ酢酸メチルエステル、クロロ酢酸エチルエステル、ブロモ酢酸メチルエステル、およびブロモ酢酸エチルエステルからなる群より選ばれた項1.に記載の製造方法。
項3. シュウ酸ジエステルがシュウ酸ジメチルエステルまたはシュウ酸ジエチルエステルであることを特徴とする項1.または2.のいずれかに記載の製造方法。
項4. アルカリ金属がナトリウム、およびカリウムからなる群より選ばれた項1.〜3.のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を安全且つ効率よく、更には環境にも考慮した工業的に有利に製造する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
【0015】
上記一般式(1)で表される、ハロゲノ酢酸エステルはいかなる方法により製造されたものを使用しても問題ない。
【0016】
まず、一般式中(1)〜(4)に記載されているA、B、およびMについて説明する。
【0017】
上記一般式(1)においてAで表されるハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、好ましくは塩素、臭素が挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)〜(4)においてBで表される炭素数1〜10の単価水素基としては、直鎖状もでも、分岐状でも、環状でもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、n−ヘプチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−フェニルメチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基が挙げられ、これらの中でメチル基、エチル基がより好ましい。
【0019】
一般式(4)においてMで表されるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、これらの中でナトリウム、カリウムがより好ましい。
【0020】
工程(a)で使用する硫黄導入剤としては、反応が進行すれば特に制限は無いが、好適な具体例としては硫化水素、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化セシウム、硫化カルシウム、硫化マグネシウム、硫化バリウム、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化セシウム、水硫化カルシウム、水硫化マグネシウム、水硫化バリウムが挙げられ、これらの中で硫化水素、硫化ナトリウム、硫化カリウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウムがより好ましい。上記の硫黄導入剤は無水物でも水和物でも問題は無い。当該硫黄導入剤の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1モルに対して0.5〜1.0モルが好ましく、0.5〜0.7モルがより好ましい。
【0021】
工程(a)では、必要に応じて塩基を添加して反応を行うが、反応を阻害しなければ特に制限はない。好適な具体例として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどの水酸化アルカリ金属、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどの水酸化アルカリ土類金属、メトキシナトリウム、メトキシカリウム、エトキシナトリウム、エトキシカリウム、t−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウムなどのアルコキシアルカリ金属が挙げられ、これらの中で水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メトキシナトリウム、エトキシナトリウムがより好ましい。当該塩基を添加する場合の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エチル1モルに対して0.5〜1.0モルが好ましく、0.5〜0.7モルがより好ましい。
【0022】
工程(a)で使用する反応溶媒は反応を阻害しなければ特に制限は無い。好適な具体例としては水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチルプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒が挙げられるが、後処理を考慮すると水がより好ましい。当該溶媒の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1gに対して0.5mL〜10mL程度が好ましく、1mL〜5mL程度がより好ましい。
【0023】
工程(a)の反応温度は、0℃〜120℃が好ましく、さらに好ましくは20℃〜100℃である。反応終了後、反応溶媒に水を用いた場合は水層と一般式(2)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを含む油層に分離するので、その油層のみを工程(b)で使用する反応器に移送した後に工程(b)を行う。反応溶媒に水以外の溶媒を用いた場合は、反応溶媒を濃縮して水を加える、または反応終了後に水を加えることで水層と一般式(2)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを含む油層に分離させて同様の操作を行う。この際、加える水の量は分液すれば特に制限はないが、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1gに対して0.5mL〜150mL程度が好ましく、1mL〜30mL程度がより好ましい。
【0024】
工程(b)で使用するシュウ酸ジエステルは特に制限は無いが、シュウ酸ジメチルエステルまたはシュウ酸ジエチルエステルが好ましい。当該シュウ酸ジエステルの使用量は一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1モルに対して0.4モル〜1.5モルが好ましく、0.5モル〜1.0モルがより好ましい。
【0025】
工程(b)で使用する塩基は特に制限は無いが、好適な具体例としてメトキシナトリウム、メトキシカリウム、エトキシナトリウム、エトキシカリウム、t−ブトキシナトリウム、t−ブトキシカリウムなどのアルコキシアルカリ金属が挙げられ、これらの中でメトキシナトリウム、エトキシナトリウムが好ましい。当該塩基の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1モルに対して0.8モル〜3.0モルが好ましく、1.0モル〜2.0モルがより好ましい。
【0026】
工程(b)で使用する反応溶媒は反応を阻害しなければ特に制限は無い。好適な具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチルプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒が挙げられ、これらの中でメタノール、エタノールがより好ましい。当該溶媒の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1gに1mL〜20mLが好ましく2mL〜10mLがより好ましい。
【0027】
工程(b)の反応温度は、0℃〜120℃が好ましく、さらに好ましくは20℃〜100℃である。反応終了後、晶析物をろ取、次いで減圧乾燥することで一般式(4)で表される3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルの塩(Mは、アルカリ金属)が得られ、酸を用いて中和、次いで抽出、晶析、カラム精製などの定法を行うことで3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルが得られる。中和に使用する酸は中和できれば特に制限はないが、好適な具体例としてフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、燐酸、ホウ酸、アジ化水素、炭酸、硫化水素などの無機酸およびそれらの水溶液、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸などが挙げられる。当該酸の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲノ酢酸エステル1モルに対して0.8モル〜20.0モルが好ましく、1.0モル〜10.0モルがより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例なんら限定されるものではない。
【0029】
実施例1 3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩
【化5】

100mLフラスコにクロロ酢酸メチルエステル(12g、11.1mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、25mLの水に溶解した60%硫化ナトリウム(8.63g、6.6mmol)40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(9.70g、6.6mmol)加えた(調製液)。
別の100mLフラスコにメトキシナトリウム(6.87g、12.7mmol)、メタノール(36mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を行った。1時間後、室温まで冷却した後に水(18mL)を添加し更に10℃以下まで冷却し1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取しメタノールでケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩が収量23.8g、収率78%で薄黄色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, D2O) d 3.61 (s, 6H).
IR (KBr): 1643, 1533, 1520, 1439, 1348, 1234, 1179, 1065, 770 cm-1.
【0030】
実施例2 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル
【化6】

500mLフラスコにクロロ酢酸メチルエステル(60g、55.5mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、125mLの水に溶解した60%硫化ナトリウム(43.2g、33.0mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(48.5g、33.0mmol)加えた(調製液)。
別の500mLフラスコにメトキシナトリウム(34.4g、63.5mmol)、メタノール(180mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を1時間行った。その後、メタノールを濃縮した後に水180mLを加え35%塩酸水溶液(115.0g、110.5mmol)を加え、10℃以下で1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取し水でケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステルが収量95.1g、収率74%で白色結晶として得られた。
【0031】
実施例3 3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩
【化7】

200mLフラスコにクロロ酢酸メチルエステル(18g、16.7mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、36mLの水に溶解した60%硫化ナトリウム(12.9g、9.9mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジメチルエステル(11.75g、9.9mmol)加えた(調製液)。
別の200mLフラスコにメトキシナトリウム(10.30g、19.1mmol)、メタノール(54mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を行った。1時間後、室温まで冷却した後に水(27mL)を添加し更に10℃以下まで冷却し1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取しメタノールでケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩が収量28.8g、収率63%で薄黄色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, D2O) d 3.61 (s, 6H).
IR (KBr): 1643, 1533, 1520, 1439, 1348, 1234, 1179, 1065, 770 cm-1.
【0032】
実施例4 3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステル−ジナトリウム塩
【化8】

50mLフラスコにブロモ酢酸エチルエステル(5g、3.0mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、7.5mLの水に溶解した60%硫化ナトリウム(2.33g、1.8mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(2.63g、1.8mmol)加えた(調製液)。
別の500mLフラスコにエトキシナトリウム(2.45g、3.6mmol)、エタノール(15mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を行った。1時間後、室温まで冷却した後に水(9mL)を添加し更に10℃以下まで冷却し1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取しエタノールでケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステル−ジナトリウム塩が収量7.2g、収率81%で薄黄色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, D2O) d 4.07 (q, J= 6.4 Hz, 4H), 1.14 (t, J = 6.4 Hz, 6H).
IR (KBr): 1663, 1635, 1537, 1520, 1371, 1341, 1233, 1177, 1067, 767 cm-1.
【0033】
実施例5 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル
【化9】

100mLフラスコにブロモ酢酸メチルエステル(10g、6.5mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、15mLの水に溶解した硫化カリウム(4.32g、3.9mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(5.73g、3.9mmol)加えた(調製液)。
別の100mLフラスコにメトキシナトリウム(4.24g、7.8mmol)、メタノール(30mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を1時間行った。その後、メタノールを濃縮した後に水36mLを加え35%塩酸水溶液(13.6g、13.1mmol)を加え、10℃以下で1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取し水でケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステルが収量15.2g、収率84%で白色結晶として得られた。
【0034】
実施例6 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩
【化10】

100mLフラスコにクロロ酢酸メチルエステル(10g、9.2mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、15mLの水に溶解した70%水硫化ナトリウム(4.42g、5.5mmol)および水酸化ナトリウム(2.21g、5.5mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(5.25g、5.5mmol)加えた(調製液)。
別の100mLフラスコにメトキシナトリウム(5.97g、11.1mmol)、メタノール(25mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を1時間行った。室温まで冷却した後に水(10mL)を添加し更に10℃以下まで冷却し1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取しメタノールでケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩が収量19.6g、収率77%で薄黄色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, D2O) d 3.61 (s, 6H).
IR (KBr): 1643, 1533, 1520, 1439, 1348, 1234, 1179, 1065, 770 cm-1.
【0035】
実施例7 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジカリウム塩
【化11】

100mLフラスコにクロロ酢酸メチルエステル(10g、9.2mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、15mLの水に溶解した水硫化カリウム(3.10g、5.5mmol)および水酸化カリウム(3.98g、5.5mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、30℃まで冷却し水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(5.25g、5.5mmol)加えた(調製液)。
別の100mLフラスコにメトキシナトリウム(5.97g、11.1mmol)、メタノール(25mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を1時間行った。室温まで冷却した後に水(10mL)を添加し更に10℃以下まで冷却し1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取しメタノールでケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル−ジナトリウム塩が収量17.6g、収率69%で薄黄色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, D2O) d 3.60 (s, 6H).
IR (KBr): 1644, 1529, 1523, 1448, 1350, 1233, 1179, 1065, 770 cm-1.
【0036】
実施例8 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル
【化12】

100mLフラスコにクロロ酢酸メチルエステル(10g、9.2mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、25mLのメタノールに懸濁した70%水硫化ナトリウム(4.42g、5.5mmol)およびメトキシナトリウム(2.99g、5.5mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、メタノールを濃縮し水(25mL)を加えると分液した。水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(5.25g、5.5mmol)加えた(調製液)。
別の100mLフラスコにメトキシナトリウム(5.97g、11.1mmol)、メタノール(30mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を1時間行った。その後、メタノールを濃縮した後に水36mLを加え35%塩酸水溶液(19.19g、18.4mmol)を加え、10℃以下で1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取し水でケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジメチルエステルが収量16.5g、収率77%で白色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 9.29 (s, 2H), 3.91 (s, 6H).
【0037】
実施例9 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステル
【化13】

100mLフラスコにクロロ酢酸エチルエステル(10g、8.2mmol)を仕込み50℃まで加熱した。その中に、25mLのエタノールに懸濁した70%水硫化ナトリウム(3.92g、4.9mmol)およびエトキシナトリウム(3.33g、4.9mmol)を40〜55℃で滴下し1時間反応させた。反応終了後、エタノールを濃縮し水(25mL)を加えると分液した。水層(上層)を分液除去した油層(下層)にシュウ酸ジエチルエステル(7.15g、4.9mmol)加えた(調製液)。
別の100mLフラスコにエトキシナトリウム(6.66g、9.8mmol)、エタノール(30mL)を仕込み10℃以下で先に調製した調製液を滴下してその後還流反応を1時間行った。その後、メタノールを濃縮した後に水36mLを加え35%塩酸水溶液(17.1g、16.4mmol)を加え、10℃以下で1時間攪拌した(スラリー状態)。結晶をろ取し水でケーキ洗浄行った後に減圧乾燥することで3,4−ジヒドロキシ−チオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステルが収量15.5g、収率73%で白色結晶として得られた。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 9.34 (s, 2H), 4.37 (q, J = 6.8 Hz, 4H), 1.37 (t, J= 6.8 Hz, 6H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) d 165.71, 151.76, 107.26, 61.83, 14.15.
IR (KBr): 3312, 1688, 1665, 1514, 1373, 1317, 1215, 1018, 773 cm-1.


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(a):一般式(1);
【化1】

(式中、Aはハロゲン原子、Bは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)で表されるハロゲノ酢酸エステルと硫黄導入剤を反応させることを特徴とする一般式(2);
【化2】

(式中、Bは前記と同様である。)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを得る工程、
工程(b):前記の一般式(2)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを塩基の存在下、一般式(3);
【化3】

(式中、Bは前記と同様である。)で表されるシュウ酸ジエステルを塩基の存在下反応させることを特徴とする一般式(4);
【化4】

(式中、Bは前記と同様、Mは水素またはアルカリ金属を表す。)3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩を得る工程、
を含む、一般式(4)で表される3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルおよびその塩の製造方法において、一般式(2)で表されるチオジグリコール酸ジエステルを単離しない製造方法。
【請求項2】
ハロゲノ酢酸エステルが、クロロ酢酸メチルエステル、クロロ酢酸エチルエステル、ブロモ酢酸メチルエステルおよびブロモ酢酸エチルエステルからなる群より選ばれた請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
シュウ酸ジエステルが、シュウ酸ジメチルエステルまたはシュウ酸ジエチルエステルであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属が、ナトリウム、およびカリウムからなる群より選ばれた請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。