説明

4’−(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル−4−イルカルボン酸及びその製造方法

【課題】 ビシクロヘキシル骨格の4位および4’位に異なった置換基を有する化合物を容易に製造することを可能とするトランス、トランス-4'-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸を提供し、併せて当該化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】 一般式(2)
【化1】


で表されるトランス、トランス-4'-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸を提供し、併せてトランス、トランス-4', 4-ビシクロヘキシルジカルボン酸ジメチルエステルを加水分解することによるトランス、トランス-4'-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸の効率的な製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶材料や医薬品化合物を製造する上で有用な中間体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル誘導体は、シクロヘキサン環の両側に非対称の置換基を導入した化合物の製造中間体として有用であり、液晶化合物、医薬品等の製造に応用されている特許文献1及び2参照)。
【0003】
【化1】

(式中、A及びBは任意の置換基を表す。)特に液晶化合物の製造においては、非対称の化合物が液晶化合物としての物性が優れることから有用性が高く、当該化合物に関しての応用例が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、シクロヘキサン骨格に替えてビシクロヘキシル骨格を有する次式
【0004】
【化2】

で表されるモノエステル誘導体は報告が無い。この化合物は以下の式で示すようにビシクロヘキシル骨格の4位及び4’位に異なった置換基を有する化合物を製造するために使用できる可能性を有している
【0005】
【化3】

(式中、A及びBは任意の置換基を表す。)しかし、シクロヘキサン環とビシクロヘキシル骨格は構造的に見ればシクロヘキサン環が一つ多いのみであるが化学的性状においては大きな差を有する。そのため、シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル誘導体の有する非対称化合物製造に関する知見を持って、ビシクロヘキシル骨格を有する化合物に置換したとしても同等の効果を発現する保証は無いため当該化合物の液晶材料や医薬品化合物製造への応用が遅れていた。
以上より、液晶化合物の製造中間体として有用なビシクロヘキシル骨格を有する非対称モノエステル誘導体の開発が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開平01‐299258号公報
【特許文献2】国際公開2006/123725号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ビシクロヘキシル骨格を有する非対称モノエステル誘導体を提供し、併せて当該化合物の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、一般式(2)
【0009】
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で表されるトランス、トランス-4’-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸を提供し、併せて一般式(1)
【0010】
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で表されるトランス、トランス-4', 4-ビシクロヘキシルジカルボン酸ジエステルの片方のアルコキシカルボニル基を加水分解することによるトランス、トランス-4'-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本願発明のトランス、トランス-4’-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸は、非対称骨格を有するビシクロヘキサン誘導体の効率的な製造に有用であり、該骨格を有する医薬品、液晶化合物の製造に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
一般式(1)及び一般式(2)においてRは炭素数1〜12のアルキル基を表すが、炭素数1〜8のアルキル基を表すことが好ましく、具体的には−CH3、−CH2CH3、−(CH2)2CH3、−(CH2)3CH3、−(CH2)4CH3、−(CH2)5CH3、−(CH2)6CH3又は−(CH2)7CH3を表すことがより好ましい。
【0013】
一般式(1)で表されるジエステルを加水分解する方法としては、アルカリ金属塩を用いてプロトン性溶媒中で反応をおこなうことが好ましい。アルカリ金属塩としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。
【0014】
用いる溶媒は、反応溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、プロトン性溶媒、エーテル系溶媒もしくは極性溶媒等を好ましく用いることができる。プロトン性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、水等を、エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル及びt-ブチルメチルエーテル等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド及びスルホラン等を好例として挙げることができる。中でも、メタノール、エタノール等のプロトン性溶媒及びテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒がより好ましい。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
一般式(2)で表される化合物の内特に好ましい化合物として次に示す化合物を挙げることができる。
【0015】
【化6】

【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等により確認した。
(実施例) トランス、トランス-4'-(メトキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸の製造
【0017】
【化7】

トランス、トランス-4', 4-ビシクロヘキシルジカルボン酸ジメチルエステル(15.8g)のメタノール(46mL)/テトラヒドロフラン(46mL)溶液に、15℃で20%水酸化ナトリウム水溶液(11.7mL)を滴下した。25℃で2時間攪拌した後、10%塩酸でPH=3にし、溶媒を留去して析出した固体をろ取した。固体をジクロロメタンで分散洗浄し、洗浄液を濃縮、再結晶することにより、トランス、トランス-4'-(メトキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸(7.35g)を無色透明の結晶(融点204-207℃)として得た。
【0018】
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)
δ: 0.95 1.13 (m, 6 H), 1.33 1.45 (m, 4 H), 1.79 (bs, 4H), 2.01 (t, J = 13.6 Hz, 4 H), 2.22 (ddt, J = 3.6 Hz, 12.4 Hz, 20.8 Hz, 2 H), 3.66 (s, 3 H).
トランス、トランス-4'-(メトキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸は、分子内にメトキシカルボニル基とカルボキシル基の反応性の異なる二つの置換基を有する。そのため、二つの置換基の反応性の差を利用して、ビシクロヘキシル骨格の4位および4’位に異なった置換基を有する化合物を容易に製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で表されるトランス、トランス-4'-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸化合物。
【請求項2】
Rがメチル又はエチルを表す請求項1記載の化合物。
【請求項3】
一般式(1)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で表されるトランス、トランス-4', 4-ビシクロヘキシルジカルボン酸ジエステルの片方のアルコキシカルボニル基を加水分解することを特徴とする、一般式(2)
【化3】

(式中、Rは一般式(1)と同じ意味を表す。)で表されるトランス、トランス-4'-(アルコキシカルボニル)ビシクロヘキシル-4-イルカルボン酸の製造方法。