説明

4−ヒドロキシキノリン類の製造方法及び精製方法

【課題】 2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類から工業的に有利に高純度の4−ヒドロキシキノリン類を製造する方法を提供することである。
【解決手段】式(1)で表される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類を脱水素して式(2)で表される4−ヒドロキシキノリン類を製造するに際し、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して0.005〜5当量のアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒及び金属触媒の存在下に反応することにより工業的な規模において従来の方法に比べて非常に簡単な操作で、高純度の4−ヒドロキシキノリン類を高収率で得ることができる。
【化1】


(式中、Rは、アルキル基、ベンジル基、アシル基、アルコシキル基、フェニル基を表わし、これらは、未置換でも置換基を有していてもよい。n は0〜3の整数を表わし、nが2または3の場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬や農薬中間体として有用な4−ヒドロキシキノリン類の製造方法および精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的である式(2)で表される4−ヒドロシキシキノリン類を式(1)で表される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類から製造する方法としては、以下のような例が公知である。A;水溶媒中で10%パラジウムカーボン(以降、Pd/Cと記す)20wt%の存在下に14時間還流後ろ過、濃縮乾固した後エーテルで洗浄し、残った固体をジオキサンで再結晶精製する方法(非特許文献1)。B:水溶媒中でパラジウム黒10wt%、30%Pd/C10wt%、マレイン酸同重量(対2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン)の存在下に8時間還流後冷却し、NaOHでアルカリ性とし、ろ過した後に酢酸で中和、ろ過により得られた結晶を乾燥した後、メタノールより再結晶精製する方法(特許文献1)。C:水酸化ナトリウム溶液中で5%白金カーボン20wt%の存在下、空気中で6時間還流後ろ過、ろ液を硫酸で中和後ブタノール抽出液を濃縮乾固する方法(特許文献2)。D:キシレン溶媒中で20%Pd/C100wt%の存在下に24時間還流後ろ過、温メタノールで溶出して目的物を得る方法(非特許文献2)などがある。しかしながらこれら公知の方法では、4−ヒドロシキシキノリン類を得るために触媒として高価な貴金属触媒を多量に要する方法(非特許文献1、特許文献1)や、反応後、ろ過・中和・乾燥後にさらに再結晶精製を行うといった複数の操作を必要とする方法や、濃縮乾固のように工業的な規模での実施には困難な操作を必要とする方法(非特許文献1、非特許文献2および特許文献2)であるため、工業的に有利に高純度の4−ヒドロシキシキノリン類を得られる製造方法の開発が求められていた。
【0003】
【非特許文献1】J.C.S.,1950,1485-1493
【0004】
【特許文献1】USP2,558,211号公報
【0005】
【特許文献2】特開昭57-171970号公報
【0006】
【非特許文献2】J.Amer.Chem.Soc.,74,4513-4516(1952)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類から工業的に有利に高純度の4−ヒドロキシキノリン類を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
式(1)
【化1】


(式中、Rは、アルキル基、ベンジル基、アシル基、アルコシキル基、フェニル基を表わし、これらは、未置換でも置換基を有していてもよい。n は0〜3の整数を表わし、nが2または3の場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。)で表される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類を脱水素して
式(2)
【化2】

(式中、R、nは前記の意味を表わす)
で表される4−ヒドロキシキノリン類を製造するに際し、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して0.005〜5当量のアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒及び金属触媒の存在下に反応することにより4−ヒドロキシキノリン類が、高純度で工業的に有利に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における金属触媒としては、例えば、PdやPt等の貴金属を活性炭や粉末アルミナ等の担体に担持させたものや、ラネーニッケル等の活性金属触媒が用いることができる。これらのなかでも操作性が良好であり、金属の回収が可能で経済性にも優れるといった点からPd/Cが好ましい。金属触媒中の金属の含有割合としては 通常、1〜30%までのものが用いられるが、活性の強さや経済性を考慮すると5〜20%が好ましい。本発明において用いる触媒量としては、原料である2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して通常、0.01〜0.5倍重量が用いられるが、反応所要時間や操作性の面から0.02〜0.10倍重量が好ましい。
【0010】
本発明において用いる水溶性有機溶媒としては、脱水素反応を阻害せず、水と相溶性があり、4−ヒドロキシキノリン類の再結晶溶媒となり得るものであれば使用可能であり、例えば、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒等が挙げられ、これらの中でもエタノール、2−プロパノール等の炭素数1〜3のアルコール類が好ましい。これらの溶媒は原料である2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して通常、1〜20倍重量が用いられるが、なかでも3〜10倍重量が好ましい。
【0011】
本発明において用いるアルカリ金属の水酸化物としては、LiOH、KOH、NaOH等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の使用量としては、原料である2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して、0.005〜5当量であり、好ましくは0.01〜0.5当量、さらに好ましくは0.05〜0.15当量である。
脱水素反応は水の非存在下で行うことも可能であるが、Pd/Cは水ウエットな形で、アルカリ金属の水酸化物は水溶液の形で用いることがのぞましい。
本発明における反応温度としては、通常、室温から還流温度の間で行なわれるが、反応速度及び発生した水素ガスの系外への除去の点から、還流温度が好ましい。
【0012】
脱水素反応が終了後、アルカリ分を酸により中和し、触媒および中和により生成した無機塩等をろ過し、さらに必要に応じて晶析に適する溶媒量まで濃縮し、冷却晶析するという非常に簡単な操作で高純度の4−ヒドロキシキノリン類を高収率で得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法で脱水素することにより、工業的な規模において従来の方法に比べて非常に簡単な操作で、高純度の4−ヒドロキシキノリン類を高収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の方法を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
ガラス製反応容器に、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン20.0g(136mmol)、2−プロパノール100.0g、29%NaOH水溶液1.80g(13mmol)を入れて溶解した。攪拌しながら含水率52.7%の10%Pd/C2.00gを加え、還流温度(84℃程度)で8時間攪拌した。反応液をHPLCで分析したところ、4−ヒドロキシキノリン93.0%、原料残存率は0.4%であった。35%塩酸1.36g(13mmol)を加えた。触媒のPd/C及び塩酸添加で析出した塩はろ過で除去した。2−プロパノール20gによる洗浄液を合わせ、浴温77−80℃で減圧下に溶媒80gを溜去した後、内温10℃以下に冷却、2時間保温後にろ過し、得られた結晶を乾燥して、HPLC純度99.1%の4−ヒドロキシキノリン13.97gを得た。収率70.8%
【実施例2】
【0016】
ガラス製反応容器に、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン5.00g(34.0mmol)、2−プロパノール25.0g、29%NaOH水溶液0.45g(3.3mmol)を入れて溶解した。攪拌しながら含水率52.7%の10%Pd/C0.25gを加え、80℃で5時間攪拌した。含水率52.7%の10%Pd/C0.25gを追加し、80℃でさらに4時間攪拌した。反応液をHPLCで分析したところ、面積百分率で4−ヒドロキシキノリン91.8%、原料の2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノンは0.2%であった。
【0017】
(比較例1)
ガラス製反応容器に、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン0.25g、2−プロパノール1.25g、水0.25gを入れて溶解した。攪拌しながら含水率52.7%の10%Pd/C0.025gを加え、80℃で8時間攪拌した。反応液をHPLCで分析したところ、面積百分率で4−ヒドロキシキノリン2.4%、原料の2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン94.1%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】


(式中、Rは、アルキル基、ベンジル基、アシル基、アルコシキル基、フェニル基を表わし、これらは、未置換でも置換基を有していてもよい。n は0〜3の整数を表わし、nが2または3の場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。)で表される2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類を脱水素して
式(2)
【化2】

(式中、R、nは前記の意味を表わす)
で表される4−ヒドロキシキノリン類を製造するに際し、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して0.005〜5当量のアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒及び金属触媒の存在下に反応することを特徴とする4−ヒドロキシキノリン類の製造方法。
【請求項2】
水溶性有機溶媒が炭素数1〜3のアルコール類を少なくとも1種含むことを特徴とする、請求項1に記載の4−ヒドロキシキノリン類の製造方法。
【請求項3】
式(2)
【化3】


(式中、R、nは前記の意味を表わす)で表される4−ヒドロキシキノリン類を製造するに際し、2,3−ジヒドロ−4(1H)−キノリノン類に対して0.005〜5当量のアルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶媒及び金属触媒の存在下に反応後、アルカリ金属水酸化物を酸により中和し、生成した塩類を除去し、さらに晶析精製することを特徴とする請求項1〜2に記載の4−ヒドロキシキノリン類の精製方法。