説明

4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類およびその製造方法、ならびに4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法

【課題】工業的に入手が容易な原料を用い、汎用的な製造設備を用いて、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を高収率で製造することができる方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(II):


(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類およびその製造方法、ならびに該化合物を用いた4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造中間体として有用な4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類およびその製造方法に関する。また、本発明は、当該4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を用いた4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類は、たとえば特許文献1〜3に記載されるように、殺虫剤、殺ダニ剤等の農薬などの製造中間体として有用な化合物である。
【0003】
4−(トリフルオロメチルチオ)アニリンは、アンモニアの存在下、4−アミノチオフェノールとトリフルオロヨードメタンとを、UV照射を行ないながら反応させることにより製造し得る(特許文献4)。
【0004】
しかし、UV照射装置を用いた製造方法は、製造設備の煩雑化を伴い、必ずしも工業生産において有利な方法とはいえない。また、トリフルオロヨードメタンの沸点は非常に低い(−22.5℃)ため、その保管等において製造設備の煩雑化をもたらし得る。
【特許文献1】特開2006−265209号公報
【特許文献2】特開2004−182716号公報
【特許文献3】国際公開第07/046513号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開第0277091号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、工業的に入手が容易な原料を用い、汎用的な製造設備を用いて、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を高収率で製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造のための製造中間体とすることにより、上記課題が解決されることを見出した。また、製造中間体である4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を、高収率で工業的に製造するのに適した、比較的安全性の高い塩素化剤を用いた新規な製造方法を見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
本発明は、下記一般式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)で示される4−(メチルチオ)アニリン類を、塩化スルフリルと反応させることを特徴とする、下記一般式(II):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1、R2、R3およびmは、前記と同じ意味を表わす。)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、下記一般式(I):
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)
で示される4−(メチルチオ)アニリン類を、塩化スルフリルと反応させることにより、下記一般式(II):
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1、R2、R3およびmは、前記と同じ意味を表わす。)
で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を得る工程と、
前記一般式(II)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を、フッ素化剤と反応させることにより、下記一般式(III):
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、R1、R2およびmは、前記と同じ意味を表わす。R4は、水素原子、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。)
で示される4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を得る工程と、を含む4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法を提供する。フッ素化剤としては、フッ化水素および/またはフッ化水素−アミン錯体を好ましく用いることができる。
【0019】
さらに本発明は、下記一般式(II):
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を提供する。
【0022】
本発明において、上記一般式(I)および(II)におけるR3は、アセチル基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造のための製造中間体としているため、工業的に入手が容易で、比較的安全性の高い試薬、および比較的簡便な設備を用いて4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を高収率で製造することができる。製造中間体の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類は、本発明により、工業生産に適した方法で、高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類>
本発明の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類は、下記一般式(II):
【0025】
【化7】

【0026】
で示される。4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類は、農薬等の中間体として有用である、後述の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造中間体として極めて有用であり、当該本発明の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を中間体として用いることにより、比較的簡便な製造設備および方法で、かつ高収率で4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を得ることができる。
【0027】
上記一般式(II)において、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。炭素数1〜3のアルキル基を具体的に示せば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基である。R2は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。ハロゲン原子の具体例を示せば、F、Cl、Br、I原子である。炭素数1〜3のアルキル基の具体例を示せば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基の具体例を示せば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等である。R2の数を示すmは0〜4の整数である。R2は、ベンゼン骨格の2、3、5、6位から選択されるいずれの位置に結合されていてもよい。4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類がR2を複数有する場合、これらのR2は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わし、本発明の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造方法において、アミノ基またはアルキル置換アミノ基の保護基としての役割を果たす。R3は、ホルミル基、アセチル基およびトリフルオロアセチル基から選択されるいずれの基であってもよいが、得られる4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の収率および純度等を考慮すると、R3は、アセチル基またはホルミル基であることが好ましく、アセチル基であることがより好ましい。また、4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類から4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を調製する場合における、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の収率および純度等を考慮すると、R3は、アセチル基またはトリフルオロアセチル基であることが好ましく、アセチル基であることがより好ましい。アミノ基またはアルキル置換アミノ基が、これらいずれかの保護されていない場合および上記以外の保護基で保護されている場合には、得られる4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の収率および純度は著しく低下するか、またはほとんど生成しない。
【0029】
次に、本発明の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造方法について説明する。本発明の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類は、いずれの方法により調製されてもよいが、次に示す方法を好適に用いることができる。すなわち、下記一般式(I):
【0030】
【化8】

【0031】
で示される4−(メチルチオ)アニリン類を、塩化スルフリルを用いてクロロ化する方法である。ここで、上記一般式(I)におけるR1、R2、R3およびmは、上記一般式(II)の場合と同じ意味を表わす。以下、一般式(I)の4−(メチルチオ)アニリン類から、塩化スルフリルを用いて、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を製造する方法について詳細に説明する。
【0032】
クロロ化反応における、塩化スルフリルの使用量は、理論的には、一般式(I)の4−(メチルチオ)アニリン類に対して3当量であるが、反応の状況に応じて適宜増減させてもよい。具体的には、塩化スルフリルの使用量は、一般式(I)の4−(メチルチオ)アニリン類1モルに対して、通常3〜10モルであり、好ましくは、3〜4モルである。
【0033】
クロロ化反応は、溶媒を用いずに行なうことも可能であるが、通常、溶媒の存在下に実施する。溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル等のエステル、メチルイソブチルケトン等のケトンなどを挙げることができる。クロロ化反応の反応性等を考慮すると、溶媒は、好ましくはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素などが好ましく、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどがより好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されないが、たとえば一般式(I)の4−(メチルチオ)アニリン類1質量部に対して、0.5〜50質量部程度とすることができる。好ましくは、1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部程度である。
【0034】
クロロ化反応の反応温度は、通常−20〜100℃であり、好ましくは0〜80℃の範囲である。反応時間は、反応時間や塩化スルフリルの使用量等により異なるが、通常、瞬時〜100時間であり、典型的には、1〜24時間程度の範囲である。
【0035】
反応の進行は、たとえば反応混合物を一部取り出し、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーなどの手段を用いて、反応混合物中に存在する一般式(I)の4−(メチルチオ)アニリン類および一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の量を定性的または定量的に分析することにより確認することができる。本クロロ化反応においては、4−(メチルチオ)アニリン類のモノクロロ体およびジクロロ体が中間体として生成するが、上記分析手段により、反応途中における、これらの中間体の量を分析することもできる。
【0036】
本発明に従うクロロ化方法によれば、工業的に有利な手法で、高収率、高純度の一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を得ることができる。本発明のクロロ化方法によると、ベンゼン環のクロロ化、およびR2がアルキル基である場合における該アルキル化のクロロ化をほとんど起こすことなく、高純度の一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を製造することができる。
【0037】
反応終了後の反応混合物は、そのまま、次の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の調製に供してもよいし、たとえば、次に示す後処理工程を経て、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を単離してもよい。
(a)反応混合物から未反応の塩化スルフリルを除去する工程。
(b)反応混合物を水、アルカリ性水溶液、飽和食塩水等で洗浄する工程。
(c)4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を単離する工程。
【0038】
上記工程(a)において、未反応の塩化スルフリルを除去する方法としては、たとえば、1)反応混合物に不活性ガス(たとえば、窒素、アルゴン等)を吹き込む方法、2)反応混合物を、必要に応じて有機溶媒で希釈した後、部分濃縮する方法、などを挙げることができる。希釈に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル等のエステル、メチルイソブチルケトン等のケトン、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0039】
上記工程(b)において、反応混合物の洗浄は、たとえば、必要に応じて疎水性有機溶媒で希釈した後、水、アルカリ性水溶液、飽和食塩水などのいずれか、または全部を用いて行なうことができる。疎水性有機溶媒としては、たとえば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン化炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、メチルイソブチルケトン等のケトン、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル、4−メチル−2−ペンタノール、s−ブタノールなどの水と分液するアルコール、およびそれらの混合物などが挙げられる。アルカリ性水溶液としては、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等を挙げることができる。
【0040】
上記工程(c)において、4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を単離する方法としては、たとえば1)洗浄後の有機層を蒸発、乾固させる方法、2)必要に応じて部分濃縮した後、必要に応じて冷却して、生じた固体を濾別する方法、3)必要に応じて部分濃縮し、水と親水性有機溶媒との任意の割合の混合物に注加した後、必要に応じて冷却して、生じた固体を濾別する方法、などを挙げることができる。親水性有機溶媒としては、特に制限されないが、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコールなどを用いることができる。
【0041】
濾別した固体(4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類)は、乾燥してもよいし、乾燥することなく、次工程の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の調製に供してもよい。また、単離した乾燥または未乾燥状態の固体は、たとえば、再結晶、カラムクロマトグラフィー、水または貧溶媒等による洗浄等により、さらに精製することができる。貧溶媒としては、たとえば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0042】
なお、上記(a)〜(c)の工程の1または2以上は省略されてもよい。たとえば、反応混合物への不活性ガスの吹き込み、部分濃縮を行なうことなく、工程(b)を行ない、洗浄時における水またはアルカリ性水溶液などとの接触により、未反応の塩化スルフリルを分解、除去してもよい。また、工程(b)および(c)、または工程(c)を行なうことなく、次工程の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の調製に供してもよい。
【0043】
次に、上記一般式(I)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造方法について説明する。一般式(I)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類は、たとえば、以下に示す反応(A−1)〜(A−2)および(B−1)〜(B−2)に示される反応等により調製することができる。
【0044】
【化9】

【0045】
ここで、化合物(I−a)、(I−b)および(I−c)におけるR1、R2、R3およびmは、一般式(I)の場合と同じ意味を表わす。
【0046】
反応(A−1)は、一般式(I)のR1が水素原子である場合には行なわない。R1が炭素数1〜3のアルキル基である場合における反応(A−1)のアルキル化は、化合物(I−a)と下記一般式(IV):
5−Y (IV)
で示される化合物(以下、化合物(IV)と称する)とを反応させることにより行なうことができる。ここで、一般式(IV)におけるR5は、炭素数1〜3のアルキル基であり、Yは、脱離基を表わす。
【0047】
脱離基Yとしては、たとえば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CH3SO3−、p−CH364SO3−、CH3OSO3−などを挙げることができる。化合物(IV)の具体例としては、たとえば、ジメチル硫酸、ヨウ化メチル、メタンスルホン酸エチル、臭化エチル、塩化イソプロピル、p−トルエンスルホン酸プロピル等を挙げることができる。
【0048】
反応(A−1)のアルキル化は、通常、塩基の存在下、溶媒中で行なわれる。溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、水、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
塩基としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水素化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属のアルコラート、ノルマルブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド等の有機リチウム試薬およびトリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン等の有機塩基が挙げられる。
【0050】
化合物(IV)の使用量は特に限定されず、化合物(IV)が反応条件下において液体である場合には、化合物(IV)を溶媒量用いることもできるが、通常は、化合物(I−a)1モルに対して、1〜10モル程度であり、好ましくは2〜5モル程度である。また、塩基の使用量も特に限定されるものではなく、化合物(I−a)1モルに対して、1〜10モル程度であり、好ましくは2〜5モル程度である。
【0051】
アルキル化の反応温度は、通常−78〜150℃の範囲であり、好ましくは0〜100℃の範囲である。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、瞬時〜100時間の範囲である。
【0052】
反応終了後は、たとえば、反応混合物を水に注加し、必要に応じて中和した後、有機溶媒抽出してから、有機層を乾燥、濃縮する等の、通常の後処理操作を行なうことにより、化合物(I−b)を単離することができる。単離された化合物(I−b)は再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、さらに精製することができる。また、単離された化合物(I−b)は、精製することなく、次工程に使用することもできる。あるいは、反応終了後の反応混合物についての後処理操作の一部または全部を行なうことなく、次工程に進んでもよい。
【0053】
上記化合物(I−b)を、下記一般式(V):
32O (V)
で示される化合物(以下、化合物(V)と称する)とを反応させることにより、一般式(I)で示される4−(メチルチオ)アニリン類を得ることができる(反応(A−2))。ここで、一般式(V)におけるR3は、一般式(I)の場合と同じ意味を表わす。
【0054】
反応A−2は、塩基の存在下または非存在下、溶媒中または溶媒の非存在下で行なうことができる。溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、水、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0055】
塩基としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水素化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属のアルコラート、ノルマルブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド等の有機リチウム試薬およびトリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセン等の有機塩基が挙げられる。
【0056】
化合物(V)および塩基の使用量は特に限定されず、通常は、化合物(I−b)1モルに対して、それぞれ1〜6モル程度である。反応温度は、通常−78〜150℃の範囲であり、好ましくは0〜100℃の範囲である。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、瞬時〜100時間の範囲である。
【0057】
反応終了後は、たとえば、反応混合物を水に注加し、必要に応じて中和した後、有機溶媒抽出してから、有機層を乾燥、濃縮する等の、通常の後処理操作を行なうことにより、一般式(I)で示される4−(メチルチオ)アニリン類を単離することができる。単離後に、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、さらに精製することができる。また、単離された一般式(I)で示される4−(メチルチオ)アニリン類は、精製することなく、次工程に使用することもできる。あるいは、反応終了後の反応混合物についての後処理操作の一部または全部を行なうことなく、次工程に進んでもよい。
【0058】
反応(B−1)〜(B−2)による一般式(I)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造は、反応(A−1)〜(A−2)の場合と比較すると、R1およびR3の導入順序が異なるのみで、基本的には同様にして化合物(I−a)から製造することができる。なお、反応(B−2)は、一般式(I)のR1が水素原子である場合には行なわない。
【0059】
化合物(I−a)は、たとえば、特開昭55−129263号公報等に記載されている化合物であり、工業的に入手可能な化合物から容易に製造することができる。たとえば、以下に示すように、1)メルカプトアニリン類(化合物(I−d))と、ジメチル硫酸またはヨウ化メチルとの反応(反応(C−1))および、2)アニリン類(化合物(I−e))とチオシアン酸塩との反応により、チオシアノアニリン類(化合物I−f)を得た後、アルカリ条件下等でチオシアノ基をメチルチオ基に変換する方法(反応(D−1))、などを挙げることができる。
【0060】
【化10】

【0061】
<4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類>
本発明に係る4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類は、下記一般式(III):
【0062】
【化11】

【0063】
で示される化合物である。この4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類は、農薬等の中間体などと有用であり、上記本発明の一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類から、効率よく製造することができる。
【0064】
ここで、一般式(III)におけるR1、R2およびmは、一般式(II)の場合と同じ意味である。R4は、水素原子、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。一般式(III)で示される4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類は、R4が水素原子である化合物と、R4がホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基である化合物との混合物であってもよい。
【0065】
一般式(III)で示される4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類は、上記した本発明の一般式(II)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類から、従来公知のフッ素化剤を用いて製造することができる。一般式(II)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類としては、上記した本発明の製造方法により製造したものを好適に用いることができる。
【0066】
フッ素化剤としては、特に制限されないが、たとえばHF(フッ化水素)、HF−アミン錯体、およびこれらの混合物を用いることができる。HF−アミン錯体としては、たとえば、ピリジン−HF、トリエチルアミン−HFなどを挙げることができる。アミンとHFとの組成比は特に制限されない。フッ素化剤の使用量は、理論的には、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類に対して3当量であるが、反応の状況に応じて適宜増減させてもよい。具体的には、フッ素化剤がフッ化水素(HF)の場合、フッ化水素(HF)の使用量は、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類1モルに対して、通常3〜100モルである。過剰分のHFおよび/またはHF−アミン錯体は、回収、再利用することも可能である。
【0067】
フッ素化反応は、必要に応じて触媒や溶媒の存在下に行なうことができる。触媒としては、たとえばフッ化アンチモン等のハロゲン金属が挙げられ、その使用量は、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類1モルに対して、触媒量〜過剰量(たとえば、0.001〜10モル程度、好ましくは、0.01〜1モル程度)とすることができる。
【0068】
溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル等のエステル、メチルイソブチルケトン等のケトンなどを挙げることができる。フッ素化反応の反応性等を考慮すると、溶媒は、好ましくはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素などであり、より好ましくはトルエン、キシレン、クロロベンゼンなどである。溶媒の使用量は、特に制限されないが、たとえば一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類1質量部に対して、0.5〜30質量部程度とすることができる。好ましくは、1〜10質量部程度である。
【0069】
フッ素化反応の反応温度は、フッ素化剤がフッ化水素(HF)の場合は、通常−20〜100℃であり、フッ素化剤がピリジン・HF錯体等のHF−アミン錯体である場合は、通常100〜250℃の範囲である。反応時間は、反応時間やフッ素化剤および触媒の使用量等により異なるが、通常、瞬時〜100時間であり、典型的には、1〜24時間程度の範囲である。フッ素化反応は、必要に応じて、オートクレーブ等を用いて加圧下で行なわれてもよい。
【0070】
反応の進行は、たとえば反応混合物を一部取り出し、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーなどの手段を用いて、反応混合物中に存在する一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類および一般式(III)の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の量を定性的または定量的に分析することにより確認することができる。本フッ素化反応においては、4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類のモノフルオロ体およびジフルオロ体が中間体として生成するが、上記分析手段により、反応途中における、これらの中間体の量を分析することもできる。なお、本フッ素化反応においては、フッ素反応の反応温度やフッ素化剤の量などの調整により、4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類のモノフルオロ体および/またはジフルオロ体を得ることもできる。また、本フッ素化反応においては、反応条件および後処理時の条件によっては、アミノ基またはアルキル置換アミノ基の保護基(ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基)が脱保護される場合があるが、この場合、一般式(III)の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類は、当該保護基を有するものと、有しないものとの混合物として、もしくは保護基を有しないもの単独として得られる。
【0071】
反応終了後の反応混合物は、そのまま、農薬等の製造工程に供してもよいし、たとえば、次に示す後処理工程を経て、一般式(III)の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を単離してもよい。
(i)反応混合物を水、アルカリ性水溶液、飽和食塩水等で洗浄する工程。
(ii)4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を単離する工程。
【0072】
上記工程(i)において、反応混合物の洗浄は、たとえば、必要に応じて疎水性有機溶媒で希釈した後、水、アルカリ性水溶液、飽和食塩水などのいずれか、または全部を用いて行なうことができる。疎水性有機溶媒としては、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類について記載したものを用いることができる。
【0073】
上記工程(ii)において、4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を単離する方法としては、たとえば1)洗浄後の有機層を蒸発、乾固させる方法、2)必要に応じて部分濃縮した後、必要に応じて冷却して、生じた固体を濾別する方法、3)必要に応じて部分濃縮し、水と親水性有機溶媒との任意の割合の混合物に注加した後、必要に応じて冷却して、生じた固体を濾別する方法、などを挙げることができる。親水性有機溶媒としては、一般式(II)の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類について記載したものを用いることができる。
【0074】
濾別した固体(4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類)は、乾燥してもよいし、乾燥することなく、農薬等の製造工程に供してもよい。また、単離した乾燥または未乾燥状態の固体は、たとえば、再結晶、カラムクロマトグラフィー、水または貧溶媒等による洗浄等により、さらに精製することができる。貧溶媒としては、たとえば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
(製造例1:2−フルオロ−4−メチルチオア二リンの合成−1)
【0077】
【化12】

【0078】
2−フルオロ−4−メルカプトアニリン59.79g、t−ブチルメチルエーテル167.01gおよびヨウ化メチル59.79gの混合物に、内温を20〜30℃に制御しながら、トリエチルアミン43.72gを45分間かけて滴下した。室温で2時間攪拌後、水150.16gを注加し、分液した。水層をt−ブチルメチルエーテル105gで2回抽出し、合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−1)57.88gを得た。
【0079】
得られた2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−1)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.43(s,3H)、3.6−3.8(br,2H)、6.66−6.73(m,1H)、6.93−7.02(m,2H)。
【0080】
(製造例2:N−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リンの合成)
【0081】
【化13】

【0082】
2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−1)40.41gに、攪拌下、無水酢酸26.24gを氷冷下、1.5時間かけて滴下した。室温で1時間攪拌後、t−ブチルメチルエーテル40gを加え、内温20〜25℃でさらに2時間攪拌した。反応混合物に、酢酸エチル400gおよび水80gを加えた後、内温45〜51℃で分液した。有機層を飽和重曹水80gで2回洗浄した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。残渣(49.02g)をヘキサン50gで2回洗浄後、乾燥して、N−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−2)48.60gを得た。
【0083】
得られたN−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−2)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.21(s,3H)、2.46(s,3H)、6.98−7.03(m,2H)、7.34(br,1H)、8.16−8.21(m,1H)。
【0084】
(製造例3:N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リンの合成)
【0085】
【化14】

【0086】
N−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−2)3.05g、アセトン8.97gおよび炭酸カリウム2.09gの混合物に、室温下、ジメチル硫酸2.38gを滴下後、54℃に昇温し、攪拌した。途中、ジメチル硫酸2.97g、炭酸カリウム2.08gおよびアセトン4.46gを追加し、50時間攪拌した。混合物を室温に冷却し、水38gおよび酢酸エチル20gを加え、分液した。水層を酢酸エチル20gで抽出後、油層を合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮して、N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リン(化合物S−3)を含有する生成物3.32g得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物S−3のGC面積百分率は、97.9%であった。
【0087】
得られたN−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リン(化合物S−3)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):1.87(s,3H)、2.51(s,3H)、3.20(s,3H)、7.0−7.1(m,2H)、7.1−7.2(m,1H)。
【0088】
(製造例4:2−フルオロ−4−チオシアノア二リンの合成)
【0089】
【化15】

【0090】
チオシアン酸ナトリウム210.9gおよびメタノール200.9gの混合液に、内温を−10〜−6℃に制御しながら、臭化ナトリウム60.2g、メタノール166.6gおよび臭素163.7gからなる溶液を90分間かけて滴下した。その混合液に、内温−10〜−5℃に制御しながら、2−フルオロアニリン100.0gを50分間かけて滴下した。同温度で3時間攪拌後、0℃に冷却された水784gへ注加した。炭酸ナトリウムで中和した後、クロロホルム196gで2回抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して、2−フルオロ−4−チオシアノアニリン(化合物S−4)151.9gを得た。
【0091】
(製造例5:2−フルオロ−4−メチルチオア二リンの合成−2)
【0092】
【化16】

【0093】
2−フルオロ−4−チオシアノアニリン(化合物S−4)1.93gとメタノール5.68gとの混合物に、室温下、水酸化ナトリウム0.45gとメタノール5.68gとの混合物を65分間かけて滴下後、55−60℃に昇温し、2時間攪拌した。得られた反応物を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−1)のLC面積百分率は、75.9%であった。
【0094】
<実施例1:N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成−1>
【0095】
【化17】

【0096】
N−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−2)3.03gとクロロホルム9.0gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル6.34gとクロロホルム9.0gとの混合物を10分間かけて滴下した。次に、60℃に昇温して4時間攪拌した。途中、クロロホルム3.05gおよび塩化スルフリル0.46gを追加した。室温に冷却した後、水17.9gに反応混合物を注加した。ついで、酢酸エチル36.8gおよび水10.1gを加えた後、分液した。水層をさらに酢酸エチル9gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水20.8gおよび飽和食塩水20gで順に洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して、N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−1)を含有する生成物を得た(4.54g)。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−1のGC面積百分率は、97%であった。該生成物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製物を得た。
【0097】
得られた生成物(化合物E−1)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.27(s,3H)、7.55(dd,1H,J=10.4,2.0Hz)、7.57(d,1H,J=7.6Hz)、8.55(dd,1H,J=10.4,7.6Hz)。
【0098】
<実施例2:N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成−2>
【0099】
【化18】

【0100】
N−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−2)3.02gとクロロベンゼン9.0gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル6.75gとクロロベンゼン9.0gとの混合物を15分間かけて滴下した。ついで、60−65℃に昇温して、3時間攪拌した。途中、塩化スルフリル0.07gを追加した。次に、室温に冷却した後、酢酸エチル42.1gおよび水12gを加えた後、分液した。水層をさらに酢酸エチル9gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水9.0gおよび飽和食塩水9.0gで順に洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して、N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−1)を含有する生成物を得た(4.49g)。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−1のGC面積百分率は、99%であった。
【0101】
<参考例1:N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成−3>
【0102】
【化19】

【0103】
N−アセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−2)30.2gとモノクロロベンゼン299gとの混合物に、室温下、光照射した(光源:250W高圧水銀灯)。次に、攪拌下、塩素ガス45.4gを7.5時間で吹き込んだ。反応混合物に窒素ガスを吹き込んで窒素置換した後、酢酸エチル180gおよび水120gを加え、5%水酸化ナトリウム水溶液を、水層のpHが6になるまで加えた。分液後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。残渣をジイソプロピルエーテル40gで3回洗浄して、N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−1)を含有する生成物31.8gを得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−1のGC面積百分率は、90%であった。
【0104】
<実施例3:N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成>
【0105】
【化20】

【0106】
N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リン(化合物S−3)1.08gとクロロベンゼン3.20gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル2.25gとクロロベンゼン3.20gとの混合物を35分間かけて滴下した。混合物を60−65℃に昇温して4時間攪拌した。塩化スルフリル0.11gを追加し、同温度で2時間攪拌した。混合物を室温に冷却した後、水6.3gを加え、洗浄後、分液した。水層をさらにクロロベンゼン3.2gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水6.3g、飽和食塩水12.4gで順に洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−2)を含有する生成物1.52gを得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−2のGC面積百分率は、92%であった。該生成物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製物を得た。
【0107】
得られた生成物(化合物E−2)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):1.92(bs,3H)、3.28(bs,3H)、7.3−7.5(m,1H)、7.6−7.7(m,2H)。
【0108】
<参考例2:N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成−2>
【0109】
【化21】

【0110】
N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リン(化合物S−3)2.15gとクロロホルム21.3gとの混合物に、室温下、光照射した(光源:250W高圧水銀灯)。次に、攪拌下、塩素ガス3.6gを2.5時間で吹き込んだ。反応混合物に窒素ガスを吹き込んで窒素置換した後、酢酸エチル12.8gおよび水8.5gを加え、5%の水酸化ナトリウム水溶液を、水層のpHが6になるまで加えた。分液後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−2)を含有する生成物を3.46g得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−2のGC面積百分率は、49%、原料である化合物S−3のGC面積百分率は、3.6%であった。
【0111】
<実施例4:N−トリフルオロアセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成>
【0112】
【化22】

【0113】
N−トリフルオロアセチル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン3.07gとクロロベンゼン9.10gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル5.40gとクロロベンゼン9.10gとの混合物を35分間かけて滴下した。混合物を20−25℃にて20時間攪拌した後、45℃に昇温して3時間攪拌した。塩化スルフリル0.82gを追加し、同温度で2時間、さらに55℃に昇温して2時間攪拌した。さらに塩化スルフリル0.82gを追加し、同温度で17時間攪拌した後、塩化スルフリル1.63gを追加し、同温度で2時間攪拌後、さらに塩化スルフリル1.63gを追加し、65℃に昇温して2時間攪拌した。混合物を室温に冷却した後、水18.2gを加え、洗浄後、分液した。水層をさらにクロロベンゼン9.4gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水13.80gで洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、N−トリフルオロアセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−3)を含有する生成物3.86gを得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−3のGC面積百分率は、77%であった。該生成物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製物を得た。
【0114】
得られた生成物(化合物E−3)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):7.64−7.68(m,2H)、8.21(bs,1H)、8.49(dd,1H,J=8.0,8.0Hz)。
【0115】
<実施例5:N−ホルミル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成>
【0116】
【化23】

【0117】
N−ホルミル−2−フルオロ−4−メチルチオアニリン1.15gとクロロベンゼン3.33gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル2.67gとクロロベンゼン3.33gとの混合物を18分間かけて滴下した。混合物を20−25℃にて1.5時間攪拌した後、60−65℃に昇温して3時間攪拌した。混合物を室温に冷却した後、水6.7gに反応混合物を加え、次いで酢酸エチル26.4gを加え、洗浄後、分液した。水層をさらに酢酸エチル5.0gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水5.0g、飽和食塩水5.0gで順に洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、N−ホルミル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−4)を含有する生成物1.66gを得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−4のGC面積百分率は、97%であった。該生成物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製物1.54g(GC面積百分率100%)を得た。
【0118】
得られた生成物(化合物E−4)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):7.56−7.65(m,2H)、7.92(bs,1H)、8.53(s,1H)、8.56(d,1H,J=8.4Hz)。
【0119】
<実施例6:N−アセチル−2−クロロ−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成>
【0120】
【化24】

【0121】
N−アセチル−2−クロロ−4−メチルチオアニリン4.31gとクロロベンゼン12.94gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル8.91gとクロロベンゼン12.94gとの混合物を80分間かけて滴下した。混合物を20−30℃にて2時間攪拌した後、40℃に昇温して3時間攪拌した。さらに50℃に昇温して2時間攪拌した後、塩化スルフリル0.03gを追加して同温度で1.5時間攪拌し、さらに塩化スルフリル0.03gを追加して同温度で1時間攪拌した。混合物を室温に冷却し、水25.9gに反応混合物を加え、次いで酢酸エチル22.4gを加え、洗浄後、分液した。水層をさらに酢酸エチル12.9gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水29.5g、飽和食塩水22.9gで順に洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、N−アセチル−2−クロロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−5)を含有する生成物6.20gを得た。該生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−5のGC面積百分率は、99%であった。該生成物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製物を得た。
【0122】
得られた生成物(化合物E−5)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.29(s,3H)、7.70(dd,1H,J=8.0,2.1Hz)、7.78(bs,1H)、7.81(d,1H,J=2.7Hz)、8.60(d,1H,J=8.0Hz)。
【0123】
<実施例7:N−アセチル−2,3−ジメチル−4−トリクロロメチルチオアニリンの合成>
【0124】
【化25】

【0125】
N−アセチル−2,3−ジメチル−4−メチルチオアニリン1.68gとクロロベンゼン5.07gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル3.57gとクロロベンゼン5.02gとの混合物を60分間かけて滴下した。混合物を20−30℃にて3時間攪拌した後、40℃に昇温して2.5時間攪拌した。さらに50℃に昇温して5.5時間攪拌した。混合物を室温に冷却し、水10.52gに反応混合物を加え、洗浄後、分液した。水層を酢酸エチル5.1gで2回抽出した。有機層を合わせた後、飽和重曹水10.0g、飽和食塩水7.5gで順に洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮し、N−アセチル−2,3−ジメチル−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−6)を含有する生成物2.48gを得た。該生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析したところ、化合物E−6のHPLC面積百分率は、69%であった。該生成物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製物を得た。
【0126】
得られた生成物(化合物E−6)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.21(s,3H)、2.24(s,3H)、2.43(s,3H)、2.61(s,3H)、7.39(d,1H,J=8.8Hz)、7.72(d,1H,J=8.8Hz)。
【0127】
<実施例8:N−アセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成>
【0128】
【化26】

【0129】
N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−1)0.38gとHF2.41gとの混合物を、テフロン(登録商標)製反応容器に入れ、0℃で2時間、室温で20時間攪拌した。得られた混合物を、予め0℃に冷却した水5.0gへ注加、次いで、酢酸エチル5.0gを加えた。飽和重曹水を加えて中和した後、分液した。酢酸エチル層を、水5.0gで2回洗浄して、N−アセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7a)を含有する酢酸エチル溶液を得た。化合物E−7aを含有する該酢酸エチル溶液を、高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−7aのHPLC面積百分率は、42%であった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌する。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出する。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮して2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンを得る。
【0130】
<実施例9:N−アセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成−2>
【0131】
【化27】

【0132】
N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−1)0.38gとピリジン・18HF錯体2.63gとの混合物をオートクレーブに入れ、90℃で2時間および120℃で3時間攪拌した。得られた反応物を冷却し、水5.0gへ注加、次いで、酢酸エチル5.0gを加えた。飽和重曹水を加えて中和した後、分液した。酢酸エチル層を、水5.0gで2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下、濃縮して、N−アセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7a)および2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b、化合物E−7aの脱アセチル体)を含有する生成物を得た(0.24g)。化合物E−7aおよびE−7bを含有する該生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−7aのHPLC面積百分率は30.4%、化合物E−7bのHPLC面積百分率は66.3%であった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌する。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出する。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮して2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b)を得る。
【0133】
<実施例10:N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成>
【0134】
【化28】

【0135】
N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−2)0.33gとピリジン・18HF錯体2.19gとの混合物を、オートクレーブに入れ、90℃で2時間、120℃で2時間、150℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を冷却し、水5.0gへ注加、次いで、酢酸エチル5.0gを加えた。飽和重曹水を加え、中和した後、分液した。酢酸エチル層を、水5.0gで2回洗浄し、N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−8a)およびN−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−8b、化合物E−8aの脱アセチル体)を含有する酢酸エチル溶液を得た。化合物E−8aおよびE−8bを含有する酢酸エチル溶液を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、化合物E−8aのHPLC面積百分率は25.8%、化合物E−8bのHPLC面積百分率は64.6%であった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌する。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出する。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮してN−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−8b)を得る。
【0136】
<実施例11:N−トリフルオロアセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成>
【0137】
【化29】

【0138】
N−トリフルオロアセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−3)0.29gとピリジン・9HF錯体2.07gとの混合物を、オートクレーブに入れ、90℃で2時間、120℃で2時間、150℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、N−トリフルオロアセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−9a)のHPLC面積百分率は11.1%、2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b、化合物E−9aの脱トリフルオロアセチル体)のHPLC面積百分率は86.4%であった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌する。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出する。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮して2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b)を得る。
【0139】
<実施例12:N−ホルミル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成>
【0140】
【化30】

【0141】
N−ホルミル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−4)0.37gとピリジン・9HF錯体3.12gとの混合物を、オートクレーブに入れ、90℃で2時間、120℃で2時間、150℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b、化合物E−10aの脱ホルミル体)のHPLC面積百分率は97.8%であった。N−ホルミル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−10a)は微量に存在するのみであった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌する。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出する。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮して2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b)を得る。
【0142】
<実施例13:N−アセチル−2−クロロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成>
【0143】
【化31】

【0144】
N−アセチル−2−クロロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−5)0.35gとピリジン・9HF錯体2.60gとの混合物を、オートクレーブに入れ、90℃で3時間、120℃で3時間、150℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、N−アセチル−2−クロロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−11a)のHPLC面積百分率は13.5%、2−クロロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−11b、化合物E−11aの脱アセチル体)のHPLC面積百分率は84.4%であった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌する。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出する。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮して2−クロロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−11b)を得る。
【0145】
得られた生成物(化合物E−11aおよび化合物E−11b)の質量分析データは次のとおりである。
E−11a:m/z=269(M)+
E−11b:m/z=227(M)+
<実施例14:N−アセチル−2,3−ジメチル−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成>
【0146】
【化32】

【0147】
N−アセチル−2,3−ジメチル−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−6)0.30gとピリジン・9HF錯体2.23gとの混合物を、オートクレーブに入れ、90℃で3時間攪拌した。得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、N−アセチル−2,3−ジメチル−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−12a)のHPLC面積百分率は33.1%、2,3−ジメチル−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−12b、化合物E−12aの脱アセチル体)のHPLC面積百分率は49.3%であった。得られた上記の生成物を、濃塩酸とメタノールとの混合液(質量比1:10)に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌した。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水に注加し、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮して2,3−ジメチル−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−12b)を得た。
【0148】
得られた生成物(化合物E−12b)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.11(s,3H)、2.50(s,3H)、3.84(bs,2H)、6.55(d,1H,J=8.0Hz)、7.36(d,1H,J=8.0Hz)。
【0149】
<実施例15:N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成−2>
【0150】
【化33】

【0151】
N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−2)0.32gとピリジン・9HF錯体2.58gとの混合物を、オートクレーブに入れ、90℃で1時間、120℃で2時間、150℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を冷却し、水3.2gへ注加、次いで、酢酸エチル4.0gを加えた。飽和重曹水を加え、中和した後、分液した。酢酸エチル層を、水5.0gで2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で濃縮して、N−アセチル−N−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−8a)およびN−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−8b、化合物E−8aの脱アセチル体)を含有する生成物0.20gを得た。化合物E−8aのHPLC面積百分率は21.0%、化合物E−8bのHPLC面積百分率は72.2%であった。次いで、得られた上記の生成物0.19gを、濃塩酸0.2gとメタノール2.0gとの混合液に溶解し、該混合物を65℃で6時間攪拌した。該反応混合物を室温に冷却し、飽和重曹水25gおよび酢酸エチル30gを加え抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下に濃縮してN−メチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−8b)0.13gを得た。GC面積百分率は95.5%であった。
【0152】
得られた化合物E−8bの1H−NMRデータは次のとおりである。
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.91(m,3H)、4.27(br,1H)、6.62−6.67(m,1H)、7.23−7.33(m,2H)。
【0153】
<実施例16:N−アセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリンの合成−2>
【0154】
【化34】

【0155】
N−アセチル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオアニリン(化合物E−1)0.48gとトリエチルアミン・3HF錯体2.10gとの混合物をオートクレーブに入れ、60℃で1時間、ついで120℃で2時間、ついで180℃で3時間攪拌した。得られた反応混合物を冷却し、水2.27gへ注加、次いで、酢酸エチル4.60gで抽出した。酢酸エチル層を、水および炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下、濃縮して、N−アセチル−2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7a)および2−フルオロ−4−トリフルオロメチルチオアニリン(化合物E−7b、化合物E−7aの脱アセチル体)を含有する生成物を得た(0.37g)。化合物E−7aのHPLC面積百分率は51%、化合物E−7bのHPLC面積百分率は29%であった。
【0156】
化合物E−7aおよびE−7bの1H−NMRデータは次のとおりである。
化合物E−7a;
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):2.25(s,3H)、7.3−7.4(m,3H)、8.46(t,1H)。
化合物E−7b;
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):3.8−4.2(br,2H)、6.75(t,1H)、7.2−7.3(m,2H)。
【0157】
<比較例1:2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオア二リンの合成>
【0158】
【化35】

【0159】
2−フルオロ−4−メチルチオアニリン(化合物S−1)1.21gとクロロベンゼン3.49gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル3.37gとクロロベンゼン3.50gとの混合物を、30分間かけて滴下した。反応混合物を20−25℃にて1.5時間攪拌した後、60−65℃に昇温して4時間攪拌した。得られた反応物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2−フルオロ−4−トリクロロメチルメチルチオア二リン(化合物H−1)のGC面積百分率は、2.1%、原料である化合物S−1のGC面積百分率は、3.7%であった。
【0160】
<比較例2:N−ベンゾイル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオア二リンの合成>
【0161】
【化36】

【0162】
N−ベンゾイル−2−フルオロ−4−メチルチオア二リン3.16gとクロロベンゼン9.40gとの混合物に、室温下、塩化スルフリル5.40gとクロロベンゼン9.39gとの混合物を、40分間かけて滴下した。反応混合物を60−65℃に昇温して4時間攪拌した。得られた反応物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、多数の生成物のピークが検出され、N−ベンゾイル−2−フルオロ−4−トリクロロメチルチオア二リン(化合物H−2)のピークは同定困難であった。
【0163】
なお、ガスクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーの分析条件は、次のとおりである。
(1)ガスクロマトグラフィー
GC装置:島津GC−14A、インテグレーター:島津CR8A、カラム:DB−5(膜厚1.5μm、長さ30m、内径0.53mm)、カラム温度条件:50℃から5℃/minで70℃まで昇温し、続いて10℃/minで250℃まで昇温し、続いて15℃/minで280℃まで昇温し、280℃にて10分間保持、インジェクション温度:280℃、ディテクター温度:250℃、キャリヤガス:He 5ml/min。
(2)高速液体クロマトグラフィー
LC装置:日立LC−7100、インテグレーター:日立LC−7500、カラム:ODS L−Column 4.6mmΦ×150mm、移動相:A液(0.1%リン酸水)、B液(アセトニトリル)、グラジエント条件:A液/B液を90/10→(27min)→9/91(10min保持)、流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃、検出波長:254nm、注入量:10μL。
【0164】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)
で示される4−(メチルチオ)アニリン類を、塩化スルフリルと反応させることを特徴とする、下記一般式(II):
【化2】

(式中、R1、R2、R3およびmは、前記と同じ意味を表わす。)
で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(I)におけるR3は、アセチル基である請求項1に記載の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(I):
【化3】

(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)
で示される4−(メチルチオ)アニリン類を、塩化スルフリルと反応させることにより、下記一般式(II):
【化4】

(式中、R1、R2、R3およびmは、前記と同じ意味を表わす。)
で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を得る工程と、
前記一般式(II)で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類を、フッ素化剤と反応させることにより、下記一般式(III):
【化5】

(式中、R1、R2およびmは、前記と同じ意味を表わす。R4は、水素原子、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。)
で示される4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類を得る工程と、を含む4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素化剤は、フッ化水素および/またはフッ化水素−アミン錯体である請求項3に記載の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(II)におけるR3は、アセチル基である請求項3または4に記載の4−(トリフルオロメチルチオ)アニリン類の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(II):
【化6】

(式中、R1は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。R2は、独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基を表わす。R3は、ホルミル基、アセチル基またはトリフルオロアセチル基を表わす。mは、0〜4の整数を表わす。)
で示される4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類。
【請求項7】
前記一般式(II)におけるR3は、アセチル基である請求項6に記載の4−(トリクロロメチルチオ)アニリン類。

【公開番号】特開2009−13130(P2009−13130A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178577(P2007−178577)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】