説明

5−(4−テトラヒドロピラニル)ヒダントインの製造方法、及びその中間体

【課題】簡便且つ安全(シアン化合物を使用しない)な方法によって、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインを高収率で製造出来る、工業的に好適な5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの製法を提供する。
【解決手段】(A)塩基の存在下、5-ジアルキルホスホノヒダントインとテトラヒドロピラン-4-オンとを溶媒中で反応させて、5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントインする第一工程、(B)次いで、5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントインを還元して、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインとする第二工程の二つの工程を含んでなることを特徴とする、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの製法。又、中間体の5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントインの製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントイン及びその中間体を製造する方法に関する。5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインは、医薬や農薬等の原料や合成中間体である4-テトラヒドロピラニルグリシンに誘導出来る有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインを製造する方法としては、例えば、4-ホルミルテトラヒドロピランを重亜硫酸ナトリウム水溶液中に加えた後、次いで、エタノール、炭酸アンモニウム及びシアン化カリウムを加えて反応させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、反応系が複雑であるために反応操作が繁雑となる上に、毒性の高いシアン化カリウムを大量に用いなければならない等、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの工業的な製法としては満足出来るものではなかった。
【0003】
一方、過酸化水素を利用した方法は、取り扱い容易で、しかも反応後には無害な水へと分解できるため、安価な酸化剤として近年注目を集めている(例えば、特許文献1参照。)。
例えば、特許文献1では、第一級アルコールと過酸化水素を反応させてアルデヒド等のカルボニル化合物を製造する方法として、タングステン酸ナトリウム/第四級アンモニウム硫酸水素塩触媒を用いる方法が報告されている。しかしながら、この方法を実際に行ってピペロナ−ルを合成してみたところ、収率は24.9%であり、工業的な観点からは、必ずしも十分満足し得る製造法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−500120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、簡便且つ安全(シアン化合物を使用しない)な方法によって、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインを高収率で製造出来る、工業的に好適な5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行った結果、以下に示す方法によって、簡便且つ安全(シアン化合物を使用しない)な方法によって5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインを高収率で製造出来る方法を見出した。更に、該化合物の製造中間体として有益な、5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントインも見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の課題は、(A)塩基の存在下、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは、アルキル基を示す。)
で示される5-ジアルキルホスホノヒダントイン(以下、化合物(1)と称する)とテトラヒドロピラン-4-オンとを溶媒中で反応させて、式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
で示される5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントイン(以下、化合物(2)と称する)とする第一工程、
(B)次いで、化合物(2)を還元して、式(3)
【0011】
【化3】

【0012】
で示される5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントイン(以下、化合物(3)と称する)とする第二工程
の二つの工程を含んでなることを特徴とする、化合物(3)の製法によって解決される。
【0013】
本発明の課題は、又、式(2)
【0014】
【化4】

【0015】
で示される化合物(2)によっても解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、簡便且つ安全(シアン化合物を使用しない)な方法によって、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインを高収率で製造出来る、工業的に好適な5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの製法を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(A)第一工程
本発明の第一工程は、塩基の存在下、化合物(1)とテトラヒドロピラン-4-オンとを溶媒中で反応させて、化合物(2)を得る工程である。
【0018】
本発明の第一工程において使用する化合物(1)は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Rは、アルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0019】
本発明の第一工程において使用する塩基としては、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;水素化カルシウム等のアルカリ土類金属水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属水酸化物、更に好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用される。なお、これらの塩基は、無水物でも水和物でも良く、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0020】
前記塩基の使用量は、テトラヒドロピラン-4-オン1モルに対して、好ましくは1.0〜10モル、更に好ましくは1.0〜5.0モルである。
【0021】
本発明の第一工程において使用する化合物(1)の量は、テトラヒドロピラン-4-オン1モルに対して、好ましくは1.0〜10モル、更に好ましくは1.0〜5.0モルである。
【0022】
本発明の第一工程において使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;N,N'-ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくは水、アルコール類、更に好ましくは水、メタノール、エタノールが使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0023】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、テトラヒドロピラン-4-オン1gに対して、好ましくは1〜100g、更に好ましくは1.1〜50gである。
【0024】
本発明の第一工程は、例えば、化合物(1)、テトラヒドロピラン-4-オン、塩基及び溶媒を混合し、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは-10〜100℃、更に好ましくは0〜50℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0025】
なお、本発明の第一工程によって化合物(2)が得られるが、これは、反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【0026】
(B)第二工程
本発明の第二工程は、化合物(2)を還元して、化合物(3)を得る工程である。
【0027】
本発明の第二工程は、二重結合を還元することが出来る方法ならば特に限定されないが、金属触媒の存在下、水素雰囲気にて行うのが望ましい。
【0028】
前記金属触媒としては、パラジウム、白金、ロジウム及びニッケルからなる群より選ばれる少なくともひとつの金属原子を含むものが好ましく、具体的には、例えば、パラジウム/炭素、パラジウム/硫酸バリウム、水酸化パラジウム/白金、白金/炭素、硫化白金/炭素、パラジウム-白金/炭素、酸化白金、ロジウム/炭素、ラネーニッケル等が挙げられる。なお、これらの金属触媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0029】
前記金属触媒の使用量は、金属原子換算で、化合物(2)1モルに対して、好ましくは0.0005〜0.5モル、更に好ましくは0.001〜0.1モルである。
【0030】
本発明の第二工程において使用する水素の量は、化合物(2)1モルに対して、好ましくは1〜20モル、更に好ましくは1.1〜5モルである。
【0031】
本発明の第二工程は溶媒の存在下で行うのが望ましい。使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;N,N'-ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくは水、アルコール類、更に好ましくは水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコールが使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0032】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、化合物(2)1gに対して、好ましくは1.0〜100g、更に好ましくは1.1〜50gである。
【0033】
本発明の第二工程は、例えば、化合物(2)、金属触媒及び溶媒を混合し、水素ガス雰囲気にて、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは0〜200℃、更に好ましくは5〜180℃であり、反応圧力は、好ましくは0.1〜10MPa、更に好ましくは0.1〜3MPaである。
【0034】
なお、本発明の第二工程によって化合物(3)が得られるが、これは、反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0036】
参考例1(化合物1;5-ジエチルホスホノヒダントインの合成)
温度計、攪拌装置、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容積2000mlのガラス製反応器に、ヒダントイン200g(2.0mol)及び酢酸800mlを加えた後、液温を83〜85℃に維持しながら、臭素352g(2.2mol)をゆるやかに滴下し、同温度にて30分間反応させた。次いで、亜リン酸トリエチル339g(2.0mol)を、液温を液温40〜45℃に維持しながらゆるやかに滴下し、攪拌しながら同温度で2時間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した後、濃縮物をジエチルエーテル800ml中に加えて、5℃にて1時間攪拌した。析出した固体を濾過し、白色結晶として5-ジエチルホスホノヒダントイン191.1gを得た(単離収率:40%)。
なお、5-ジエチルホスホノヒダントインの物性値は以下の通りであった。
1H-NMR(DMSO-d6,δ);1.25(6H,t,J=7.1Hz)、4.06〜4.13(4H,m)、4.76(1H,dd,J=14.4Hz,1.2Hz)、8.41(1H,brs)、10.91(1H,brs)
CI-MS(m/e);237(M+1)
【0037】
実施例1(化合物(2);5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントインの合成)
温度計、攪拌装置及び滴下漏斗を備えた内容積1000mlのガラス製反応器に、参考例1で合成した5-ジエチルホスホノヒダントイン92g(0.39mol)、エタノール460ml及び水138mlを加えた後、室温にて水酸化リチウム一水和物16.3g(0.39mol)を添加した。次いで、テトラヒドロピラン-4-オン30g(0.3mol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら同温度で3時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、濃縮物に2mol/l塩酸195ml(0.39mol)を加えた後、 5℃にて1時間攪拌した。析出した固体を濾過し、固体を水120mlで洗浄して、白色結晶として5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントイン46.3gを得た(単離収率:85%)。
なお、5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントインは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0038】
1H-NMR(DMSO-d6,δ);2.32(2H,t,J=5.7Hz)、2.91(2H,t,J=5.7Hz)、3.59〜3.66(4H,m)、9.87(1H,brs)、10.92(1H,brs)。
CI-MS(m/e);183(M+1)
13C-NMR(DMSO-d6,δ);27.5、29.7、67.0、67.7、123.2、125.6、153.8、164.8
【0039】
実施例2(化合物(3);5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの合成)
温度計、攪拌装置及び還流冷却器を備えた内容積300mlのステンレス製耐圧容器に、実施例1で合成した5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントイン25g(0.14mol)、5質量%パラジウム/炭素(50%含水品)2.5g(パラジウム原子として0.59mmol)及びエタノール15 0mlを加え、水素雰囲気下(0.6〜0.8MPa)、攪拌しながら115〜125℃にて4時間反応させた。反応終了後、N,N-ジメチルホルムアミド100mlを加え、50℃で攪拌させた。反応液を濾過した後、減圧下で濃縮し、濃縮物に水250mlを加えて後、5℃にて1時間攪拌した。析出した結晶を濾過し、白色結晶として5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントイン19.3gを得た(単離収率:77%)。
なお、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインの物性値は以下の通りであった。
【0040】
1H-NMR(DMSO-d6,δ);1.24〜1.58(4H,m)、1.87〜1.94(1H,m)、3.21〜3.32(2H,m)、3.82〜3.94(3H,m)、7.98(1H,brs)、10.63(1H,brs)
CI-MS(m/e);185(M+1)
13C-NMR(DMSO-d6,δ);26.0、28.4、36.5、61.5、66.4、66.7、157.6、174.9
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントイン及びその中間体を製造する方法に関する。5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントインは、医薬や農薬等の原料や合成中間体である4-テトラヒドロピラニルグリシンに誘導出来る有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩基の存在下、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、アルキル基を示す。)
で示される5-ジアルキルホスホノヒダントイン(以下、化合物(1)と称する)とテトラヒドロピラン-4-オンとを溶媒中で反応させて、式(2)
【化2】

で示される5-(4-テトラヒドロピラニリデン)ヒダントイン(以下、化合物(2)と称する)とする第一工程、
(B)次いで、化合物(2)を還元して、式(3)
【化3】

で示される5-(4-テトラヒドロピラニル)ヒダントイン(以下、化合物(3)と称する)とする第二工程
の二つの工程を含んでなることを特徴とする、化合物(3)の製法。
【請求項2】
第二工程を、金属触媒の存在下、水素雰囲気にて行う請求項1記載の製法。
【請求項3】
式(2)
【化4】

で示される化合物(2)。

【公開番号】特開2010−18624(P2010−18624A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218961(P2009−218961)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2004−189116(P2004−189116)の分割
【原出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】