説明

9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレン

【課題】優れた耐熱性,溶剤溶解性を有するとともに浸食性の外部因子に対する耐性が高い高分子化合物の原料等として有用な化合物を提供する。
【解決手段】下記の化学式(II)で表されるような構造を有する9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンは、高分子化合物の原料として有用である。ただし、化学式(II)中のB1 ,B2 はアミノ基又は水酸基を示し、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R1 ,R2 ,R3 及びR4 は水素原子又は炭素数が1以上3以下のアルキル基を示し、これらは互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内にスルフォン酸基やカルボキシル基を導入した高分子化合物は、耐熱性,電気的特性,機械的特性等の性質が優れているため、イオン交換樹脂,生体膜等の素材として期待されている。そして、このような高分子化合物を製造する際に用いられるモノマーとしては、スルフォン酸基を導入したピロメリット酸無水物や、スルフォン酸基,カルボキシル基を導入した芳香族ジアミンなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−323558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのモノマーを使用して製造した高分子化合物は、水や有機溶媒に対する十分な親和性を有する一方で、大気中の水分、作業工程上で使用される洗浄液等のような浸食性の外部因子に対する耐性が劣るという問題点を有していた。すなわち、このような高分子化合物は、製造当初の性能及び耐性を長期間にわたって持続できないおそれがあり、製品への適用を見据えた場合には、製品に欠陥が生じる原因となり得るものであった。
【0005】
上記のような耐性を補う方法として、高分子化合物に極性の官能基を導入することによって外部因子に対する耐性を高める方法が提案されているが(特許文献1を参照)、さらなる改良が望まれていた。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた耐熱性,溶剤溶解性を有するとともに浸食性の外部因子に対する耐性が高い高分子化合物の原料等として有用な化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明は、下記の化学式(I)で表されるような構造を有することを特徴とする9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンである。
【0007】
【化1】

【0008】
ただし、化学式(I)中のAr1 ,Ar2 はアリール基を示し、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい。
また、本発明は、下記の化学式(II)で表されるような構造を有することを特徴とする9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンである。
【0009】
【化2】

【0010】
ただし、化学式(II)中のB1 ,B2 はアミノ基又は水酸基を示し、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R1 ,R2 ,R3 及びR4 は水素原子又は炭素数が1以上3以下のアルキル基を示し、これらは互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンは、優れた耐熱性,溶剤溶解性を有するとともに浸食性の外部因子に対する耐性が高い高分子化合物の原料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレンの 1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例2の9,9−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレンの 1H−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンについて、以下に詳細に説明する。
本発明の9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンは、前記化学式(I)で表されるような構造を有する化合物である。ただし、化学式(I)中のAr1 ,Ar2 はアリール基を示し、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0014】
このアリール基の種類は特に限定されるものではないが、例えばフェニル基,ナフチル基があげられ、フェニル基が最も好ましい。このアリール基は、1個又は複数個の官能基で置換されているものでもよい。この官能基の種類は特に限定されるものではないが、例えばアミノ基,水酸基,ハロゲン基,カルボキシル基,アルキル基,アリール基があげられる。
【0015】
上記のような9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンの中でも、前記化学式(II)で表されるような構造を有する9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンは、高分子化合物の原料として有用である。すなわち、前記化学式(II)の9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンは、アミノ基又は水酸基を有するので、ポリイミド,ポリアミド,ポリエステル,ポリエステルアミド,ポリエーテル,ポリウレタン等の種々の高分子化合物の原料として使用することができる。
【0016】
前記化学式(II)の9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンを原料として使用した高分子化合物は、分子内に荷電基を有するので(フルオレン骨格の1位が、荷電基であるカルボキシル基に置換されている)、優れた耐熱性,溶剤溶解性を有するとともに、大気中の水分、作業工程上で使用される洗浄液等のような浸食性の外部因子に対する耐性が高い。よって、該高分子化合物は、製造当初の性能及び耐性を長期間にわたって持続できるので、該高分子化合物を用いて製造した製品に欠陥が生じにくい。
【0017】
なお、R1 ,R2 ,R3 及びR4 は水素原子又は炭素数が1以上3以下のアルキル基であるが、アルキル基としては、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基が好ましい。
本発明の9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンの具体例としては、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−エチル−5−メチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−イソプロピル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−イソプロピル−5−メチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレンがあげられる。
【0018】
さらに、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−エチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレン、9,9−ビス(3−イソプロピル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレンがあげられる。
【0019】
これらの9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンの合成法は特に限定されるものではないが、例えば下記のようにして合成することができる。
フルオランテン(下記の化学式(III)を参照)を強酸中で酸化して、1−カルボキシ−9−フルオレノン(下記の化学式(IV)を参照)を得る。フルオランテンは、例えばコールタールから分離して得ることができる。得られた1−カルボキシ−9−フルオレノンと芳香族化合物(例えばアニリン,フェノール)とを触媒存在下で加熱すると、フリーデル・クラフツ型の求核反応により、目的とする9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンが得られる。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
ジフェン酸を硫酸中で加熱することによりカルボキシ−9−フルオレノンを得ることもできるが、この方法では、2−カルボキシ−9−フルオレノンや4−カルボキシ−9−フルオレノンが主に得られ、1−カルボキシ−9−フルオレノンはほとんど得られないので、上記のような方法を採用して1−カルボキシ−9−フルオレノンを製造することが好ましい。
【0023】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
〔実施例1:9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレンの合成〕
1000mlの4つ口フラスコに、1−カルボキシ−9−フルオレノン112g(0.5モル)、フェノール282g(3.0モル)、β−メルカプトプロピオン酸0.53g(5ミリモル)を装入し、そこに濃硫酸15g(0.15モル)を徐々に添加した。そして、この混合物を60℃で4時間撹拌しながら反応させた。
【0024】
反応が終了したら、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液21.7gを加えて中和した。そこに、トルエン500gと水100gとを加えて撹拌した後に静置し、水層と油層が分離したら油層を取り出した。この油層を冷却すると、生成物の粗体が析出し沈殿するので、それを濾取した。得られた粗体120gをテトラヒドロフランに溶解し、湯洗を行った後に冷却すると、生成物の精製体が析出し沈殿するので、それを濾取し乾燥した。
【0025】
このようにして得られた生成物の収率は、37%であった。また、この生成物の融点は279.5℃であった。さらに、この生成物について、重水素化ジメチルスルホキシド(d6 −DMSO)を溶媒として用いて、共鳴周波数270MHzにて核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定を行った。得られたチャートを図1に示す。これらの分析結果から、この生成物は、目的の化合物である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−カルボキシフルオレンであることが確認された。
【0026】
〔実施例2:9,9−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレンの合成〕
1000mlの4つ口フラスコに、o−トルイジン482g(4.5モル)を装入し、窒素流通下で撹拌しながら濃塩酸150gを徐々に添加した後、1−カルボキシ−9−フルオレノン89.4g(0.4モル)とトルエン100gとを装入し、150〜160℃で3時間撹拌しながら反応させた。この反応中には、生成する反応水をトルエンと共に共沸留去させた。
【0027】
反応が終了したら、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液120gを加えて中和した。この混合物を冷却すると、生成物の粗体が析出し沈殿するので、それを濾取した。得られた粗体をテトラヒドロフランに溶解し、湯洗を行った後に冷却すると、生成物の精製体が析出し沈殿するので、それを濾取し乾燥した。
【0028】
このようにして得られた生成物の収率は、41%であった。また、この生成物の融点は248.1℃であった。さらに、この生成物について、重水素化ジメチルスルホキシド(d6 −DMSO)を溶媒として用いて、共鳴周波数270MHzにて核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定を行った。得られたチャートを図2に示す。これらの分析結果から、この生成物は、目的の化合物である9,9−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレンであることが確認された。
【0029】
なお、実施例1においてフェノールに代えて他のフェノール類を用い、実施例2においてo−トルイジンに代えて他のアニリン類を用いれば、他種の9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレンを合成することができる。例えば、実施例2においてo−トルイジンに代えてアニリンを用いれば、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−1−カルボキシフルオレンを合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(I)で表されるような構造を有することを特徴とする9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレン。
【化1】

ただし、化学式(I)中のAr1 ,Ar2 はアリール基を示し、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【請求項2】
下記の化学式(II)で表されるような構造を有することを特徴とする9,9−ビスアリール−1−カルボキシフルオレン。
【化2】

ただし、化学式(II)中のB1 ,B2 はアミノ基又は水酸基を示し、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい。また、R1 ,R2 ,R3 及びR4 は水素原子又は炭素数が1以上3以下のアルキル基を示し、これらは互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−189346(P2010−189346A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36979(P2009−36979)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】