説明

BHV−1遺伝子欠失ウィルスワクチン

【課題】ワクチンとして使用するための表現型/組織化学的/遺伝子型β−gal標識を含む弱毒化gE欠失ウシヘルペスウイルス1型ウイルス(BHV−1)の提供。
【解決手段】BHV−1の固有糖タンパクE(gE)をコードする領域の一部を欠失し、続いて該gE座に外来の機能性β−galを含むプラスミドを挿入することにより、安全な生菌組換えウイルスとともにワクチンが製造される。gE遺伝子の欠失は、ウイルスを安定的に弱毒化し、また感染動物からワクチン接種した動物を分別する免疫標識として働く。さらに、β−galの産生は、ワクチン接種した動物におけるgEΔ3.1 IBRβウイルスの複製を容易に評価させ、感染した動物における野生型ウイルス複製と区別するための表現型標識として働く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.本発明は、広くは組換えウシヘルペスウイルスワクチンおよびこれに対応する方法に関する。特に、本発明は、好ましくは、固有糖タンパクE(gE)をコードする領域に欠失された部位をもち、かつgE遺伝子座のそこに機能性β−ガラクトシダーゼ遺伝子(β−gal)が挿入された感染性組換えウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)の構築に関する。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術
ウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)は、感染性鼻気管炎ウイルス(IBRV)としても知られており、鼻気管炎、結膜炎、性器感染症、場合によっては流産、腸炎、脳炎および家畜(cattle、ウシ)の全身性感染症などのさまざまな臨床的疾患に関与している。BHV−1のゲノムは約140kbの線状dsDNAからなる。内部で隣接した長い非反復(UL )領域および短い非反復(US )領域と、繰返し配列(それぞれIR およびTR )を逆転する末端とから構成される。上記BHV−1ゲノムは、ほぼ70のタンパクをコード化する(Misra ら、ウシヘルペスウイルス1の特定するタンパク(感染性ウシ鼻気管炎、40、J. Virol. 367-378(1981) )。
【0003】
他のいくつかの動物ヘルペスウイルスと同様に、BHV−1ゲノムは糖タンパク(gE)遺伝子をコード化する。このBHV−1gE遺伝子配列は、575アミノ酸(aa)残基をコードするが、2種の株が報告されている(Leung-Taek, P.ら、ウシヘルペスウイルス1型株(ST株)の短い非反復領域(US )の完全DNA配列および遺伝機構、199 ウイルス学 409-421(1994);Rebordosa,X.ら、HSV−1由来gE遺伝子に相同のウシヘルペスウイルス1型糖タンパクをコードする遺伝子のマッピング、クローニングおよび配列決定、149 遺伝子203-209(1994))。上記gEアミノ酸は、N末端と、C末端(膜貫通配列)近辺とに、典型的な分類I内在性膜タンパク質である、伸長の疎水性アミノ酸(一般にシグナル配列と考えられている)を含む。
【0004】
上記BHV−1gE、あるいは他のヘルペスウイルス中の相同体は、in vitro複製には重要でないことが示されてきたが、仮狂犬病ウイルス(PRV)ゲノムの完全gEコード配列の欠失は、生ワクチン株NordenおよびBarthaの菌力低減(Petrovski,E.A.ら、仮狂犬病ウイルスのワクチン株における欠失およびその糖タンパクgp63合成における効果、J, Viol. 1166-1169(1986 )と、神経侵襲性の変質(Card,J.P. ら、ラット視覚系の感染における仮狂犬病ウイルスエンベロープ糖タンパクgIの神経指向性および菌力に与える影響)との両方を招く。すなわち、gE遺伝子が動物中で発現するには、ウイルスの完全な病原性ポテンシャルが要求されるが、組織培養での成育では必ずしも要求されない(Kritasら、鼻腔内接種したブタの三叉神経経路におけるオーエスキー病ウイルス(ADV)の単糖タンパク欠失変異株の侵入および蔓延、50 Vet. Microbiol.323-334(1994) );Kritasら、ブタの鼻神経経路中、オーエスキー病ウイルスの侵入および蔓延におけるエンベロープ糖タンパクgI、gp63およびgIII の役割、75 J. General Virol.2319-2327(1994) )。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、PRVおよびIBRのgE遺伝子を欠失した変異株は、分別標識ワクチンとしての有用性について興味がもたれてきている。現在、欧州では、gE遺伝子欠失標識ワクチン株がIBRの撲滅に使用されている。しかしながら、欧州でのこのgE遺伝子欠失ワクチン株は、β−gal酵素活性を検出するためのin situ (元の位置)組織化学的検出法およびβ−galタンパクを検出するためのin situ 組織化学的方法あるいは免疫ブロット法に使われるβ−galを欠く。またβ−galのコード領域は、組換えウイルスの遺伝子型標識としても機能する。ウイルスはサザンブロットハイブリダイゼイションにより容易に検出することができ、またPCR検査は、ワクチンウイルスの野生型からの遺伝的精製の決定を容易にすることができる。それ故、適切な表現型/組織化学的/遺伝子型β−gal標識を含むアビルレニト(無毒性)gE欠失IBRV株は必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
gEオープンリードフレーム(ORF's)が、gEコード配列の一部が欠失され、かつその場所にキメラレポーター/標識遺伝子が挿入されたタンパクからなるBHV−1組換えウイルス(gEΔ3.1 IBRβ)が構築された。
挿入されたβ−ガラクトシダーゼ(β−gal)遺伝子は、ウイルスの複製において調節的な役割を何ら果さないが、gEΔ3.1 IBRβウイルスのための表現型標識として機能する。
【0007】
この組換えBHV−1ウイルスを構築するために、BHV−1gE遺伝子コード領域および上流および下流に隣接する配列がクローンされた。gE遺伝子コード領域に欠失をもたらすために、その領域の3分の2のアミノ酸を放出するように上記クローンされたDNAが好適な酵素で消化され、β−gal遺伝子に連結された。得られたプラスミドDNAは、全長のDNAおよび野生型IBRウイルス株Cooperと、MDBK細胞中に共形質移入(cotransfected )された。
組換えウイルスを発現するβ−gal(青色プラーク)は、プラーク精製され、さらに、遺伝的性質がブロットハイブリダイゼイションにより検定され、免疫ブロット法によりBHV−1gEペプチド特異的ウサギポリクロナール抗体に対する反応性が検定された。組換えウイルスの1つであるgEΔ3.1 IBRβは、そのin vitro成育性、コウシ(calves)におけるin vivo の発病性について調べられた。組換えウイルスの、感染したコウシにおけるBHV−1中和抗体を誘発する能力は、プラーク減少試験により検討された。
【0008】
キメラβ−gal遺伝子の調節および発現は、この組換えBHV−1ウイルスに特有の2つの特徴がある。この組換えウイルス第一の特徴は、β−gal遺伝子が強いヒトサイトメガロウイルスごく初期の(HCMV−IE)プロモーターにより調節される(BHV−1で誘導された調節配列によってではない)ことである。第二の特徴は、該遺伝子が早期および後期両方の感染段階で、BHV−1コード化された遺伝子として発現されることである。このgE欠失組換えウイルスのin vitro およびin vivo での性質を、その親IBRV株Cooperと比較することにより分析した。
【0009】
組織培養実験において、gEΔ3.1 IBRβウイルスは、感染早期の成育は野生型(親株Cooper)よりも力価が低いが、感染後後期には組換えウイルスは野生型株とほぼ同等の力価(滴定量)に成育する。組換えウイルスは、通常、親の野生型株Cooperに比して著しく小さいプラークを発生する。これは、ウイルスの細胞−細胞間展着の欠如によるものであろうし、他のヘルペスウイルスでの結果とも一致する。
【0010】
動物実験では、gEΔ3.1 IBRβに感染させたコウシは、親株Cooperに感染させたコウシよりも、ウイルス放出期間内のウイルスの放出量は約100倍少なかった。またこのウイルス放出期間は、gEΔ3.1 IBRβウイルスに感染したコウシの方が2日短かった。gEΔ3.1 IBRβウイルスに感染したコウシは健康を保持したのに対し、親株Cooperに感染したコウシは典型的なIBRウイルスの徴候と症状を示した。血清中和の結果、野生型およびgE欠失IBRV感染したコウシは、いずれも共通のBHV−1中和抗体を誘発することを示した。
【0011】
先に、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子欠失IBRVは、in vitro およびin vivo のどちらも著しく低い力価の成育であったことが報告されている(Chowdhury,S.I.、弱毒性ウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)組換えウイルスの構築と特徴、52 Vet. Microbiol.13-23(1996))。これらから、組換えgEΔ3.1 IBRβウイルスは、TK欠失IBRに比して比較的よく成育するが、gEΔ3.1 IBRβウイルスはコウシに実質的に無毒性であったという結果が示される。
【0012】
組換えgEΔ3.1 IBRβウイルスの示す弱毒性は、下記に並行して示されている:1)Chowdhury,S.I.による、弱毒性ウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)組換えウイルスの構築と特徴(52 Vet. Microbiol.13-23(1996))中で示されるような弱毒化ウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)におけるTKの欠失;
2)Kritasらによる鼻腔内接種したブタの三叉神経経路におけるオーエスキー病ウイルス(ADV)の単糖タンパク欠失変異株の侵入および蔓延、50 Vet. Microbiol.323-334(1994) 、あるいはKritasらによるブタの鼻神経経路中、オーエスキー病ウイルスの侵入および蔓延におけるエンベロープ糖タンパクgI、gp63およびgIII の役割、75 J. General Virol.2319-2327(1994) )中で示されるようなPRVにおけるgEの欠失;および3)Kaashoekらによる糖タンパクE−ネガティヴ株ウシヘルペスウイルス1型に基づく不活性化ワクチンは有望な免疫性を誘発し、血清学的分化を起す(13 ワクチン342- 346(1995))、およびVan Englenburgらによるウシヘルペスウイルス1型の糖タンパクE欠失変異株は、コウシにおいて野生型ウイルスと特定同数の組織に感染するがその期間は短い(76 J.Gen.Virol.2387-2392(1994))中で示されるような欧州型gE欠失IBRVワクチン分離株。
【0013】
本研究は、gE ORF配列の欠失およびウイルスのgE座での機能性β−gal遺伝子の挿入は、安定的にウイルスを弱毒化することも示した。このウイルスの実際的適用は、IBRに対して用いる安全な生菌ワクチンとしてそれを使用することである。gE遺伝子の欠失は、ワクチン接種した動物を感染動物と分別するための免疫学的標識としても機能するであろう。さらに、現在の欧州でのβ−gal表現型標識が欠落したgE遺伝子欠失ワクチン株に対し、β−galの産生は、ワクチン接種した動物の鼻粘膜上皮でのgEΔ3.1 IBRβウイルスの複製の評価を容易にするとともに、野生型IBRウイルスにより起される感染との分別も容易にするであろう。
【0014】
固有gEをコードする領域の欠失は、ウイルスを弱毒化させ、野生型ウイルス感染からgE−欠失組換えウイルスを分別する遺伝子型あるいは免疫学的標識として働く。さらに、β−gal遺伝子の挿入は、宿主細胞におけるβ−gal活性の発現により、gE−欠失組換えウイルス感染の有無を検定するための表現型方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下の実施例は、欠失されたネガティブのgEコード領域をもち、それによりウイルスが弱毒化され、かつ該gE座に機能性β−gal遺伝子が挿入された感染性組換えBHV−1、この組換えBHV−1をワクチンとして用い、BHV−1により引起される疾患に対する免疫性を動物に付与する方法、およびこの組換えウイルスおよび野生型ウイルスによる動物での感染を、遺伝子型および表現型の両方で検出し分別する方法の構築を記載する。これら実施例は、説明のためになされるのであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0016】
[実施例1]
材料および方法
この実験は、gE遺伝子が欠失され、かつβ−ガラクトシダーゼを発現する組換えIBRVの作成と特徴づけを行なう。構築された組換えウイルスは、BHV−1のgEコード領域を置換したキメラ遺伝子(4.5Kb長)を含む。キメラ遺伝子は、HCMV−IEプロモーター、およびSV40ポリアデニル酸部位に結合した、β−gal遺伝子をコードする領域に結合したその促進(enhancer)配列から構成されることが好ましい。好ましくは、該β−gal遺伝子コード領域は細菌性であるが、どのβ−gal遺伝子コード領域を用いてもよいと考えられる。
【0017】
組換えBHV−1の構築と特徴づけを行なうために、IBRVのCooper(Colorado-1)株をATCC(American Type Culture Collection)より入手した。ウイルスは、Chowdhury S.I.らの方法(呼吸性ヘルペスウイルス1(BHV−1)および神経毒性のBHV−5の糖タンパクC(gC)間での抗原変異の分子主成分、213 Virol.273-288(1986) )を用いて、Madin-Darby ウシ腎臓細胞中、増殖され、滴定された。そこに記載の該方法を参照して本明細書に記載されたものとする。ウイルスDNAは、Chowdhury S.I.ら(リピツァナの種ウマにおけるウマヘルペスウイルス1型(EHV−1)が誘発した流産および麻痺:ウマヘルペスウイルスの分類への寄与、90 ARCH. Virol.273-288(1986))に記載された方法に準じ、ドデシル硫酸ナトリウムおよびタンパクK溶解(リーシス)、フェノール/クロロホルム抽出、およびエタノール沈殿により分離した。そこに記載の該方法を参照して本明細書に記載されたものとする。
【0018】
BHV−1gE−特異的抗ペプチドウサギポリクロナール血清を、公知の加水分解(hydropathicity)および抗原性技術に基づいて合成した。Leung-Teak,P. ら(ウシヘルペスウイルス1型株(ST株)の短い非反復領域(U)の完全DNA配列および遺伝的構築、199 Virology 409-421(1994))により記載された残基378−398を含むこのgEペプチドを合成した。そこに記載の該配列および遺伝的構築を参照して本明細書に記載されたものとする。
【0019】
gEペプチドの合成には、Abdelmagidら(BHV−5gDと比較した型特異的モノクロナール抗体および配列によるウシヘルペスウイルス−1(BHV−1)糖タンパクD(gD)を中和するエピトープの詳細地図、206 Viology 242-253(1995) )に記載された9-フルオレニル−メトキシカルボニル(FMOC)試薬を用いることができ、そこに記載の該方法を参照して本明細書に記載されたものとする。スカシガイのヘモシニアン(KLH)への抱合を促進するため、付加の不適合システイン(C)(* で標識された)をペプチドのC末端に付加した。Kyte J. 、Doolittle,R.F.(簡便なタンパク質の加水分解性表現方法、157 J. Mol. Biol.105-132(1982))の記載に準じて、17部分(mer)のペプチド[H]−TSDRLVRAVTDHTRPEC* −[OH]をKLHに連結し、抗血清を調製した。そこに記載の該方法を参照して本明細書に記載されたものとする。
【0020】
模擬ウイルス感染細胞タンパク質のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを、Chowdhury S.I.(呼吸性ヘルペスウイルス1(BHV−1)および神経毒性BHV−5の糖タンパクC(gC)間での抗原変異の分子主成分、213 Virology.558-568(1995))およびLaemli(バクテリアファージT4の頭部構築中おける構造タンパクの英国型分割、227 Nature(London) 680-685(1970))の記載に準じて還元条件下で行なった。そこに記載の該方法を参照して本明細書に記載されたものとする。
【0021】
組換えプラスミドの構築は、pBHV1HKおよびpBHV1HFプラスミドを、Dr.W. Lawrence(米国、フィラデルフィア州、ペンシルバニア大学)より入手して行なった。それぞれのプラスミドは、BHV−1DNAのHindIII−KおよびHindIII−F断片を含んでいた。
完全gD、gIおよびgEコード領域のアミノ末端の一部、好ましくは3分の2を含むプラスミドpBHV1HKからの4.4KbのXhoI/HindIII小断片が、プラスミドpGEM7Z(pBHV1gE5’)のXhoI/HindIII部位中でサブクローンされた。
次いでgEコード領域のカルボキシ末端の3分の1を含むpBHV1HFからの1.15KbのHindIII/Bsu36I(Klenowによるブラントエンド)断片と、完全US9ORFコード領域とが、プラスミドpブルースクリプトKS(pBHV1gE3’)のHindIII/HincII 部位中でサブクローンされた。
最後に、完全gEコード領域およびその隣接配列を構築するため、HindIII/XhoI小断片を含むpBHV1gE5’の4.4KbHindIII/XbaIベクター部位断片が、プラスミドpBHV1gE3’のHindIII/XbaI部位中でクローンされた。得られたクローンは、pBHV1gE5’3’として設計されたものである。
【0022】
このgEコード領域を欠失させるため、上記pBHV1gE5’3’DNAをAsuIIで部分消化させ、次いでHindIIIで完全消化させた。大きな断片をゲル精製し、CMV早期プロモーターが調節されたβ−gal配列を含むpCMVβ(米国、カリフォルニア州、パロアルトクロンテック社より入手)の4.5Kb PstI断片(T4ポリメラーゼのブラントエンド)に連結した。得られたgE欠失/β−gal挿入プラスミド、pBHV1gEΔβは、はじめの372アミノ酸をコードする遺伝子配列を含む1KbのBHV−1DNA配列が欠失され、β−gal遺伝子がCMVプロモーターの調節下に挿入されたものである。β−gal遺伝子は、ウイルス特異性3.32Kbの上流配列(完全gDおよびgI遺伝子配列およびgEプロモーター配列)、およびウイルスDNAを用いた組換えに必要な1.15Kbの下流配列(gEコード領域のカルボキシ末端3分の1および完全US9遺伝子を含む)に配置された。
【0023】
gE欠失IBR組換えウイルスを発現するため、線状化したpBHV1gEΔβ(ATCC受託番号VR−2637)および全長野生型IBRV(Cooper株)DNAを、Madin-Darby ウシ腎臓(MDBK)細胞中でリポフェクション(lipofection )によって共形質移入させた。全長IBRV中のgE座でのβ−galの適切な挿入、次いで野生型IBRVgEコード領域の一部の欠失は、ウイルスDNAの複製を用いたプラスミドにおけるBHV−1特異的フランキング配列の相同組換えによるものである。ウイルス特異的フランキング配列が、コード領域中の欠失と同領域での挿入とをもたらすように、新規に合成されたウイルスDNA中に組入れられる。β−galを発現する組換えウイルスは、Chowdery, S.I.(弱毒性ウシヘルペス1型(BHV−1)組換えウイルスの構築と分析、52 Vet. Microbiol 13-23(1996) )(そこに記載の方法を参照して本明細書中に記載されたものとする。)に準じて、Bluo-Gal被覆下、青色プラークのスクリーニングにより3回プラーク精製された。
いくつかの組換え体分離培養物は、さらにブロットハイブリタイゼイション法および抗BHV−1gE特異的抗ペプチドウサギポリクロナール血清を用いる免疫ブロット法により分析された。Chowdery, S.I.のブロットハイブリタイゼイション法(弱毒性ウシヘルペス1型(BHV−1)組換えウイルスの構築と分析、52 Vet. Microbiol 13-23(1996) )が用いられ、その方法を本明細書中に記載されたものとする。Chowdery, S.I.の免疫ブロット法(呼吸器系ウシヘルペスヘルペス1型(BHV−1)および神経毒性BHV−5間の抗原変異糖タンパクC(gC)の分子主成分、213 Viology 558-568(1995) )が用いられ、その方法を本明細書中に記載されたものとする。
【0024】
[結果]
意図されたgE座での欠失およびβ−gal配列の挿入のためのサザンブロットハイブリダイゼイションによる、2つの組換えウイルス由来のDNA、gEΔ3.1 IBRβ(ATCC受託番号VR-2367 )と、gEΔ3.5 IBRβとの分析を図2に示す。
分離培養物gEΔ3.1 IBRβおよびgEΔ3.5 IBRβにおける、gE遺伝子のアミノ末端のはじめの372アミノ酸をコードする1KbのAsuII- HindIII断片配列の欠落、およびβ−gal配列の存在は、これら分離培養物中、意図した組換えが部位特異的な方法で行われたことを示した。この知見に一致して、92-95 KdのBHV−1gEタンパクが、BHV−1gE特異的抗ペプチドウサギポリクロナール血清により野生型親Cooper株中でも見つけられたが、gE欠失組換えウイルスgEΔ3.1 IBRβ中には欠けていた。この結果は図3に示され、またその分離培養物はさらなる研究に使用された。
さらに、gEΔ3.1 IBRβは、野生型IBRV由来のフランキング配列および起源gE配列を含むプラスミドと共に形質移入することにより再び野生型IBRに戻ることができる。これは本質的にgEΔ3.1 IBRβを産生するために使用される共形質移入の逆である。
【0025】
ウイルス感染したMDBK細胞中のβ−gal発現速度は、感染して3、6、12および24時間後、組織化学的に測定された。β−gal活性は感染後3時間の早期と、24時間の後期に測定された。これにより、CMV−IEでプロモーター調節されたgEΔ3.1 IBRβウイルスのβ−ガラクトシターゼ遺伝子は、早期でも後期でも発現されることがわかる。さらに、キメラ遺伝子が外来ヒトヘルペスウイルスHCMV−IEプロモーターにより調節され、かつβ−galおよびBHV−1のいずれに対しても外来であるエンハンサー同様の非ウイルス性β−gal配列を含んでいても、真正BHV−1遺伝子として調節され、発現される。したがって、β−galは、BHV−1(BHV−1の天然状態では存在しない)およびHCMV−IEに対し外来であり、かつそのエンハンサー配列は、それが調節/促進するBHV−1およびβ−galのいずれに対しても外来である。
【0026】
gE遺伝子の欠失は、ワクチン化した動物を感染した動物と分別するための免疫学的標識を提供する。ワクチン株に誘起される抗体反応は、gE特異的抗体を欠くであろうから、gE特異性抗体を含む野生型BHV−1感染により惹起される反応とは区別することができる。このためワクチン化群中の感染動物を特定して間引くことができる。この血清学的標識は、群れからBHV−1を排除するために重要である。
【0027】
組換えウイルスの作製に使用されたプラスミド(pBHV1gEΔβ)および作製した組換えウイルス、gEΔ3.1 IBRβは、American Type Culture Collection(ATCC)に寄託された。該プラスミド(pBHV1gEΔβ)は、ATCC受託番号203607として承認され、組換えウイルス(gEΔ3.1 IBRβ)は、ATCC受託番号VR−2637として承認されている。
【0028】
[実施例2]
材料および方法
家畜(コウシ)におけるgEΔ3.1 IBRβウイルスの病原性を試験測定し、その結果を親Cooper株IBRVの病原性と比較した。IBRVおよびウシウイルス性下痢ウイルスに感染していない10頭の6ケ月齢ホルシュタインコウシを、ランダムに各5頭ずつ2つの群(AおよびB)に分けた。2つの群は、分離の保たれる牛舎で、同一条件下で飼育した。試験に先立ってすべてのコウシは健康であり、試験の開始まで血清陰性を保った。
【0029】
A群の各コウシには、組換えgE欠失IBRVを鼻腔内接種した。B群の各コウシには、親Cooper株IBRVを鼻腔内接種した。接種材料は、各動物に対し、それぞれ1×107 TCID50のウイルスを含む。接種は、Delvis社(ペンシルバニエ州サマセット)製DEVILBISモデル50噴霧剤を用い、鼻孔あたり2mlの接種材料を30秒以上ないし1分間噴霧することにより行った。
【0030】
ウイルス曝露(接種)後、すべてのコウシを14日間毎日集中的に臨床的観察した。直腸温度を毎日記録した。以下の状態には特別注意を払った:行動(低下)、食欲、咳、目および鼻からの排出物、充血または鼻および口粘膜(mucosae )の病変、結膜炎、および異常呼吸。各条件は別々に記録し、各コウシの日毎の臨床スコアとともに各条件に対する全スコアを合計することにより、各群の臨床スコアの日平均を計算した。スコアパラメータは以下のとおり:
鼻水 正常=0;少し漿液=1;激しく漿液=2;やや膿性=2;少し膿性=3;および激しく膿性=4。
行動(低下) みられず=0;やや=1;少し=2;激しく=3
充血/鼻粘膜の赤味=2
鼻粘膜の潰瘍=2
咳=2
呼吸困難=2
日毎の直腸温度 39.7−39.99 ℃= 1;40.0−40.5℃=2;40.6−41.0℃=3;約41.0℃=4
【0031】
[結果]
IBRVの親Cooper株(野生型IBRV)を感染させたB群のコウシは、感染の典型的な徴候を示した:低下、食欲低下、よだれおよび鼻水、鼻潰瘍/鼻プラーク、および咳。これら臨床的徴候は、図5に示すように、数日間以上、毎日高い臨床スコアを示す結果であった。しかしながら組換えgEΔ3.1 IBRβウイルスを感染させたコウシ群(群A)は、臨床的に認められるどのような徴候も示さず(これも図5に示す)、それらの行動および食欲も正常に保持した。図6は、各群(AおよびB)のコウシの直腸温度の平均値を比較したものである。親株Cooperを感染させたコウシ群(B群)について、39.7℃−40.5℃の高い直腸温度が、終日間記録された。gEΔ3.1 IBRβを感染させたコウシ群(A群)について、38.9℃を超える直腸温度はまったく記録されなかった。
【0032】
[実施例3]
材料および方法
MDBK細胞中のgEΔ3.1 IBRβウイルスと、MDBK細胞中の親IBR株Cooperとの間で、成育速度を比較する実験を行なった。MDBK細胞の複製培養系列Aには、組換えgEΔ3.1 IBRβまたは親株Cooperのいずれかの細胞当り、5プラーク形成単位(PFU)を別々に感染させた。感染培養菌は、感染後継続期間をおいて回収し、ウイルス滴定検定に使用するウイルス系株を調製した。
【0033】
[結果]
1段成長実験の結果を図4に示す。ウイルス成長曲線は、gEΔ3.1 IBRβと親株Cooperとの後代ウイルスの時間曲線が同じものであることを示した。しかしながら、組換えウイルスは感染早期の収量が少なかった。
【0034】
[実施例4]
材料および方法
AおよびB群(上記実施例3より)の各動物由来のウイルスを分離培養し、定量する実験を行なった。平たい綿チップの綿棒をそれぞれの鼻孔中に挿入した。粘膜に対し、綿棒を3回回転させた。試料培地(100μg/mlゲンタマイシン、3%v/v FBS、アンフォテリシンBを25μg/mlで含有するMEM)3ml中、室温で1時間かけて、ウイルスを綿棒から溶出させた。試料1000gを5分間遠心分離して清澄化し、−70℃で保存した。MDBK細胞中のウイルス分離培養は、1:10希釈された綿棒サウペンション100μlを用いて行なわれた。ウイルス陽性試料をミクロタイター皿上で滴定した。培養培地中で一連の10倍希釈物を作成し、各希釈液の50μlを、各1.5×105 MDBK細胞を含む8ウエルに(96ウエル皿中)に添加した。37℃で5日後、細胞変性効果(CPE)をみるため皿を顕微鏡で計測した。ウイルス滴定量は、Reed, L.J.およびMuench, H.の方法に準じてTCID50で計算した。この方法を参照して本明細書に含まれるものとする。
【0035】
[結果]
鼻綿棒から分離培養されたウイルスの量は、鼻上皮細胞中、gEΔ3.1 IBRβウイルスの成育が、その親株Cooperに比して、効果的に少ないことを示した。鼻分泌物中のウイルス放出を図7に示す。このウイルス放出は、gEΔ3.1 IBRβウイルスの方が野生型BHV−1(親株Cooper)よりも、約15ないし55倍少ない。ウイルス放出期間も、gEΔ3.1 IBRβ感染コウシの方が、野生型ウイルスに感染したコウシに比べ2日短かった。
【0036】
[実施例5]
材料および方法
この実験では、AおよびB群(上記実施例3および4より)のコウシから採取した血清中のBHV−1中和抗体の力価を測定した。AおよびB両群の各コウシから、感染後13日目の血液試料を採集した。血清中のBHV−1中和抗体力価を、Chowdhury S.I.らの反芻宿主より単離されたウマヘルペスウイルス1型(EHV−1)の分子生物学的分析(11、Virus Res.127-139(1988) )の記載に準じて、12皿を用いてプラーク減少法により測定した。この方法を参照して本明細書に含まれるものとする。
【0037】
[結果]
野生型(親株Cooper)およびgE欠失IBRVウイルス(gEΔ3.1 IBRβ)とも、コウシ中にBHV−1中和抗体を誘発した。しかしながら、野生型に感染したコウシの血清は、gE欠失中和抗体(1:11−1:30で平均滴定量1:16)に比して、中和滴定量がわずかに高かった(1:20−1:35で平均滴定量1:30)。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】gE−欠失BHV−1ウイルス(gEΔ3.1 IBRβ)およびgEコード領域のアミノ末端3分の2を置換した機能性β−gal遺伝子を含む挿入/欠失ベクタープラスミドの構築を概略的に示すフロー図である。
【図2】gEコード領域の欠失およびgE座でのβ−gal配列の挿入を意図したサザンブロットハイブリダイゼイションの増殖を示す図である。
【図3】BHV−1gEタンパクが野生型親Cooper株で検出されるが、gE−欠失組換えウイルス(gEΔ3.1 IBRβ)では検出されないことを示す図である。
【図4】MDBK細胞におけるgE−欠失IBRの成長速度と、野生型IBRの成長速度とを比較する1段成長実験の結果を示す図である。各データの点は、それぞれのコウシ群で得られた結果の平均値を示す。
【図5】gE−欠失IBRを感染させたコウシの日別臨床的スコアと、野生型IBRを感染させたコウシの日別臨床的スコアとを比較する図である。各データの点は、それぞれのコウシ群で得られた結果の平均値を示す。
【図6】gE−欠失IBRを感染させたコウシの日別の直腸温度と、野生型IBRを感染させたコウシの日別の直腸温度スコアとを比較する図である。各データの点は、それぞれのコウシ群で得られた結果の平均値を示す。
【図7】gE−欠失IBRの鼻のウイルス分泌(排出)物と、野生型IBRの鼻のウイルス分泌物とを、それぞれのコウシ群で得られた結果の平均値を示すデータ点で比較する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その固有糖タンパクEをコードする領域に、欠失され、かつ遺伝子挿入により置換された部位を有するウシヘルペスウイルス1型からなり、該挿入が外来β−ガラクトシダーゼ遺伝子のコード領域からなり、組換えウイルスは宿主細胞中でβ−ガラクトシダーゼを発現する、弱毒化された組換えウシヘルペスウイルス1型ウイルス。
【請求項2】
前記ウイルスが他の遺伝子欠失部位を持たない請求項1に記載のウイルス。
【請求項3】
前記挿入が、ヒトサイトメガロウイルスのごく初期のプロモーターおよび該ヒトサイトメガロウイルスのごく初期のプロモーターのエンハンサー配列からなる請求項1または2に記載のウイルス。
【請求項4】
前記欠失部位が、前記固有糖タンパクEをコードする領域の約3分の2からなる請求項1〜3のいずれかに記載のウイルス。
【請求項5】
前記挿入がSV40ポリアデニル酸部位に連結されている請求項1〜4のいずれかに記載のウイルス。
【請求項6】
前記外来β−ガラクトシダーゼ遺伝子が真正ウシヘルペスウイルス1型コード化遺伝子の発現と同様に発現される請求項1〜5のいずれかに記載のウイルス。
【請求項7】
前記欠失された固有コード領域が遺伝子型標識として働く請求項1〜6のいずれかに記載のウイルス。
【請求項8】
前記遺伝子挿入が表現型標識として働く請求項1〜7のいずれかに記載のウイルス。
【請求項9】
前記欠失された固有コード領域が免疫標識として働く請求項1〜8のいずれかに記載のウイルス。
【請求項10】
前記β−ガラクトシダーゼをコードする配列が、前記宿主細胞において、感染早期および後期の両段階で発現される請求項1〜9のいずれかに記載のウイルス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−20574(P2007−20574A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226616(P2006−226616)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【分割の表示】特願2000−596128(P2000−596128)の分割
【原出願日】平成12年1月18日(2000.1.18)
【出願人】(300017625)カンザス ステイト ユニバーシティ リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】